よ~いドン!
今日の記事は、今年私が放送したとあるポッドキャストを元にしている。私がもっともよく受ける質問の1つが、「どうやって発想を思いついているのですか?」というものだ。一言で答えると、いつも使っている1つの手法というものは存在しない。マジックを魅力的なもの(そして楽しいもの――私が23年以上も続けている理由の1つ)にしている理由の中には、創造的工程に異なる視点から挑み続ける必要があるということがある。これを示すため、私がデザインや展望デザインのリードを(1人で、あるいは共同で)務めた各セット(合計25個)について、そしてそのセットを生み出した基本的な発想がどこから来たのかについて語っていこう。どのセットも目標を持って始めている。(目標が途中で変わることはあるが、それでも、大抵の場合はそれがデザインを導く原理である。)
『テンペスト』
先週(とその2週前)、ウェザーライト・サーガについて語ったので、『テンペスト』のデザインはその物語を具体化することが原点であると思うかもしれない。実際は、そうではない。我々が『テンペスト』のデザインを始めた時点では、マイケル/Michaelや私はまだウェザーライト・サーガの発想を売り込んですらいなかったのだ。
『テンペスト』のデザインを始めた時点での目標は単純で、デザインを始める前の段階でチームが作った多くの発想を最大化するというものだった。マイケル・エリオットと私自身にとって初めて所属したデザイン・チームだったので、それまでに作り貯めた何年分ものカード・デザインがあったのだ。リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldは『アラビアン・ナイト』以来セットのデザインをしておらず、マジックから離れて他のゲームを数年間デザインしていたあとだったので、彼もまたカードやメカニズムのデザインを蓄えていた。チームの最後の1人であるチャーリー・カティノ/Charlie Catinoも同様に、『ビジョンズ』以来しばらくの間マジックをデザインしておらず、初回の会合に何枚かのカードの発想を持ち込んできた。そこで、私はデザイナー全員が何年も作り貯めてきたカード・デザインを提出するように言うことから、『テンペスト』のデザインを始めたのだった。
『テンペスト』のデザインで最初にしたことは、何百枚ものカードの発想を見て、その中から良いもので、そしてセットの基柱になりうるものと考えられたものを選び出すことだったのだ。例えば、スリヴァーやシャドーは、マイクがウィザーズに入社する前にデザインしていたセットから採用されたものである。バイバックは、リチャードが呪文にひねりを加える新しい方法を試している間に思いついた発想である。テーマに基づいたデザインはしておらず、我々が楽しいと思った個別のメカニズムを見つけることを重視していた時代だったということを付記しておくべきだろう。ウェザーライト・サーガが始まったとき、マイケルと私はセットの要素を物語に組み込んだのであり、その逆のことはしていなかったのだ。
『Unglued』
このセットには前提があり、それは私が作ったものではなかった。ビル・ローズ/Bill Roseとジョエル・ミック/Joel Mickが、銀枠で、トーナメントで使えないカードを使ったセットという発想を私に伝えてきたのだ。当時は、マジックにフォーマットは1つしか存在せず、印刷された全てのカードが含まれていたということを思い出してもらいたい。(禁止カードを除く。)ビルとジョエルは、トーナメントへの影響を考慮しなくてよいようにすれば楽しいデザインが作れるのではないかと考えたのだ。その方法や、どのようなカードをデザインするかについては、完全に私に委ねられた。つまり、『Unglued』の目標は、銀枠の最高の使い方を見つけることだったのだ。
私は、自分の若いときのことを元にした。若い頃、私は手品師だった。(主な舞台は子供たちの誕生日会だった。これについては記事にまとめている。)私はいろいろなカードマジックを披露したが、その多くはカードマジック用カードに特化したカード会社の製品を使ったものだった。その製品の中に、黒のダイヤの10とか、クラブの3と1/2とか、半分がハートのクイーンで半分がスペードのキングなカードなど、馬鹿げたカードばかりのセットがあった。このセットはカードマジック専用ではなかったが、手品師が好きな使い方をできるようなさまざまなカードが入っていたのだ。そのセットは奇妙で、通常のトランプのカードのパロディであるカードが大量に入っていた。
