サルカンの狂気

更新日 Magic Story on 2014年 8月 27日

By Jennifer Clarke-Wilkes

Jennifer came to Wizards of the Coast in 1995 as the editor for Ars Magic. She later moved to editing Magic: The Gathering until 1999, when she became an RPG editor. She has been involved with many games in the company, from writing world documents and flavor text, to playtesting various TCGs and board games, to occasionally trying her hand at RPG design. In January 2013, she returned to Magic, joining the creative team.

原文を読む

 プレインズウォーカーのサルカン・ヴォルは決して楽な人生を送ってはこなかった。彼はドラゴンの絶滅した、風の吹きすさぶ、争いに引き裂かれた世界に生まれた。彼は若い頃にプレインズウォーカーとなり、多元宇宙において最も偉大なドラゴンを見出し崇拝すべく旅に出た。

 彼はやがて、最古にして最強のドラゴンの一体に遭遇した。古の、悪意に満ちたエルダー・ドラゴンにしてプレインズウォーカー、ニコル・ボーラス。意志を砕かれ、精神を解きほぐされ、彼はボーラスの下僕となった。ボーラスの奴隷として彼はゼンディカーへと渡り、ウギンの目と呼ばれる謎めいた小部屋へと入った。そしてその次元を蹂躙するエルドラージを解き放つ手助けを、意図せぬうちにしてしまった。

 自身の心すら信用できず、ニコル・ボーラスの懲罰を恐れ、そして彼自身の民から追放され、サルカン・ヴォルは故郷の世界タルキールへと帰ってきた。


 そうだ、俺は故郷へと戻ってきた。俺は岩だらけの丘と土煙に煙る砂草原の向こうを見た。この世界は生命に咆哮し死に絶叫する、闘争と暴力の全景だ。実に強くなれる。だがそれは痛みに満ち、痛めつけられている。まさに俺のように。

アート:Eytan Zana

 俺はとても長いこと放浪した。今の俺の前に何の目的がある? 「目」は空だ。世界は空だ。俺は不名誉のうちに戻ってきた、他のどの次元にも俺の居場所などないだろうから。

 そして今も……何かが聞こえる。思考の反響だ。何を言っている? 俺の名を呼んでいるのか?

 全ては龍の炎とともに始まったのだ、サルカン。そして龍の炎は終焉の目撃者となるであろう。

 不愉快な声め、お前は誰だ? お前は長いこと俺の頭に囁いてきた、だが今は叫んでいる。お前は過去からのこだまか? 決して存在しない今か? それとももしかしたら俺は狂っているのだろうか、ボーラスが言っていたように。

アート:Volkan Baga

 ボーラスは俺を「目」に送りこんだ。そして待つように言った。見張るようにと。だがあいつらが来て……あの……者達が……去っていった時、俺は何も知らずに取り残された。眠らされて。そして俺が自分の失敗を告白しに行った時、俺はただの、全ての目撃者でしかなかったと知った。

「目」は閉じられた。俺の目は騙されていた。あいつは見張るために俺を放った。何を見張るために? のたうち、俺に語りかける、洞窟の壁のただの映像。暗闇の中の囁き。そしてその問題事がやって来た時、俺にできたのは失敗だけだった。失敗こそが成功だったと?

 ボーラスこそ、俺が求めていた存在だと考えた。古から生きる、強大で、かの種の中でも最高の存在。俺はそいつへと奉仕を申し出て、そいつは認めた。愚かにも、俺は好かれていると考えた。ただの駒だった。今や、俺は理解している。多元宇宙そのものと同じほどに広大で深い知性は、世界の全てを玩具として見ているのだと。

 俺は不要となって投げ捨てられた、ドラゴンの玩具だった。不名誉な骨を覆う思考のぼろ切れ。それが、俺の奉仕への報酬だった。

 だがかつて、一体の龍が俺に言った、王よ、我に囁け。自己犠牲の本質とは何か?

