黒薔薇

更新日 Magic Story on 2014年 5月 30日

By Matt Knicl

Matt Knicl walked in off the street one day, sat down at an empty cubicle, and has been telling people he is a junior creative intern for Magic R&D. No one has asked him to leave, though, as he has offered to copy edit "everything." He also enjoys losing frequently playing Commander.

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 その家は、その必要性より過剰に壮麗だった。マルチェッサの大邸宅は近隣の豪華な館の上にそびえ立っており、それぞれの階層が彼女の成功の証だった。富裕層の者達はその財力から三階か四階建の家を持つが、マルチェッサの邸宅は九階まであり、そのうち七つはほとんど使用されていなかったが、それでも目的を果たしていた。

 高層都市パリアノのエリート層という地位にありながら、マルチェッサは低層出身の客兼仕事相手、エルヴォス・トラックスを歓待していた。

 マルチェッサとエルヴォスは長年の仕事相手だった。間諜とならず者達からなるマルチェッサの情報網は高層都市の大半を支配し、エルヴォスの犯罪帝国は低層から鉤爪の都市へ、そしてその先の波止場へと伸びていた。低層で大きな権力を持つにもかかわらず、エルヴォスは高層都市の者ではなかった。彼の最良の衣装、明らかに着古したそれは低層民の目には派手なものだったが、高層都市の貴族にとっては流行遅れであり、さして印象的なものでもなかった。エルヴォスは低層から高層都市へと至る「千の階梯」を根気強く昇ってやって来た。マルチェッサは彼を晩餐に招待していたが、自分のもとに彼を連れてくるための船は送らなかった――操縦士付きの船を幾つも抱えているというのに。

 二人は、マルチェッサの三番目に豪華な晩餐室に座っていた。そこでは彼らへと心尽くしの食事が提供されていた。二ダースもの客をもてなすための巨大な卓、だがその端にエルヴォスはマルチェッサと向かい合って座っていた。

 エルヴォスはまだ中年という歳ではなかったが、その「商売」から実際の年齢よりも老いていた。薄茶色の髪に、誰よりも整った歯並び。彼は間違いなく美形だったのだろう。その良い外見と申し分のない魅力を用いて、彼は最高級の犠牲者達を利用してきた。彼は前シーズンに流行した、黄金色の布で作られた少々けばけばしい一揃いをまとっていたが、それでも彼を目にするのは悪い気分ではないとマルチェッサは気付いたのだった。

 マルチェッサはその烏の濡れ羽色の黒髪を華麗な髪留めで上げていた。彼女はエルヴォスよりもわずかに年上であるだけだが、パリアノの老女のような装いを強調しており、貴族も泥棒も皆それを疑問に思っていた。今もこの、どちらかといえば私的な晩餐にて、彼女は高層議会での投票の間に典型的に見られる、呼び出しがされるまで居眠りをしている上院議員のようなドレスをまとっていた。彼女がそのように着飾るのは、他者へと要求する彼女の役割を主張するためだと推測する者もいる。また他の者は、黒薔薇団が彼女こそ都市の支配者だと考えているからだと囁く。エルヴォスはいつも、そういった噂にはただ微笑んでみせるだけだった。マルチェッサは単純にその衣装が好きであるためにそのように着飾るのだと、そして彼女は大いなる目的を隠した女性だが、その衣装に秘密は何もないと知っているためだった。彼女は年寄りくさい装いを上手く着こなしている、エルヴォスはそう思った。その動きはどこか滑らかで、腕を大きく動かしながら喋り、話す時は早足で歩く。とはいえその物腰は概して遅さと硬さをまとっていた。

〈高層都市パリアノ〉 アート:Adam Paquette

 マルチェッサはまた、全ての指に高価で華麗な指輪をはめていた、最大のものは左手中指のルビーだった。全ての指輪に異なる毒が仕込まれているが、そのルビーにはフィオーラ世界でも最も致死的なものが入っていた。

 堂々と、そして威厳を持ちながら座して、殺人者二人はゆっくりと食事を摂っていた。焼いた子羊肉と蒸した異国の野菜。部屋には、銀食器が皿に当たる音、ナイフが子羊肉を切り、それが下の皿をこする音だけが響いていた。そしてエルヴォスは、女主人を見上げることなく口を開いた。

「貴女を殺さねばならないと考えておりまして」 エルヴォスはそう言って、バターを塗ったパンの塊を一齧りした。

 マルチェッサは肉を切るのを止めたが、一瞬だけだった。そして彼女は注意深く豚肉を裂き続けた。

「あら?」 沈黙の後に彼女は言い、皿を見つめたまま一口食べた。「どうしてそのような事を思われましたの?」

 エルヴォスは顔を上げてマルチェッサを見ると、椅子に座り直し、背筋を伸ばした。

「確かに、困難な挑戦でしょう。とはいえ私には計画があります」 エルヴォスは自信ありげに言った。

 マルチェッサはワインを一口飲むと、目の前にある籠からパンを少しちぎった。

「では、何故わたくしを殺したいと願われたのです?」

「仕事ですよ、純粋かつ単純に。階段を昇るのに疲れました。そして今や私の情報網は着実に高層都市へと入り込んでいっています。マルチェッサ様、愛しの友、貴女は私のただ一人の邪魔者です。そして私は知っています、貴女は御自身の都市で同じほどの権力を持つ者の存在を決して許しはしないと」

