神河物語プレビュー第1週にようこそ! いよいよ秋に登場する新大型エキスパンションのヴェールが上がる時だ。そして、もちろんセット初のカードのプレビューもね。ここでやるんだよ。最後までにはね。まあ、私には君達がいますぐ画面をスクロールすることを止められるわけじゃないけど、私の説得力に意義があるんなら、私は(いつも通り)文章を普通に読むまで待って欲しいね。その後だと、カードがより面白くなるよ。

 さて、神河物語の最初のコラムの始まりだ。どこから始めようか? ああ、そうそう、ボーグだ。まあ聞いて欲しい。君がスタートレック:ザ・ネクスト・ジェネレーションに詳しくないほんの数人のうちの一人だったときのために、まずは歴史を語ろうかと思う。オリジナルのスタートレック(宇宙大作戦)は 1960 年代に放送された。そして 1980 年代に、パラマウント社が(旧作の映画化がヒットしたことに後押しされる形で)テレビでのシリーズ再開を決めたんだ。スタートレックでは、惑星連邦の昔ながらの仇敵はクリンゴン帝国だ。しかし、スタートレックのよき伝統に、昨日の敵は今日の友(まあ、一応は)ということがあり、これはクリンゴン人のウォーフが宇宙船の保安部長をやっていた(確かに彼は最初は保安部長じゃなかったけど、ナターシャ・ヤーはとにかくそういうことだったろ? ——おそらく彼女は “かつてのエンタープライズ号” としての価値しかないんだろうね)。

 これはつまり、ネクスト・ジェネレーションの作家陣は、エンタープライズ号の乗組員のための新たな敵役を考えなきゃいけないことを意味する。彼らはこれまでとまったく違う方法で、新たな敵を模索した。彼らはボーグという、単一の存在として機能する種族を生み出したんだ。その種族には個性がない (色にするなら白かな?)。ボーグは他の生命体や文化を学習するため。、あらゆる種族を吸収していくんだ (たぶん青とか黒でもあるね)。その種族まったく話し合いに応じないので、連邦も理を解くことができない。そして、ボーグにはもう一つ、非常に興味深い特性がある。集団として、彼らは一瞬にして学び反応することが可能なんだ。つまり、連邦が加えたあらゆる攻撃は、使われた瞬間に解析されて無効化されてしまうのさ。となれば、エンタープライズ号がボーグと闘うには、すべての攻撃を独自の物にしなくちゃいけなくなる。同じトリックは二度使えないのさ。

 これがすばらしきスタートレックの敵役の歴史だ。じゃあ、これが神河物語とどう関係があるんだろうか? この話はしなかったろうか? 話が横道にそれて、元に戻れなくなったことがあっただろうか? (そうしようと思ったことはあったけど、ライターとしての心が許さなかったよ。) 私がボーグを持ち出したのは、そこに重要な共通点があるからだ。ボーグと戦うことに似ているもう一つのことはなんだと思う? マジックのセットのデザインさ。ご存知の通り、各セットには新たなトリックを見つけてこなくちゃいけない。しかし、一度そのトリックを見てしまったら、もうそれはトリックじゃなくなるんだ。各セットには、君たちを楽しませる新たな方法が無くちゃいけない。それぞれの“攻撃”は独自のものじゃなくちゃいけないのさ (待てよ。私はマジックのプレイヤー基盤をボーグと比べたことは無かったっけ? 来週は、君たちがなぜシス卿に似ているかを説明する予定だよ)。そんなわけで、神河物語に話がつながるんだ (ようやくね)。

イメージの一年

 一年半ほど前のある日、マジックのヘッド・デザイナーのビル・ローズ(ああ、確かに今はこの肩書きは私のものだけど、我々はこの仕事を一年以上前からやってて、最初に神河物語が作られたとき、ビルはまだマジックのデザインの責任者だったんだ)は、この問題と向かい合っていた。どうすれば、これまでのマジックに無かったやり方で、この神河物語(当時はアースと呼ばれていたーーその後がウィンドとファイヤーだ)を大衆にウケさせることができるだろうか?これが、ビルが新しい種類の“攻撃”を考え始めた時だ。