これに触発されて、私は『Unglued』を、通常マジックがやらないような奇妙で馬鹿げたことをするカードで、プレイヤーにも奇妙で馬鹿げたことをできるようにするパロディ商品にすることにした。私は、通常しない方法でルールに干渉し、ユーモアを弄り回すカードを作ることにした。そうして生まれたのがフルアート土地(クリス・ラッシュ/Chris Rushが提案していたが実際に作ることはできていなかった発想に基づく)であり、トークン・カードであり、後に黒枠マジックの世界にも導入された間抜けな発想の数々である。
『ウルザズ・デスティニー』
これはブロックの一部であるセットの中で、私が初めてデザインのリードを務めたものである。ブロックの第3セットだったので、『ウルザズ・サーガ』や『ウルザズ・レガシー』のすべてのテーマを取り上げ、それらの新しい使い方を見つけることにした。サイクリングというテーマを取り上げ、それを「場からサイクリングする」カード、つまり手札ではなく戦場から2マナを支払って別のカードに交換できるカード、へと変化させた。エコーというメカニズムを取り上げ、死亡した時の効果を持つカードを弄ることで、エコー・コストを払わないほうがいいと考える状況を作り出した。エンチャント・テーマと成長するカウンターのテーマを取り上げ、それらを同じように編み合わせた。『ウルザズ・デスティニー』における私の第n目標は、既存の要素を取り上げてそれをブロック内の他のセットとは別の方法で扱うということだった。
『オデッセイ』
直前のブロックである『インベイジョン』ブロックは初めてテーマ(多色)を使ったブロックであり、私はブロックの基柱にできる他のテーマを探すことに興味を持っていた。興味深いことに、最初はテーマが存在せず、『テンペスト』のデザインのように、デザイナーたちにメカニズムや個別のカードの発想を提出させることから始めた。リチャード・ガーフィールドはスレッショルドの初期稿を提出し、私は以前からフラッシュバックを弄り回していた。それらは強力なテーマに思えたので、墓地テーマを推し進めることは理にかなっていた。最終的に、墓地テーマを最大化することがこのセットの目標になったのだ。
一方で私は、経験豊富なプレイヤーたちが決まりだと思っている基本概念を取り上げ、それを弄ることでマジックに置いて決まりきった戦略的概念はないのだと示すことにも興味があった。私が取り上げた発想は、カード・アドバンテージであった。墓地を意識するということは、それまでめったになかった、手札(あるいは戦場)から墓地にカードを置くことがアドバンテージを得ることにつながることがある。振り返ってみると、この決定はあまり詳しくないプレイヤーに本当は望んでいない、手札をプレイすることなく捨てるということを強制するという形でデザインを傷つけていた。これにより、最終的に、『オデッセイ』は私が手がけた中で最もスパイク向けのデザインになったのだった。
『ミラディン』
『ミラディン』の元になった発想は、このブロックをアーティファクト・ブロックにする、というものだった。『インベイジョン』は多色ブロックだった。『オデッセイ』は墓地ブロックだった。『オンスロート』は部族ブロックだった。ブロックのテーマというものは確立しており、私にはどうしてもやりたいテーマがあった。アーティファクトである。当時の主席デザイナーであったビル・ローズからの許可をもらい、私は作業を始めた。私が最初に定めた目標は、通常のマジックのセットだと感じられるようにしたままでセットに何枚のアーティファクト・カードを入れることができるか、だった。その最終的な答えは、約半分ということになった。
それから私は、クリエイティブ・チームと協力して、どんな世界ならカードの半数であるアーティファクトが存在できるかを決めた。(人工的に作られた世界ということになった。)次に、私はデザイン・チームで、アーティファクトを参照し、そしてアーティファクトに持たせることができるメカニズム群を探した。そして最終的に出来たのが、この次元と『ミラディン』というセットである。
『フィフス・ドーン』
これは私が手がけた中で2つ目となるブロック内のセットであり、これもまた第3セットであった。しかし、『フィフス・ドーン』には『ウルザズ・デスティニー』とは大きく異なる課題があった。『ウルザズ・デスティニー』では、その前の2セットにあったテーマを使う違う方法を見つけるために働いていた。『フィフス・ドーン』では、それはできなかったのだ。衆知の通り、『ミラディン』は最終的に(開発部後で言う)「ぶっ壊れ」に足を踏み入れており、『ダークスティール』ではその問題を加速させただけだった。『フィフス・ドーン』は、それまでの2セットで問題を起こしてきたテーマを使わずにブロックの第3セットらしくしなけらばならなかったのである。このデザインにおける私の目標は、「我々が使える他のテーマは何か」だった。(最終的にこれへの回答は、多くの色を使ってアーティファクトを唱えることを参照すること、になった。)
