先々週から2週、『ドミナリア』のカード個別のデザインの話をしてきた。語るべきことが非常に多いので、すべてを語るためには3つもの記事を使うことになった。これがその3であり、最後の記事となる。

ラノワールのエルフ

 『ドミナリア』の一番最初からの目的の1つが、普通よりも注目される再録カードを多くするということだった。制限として、その再録カードはドミナリアを舞台としたセットからのものに限ることになっていた。早いうちから、(近年開発部がスタンダードでは出さないようにしている)1マナのマナ・クリーチャーを再録することを試みることが決まっていた。この枠が《極楽鳥》になるか《ラノワールのエルフ》になるかはわかっていなかった。

 それぞれがスタンダード環境にもたらす影響は異なっているので、両方のプレイテストが行なわれた。最終的に、《ラノワールのエルフ》のほうが象徴的であり、ドミナリアらしいと考えられたのだと思う。


モックス・アンバー

 最初の展望デザイン会議のときにホワイトボードに書き出したものの1つが、「モックス」だった。ドミナリアは初期のマジックと非常に深く関連しており、初期のマジックと言えば何枚もの超強力なカードで知られている。そしてその中には、モックス(《Mox Pearl》《Mox Sapphire》《Mox Jet》《Mox Ruby》《Mox Emerald》)があったのだ。ドミナリアを再訪するなら、ありうる中でもっともエキサイティングなものの1つは新しいモックスを作ることだろう。

 我々は長い年月の間にいくつものモックスを作ってきており、それらを定義づける共通する性質があった。

  • アーティファクトであること。 ― モックスは基本的に宝石なので、アーティファクトである。
  • 有色マナを出すこと。 ― 銀枠のモックスという例外(それはロータスでもある)を除いて、モックスはタップして有色のマナを1点出すことができる。どの色を出せるかが決まっているものも選べるものもあるが、いずれにせよ継続的に有色のマナを1点出すのだ。
  • コストが0点であること。 ― これもまた、同じ銀枠のモックスを例外として、これまで我々が作ってきたすべてのモックスは唱えるのにコストを必要としない。

 これら3つだけが必要条件なのだ。問題は、この3つを満たすようにすると非常に強力になりがちであるということである。(黒枠の)モックスは、どれもトーナメント環境で見受けられた。『カラデシュ』の時、我々はその世界にふさわしいモックスを作ろうとしたが、ユーザーが気に入るようなもので我々も印刷して満足できるようなものを作ることはできなかったのだ。デイブ・ハンフリー/Dave Humpherysは『ドミナリア』のセットデザインの間に揺らぐことなく、彼率いるセットデザイン・チームは新しいモックスを作り始めたのである。

 彼らが最終的に使った方法は、それをこのセットの伝説というテーマに結びつけることだった。戦場に少なくとも1体の伝説のクリーチャーまたはプレインズウォーカーが必要なので、他のモックスのように序盤の有利を得るという強力さはない。このモックスはどうなるだろうか。時のみぞ知る。


ヤヴィマヤの化身、ムルタニ

 マイケル・ライアン/Michael Ryan と私がウェザーライト・サーガを書いていたとき、(囚われたシッセイを救うために)ジェラードを再び呼び戻すというストーリーを始められるようにするため、ジェラードがウェザーライト号を離れる理由が必要だということになった。それは深刻なものが必要だということになり、ジェラードが親しい友人を失うという発想が生まれたのだ。

 当時、ミリーはすでにジェラードの最高の友人だった。そのことから、彼ら2人がもう1人とともに乗船する可能性が浮かんだ。乗員にエルフがいないことを我々は不満に思っていたので、私はその3人目をラノワール出身のエルフにしようと提案したのだ。これは最終的にロフェロスになった。

 これらのことから、我々はジェラード、ミリー、ロフェロスに3人をつなぐ背景となるストーリーをもたせたいと考えた。彼らはどのように出会ったのか。同時に、我々はまた別の問題に取り組んでいた。ウェザーライト号を率いるジェラードは、グレヴェン・イル=ヴェクとのラースでの初遭遇で敗北することになっていた。その敗北で、ジェラードが死なないためにはどうすればいいか。興味深いことに、我々はそれら2つの問題両方を解決できる解決策を見つけたのだった。ジェラードがミリーとロフェロスに出会ったのは、彼が魔法を学んでいたからというのはどうだろうか。あとの問題は、その師匠を考えることだった。

