マジック2013プレビュー特集にようこそ。通常、プレビューの第1週はまずその新セットのカードを紹介するものだが、2週前にデュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ2013のプレビューを行なっており、その時に見せたプレビュー・カードは基本セット2013にも入っているのだ。だが心配はいらない、今週は今週でとっておきのプレビューをお見せする。今日のカードは、ちょっと前に私がネタにしたカードで、ついにそのカードの全貌を明らかにすることができるのだ。

 だが、その前に。まずマジック2013のデザイン・チームを紹介しよう。

ダグ・ベイヤー/Doug Beyer(デザイン・リーダー)

 ダグはオンライン・メディアのコンピューター・プログラマーとしてウィザーズでのキャリアを始めた。ダグは、たとえばマジックのカードを検索するGathererの最初のバージョンを作った本人である。それを作っている間にも、ダグはフレイバー・テキスト関連の仕事をしていた。当時のダグの手による有名なフレイバー・テキストがこれだ。

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これって、壊れてる。

 

 クリエイティブ・チームでカード名とフレイバー・テキストの責任者だったマット・カヴォッタ/Matt Cavottaがその座を離れると、ダグはその後任となった。クリエイティブ・チーム首席であった私の最後の仕事が、ダグを雇うことだった。

 ダグはクリエイティブ・チームの中心人物となった。長年にわたり、Savor the Flavorコラムの執筆を行なってきたのも彼だ。(私のデザイン・チーム紹介をしっかり読んでいた諸君は別として)ほとんどの諸君は、ダグが多くのデザイン・チームに所属していたことに気付いていないことだろう。彼はかなりの能力を示したので、我々は彼にデザインのリーダーを任せることにした。アーロン/Aaronは、ダグがトップダウンに秀でていることから基本セットのリーダーにふさわしいと感じたのである。

 これはダグにとっての大チャンスだ。クリエイティブ・チームのメンバーがデザイン・チームのリーダーを務めたことはない。ダグはこの難関に挑み、そしてホームランを放った。このセットの全体像を見たなら、諸君もきっと気に入ることだろう。

アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe

 アーロンは現在、デザインやデベロップに費やす時間はそれほど取れない。マジックのディレクターとして、我々がマジックを作るために必要なリソースの確保に奔走しているのだ。しかし、アーロンは開発をし続けていたいので、時折こうしてチームの一員になるようにしている。アーロンがマジック2010で基本セットの革新を果たしたので、基本セットにはいくらかの思い入れがあるのだ。マジック2013のリーダーを務めるほどの時間はない中で、アーロンはこのデザイン・チームに加われたことを喜んでいる。

 アーロンはいつでもデザイン・チームに入ることを楽しんでいる。彼はカードを面白くする方法を見抜く能力に秀で、よりフレイバー的なデザインにする機会を愛しているのだ。その手順において何かいいアイデアが欲しかったなら、我らがディレクター殿をチームに入れるのが一番だ。

グレアム・ホプキンス/Graeme Hopkins

 開発部以外のウィザーズ社員の中で、毎年デザイン・チームに入る機会を得る人間は多くはない。グレアムがその機会を得ているのは、彼がそれに長けているからだ。第1回グレート・デザイナー・サーチの決勝進出者の1人であるグレアムはデジタル・チームで雇われることになった(開発部のマジック・デジタル・チームとは別物だ)。彼を会社に受け入れたのは、かなりの楽しみの種になったと言えるだろう。

 グレアムはいつでも多くのカードを作ってきて、それらのカードは彼だけがデザインできるものだった。彼はデザインに必要なものを備えており、また、他のデザイナーが見ていない場所を見ることを理解している。新しいデザイン・チームの編成に際して、私は常にグレアムが望むならチームに入れるべきだとアドバイスすることにしている。

