献身の作り方 その2
先週、『ラヴニカの献身』のプレビューを始め、シミックとオルゾフの話を終えた。今日は、他の3つのギルド、つまりグルール、ラクドス、アゾリウスの話をしようと思う。展望デザインが提出したギルド・メカニズムはどのようなもので、その後それぞれのギルドで最終的にどのようなものになったのかを語っていく。先週同様、ギルドを並べる時の通常の順番とは逆の順番で進めていこう。その中で、諸君にお見せするプレビュー・カードも準備してある。それでは始めよう。
グルール
全ギルドの中で、グルールはおそらく最も直截的なギルドである。クリーチャーをプレイして攻撃するだけだ。このギルドは、次第に大きなクリーチャーへと広がり(赤と緑はマナ加速が最も得意な2色である)、攻撃的な獣で対戦相手の戦力を圧倒することで勝利するミッドレンジ・デッキになることが多い。初代『ラヴニカ』ブロックでは、グルールには、そのターンに対戦相手にダメージを与えていたら新しく出てくるクリーチャーが強化される狂喜メカニズムがあった。『ラヴニカへの回帰』ブロックでは、特定のクリーチャーを捨てることで戦場にある自軍のクリーチャーの1体を強化できる呪文として使う湧血メカニズムがあった。つまり、グルールには、クリーチャーと戦闘を主眼にしたものが必要だということになる。
我々は既存のメカニズムの中でグルールで使えるものについても議論したが、何か新しいものを掘り下げることに決定した。我々はさまざまなメカニズムを試し、我々の望む形でグルールを表していてプレイ感もよかったものは1つもなかった。最終的に、我々は本当に気に入るものを見つけたのだ。それは、クリーチャーが持つメカニズムで、ダメージを受けた時に誘発し、さまざまな呪文効果を持つのだ。グルールに大量に存在する大型クリーチャーで最もうまく働き、攻撃することを推奨するので、グルールにまさにふさわしいものだと考えられた。しかし、それは大型の攻撃的なクリーチャーに完璧なメカニズムで、『イクサラン』のデベロップ・チームも並行デザインによって恐竜のために作っていたのだ。諸君もよく知る、激昂である。
開発部内の規則で、デザインが先行しているセットが新カードやメカニズムの優先権を持つことになっているので、『イクサラン』はそれを主張し、我々は何か新しいものを探すことになった。(そのカードやデザインが後発のセットにとって特に重要な場合は例外である。)『イクサラン』も手がけていたので、私も恐竜はデザインするのが難しいグループであるということはわかっていた。そして『イクサラン』チームが使えるものを見つけたことは嬉しかったのだ。自分が手がけているセットの目標を満たすものを諦めなければならないのは残念なことだが、協調処理の中では、商品全体の大義のために決断する必要があるものである。何にせよ、我々はグルールのために何か別のものを探さなければならないことになった。
我々が新しくデザインした能力は、「騒動/turmoil」というものだった。あらゆるパーマネントが持ち得る能力で(ただし、我々は主にクリーチャーに持たせていた)、「あなたの終了ステップの開始時に」対戦相手がそのターンにダメージを受けている場合に誘発するというものだった。攻撃が通っていれば(あるいは他の方法でダメージを与えていれば)、自分の助けになる、あるいは相手を傷つける効果を生むことができるのだ。これはグルールらしい新しい方法であり、過去のグルールのデザインとは少し違う見た目でありながらグルールのプレイスタイルで使えるカードを作ることができるので、我々はこれを採用した。手札にあるクリーチャーを効果で戦場に出せるカードも数枚あった。
展望デザインは、グルールのギルド・メカニズムとしてこれを提出したのだった。『ラヴニカの献身』のセットデザイン・チームはこのメカニズムを気に入ったが、グルールというよりもラクドスらしいく感じると判断し、この能力をラクドスに動かした。ラクドスに移動して、騒動メカニズムが絢爛メカニズムに変わったことについてはラクドスのときに話そう。グルールに関して言えば、その移動はつまり新しいメカニズムが必要になるということだった。