 私が、彼らの魔法の師匠をマローにするという大まかな構想を提案したのはそのときだった。元祖《マロー》(『ミラージュ』)は私にちなんで名付けられたので、ストーリーにおけるちょっとした個人的な味付けとして、私はマローを加えるのが好きだった。自然の精霊力に役割を持たせるのは難しかったが、霊的な先導者/師匠というのは完璧にふさわしかったのだ。こうして、《マローの魔術師ムルタニ》が生まれた。

 ドミナリアを再訪するにあたって、我々は、ストーリーに組み入れるため、マジックの過去に登場したキャラクターのうちどれが生きているのかを決めようとしていた。ほとんどの定命の者にとっては数百年という時は長すぎるが、マローの寿命はもっと長い。つまり、ムルタニは登場できるのだ。ストーリー・チームは彼を活かすうまい方法を考えついた。あとは、彼をカードとしてデザインするだけだった。

 私が注目していた発想は、ムルタニは、形を定めるたびに自然の異なる一面を象ったものになる自然の精霊だ、というものだった。(「同じマローを見る者は二人といない。」)私は彼がどんな森からでも自分を再生成できるという発想が気に入った。最初の版は、森を2つ生け贄に捧げることで墓地からムルタニを戦場に戻せるというものだった。フレイバーに合わせるため、我々はもう1体の伝説のマロー、《マローの魔術師モリモ》を思い起こせるようにした。モリモ同様、ムルタニも戦場に出している自軍の土地の数に等しいパワーとタフネスを持つようにした。その後、森を生け贄に捧げさせることから、ムルタニが数えるのは戦場でコントロールしている土地と自分の墓地にある土地すべてにした。

 元祖ムルタニが被覆を持っていたので呪禁を与えることも検討したが、これほど大きくなることができるクリーチャーに持たせてもあまり意味がないと判断された。そのかわりにトランプルを持たせた。セットデザインにおいて、「戦場に戻す」は「手札に戻す」に変更された。その影響を緩和するため、彼らは必要とするものを森だけでなく任意の土地にし、生け贄に捧げるのではなく手札に戻すようにした。さらに到達も持たせた。こうしてムルタニは紙の上に戻ってきたのだった。


ミラーリ予想

 私が初めてウィザーズの開発部に入ったとき、私は《道化の帽子》というカードに魅せられていた。『アイスエイジ』はその夏に発売されたばかりで、カードの人気から私はある理論を立てた。大型セットには「看板カード」が必要だと考えたのだ。私は、それを以下のように定義した。

  • どんなデッキでも実用できること。 ― これは、アーティファクトであることとほとんど同義である。無色でアーティファクトでないものが作られたのはそれから何年も後のことだった。
  • レアであること。 ― 当時、もっとも高いレアリティはレアだった。神話レアが作られたのも、それから何年も後のことである。
  • それまでマジックでは存在しなかったことをするものであること。 ― 当時マジックはまだ数年しか歴史がなく、今に比べて新規なことをするのはずっと簡単だった。

 私がデザインした最初の看板カードは、『ミラージュ』に入れた《にやにや笑いのトーテム像》であった。これは相手のデッキにあるカードを唱えることができるようにするという、それまで一度もやったことがなかったことができるようにするカードだった。

 『テンペスト』の看板カードは《占有の兜》になる予定だった。後の工程で、当時のルール・マネージャーが私にそのカードを変更させたので、最終的にはその枠のために私が考えたようなカードにはならなかった。

 諸君は《占有の兜》の原形を《精神隷属器》として知っていることだろう。ルール・マネージャーが交代したことで、私はそれを『ミラディン』でカードとして仕上げることができたのだ。

 『オデッセイ』の看板カードは《ミラーリ》だった。これは、自分が唱えたインスタントやソーサリーをすべてコピーできるようにするというアーティファクトだった。最初の版ではコストは7マナで、呪文をコピーするのには何も支払う必要がなかったが、プレイテストの結果それは壊れているということがわかり、コピーするのにコストが必要なようにしたのだ。

 私は、《ミラーリ》に人気が出るに違いないという考えを強調したので、ストーリーが書かれる時に、ストーリー・チームはそれを重要な要素とした。後に、また他のストーリーでも役割を果たすことになる。《ミラーリ予想》は、《ミラーリ》がドミナリアに与えた影響を元にしたものである。