 インベイジョンのブロックから始まって、マジックのデザインチームはセットを作り上げるための道具としてテーマを使い始めている。テーマは長年にわたって有効だったので、今回も同じアプローチで行こうとしたのさ。ゲームのメカニズム的な側面を取り上げ、その選んだ側面に関する事項を作り上げる方法だね。インベイジョンは多色がメインで、プレイヤーにできるだけ多くの色を使ってもらおうとした。見たとおり、色が中心事項だね。次はオデッセイブロックで、こいつは墓地にご熱心だった。このブロックでは、プレイヤーはそれぞれの墓地の中身に非常に気をつけなくちゃいけなかった。そんなわけで、もちろん、墓地が中心事項だ。その次がオンスロートブロックの部族関連で、次のミラディンのアーティファクト関連へと続く。

 で、ビルは考えた。テーマが少し真面目すぎるようになってきたんじゃないだろうか? 「こうしやがれ」って声高に叫ぶテーマじゃないものを作ることはできないだろうか? そして、ビルは思いついた。どうしてテーマがメカニズムに直結してなくちゃいけないんだろうか? 一番最初のエキスパンションであるアラビアン・ナイトのページをめくれば、これは現実世界のイメージを元に作ったものじゃないか? ただ、現実の世界を丸まんまコピーするんじゃなく、我々は自分自身で作った世界を、我々が飛び込むための現実の世界とすることになるんだ。問題は、どの世界にすべきかだ。そして、どうすれば自分たち独自のものとなるのだろうか?

我らチーム

 ビルはアースのデザインチームを作ることから始めた。

ブライアン・ティンズマン(リーダー)

 私が最初にブライアンの話をしたのは、ジャッジメントのデザインチームの件のときだ。当時の私は、彼が開発部にとってどれだけの期待の新星であるかを語っていたと思う。今やブライアンは立派な星で、デザイナーとして自分の意見を言えるようになってきた。ブライアンは直感的な反応の大ファンだ。彼はプレイヤーとしての感情的なインパクトを持ってデザインするのが好きだ。彼はプレイヤーがパックを開けるとき、カードを見てそれらに「かっこいい!」って言って欲しいのさ。

 そんなわけで、ブライアンは開発部でも最も“トップダウン”(いわゆるイメージ先行)型のデザイナーだ。となれば、イメージをテーマとしたセットの責任者として、他に誰が適任となるだろうか? ブライアンはこれまで小型セット(ジャッジメントとスカージ)のデザインチームでやってきたことはあったけど、大型エキスパンションのリーダーをやるのは初めてだ。そしてブライアンも知ることになるんだけど、(本質的にブロック全体を決定付ける)大型セットは全然違うものだったんだ。

ビル・ローズ

 これは非常に革新的な考えだ。となれば、ビルがそのプロジェクトに近い位置にいるというのは良いアイデアだろう。さらに、ビルはインベイジョン以来、大型セットのデザインに関わっていなかった(当時、彼はリーダーだった)。それはそれとして、このデザインは面白そうだ。

 ビル・ローズの何たるかを知らない人のために言っておくと、彼は現在の開発部の副部長で、かつてのマジックのヘッド・デザイナーだ。その遥か昔、彼はオリジナルのマジックの製作を手伝ったプレイテスターの一人だった。それ以来、ビルはミラージュ以降のほとんどすべてのデザインに何らかの関わりを持っている。

マイク・エリオット

 マイクのマジックのデザインに対する影響を考えれば、それに比べて彼の名前が人々にそんなに知られていないのは妙な話だろう。マイクは開発部の誰よりもデザインチームに関わってきている。さらに言えば、彼は開発部の誰よりも大型セットのデザインチームに参加している(マイクはテンペスト以降、唯一オデッセイを除くすべての大型エキスパンションのデザインに参加している)。なので、デザインチームに大物打者が欲しければ、マイクがその役を担うだろう。

ブレイディ・ドマーマス

 イメージを基本としたセットをデザインしたければ、クリエイティブチームのメンバーをデザインチームに加えることは問題にはならないだろう。この段階では、ブレイディはマジックのデザインチームに参加したことはなかったけど、アースはその任にぴったりだろう。

現実の世界

 チームの最初の仕事は、どの現実世界を発想の元とするかを決めることだった。そこで彼らは、思いつく限りの地球上のあらゆる神話を調べ上げた。様々な世界が、様々な理由で除かれていった。あるグループ(ギリシャやローマ)は、普通のマジックの演目と内容が似すぎていた。別なグループ(アラビア、北欧、アフリカ神話など)は、これまでのセットでその文化に触れていたことを理由に排除された。第三のグループ(ネイティブ・アメリカンやインカ)は、例えば特定の種族が使用できる能力などの点で、マジックのセットにはちょっと向いていなかった。そして最後に残った勝者が日本だったんだ。それは非常にイメージに満ちていて、我々のこれまでのものと主題的に似ておらず、伝統的なマジックのセットに必要とされる物に適応させるのに十分な内容的近さを持っていた。

