揺るぎなき、そして気高き者

更新日 Magic Story on 2015年 4月 22日

By Kelly Digges

Kelly Digges has had many roles at Wizards over the years, including creative text writer, R&D editor, website copyeditor, lead website editor, Serious Fun column author, and design/development team member on multiple sets.

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 サルカン・ヴォルは奇妙な旅路を歩んできた。そして理解を目指す彼の探索は終わりに近づいている。彼は時を遡る旅をし、過去を変え、彼の行動によって変容した現在へと帰還した。彼はかつての敵とかつての友に遭遇したが、彼らは誰もサルカンを覚えていなかった。彼はナーセットを探し求めている。その犠牲によって過去を変えることを可能にしてくれた彼女を、そしてタルキールの何処にも見つけられなかった彼女を。

 今、彼は理解の助けになってくれるかもしれない唯一の存在、千年以上の間面晶体の繭の中にまどろみ続けている、精霊龍ウギンを見つけなければならない。


 壮麗な飛行。サルカンは翼を伸ばし、タルキールの荒れ地と草原の空高くへと舞い上がった。龍の姿となって、彼は遥か遠くまでのあらゆる龍の匂いを感じ取ることができた。人間の目では見えない詳細までもを捉え、空の高くへと身体を持ち上げる上昇気流の存在を感じた。自分はそもそも人間だったのだろうか、何故龍になりたいなどと願ったのだろうか。龍の姿で彼は時折そう思った。

 ズルゴは生きていた。だが変わっていた。サルカンが憎んだ敵は死んだ――死んだ以上の変化だった。良くなったのか悪くなったのかはわからない。贖いや復讐といったものの向こうへ行ってしまった。あのズルゴは消失し、龍に従って鐘を鳴らす落ちぶれた存在に取って代わられた。足首裂きは生きていたが、違う名前、違う生き方をしていた。彼女は死んだのではなく生きていたが、彼のことを知らなかった。

 ウギンは生きている。だがサルカン自身の行動によって封じこまれ、眠りについている。彼の生命力は今も面晶体の牢獄の中心に脈打っており、龍たちを生み出す嵐を維持している。古えの時代の壮麗な巨龍たちもまた同じように生きており、栄誉あるその獣たちの頂点にて権勢を振るっている。

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平地》 アート:Florian de Gesincourt

 誰もが生きている、そう思えた、ただ二人を除いて。サルカン、そしてナーセット。彼女はどこに? 俺はどこに?ここ、時の大河の向こう岸にいる俺は今、何なのだろう?

 ウギンならば知っているだろう。知っている筈だ。

 彼の何マイルも前方にて――ウギンが横たわる峡谷の近く、そう思った――青白い光が一閃、空へと放たれた。それは歓喜に空を舞い、第二の太陽のように輝いた。そして再び降りたが、それが何処に着地したかサルカンには見えなかった。そんなことが? ウギンが……目覚めた? 何者かが彼を解き放った? 彼自身の力で自由になった?

 深くに埋もれた霊長類の本能が、彼をウギンの峡谷へと駆り立てた。急げ、走れと。だが空では直線は必ずしも最短経路ではない。そしてその間の空中も無とは程遠かった。彼はそれを知る龍の心へと耳を傾けることをついに学んだ。彼は旋回し、上昇気流に身を任せて高く昇った。

 その高みから、一本の長い直線が彼をその峡谷へ、真実へと導くだろう。


 太陽が頂点に達する頃、峡谷が視界に入ってきた。頭上の空は視界の外で、サルカンは攻撃者が直上に迫ってくるまで存在に気付かなかった。

 青白い煙をたなびかせる透明な龍が頭上から飛びかかってきた。彼はその間際に急転回して避けたが、熱の波が彼を洗い流した。燃えない炎が。ウギン! 熱の突風は彼の鱗の皮膚をほとんど焦がすことはなく、その透明な龍は彼に物理的に触れはしなかった。それは平静にだが威嚇するように、体長幾つかぶんの距離をとった。それは何の匂いも持たなかった。

