十人だけで
Translated by Yoshiya Shindo
ギルドパクトのプレビュー第二週へようこそ。今回は第一週の続編だ。いや待てよ、続編ってのは駄作になりがちだな(もっとも、私個人はX-Menは1よりも2の方が面白いと思ったけどね)。それじゃ、三部作の二作目ってことにすればどうだろう? こいつは普通ならうまくいく。唯一の問題は、小型セットのプレビューが二週間しかないってことで、三部作作戦はうまくいかない定めだ。おっと、それじゃ私のかつての守備範囲のテクニックを使って、“劇的結末”ってのはどうだろうか? いいね。それじゃそれでいこう。というわけで、これからお届けするのは「ギルドパクトの素晴らしい世界」の劇的結末だ。
十でとうとう
今週話そうと思うのは、ギルドパクトがどうにかしなくちゃいけなかったラヴニカブロックの異なる側面についてだ。その内容はサイクルについてだ。通常、マジックにおけるサイクルは同じレアリティで色が異なる5枚のカードから構成される。しかしギルドの世界では、5って数字は魔法の数字(というか、マジックの数字)じゃない。魔法の数字は10になるのさ。これは何を意味するのか? つまり、ギルド全体に対して公平な何かを作ろうと思ったら、10枚のカードからなるサイクルを作らなくちゃいけないってことだ。そして、ブロックにおけるセットの4/3/3構造に従うと、どのサイクルも一つのセットだけで登場させるわけにはいかないのさ。
実は、我々はこういったこと(セットやブロックをまたいだサイクル)を既にやってきている。例えばオデッセイブロックでは、ブロック全体にわたる別勝利条件のエンチャントのサイクルを作った(《忍耐の試練/Test of Endurance》《機知の戦い/Battle of Wits》《死闘/Mortal Combat》《偶然の出合い/Chance Encounter》《勇壮な戦闘/Epic Struggle》)。ミラディンにはブロック全体にまたがった装備品のサイクルがある(《カルドラの剣/Sword of Kaldra》《カルドラの盾/Shield of Kaldra》《カルドラの兜/Helm of Kaldra》)。そして忘れちゃいけないのが、五つのブロックにまたがった伝説の土地のメガ・メガサイクルだ(《テフェリーの島/Teferi’s Isle》《ヴォルラスの要塞/Volrath’s Stronghold》《ヤヴィマヤのうろ穴/Yavimaya Hollow》《コーの安息所/Kor Haven》《ケルドの死滅都市/Keldon Necropolis》)。
ラヴニカを他のセットと異ならせているのはこのてのギルドサイクルだから、このブロックの大部分のサイクルは三つのセットにまたがることになる。つまり、歴代初めて、これが例外ではなく基準になるってことだ。それじゃ、取り掛からなくちゃいけないことはなんだろうか? 実は問題がいくつかある。今回のコラムでは、10枚カードサイクルを作ることに対する挑戦を掘り下げて、それがギルドパクトでどういう意味を持つかの手がかりを示そうと思う。そして、最後のところでは、そんなサイクルの一枚であるイゼットの新しいカードをお見せしよう。こいつは非常に面白いよ。なので、じっくりと先に進んで欲しい(あるいは、君の辛抱がウスバカゲロウほども無いって言うなら、流し読みして下にいってもいいだろう――彼らは数時間しか生きられないって話だから、とっとと何もかもやってしまわないとね――ああ、ジョークを説明するのはろくでもないことだなんてのは知ってるよ――それでは数分ほど黙祷を………………………………この辺でいいだろう。先に進もう。ジョークはこういう風にやらなくちゃね)。
二(百万)人だけのためのサイクル
10枚カードサイクルを理解するために、まずはそのための制限を見ていくことから始めよう。
#1:10は非常に、非常に大きな数である