『Unhinged』
このセットは、「もうちょっと広いユーモアのある『Unglued』のようになる」ことが最初の目標だった。ブランド・チームは私に、もう少し頭を使わず子どもにもわかるようにしてほしいと伝えてきた。(そしてassテーマが生まれた。)私のもう1つの大目標が、私が『Unglued』でうまくいったと思っていたもの(ルールを曲げるカードの多く)を再現し、うまくいかなかったと思っていたもの(プレイヤーが嫌っていた、破るカードなど)することであった。最後に、私は、もうちょっと単純なテーマを見つけて、すべてのカードの文章が長くはならないようにしようと考えた。(この目標から、分数の採用に繋がったが、皮肉にもこれは文章は減った一方で精神的負荷は高まってしまった。)
『ラヴニカ:ギルドの都』
このセットは、『インベイジョン』と違う多色ブロックにすることが最初の目標だった。ブロックのテーマとして同じものを使うのはこれが初めてで、私はその2つが似たものにならないようにすることに細心の注意を払った。私は、同じテーマを繰り返してもブロックが繰り返しだと感じられることがないようにすることができることを証明しようと考えたのだ。
『インベイジョン』では、可能な限り多くの色をプレイすることがすべてだったので、その逆の方向を行くことにした。『ラヴニカ:ギルドの都』は、多色だけれども可能な限り少ない色、つまり2色をプレイすることがすべてにしたのだ。1色をプレイすることは多色ではない。もう1つの決定は、2色の組み合わせ10組をすべて平等に扱うことだった。これまで、敵対色は有効色よりも重視されてこなかったが、それは単にデッキの選択肢を狭めているだけだと考えたのだ。
当時のクリエイティブ・ディレクターのブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthは私の要請に応え、2色の組み合わせそれぞれが世界において特徴を持つ陣営と関連しているというギルドの世界という発想を返してきた。私は、都市世界はギルドのための舞台として最高だと感じたのだ。私はギルドの概念を深く気に入り、そしてそれをブロックの基柱として、ブロックの3セットに4-3-3で陣営を分けるという思い切った選択をして、ブロックを通した10枚サイクルを大量に作ったのだ。
『未来予知』
『未来予知』は私にとって3回目となる「ブロック第3セット」のデザインである。このデザインにおける最初の目標は、未来をテーマにすることだった。『時のらせん』ブロックは時間をテーマとした郷愁のブロックで、私は3つのセットをそれぞれ過去、もう1つの現在、未来に分けたのだ。『未来予知』はその3つ目である。このことからいくつかのことがわかる。1つ目に、(それまでの2つのセットにあった、過去やもう1つの現在のタイムシフト・シートと合わせて)タイムシフト・シートがあり、独特のカード枠で、未来からを示すカードが含まれる。2つ目に、未来らしく感じられるような発想を扱ったテーマを探す必要がある。このことから、(未来を覗くことを表している)占術や、先を見たり後のターンに起こるコストや効果を決めたりするメカニズムを大量に用いることになった。
『シャドウムーア』
このセットの最初の目標は、「『ローウィン』の鏡像となる」だった。第4エキスパンションである夏の小型セットを作るため、我々はブロックを大小小から、大小の小ブロック2つに変更した。その後、2つの小ブロックそれぞれにそのテーマの要素が他方の小ブロックでも存在はするがそのテーマは参照されないようなテーマを選んだ。例えば、『ローウィン』ブロックには部族テーマが存在し、『シャドウムーア』ブロックにはそれらのクリーチャー・タイプのクリーチャーが存在する。最終的に、『シャドウムーア』には色関連のテーマを選び、『ラヴニカ:ギルドの都』で導入した混成マナを使った。私は、セットにどれだけの混成マナを入れることができるかに非常に興味があったのだ。(およそ半分だということがわかった。)『シャドウムーア』のデザインは、「色関連」と混成を可能な限り基柱として組み上げられた。
『イーブンタイド』
『イーブンタイド』は『シャドウムーア』に伴う小型セットである。興味深いことに、『イーブンタイド』の主な目標は「色の組み合わせに関して、『シャドウムーア』の鏡像になる」だった。『シャドウムーア』は友好色に注目していたので、『イーブンタイド』では敵対色に注目することが求められた。つまり、『イーブンタイド』に独自の特徴を与える方法を探しながら、実装上では『シャドウムーア』と平行であるようにするということである。