 この英雄譚も逆順で作られたものだ。最終章では《ミラーリ》の能力を再現するため、呪文をコピーする必要があった。前の2章は、エキサイティングな最後のターンの準備を整えるため、インスタントやソーサリーを自分の墓地から戻すものになった。


テフェリーの誓い

 テフェリーがゲートウォッチに加わるので、新たな誓いが立てられることになる。すべての「誓い」は共通の構造を持っており、このカードも当てはめなければならなかった。誓いはすべて、戦場に出たときの効果と、プレインズウォーカーに影響する常在型能力を持つ伝説のエンチャントである。

 ほとんどの誓いにおいて、戦場に出たときの効果は、その常在型能力を使わなくてもカードを使う価値があるほど強いものになっている。テフェリーの場合、その逆になるようにデザインした。テフェリーは強力な常在型能力を持つが、戦場に出たときの効果(自分がコントトールしている別のパーマネントを明滅させる)は呪文のコストに見合うものではない。これはつまり、《テフェリーの誓い》は能力を活用できるだけの数のプレインズウォーカーが入ったデッキでしかプレイされないだろう、ということである。


始源のワーム

 このデザインもまた、内輪ネタだ。初期に非常に多かったものの1つが、{4}{G}{G}で6/4のバニラ・クリーチャーである《大喰らいのワーム》を通過するプレイヤーのサイクルであった。当時コモンで最大のクリーチャーだった(当時はコモンのクリーチャーは全体として小さかったのだ)ので、初めてこれを目にしたプレイヤーは他の何に比べても非常に大きかったことから興奮し、そしてそれを使った緑のデッキを作ったのだ。それから時間を経て、段々とこれは最初に思ったほど強くないということに気づいていくのだ。

 ドミナリアを再訪するにあたって、我々はマジックの初期から現在に到るクリーチャーの進化を表現するのは楽しいだろうと考えた。そのために、我々は{4}{G}{G}のワームを作り、どれほどの大きさにできるかを見ることにしたのだ。かなりの議論の結果、7/6に落ち着いた。


ラト=ナムの賢人

 『ドミナリア』には目を引く再録カードが大量に存在する。私はこれを、目を引かない再録として見るのが気に入っている。《ラト=ナムの賢人》は『アンティキティー』で初登場し、それ以来再録されたのは『基本セット第8版』の1回限りであった。

 このカードが私の心に残り続けていたのは、3つの理由があった。1つ目に、私は『アンティキティー』が大好きだ。私が初めてウィザーズに来たとき、私のお気に入りのセットはそれだった。そして私はマジックのデザイナーとしてあらゆる影響をそこから受けていたのだ。2つ目に、私は当時アーティファクトを基礎にしたデッキを大量に作っていて、そのほとんどは青を使っていた。そのため、私は《ラト=ナムの賢人》を大量にプレイしていたのだ。3つ目に、《ラト=ナムの賢人》は長年開発部でお決まりのジョークだった。ヘンリー・スターン/Henry Starnが1995年のアメリカ選手権で準優勝したとき、その大会に賞金はかかっていなかった。代わりに、彼は賞品としてマジックのカードを受け取ったが、その量は多いものではなかった。賞品として手にしたものの中に、アーティストのピート・ヴェンターズ/Pete Ventersがサインした《ラト=ナムの賢人》があったのだ。

 ヘンリー・スターンの最高のことの1つが、彼が何かに腹を立てたとき、彼は可能な限り一番おもしろい方法で吐き出すというところだ。そしてアメリカ選手権で準優勝した時の賞品の話をするとき、いつも「サインつきの《ラト=ナムの賢人》」に腹を立てていた。そしてこれは開発部のおきまりのジョークになったのだ。

 当時、ピート・ヴェンターズはウィザーズで働いていたので、我々は彼に大量の《ラト=ナムの賢人》にサインしてもらい、そして何かいい仕事をしたら人物に我々はサインつきの《ラト=ナムの賢人》を渡していたのだ。こうして、このカードは私にとって、プレイヤーとしても開発部員としてもいい思い出があるカードなのである。


密航者、スライムフット

 苗木テーマという発想が生まれたのは、(ウィザード・テーマと違って)展望デザインの間ではない。セットデザインのときに、ドラフトで黒緑にちょうどいいテーマがないことに気がついて作られたものなのだ。