「そうですわね。ですがどうか、曖昧な考えでわたくしをじらさないで下さいな」 マルチェッサはまるで、せがむように言った。「わたくしは知らなければなりません、貴方がどのようにして、わたくしの生命を終わらせようと計画なさっているかを。どうぞ、詳細を教えて下さいませ」

 エルヴォスは両手を卓の上に置き、微笑んだ。

「ええ、もちろん、今ここで貴女を攻撃はできません。少なくとも二人……いや三人が、そちらの壁の中にいる。息の音は全く聞こえませんが、貴女のこの館にはヤンタルの根の強い香りが漂っていることには気付いていました。つまり、貴女はある匂いを誤魔化したい。つまり私はゾンビがいると考えました。もし貴女や彼ら自身が危険を察知したなら、貴女を守るという義務を帯びた」

 マルチェッサは椅子に寄りかかり、ワインを口にして微笑んだ。そして無頓着にワイングラスの腹を掴んだまま、肘かけに腕を休めた。

「生きて成し遂げることはできないでしょう」 エルヴォスは続けた。「もし私が今ここで座っている貴女を殴り倒し、ゾンビ達を足止めする呪文を唱えたとしても、この館を出なければなりません。脱出する方法は二つあります。庭園か、地下室から通じる下水道か――この情報は都市の事務官を殺害し、貴女の家の図面を盗んで手に入れました。庭園は屋上に陣取った射手で隙間なく守られている。そして下水道では、貴女が罪状認否している、あの忌々しいグレンツォに間違いなく対峙することになるでしょう。それに私は大いに疑っています、もし私がこれまで使ってきたような手段で貴女を殺害したなら、ある種の暗い呪いを受けて苦しむでしょう。恐ろしい痛みを残すが、死ぬことは決して許されないような」

 エルヴォスは含み笑いをもらした。マルチェッサはワインを少し飲んだ。

「わたくしがその事務官の所に、家の本当の図面を残したとお考えかしら?」 マルチェサは尋ねた。

「もちろん、それらは本当の図面ではありません。ですが貴女がその事務官を脅迫していた執行役を擁していたことは疑いありません。そのため彼はその図面は本当だと考え、そしてその男から目を離さなかったため、別の、あなたもお判りであろう者の接近に気付かなかった。すなわち、地下室と下水道は繋がってはいない。もしくは繋がっていたとしても、私は竪穴へと落ちるかもしれません。都市の外へ、そしてその下の低層へ、確実な死へと繋がっているような」

アート:Dan Scott

「あなたはわたくしに沢山の評判をくれましたわ、エルヴォス。そのご好意に感謝致します」 マルチェッサはワイングラスを卓に置き、身体を乗り出して、組んだ手の上に顎を乗せた。「どうか、続けて下さいな」

 エルヴォスは再び微笑み、続けた。

「その事務官の生死は迷宮入りしました、二重の意味で。私は代わりに、いかにして遠くから攻撃しようかと考えました。さて、最初に考えましたのは、貴女の食事に毒を盛るというものです。とはいえ、これは貴女が最も好むの手段の一つなのですから、そういった工作に対しては十分に警戒しているでしょう。推測ですが、貴女は食材を異なる場所から、その幾つかはあえて低層から調達し、それぞれ異なる配達人を用いて届けさせ、貴女の食事に細工をする好機は誰にも与えない。それと私はほぼ確かだと思っているのですが、貴女は自分の食事を――いや、貴女は使用人にそれをさせるほど残酷ではない――ですがもしかしたら鼠やゴブリンに与えるでしょう、卒倒するかどうかを確認するために。そのため、貴女を食事で殺すというのは論外です」

「これが最後の晩餐ではないとわかって嬉しいですわ」 マルチェッサは論じた。「もっと上等のワインの方が好みですから」

「全くです」 エルヴォスは頷き、椅子に寄りかかった。「そして私が先程言いました通り、貴女の家は守りが堅い。貴女は日常的に旅をするわけではありませんが、その際は武装した護衛とともに旅をし、貴族や平民の変装をした工作員達を放ち、その何人かには屋根の上を走らせる。貴女を直接攻撃することは多くの死者を出すことを意味し、そして貴女には十分な人脈があるため、殺害計画の助力を得るのは困難です。私の危険な動きの噂はいずれ貴女の耳に届くでしょう。もし私がゴブリンの一団やカストーディの護衛を雇おうと試みたとしても、貴女はほぼ間違いなく知るでしょう」