 お前はこの地を癒すことができる。お前自身を癒すことができる。


 俺は龍への思慕とともに育った。俺の世界は絶えない戦いに引き裂かれていた――引き裂かれている。古きものの骨の中にて氏族が衝突する。タルキールの多くの場所、血に濡れた戦場に。俺達は獰猛だが、俺は心の何処かで常に疑問に思っていた。かつて存在したもの達は果たしてどれほど凶暴だったというのだろう?

 俺の民全てと同じように、俺は戦いのために生まれた。戦士の道を奉ずる者がいる。彼らは激しい突撃と血飛沫に歓喜し、マルドゥの最前線にて雄叫びとともに戦闘に飛び込む。義務から戦いに加わる者達がいる。戦わないことは、戦長達の手による残酷な死を意味するからだ。そして腐肉あさりどもがいる。そいつらは馬の足元によろめいて、戦士達の足跡の中に戦利品を拾う。

 だが俺はそいつらの、どれでもなかった。戦いの歌は俺の心を満たさなかった。俺にとって、戦争はただ人生の現実だった。起きて、騎乗し、戦う。それが軍族の日々の生活だった。生存は勝利次第だった。征服することは、食うことだ。

 それでも、俺には殺し屋の振舞いを身につけていた。戦闘の魔法の才能、そして天性の獰猛さから、俺は軍族の中でも怖れられるようになった。俺は敵の戦列に間隙を作り、俺の怒りの前に敵は逃走した。俺の隣で戦った者は俺の憤怒を受け、そして対立する部隊は一掃された。俺達の民の中でも、俺の意志に敵うものはないと祖父は言っていた。

 奥地にて、俺達は奴らの氏族を焼き払った。

アート:Wayne Reynolds

 だが、俺達は結局、何のために戦う? 僅かな土地か? 僅かな食料品の蓄えか? 争いは常に些細なものだったが、とても多くの戦いと、とても多くの死があった。何処を征服しようと、俺達は長くはそこにいない。常に風と、馬とともに移動する。

 俺は終わりのない流血に嫌気がさしていった。祖父はそれを警告していたが、俺は槍を置いて宿営地から旅に出た。カル・シスマ山脈を登る旅の中、俺は自分が理解できない言葉で呼ぶ声を追い求めた。俺は独りで雪の中を放浪した。時折そこをうろつく巨大な獣と戦いながら、だが俺が聞いているものが何なのかはわからなかった。

 お前は、追い求めているものを知っている。

 俺が? やめろ、その声に返しては駄目だ。とはいえ……それはどこか馴染みがあるように思えた。

 そしてある夜、虹の緞帳の下、俺は奇妙なものを見つけた。亀の甲羅が凍った河に置かれているような。俺が近づくと、人影が一つ氷から浮かび上がり、俺自身の姿をとった! それは俺に、内に深く響く言葉で、龍とその強さについて囁いた。俺は手を伸ばして触れ、実感すらなかったが、それは誓約だった。

 その人影は消え去り、俺は一人の若者に対面した。裸で氷の上に座し、甲殻のような頭飾りが顔を覆っていた。彼は立ち上がると熊の毛皮を身に纏った。そして黙って手招きをした。俺は森の中へと彼を追った。

アート:Ryan Barger

 そこには洞窟があり、他にも集まっていた者達がいた。彼らは外套の下から黙って俺を見ていた。その若者が口を開き、俺に向けて身ぶりをすると、全員が顔を明らかにし、低い、囁くような詠唱を始めた。幾星霜の声だった。声……王たちの声だった。

 彼らは古きものを記憶していた。この世界にもはや龍は飛んでいない。その咆哮を聞き、鉤爪と血の囁き歌をうたう人々もいない。言葉があった。記憶があった。俺が知るべき名があった。俺はそれを今聞いているのか?

