プレインズウォーカーのための『タルキール覇王譚』案内 その2

更新日 Magic Story on 2014年 9月 10日

By Magic Creative Team

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 全二回からなる「プレインズウォーカーのための案内」は合わせて七つの項目に分けられる。その1では導入と、アブザン、ジェスカイ、スゥルタイについて述べた。今回その2ではマルドゥティムールプレインズウォーカーの訪問者達について述べる。


マルドゥ族

氏族の概要

敏捷、蛮行、名誉 マルドゥはドラゴンの敏捷性を取り入れ、彼らの象徴は翼である。マルドゥは怖れられる戦士の文化を持つ。名誉の掟が統べる彼らは常に戦争状態にあり、戦場の恐るべき戦略、無双の弓術、残忍な戦魔術によって土地を征服している。彼らは龍翼を象徴とし、それは攻撃の迅速さに表れている。そして彼らの戦には人間、オーク、オーガ、ゴブリンの戦士達からなる大勢の轟く波が動員される。占領した土地での成功は彼らに似つかわしくないかもしれない。だが彼らは襲った土地を支配する緩やかな年月のためではなく、戦闘の熱い瞬間に生きている。

アート:Jason Chan

氏族の価値観

イラグラの布告 マルドゥ社会の全員が戦争へと向かうわけではないが、全員がイラグラの布告と呼ばれる、氏族の最初のカンの名にちなむ戦士の掟に従って生きている。その布告は龍皮の巻物に刻まれてまとめられ、マルドゥの戦士達へと名誉と戦闘の掟を定めている。

  • 征服とは、食べること マルドゥの哲学の中心は、戦士は奪うことで生計を立てるという考えである。彼らは世界を、欠乏というレンズを通して見ている。穀物が育つ日数よりも腹を空かせた口は多く、よく戦う者が食料にありつける。
  • 統率とは、血を流すこと その一方で、マルドゥは特定の場所の資源に頼ることは滅多にない。彼らは永続する施設を建造したり、征服した人々を彼らの文化に統合するためにエネルギーを費やさない。マルドゥの軍が領土を焼き払い、一週間分の糧食を奪い、そして居住地の類を何ら設置することなく移動するのはありふれた事である。
  • 勝利か死か マルドゥは全速力で攻撃へと赴く。マルドゥの戦士の典型的なイメージは、騎乗しながら前へと乗り出して鐙に立ち、剣を突き出しもしくは弓を構えながら戦闘に突入する――身軽さと騎乗の技術を、だが同時に激突し敵を倒すために全てを捧げることをいとわない意志を誇示している。マルドゥは蓄えを何も残さず、失敗よりは死を選ぶ。

戦名: 成年に達すると、マルドゥ氏族の者は皆、残忍な名誉の行いにて自身を証明することを望まれる。これは通常、戦いにて敵を殺すことを意味する。そして氏族員は「戦名」を、通常は単語の組み合わせからなる新たな姓を授かる(例として、「頭蓋割りのコリン」「鋭き牙ジャイダー」等)。戦名を授かるに至らないマルドゥは「戦士」の意味に値する者であっても「柔らかな踵」と呼ばれる。

アート:David Gaillet

カンの特権: マルドゥ族の中において、カンは絶対的な専制の暴君である――だが当然受けるべき尊敬を集める。軍族の指揮を握るカンは皆、強力かつ恐れを知らぬ戦士である。多くのマルドゥのカンが、戦利品として前カンの骨をその身の何処かに纏ってきた。戦場で死んだ前任者のものを取り上げたか、死ぬまでの決闘において自身で得たかのどちらかで。大部分のマルドゥの戦士は、ほとんど宗教的と言えるほどの畏怖を感じる自らのカンに、熱狂的に従っている。

龍への態度: マルドゥは最も有能な狩人であり、龍殺しでもあった。彼らは早くには隠蔽の魔術を採用し、戦士としての強さを隠し効果的で敏速な待ち伏せを構えた。今日、彼らは嘲笑と軽蔑をもって龍の記憶を扱い、龍の絶滅をマルドゥ自身が彼らに勝った証ととらえている。この態度はサルカン・ヴォルへと馴染むことはなかった。彼は龍魔術の才能を見出す前は才能あるマルドゥとして育った戦士であり、氏族と衝突してこの次元を去った。

風に追われて: タルキールの砂草原や高原には、頬を刺し、拳をひびわれさせる風が吹きすさぶ。マルドゥは新たに征服した土地に彼らの旗印を立てることを好む、それが彼らの敵が追いつくまでのただ一日であっても。風は旗印をドラゴンの翼の形にはためかせ、多くのマルドゥはその風が明日の征服へと彼らの背中を押す、世界のあり方だと信じている。

氏族の構造

 マルドゥは専業の戦士が大きな人口比率を占める、半放浪の文化を持つ。マルドゥの軍は絶えず戦争を行っており、彼らの文化を持続するために敵の領土を襲撃しては略奪をする。

戦士: マルドゥは戦争無しに存続しえない。彼らは故国の施設も、食物を得るための農業も、住まいすらほとんど持たない。そして一年を通して、常に生存の危機にさらされている。そしてその戦争術の恐ろしさの一方で、彼らは征服した土地を占拠することも、所有を主張することもほとんど行わない。マルドゥにとって、戦争は生きる手段の一つではなく、生きる手段そのものである。