当時、シミックのメカニズムは増殖で、ラクドスは騒動を使っていた。グルールは、この2つのメカニズムと相性がよくてクリーチャー中心のメカニズムを見つけられるだろうか。その能力がカウンターを、クリーチャーに置くのであるからおそらくは+1/+1カウンターを、使うのであれば当然シミックとは相性がいいだろう。ラクドスは、クリーチャーが対戦相手にダメージを与える助けになるものを求めていた。この両方をこなすメカニズムはどんなものだろうか。おそらく、暴動メカニズムは、『ラヴニカへの回帰』のラクドスのメカニズム、解鎖を元にしているのだろう。解鎖はクリーチャーが戦場に出るに際して+1/+1カウンターを置くかどうかを選ぶことができる、クリーチャーのメカニズムだった。カウンターを乗せたなら、それではブロックできない。グルールのメカニズムで、+1/+1カウンターを置いた場合に不利益があるのではなく、置かなかった場合に利益を得られるようにして同じことをするのはどうだろうか。
しばらく掘り下げたあとで、セットデザイン・チームは速攻が最高の候補であると判断した。今攻撃するか、1ターン待って少し大きくするか、どちらかを選ぶのだ。これはグルールにとって最高の選択であり、シミックやラクドスとの相性も良かった。さらに、速攻は(ほとんど)後のターンには影響しないので、そのクリーチャーをプレイした次のターン以降に覚えておく必要がないキーワードであるという利点もあった。あとは小さな問題が1つあった。速攻は赤が1種色で、黒が2種色で、緑は3種色である。つまり、緑にも速攻があってもいいが、それはリミテッドよりも構築向けの話なのが普通であり、高い開封比ではありえない(つまり、通常コモンには存在しない)のである。しかし、メカニズムを作るのなら、開封比は高くならざるを得ない。
そこで、この問題は色の協議会に持ち込まれることになった。緑の速攻が増えても問題ないだろうか。この問題は、『ラヴニカの献身』の特例として始まったが、やがてより大きな問題になっていった。黒が速攻の2種色であると定めた時(『未来予知』当時)は、キーワードの重なり方を広げようとしていた時期だった。赤と緑はトランプルで重なり、そして当時黒と赤にも重なるキーワードが必要だったのだ。構築において緑に速攻が必要なのは明らかだったので、エリック・ラウアー/Erik Lauerと私は、黒を速攻の2種色としてリミテッドでも多く存在するようにし、構築向けに緑を3種色にすることで合意したのだ。
ここで問題になったのは、緑はもっと速攻を使うことができるのではないかということである。黒は最終的に速攻をそれほど使っておらず、威迫ができたことで黒と赤には別の共通のメカニズムが存在している。最終的に、開発部は緑を速攻の3種色から2種色にし、暴動(新メカニズムの名前が決まっていた)はグルールで使うことができることになった。黒を3種色にすることについても議論したが、最終的には赤や緑ができないこと、主に飛行クリーチャーや墓地から戦場に出るクリーチャーで使えるようにするため、2種色のままにすることにした。速攻は一般的に使われており、3色に存在しても問題ないと思えたのだ。
シミックのメカニズムは後に増殖ではなくなったが、シミックはにまだ大量に「+1/+1カウンター関連」の効果が存在しており、暴動はシミックと充分相性が良いと判断されて残ることになった。こうしてグルールに暴動メカニズムができたのだった。
ラクドス
ラクドスは、そのギルド・メカニズムを実際に完成させなかったギルドの1つである。暴勇(自分の手札が空の場合に利益をもたらすパーマネント)はフレイバーに富んでいたが、実装には少しばかり問題があった。先程述べた解鎖には、有利を得るために欠点を受け入れなければならないというちょっとした不快感があった。(暴動メカニズムでは利点2つから選ぶようにしている理由の1つである。)ラクドスの無謀さを、プレイして楽しい形で再現する方法はあるだろうか。
このギルドも、我々が新メカニズムを試して成功率が低かったギルドであった。ラクドスにはグルールの「クリーチャーを唱えて攻撃する」戦略のような単純さは存在しない。自分にとって利益になることが多い状況でリスクを取るギルドなのだ。しばらくの間、我々は、自分のライブラリーの一番上のカードに基づく利益をもたらすメカニズムを実験していた。あるものは一番上のカードの点数で見たマナ・コスト(CMC)を参照したが(例えば、公開されたCMCをXとして、そのターン+X/+0の修整を受ける)、CMCが0である土地の存在のせいで効果が発生しないことが多かった。土地でないカードが出るまでめくるというのも試したが、それは文章が長くなってしまった。この能力によって攻撃のたびにワクワクできるのは良かったのだが、その不安定性のせいでプレイするのが難しく、我々が望んだような興奮を生み出すことはなかったのだ。
