狩人は憐れむなかれ

更新日 Magic Story on 2014年 7月 16日

By Jennifer Clarke-Wilkes

Jennifer came to Wizards of the Coast in 1995 as the editor for Ars Magic. She later moved to editing Magic: The Gathering until 1999, when she became an RPG editor. She has been involved with many games in the company, from writing world documents and flavor text, to playtesting various TCGs and board games, to occasionally trying her hand at RPG design. In January 2013, she returned to Magic, joining the creative team.

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 精鋭の審問官ヴロノスは銀の装飾が施されたクロスボウを構えて狙いを定めた。祝福を受けた矢が音とともに放たれると、それは呪われしものの心臓へ突き刺さり、血しぶきを上げた。その女性は音もなく倒れた。彼女の隣ではまだ歩きはじめたばかりの子供が泣いていた。その子は母親の動かない胸の上まで這っていった。その命の血は村のぬかるみと混ざりあっていた。

精鋭の審問官》 アート:Jana Schirmer & Johannes Voss

 その呪われた肉体とともに邪悪は死に、罪深き者たちは祝福されし眠りにつけるだろう。ヴロノスは命令を発した。何人かは最後の浄化のために村の広場へ屍を集めるように、また他の者は木と油を持ってくるようにと。

 だが同時に、子供達を救わなければならなかった。他の者が不愉快な仕事に向かう中、彼は一団を率いて、泣く赤子と、暗い瞳をした孤児達を冷たい両親の傍から、そして痩せこけた頬をした憤る若者達を、詰め込まれていた陰鬱な小屋から集めた。

 彼はその頑健な怪物殺しの部下の中でも、最も柔らかい声で最も温和な顔の者達を選んだ。多くはなかったが、徐々に彼らは震える子供達全員を連れてきた。疲れきった狩人達が彼らを近くの野営地へと導いた。その空は清めの炎に赤く輝いていた。

 不幸にも、そういった無辜の者達も「浄化」に苦しまなければならない。ヴロノスは遠い昔のあの夜を思い出し、心の痛みを感じた。油に炎が燃え上がり、揺れていた。焦げた木の、松脂の、そして血が沸騰する匂い。妹の、あぶくを立てるような絶叫。

 その炎は彼女の魂を清めてくれる、だからこそ彼女は祝福されし眠りにつくことができる。外套をまとった男女が彼に言い聞かせようとした。彼には理解できなかった。わからなかった。何故、その眠りがそんなにも辛いことなのか。

 彼はその者達によって、聖堂の保育所へと連れて行かれた。そこでは清められた者の子供達が、銀鷺騎士団によって育てられていた。心優しい、外套をまとった侍祭達が彼を労り、食事と衣服を与え、庭園で働くこと、動物の世話をすること、そして祈ることを教えた。彼らはそれら全てを、ほとんど言葉にすることなく教えてくれた。とはいえ修道女アリナは仕事をしながらも、故郷ステンシアの歌を口ずさんでいた。

 彼は成長すると、聖戦士となる訓練を受けた。あらゆる浄化の武器の訓練を受けた。世界を脅かす怪物について、あらゆる伝承を学んだ。厳しくあれと自身に言い聞かせた。


 村は清められたとはいえ、その地方に危険はまだ残っていた。ヴロノスは夜の監視を割り当て、だが同行者達の疲労から、時間はできるだけ短く、人数も可能な限り少なくした。無論、彼は最初の監視についた。

 彼は休む番になると、寝具に入るや否や眠りについた。

 ヴロノスは滅多に夢を見ることはなかった。だがその夜、彼のまどろみは獣じみた叫びと人間の悲鳴が混じり合った恐ろしい幻視に苛まれた。胸にひどく重い衝撃を受けた。彼はのたうち回り、うめき、そして燃えるような痛みに目を覚ました。今にも消えそうな炎の中、ヴロノスは見上げると、血に狂乱した獣と目が合った。それはうなり、彼の革製の上着に手をかけていた。その獣は彼の顔に噛みつき、額と頬から肉の一片を噛みちぎった。血がその口輪の周りに泡立っていた。

 ヴロノスは吼えて身体を起こし、怪物を蹴り飛ばした。自分の血で視界が赤く揺れていた。彼はその獣が手足を動かし、再度の攻撃の構えをする音を聞いた。だがヴロノスは剣の柄を握り、大きく弧を描いて切り上げた。刃が肉を切り裂いて震え、獣の重さは消え去った。