労働階級: マルドゥにも農業の担い手は存在する。特に家畜を世話し、戦闘用乗騎を育て、そしてマルドゥの多くの技術者達が優秀な武器防具を作り出す。だがそれらでは食欲旺盛なマルドゥの軍に十分な食糧を供給できず、そのため彼らの仕事は常に戦の略奪にて補われている。しかしながら、労働階級はそれなりの社会的自由を享受している。マルドゥの戦士達は常に多数展開される前線の小競り合いに赴くが、労働階級は通常は残り、他の氏族の下層階級よりも内政的な問題への発言権を持つ傾向にある。

氏族の魔術

ダクラ式弓術: マルドゥは弓術を芸術の域にまで高めており、それを巫術と組み合わせてダクラと呼ばれる専門分野とした。彼らは儀式にて祝福された弓を使用し、目ざましい魔術的効果を求めて矢に特別な魔法をかける。マルドゥに本来「大魔導師」は存在しないが、代わりに優れた射手達が強力な呪文魔術を彼らの技へと織り込む。マルドゥの攻撃は多くの場合で、風を切ってうなりを上げる矢の雨嵐が空から降り注ぐことを合図として始まる。戦場では多くの将軍がマルドゥの心臓貫きの目標となって死に直面してきた。

アート:Karl Kopinski

戦闘で使用される隠蔽の魔術: マルドゥは何世代にも渡り、古の時代からの龍魔法の進化形である隠蔽の魔術を用いてきた。マルドゥはそれを戦いの際に支援魔術として使用し、主に彼らの戦士の力を隠す。隠蔽は油断している敵へと待ち伏せや挟み打ちを行う際にも使用される。その一方で、同じ戦略に圧倒されるのを防ぐためにマルドゥの射手は隠れた敵をしばしば狙う。

マルドゥの喊声 マルドゥの鬨の声はそれ自体が一種の魔術である。マルドゥの戦士と巫師は喊声を上げて敵を恐怖で打ち、自軍の強さと技を高め、もしくは音波で攻撃する。マルドゥの長たちが用いるこの技は、その伝統をドラゴンの息そのものへと遡る。

風呼び: マルドゥが故郷と呼ぶ砂草原と高原には常に風が鳴っている。マルドゥの巫師は風を模した大きな動きを用いて風を制御し、操り、敵に対する武器として使う。もしくは射手の矢弾をより効果的に導く。

氏族の役割

射手: 多くのマルドゥの戦士が熟達の射手であり、タルキールの大地に点在するドラゴンの骨で弓を彫り上げた者達もいる。ダクラ式弓術の師は彼らの弓技へと魔術を織り込む。弓騎手は騎乗状態での弓術を訓練し、戦闘の間に敵を仕留めつつ危険極まる速度で馬を走らせる。「心臓貫き」は遠距離の暗殺術の達人であり、矢弾の射程と精度を魔術で強化する。しばしばオークとオーガから成る「はらわた伸ばし」は巨大な重弓を用いて巨人程の敵をも打ち倒す。

巫師: マルドゥには巫師の一団が存在するが、彼らの魔術は知恵と儀式よりも行動に寄っている。マルドゥの巫師達は戦場にて試される。地割れ巫師は大地そのものを動かして裂け目を作り出し、敵を罠にかけ、足止めをし、もしくは孤立させる。憤怒歌いは戦士達を鼓舞し、しばしば彼らの乗騎の残忍性を強化する呪文を用いる。悲哀の収穫者は苦痛に満ちた敵の断末魔へと繋がり、彼らの魔術の力とする。

乗り手: 騎乗した戦士の伝統はマルドゥが誇る芸術である。「谷を駆ける者」と呼ばれる素早い乗り手達は敵が反応する前に駆け降りて激突する。巨体のオークやオーガもまた大型動物に騎乗し、彼らは「鞍暴れ」と呼ばれる。単独で騎乗する熟達の乗り手や騎乗の暗殺者は隠密と魔術を用いて氏族の敵を狩り、滅ぼす。

指揮官達: 軍族長は戦場の将軍であり、氏族のカンにのみ従う。世話人は馬や大隼、オーガや巨人すら訓練し提供する。領土主は魔道士と戦略家から成り、領土の道の保全、軍の配備、そしてマルドゥを侮辱したあらゆる敵の名を挙げ、次に略奪を行うに値する相手を決定するためにしばしば採用される。

氏族の重要人物

兜砕きのズルゴ: 古の稲妻のドラゴンが死した崖にマルドゥの要塞、翼の玉座が鎮座している。そこは氏族が戦争を遂行する中心である。マルドゥの現カン、兜砕きのズルゴはドラゴンの頭蓋骨から成る玉座の上から統べている。彼は斥候や彼の軍勢を配置する予見者の助言を受け、マルドゥの略奪隊の動きを指揮している。そして他の氏族が準備をする隙をついて素早く攻撃を行う。

アート:Aleksi Briclot

 ズルゴはサルカン・ヴォルの「プレインズウォーカーの灯」が点火したその戦いに加わっていた。サルカンが龍火の奔流を戦場へと放った際、ズルゴが率いるマルドゥ氏族の多くが殺された。ズルゴは生き残ったが、サルカンの場所に辿り着いた時には既に彼は消え去っていた。戦いの余波の中、ズルゴは勝利を手にして英雄となり、氏族の指導者として素早く隆盛した。