その後、我々は不確定な利益から離れ、何を得るかはわかるけれども無謀だと感じさせるようなコストを支払って使うようにした。そうしてできたのが、「終幕/finale」というメカニズムである。このメカニズムは、クリーチャーが持つもので、1ターンだけそのクリーチャーに大きな利益(通常は+N/+0と1つ以上の能力)を与える。そして、終了ステップの開始時に、そのクリーチャーを生け贄に捧げるのだ。1度だけ起動できる起動型能力だったので、ブロックされたかどうかわかってからそれを使うかどうかを決めることができた。
このメカニズムは楽しいゲームプレイをもたらし、また非常にラクドスらしかった。展望デザインが提出したメカニズムはこの終幕メカニズムだった。セットデザインは、この能力を使うためにはクリーチャーを失わなければならないのでやはり少しの不快感を伴うということを正しく発見した。我々は(通常、戦闘で他のクリーチャーを倒したり、プレイヤーにかなりのダメージを与えたりするような)充分な影響を与えるようなカードをデザインすることでその不快感を緩和しようとしたが、しかし最終的にはセットデザインが下した失敗だという判断に同意した。つまり、セットデザインは他のメカニズムを探さなければならなくなったのだ。そして、その求めているメカニズムは我々がすでに作っていたものだったのだ。グルール向けに。
騒動メカニズムがラクドスに動かされたのは、セットデザインがラクドスのほうがグルールよりもギルド・メカニズムをデザインするのが難しいとわかっていたからだろう。グルールのキーワードはどちらも、ラクドスの2つのキーワードよりも大成功を収めてきているのだ。(展望デザインもセットデザインも暴勇の変種で手札が1枚以下であることが条件となっている「ちょい勇/Heckbent」を少しいじっていた。)
騒動メカニズムを扱っていて、セットデザインは、彼らが最も気に入っている部分は他のクリーチャーを出す助けとなるカードだということに気がついたので、騒動メカニズムを絢爛メカニズムへと変化させたのだった。絢爛は、対戦相手がそのターンにライフを失っていたらプレイヤーがクリーチャーを唱えるために使える代替コストである。(この間のどこかで、さらなるシナジーを生み出すようにダメージからライフの喪失に変わっている。)プレイテストの結果、このメカニズムは狂喜とかなり同じように働くことがわかったが、大型になるのではなく軽いクリーチャーになるという違いがあった。狂喜は初代『ラヴニカ』ブロックのメカニズムの中で最も人気のあるメカニズムの1つだった(後に『基本セット2012』で再録されている)ので、これはこのメカニズムにとって良い兆しだと感じたのだった。
今日のプレビュー・カードはラクドスのものなので、アゾリウスに進む前に諸君にこの《恐怖の劇場》をご紹介しよう。
クリックで《恐怖の劇場》を表示
ラクドス・ファンの諸君のために、この《恐怖の劇場》が素晴らしい楽しみを生み出してくれれば幸いである。
アゾリウス
私は、すべてのギルドの中で、展望デザインがもっとも大胆だったのはアゾリウスだと思っている。明らかにアゾリウスがまっすぐなギルドの1つであるので、これは奇妙な宣言に思えるかもしれない。例えば、その最も成功したギルド・メカニズムの留置は、基本的に物事が起こらないようにするもの(対象にしたクリーチャーが攻撃やブロックや起動型能力の使用ができないようにする能力)だった。初代『ラヴニカ』ブロックでのメカニズムであり手札から効果を生み出すことができる予見は、もう少しだけ独創的なものだったが、文章が長くてデザインが難しいものだった。
『ラヴニカへの回帰』では、ギルドの法制定趣味を示すために「上エンチャント/enchantmentfall」(後に『ニクスへの旅』で星座として印刷された)を試していたが、他のギルドとのシナジーがなかったことから採用されなかったのだ。私は、上エンチャントで扱っていた空間が好きで、アゾリウスがシステムを熟知して物事をコントロールしていると感じられるようなアゾリウスのメカニズムを作ることができないかと考えていたのだ。
そして我々が作ったのは、「優位/precedence」というメカニズムであった。その働きは次の通り。
このメカニズムは、戦場に出たときの効果(ETB効果)を持つクリーチャーが持ちうる。そのクリーチャーが戦場に出たとき、戦場にある自軍のクリーチャーのETB効果をコピーすることができる。例えば、1/1の飛行クリーチャーで優位と「これが戦場に出たとき、占術2を行う」を持つ〈フクロウ賢者〉を持っているとする。また、戦場に、2/2で「これが戦場に出たとき、プレイヤー1人を対象とし、そのプレイヤーのライブラリーの一番上からカードを2枚、そのプレイヤーの墓地に置く」を持つ〈削り男〉と、1/1で「これが戦場に出たとき、クリーチャー1体を対象とし、それの上に+1/+1カウンターを1個置く。」を持つ〈助ける僧侶〉を出していたとする。〈フクロウ賢者〉が戦場に出るに際して、〈フクロウ賢者〉の占術と、〈削り男〉のライブラリー破壊と、〈助ける僧侶〉の+1/+1カウンターの3つの効果から1つを選択することができる。優位メカニズムで、ETB効果を自軍のクリーチャーの持つ好きなものに変えることができるのだ。