無慈悲な捕食者》 アート:Michael C. Hayes

 彼は跳ね起きると血まみれの顔を手で拭い、状況を把握しようとした。周囲には、彼の忠実なる部下たちの死体が散乱していた。それらは引き裂かれた寝具と混ざり合うように台無しにされていた。数人が、喉を裂かれて弱々しくうめいていた。不愉快な月明かりの中、毛を逆立て、背を曲げた狼のようなものが数人の戦士と鉤爪で戦い続けているのをヴロノスは見た。

 下を見ると、一人の少女が足元に倒れていた。彼女の肩は胸まで深くえぐられていた。その口元は血で汚れており、歯にはちぎれた肉片が今も引っかかっていた。

 ヴロノスは再び見上げた。それらは残忍な姿だったが大人の男よりも小さく、動きは不格好だった。彼の喉に吐き気がこみ上げた。

 無辜の者などいない。

 ヴロノスは言葉にならない叫びとともに、最も近くの獣へと突撃した。彼は刃でその首を切り裂き、生死を確かめることなく次の標的へと向かった。屍に満ちた戦場をつまづきながら進み、一閃ごとに一体を死体にしていった。怪物たちは吼え声を爆発させ、それは死にかけの兵士達の叫びと恐ろしい様相で混じり合った。群れが彼の方を向いた。ヴロノスはうなる子狼達の真中、ただ一人で立っていた。

 一体が彼の喉元へと飛びかかった。

 次に一体。

 そしてもう一体。

 世界は暗黒へと転じた。


秘儀の聖域》 アート:AnthonyAnthony Francisco

 ヴロノスは広い空間に立っていた。足元は冷たい金属、周囲はガラスだった。頭上には鉛色の雲が渦を巻き、だがその丸い切れ間から冷たい光が差し込み、その下を照らしていた。光は彼が立っているまさにその場所で淵となり、かすかな詠唱――もしくは祈り――がそこには絶えず満ちていた。

 ヴロノスは周囲を見渡した。円形の巨大な部屋の中、輝く人影が幾つも漂っていた。浮かんでは漂うそれらは見たこともない姿のものも、人間に近いものもあった。それら全ての顔に、金属が光っていた。

 頭髪のない、青い人影が彼の視界に入ってくると、それはヴロノスを無感情に睨み返した。年齢のわからない顔は繊細な銀の金属線で縁どられていた。首はなかった。よじれた金属がどのようにしてか、頭をその場所に固定していた。

 それは数秒の間、黙ったまま彼をじっと見ていたが、他の調査員の方を向いた。そして平坦な声で言った。「この標本は不完全だ。恐らく、変化の途中に損傷を受けたのだろう。調査対象からは削除すべきだ」

「それは、浄化されたという意味か?」 ヴロノスは可能な限り誇らしげに身体を起こして言った。彼は冷淡な顔を見渡した。「どのような基準で私の清純さを判断しているのだ?」

 青い顔をした者がその視線を彼に戻し、一度、二度、瞬きをした。「この者は能力を得たばかりだ。使えるかもしれない。このような存在はあの騎士以来だ」

アート:Chippy

 彼はプレインズウォーカーという存在について聞いたことは一度もなかった。それは彼のように、いかにしてか、隔てられた世界の間を、存在を構成する間を旅することができる者。だがこの、エーテル宣誓会と名乗る奇妙な学者たちは、そのような旅について長いこと研究してきた。彼らがエーテリウムと呼ぶ神秘的な金属が、生命と、あらゆる次元が浮かぶエネルギーの海とを強く結びつける、そう彼らは仮定していた。青い顔の者達、ヴィダルケンは、その肉体の結構な量に及ぶ部位を金属に置き換えることさえしていた。だが霊気の間を旅する秘密については、ヴロノスと同じように、彼らの知の及ばない所にあった。

 彼らはその神秘を解明する鍵を探し、アヴァシン教のあらゆる聖歌のように神聖な「二十三の書」を精読していた。だが彼らにとって、統制された状況下で真のプレインズウォーカーを調査する機会ほど貴重なものはなかった。ヴロノスは協力に同意したが、高い対価を要求した。知識を。彼は神聖なる書の中から幾つかの伝承を学んだ。奇妙な金属の基本的な性質と、失われて久しいその創造主について学んだ。そして彼ら、金属を身に付けた魔術師達の秘術の技を習った。彼は自身の損なわれた顔にエーテリウムをはめ込み、またその材料で金線の仮面を創造した。

 そういった訓練の間に、彼は次元を渡った。世界の間の猛烈に荒れた空間へ飛び込み、新たな地へと彼を導く安定した道を見つけることを学んだ。液体の炎が寄せては返す海岸をそぞろ歩き、星に触れるかと思うほどの高い峰に立った。無限に続く都市の街路を行ったり来たりした。様々に姿を変えることのできる奇妙な生物たちを見た。ドラゴンの燃えたつ息に驚嘆し、世界を覆う森に奇怪な獣を追いかけ、生きていると思しき宝石に触れた。

