デベロップの失敗

更新日 Latest Developments on 2014年 6月 23日

By Sam Stoddard

Sam Stoddard came to Wizards of the Coast as an intern in May 2012. He is currently a game designer working on final design and development for Magic: The Gathering.

原文はこちら

 今回は『Vintage Masters』特集ということで、私は『Vintage Masters』に多く見かけられるもの――デベロップの失敗の話をしたいと思います。

 さて、デベロップがやらかした失敗には多くの異なったレベルで様々な種類のものがあります。パワーナインなど、パワー・レベルのぶっ飛んだカードのほとんどは、レアリティだけで構築におけるバランスが取れると考えられていた、このゲームの初期に存在したものです。

 次に《群れネズミ》、《修復の天使》、《スラーグ牙》のような我々の予想よりも強かったカードがありますが、それらのカードは自分の存在する環境をぶっ壊してしまうほどのものではありませんでした。それらは予想以上の影響力を持っており、環境を我々の想像したものとは違ったものにしました。

 私はそれを悪いことだとは考えていません。常に何かが最強のカードになります。我々が全てのカードやデッキがどれぐらい強力かをパッと見て素早く正確に把握できるようであれば、その環境には毎週マジックをFNM、PTQ、そしてよりレベルの高いイベントでプレイする多くの人々が楽しむのに十分な深さがあるはずはありません。

 さらには何週間、何ヶ月間、もしかしたら何年も――スタンダードにある間ずっとかもしれません――目立つことのない多くのカードが存在し、実際に強力なカードとして選ばれる適切な環境を待っています。《群れネズミ》は現在、スタンダードで我々の予想していたよりも強力ですが、最初の1年は全く見かけず、プロツアー『テーロス』ではトップ8のデッキの黒単に2枚だけ入っているだけでした。

 マジックのデザインとデベロップの目的は、プレイヤーに経験させたいことを厳密に決定することではありません――いくらかの不公平のある環境を作り出し、その環境で出てくるものを見ることです。また我々は全てのカードのパワー・レベルを同じにしようとはしません。もしそうしたならば、同じスタンダード環境に《瞬唱の魔道士》と《珊瑚マーフォーク》を印刷できなくなってしまいます。

 我々が自分の仕事を正しく行なっていれば、プレイヤーがどんな戦略であれ最善のプレイをすれば競技的になることができるだけの多様な楽しいものが存在するはずで、前の週でトップだったデッキをただプレイしているだけよりも十分に快適になることでしょう。そうできていれば、プレイヤーが良い成績を残すために重要なのは理論的に最強であるかよりも独創性とデッキの好みになり、メタゲームはとても健全にあり続けるでしょう。もしギョーム・ワフォ=タパ/Guillaume Wafo-Tapa(訳注:フランスのプレイヤー。青を含むヘビーコントロールを好むことで有名)が常に《ゴブリンの先達》を唱えるような環境があれば、その環境には多分問題があるのだと理解できます。

 我々は新しいカードがスタンダードにおいてちょうど適正なパワー・レベルになるよう多くの時間を費やしていますが、それは他のフォーマットのパワー・レベルにおいて過ちを犯してもいいということではありません。例えば《渦まく知識》のあるレガシーでは、《秘密を掘り下げる者》はスタンダードにあったときよりもはるかに強くなっています。我々はオフィスで、スタンダードのデッキにはしばしばデベロップが失敗したカードが含まれ、モダンのデッキはデベロップが失敗したカードを中心に作られ、レガシーのデッキは年月を越えてデベロップが失敗したカードが特徴である、というジョークを飛ばしています。もちろん、ヴィンテージのデッキは失敗そのものです。あと《切りつける豹》と。

 これは完全に真実というわけではありませんが、これらのフォーマットは主に我々の予想よりも強かったカードで構成されていて、それは良いことです。もし我々がスタンダードで役割を担うよう狙ったカードが予想より強く、モダンの必須カードになったならば素晴らしいことです。問題は我々がレガシーの必須カードを作ろうとした場合です。私は今後のサプリメント商品で《真の名の宿敵》のようなカードが作られることが減って、《議会の採決》のようなカードが増えることを望んでいます。