「まるで、わたくしは何も怖れなくていいというようですね」 マルチェッサは言った、今も微笑みながら。

「いや失礼、ですが貴女は怖れる。それが貴女の弱みです」 エルヴォスは言って、ワインをごくりと飲んだ。「私達は共に、商売に賭け、あまりに互いに頼りすぎました。蜘蛛がその網を信頼できなくなってしまったら? 人々は不安にさせることも、裏切らせることもできます。そのため、都市の至る所に貴女の護衛と工作員が目を光らせている状況で、私が行うべきは、貴女の組織の中で私が手にすることのできる何者かを見つけ出すことです」

「ええ、仰る通りですわね。とはいえあなたがその役割を授ける演者はどなたかしら?」

「問題となるのは接近方法です。貴女の個人的な護衛や、貴女の館の使用人達に会うことは難しい。これは想像ですが、彼らの役割の一つとして互いを監視し密告するというものがあるでしょう。私が必要とするのは、貴女の活動の外にいて、貴女が命令した者からの命令を受け取る誰か、それでいて何も知らないほどには頂点から遠くないような者。私が必要とするのは、輸送を監督する親方のような者、もしくは貴女の暗殺者達へと資金を分配する簿記係といった、そういった者です。例えば……」

「ピエトロ・ロコシュ?」 マルチェッサは口を挟んだ。

 エルヴォスは咳こみ、喉をなだめるためにワインをいくらか飲んだ。マルチェッサは料理を口にすることができた。今回は肉でなく野菜を、今やそれらはわずかに冷めていたが、それでも高価で美味だった。

「そうです」 エルヴォスは咳を続けながら言った。彼の顔は普段よりも赤みを増していた。「貴女の副官補佐の一人として、ピエトロ・ロコシュは私が利用するであろう類の人物です。私は自分の工作員を使い、彼の弱点を見つけ出すでしょう。例えば家族のような。それから暴力をちらつかせて彼を強請るでしょう、貴女が配下をどのように動かすかの情報を提供するように。数週間かけて私はそのように情報を集めます、貴女の最大の弱点がわかるまで。もしそれがただの、あなたの手帳への攻撃であったとしても」

〈マルチェッサの浸透者〉 アート:Lucas Graciano

 エルヴォスは再び咳こみ始めた。今回は両手に血を吐き出し、彼は素早く膝の上の布ナプキンでそれを拭った。マルチェッサはそれを見たが、彼女はその様子について何も知らなかった。彼女は彼が咳こんでいる間に喋った。

「そうでしょうね、勿論です。用心のために、そういった口実から疑いをかけ、ピエトロ・ロコシュの生命を終わらせる。同じように、わたくしは貴方の間諜を突きとめて黄金を約束し、その忠誠を裏返すでしょう。貴方が欲しがっている情報を与えて、貴方をよりよく監視し続けられるように。そしてやがてはその間諜を殺害し、わたくしの黄金を取り戻す。そのうえ」

 彼女の言葉にエルヴォスは頷いた。血まみれの布に今も咳こみながら、顔は先程よりも赤く、そして喋るのを止めることを願って彼女へと指を上げた。

「もちろん存じていました、その間諜は私の意図に反して利用されていたと」 彼は咳の間から言った。血は今や彼の食べ終わっていない皿まで跳ねていた。「存じています、私の組織のどんな者も、究極的にはあなたの約束に堕落させられていると。そして私は、貴方の配下になったことのある者を決して誰も信頼することはできない。わかっております、私は貴女のように人々を知り、あらゆる変化を見る熟達者ではない。それは私の欠点だと認めます。わかっております、貴女を殺すことはできないと。ですが私達の仕事は互いに身構えながら、私達のどちらかが死ねばならないという所まで続きます。ですから、私は貴女に殺されるのではなく、自分に毒を盛りましょう。どんな計略を企もうと、私は死ぬとわかっておりますので」

 マルチェッサは頷くと、その表情に笑みが広がった。「感銘いたしましたわ、古いお友達のあなた。あえて言いましょう、今日は、驚いたと。実は、あなたを殺すことを計画していました。今から二日の後、あなたが秘密のお部屋で眠っている間にです。あなたのお友達からあなたの死を責められて、報復を受けるような気がしますわ」

 彼女は身を乗り出した。「お見事なゲームでした」

 エルヴォスは微笑み、椅子に座り続けようとするも今や震えながら、だが前のめりに倒れ、顔を皿に突っ込んで死んだ。

 マルチェッサは溜息をついて指輪を弄んだ。彼女は立ち上がると椅子を後ろに押しやり、エルヴォスの死体へと向かった。彼女は彼の額に口付けをしたかったが、エルヴォスが皮膚にも毒を仕込んでいることを知っていた。彼女が少しでも憐れみを見せたなら餌食にするために。

 代わりに彼女は部屋から出ると、エルヴォスが訪れた時から裏に控えていた執事を呼んだ。そして彼の死体の穴を掘るように命じた。ライバルは自ら命を絶ったとマルチェッサは知っていた、だが彼の死の間際に最後の勝利を与えたかった。彼の試合ぶりを全て知っていたとしても。


(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

〈黒薔薇のマルチェッサ〉 アート:Matt Stewart

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