都からの話
新セットが公開されるたび、私は、デザインについてカード個別に深く掘り下げて語る記事を書くことが多い。つまり、いまこそ『ラヴニカのギルド』のカードについての話をするときなのだ。
《優しいインドリク》
カラー・パイについてかなり考えている人間として(そして現在の色の協議会を監督する協力者として)、私は、ある色があることをできるべきかできるべきでないかの議論にかなりの時間を費やしている。この好例が、緑が他のクリーチャーに対処することができるべきかどうかである。長年に渡り、緑が持っていた他のクリーチャーへの回答とは、さらに軽いコストでもっと大きなクリーチャーを出すことだけであったが、これによってしばしば防御プレイヤーはそれをブロックしなければならない(あるいはするほうがずっといい)状況になっていた。
これは、クリーチャーが脅威の大部分を占めるという(特にリミテッドの)平均的なゲームにおけるよい回答ではなかったので、我々は格闘メカニズムを生み出した。それによって緑は、他のクリーチャーに対処できるようになったが、自軍のクリーチャーを使うという条件のため、緑らしさを感じさせるものであり、クリーチャーに依存しているという緑の弱点を埋めてしまうものではなかった。
それでも緑にはもう少し必要だったので、我々は緑に他のクリーチャーにはダメージを与えるがそのクリーチャーは反撃されない「一方的格闘」を認め始めた。この能力はもともと赤だけにあったものだったが、我々は赤よりも緑にこれが必要だということに気づいたので、1種色を緑、2種色を赤にした。
それでもまだ充分ではなかったので、その次に我々が話し合ったのは「戦場に出たとき」(ETB)格闘するクリーチャーについてだった。私がよく使う指針の1つに、緑には、クリーチャーレス・デッキをプレイしている場合にもクリーチャーに対処できるカードがあるべきではない、というものがある。ETB格闘クリーチャーは、それ自身がクリーチャーなのでこのルールに反してはいないが、かなり灰色に踏み込んでいる。例えば、1/1で接死とETB格闘を持つクリーチャーを作ったとしたら、本質的には《殺害》を作っていることになり、それはあきらかに間違っている。
ここ数年の間に、我々はゆっくりとこの領域に足を踏み入れている。『運命再編』には、この能力を飛行クリーチャーに与えるエンチャントがあった。『タルキール龍紀伝』には7マナ4/5のドラゴンがいた。『異界月』には4/3の大鹿がいた。『イクサラン』には1/4の人間・射手がいた。『イクサランの相克』には、それを他のクリーチャーに与えるクリーチャーがいた。そしていよいよ、これを緑ができることの1つだと決める時期が訪れたのだと考えている。
同じゲームを長い間作り続ける上での課題の1つが、単純な部分の多くはすでに掘り尽くされていることである。例えば、イゼットは「インスタントやソーサリー関連」というテーマを持っている。過去のイゼットも、どちらも、それを持っていた。しかしながら、このテーマはイゼットを超えて存在しているのだ。このテーマは、多くのエキスパンションの青や赤で見かけられる。それはつまり、我々はこれまでに赤の「インスタントやソーサリー関連」カードを大量にデザインしてきたということである。新しいカードをデザインするにあたっては、我々はそれまで扱ったことのない空間を探そうとしなければならない。
そのための鍵は、我々がその色でしている効果を検証するにあたって非常に緻密であることなのだ。赤を例として取り上げてみよう。まず、単純な「インスタントやソーサリーが唱えられるたび、赤の効果を行う。」というものから始める。次に、思いつく限りの赤の効果を列記し、「インスタントやソーサリー」のテーマと組み合わせたことがないものがあるかどうかを探す。充分掘れば何か新しいものを見つけられることが多いのだが、同じテーマを扱うことになるたびにその捜索はどんどん難しくなっていく。これへの回答の1つが、過去に成功したカードで需要を満たすものを再録することである。
《弧光のフェニックス》のデザインは、デザイナーが新しい空間を掘り下げようとした好例である。フェニックスは赤。フェニックスと「インスタントやソーサリー関連」の効果と組み合わせたことはあっただろうか。探してみると、存在していることに気づくことになる。『基本セット2012』で、《チャンドラのフェニックス》というカードが作られている。赤のインスタントやソーサリー(やプレインズウォーカー)で対戦相手にダメージを与えたなら、墓地から《チャンドラのフェニックス》を手札に戻すことができるのだ。