 そこで俺は何ヶ月もの間、「囁く者」達の中で過ごした。だが最終的に俺はそこにいられなくなった。記憶の話、声のこだま。それらは俺を支えられなかった。とはいえ俺は平穏のようなものを見出していた。もしかしたら俺は自分の中にそれを持ったままでいられるかもしれなかった。

 その囁きはこだまなどではない。

 幽霊め、俺の心から出ていけ! お前を否定してやる。古きものはもういない。残っているのは一体だけ、そしてそいつは紛いものだった。


 俺は氏族に戻り、戦士達に歓迎されたが、軍族の長は違った。ズルゴの顔は俺が近づくと曇った。「戻ってきたというのか?」

「休息と黙想が要る」

「お前はジェスカイの草履履きか何かか? 座って考えるだと? 俺が求めるのは完全な服従だ」

「俺は一翼の長だ。最良の指揮をするためには、自分自身について確かでないといけない」

「統べることは血を流すことだ。布告もそう言っている。お前は軍族のために血を流せ」

アート:Todd Lockwood

 兜砕きは不承不承、乗馬隊の一翼とともに俺を送り出した。俺達の荒野の端を、スゥルタイの者どもの不愉快な沼が汚していた。

 多分、ズルゴが俺にあてがったのは軍族の屑どもだった。こいつらに俺が統率する価値などなかっただろう。理由が何であろうと、俺達は戦いに加わったものの、蛇どもをぬかるみへと払いのけはしなかった。こちらも向こうも、蟻の戦争のように乱闘状態だった。誰一人優勢ではなかった。ついに、失望の中、俺はその混乱の中へと突撃し、奴らを率いていた呪術師を切り裂いた。

 それで終わったのであれば良かった、だが頭を切り落とされた蛇のように、敵は死んだことすら知らなかった。無益な戦いはまだ続いた。

 俺の内に怒りが湧き上がった。それとともに、内なる声が俺に静止を呼びかけた。殺戮の最中、静寂の時があった。

 そしてそこで、俺は声を聞いた。古きものの声だとわかった。俺はその言葉の中に、年月を聞き取った。

 今もそれを聞いているのか、サルカンよ?

 その声は龍の言葉を話した。そして俺は応えた。

 俺の両手が炎に燃え上がった。俺の魂から、純粋な炎が存在を成して空へと弾けた。ドラゴンは戦場へと駆け、その通り道の全てを焼いた。肉は音を立て、骨は割れた。助かったものはいなかった。馬も、乗り手も、ナーガも。怒りと暴力の具現が俺の中に生まれた。俺は燃え立つ我が子を歓迎した。そして俺は吼えた!

 俺は龍火の中を落ち、その破壊の栄光に酔いしれた。終わりの無い純粋な喜びの瞬間、俺の周囲で世界が燃え立った。何という情熱! 俺は今まで、これほどに生きていると実感したことはなかった。


 この世界の向こうから、何かが俺を呼んだに違いなかった。捕食者の叫びだろうか? もしかしたら俺はいつも、心の中の龍の声を聞いていたのかもしれない。だが、どの龍の声を?

 俺は果てしない砂漠の真ん中に立っていた。赤い太陽が俺の両肩をかきむしった。空は紫色をしていた。これは知らない土地、想像すらしたことのない土地だった。

 その異質な風景を見渡すと、大きな影が俺にかぶさった。頭上には瞑想の中と、巫師の絵の中でのみ見たことのあった、巨大な獣の影が旋回していた。疑問と歓喜が俺を満たした。俺自身の世界から切り離されて、俺はついに自分の真の同類を見つけたのだ。

 俺はそれから数年、ドラゴンについて可能な限りの全てを観察し、追いかけ、学んだ。最初の時に見たドラゴンは、空の君主に違いないと俺は思っていた。その時の俺は何て愚かで繊細だったのだろうか! それはドラゴンの種の中でも下位の血統でしかなかった。俺はすぐにその弱点を発見した。それはより強いものの炎に倒れた。俺は征服者を追いかけた。

 年月が過ぎ、俺はかつてないほど大きく、古く、更に狡猾な個体を探し求めた。俺はそれらを追った。それらの名を学んだ。巣を発見した。そして俺は、その全てが死に直面するのを見た。だがそれらの死も俺を鼓舞するだけだった。更に強い個体を、真の王の名誉に相応しいものを見つけるのだと。

