Translated by Yoshiya Shindo

キーワードメカニズムの自伝

スプライス 著

まず最初に、今回のコラムが、いつもの真実や気品を犠牲にしてメカニックのすべてを暴露する類のものではないことを表明しておく。今回この本を書いているのは、私が自分の物語を世界中と分かち合いたいからだ。ここで説明するのは、フィフス・ドーンのちょっとしたデザインが、どうやって神河物語のキーワードメカニズムになったかという話だ。私の文章が、デザインファイルの中でいつか偉大なるゲームにたどり着くことを夢見ているメカニズムたちに訴えるところがあることを願っている。

第一章――二つのメカニズムの出会い

私の物語は、私がまだ父親の目の輝きだった頃から始まる。話を先に進める前に、まずは微妙な問題を語っておこう。そう、我が父とはマーク・ローズウォーターだ。確かに彼は多くのメカニズムの生みの親だが、多くの味気の無い本で語られているそれらの物語は、真実の上辺でしかないのだ。そう、彼はメカニズムを作るのが好きだが、彼はそれをしばしば意識の奥底にしまいこむ。しかし、彼が求めるものを探そうとする際には、いつもこれがゲームに最良のものとなる。記憶の曲がり角の陰に隠れているメカニズムを見つけてふさわしい場所を与える記録に関しては、誰も追いつけていないのだ。しかし、父親の話はもういいだろう。話を自分に戻そう。

私はとあるプロツアーのフィーチャー・マッチ・エリアで生まれた。父はその時ジャッジであった。マッチの観戦中、彼はあるプレイヤーが、あるカードをキッカーつきで使い、次にあるカードをフラッシュバックで使ったのを見た。これを見た彼は、この二つのメカニズムを組み合わせたら何が起こるかを考えたのだ。彼がなぜこの接点に思い至ったかは定かではないが、そうでなかったとしたら私はここで物語を語ってはいないのだ。とにかく、その瞬間に私はぼんやりと姿を現した。彼は考えた。あるカードについたフラッシュバック風のコストで、別なカードにキッカー効果を付け加えるとどうなるだろうか、と。本質的に、それは墓地にいる携帯型キッカーだろう。

彼はやる気になり、サンプルのカードを書きつけた。その時、私は自分の名前を得た――それは“抱き合わせ”という名だった。

狙って撃て
{R}
インスタント
クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。[カード名]はそれに2点のダメージを与える。
抱き合わせ ― 1R(このカードが墓地にある場合、あなたは抱き合わせコストを支払ってこの効果をプレイしている呪文につけてもよい。)

私の最初の姿について、いくつか興味深い点がある(後に明らかになるが、私は成長に従って数多くの変更を受けた)。第一に、最初の段階から基本の効果と融合させる効果が同じだった点だ。この二つは明らかに別々にすることが可能だが、それが美的観念をめちゃめちゃにすることを父も理解していた。第二に、この呪文は、第二の呪文としてスタックに乗るのではなく、存在する呪文に付け加える呪文としてデザインされている。その理由は、これがキッカーから思い浮かんだというのが主だ。さらに、これまでのどのメカニズムも他の呪文に融合することはなかったので、私をこのように作ることで新たな領域の開拓ができるだろう。

プロツアーから飛行機で帰ると、父は私のために数枚のカードを作った。それから? 彼は私を意識の奥にしまいこんだのだ。確かに人聞きは悪いかもしれないが、これは皆さんが思うほど孤独なことじゃない。父は多くのメカニズムをそこにしまっていた。私は“染色”という名のテンペストの却下されたメカニズムや、単に“毒”として知られているメカニズムと親友になった。毒は一晩中かけて父が自分のために考えている計画について語るのが好きだった。「いつか、さ」と彼はいつも言っていた。「いつかだよ。」

ただ、父が非常に多くのメカニズムをつぶしてきていることに対して皆さんが騒ぎ出す前に、デザインの命中率は皆さんが考えているよりも遥かに低いことを言っておきたい。その理由は二つ。第一は、多くのメカニズムは、ありていに言って、面白くないことが判明するから。第二は、私のようなよいメカニズムは、入るべき正しいセットが必要になるからだ。十分面白いだけでは十分ではないのだ。君の周りのメカニズムにも納得していただきたいものだ。そんなわけで、私は“裏小屋”に格下げされた時も、恐れはしなかった。自分には特別な何かがあったし、父はいつか私に完璧な居場所を見つけてくれるだろうと信じていたのだ。

第二章――夜明けの中断

そして、棄却メカニズムとしての人生を送っているある日、私は倉庫から引きずり出された。父はフィフス・ドーンのデザインチームをやっていて、呪文のメカニズムが必要になったのだ。特に、インスタントやソーサリーに使える単色のメカニズムだ。そこで父は私を披露したのだ。チームは私を気に入ったが、私は彼らが必要としたものとしてはしっくりこなかった。彼らは 10 枚かそこらの穴を埋めるものが欲しかったのだが、私は明らかにブロック全体にまたがる大きさを持っていた。