 そして彼は熱心な学者達へとそれを報告した――だが学んだ全てを伝えたわけではなかった。ヴロノスは貴重な知識を収集し、仮面の背後に、損なわれた顔とともにそれを蓄えた。金属と伝承とともに彼は次元渡りの技術を磨き、彼と同じような存在を、霊気の中に残したかすかな軌跡を追うことで追跡できるようになった。


 数ヶ月の研究と旅の後、彼は悔悟者として帰還した。彼はアヴァシン大聖堂の聖戦士の間にひざまずき、天使への祈りを捧げていた。彼はその罪から破門を、死さえも覚悟していた。

 だがアヴァシンはその瞳に無限の愛を溢れさせながら、頭を下げたヴロノスへとその輝かしい顔を向けた。彼女は傷ついた信徒の額に口付けをし、許しと理解の言葉を告げた。あの恐ろしい夜から初めて、ヴロノスの心は生の感情にうねった。そしてここまで心を動かされることも、それ以後は無かった。

 ヴロノスは彼女への奉仕を新たに、固く誓った。最も危険な探求を課すよう懇願した。自身の弱さが、必要とされる行いを決して妨げぬことを誓った。それがどれほど過酷であろうとも。アヴァシンは彼の傷ついた頬に一粒の清らかな涙を落とし、頷いた。


アヴァシンの仮面》 アート:James Paick

 彼の聖戦士達は皆、仮面を身に付けていた。その恐るべき狩人達の先頭には常にヴロノスの金線の容貌があった。怪物や無学な者達は彼を灰色の剣士と呼んだが、彼はそのような優雅な名にはそぐわない戦いぶりだった。だが研ぎ澄まされた刃で善の敵の心臓を切り裂くたびに、彼はその評判をありがたく思った。

 彼はついに、何故妹は死なねばならなかったのかを理解した。許しはしなかったが、必要を理解した。邪悪と戦い、心を鍛えた。狩人は憐むなかれ。

 ある朝、一人の戦天使が現れた。彼女は輝ける翼をヴロノスの上に広げ、剣を高く掲げた。

「仮面の者よ、我が淑女様からの伝言です。最も献身的なる信徒のみが成し遂げることのできる任務です。何よりも、そして最も危険な探求となるでしょう。この務めを終えよと大天使様は申されました。さすれば彼はその罪を赦された者に数えられるであろうと」


希望の天使アヴァシン》 アート:Jason Chan

 アヴァシンは天空に現れた新たな太陽のように、その聖堂の天井近くの宙にたたずんでいた。ヴロノスはその輝かしさに、直接目を向けられなかった。

 彼は低く頭を下げた。「大天使様、私にいかような任務を? どうか命令を御与え下さい」

「我が忠実なる狩人よ。このような任務にそなたを呼び寄せる必要のないことを願いました。ですが我が信徒達の中でも、これを成し遂げる力を持つのはそなただけなのです」

「私は貴女様に誓いを立てております。死へ赴くことも、それが命令とあらば。その誓いは今もここに。任務をお申しつけ下さい」

 天使の言葉には、悲しみの影がさしていた。「私を解放した力は、世界の強大なる邪悪をも解き放ちました。多くの悪魔が獄庫に捕らわれていました。私は逃げ出し、彼らを解き放つよりも牢獄の中に残ることを選んでいました。あの牢獄を解き放った邪悪なる者は、この世界に荒廃をもたらしました。ですが私自身と我が天使達、そして我らの信念が、それを浄化するでしょう」

「更に悪いことに、彼女が呪いを負わせた者は、そなたと同じように世界の間を旅することができる者です。呪いを解かれぬままでは、彼はデーモンへと変わってしまうでしょう。何よりも強いデーモンに――そして我が手の届かぬものに」

「ですがそなた、私が選びし者よ。そなたには他の信徒にできぬ事が、彼を追うことができます。その男、ガラクを見つけるのです。そして彼を我が聖堂へ。その者が自身の苦境を理解できる状況かどうかは定かではありません。もし来る意志がないのであれば、連れて来るのです。彼の呪われし力に打ち勝つためには、そなたはあらゆる手際と知識を必要とするでしょう」

「どうか私のために、そして苦境にある多くの世界のために。そしてそなたは誓約から解き放たれるでしょう」

 ヴロノスは立ち上がり、全身全霊を込めてアヴァシンを見つめようと努力した。「我が大天使様、私は誓約などなくとも、全力をもって貴女様にお仕え致します。私はこの任務をお受け致します。自由のためでなく、貴女様の浄化の務めを、それが行われるべき所へともたらすために」