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ウギンの末裔》 アート:Cliff Childs

 サルカンは唸り声を上げた。怒れる虎が発する騒音と、早口の龍詞のどこか中間のような声を。「俺の前からどけ」 彼はその言葉を中断するように鮮やかな炎を一吐きし、飛び続けた。

 すぐにもう数体の精霊が加わった。サルカンは峡谷へ向けて速度を上げた。半ダース程の透明な龍は透き通った炎の息を吐きながら、彼を急かした。そして、まさに突然、彼らは背を向けて雲の塊へと飛び込んだ。彼らの透明な身体は霧の中へと消えた。彼らの痕跡はただちに何も見えなくなった。

 彼は峡谷の上へ飛び、その透明な龍たちの兆候はないかと探した。彼が最初に到着した時に見た巨大な面晶体の構造は自壊しており、「目」から彼が持ち帰った欠片よりも細かい瓦礫と化していた。峡谷の地面は細かな塵と、魔法文字が刻まれた岩片で埋まっていた。屍も、骨もなかった。彼の龍の心臓が高鳴った。ウギンは生きている。

 サルカンは降下しながら変身し、面晶体の瓦礫の地面へと人間の足で軽やかに着地した。彼の翼も縮み、畳み込まれた。

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揺るぎないサルカン》 アート:Aleksi Briclot

 そこに、峡谷の終端に、一つの輝ける姿が翼を広げて聳えていた。ウギンはサルカンに顔を向けてはおらず、彼が遭遇したよりも多くの精霊の守り手に囲まれて、峡谷の壁に向かっていた。彼の目の前の岩壁に映されているのは、タルキール全土の様々な映像だった。高く聳える氏族の僧院の間を舞う、オジュタイの龍たちの滑らかで優美な姿。馬で草原を駆ける獰猛な軍族、彼らが追うのは稲妻にかすむ龍コラガン。宝石をまとい随員達を従え、湿った宮殿にくつろぐ太い身体の龍。むき出しの、蒸気を上げる山々に急降下する、サルカンが過去のタルキールで見た枝角の龍たち。武装を固めた人々が戦へと進軍するのを用心深く見守るのは、分厚い胴の龍たちの視線。そこには峡谷の中に立つ、サルカン自身の映像までもがあった。

 ウギンが振り返り、精霊の守り手達は分かれた。彼は鮮やかな輝きを放つ、肉体と霧から姿を成した、龍の理想形だった。

「我が見張り達を許して頂きたい」 ウギンは言った。「彼らは熱心すぎるのだ。おぬしに気付いてすぐに呼び戻したのだが」

「俺を……ご存知なんですか?」

 ウギンは微笑んだ。

「知っておるし、知らぬとも言える」 彼は言った。「おぬしの行いを知っておる。感謝をせねばならぬな。そしておぬしも、我に説明をせねばならぬであろう?」

 サルカンの目が見開かれた。

「偉大なるウギン……」 彼は言った。「俺はここに、貴方が全てを説明して下さると信じて来ました。貴方が御存じないことを、俺がどうして知っているというのですか? 俺が答えられる疑問なんて、あるでしょうか?」

「我は一千年以上、眠りについていた」 ウギンは言った。「おぬしはここで何が起こったかを真に理解する、唯一の存在かもしれぬ。おぬしは何者なのかね? 我が世界に何が起こったのかね? これは――」 彼が手を開くと、瓦礫の中から面晶体の破片が掌の上に浮かび上がった。ただの破片ではない――あの欠片、サルカンがウギンの目から持ち帰ったあの欠片が、この時を経てもなおそのまま残っていた。「――いかにして時を遡り、そして一千年以上前からここへと辿り着いたのかね?」

 サルカンは息を呑んだ。

「でしたら、何が起こったかはもうご存知なのですね」

「全てではないが」 ウギンは返答した。「理に適う道筋を」 欠片が脈打った。「これはゼンディカー、ウギンの目からもたらされたものだ。この特別な石は『目』の内からのもの、『目』が開いた時にのみ取り出せるものだ。そしてそれが、我が……敗北の前に起こったのであれば、我はすぐに気付いていた筈だ。多元宇宙にそれを防ぐことのできる力はないと知っておる。従って、それは後に起こったものに違いないのだと」