アート:Jaime Jones

 ある日俺は新たな、獰猛な世界にやって来た。ブーツの下で消し炭が砕けた。空は嵐に震えていた。もつれた木々が、タールの沸騰する池へと這っていた。赤い河がねじ曲がった岩の間をかきむしっていた。

 その獰猛な風景を見渡すと、数えきれない野生の獣の金切り声を聞いた。大気と、大地にさえも肉食獣の咆哮と獲物の断末魔が反響していた。熱い風が俺の頬を洗い、俺は見上げた。大気は力強い翼と炎に満ちていた。

 ああ、そいつは見事だった! 遠くからでも、その力は明らかだった。首と顎の太い筋肉、翼の力強い羽ばたき。そいつは灰でその身を飾っていた、覇王がまとう気高いローブのように。

 そしてその偉大な捕食者は見えざる獲物へと襲いかかった。そいつが放った金切り声はあまりに生の力そのままで、土地そのものを引き裂くように思えた。空の王と山々の峰が出会う時、そこから炎が噴き上がった。

 俺が辿り着いたのは楽園だった。

 ここジャンドで、俺は人間の部族を見つけた。彼らは髪を編み、化粧をした狩人達で、ドラゴンを追ってはそれらの強さを戦利品として得ていた。彼らの生きざまは単純だが、その精神と大胆さで並ぶものはなかった、俺の民以外には。一つの狩猟隊が追跡にてそっくり失われることもあったが、別の同じように熱心な狩猟隊がそれを追いかけるだけのことだった。彼らは強かった、他の多くとは違う強さで。俺は彼らと数度道を交えたが、決してその追跡に加わることはしなかった。

 ただ一度を除いて。老マラクトス――彼こそ、真の難関だった。俺の忠義を捧げるために、俺自身が力を試した唯一の者だった。だが彼でさえも、倒れた。

 いかに強くとも、ジャンドの空の暴君どもはただの獣だった。俺の忠節を受け取るに値する者はいなかった。そして俺は疑問に思い始めた。あらゆる世界に、俺が捜し求める龍は存在しうるのだろうか、生きているのだろうかと。俺を導き、教え、俺の潜在能力を引き出すことのできる龍は。

 一体、存在した。だがお前は耳を貸さなかった。

「我が彼をそこに横たえた」 ボーラスは俺にそう言っていなかったか? もしくは横たえられたのはボーラスだったのかもしれない。俺が聞いたドラゴンは何だ? 今聞いているのは誰の声だ? もしかしたら山の予見者は正しかったのかもしれない。世界は覚えている、その人々が忘れてしまったものを。

 ある名前を。

 ウギン。

 幻影よ、俺は今ここにいる。お前は俺に、戻ってくるように言った。俺を拒否した世界へ。俺の主が俺を拒否したように? ここで何が俺を待っている?

 入口を見つけるのだ。

 謎かけか! 詐欺師め! 何の入口だ? この世界は戦場だ。長く保つものは何もない。お前は俺に何をしようというのだ?

 タルキールは未来のない、争いの現在が続く世界だ。だが、遠い昔には……俺達人間は何か、耐えるものを築いた。龍の絶えない攻撃にもかかわらず、俺達の文明は何世紀も存続した。もしくは、それらが理由だったのだろうか? 一つの強大な敵に対抗し、競争し合う――それが俺達を強くした。だがその嵐が止んだ時、そして空の王が墜ちた時、それは俺達の致命的な弱点の始まりだった。

 俺は狩りの角笛の音を聞いた。矢の風を感じた。無数の蹄の立てる土埃が俺の視界を運び去った。戦いは俺の所にある、常にそうだったように。答えはここにある。俺の世界の何処かに、だがこの場所にではない。俺の旅はまだ終わってはいない。

 俺にはお前の声が聞こえる。俺は再び、山頂の「囁く者」達を探し求めるだろう。もしかしたら彼らも、お前の声を聞いているのかもしれない。俺は扉を見つけてみせる。

 俺はまた、俺達を強くしてみせる。

アート:Daarken

(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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