このメカニズムは非常に楽しかったし、関係するギルドであるオルゾフとシミックに、ETB効果を持つクリーチャーが充分な数ある(我々が提出した時点でのメカニズムである増殖と負債はいずれにせよ大量に必要だった)ようにすることでそれらの両ギルドとも組み合わせることができた。このメカニズムに問題があることはわかっていたが、我々はこれをセットデザインに提出しても良いと考えられるほど楽しんだのだ。
優位メカニズムには、最終的に2つの大きな問題があった。1つはルール上の問題だ。他の、ETB効果をコピーするというのは全体としては単純に聞こえるかも知れないが、それをルールの中で成立させるのは実は非常に難しいのだ。私が長年の間に得た教訓の1つに、理解するのが単純に聞こえることと、文章に書くのが単純なことと、ルール内で成立すること、ということが常に同じことを指すわけではない、というものがある。次善の策として、優位を持つクリーチャーのETB効果だけをコピーできるようにするというものがあったが、そうするとこのメカニズムは孤立的になり、作られるシナジーは、特に隣接するギルドと組み合わせるとかなりつまらないものになる。
2つ目の問題は、プレイデザインのものである。このメカニズムは、戦場にある中で最善のETB効果を常に選ぶのが当たり前になる傾向がある。つまり、『ラヴニカの献身』だけでなくスタンダード全般において、ETB効果の多様性について非常に注意を払わなければならないということになるのだ。優位メカニズムを成立させるためにすべてのETB効果を狭い範囲内でデザインしなければならなくするのは釣り合うとは思えなかった。この2つの理由から、優位メカニズムはボツになったのだった。
ラクドス、グルール、シミックのギルド・キーワードはどれもクリーチャーだけが持つことができるもの(また、オルゾフはクリーチャー・トークンを作るもの)なので、アゾリウスにはインスタントやソーサリーが持てるメカニズムがどうしても必要だと判断された。サム・ストッダード/Sam Stoddard率いるチームは、インスタントやソーサリーが持ちうる過去のメカニズム(名前があるものもないものも)を振り返ることにし、そしてこのサイクルに行き当たった。
このサイクルは、『時のらせん』当時に、時間の概念を扱う新しい方法を見つけようとして私がデザインしたものだ。(『時のらせん』ブロックには時間テーマが存在していた。)私は、『インベイジョン』ブロックでデザインされた、2マナ追加で支払うことで実質的にはインスタントとしてプレイできる、ソーサリーのサイクル(《総くずれ》《砕ける波》《黄昏の呼び声》《ギトゥの火》《菌獣の共生》)のことを思い出していた。いつプレイできるかを変更するのではなく、いつプレイしたかによって効果が変わる呪文のサイクルという発想を面白いと思ったのだ。対戦相手のターンに唱えることもできるが、自分のメイン・フェイズに唱えればもっと強力になるのだ。
セットデザイン・チームは、『時のらせん』サイクルは能力語に拡張できると思い、アゾリウスのギルド・キーワードとして採用したのである。最初はちょっと不安もあったが、カードを扱っていくうちに、このメカニズムはうまく働き、そしてカードが他のギルドとシナジーを生むようにデザインすることができるということがわかってきた。確か、附則は『ラヴニカの献身』で最後に確定されたギルド・キーワードだったと思う。
ギルドのまとめ
さて、わずか2本の記事ではあるが、『ラヴニカの献身』の5つのギルドそれぞれのギルド・キーワードの作られ方について話してきた。いつもの通り、今日の記事や各ギルド、あるいは『ラヴニカの献身』そのものについての諸君からの意見を聞きたいと思う。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『ラヴニカの献身』のカード個別の話を始める日にお会いしよう。
その日まで、『ラヴニカの献身』のギルドの中にあなたのお気に入りが見つかりますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)