ライアン・ミラー/Ryan Miller

 ライアンは海外版デュエルマスターズ、Kaijudoというトレーディング・カードゲームの首席デザイナーであり、私がマジックにおいてやっているような仕事をそのゲームのためにしている人間だ。開発部はマジックのデザインやデベロップのためにチーム全体を使うことが好きなのである。

 ライアンはフレイバー的なデザインを作るのが好きで、この基本セットはその長所を存分に活かせる場所だ。私はライアンがカードに費やす時間や心が大好きなのだ。彼は全てのカード1枚1枚を完璧なものにするために、全ての時間を費やしているように思える。それにもまして、ライアンは地獄のように面白く(彼は役者やDJとしての訓練を受けている)、ミーティングは非常に楽しいものになるのだ。

マーク・パーヴィス/Mark Purvis

 マークはマジックのブランド・マネージャーの1人である。つまり、彼はマジックのビジネス面で日夜働いているのだ。私はこのコラムでデザイン面からの話ばかりしているが、ビジネスを回すには同じように大量の仕事がある。マークが職を得たのは、「Making Magic」でのアナウンスを経てのものだということはすでに述べたとおりだ。

 彼が保守的なプレイヤーであったことは、彼の強みである。顧客の欲しいものをよく理解することができているのは、彼自身が顧客だったからだ。彼を雇ったことでマジックの売り上げはがくんと落ちた、なんて冗談まで飛び出すぐらいである。マークはカードの側で働きたいと主張しており、実際いくつかのデベロップ・チームに名を連ねていた。マジック2013で彼は初めてデザイン・チームの一員となったが、その成果を見て彼を再びデザイン・チームに迎え入れることは充分ありうる話だ。

「旦那様、基本セットをお恵み下さい」

 さて、デザイン・チームの紹介が終わったところで、デザインそのものの話に入るとしよう。マジック2013のデザイン上の目標とは一体何だったのか、これから見ていくことにする。

目標その1:マジック2010以降の基本セットであり続ける

 何年か前、アーロン・フォーサイスは基本セットの再開発について独創的なアイデアを出した。ただ古い再録カードだけのセットにするのではなく、セットに必要な新カードをデザインしてセットに入れられるようにしたのだ。これによって、アーロンのもう1つの目標、リチャード・ガーフィールドがアルファ版で作り上げたゲームの雰囲気を再現するというものも達成できるようになった。

〈荘厳な大天使〉 アート:Cynthia Sheppard

 マジック2011は昔のメカニズムを再録することで、基本セットのドラフトをより良いものにした。マジック2012ではこの方針をさらに推し進めた。マジック2013は、このマジック2010から始まったモデルを守ることが最初の目標であった。

目標その2:マジック2013とデュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ2013をより近づける

 この2週にわたって、新人プレイヤーや再び戻ってこようとするプレイヤーを助けるというデュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズの重要な役割について語ってきた。デュエルズの存在によって、基本セットの役割は変化している。長い間、基本セットはマジックの入門編と位置づけられていた。デュエルズの成功により、基本セットにはまた別の重要な役割が課せられることになった。すなわち、オンラインの経験から紙のマジックへの橋渡しである。

 そのために、基本セットとデュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズを近づけることになった。どちらかの商品で出てくる要素を、もう一方の商品にも入れることになったのだ。開発部は、できるだけ多くのマジック2013のカードをデュエルズ2013に入れるために尽力した。加えて、マジック2013のデザイン・チームはデュエルズの要素を基本セットに導入しようとしたのだ。

 それが可能だった最大の場所は、レアの伝説のクリーチャー5体からなるサイクルである。これらの5体の伝説のクリーチャー、そして5人の単色のプレインズウォーカーは、デュエルズ2013で対峙することになる10人のキャラクターである。それらの伝説のクリーチャーとクリエイティブ的に関連づけられた呪文も存在し、それらのクリーチャーの重要性を強く印象づけるようになっている。