その方法の1つは、『未来予知』のミライシフト・カード《燐光の饗宴》でほのめかした彩色メカニズムであった。我々は『ローウィン』『シャドウムーア』ブロックの各セットでミライシフト・カードを1枚ずつ入れることにしており、『イーブンタイド』には《燐光の饗宴》が与えられたのだ。彩色は単色テーマを持つ『シャドウムーア』ブロックにまさにふさわしいと思われた。最終的に『イーブンタイド』で採用されたのは、『シャドウムーア』にはミライシフト・カードの《偶像の石塚》を含む友好色の2色土地サイクルが含まれていたからである。
『ゼンディカー』
『ゼンディカー』の最初の目標は、「土地セットである」ことであった。私は土地をテーマとしたメカニズム(土地を参照するメカニズムや、土地だけに持たせられるメカニズム)には広大なデザイン空間があると確信していたので、私はブロックのテーマとして土地に注目したいと考えた。我々は最初の数か月を、土地中心のメカニズムを可能な限り多くデザインすることに費やした。これが、後にこのセットに入る上陸のようなさまざまなデザインを生むことになる。冒険テーマは、後にクリエイティブ・チームが我々の作った土地メカニズムとうまく噛み合う世界を考えたときに生まれたものである。彼らは最終的に冒険世界という発想を生み出し、デザイン・チームはそれを受けてそのトップダウンに合うようなメカニズム(探索、罠、同盟者)をデザインしたのだった。
『ミラディンの傷跡』
何年も前にミラディンを作ったとき、クリエイティブ・チームはひっそりとこの次元にファイレクシア人を入植させ、そしてこの世界を再訪するときにはそれがファイレクシアの大復活となるようにしようという発想を持っていた。計画では、我々は新ファイレクシアを訪れ、そしてブロックの終わりになって、この新ファイレクシアはかつて…(ジャジャジャジャジャ……)ミラディンだったのだ、と気づくというものだった。したがって、『ミラディンの傷跡』のデザインを始めた時点では、「新ファイレクシアをデザインし、その世界を再びファイレクシア人に紹介する」という目標だった。最初の会議では、ファイレクシア人が何を表すのかを定義し、それからその雰囲気を表すメカニズムを探すことになった。かなり初期に、毒を採用することが決まった。この目標は、新ファイレクシアから始めて次元がファイレクシア軍の手に落ちていく姿を見せる(セット名が2つあってユーザーにはどちらになるのかわからない謎の第3セットで終わる)よりも、ブロックの最後に新ファイレクシアを持ってくるほうがいいと気がついたときに変更された。
『イニストラード』
『イニストラード』は、「ホラー・ジャンルのトップダウン・デザインである世界を作る」を最初の目標としていた。最初の会議は、プレイヤーが「ホラー次元」として予想するであろうと思われるものをブレインストーミングし、それらの要素をどうデザインするかを決めるというものだった。怪物は、我々の最初のリストのかなり前の方にあったので、怪物に関連する部族要素を持たせることは最初の決まったことの1つであった。両面カードは、凄まじい人狼を作るための方法を考えていたときに生まれたもので、その後で闇の変身というテーマに繋がったのだ。
『闇の隆盛』
『闇の隆盛』は小型セットである。その主な目標は、「人間が怪物に負けていくセットを作る」だった。ブロックの第3セットである『アヴァシンの帰還』ではアヴァシンが復活し(彼女は最終的に獄庫から脱出する)、人間が怪物を打ち倒すことがわかっていたので、このブロック第2セットでは可能な限りその逆向きに推したいと考えていたのだ。このセットのリード・デベロッパーのトム・ラピル/Tom LaPilleは、人間の敗北ではなく怪物の勝利に焦点を当てたいのだということの気づかせてくれた。プレイヤーの焦点を、強力でエキサイティングなものに向けられるようにしたのだ。
『ギルド門侵犯』
これは、私が(マーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebと)デザインの共同リードを務めた初のセットである。『ラヴニカへの回帰』で基本的なブロックの構造(それぞれにギルド5個ずつを含む大型セット2つ、その後で10個のギルドすべてを含む小型セット1つ)が決まってたので、『ギルド門侵犯』の目標は基本的に「『ラヴニカへの回帰』がしたことを、ギルドを変えて行う」だった。第2回グレート・デザイナー・サーチが終わったところだったので、そこで目についたデザインのいくつかを使うことにも興味があった。5つのギルド・メカニズムのうち2つ(大隊と進化)はGDS2からのものである。(それぞれ、ショーン・メイン/Shawn Mainとイーサン・フライシャー/Ethan Fleischerがデザインしていた)。