「馬に乗る者が征服する。止まり、瞑想する者は死ぬ。世界のどのような僧院や包囲の機械よりも、素早い馬と良い弓がよりよい戦争の武器となる。」

――兜砕きのズルゴ

踝脛のヤシミン: しばしば戦名の踝脛とだけで呼ばれるヤシミンは、向こうみずな戦の技術で名高い女性のゴブリン戦士である。彼女は無謀で大胆不敵、しばしば仲間の支援が無くとも戦いへと突入する。彼女は一つの武器を決して長く使用し続けないことで知られ、殺したばかりの敵が所持していた武器へと取り変えることを好む。

氏族の重要地点

マルドゥの要塞、翼の玉座: 一体の強大な龍が死亡し、崖へと落下した。マルドゥはその場所に、彼らの戦争を遂行するための中枢を建てた。マルドゥのカンはそのドラゴンの骨の鼻面の上、文字通りドラゴンの頭蓋骨でできた玉座から、かつてタルキールが知る最も偉大な捕食者に対する彼らの支配を誇示している。それは襲撃が報告される中心でもある。斥候と予見者が翼の玉座を訪れ、氏族の動き、守備の乏しい弱点、補給線を報告する。

アート:Daarken

 翼の玉座を除いて、マルドゥが一定の広さの領土を長く保持することは滅多にない。マルドゥは一般に風の吹きすさぶ高原、草の砂草原、沼がちの低木地帯、岩だらけの峡谷、そして起伏のある平原を馬の蹄で荒らしながら広がっている。それでも頻繁にマルドゥの領土とされる地域、もしくは氏族にとって特別な意味を持つ場所は存在する。

黄金の墓所: 翼の玉座の要塞から然程遠くない所に、マルドゥの多くの戦いが行われた広大な草地、黄金の墓所が広がっている。地割れ巫師がその地を引き裂き、侵略者を裂け目へと落とす。もしくは戦場の死者から物資を剥いだ後に埋葬する。

磨滅: ティムールの領土にあるカル・シスマ山脈を横切って深い裂け目があり、それは傷跡のようにマルドゥの土地へと続いている。磨滅は黒い細砂とともに突き刺さる、絶えない風による浸食である。干からびた風はそれだけで屍をわずか一日で白骨にしてしまう。

叫び沼地: 翼の玉座の程近く、低地に繋がった一連のうすら寒い沼地が、ゆるやかな起伏の草原を経て砂草原の門へと続いている。オークと沼オーガがここ、叫び沼地に住まう。この沼沢地の名は犠牲者となった住人の苦痛の悲鳴と、虚ろの木々に巣食う金切り声の鴉に由来する。

氏族のクリーチャー

ゴブリン: マルドゥのゴブリンは危険で頑強な戦士である。彼らは自身で騎乗することはあまり無いものの、騎乗した別の戦士の背に掴まり、他へと跳び移ることはできる。ゴブリンは氏族の人間とオークの中に生きるが、通常は饗宴での犬のように無視されている。「踝脛」を除くと、マルドゥの歴史において戦名を授かったゴブリンは滅多にない。

アート:Zolton Boros

オーガ: 巨体のオーガはオークよりも強いが、彼らは野生の獣ほどの知性しか持たない。彼らは抑えきれない凶暴性を持ち、普段は鎖に繋がれているが、敵へと放たれて混乱を扇動し破壊をもたらす。オーガを繋ぎ留めるために、軍族はしばしば巨岩の傍に宿営する。

軍馬: マルドゥは痩身で強く、駿足で名高い軍馬を育てている。乗り手は子供の頃から乗騎とともに訓練を受ける。多くのマルドゥの戦士が、自分の二本の脚で歩くよりも鞍の上の方が確かな足取りである。そして頑強な鐙により、かなりの速度で騎乗しながらも立つ(もしくはうずくまる、膝で立つ)ことができる。そして、馬の鋭い平衡感覚と滑らかな足取りが組み合わって騎乗の衝撃が吸収され、マルドゥの乗り手は騎乗状態でも自由な動きで弓を扱うことができる。

: マルドゥは隼を猟鳥として、そして乗騎として訓練している。特別な延長部分が設えられたマルドゥの鞍に、巨大なロック鳥が直接止まっている。マルドゥの戦士の中にはそのロック鳥の翼を、ドラゴンの翼を模した旗印で飾る者もおり、その鳥へと恐るべき四翼の外見を与えている。


ティムール境

氏族の概観

 ティムールはドラゴンの残忍さを取り入れ、強さと自給自足を尊び、氏族の象徴として龍爪を採用している。彼らのカンは「龍爪」の敬称を持つ。彼らはカル・シスマ山脈の荒れ果てた領土に氏族の土地を維持し続けることで、その不屈さを証明してきた。

アート:Jaime Jones

 放浪の民、ティムールは獲物となる獣を追い、他の氏族を、特にマルドゥを略奪して一年の多くを過ごす。彼らは拡張や征服の欲求はほとんど抱かないが、物理的および文化的な侵入に対しては熱狂的に共同体を守る。

「彼らは龍の精神に最も近しい存在だ。そしてある点では今も龍の時代に生きている。彼らの巫師は何があるべきかを見ている。彼らの囁く者達を通じて俺は見つけてみせる、この傷ついた世界を癒す方法を。」

――サルカン・ヴォル

氏族の価値観

過去は我らとともに: 巫師は「凍りついた記憶」を語るが、ティムールは皆、祖先の日々と現在とを同時に生きている。氏族の役割は永遠であり、新たな世代の者達もその役割は昔から一続きのものであり、それを当然ととらえている。狩人、指導者、囁く者、教育者、殺害者、等々。氏族の伝説は名のある英雄よりもこのような役割について語っている。