サイクルを作るために挑まなくちゃいけないことの一つが、5枚のカードを埋めるために十分な魅力とデザイン空間の広さを持ったアイデアを見つけることだ。これは難題の一つだよ(その証拠に、5枚のカードすら埋めることができない程度の魅力しかないサイクルも存在する事実がある――《魔道士の誓い/Oath of Mages》の話なんだけどね)。10枚のカードはその二倍だ。そして、双子の父である私から一言秘密をお教えするとしよう――二倍あるってことは、実際二倍を超える労力を必要とする。君が追加の双子なり追加の5枚のカードなりにかかることとなれば、君は最初の双子なり5枚のカードなりで疲れ切ってしまってるだろうね。
これに対するアプローチの仕方は二つある。一つ目は、10枚のカードを正確に同じもの(大抵は色に絡んだちょっとした変更が入る)にすることだ。ラヴニカにおけるこのタイプのサイクルの例が、二重地形や印鑑や“お帰り土地”(コモンの二色土地)だ。二つ目は、サイクルを十分複雑で深みのあるものにして、デザイナーがもてあそぶデザイン空間が非常に大きなものにすることだ。この例が、ラヴニカにおけるこのタイプのサイクルの例が、向上呪文(呪文のプレイ時に特定の色のマナを使っていることで、追加効果やより大きな効果が得られる呪文)やギルド魔道士やギルド本拠地(アンコモンの土地サイクル)だ。しかし、この二つの選択肢もそれぞれ問題を抱えている。ということで、話を先に進めていこう……。
#2:これまでとは異なる見通し
10枚カードのサイクルは三つのセットにまたがるので、そこには独自の問題がある。その内の一つは、これまでに取り組まなくちゃいけなかったことが無かったやつだ。それはこうだ。10枚のカードを同じものにして、プレイヤーが残り7枚を待っているような状況にすると、ある意味ドキドキ感が失われてしまうんだ。ほとんどのサイクルは一度に提示されてきたから、5枚のカードが同じ土俵にあったとしても、これはほとんど問題にならなかった。しかし、プレイヤーは新しいセットに新しいものを求めている。お決まりのやつをお決まりのとおりに何回も繰り返しすぎると、ぶっちゃけて言って、がっかりしちゃうのさ。
これは10枚カードサイクルにおいては巨大な障害だ。それらがすべて単純明快だと、十月の段階でその後のセットのかなりのパーセンテージを暴露してしまうことになる。つまり、開発部はこの手の“全部同じ”10枚サイクルに対して、かなり出し惜しみをしなくちゃいけないってことだ。事実、我々はかなり出し惜しみをしていて、それをどんな面から見ても誰も驚かないような純粋な雑用カードにしか使わなかった。薔薇は薔薇だし、二重地形は二重地形さ。10枚カードサイクルは、若干の雑用カードでなければ、第一カテゴリーは避けなくちゃいけないってことになる。というわけで、問題その二に話を続けていこう。
#3:複雑さは困難
「同一のテーマに沿った共通性を持ち、その上で予測がつかない程度に多様性がある」ってのは、言うのは簡単だし素晴らしいことだ。
しかし、それを実際に作るのは別な話さ。そんな困難な問題の中のいくつかをお見せしよう。その一、サイクルの各カードは異なる二色の組み合わせだ。どんなアイデアも、各二色の組み合わせに対する居場所を見つけなくちゃいけない。そしてマジックのデザインにおいては、ある種の色は特定のことができない事になっている。こいつは厳しい挑戦だ。その二、メカニズムから派生することは、10も派生する内容を持っていない。例えば、サイクルが一般的なクリーチャー能力のそれぞれに関連しているとしよう。(1)飛行、(2)先制攻撃、(3)トランプル、(4)速攻、(5)警戒、(6)畏怖、(7)土地渡り、(8)プロテクション、(9)再生、それに、ええと、(10)二段攻撃だ。十もようやく揃えたはいいけれど、この十個が当てはめられる保障は無い。加えて、先制攻撃は二段攻撃の下位互換だって小さな問題もある。
その三、これは見通し問題の拡張版だ。サイクルの構成があからさま過ぎると、第二セットなり第三セットなりが出る前に予想が立ちすぎるって問題が発生する。そしてその延長線上に問題その四がある。ブロック内における進化に対するプレイヤーたちの願望を満たすために、進化の余地のあるサイクルを作る必要が出てくる。どういうことかって? サイクルの中には、最後まで進む中で新たなひねりを足してかなくちゃいけないものがあるってことさ。これらのサンプルは、コラムの後のほうで語ることにしよう。
#4:ギルド。覚えているよね?