『テーロス』
『イニストラード』の成功を受けて、我々はさらなるトップダウン・デザインを試すことにした。ギリシャ神話はずっとセットの基柱にしたいと考えていた発想の源だったので、ついにそのときが来たのだと考えたのだ。『テーロス』の目標は、「何らかの形でエンチャントを絡めて、ギリシャ神話を基にしたトップダウン・セットを作る」だった。エンチャント要素はクリエイティブ・チームから提示されたものだが、私はエンチャントを道具として使ったブロックを探していたので、それを前提として始めるという発想を採用した。かなり初期に、エンチャントが神々の世界への影響を表すという発想を採用した。
『タルキール覇王譚』
過去の商品に詳しい諸君は、『タルキール覇王譚』の最初の目標の「第1セットも第3セットも第2セットと組み合わせてドラフトできるが、第1セットと第3セットを組み合わせてドラフトすることはない大小大のブロックをデザインする」に驚くかもしれない。隔年で、大型の春セットを作るようになっていて、他の大小大のブロックと違って独特なものにする方法を探していたのだ。イーサンとショーンは入社直後で、私は彼らに私の目標を達成する方法を探すというプロジェクトを与えたのだった。(これは、興味深いことに、先行デザインの始まりとなった。)
さまざまなシナリオを話し合ったあとで、我々は主人公が第2セットで過去に戻り、第3セットではその行動を受けての別の時間軸を表すという時間渡航の物語を思いついた。それを前提に、我々は変異をその3つの時間(現在、過去、もう1つの現在)を表すメカニズムとして選んだ。その後、クリエイティブ・チームは、サルカンの故郷を使い、その変化によって龍がその世界に戻ってくることになるということを提案した。それが、さまざまな大将軍の氏族を表す陣営に繋がったのだ。5つに落ち着いてから(デザインに入って数か月経っていた)、私は楔3色のセットにすることを提案したのだった。
『戦乱のゼンディカー』
前回の『ゼンディカー』ブロックは、エルドラージが何百年もの拘束から解き放たれたところで終わっていた。再訪にあたり、我々の目標は単純で「前回のヒキの続きとなる物語にする」だった。我々は、エルドラージが解き放たれたことで世界に何が起こったのか、という質問に応えなければならなかった。対立が必要なのはわかっていたが、最近のブロックに比べて厳しいものだと感じさせるために、我々はこの次元の住人が世界を取り戻すために苦しい戦いに挑む「反乱軍」の物語にすることにした。エルドラージのうち2体だけがゼンディカーに残っているので(プレイヤーはまだ知らないが、エムラクールはイニストラードに導かれていた)、我々は各セットそれぞれに1体ずつのエルドラージの巨人を割り当てし、『戦乱のゼンディカー』はウラモグに焦点を当てることにしたのだった。
『カラデシュ』
『カラデシュ』(ショーン・メインとの共同デザイン)は、チャンドラの故郷のためのクールな発想から始まった。『マジック・オリジン』では、5人のプレインズウォーカー(ゲートウォッチの最初の5人)の物語が語られ、我々はそれぞれの故郷と最初に渡った次元を示さなければならなかった。チャンドラの来たところを示す全ての情報を踏まえて、我々はアーティファクトを軸としたスチームパンク風の世界が必要だとわかった。クリエイティブ・チームは世界を構築し(あるいは少なくともカードで描けるだけのものをつくり)、開発部がそれを非常に気に入ったので、次元の訪問順がすぐに入れ替えられることになった。その結果、我々が「前フリ」と呼んでいる、将来クールにするために自分に出すトスを作るためのかなりの努力に繋がった。
したがって、『カラデシュ』の目標は「チャンドラの出身世界を具現化する」であった。つまり、アーティファクト要素があることはわかっていた。『マジック・オリジン』のための設定に合わせて発明家の世界というアイデアを採用し、強いシナジーとジョニー/ジェニーらしさを持つようにした。このことから、先行デザインにおいて、長年話し合ってきたエネルギーと機体の採用に繋がった。
『アモンケット』