 しかし、特定の世界を選ぶことはあくまで始まりに過ぎない。チームが元になる現実世界を選んだら、次に始まるのは調査だ。クリエイティブチームは、毎年世界を作り上げるのが仕事だ。その制限は、チームが興味深い世界を作り上げることという、ただそれだけなんだ。しかしアースにおいては、このことはすなわち現存する文化からエッセンスを引っ張ってきた世界を作り上げることを意味する。世界の創造は、日本の文化の注意深い研究と組み合わせていかなくちゃいけない。この仕事における大きな助けとなったのは、日本の市場で働くウィザーズ社の社員や契約関係者たちだ。

 この時点では、メカニズムに関してはほんの少ししか進められていなかった。チームはまず世界のイメージを掴み、そこから出てくるメカニズムを作ろうとしたのだ。デザインチームは時間をかけて、これまでのメカニズムの中でイメージとよく結びついたものを研究した。数週間の検討の結果、一つのメカニズムが傑出してイメージ基準のセットにぴったりなのが明らかになったんだーーそれがレジェンドだ!

我々においてのレジェンド

Lin Sivvi, Defiant Hero旧レジェンド・ルールでは、運に偏りすぎることが問題だった。

 しかしそこには問題があった。開発部は“レジェンド・ルール”に関していつでも気にしていることがあったんだ。ほとんどの開発部の面々は、それがゲームの運の要素を拡大し、その結果多くのレジェンド(特に軽いもの)がトーナメントでほとんど使われないという事実を把握していた。しかし、そこに新しいレジェンド・ルールの提案が、もっとも想像外のところから出てきた。我々はそいつを気に入ったんだ (新しいレジェンド・ルールの歴史に関しては、来週の「最新開発事情」(Latest Developments)を参照のこと)。

 その答えは単純で、セットの焦点をレジェンドにあてることを可能にし、その焦点を新しいレジェンド・ルールの導入の推進力とすることを可能にしたのさ。で、そうしたわけだ。話が先に行く前に、まずは新しいルールを説明しておくべきだろうね。神河物語以降のマジックにおける伝説のクリーチャー(彼らは今後はレジェンドのクリーチャー・タイプを持たず、“伝説の”の特殊タイプを持つ)のルールはこうだ。伝説のパーマネントが場に出たら、それは場の同じ名前のものを、自分自身も含めすべて破壊する (正確には、これらは “ルールによって墓地に置かれる”)。つまり、相手が伝説のクリーチャーを出して殴って来ていても、君の手札の同じカードが手札の中で腐ることは無いんだ。第二の伝説のクリーチャーは、最初のを無効化するのさ。

 デザインチームはレジェンドに対する興味にこだわり、その結果の興味深いメカニズムがクリエイティブチームに渡された(ブレイディがすでにチームをかぶっている点もお忘れなく)。これはクリエイティブチームにとっては挑戦だったね。レジェンドでいっぱいの世界をどう作るのか?(デザインチームは神河ブロックを、君も追々見ることになるけど、歴代最高レベルのレジェンドの集大成にしたかったんだ。) 英雄たちが前面に押し出されるような大きな出来事とは何か? おそらく何らかの戦争だろう。

 しかし、マジックにはこれまでも数多くの戦争があった。どうすればそれを日本的にできるだろうか? その答えは、精霊の中にあった。ご存知の通り、日本の神話は精霊世界に深く関わっている。戦争を単なる二つの種族間のものにするのではなく、全種族と精霊の間のものにしてはどうだろうか? こいつは面白そうだね。

そんなスピリット

 クリエイティブチームが精霊対人類の戦争を肉付けしている間、デザインチームはその精霊との戦争のエッセンスをどうメカニズムと結びつけるかを検討し始めていた。例えば、精霊が自分たちの魔法を持っているとしたらどうだろう? 精霊自身が、通常のクリーチャーと異なる特性を持っているとしたらどうだろう? 人類にも精霊と闘う独自のやり方があるとしたらどうだろう?