ここでちょっと、サイズに関する余談を語ろうと思う。メカニズムに関して言えば、サイズは非常に重要な事項だ。デザイナーはそこからどのぐらいのカードが生み出せるかを把握する必要がある。作れるカードが5枚だけなら、サイクルのメカニズムになるだろう。8枚から 15 枚ほどまでいけるのなら、小型セットの第一候補になるだろう。しかし、16 枚以上のカードが作れるとなれば、デザイナーは大型エキスパンションを念頭にし始めることになる。私が父の頭の中に戻された基本的な理由がこれだ。私はフィフス・ドーンが必要とするものより大きかったのだ。最終的に、その栄誉は占術なるちょっとしたメカニズムが勝ち得た。

またそれに関連して、どれだけのメカニズムがセットとは無関係にデザインされるかも記しておこう。私は自分をフィフス・ドーンのメカニズムと呼んでいる。それはつまり、私が最初に考慮されたのがそのセットだからだが、デザインチームが私に与えていた日付はそれを数年遡る。フィフス・ドーンの議論において最も重要だったのは、私が父の同僚の何名かの注目を受けたことだ。ランディ・ビューラーとアーロン・フォーサイスの両名は、このメカニズムに目を通す機会を得た。これが後に重要な事項となってくる。

第三章――アースの結線

そんなわけで、私はさらに数ヶ月を父の頭の中で過ごした。クリエイティブな人物が何を追求しないかを選ぶことを知るのは面白いことだろうと思う。父は頭の中に何か奇妙なものが回っているようだ。しかし、私には私の運命があった。父は同じアイデアを数年にわたってはまる場所が無いか探すことで知られていたのだ。

話を自分に戻して、開発部は神河物語(当時はアースというコードネームだった――次はウィンドとファイヤーだ)のデザインを始めていた。その開始の時点で、デザインチームは日本の神話のイメージをセットの背景とすることにしていた。その世界では、自然界の生き物が別世界の精霊と戦争をしている。これはつまり、セットには何通りかの“現実世界”と精霊との違いが必要だということだ。

この考えを突き詰めていくうちに、面白い考えに至った。精霊が独自の魔法を持っているとしたらどうだろうか? それがどうなるかを考えていくことは、実際にはより大きな問題を招くことになった。その結果、当時は“神秘”と呼んでいた秘儀への道筋となった(詳しくは、父の先週のコラム秘儀的才能をお読みいただきたい)。もう一つ興味深かったのは、父はこのデザインチームには関わっていなかったのだ。しかし、ビューラー氏は(マジック開発部ディレクターとして)たびたび訪れていたし、彼は面白い呪文のメカニズムを常に見張っていたのだ。

ある日、ビューラー氏は父に私を復活させてはどうかと尋ねてきた。父はファイルを見ながら一つの提案をしてきた。私を秘儀呪文と直接結び付けてはどうか? あらゆる呪文に融合するのではなく。秘儀カードにのみ融合が可能にするのだ。ランディは喜んだ。父も喜んだ。そして神河物語のデザインチームも喜んだ。しかし、私の話はこれで終りではなかった。

第四章――墓地の事情

初期のテストプレイで、私は非常に面白いことがわかった。しかし、完璧ではない何かがあった。父の上司の上司(開発部の副部長のビル・ローズ)がその問題を指摘してきた。このセットには墓地に着目している異なる二つのメカニズムがある(もう一つは転生だ――デザイン当時は“不死”という名前だった)。ローズ氏は、墓地をテーマにしていないセットとしては、これは多すぎると感じていたのだ。そして彼は、思い切った提案をしてきた。墓地からではなく、手札からプレイ可能としてはどうだろうか? 誰もがそのアイデアを気に入り、開発部は私の調整を行った。

私が最初の頃からどこまで来たかを示すために、[狙って撃て]がどんなカードになったを示すのも面白いだろうと思う。

ご覧の通り、呪文の本質は時間がたってもそれほど変わってはいない。最も大きな変更は墓地が手札になったことで、その結果として使用方法やカードを使うタイミングが変わってきた。さらに、手札バージョンの私は、墓地バージョンよりも奇襲効果が大きいのも特徴だ。

第五章――安住の地

メカニズムにとって最大の興奮は、開発部がブロックの中でどのようにあるメカニズムを変えていくかを見ることだろう。私を使った面白いカードは神河物語の中に何枚も登場するが、神河謀叛や神河救済にどんなカードが出るのかにも注目していて欲しい。

さて、私がいかに無名のメカニズムから大規模なキーワードメカニズムとなったかを、数章を使って語ってきた。ご覧の通り、キーワードメカニズムとなるには、時間と変わる意欲が必要だ。しかし、信念を貫き続ける限り、そこに限界は無い。そして、開発部がメカニズムを使い捨ての資源ではなく道具として見ていくことで、復活のチャンスもどんどん増えていっている。

私がお見せした舞台裏に、皆さんが喜んでくれることを願っている。

来週の父のコラムでは、反転の仕方を語られる予定だ。

それまでの間、変身の楽しみを理解してくれることを祈念しつつ。

スプライス・ローズウォーター