 ウギンは背筋を真っすぐに伸ばし、四十フィート上方からサルカンを見下ろした。

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精霊龍、ウギン》 アート:Raymond Swanland

「だが我が疑問は残っておる」 彼は言った。「おぬしは何者なのかね、プレインズウォーカーよ? そしていかにしてこの石を所有物としたのかね?」

「俺の名は、サルカン・ヴォルです」

 ヴォルは忘れられた名。サルカンは禁じられた名。だがそれは問題ではないだろう、今は。これが彼の名だった。

「サルカン」 ウギンが言った、僅かに可笑しさを込めて。偉大なるカン。彼はタルキール全土を映す、峡谷の岩壁を指し示した。「彼らは、おぬしに跪くのか?」

「……いいえ」 サルカンは言った。「ですが俺も、誰にも跪きません」

「続けよ」

「俺はタルキールの生まれです」 サルカンは言った。「ですが俺のタルキールは、墓でした――古のカン達に狩られ、滅ぼされた龍たちの墓所でした。ウギン、貴方も死んでいました。俺は貴方の骨を見ました、まさにこの峡谷で」

 ウギンは動じなかった。

「貴方が、俺に語りかけました」 サルカンは言った。「あなたの霊が……俺に語りかけました。龍たちの栄光を囁きました。俺がこの世界に疑っていたことは――退廃、過ち、欠落は――全てその通りだと語りました。貴方がプレインズウォーカーだとは知りませんでした。俺が知っていたのは、貴方が幽霊だったということだけです。俺自身のプレインズウォーカーの灯は炎の嵐の中に点火しました。俺がタルキールを離れると、貴方の声は静まりました。俺は龍たちを見つけました、尊敬を捧げるに相応しい、偉大なる獣を――ですが俺が出会ったのは少なからず自分達がそうであると知らない、もしくは気にすることもない龍たちでした。そして……そして俺は尊敬を歓迎する者を見つけ、愚かにもそいつの目的へと身を捧げました。そいつが、俺を『目』に送り込みました」

「それは何者かね?」 ウギンは言った。

「理解しておられる筈です」 サルカンは言った。「俺自身の心すら定かではありませんでした。あいつは俺が思ったような者ではなく、俺を壊し、思うがままに俺をねじ曲げました」

「その者の名は?」

「……ニコル・ボーラス」 サルカンは惨めに声を絞り出した。

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残酷な根本原理》 アート:Todd Lockwood

 ウギンは片手を挙げ、すると光輝く魔力の球が存在を弾けさせてサルカンを取り巻いた。彼はそれを押し返したが、それは滑らかで温かく、全く動く様子はなかった。ウギンの首筋の魔法文字が鮮やかに輝いた。

「ボーラスが、おぬしを『目』に?」 ウギンは言った。「なにゆえに?」

「あいつは……」 サルカンは口ごもり、狂気によじれた記憶を整理しようとした。「あいつはそれが開かれることを、世界を貪るものが放たれることを望んでいました。それが何故かを言うことはありませんでした」

 ウギンの首筋の襞が広げられた。

「あやつがエルドラージの解放を仕組んだのだとしたら、あやつは我が覚えているよりも遥かに迂闊な者だということか」

「あいつは力に取り憑かれています」 サルカンは言った。「自分はかつて神のごとき存在だった、そう聞かされました――ですが今はそうではない。その力を取り戻したがっています」

「では、おぬしは?」 ウギンが尋ねた。「何を求めるのだね、サルカン・ヴォル?」

「あの龍から、永遠に自由になることを」 サルカンは言った。「いつの日か、対価を払わせることを。俺にした事への、貴方にした事への」

 ウギンは鉤爪の片手を払い、魔力の球は消え去った。

「そしておぬしは『目』へと旅をした。そこに他の者達がいたのか?」

「はい」 サルカンは言った。「紅蓮術士が一人と、精神魔道士が一人。両方ともプレインズウォーカーでした。俺達は戦いました。紅蓮術士が俺を打ち負かしました……」 サルカンの内に理解が浸透した。「ウギン、貴方の炎で。どうしてかあの女は知っていました」