『アモンケット』(イーサン・フライシャーとの共同デザイン)は、トップダウンのエジプト風セットをデザインする、と、ニコル・ボーラスの雰囲気を再現したセットをデザインする、という、2つの単純な目標から始まった。2つの目標に問題がないと考えた理由は、この2つにはかなりの重複があるように思えたからである。エジプトは何年も前からトップダウン・ブロックの候補に上がっていて(そこから生まれたのが『神河物語』である)、ついに作るべきときだと感じられた。興味深いことに、この2つのテーマは実際には違う方向に推すものであったが、お互いにシナジーがあるように感じられたのだ。物語がかなり初期からセットのデザインの鍵となっていたのは、私が作ったセットの中でも数個しかない。これが我々の英雄たちが悪意を持った敵に打倒されるという第1幕の終わりであることがわかっていたので、デザインでも不協和で危険な雰囲気を再現することが重要だったのだ。
『イクサラン』
『イクサラン』(ケン・ネーグル/Ken Nagleとの共同デザイン)は、最初に予定表に記した時に私が認めた目標と、セットを実際に始める時点での目標が異なっているという興味深いセットである。クリエイティブ・チームはコンキスタドールの吸血鬼を元にした世界を作っており、私の第一印象は、リチャード・ガーフィールドが「Vampire: the Eternal Struggle」のために作ったメカニズム(「優勢」)を使い、1つの資源を求めて3つの陣営が戦う世界にしようというものだった。『コンスピラシー:王位争奪』はそれを統治者メカニズムとして使用することになり、私は始点として使う新しい目標を探さなければならなかった。
『イクサラン』の私の目標は、本質的に「クリエイティブ・チームが作ったこのクールな世界のためのメカニズム的核を見つける」だったのだ。そして私は、海賊と恐竜がエキサイティングな新しいものである(吸血鬼にもクールな新しいひねりが加わっている)という結論に到り、(2色の陣営2つと3色の陣営2つという)もともと『タルキール覇王譚』のためにデザインした陣営構造を用いた部族テーマを選んだのだった。
『Unstable』
『Unstable』の目標は(作る、ということを除いては)「過去の銀枠セット以降に開発された、新しいデザイン技術を使う」だった。注目すべきものとして私が選んだのは、まとまりのある世界を作ることと、陣営を使うことだった。こうして、なんとなくスチームパンク風の、マッド・サイエンティストの世界を作ることになった。そこから、デザイン・チームは友好色の陣営5つを作り、からくりに取り組むことになったのだった。
『ドミナリア』
『ドミナリア』の目標は、「ドミナリアの過去の最高のものを選び、それを新しい世界の扱いと同じように感じられる形で提供する」という手強いものだった。言い換えると、ドミナリアを昔懐かしい世界だと感じられるようにしたままで、現在の世界構築の標準に引き上げられる形に再生成するということである。かなりの分析が必要になったが、最終的に、現在はその世界の過去によって定義されている次元、という「歴史世界」という発想に行き着くことになった。こうして生まれたのが、歴史的、英雄譚、「伝説の」テーマである。このセットは、私が唯一目標を達成できるかどうか確信を持てない状態でデザインを始めたセットだった。
『ラヴニカのギルド』
『ラヴニカのギルド』(と展望デザイン・チームを共有している『ラヴニカの献身』)は、「ラヴニカを、プレイヤーが愛した部分をそのままに新鮮だと感じられるように再導入する」だった。また、これはボーラスの物語の第3幕の始まりだということもわかっており、ボーラスの存在がセットや世界に影響を及ぼすようにしようと考えていた。私の最初の発想では、セットを組み上げる中でも混乱を起こそうと考えていたが、『Milk』(『ラヴニカの献身』の次のセット)がラヴニカを舞台にした非常に特殊なものになるのだから、最初の2セットはユーザーが知るラヴニカ、ギルドのセットにする必要があるのだと説得された。ユーザーに非常に特殊なものを提供することになっているのだから、まずは少しの雰囲気の変化はあっても、ユーザーが安心できるものを提供することから始めようと考えたのだ。
目標へ!
今日に記事が、デザインの目標にどれほどの幅があるのかを示せていれば幸いである。創造的にデザインする方法は唯一ではないのだ。実際、我々の成功の秘訣の中には、我々が意図的に異なった方法でデザインに挑んでいることがあると考えている。いつもの通り、この記事や私が話題にしたセットについての諸君の感想を聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それでは3週後(これから年末休暇なのだ)、『ラヴニカの献身』のプレビューを始める日にお会いしよう。
その日まで、あなたが人生の問題に新しい視点から挑みますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)