怪我の功名

 我々が各カードのプレイテストにかけられる時間には限りがあり、また我々はそれぞれの強さに関する一般的な考えを持っていますが、テストが不十分な場合があります。繰り返しになりますが、私はそれを全体として良いことだと思っています。我々が間違いを犯し、予想よりもはるかに強力になってしまったカードは、この10年間で最も象徴的なカードの一部――つまり、《原始のタイタン》、《精神を刻む者、ジェイス》、《石鍛冶の神秘家》、《苦花》、《黄泉からの橋》《タルモゴイフ》などです。これらのカードは使ったり使われたりして常にすごく楽しいものというものではなく、その後我々はいくつかのフォーマットでこれらを禁止しなければなりませんでしたが、このカード達は依然として印刷されたときと同じ形で存在しています。どう少なく見積もっても、私はこれらの失敗に対して10年以上昔の《トレイリアのアカデミー》、《記憶の壺》、《ヨーグモスの取り引き》などよりは満足しています。ヴィンテージでは1996年の当時と同じ方法で《暗黒の儀式》から《ネクロポーテンス》を唱えることができます。我々は全てのフォーマットでそれを許すわけではありませんが、人々がそのようなことができる場所があってほしいと思っています。

 特にデジタル・カード・ゲームがより普及してきた去年1年間で私が多く受けた質問は、デジタル・ゲームのようにマジックのカードにパッチを当てたいと思うかどうか、というものです。私は他のゲームにとっては素晴らしい決断だと思いますが、マジックがそうしないことについて満足しています。私は過去のカードを修正しないことがマジックの個性を作ったと考えており、我々の失敗が全体としてデザインとデベロップの両方を改善に導いたことを知っています。我々は失敗したときにそれを修正する選択肢がないので、以前よりも良いセットを作るようになったと考えています。

 その決断のためにここにいるわけではありませんが、《精神を刻む者、ジェイス》を5マナにすることや、《石鍛冶の神秘家》で得られる装備品を制限することがそれらのカードをスタンダードで禁止するよりも優しい答えであったことは想像しなければなりません。しかしそれがマジックにとって長期的により良い答えであるとは思っていません。

 我々がこのような記録を持っていることは良いことだと思います。我々はこれらのカードにパッチを当てて自らの失敗をなかったことにはできません――その結果、我々には間違っている可能性を踏まえてそのフォーマットのバランスを取るという課題ができ、プレイヤーには我々の失敗を発見することと、我々の予想と異なる強力なデッキを作ることの両方の面で報酬が与えられるようになりました。例えば、我々は《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》デッキの骨格は持っていましたが、いくつかのカードが欠けており、スタンダードで使われるだろうとは考えていませんでした。スタンダードは《原始のタイタン》が基本土地しか持ってこれなければもっと良くなっていたでしょうか? 恐らくそうでしょう、しかしこの手の話の終わりはどこにあるのでしょうか? 我々は多くの十分な強さのないカードを強くしてスタンダードを変えようとパッチを当てることができますが、それは最終的にデベロップが正確に環境を決定づける世界に行き着き、プレイヤーがその環境がどんなものであるかを見つけることができる世界より悪いものであると信じています。

 プレイヤーの基本的な行動の一部にデベロップが好まない多くのカードが存在します。我々はスタンダードで強力な土地破壊を印刷しないように努力しており、同じように打ち消し呪文のコストについても変更しましたが、その理由は我々がそれらのカードを基本戦略とすることは、それらを補助的な戦略にするよりもゲーム全体として悪い影響があると信じているからです。例えば、23枚の打ち消し呪文があるデッキを我々はスタンダードに求めていません――7枚打ち消し呪文があるデッキのほうにもっと満足します。しかし私は、これらの戦略を行いたいプレイヤーが古いカードを使っていくつかのフォーマットでプレイすることができることを嬉しく思います。――もし我々が現在の感覚に合わせて全ての古いカードにエラッタを出していたなら不可能だったでしょう。マジックは21年目にさしかかり、それがプレイする唯一の方法だったとしたら全ての人にとって楽しいものではないとしても、古くて壊れたカードをプレイすることや、あなたが時々昔に戻りたくなることは、強いノスタルジーを感じさせます。

 私が作りたい例えはこうです――私はオリジナル版のスターウォーズの3部作のほうがリマスター・バージョンよりずっと好きです。オリジナル3部作を見返してみると問題が大量に存在します――特撮効果がしょぼい、話に整合性がない、さらにはルークがレイア姫をうっかり「キャリー」と呼んでしまう――これらは問題だと思いますが、結果的にはこの映画に個性を与えています。リマスター・バージョンでは、これらの問題の多くが修正されて、この映画がどうあるべきか考えられた流れが適用されました。ヤブ・ナブはスターウォーズの、そしてこのシリーズの最高の終わり方ではないかもしれませんが、これはこの映画にある種の魅力を与えています。