「興味深い」 ウギンは言った。「それでもおぬしは生きておるとは」

「あいつらは、俺と戦いたいとは然程思っていませんでした。俺が意識を失うとすぐに、あいつらは去りました。俺は目覚めると、再び貴方の声を聞きました。『目』は開いていました。俺は面晶体の欠片をボーラスへと持ち帰り、貴方が俺に語りかけていると伝えました。あいつは、かつて貴方を殺したと、そして何か、……封印の鍵のようなものについて言いました。そしてあいつは、俺を捨てました」

「そしておぬしは、ここにやって来たと?」

「ここへ。ですが、ここではありません」 サルカンは言った。「俺は自分のタルキールへ、カン達と龍の骨のタルキールへと戻りました。貴方の声は更に大きくなり、俺をこの峡谷に来るよう急かしました。俺はその峡谷へ……友人の助けを得て辿り着きました。貴方の死は、何か……時の中に渦を作り出して、その瞬間と現在を繋げました。俺は踏み出して、龍たちが滅びる前へと時を遡り、そして歴史の局面を一変させた。そして俺は自分がここにいるのに気付きました。まさにここに、俺自身の行動で変わった世界に」

「我が倒れた後、何が起こったかを知っておるか? 我は歴史を学ぶ時間は無かったのだ」

「多少でしたら」 サルカンは言った。「龍の嵐が止むことはありませんでした。龍種が滅びることはありませんでした。カンは凋落し、彼らに代わって五体の古龍が隆盛しました。龍王達は世界を支配する、正当な権威を主張しています。かつて氏族と龍が戦っていましたが、今や龍と氏族は一つです」

 ウギンは峡谷の岩壁へと顔を向け、龍と人々が共に戦う場面を見つめた。サルカンは顔をしかめた。ウギンは彼の導き手だった、腹心の友だった……彼が世界を変えた、そう信じる唯一の者だった。ウギンは知っていた。だがこのウギンは全知とは程遠かった。

「俺は貴方の質問に答えました」 サルカンが言った。「俺の質問にも答えてくれますか?」

 ウギンは再びサルカンへと顔を向け、頷いた。

「死んで、俺に語りかけ、俺をこの世界に呼び戻した……」 サルカンは言った。「本当に、それを何も覚えていないのですか?」

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苦しめる声》 アート:Volkan Baga

「我が最後に覚えているのは」 ウギンは言った。「ボーラスが我を倒した後の、おぬしと、おぬしが持つ面晶体の欠片。そして我は眠りについた。時は流れたが、どれほどかは判らなかった。我は眠り……癒された。我が盟友の一人、吸血鬼にしてプレインズウォーカーが我を目覚めさせ、『目での過ち』を語った。おぬしともう二人の存在、とはいえ彼がそれを知っていたのかどうか、我には判らぬ。ソリン・マルコフだ――知っておるか?」

 サルカンはかぶりを振った。混乱が支配した。頭の中の同行者はウギンではなかった……もしくは、このウギンではなかった。

「貴方でないとしたら、誰が?」 サルカンは尋ねた。「俺がここに来るのを助けてくれた友人は――彼女は、俺を助けて死にました。彼女は今どこに? 彼女は誰だったんですか? 誰なんですか? ウギン、俺のために、一つの世界がそっくり無くなりました。それに愛着はありませんが、それでも俺の故郷でした。そのタルキールは、一体何なんですか?」

「それはもはや存在しない」 ウギンは言った。「彼女はもはや存在しない。存在しないだけではない――おぬしが記憶している世界は決して存在しなかった。そしてその人々は全く異なる運命を辿った。『目』でおぬしに語りかけたのは、最も濃厚である可能性は、決して死ぬことのなかった何者かの霊だ。この地へおぬしとともに、おぬしを呼び寄せた霊だ。もしくは、ただの声かもしれぬ」