 アヴァシンの周囲に、鐘のような声で歌う天使の群れが現れた。大聖堂の薄暗い天井に輝かしい陽の光が爆発した。そして彫刻で飾られた扉から出てゆくヴロノスへと、長く鋭い影が投げかけられた。


アート:Brad Rigney

 その男、ガラクは、とても人間とは思えなかった。筋肉の巨大な塊で、汗と古い血の悪臭を放っていた。その顔は傷だらけの錆びた兜と粗野にもつれた髪に隠されていた。彼がその巨大な斧を掲げると、堕落の悪臭が大気を汚した。

「止まれ、呪われしものよ!」 ヴロノスは叫んだ。「お前は理解の及ばない邪悪に汚されている。武器を下ろし、私とともにアヴァシン様の癒し手のもとへ行くのだ」

 その粗暴者は獣のように吼え、斧を振るった。ヴロノスはその重い刃を細いレイピアで受け流すことはせずに下がった。彼はクロスボウを構え、抑制の魔法を呟くと矢を放った。

 ガラクは容易くそれを空中で叩き落とした。投げるような動きとともに、彼は一体の唸る熊を実体化させた。それはヴロノスへと跳びかかった。彼は輝く刺付きの鉄球を取り出してその獣を叩いた。息切れしながら力を使い、彼も金属の怪物を呼び出した。

 その争いに更なる野生の生物が加わり、ヴロノスはエーテリウムの下僕で応じた。だがガラクはその汚れた自然魔術の怒りに燃え、更に巨大化し、更に獰猛になった。ヴロノスは倒れたもの達の残骸から新たな防御用の下僕を創造したが、戦いは劣勢だとわかっていた。

 ヴロノスは手を掲げ、絶望的に呪文を唱えた。だが彼がその言葉を言い終える前に、斧の頭が彼の肩に突き刺さった。ガラクは単純にその武器を投げつけたのだった。ヴロノスは膝をつき、血の流れる傷を掴んだ。素早く手当てをしなければ、致命傷になるのは明らかだった。

 ヴロノスは虚空へと逃走した、敵の吼える悪態だけがついてきた。彼はかつて身を隠したことのある洞窟の入り口へと辿り着いた。そこに置いていた枝と葉と草の寝具は乱されていなかった。ヴロノスはその心休まる場所に這って入り、薬草の蓄えを探した。手が乾いた葉を掴むと、彼は感謝の短い祈りを囁いた。彼は素早くそれらを噛んで湿布とし、傷に塗りつけた。横になると、暗黒が彼を連れて行った。


 ヴロノスは審問司祭達に頼りすぎていたと自覚した。ひとたび幾らかの体力を取り戻したなら、寺院へと戻る必要があるだろう。その傷は完全に治すには彼の能力を越えていた。そしてあの怪物、ガラクと再び対峙する前に、幾らかの時間をかけて戦場での基本的な治癒術を学ぼうと考えた。

 だが今はまだしばし、身体を休めて回復しなければいけなかった。そしてそれには食物が要る。水を得るのは難しくないが、少しの果実を漁ってでもどうにかエネルギーを摂らなければいけなかった。

 彼の意識は目覚めては途切れた。心臓の鼓動とともに傷の痛みも脈打っていた。

 太陽が沈んだ。大気は憂鬱な藍色になった。静かな薄暮に、ツグミの声が流れた。そして、一体の雌鹿が百フィートも離れていない木立へと踏み入った。

 その雌鹿は星明りの斑模様を映していた。風の匂いを嗅ごうと顔を上げたその、黒く澄んだ瞳に月が映った。美しく、無垢だった。だが狩人は憐れむなかれ。ヴロノスはゆっくりとクロスボウを構えた。

 雌鹿は耳を動かし、歩き出した。矢の狙いは正確だった。雌鹿が逃げようと向きを変えた瞬間、その矢は首に突き刺さった。数歩よろめいた後、雌鹿は倒れた。その瞳から光が消え、黒いガラスとなった。

 ヴロノスは這い出し、森の倒れた生物へと向かった。その雌鹿の屍へと辿り着くまでに、何時間もかかったように思えた。彼は今一度感謝の祈りを捧げると、まだ温かい肉から矢を引き抜いた。

 突然、枝を踏み折る音と、重い足音がした。ヴロノスは顔を上げて、月がそびえ立つ人影に覆い隠されるを見た。二つの陰鬱な紫の光が、その怪物の兜から睨みつけていた。それは斧を持ち上げた。「言った筈だ、俺からは隠れられないと」

 斧が音を立てて振り下ろされた。ヴロノスはうつむいた。

 狩人は憐れむなかれ。

(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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