 それぞれのステップにおいて、デザインチームは世界にインスピレーションを求めた。そして、ここで興味深いことが起こった。あることが懸案となっていたが、それはこれまでのセットのテーマほど決まりきったことじゃなかったんだ。神河物語は間違いなくゲームのある面に影響を与えていたけど、それはこれまで我々がやらなかったことと繋がっていたのさ。その繋がりは世界を基準としていて、その世界も誰もが見たことの無いものだった。

 神河ブロックの目的について余談を一段落ほど語るには良いタイミングだろう。考え方の元になっているのは、このブロックは現実世界の文化をそのまま真似ることじゃなく、それを独自のマジックの世界を作るためのステップとすることにある。そしてカードを見てもらえば、このセットには新しい、それでいて全体的にはマジックである何かが中心にあるのに気付くだろう。我々はマジックを日本に合わせたんじゃなく、日本をマジックに合わせたのさ。君がミラディンやラースやファイレクシアと同じぐらい、この世界に興奮してくれることを、私は自信を持って言えるね。

 今後数週間に渡って、私は色々なメカニズムと、それがどう作り上げられたかについて詳細を語っていこうと思う。今週のポイントは、全体の起源がどう違っていたかを説明することだね。

私のドラゴンを引きずらないで

我々はマジックを日本に合わせたんじゃなく、日本をマジックに合わせたのさ。

 さて、いよいよ最初のプレビューカードのお目見えだ。デザインチームが徹底したレジェンドをテーマにすえた時、すぐに伝説のドラゴンのサイクルを入れなくちゃいけないことが明らかになった (何よりも、これまでレジェンドとインベイジョンの二回しかそれをやってないんだしね)。しかしブレイディは、日本の神話におけるドラゴンは、非常に精霊的であることを指摘してきた。我々が精霊との戦争を取り上げる計画があるなら、ドラゴンは精霊側にいなくちゃいけない。そこにデザインチームとともに編集を訪れ、こんな率直な質問をした。「『伝説のクリーチャー — ドラゴン・スピリット』って表記は、カードのタイプ行に収まるかい?」

 その答が「イエス」だったことが確認された後、チームはドラゴンのサイクルに関する面白いメカニズムを考え始めた。彼らはこんな質問を自分たちにした。プレイヤーはドラゴンで何がしたいのだろうか? 答えは簡単だーーそいつで殴りたいのさ。しかし、レジェンドインベイジョンの伝説のドラゴンのサイクルは、クリーチャーがダメージを与えた時に起こる効果でそれを使っていた(レジェンドの場合はそういうのもあった程度だったけど)。

 そこでデザインチームは別な質問をした。プレイヤーがドラゴンを使っていて、もっとも嫌なことはなんだろう? この答えも明らかだーーいっぱいいっぱいマナを使ってクリーチャーを出して、そいつが2マナ呪文で打ち落とされるのを見ることだ。それじゃ、チームはこの点をどう補うのか? クリーチャーを死にづらくするんだろうか? いや、それは別な(デザイン時には“ザ・ゴッド”の名で呼ばれていた)サイクルですでに使っている。その時、創意にあふれたアイデアが出た。破壊されたドラゴンが強い能力を誘発するのはどうだろうか? 相手のドラゴンを倒すことと、相手のドラゴンと向き合うことが、同じぐらいに大変なことだったらどうだろうか? こいつを出すことで、対戦相手がどっちにせよ負けな状況に追い込まれるとしたらどうだろうか?

 チームはこのアイデアを気に入った。チームは 5/5 で飛行のドラゴンを作り、それに「このカードが場から墓地に置かれたとき」の誘発型能力をつけた。それも強いやつだ。めちゃくちゃ強いやつだよ。他の色は簡単だったけど、白が一番難しかった。ご存知の通り、開発部は色の分割に関するバランスを調整しつづけている。新しい白の領域において、ドラゴンが死んだ時にどんな壊滅的なことができるだろうか? そして、《明けの星、陽星/Yosei, the Morning Star》が生まれたんだ。

ご覧の通り、このカードは非常に強力だよ。

イメージてんこ盛り

 今後何週間かにわたって、我々の新しい添削がどうメカニズムと結びついたかの旅を紹介していこうと思う。しかし今日のところは、このブロックがちょっと違ったものになりそうだということをわかっていて欲しい。まだまだこのページにご注目を。お楽しみは始まったばかりだ。

 来週は、秘儀にまつわる話をしようと思う。

 それまでの間、あなたが知らない世界への道筋を発見することを祈念しつつ。

 マーク・ローズウォーター