「異なる運命……」 サルカンは言った。「俺は、知っていた人々によく似た者達に会いました。友と、敵に。ですが彼らは俺のことを知りませんでした。まるで俺は生まれてこなかったかのように。だけど、そんな事がありえますか? もし俺が生まれてこなかったなら、俺は何処から来たんですか? 誰が『目』へ行ったんですか? 誰が貴方を救ったんですか?」

「それは、おぬしだ」 ウギンは言った。「『目』はおぬしの過去の中に、この面晶体の過去の中にある。おぬしはそこへ向かい、タルキールの過去へと旅をし、そしてその欠片を用いて我を救った。それは紛れも無く起こった出来事だ、そうでなければ変化そのものがありえなかった。我が死した時に起こった状況が何であろうと――我の霊がおぬしに時を遡らせたとしても――それはタルキールのみに影響する。つまりおぬし、サルカン・ヴォルは、その完全な姿で一つの影から、決して存在することのなかった場所から現れた」

「つまり、この世界の歴史に、俺は生まれてこなかったんですね」 サルカンは言った。理解が浸透した。「俺はある日、空から飛び降りてきた――一体の龍のように」

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龍の大嵐》 アート:Willian Murai

「そうなのであろうな」 ウギンは言った。

「ならば、俺は今、はぐれ者だということ」 サルカンは言って、微笑んだ。「時に置き去りにされた者。俺は取り憑かれていたのだとしても、狂っていたのだとしても、俺を導いた声は黙りました。俺の心は俺のもの、そしてタルキールは俺がずっと思い描いてきた世界です」

 彼は一歩下がった。

「俺の友人はもういないと貴方は言った。オジュタイの僧も同じことを。ですが俺は断言します、彼女は再び生きていると、見つけ出してみせると」

 彼は集中し、自身へとマナを引き寄せて内なる龍を目覚めさせた。今や、それは更に簡単なことだった。変身の度に簡単になっていった。龍の姿が弾け出た。

「感謝致します」 人間の口が消える前に彼はそう言い、そして空へと飛び上がった。

 峡谷は彼方に去り、氷の荒野が眼下に広がった。彼の知るナーセットは何よりも知識を追い求めていた。そしてその探求が彼女を、究極的に、ここに導いた――ウギンの峡谷へと。もしこの世界のナーセットが追放されたというのなら、異端の烙印を押されたなら……彼女は他の何処にいるというのだろう?

 彼は全速力で谷間の上へと達した――上昇気流に乗り、そして滑空した――鋭い目で、あらゆる動きの兆候を見つめた。ついに、空に太陽が低く浸る頃、彼は彼女が膝までの深さの雪の中を毅然として歩いているのを目にした。彼は地面にむき出しの岩へと降り、鱗を人の肌へと脱ぎ変えた。彼は杖を手にして立ち、そして待った。

 彼女の歩みはゆっくりだったが、彼の姿を目にすると、対面すべく方向を変えた。彼女は異なる姿に見えた。彼自身もそうなのだろうと思った。彼女の両眼は力を脈打たせていた。このナーセットは、別のナーセットがただ垣間見たにすぎない、何かに触れたのだ。