それはつまり、なんとかしてそれと異なる新しいフェニックスを試し、作り上げる必要があるということになる。フェニックスが飛行を持ち、墓地から戻ってくるというのは定義づけているメカニズム的独自性なので、この空間において何かをしなければならない。《チャンドラのフェニックス》ではカードが手札に戻るので、再び唱えなければならないことになる。それでは、この新しいカードは直接戦場に戻るようにしたらどうか。次に、誘発条件を検討する。《チャンドラのフェニックス》はインスタントやソーサリーがダメージを与えることを参照する。この空間を避けなければならない。インスタントやソーサリーが唱えられることを参照するというのはどうか。
インスタントやソーサリーが1つ唱えられたあとで戦場に戻るというのは簡単すぎた。イゼットのギルドのメカニズムである再活があるので、2つでも簡単すぎることがわかった。そのため、3つ必要ということに決まった。最後に、少し違うようにするため、{1}{R}{R}で2/2ではなく、{3}{R}で3/2となった。
オレリアの再登場にあたり、我々はボロスの指導者である戦天使にクールな新カードを与えることにした。彼女は天使なので、当然飛行を持っている。指導者なので、ボロス・ギルドにおいて指導者は他者を教導することが当然期待されることから、彼女には教導を持たせたいと考えた。飛行と教導はそれだけでシナジーを持つが、神話レア(そして人気のある伝説のキャラクター)なのでもう少し何かが必要だった。問題は、彼女が彼女の仲間たちを助けるやり方をさらに強化すると同時にカードの他の部分とうまく噛み合うメカニズム的な方法を見つけ出すことができるかどうかだった。
彼女が、彼女の選んだクリーチャーを強化できるとしたらどうだろうか。彼女は戦闘のギルドであるボロスなので、タイミングは戦闘の開始時であるべきである。パワーを強化するのが一番有用に思えた。さらに、彼女は、ボロスの色である赤や白のクリーチャーに、各色に対応したキーワード能力を与えるようになった。一見すると、教導を使うためにはパワーが大きくなくてはならず、他のクリーチャーを強化するとオレリアの教導能力が使えなくなるので反シナジー的に見えるかもしれないが、彼女はその能力を自分自身に使うことによってより広いクリーチャーを教導することができるようになるのだ。また、彼女は赤白なので、彼女はトランプルと警戒の両方を得ることになる。
《標の稲妻》
デザインにおいて、大きくて派手な効果が注目を集めることは多いが、デザインにおいて大きな部分を占めるのは細かな部分に手をかけることである。《標の稲妻》はその好例である。
基本的に、このカードは、そのゲームで唱えたインスタントやソーサリーの総数に等しい点数のダメージを与える、という意図である。通常、それを数えるためには、唱えた後で呪文が置かれることになる墓地を確認することになる。問題は、イゼットのメカニズムがインスタントやソーサリーだけが持つ再活であり、再活によって墓地から唱えたカードはその後追放されるということである。通常の書式を使った場合、再活カードを(あるいは、少なくとも再活能力を)使うことを避けさせることになる。
それを低減するため、この効果に単純な拡張を加えた。単に自分の墓地にあるインスタントやソーサリーの枚数を数えるのではなく、追放領域にあって自分がオーナーであるものも数えるようにしたのだ。これによって、再活カードを墓地から使ってしまったとしても数えられるようになる。このセットに存在する、墓地にあるインスタントやソーサリーの枚数を参照するもう1枚のカード(《弾けるドレイク》)でもこの技術が使われている。
《力の報奨》
『ラヴニカ』で、我々は《力の種》というカードを作った。
このカードでは、同じ能力を複数回書くという、それまで使われていなかった書式が使われていた。これは、我々が望んだ機能(+1/+1効果を望む数のクリーチャーに、同一のクリーチャーに複数個という選択も含んで、割り振る)が、過剰に文章を重ねずにユーザーにわかりやすい方法で書くことが難しかったことからできたものである。この書式は、その問題に対する斬新な手法であった。この書式が好評だったので、それ以来何度も使ってきている。
《力の報奨》は、《力の種》へのちょっとした賛意である。緑白のカードへの賛意なのにこのカードが緑白でないのはなぜかという疑問があるかもしれない。その答えは、これは緑白のカラー・パイに属さないからである。(メカニズム的な重なりが一番大きい)緑と白を区別するため、我々は白には+2/+2以下の、緑には+2/+2以上の強化を割り当てている。従って、+3/+3は緑の効果であり、それが3つあるのは緑なのだ。