これらのすべての上に立っているのが、サイクルの存在意義、すなわちギルド間の違い(あるいは定義)をはっきりさせるのにそれが最も効果的だってことだ。そう、サイクルは面白くなくちゃいけない上に、見通しの立つものじゃなく、さらにそれぞれの色の組み合わせがギルドの何たるかを示さなくちゃいけない。幸運なことに、デザイナーは面白そうな挑戦が大好きなのさ。
サイクル・ロード
この話は、私の顔(あるいはキーを叩いてる指)から血の気がなくなるまで続けられるね。でも、10枚カードサイクルについて説明する最善の方法はそのカード自身の話をすることだ。言っておくが、全部明かすわけじゃないよ。でも、ギルドパクトがそれをどう扱ってるかということを見せるために、できるだけはっきりとラヴニカの10枚カードサイクルの内容を示そうと思う。
二重地形
印鑑
これも同様だ。
“お帰り土地”(コモンの二色土地)
同上。
ギルド本拠地
これは、それぞれのギルドの本部を表しているアンコモンの土地だ。それぞれの土地はタップしてマナを出すことができる(今日の我々の規則では、土地はタップしてマナを出すか、タップしてマナを出せる土地を持ってくる能力をもっていることになっている)。また、各土地には各色から1マナずつの色マナ(プラス必要に応じた汎用マナ)を必要とした起動型能力がついている。この能力はタップ能力であるか、二回使うことに意義の無い効果を持つかのいずれかだ。その効果は特定のギルドのイメージに合った何かだ。ギルドパクトもそのガイドラインに沿っている。この能力はあらゆる方向性が持たせられるので、一連の可能性は十分幅広く、君が能力を予想できるレベルから遠ざけている。
向上呪文
繰り返しになるけど、これは呪文のプレイ時に特定の二色目のマナを使っていることで、追加効果やより大きな効果が得られる呪文のことだ。ラヴニカでは、すべての向上呪文がインスタントかソーサリーだった。ギルドパクトではこのサイクルにひねりを加え、クリーチャーが場に出たときの能力追加する向上能力にした(これもディセンションがこのサイクルにしたことと比べればおとなしいと思うようになるよ)。
伝説のクリーチャー
ギルドの伝説のクリーチャーは実際は二つの10枚カードサイクルだ。一つ目はギルドの主導者だ。ギルドの主導者は単純に強力で驚異的なレアだ。それぞれのメカニカル的なつながりは、それぞれのマナ・コストにCCDD(ギルドの一色目が2マナ、二色目が2マナの意味)が含まれるということだけだ。実際のメインになっているイメージは、彼らがギルドの何たるかを示す頂点になっていると言うことだ。ギルドパクトでもこのテーマは続けられる。ニヴ=ミゼット(これは先週のマット・カヴォッタ(Matt Cavotta)のコラム「マジックの味わい」で触れられている)もそんなギルドの主導者の一人だ。オルゾフのリーダーは、今週のズヴィ・モショウィッツ()のコラム「そのプレイがポイント」で触れる予定になっている。
二つ目のレアの伝説のクリーチャーサイクルは、よりメカニズム的につながっている。それぞれのクリーチャーは、そのギルドの二つの色を使っていることによって恩恵を受けられるようにデザインされているんだ。実際には、対応する二色のうち一色を使うこと(パーマネントのときも呪文のときもある)で恩恵を受けられる能力を二つ持つことで、これを実現させている。これらのカードは、該当する多色カードを使うと常に両方の能力が誘発するようにつくられている。ギルド主導者のサイクルと同様に、この“子分”サイクルもギルドパクトで同様に再現されているけど、メカニズムをどう応用するかは、それなりの融通を持たせているよ。
他の色による起動
このカードのグループも、実際は二種類の10枚カードサイクルから成っている。このアイデアの背景は、それぞれの色にもう一方の色で起動を行うカードを作ろうと言うものだ(ただし、《深き闇のエルフ/Elves of Deep Shadow》だけは例外で、もう一方の色を使うのではなく生み出す能力になっている)。この起動型能力は、そのカードに本来の色だけでは達成できない何らかの能力を与えている。どのギルドにもこのようなカードが、それぞれのギルドの該当する色一色につき1枚存在する。ラヴニカでは、この大型サイクルに属するカードはすべてクリーチャーだった。ギルドパクトではこれをちょっといじって、クリーチャーでない色月パーマネントに適用している。お分かりとは思うけど、エンチャントのことだね。
ギルドアーティファクト
ギルドアーティファクトには、誰でも使うことのできる能力が一つと、該当するギルドの色マナを必要とする能力が一つあるようにデザインされている。考え方の基本は、これらのアーティファクトがギルドに属しているため、特定の色によってのみ最適な使い方ができると言うことだ。他の10枚カードサイクルと同様に、このデザインも十分柔軟性を持っていて、ギルドパクトでも特段大きなひねりは必要としていない。
ギルド魔道士