 彼女は彼から少し離れて立ち止まったが、黙っていた。

「ナーセット!」 彼は言った。「生きているんだな!」

 彼女は上から下までサルカンを見て、そしてその視線はついに彼の顔に定まった。彼女は瞬きをした。

「あなたのこと、知りません」 彼女は目をそらして言った。「そう、ですよね?」

「俺は、サルカンだ」 彼は言った。

「あなたが、あのサル-カン?」 彼女は言って、目を狭めた。「それとも、サル-カンの名前を騙ってる?」

「俺のことを知っているのか?」 サルカンは尋ねた。彼は笑い声を上げた。「なんて素晴らしいんだ! タルキール全てで、君だけが俺を知っているとは。だがどうやって?」

 彼女は動き、サルカンの周囲をぐるりと回ろうとした。

「私、ウギンを見つけないと」 彼女はそう言って、首を振った。

「彼は峡谷にいる」 サルカンは言った。「でも、彼は答えよりも多くの疑問を寄越すかもしれないな。ナーセット、君はどうやって俺を知ったんだ?」

 彼女は立ち止まった。

「あなたは……龍王様からの執行者じゃないの、異端の私を罰しにきた?」

「俺は誰のしもべでもない」 サルカンは言った。「俺は、君の友だ――もしくは、友だった。叶うなら、再びそうなりたい」

「友達」 ナーセットは言った、「でも、あなたと会ったことはない。どうして友達だったなんて?」

 サルカンは選択肢を推し量った……そして真実の方を決断した。それが、彼が作り上げられるであろうどんな嘘よりも、真実らしくないように聞こえようとも。

「俺の知るナーセットはタルキールに生まれた。だが、このタルキールじゃない。龍のいないタルキール――カンと、氏族のタルキールに。彼女は死に、それがあって俺は過去へ旅することができた――そして歴史を書き換えることができた。彼女は死に、それがあってウギンは――そして君は――生きている。彼女は、俺の友だった」

「じゃあ、歴史は本当なの」 ナーセットは言った。彼女の瞳は何かを読むように、素早くひらめき動いた。

「何の歴史だ?」

「秘密の歴史」 彼女は言った。「龍人の、サル-カンの、書かれざるものと呼ばれる何かから来た――ティムールと呼ばれた古の氏族が書いていた、未来の霊的な幻視。そこに、サル-カンは龍のいない世界のたわごとを喋っていたって書かれていた。彼はウギンを救って、そして書かれざるものに消えた。私はその歴史の細かい所は信じていない、でも……それなら、本当なの? 書かれざるもの。カン。全部?」

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過去に学ぶ》 アート:Chase Stone

「君が何を読んだのかはわからない」 サルカンは言った、微笑みながら。「だが、君が今言った事は全て真実だ。たわごとを喋っていたことも、多分な」

「だから、あなたについても知った」 ナーセットは言った。「でも、あなたも私については本当には知らない、そうでしょう? あなたが知っているのは……書かれざる何かのナーセット。まぼろし」

「俺も知らないと思う」 サルカンは言った。「そう、俺はナーセットを知っていた。だけど、君のことは知らない」

 ナーセットは顔をしかめた、言葉を探すように。

「あなたとは……親しかったの?」

「そうなっていたかもしれない、時間があったなら」 サルカンは言った。「だけど今、彼女は二度いなくなった――一度は死んだ。一度は生まれてこなかった。今ここにいるのは君だ。だけど、何処にいた? 俺はオジュタイで君を探した。俺が話をした男は君を異端者だと、『いない』と言った。追放されたってことなのか?」

 彼女はかぶりを振った。

「ううん」 彼女は言った。「何かもっと……凄いもの。狂ってるみたいに聞こえるかもしれない、でも私はタルキールの外へ旅をした。書かれたものなのか、書かれざるものなのか、どこか……」

「……どこか別の世界へ?」 サルカンは言った。

 ナーセットの両眼が見開かれた。

「なんで知ってるの?」

「プレインズウォーカー」 サルカンは言った。「俺達はそう呼ばれている。数はとても少ない。だけど君と俺と、ウギン。この峡谷に今いる三人は、そうだ」

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卓絶のナーセット》 アート:Magali Villeneuve

「ウギン」 ナーセットは言った。「その龍と話したいことがあるの」

 彼女は雪の中を再び歩き始め、彼から離れていった。

「そのほうがいいだろう」 サルカンは言った。「俺が彼に尋ねた時よりも多くの答えを君にくれると良いな。その後は?」

「アタルカの土地へ」 ナーセットは歩きながら言った。「噂では、そこには古の歴史がマンモスの象牙に刻まれているって。カンの凋落にまでずっと遡る歴史が」

「タルキールをまた離れることは考えていないのか?」 サルカンは尋ねた。「探検すべき多くの世界があるし、その全部を見ることすらできないくらいだ」

「いつか、そうすると思う」 肩越しに振り返ってナーセットは言った。「だけど、この世界にはまだ沢山の謎がある。今はまだ……私は、この世界にいたい」

 サルカンは微笑み、ツンドラの彼方へと目を向けた。遥か遠くに、龍たちが舞っていた。

「ああ。君が何を言いたいかは、よくわかっている」

(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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