《庁舎の歩哨》
我々がデザインにおいて好むことの1つに、そのセットにある他のカードがそれほど推奨していない何かを推奨するカードを作ることがある。それらのカードは、そのカードを初手で取ってからそれが使えるようにしていくという楽しいドラフトの時間を生み出してくれるのだ。また、異なるテーマの、楽しいカジュアルな構築デッキを作ることもできるようになる。《庁舎の歩哨》はその種のカードの好例である。
ほとんどの部分では、『ラヴニカのギルド』は2ないし3色のデッキをドラフトしたり構築したりすることを推奨している。《庁舎の歩哨》は、5色全てをプレイすることを強く要請してくるのだ。そのデッキで何種類の色が使えるかに関わらずプレイできるということもあるが、それ以上に、5色全てが使えるなら最後の能力を使うことができる。そして、その最大サイズでこのカードを唱え直すことができるようになるのだ。2つ目の能力でこのカードを墓地に送ることができるのも面白いところで、3つ目の能力を何度も使うことができるようになっている。
《栄光の好機》
一見すると、我々が「あなたはこのゲームに敗北する。」という文をカードに書くなどとは考えないかもしれない。それでは、なぜ「あなたはこのゲームに敗北する。」と書かれたカードを唱える人がいるのか。そのカードが、プレイヤーのわずかな時間だけの価値があるからにほかならない。
一番最初の「あなたはこのゲームに敗北する」カードは、『アルファ版』で印刷されたものである。《Lich》は、「悪魔と取引し、その不利益はゲームに敗北することだ」というカードであった。ゲームの敗北は、約束というよりも脅威だったのだ。強大な力を手に入れるが、それには究極のリスク、つまり生命そのもの(そのゲーム)を失うリスクが伴っていたのだ。
2枚目の「あなたはこのゲームに敗北する」カードは、『アイスエイジ』の《Amulet of Quoz》であった。コイン投げを行ない、その敗者はゲームに敗北する。対戦相手はアンティ・カードを増やすことでコイン投げを防ぐことができる。アンティが含まれた理由は、プレイヤーが失うものがない状況で、死にそうになる前に、このカードを使うことをデザイナーが望まなかったからである。
1年後、『ミラージュ』では、ゲームに負けるというリスクを持ったカードが2枚登場している。
《禁忌の墓所》は、「悪魔と取引する」新しい黒のカードであった。一方、《最後の賭け》は、それとは少し異なっていた。それまでのカードでのゲームの敗北は、可能性だった。《最後の賭け》では、確実なものになった。それを唱えたら、それによって負けになる前に勝つ必要があったのだ。《最後の賭け》は、初めての目立ったゲームの敗北カードだろう。《最後の賭け》は『ポータル』では《最後のチャンス》として、『ポータル三国志』では《戦士の誓言》として再び作られている。
『オデッセイ』でも、「悪魔との取引」カードである《極悪な死》が作られている。
次の「あなたはこのゲームに敗北する」カードは『Unhinged』のパロディ・カード《Form of the Squirrel》(『スカージ』の《ドラゴン変化》が元ネタ)であった。このカードでは自分が1/1のリス・トークンに変化するので、トークンが破壊されたらそのゲームに負けるのだ。これは緑初のゲームの敗北カードであった。
『未来予知』では、初の「あなたはこのゲームに敗北する」サイクルである、契約サイクルが導入された。これらはどれも、唱えたターンにはコストはいらないが、次のターンに支払いを求める呪文だった。ゲームに敗北するのは、単にそのマナを支払うことを確実に求めるというだけのものだった。デザインに置いて、我々は他の不利益を実験したが、その結果プレイヤーはそのカードのコストを支払わないようにすることを考えるだけだったので、マナの支払いを渋りたくなくするためにゲームの敗北を用いたのである。
『アラーラの断片』の《不死のコイル》は、アーティファクト初の「あなたはこのゲームに敗北する」カードであった。このカードは黒のさまざまな《Lich》系カードと非常によく似たものだった。
《悪魔の契約》は、第4回「You Make the Card」で作られたものであった。このカードのデザインは、黒の「悪魔との取引」カードと赤の「後でのゲームの敗北と引き換えに今を手に入れる」カードの組み合わせである。