眠る祖先: 山脈において、人生とは険しいものである。人々は簡単に死ぬ。そして山脈の岩だらけの、特に冬にはしばしば凍りつく大地への埋葬は難しい。そして火葬のための燃料は乏しい。そのためティムールは実用的な解決法を発達させてきた。死亡した者の屍は洗われ(もしくは少なくとも雪で汚れをこすり取られ)、葬送の布に包まれる。家族の他の者が、祖先へと捧げられた特別な場所へと死者を運ぶ。凍りついたドラゴンが眠る、巨大な氷河にできたクレバスへと。祈りと香の煙が捧げられる中、屍は裂け目へと下ろされ、祖先とともに永遠の氷の中で眠りにつく。

終わりなき沈黙: ごく稀に、あるティムールが戦闘において氏族の者を死に追いやる卑怯な行動や裏切りといった許されない罪を犯すことがある。罪は二度囁く者の助言を受け、龍爪によって裁かれる。そういった憎むべき罪への罰はただの死では足りず、氏族の記憶から完全に消去される。その犯罪者は山の急流にて溺死させられ、屍はそのまま流されて野生の獣に与えられる。その声が眠りにつく祖先のものに加わることは決してない。

囁き: ティムールの魔術はエレメンタルの風味を強く帯びつつ、山々と霊に大いに結びついたものである。巫師は彼らの魔術を「囁き」と呼び、凍りついた記憶や凍りついた祖先ついた霊と語る。多くのティムールがエレメンタルへの親和性を持ち、石や氷を様々な程度に形作ることができる。その手腕に最も長ける者は洞窟に防護の固い避難所を構築し、また戦闘において敵を妨害し有利な位置取りのために地形を操作する。

 ティムールの隠蔽の魔術は凍りついた過去にあるこの信念を用いる。巫師は冷気と氷へと囁く。氷河、特にドラゴンの残骸を含むものは最も神聖なる場所と考えられている。巫師は「雪解け」の儀式を行う。その中で巫師はその重い衣服を(儀式の頭飾りを残して)脱ぎ捨て、祖先に瞑想する。巫師が深い恍惚状態に入ると、その身体は輝き出し熱を発する。皮膚は紅潮し、周囲の大気はゆらめく。その巫師は氷へと沈み始め、氷の中で空気の泡に包まれた状態になる。融けた氷は頭上で再凍結し、巫師の頭飾りだけが亀の甲羅のように氷の上に残る。

 凍りついた記憶としばし交感した後、その巫師は氷の鞘をこじ開ける。二つのものが現れる――新たに覚醒した巫師と、彼/彼女を皮膚のように包む、かろうじて見ることができるほどに透明な氷でできた、その巫師の生き映し。その氷の双子は分かれ、見張りに立ち、低体温から瀕死の状態で震えながら素早く衣服を着るその巫師の命令を待つ。氷の双子は物理的にはその巫師に似ているが、その内にティムールの祖先の目覚めた記憶を有している。それは戦闘の際に突然砕けて内なる戦士の霊を解き放つことがある。戦いが終わると、覚醒した霊は霧と消え、凍りつく山へと戻って再び眠りにつく。

広がる囁き: 氏族の巫師長は距離に関わらず、他の巫師全てとともに霊的交渉の恍惚状態に入ることができる。これを通じて巫師長は情報をやり取りし、強力な召喚が必要な時には巫師全体を巻き込んで「広がる囁き」を導くことができる。それほどまでに強力な儀式はとても古い祖先を目覚めさせ、また強大なエレメンタルを呼び起こすことができる。

熊の覚醒: ティムールのある戦士達は「熊の覚醒」と呼ばれる戦いの憤怒状態に入ることができる。彼らはこれを、領土を共有するアイノクから学んだと考えられている。この状態では友も敵も区別不能となるため、仲間は「覚醒した熊」からは離れる。

アート:Svetlin Velinov

爪の試練: ティムールには伝統的な格闘戦が存在する。それは鬱憤を晴らし、互いの力を比べる両方の目的で行われる。冬の最も過酷な月の間、全ての家族が共用の退避所に集まる時、その儀式的な戦いは娯楽と、他の訓練が現実的でない時に戦いの型を忘れないためにしばしば行われる。

ティムールの伝説、「龍冬」:「『灰の包囲』の間のこと。かつて龍は太陽を汚すほどの数が飛んでいた。その年も次の年も夏は訪れず、氷は山から下りてきてあらゆる人間の都市を包囲した。多くの者が死んだが、我らティムールは適応した。だからこそ我らは今も雪の山に住まうのだ。龍たちが落ちた時、彼らは自身が造り出した氷に埋葬された。そしてそこで今もまどろみ続けている。」

氏族の構造

「放浪の熊」: ティムールは放浪の民である。彼らは家族の一団で旅をし、家畜を追いながら季節ごとに食物の豊富な地域に一時的に居座る。果実の低木が茂る雑木林、魚の豊富な小川など。これを彼らは敬愛する熊に例える。冬の最も過酷な月にのみ、彼らは放浪を中断する。

 放浪のティムールは必要な物資を全て持ち運ぶ。毛皮で縁どった上着、手袋、重い革のブーツは事実上、彼らが常に住まう家である。かき集めた皮からなる軽量の避難所が素早く組み立てたてられ、雨風を防ぐ。天幕の支えには容易に入手できるドラゴンの骨が用いられる。雪深い地域では、彼らはそりを活用して移動する。それらは衣服の包み、予備の武器、罠、乾燥食物、その他の糧食を運ぶ。他には彼らは背負い装具を用いる。また時折、信頼されているアイノクの戦士が彼らの糧食を運ぶ手助けをする。