Bazaar of Baghdad》 アート:Christopher Moeller

 同じように、『Vintage Masters』のような環境が存在できるのは、我々が恐ろしいほどにぶっ壊れた、しかし魅力的な先年のカードを変更しなかったからです。私はもしこのセットのカードが現在の基準によってコストが設定されていたならば、このセットはこれほど楽しくはならなかっただろうと考えています。つまり、《太陽の指輪》を1マナで唱えることはとてもエキサイティングですが、現在の基準だとこれは4マナかかります。同じように、Moxが2マナかかったり、《Bazaar of Baghdad》がカードを捨てる代わりに追放するならばその存在価値は減少してしまうでしょう。我々は現在このようなカードを作らず、スタンダードはそれらがあった過去よりもはるかに楽しいフォーマットに保たれていると私は信じています。またそうすることで、モダンはレガシーとは大きく異なるフォーマットに保たれ続けています。私はこれらのカードが適正な環境でプレイされることがその楽しさを損なうとは感じません。

特徴を変える

 さて、最初のほうでカードにパッチを当てないだろうと話したときに、私は1つ言い忘れていたことがありました――我々は過去に実際にパッチを当てたことがあります。我々は新しく印刷するときに書式を整理するだけでなく、そのカードの実際の動きを整理したり、そのカードを良くしたり悪くしたりする機会を得ました。《空飛ぶ絨毯》が『第5版』から『第6版』でどのように変わったかを見てみましょう。

 クリーチャーが死亡したとき、《空飛ぶ絨毯》が破壊されるという事実はちょっと間抜けでフレーバー豊かなものですが、このカードをかなり弱くしていました。従って、我々は最終的にその一節を取り除き、このカードはシンプルですっきりとしたトップダウンの《空飛ぶ絨毯》になりました。

 これは決してこのゲームの初期に行われた大きくゲームのプレイを変更する唯一のエラッタではありません。小さなものでは《キノコザウルス》(大昔のこれはターン終了時までカウンターを得られませんでした)や、大きいものでは《ルフ鳥の卵》(墓地に行った場合はいつでも――手札からでも4/4トークンが出ていました)などはそのカードの書式が意図されていないことをフォローしていませんでした。『ウルザズ・サーガ』時代の、このゲームのパワー・レベルがすぐに危険域に達していたころに、《巨大鯨》のようないくつかのカードに、増加する一方の禁止リストにカードを加える代わりにパワー・レベルのエラッタを出しました。

 デベロップと編集の部署がパワー・レベルの失敗を通さないようにしただけでなく、この種のエラッタによってマジックが悪くなっていると我々が感じたので、その後我々はこのようなカードのエラッタを取り去りました。全体として、カードは書いてあるように動くべきで、カードにはどう動くか書いてあるべきです。人々がオラクルを参照するスマートフォンを持っておらず、他に合理的な方法がその店で一番詳しいプレイヤーに尋ねるか、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストのカスタマー・サポートに電話するしかない時代にカードに本当のことが書いていないと信じるのは驚異的なことです。現在はスマートフォンでこの手の問題を対処できると思い込むのは簡単ですが、それは我々がプレイヤーに示したいマジックではありません。

 あなたが「現代の」ルール(基本的に6版ルール以降)を見返してみると、印刷されたとおりに機能しないカードが驚くほど少ないことに気づくでしょう。いくつかのキーワード能力と書式は変更されましたが、その大元のルールは極めてよく似ています。その理由は6版ルールにより、年に1回ルールを改訂し全ての古いカードを新しいルールに翻訳しなくてもよくなったからです。例えば、《狩りの報奨》は単純にクリーチャーが死亡することを防げないいくつかのバージョンを経てきました。何故でしょう? ルールは変化し続け、そしてこのカードが機能するかしないかはこのルールがダメージとターン終了ステップの両方をどのように扱うかに依存していました。ぐちゃぐちゃです。

 これらのルール変更によっていくつかの印刷された不安定な書式と当時のルールで作られた古いカードが最新のルールで機能しなくなりました。この最も目立った例は《焦土》と《水蓮の谷間》でした。このカードが印刷された当時、このカードは機能していたので「このカードを使う前にあなたはコストを払わなければならない」という必要はありませんでした。土地を生け贄に捧げない場合、このカードを使うことはできませんでした。このルールがなくなると、これらのカードはほとんど全てのマジックの土地よりも恐ろしいほどにぶっ壊れ、1ターンの土地のプレイを食いつぶすとはいえ《水蓮の谷間》を打ち消せない 《Black Lotus》にしてしまいました。(A)このカードを印刷されたそのままに機能させて全てのフォーマットで禁止するか、(B)意図されたように機能するが印刷された書式とは合致しないようにする、の2択を迫られたとき、我々は後者の選択肢を選びました。これは皆が気に入るものではありませんが、我々はこの選択がこのゲーム全体にとってより良い選択だと思います。

 今週はここまでです。私は皆さんに『Vintage Masters』をプレイして、相当にぶっ壊れたことを体験してほしいと思います。私は自分がそうすると分かっています。

 ではまた来週お会いしましょう。

サム(@samstod)より

(Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)

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