『アモンケット』の《栄光の幕切れ》は、《最後の賭け》の変種である。
『ドミナリア』の《リッチの熟達》は、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldの手によるデザイン向上版の《Lich》であった。
そして、《栄光の好機》に到ることになる。これもまた《最後の賭け》の変種であり、今回は多色なので白の要素が加えられている。ボロスの戦略といえば高速アグロである。この呪文は、対戦相手にとどめの数点を与えるためのターンを追加で得るというフィニッシャー・カードとして作られている。破壊不能というおまけによって、自軍のクリーチャーは追加のターンにも攻撃できるように生き残ることができるのだ。
どうやら、「あなたはこのゲームに敗北する」とカードに書く方法はいろいろとあるようだ。
《罪人逮捕》
このカードも、色の協議会の中でかなりの議論を巻き起こした。白にはパワー4以上のクリーチャーを破壊してきた長い歴史があるが、タフネス4以上を破壊する、ということは一度もなかった。白にできることなのだろうか。肯定的意見は、白は大型クリーチャーに対策できる色であり、4/1が「大型クリーチャー」なのに3/4が違うのはおかしい、というものだった。このセットには「タフネス関連」の小テーマがあり、このカードは定番の白の効果を調整しただけのものだという考え方だった。
否定的意見は、クリーチャーのタフネスを参照する色としては赤が存在しており、それは赤の除去は直接火力に関連しているからである、というものだった。しかし、赤は低タフネスのクリーチャーを殺すのに長けているのであり、高タフネスのクリーチャーを殺すのに長けているのではない。(これは、-N/-N効果を持つ黒も同様である。)高タフネスのクリーチャーを殺すのに長けた色は何色だろうか。青や緑は呪文でクリーチャーを殺す色ではないので、違う。
長い話し合いの結果、どの色も現時点ではしていないが、「大型クリーチャーを破壊する」ことができる白が一番近いという決定がくだった。ただし、これは、このセットで筋が通る類の効果であり、今後頻繁に行なっていくようなものではない。
《詭謀+奇策》
今日のテーマの色の協議会の話を続けるために、《詭謀》の話をしよう。このカードの目的は、軽い青黒混成のインスタントかソーサリーを作ることだった。青と黒の呪文の重なりが最も小さいため、青黒混成のインスタントやソーサリーを作るのが一番難しい。1種色である青は他のクリーチャーのコントロールを得ることができるのは明らかだ。しかし、黒はクリーチャー奪取の3種色であり、めったに行なうことではない。
問題は、『ラヴニカのギルド』のセットデザイン・チームは、これまで青黒混成で何度もやってきたもの以外の効果を求めていた、つまり、どこかで曲げを行なう必要があったのだ。黒はこの効果の3種色であり、カード全体としては奪取カードの限られた版なので(小型のものしか奪えない)、色の協議会はこのカードを承認したのだった。
《這い寄る恐怖》
青と黒はライブラリー破壊をすることが多いが、削ったときに誘発するその色のカードはあまり作ってこなかった。(このセットに存在する目立つカードについては来週話そう。)《這い寄る恐怖》は、削ったときにも唱えたときに得られる効果を得られるというカードである。
このカードについても、削ったときには色の制約がなく、例えば、青単色の自分削りデッキで青のできることではないライフ吸収をすることができてしまうという点が色の協議会で議論となった。個人的には、色の制約があるのは好ましいと思っているが、すべての版にそう書こうと思うと、既に文章が長いカードにさらに多くの文字を加えることになってしまうのだ。最終的に、黒以外のデッキで引いたときに死に札になるということが大きな不利益だと判断された。
都を離れて
さて、本日はここまでとなる。見ての通りまだ「C」までしか来ていないので、『ラヴニカのギルド』のカードについて語るのにあと数回の記事を書くことになる。いつもの通り、今日の記事や『ラヴニカのギルド』についての諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『ラヴニカのギルド』のカードについての話の続きをする日にお会いしよう。
その日まで、作ったときの我々と同じようにあなたが都の探索を楽しんでくれますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)