一つの家族の中の多くの家族: ティムールの思想の中心にあるのは家族である。その重要度はアブザンのそれにほとんど等しい。家族内の絆と、家長への忠誠は外部の指導者へのそれよりもずっと強い。各家族は他の家族を、共同体の中での兄弟とみなし、同じように助け合う(とはいえその者自身の家族が常に優先である)。氏族の第一の父、もしくは母(現在は龍爪のスーラク)が全ての家族の親と考えられており、氏族の全員が両親に向けるものと同じようにカンへの忠節を負う。氏族の成年は皆手強い戦士であり、子供達も武器の扱いを小さいうちから学ぶ。赤子を連れた母親でさえも戦闘においては、もしかしたら何よりも獰猛な敵となる。彼女はその手に赤子を抱え、それを守るために絶え間なく戦う。巫師は時の中に凍りついた祖先との生ける絆として見られている。

アイノクの従兄弟: ティムールの民が山脈へと入った時、彼らはアイノクと名乗る、放浪する犬人の群れに遭遇した。数度の小競り合いの後、両者は互いの戦闘技術を尊敬し合うようになり、格式ばらない同盟が結ばれた。特に信頼されるアイノクは氏族の家族に加わる。彼らは家族の一員と考えられ、あらゆる権利を享受し(そしてあらゆる責任を負い)、役割を課せられる。他のアイノクはティムールと緩く繋がりを持つに過ぎないが、戦闘においては仲間として呼ばれる。

アート:Evan Shipard

 アイノクはいつでも、いかなる理由からも熱心に戦いに加わる。彼らはいつでも氏族の攻撃を率いる。人間がその頑健さを誇りにし、戦闘でなくともそれを競い合って地位を得るのに対し、アイノクは単純に食物を求める。彼らは武器を振るうが、戦いの熱の中では祖先の本能へと帰り、狂乱状態に入ってその力強い顎で敵を引き裂く。血に狂ったアイノクは倒れた敵の、血を流す生の肉を食らうことすらある。だがそのような振舞いは制御を失った厄介な状態と考えられている。その後、その状態に陥った者は通常羞恥とむかつきを感じ、謹慎してしばし身を清める。

 アイノクはまた儀式的な戦闘の伝統を持つ。それは戦闘訓練であり、弱すぎて群れに貢献できない者を選別する手段でもある。この試練に失敗したものは荒野に独り追放され、ほとんどが確実に死亡する。

孤立の巫師: ティムールの囁く者たちは時折「三つの運命の織り手」としても知られ、過去、現在(彼らはそれを「まさに今」と呼ぶ)、そして未来(「書かれざる今」と呼ぶ)に言及する。彼らは一般的なティムールよりも遥かに、時というものの継続的で重なり合う性質を意識している、彼らは過去を見て、それと同時に様々にありえた現在を見る。彼らは顔の上半分を完全に覆い隠す、巨大な頭飾りを身につけている。更に彼らはそこに彫られた骨、枝角、遺物といったもので作られた呪物や魔除けをぶら下げている。それらは巫師が囁きに集中する助けとなり、呪物が多いほど儀式も強力なものとなる。最年長の巫師の頭飾りはずっしりと飾られ、肩まで垂れ下がっている。

 彼らの目は決して見えることはなく、囁き、祖先とエレメンタルの霊へと耳を傾け、そして全ての時を見るという考えを象徴的に強めている。それは彼らが無力だということを意味しない。彼らは他者の助力無しに動き、周囲の状況を完璧に把握している。だが彼らが魔法的に視界を補助しているのか、視界以外の感覚によるものなのか、もしくは物理的な感受性によるものなのか、他者にはわからない。そして巫師がそれを自ら説明することはない。

アート:Tyler Jacobson

 顔を隠す頭飾りと全身を覆う重い衣服に隠され、既知の囁く者の性別は一見明白でない。それは彼らが祖先やエレメンタルの霊と交信するために恍惚状態に入った時にのみ明かされるが、巫師はそれを山脈の高地の隔離された場所にて全て、ただ独りで行う。囁く者達は生殖に興味を示さない。彼らは発見されるのであって生まれるのではない。ある子供が巫師としての才能を示すと、その子は巫師の間の秘密主義の保育所に引き取られ、一般の人々の中から世話人と護衛を招いて育てられる。

縁を切られたクルマー: 時折、アブザンの家族内で育てられたオークの孤児、クルマーが追放されることがある。この状況のクルマーは祖先の氏族マルドゥに戻ることは望まず、かつての人生をティムールの家族の絆に見出し、新たな目的意識を見つける。

氏族の役割

龍爪: これは戦闘の偉業を通じて授けられる、氏族の指導者の公的な称号である。だがそれは時折、儀式的な挑戦によって得られる、もしくは防衛される――通常は格闘技の試合によって。この称号は年齢や性別を問わず、誰でも得ることができる。

第一の父もしくは第一の母: 氏族の最高位の者は全氏族員の親と考えられている。常にではないが時折、現在の指導者スーラクのようにこの役割を龍爪が担う。第一の父/母は配偶者を持たないが、他の家族とともに旅をし宿営地を共にする。