 各伝説のクリーチャーは、関連する呪文とともに中ボスとして振る舞っている。それらの呪文は、ちょうどマジック2012にあったプレインズウォーカーの得意呪文のようなものだ。それらの伝説のクリーチャーは、マジック2013のエントリーセットでもフレイバー的な中心に位置づけられている。

そして、デザイン・チームは、この男を呼び覚ました。

 《プレインズウォーカー、ニコル・ボーラス》はデュエルズ2013のラスボスである。彼をマジック2013に導入することで、《プレインズウォーカー、ニコル・ボーラス》は基本セット史上初の(そして現時点では唯一の)多色カードとなったのだ。

目標その3:メカニズムを再録する

 昔々、開発部は基本セットを同じようなものにしようと尽力していた。基本セットは入り口だったので、理想的な入り口から遠く離すわけにはいかなかったのだ。基本セットの見直しを経て、開発部は基本セットに最適なのは同じものでありつづけることではなく、毎年中核部分に変化を加え、前年の基本セットとは違うものだと感じさせるべきだということを発見したのだ。

〈悪名の騎士〉 アート:Peter Mohrbacher

 そのための有力な方法に、毎年昔のメカニズムを選び、1年だけ戻すというものがある。マジック2011ではミラディン・ブロックのフィフス・ドーンから占術を戻した。マジック2012ではラヴニカ・ブロックのギルドパクトから狂喜を戻した。マジック2013はアラーラ・ブロックから賛美を戻すのである。

 なぜ賛美か? このメカニズムはバントのサブ・デザイン・チームにいたブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanが作ったものだ(メンバーはブライアン、ケン・ネーグル/Ken Nagle、それに私)。ダグと彼のチームは、基本セットに戻すメカニズムとして賛美がふさわしいと考えたのだ。芳醇なフレイバーを持ち、理解しやすいメカニズムで、うまく働くものだったからである。

 明白に、チームで協力して1人の戦士に力を貸すクリーチャー、というこのメカニズムは白のものだった。しかしダグはここに手を加えようとした。賛美はバントのメカニズムだったので、白、青、緑にしか存在しなかったのだ。ダグは2つの理由から黒に入れるのが面白いと判断した。まず、黒には賛美は存在しなかったので、黒に入れると新しいデザイン空間が広がるということ。そして、白と黒の対立という軸から見て面白く働きそうだということである。

 マジックの隠れたテーマの1つに、敵対色の方が友好色よりも似ているというものがある。一例を挙げれば、白と黒はともに宗教的な色だ。社会を保つために階級構造を作っている。意味や理由はもちろん違うが、構造は同じようなものである。従って、ダグは白と黒には賛美があってもおかしくないと考えたのだ。そう、白は崇高な理由で、黒は邪悪な動機でそうするのだが、どちらも賛美であることには変わりはない。また、賛美は黒には存在しなかったので、戻ってくるにふさわしい新しさともなるのだ。

目標その4:プレインズウォーカーにも手を加える

 マジック2013はマジック2010とマジック2011で使われていた最初のプレインズウォーカーを再び収録した。ジェイス、チャンドラ、ガラクについてはマジック2012のものを使い、アジャニとリリアナは新作を投入した。

 これにニコル・ボーラスを追加して、マジック2013のプレインズウォーカーが揃った。加えて、より低いレアリティにはプレインズウォーカーを強化するカードが導入されている。

目標その5:新ネタを色々投入する

 これらの大テーマと賛美の再録の他に、ダグと彼のチームはいくつかの小さなものを導入した。たとえば、指輪サイクルがそれである。

 

 他にもドラフトに一ひねり加えるアンコモンのサイクルが導入されている。さらなるロードも導入された。リミテッドで軸にしたくなるようなカードも山積みだ。

 基本セットが単なる再録セットから、紙のマジックにプレイヤーをいざなうためにマジックのあり方を示すセットに変化したのを受けて、デザイン・チームは新しいテーマと道具を使ってフォーマット毎に違うインパクトを与えられるようになったのだ。