最後が、ラヴニカの10枚カードサイクルの根本ともいえる、ギルド魔道士だ。他のまったく同一のサイクルを除けば、ギルド魔道士は最も堅固に結びついた並行構造をしている。以下はギルド魔道士が持っていなければいけない条件だ。その一、マナ・コストは該当する色の混成マナ2マナ(きっかり2マナ)であること。その二、2/2であること。その三、クリーチャーは二つの起動型能力を持っていて、それぞれが別々の該当する色のマナをコストに必要とすること。その四、二つの能力はギルドの本質を掴んでいること。そしてその五、その二つの能力は美的観点からつながっていること。
最後の条件は様々なやり方で達成することができる。第一に、二つの能力が相互に有用である方法だ。《セレズニアのギルド魔道士/Selesnya Guildmage》はこのいい例だ――クリーチャーを生み出すこととすべてのクリーチャーに+1/+1の修整を与えることは、機能的に重なり合っている。第二に、二つの能力をゲームの二つの似た側面で働かせる方法。このカテゴリーだと、《ディミーアのギルド魔道士/Dimir Guildmage》がいい例だ――カードを引くことと、カードを捨てさせることは、同じ目的に向けての二つの行動の取り方を意味する。第三に、二つの能力が平行していること。残念ながら、ラヴニカのギルド魔道士でこれに該当するものは無い。でも、例は示すつもりだ。ああ、そうそう、プレビューカードを見せる権利を持っているのを忘れてたよ。偉大なるプレビューカードの神よ、読者に学びを与えるために四番目の例に該当するカードを与えたまえ(プレビューの神様は非常に強力なので、
このカードにピンと来なかったり、面白くないと思ったりするようなら、イゼットは君にお勧めじゃない。イゼットのファンならこのカードを見て嬉しくて踊りだしちゃうはずだからね。私だってそうさ(私はイゼットのファンだ。そうじゃないと思ったかい? やあ、私のコラムにようこそ)。
こいつは面白いカードでもあるけど、ちょっと面白い裏話もある。デザイナーのリーダーとしての私の役割の一つが、デザインのファイルを先に進める前に見直すことだ。そして、必要とあらばいつでもちょっと修正を加えたりもする。で、《イゼットのギルド魔道士/Izzet Guildmage》の一時期の能力は、とにかくひどい能力の組み合わせだった。ほとんどこんな感じさ。
《イゼットのギルド魔道士/Izzet Guildmage》
(u/r)(u/r)
クリーチャー ― 人間・ウィザード
2/2
5U:このゲームに敗北する。
5R:自分のカードを全部ビリビリにする。
完全なるイゼットのファンとして、こいつは作り直しとなった。《イゼットのギルド魔道士/Izzet Guildmage》はひどいカードにしちゃいけない。そしてさらに悪いことに、それは“面白くない”カードでもいけないんだ。そこで私はより良い《イゼットのギルド魔道士/Izzet Guildmage》に着手することにした。さて、イゼットの魔道士がやりたいこととは何だろうか? 答は、私が先週説明したとおり、インスタントやソーサリーをたくさんプレイすることだ。なるほど、と私は考えた、それじゃギルド魔道士はどうしてそれがハッピーなんだろうか? それは、彼が持っているのは二つの起動型能力であって、インスタントやソーサリーがプレイされることで誘発される能力じゃないからだ。で、ある日の昼食の最中、この問題に対する突破口を考えているときに、私の目に入ったのはそこにあった食器……スプーンだった。そこからザ・ティックの決め台詞(非常におかしなスーパーヒーローのパロディで、コミックやアニメ、特撮なんかになっている。訳注:敵に突っ込んでいくときの決め台詞が「スプーン!」なのである)を思い出し、そこから「輝きの大地」(私が高校生のときの読んだ南アフリカに関するまじめな本)を思い出し、そこから「クライ・ベイビー」(ジョン・ウォーターズ監督、ジョニー・デップ主演の奇怪な映画)を思い出し、そこから「ベイビー・ブルース」(子育てに関するコミック)を思い出し、そこから「ヒルストリート・ブルース」(80年代のすばらしい警察ドラマ)を思い出し、そこから「張り込み」(エミリオ・エステヴェスとリチャード・ドレイファスのあまり大したことはない友情物警察映画)を思い出し、そこから、私が今食べてるのがステーキで、使ってるのがスプーンじゃないことに気がついたんだ。フォーク、すなわち《Fork》があればいいじゃないか!
ああ、確かに実際はこんなのじゃなかっただろうけど、私の考え方ってのはだいたいこんな感じだ。とにかく、私が思いついたのは、インスタントやソーサリーを使う良い方法は、それをコピーすることだってことだ。そんなわけで、私は《ミラーリ/Mirari》風の繰り返し使える《Fork》を、《等時の王笏/Isochron Scepter》風の“小型呪文限定”の形と組み合わせて、こねくり回してギルド魔道士を作り上げたってわけさ。
そんなわけで、これが今回話したかったことだ。願わくば、これでラヴニカ世界について少しばかり理解してもらえると嬉しいね。
それではまた来週。ギルドパクトを小出しにするのはこれで終わりだ。次回はおおっぴらに話をしよう。面白い話になるよ。約束するとも。
それまでの間。君がちょっと立ち止まってニュアンスを嗅ぎ取る(せめて気付いてくれる)ことを祈念しつつ。
マーク・ローズウォーター