二度囁く者: ティムールの巫師は通常、難解な存在であるが、この者は氏族の助言者として選ばれる。二度囁く者(一度は精霊に、一度は龍爪に)と呼ばれ、指導者とともに旅をし、孤独な瞑想ではなくその家族と共に人生を送り、氏族が最良の道を行くよう導く。この者は魔法的占術を通して集められた軍事情報を提供し、霊と交信し、将来起こりうる襲撃を警告し、狩りや略奪の最良の場所を予知し、大いなる必要の際には召喚された祖先の軍勢を率いる。必要の際には、二度囁く者は他の巫師と相談を行うために広がる囁きへと伝える。

 この地位は巫師が生きている間ずっと保持される。囁く者達はこの役職を巡って競争することはない。むしろそれは、霊と交信して時の問題を論じる純粋な人生を諦めることから、犠牲とみなされている。彼らは龍の喉の聖なる会合場所に集まる。

 各巫師はエレメンタルか祖先か、一つの霊に囁く。そして霊達は最も価値のある者を選択をする。報酬として、選ばれた者は他の巫師だけでなく、凍りつき眠る祖先達と(氷の双子として最初に具現化したもの以外と)交信することができる。

狩猟の統率者: この人物は氏族において食糧となる獣を追う役割を担い、各家族を特定の地域へと誘導する。彼/彼女はまた近隣の氏族(概してマルドゥ)への略奪を指揮し、糧食を手に入れる。狩猟の統率者の称号は誰もが持つことができるが、与えられるよりも大狩猟の夜の間に得ることが多い。最も多数の獣を持ち帰った狩人、最も手強い敵を仕留めた狩人が、翌年のその称号を得る。通常、狩猟の統率者は人間だが、アイノクが時折この地位を得ることもある。

ティムールの地滑り: ティムールが好む戦術は、地滑りと呼ばれる滑降の突撃で幕を開けるものである。戦士達は戦そりに乗って山腹を下る。戦そりは四つか六つの両手曲刀を取りつけた足場からなる。

 戦士達は滑降しながら槍や火矢を放つ。他の者は骨や牙、湾曲した龍爪から作られたバグナクのような手に装着する武器を振るう。敵との最初の激突の後、戦士達は跳び下り、そりを裏返し、剣を素早く手にして混乱へと突入する。龍爪の副官頭が通常、戦長の隣でその突撃を率いる。

氏族の重要人物

龍爪のスーラク: 龍爪はティムールのカンの称号であり、それは儀式的な挑戦で力を証明した者が手にする。スーラクの挑戦は、巨大な熊とそのねぐらで対するというもので、彼が恐るべき力でこの称号を手にしたことは時が経っても語られている。スーラクは龍爪の名を得た祖先達へと遠く遡る系統の出であり、彼もまたその強さと偉業で人々へと高くそびえている。

 スーラクは人々へと滅多に口を開かないが、その時は実用本位で刺々しい口調で話す。彼は不真面目な者達への忍耐は持たず、人々の生存の継続に貢献しないものは全て、資源の浪費とみなしている。

アート:Jaime Jones

「もし厳しい働きと順調な狩りで我らが人生を送るに十分でないなら、我らはすべき事をする。我が人々を守るために骨を砕かねばならないのであれば、砕いてみせよう。」

――龍爪のスーラク

狩猟の統率者、ニトゥラ: ニトゥラは三年前、二体のオーガの攻撃をただ一人で防いだ時にこの称号を手にした。そして年を経る毎に彼女はその能力を示し続けてきた。最近、彼女は狩りの季節の間ずっと末子を背負いながら、巨大な剣牙虎を倒した。

二度囁く者、チアヌル: チアヌルは五十歳程で、ティムールとしては年老いている(過酷な環境と、ほぼ常に戦争状態にあるため彼らの寿命は短い傾向にある)。彼はスーラクが龍爪の称号を得ると予見した「二度囁く者」であり、そして龍が隆盛して人間を導くという違う「今」を見てきた。サルカン・ヴォルは若い頃にチアヌルとしばしの時を過ごし、彼の幻視、声、ドラゴンの知識を学んだ。この年老いた巫師は近頃、広がる囁きを導いて「複数の『今』の弱点」と呼ぶものを明かした。彼はサルカンが、「今を癒す」儀式の助けとなる地を求め、彼の同行を求めると信じている。

裂け耳のバイヒール: このアイノクは多くの戦いを経験してきた古参兵であり、戦闘においては比較的に冷静なことで知られている。氏族を人間が支配していることについて彼女は憤りを隠し持っており、力を得てスーラクが倒れることを望んでいる。だが彼女は卑劣な政治的策略家ではなく、その野望は機会が訪れたなら行動に出ること以上には及んでいない。スーラクへと都合の良い偶然を装うのは彼女の流儀ではないが、彼を戦闘の危険の中に置くために彼を鼓舞している。彼女はならず者カーケルと縁故であり(そして一人の子供がおり)、両者はともに龍爪の転覆を求めている。

カーケル: 彼はアイノクの群れにおいて身体が小さく、大きく強い兄弟と競争できなかった。彼は見捨てられたが、諦めて死ぬのではなく、マルドゥのオークの宿営地へと向かった。オーク達は彼を「子犬」と呼んで喜び、飼い犬か何かのように傍に置いた。彼は成長し、オークの間で力をつけた。当初は彼らの狩りを手助けしていたが、その後、小競り合いの中で味方となった。彼は粘り強さと、腕力よりも悪知恵による戦いの技術を発達させ、その体格にかかわらず危険な戦士となった。彼はやがてオークの指導者を一対一の戦いで殺してその部族の支配を手にし、今や緩くマルドゥと同盟を結んでいる。彼と裂け耳のバイヒールは共にティムールの人間が力を減らし、スーラクが都合よく死んでくれる良い機会を探し求めている。