目標その6:基本セットを通して多元宇宙を見せる

 基本セットは多元宇宙の寄せ集めなのだが、マジック2013はその要素を表に出した。人気の高いサイクルの中には、明確に違う次元を示すものが導入されている。伝説のクリーチャーはそれぞれ別の次元からの存在である。指輪はそれぞれシャンダラーの別々の場所からのものである。マジック2013は、この要素を取り上げ、質、量ともに高めたのだ。

目標その7:人気のある再録カードを戻す

 マジック2013の一番の驚きは、このカードの再録だろう。

 《怨恨》は再録を望まれていたカードだったので、ダグと彼のチームは新カードだけでなく昔のカードによっても興奮させるためにマジックを振り返った。全てのカードが公開されているわけではないが、セットが公開されたなら、人気の高いカードが戻っていることに気付くだろう(さすがに《怨恨》ほど強力なものではないが)。

目標その8:神話レアの印象的なサイクルを加える

 最後に、ダグと彼のチームはタイタンの穴を埋める何かを作ろうと考えた。このサイクルはタイタンほど確固としたものではなく、メカニズム的に関連づけられている必要もない、ただイカした神話レアのカードにするというのだ。

 白には、〈荘厳な大天使〉が。

 青には、まだ公開できないエンチャントが。

 黒には、帰ってきた《吸血鬼の夜侯》が。

 緑には、〈古鱗のワーム〉が。

 赤には? 赤には、そう、私見だが、最高のものが。その最高のものこそが、今日の私のプレビュー・カードだ。さっそくお見せする――前に、ちょっと一言二言言わせて欲しい。

 何ヶ月か前に、私はRedditというウェブサイト(リンク先は英語)で、AMA(「Ask Me Anything」)と呼ばれること(リンク先は英語)をした。6時間にわたり、質問を受けた質問に可能な限り答えるというものだ。ブライアン・キブラー/Brian Kiblerという、ドラゴンをこよなく愛する殿堂顕彰者であるマジック・プレイヤーからの質問があった。

本当に強烈なドラゴンが長年にわたって登場していないのはなぜですか?

 私の答えは。

セットの中心が何なのかをはっきり示すために構築で最強のカードを置くことにしている。最近のセットではドラゴンは中心になっていない(ドラゴンが中心のホラー世界というのはないだろう)ので、出していないのだ。

現在作成中のドラゴンは、競技マジックでも活用できるものだということをお知らせしておこう。そのセットが何なのかはまだお伝えできないが、「現在作成中」で、すぐに諸君がプレイできるようになるということで充分だろう。

 多くの読者は私が語っているのは次のブロックで登場する可能性のあるニヴ=ミゼット>のことだと思ったが、そうではなかったのだ。私がそこで語っていたのは、今日のプレビュー・カードのことだったのだ。それを言い表すのに一番確実なのは、このカードのデザインについてダグに尋ねたときの答えだろう。「天使における《悪斬の天使》のようなドラゴンを作るのが目標でした。このセットに、強力なドラゴンの典型となるドラゴンを入れたかったのです」(引用注:少し言い換えた)

 幸いなことに、ダグは(マジック2013のデベロップ・リーダーの)ザック・ヒル/Zac Hillとこの見解を共有し、そして〈雷口のヘルカイト〉ができあがったのだ。さて、それでは、いよいよご対面しようではないか


〈雷口のヘルカイト〉 アート:Svetlin Velinov

 このカードを見れば、それ以上ごたごた言う必要はないだろう。諸君がマジック2013のデザインについての私の一言を楽しんでくれたのであれば幸いである。諸君のマジック2013に関する意見を聞きたいと思う。

 それではまた次回、マジック2013の何枚かのカード(諸君の想像を裏切るものだろう)について語るときにお会いしよう。

 その日まで、良い物を手にして改善する機会があなたとともにありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)