氏族のクリーチャー

: 遠い昔から今に至るまで、ティムールは熊と近しい関係を楽しんできた。その獣は彼らを戦闘へと運び、戦闘車を引く。彼らは家族の一員のようにみなされ、食べ物を贈るだけでなく儀式にて感謝が捧げられる。一般的に、熊は氏族とともに活動的に働いていない時には自由に振舞うが、龍爪の呼び声に応じて(二度囁く者を通じて)やって来る。

 これらの偉大な獣は巨大で、茶色い毛は深く、立った状態で肩まで十フィート、重さは一トンにもなる。彼らは洞窟やうろ穴に住まい、雑食だが、肉を好んで食らう。

エレメンタル: 風の民は雪と大気のエレメンタル的な存在であり、最も高い山にのみ見られる。彼らを目撃したことのある者はごく僅かで、また囁く者達だけが彼らと通じ合うことができる。彼らは冷気と風に耐性を持ち、そのため彼らは僅かな衣服しか纏わない――たいていは単純な腰巻だけである。髪の毛や髭の代わりに、彼らはどこかナマズの髭に似た動く触手を持つ。彼らは精神的感受性が高く、その触手で思考を読みとり、また巫師が言うには彼らは氷の中に今も眠る人間の祖先やドラゴンの夢を聞くことができる。

 風の民は孤独を好み、彼らの真意は簡単に推し量れない。彼らは時々ある地域に集まるが、そのような出現は重要な出来事の前兆とみなされる。時折彼らは戦にてティムールの助力に現れる。彼らは黙って戦い、終わったなら速やかに去る。何故彼らが来るのかは、囁く者達にさえ定かではない。風の民は召喚に応えているようには見えない。彼らが人間の巫師と話す時は、まったく手短で謎めいた言い回しを用いて、広がる囁きの中に長い議論の火をつける。

オーガとゴブリン: この残忍な二つの人型生物達は奇妙にも同類である。寒冷な気候に適応した両者は分厚く白い毛皮の首毛を発達させ、身体の熱を維持するために球形に近い姿をとる。

 ゴブリンは群れで動き、わずかな知性を持ち、鉤爪が届くものは何でも食らう。彼らは腐肉をあさるが、機会が訪れても大型の獲物をさらうことはできない(通常、重要な損失を伴う)。

アート:Kev Walker

 オーガは更に孤立した存在で、時折彼らはゴブリンの群れを率いて略奪を行う。ティムールは両者を、少ない資源を奪い合う害獣とみなし、容赦なく彼らを狩る。そのクリーチャーの固い皮と白い毛皮からは素晴らしいブーツが作られる。

氏族の重要地点

カラキク谷: ティムールでさえ、山脈の冬の総攻撃に耐えることはできない。彼らには二つの選択肢がある。低い標高へと下りるか――そして既にそこに住まう他の氏族との紛争になるか――もしくは彼らが模する熊のように、気候が変化するまで「冬眠」するか。彼らは戦いを恐れないが、良い理由なき戦いは単純にティムールの心へと訴えない。そのため一年で最も寒い二ヶ月の間、ある氷食谷へと放浪の家族が全て集合する。伝説によればその谷は「全ての龍の終焉」に、ある巨大なドラゴンが地面に落ちて形成されたのだという。その谷は山腹をすくい取られたような形状をしており、冬の強烈な風を避けることができる。そして降雪の多くを留めてくれる張り出した縁がある。氏族は旅の月の間に持ち運ぶ軽量の簡易住居とは対照的に、この地で冬を過ごすための頑丈な住居を築いてきた。これらの冬の避難所は山腹の洞窟の中に建てられ、谷の地面から回収したドラゴンの骨を組み合わせ、エレメンタルの魔術を用いて石を育て、水を凍らせて彫刻し、その他のもので一帯を快適な避難所とする。典型的な避難所は家族の一団を収容しても十分に大きく、各員が寄付した獣の皮が床に敷き詰められる。

 人々はこの季節の大半を寝て過ごし、身体の熱を保存し食糧の必要を最小限にする。また多くの物語りや、衣服と道具の手入れ及び製作に費やされる。カラキク谷に全ての家族が集まるこの期間に、彼らは氏族の様々な物事を扱うために共同体の話し合いを持つ。龍爪への挑戦もこの時に行われ、前回の集まり以降に生まれた子供達が正式に氏族へと紹介される。第一の父は、その特別な起源の証拠となる品を受け取る。

骨の階段: 冬の月を除いてティムールは時々、会戦の始まりを告げる龍爪の言葉を聞くために集まる。その知らせは広がる囁きを通して伝わり、多くの家族が丘の上に集まる。その峰は高くはないものの、円形の頂上は良い演壇となっており、斜面は比較的緩やかなために登るのはたやすく、また氏族の指導者が話す中、立ち座りも容易にできる。この場所はまた、多くの家族の狩猟場を繋ぐ中央に位置している。

 この場所の名は、大軍で襲撃してきたマルドゥの戦士達をティムールが壊滅させた、とある劇的な戦いから取られている。斜面を下る突撃また突撃の後、スーラクは戦士達を率いて侵入者に対抗し、丘を隙間無く覆うほどの屍の山を残した。まるで丘そのものが屍で作られたように見えるほどに。その戦いの終わりにスーラクは丘の頂上に立ち、ティムールは敵の骨の階段を昇ったと宣言した。かくしてその名がつけられた。

龍の喉: 山脈の奥深くに、高く曲がりくねった峡谷がある。それはかつて氷河を抱いていたが、吹きさらしになって長い時が過ぎた。ほぼ常にその谷を風が吹き抜け、風上の端は風下のそれよりも遥かに広い。その結果、谷にはドラゴンの声として知られる絶え間ない泣き叫ぶ声が響き渡る。ティムールの囁く者達はドラゴンの肋骨と頭蓋骨を骨組みに、食した動物の腱を弦に用いて巨大な竪琴に似た楽器を作り、この場所に設置した。風が通り抜ける時、その巨大な風竪琴は谷の歌に自身のそれを重ね、不気味な音楽は何マイルも遠くまで響く。巫師達は龍の喉の声に加わるとても強力な霊へと囁くためにこの場所にやって来る。

カル・シスマ: ティムールが居住する山脈は一つの山体というわけではない。この地域はむしろ、河に激しく侵食され、地震活動によって非常に高く隆起した台地と言った方が近い。その結果として孤立したぎざぎざの山頂と、深く皺が寄り、傷ついた――そこに住まう人々と同じように――風景が形成された。基盤岩の構造は古い花崗岩と、台地の多くを浅い海とともに覆っていた、間氷期に堆積した様々な厚い地層からなる。気候が再び寒冷化すると、水が退き地震活動は石化作用を加速させた。今やこの地域には石灰岩に覆われた洞窟が膨大な数で存在し、それらは崩落した岩で形成された奇観とともに時々避難所として活用され、もしくは巫術の崇拝と瞑想の場となる。


プレインズウォーカー

サルカン・ヴォル

 ドラゴンを崇拝するプレインズウォーカー、サルカン・ヴォルはタルキールの生まれである。その世界では彼が誕生する遥か以前に龍は絶滅した。その憤怒と捕食者としての威厳に取りつかれ、サルカンはその世界の古のドラゴンについてできる限り多くを学んだ。その頂点捕食者を崇拝する名うての巫師の一団に加わるために遠く旅もした。彼には戦闘の才能があり、マルドゥ族において戦士の地位を得ていたが、やがて戦場での些細な喧嘩に嫌気がさした。

アート:Daarken

 対抗氏族への一つの勝利の後、サルカンは人生が変わる経験をした。

「死して久しい龍の霊が彼の前に現れ、その心へと一つの呪文を囁き、永遠に消え去った。その呪文の詠唱とともに、炎からなる一体の巨大なドラゴンがサルカンの身体を通り過ぎ、戦いを侵略し、炎の奔流で戦場を吹き飛ばした。魂を奪われたように、サルカンは部下と敵が燃えがらと化すのを見た。それは彼がかつて見た何にも勝る、究極の憤怒と力の誇示だった。それは彼の内なる情熱を打ち、初めて命を得て燃え上がった。同時に、彼のプレインズウォーカーの灯もまた。」

――ダグ・ベイアー著 小説「Alara Unbroken」より

 以来、サルカンは次元から次元へと旅をし、人生を捧げるに値するドラゴンを探し求めた。アラーラ次元の断片ジャンドにて、彼はその地を暴虐的なヘルカイトやその他の強大なドラゴンが統べていることを知った。そしてその世界で、彼はドラゴンのプレインズウォーカー、ニコル・ボーラスへと忠節を捧げることを誓った。だがボーラスは嘆かわしいほどにドラゴンらしからぬ、悪辣で陰謀を企てる存在だった。サルカンはその隷属に幻滅して狂気へと堕ちた。そして彼は心の中の声、精霊龍ウギンのものと信じる声に導かれてタルキールへと帰還した。サルカンは狂気から自分の心を解放し、そしてニコル・ボーラスから自由になる方法を探し求めている。だが彼はすぐに、故郷の世界の歴史全てが彼に立ちはだかると知ることになるだろう。

アート:Volkan Baga

ソリン・マルコフ

 タルキールにはサルカンとその氏族の運命よりも差し迫ったものがある。多元宇宙の別の場所で、世界を貪る存在、エルドラージが目覚めて次元を食らい始めた。そしてそれらを止める鍵がタルキールに眠っている可能性がある。吸血鬼のプレインズウォーカー、ソリン・マルコフは数千年前、ゼンディカー次元へとエルドラージを封じ込めた三人のプレインズウォーカーの一人である――もう二人は石術師と精霊龍ウギン。またもやエルドラージが覚醒した今、ソリンはこのプレインズウォーカー達を再結集させる任務の途中にある。

アート:Cynthia Sheppard

 だが石術師の行方は知れず、そしてソリンは千年以上もウギンと遭遇していない。ウギンを追跡しようとする中、ソリンはその精霊龍が次元の生態系において重要な役割を果たしているタルキールを訪れた。

 運命はソリンが求める通りには行かないだろう。ウギンはタルキールの生まれであり、その次元の強力な魔術の源だが、かの龍は遥か昔に殺害されている。ウギンを倒したのは他ならぬニコル・ボーラス、彼は氷の裂け目にウギンを死ぬに任せた。ウギンが死亡し、石術師の行方が今も知れないとなれば、ソリンにエルドラージを再び封じる機会は無いかもしれない。

(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

アート:Viktor Titov

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