 当時、このセットにはわずかな苗木が入っていたが、それはドミナリアの雰囲気を出すためのちょっとしたフレイバー的なものに過ぎなかった。セットデザイン・チームが苗木テーマを入れることを決めてから、彼らは苗木を作るカードを大量に増やし、その後でスライムフットなどの苗木を扱うカードを数枚入れたのだ。

 スライムフットは、アンコモンのドラフトの基柱カードとしてデザインされた。苗木を生成し、またそれを扱うこともできるということが我々は気に入っている。苗木を生成する能力が緑なので、それらを扱う常在型能力は黒であるべきだとなった。死亡誘発は黒らしいものなので、あと必要なのは黒らしい効果だった。これは基柱カードなので、セットデザインはこれが勝利条件を内包するようにしたいと考えた。その結果、苗木のプレイヤーが大量の苗木・トークンを出し、そしてそれから生け贄に捧げることで対戦相手に打ち勝てるようにするためにその効果を生命吸収にしたのだ。

 どこかの時点で、ストーリー・チームがこのカードはウェザーライト号の面白い乗員になると気づき、《密航者、スライムフット》が生まれたのだった。


ウェザーライト

 2016年夏の「PAX Prime」で、私はステージに上り、そして機体を初めて公開した。プレゼンテーションの後で、私はTwitterでその話題に触れた。一番最初の投稿の中で「いつの日かウェザーライト号を機体にできることを望んでいる。」と言ったのだ。そして『ドミナリア』のデザインで、ウェザーライト号を機体として作ることは疑いもなかった。あとは、どのようなものにするかだけだった。

 ウェザーライト号は当然飛行能力を持ち、そして充分大きいものだ。問題だったのは、それが一体何をするかだった。展望デザイン・チーム全体が、それは伝説の存在と何らかの関わりを持つべきだと強く感じでいた。長年に渡るウェザーライト号の目的は、ファイレクシア軍を止めることができる武器のかけらとしてウルザが作り上げたレガシーの発見であった。

 印刷版の元になった最初の版では、対戦相手に戦闘ダメージを与えるたびに伝説のカードを教示者することができるようになっていた。その版の問題は、常に同じ強力な伝説のカードをプレイすることが有利になるので、繰り返しになって特に楽しくないということであった。その後、このカードは自分のライブラリーの上から5枚の中からだけ教示者できるように変更された。これによって多様性が増え、大量の伝説のカードを入れることが有利になるようになった。

 包括としての歴史的を思いついてから、私はデイブ・ハンフリーに《ウェザーライト》を歴史的なカードを持ってくるように変更することはできないかと尋ねた。そうすればこのカードが元来できることに加え、同じくウェザーライト号が扱うべきだと感じられる、アーティファクトと英雄譚も選べるようになる。それ以降、数字のちょっとした調整以外には何も変更はなかった。


アーボーグの暴食、ヤーグル

 『神河物語』のあるデベロップ会議の間に(私は同セットのデザイン・チームには参加していなかったが、デベロップ・チームに参加していた)、我々はそのセットのすべてのレア・クリーチャーを伝説のクリーチャーにし、さらにアンコモンの一部もそうするということについて話していた。

 誰が言ったかは忘れたが、そのとき誰かが伝説のバニラ・クリーチャーはデザインできない、と言ったのだ。私はできると答え、そして相手の主張が間違っていると証明するため、《今田家の猟犬、勇丸》をデザインした。

 『ドミナリア』も伝説をテーマとしたセットなので、再び伝説のバニラ・クリーチャーという問題が浮上してきた。今回の解決策は、これまでバニラ・クリーチャーで存在したことがないだけでなく、マジック史上にも存在しなかった唯一のパワー/タフネスの組み合わせにするというものだった。最終的に、9/3に決まった。これが黒になったのは、(カラー・パイ的には赤でもあり得たが)黒がふさわしい場所だと感じられたからである。蛙・スピリットというフレイバーづけはあとで行なわれたものだと思う。


ランプのジン、ザヒード

 ドミナリアという次元は、多くのプレイヤーにとって多くの意味がある次元である。『ドミナリア』というセットを作るにあたって、それらの多くにそぐうようにするのが我々の目的だった。

 我々が扱いたい分野の1つが、芳醇なトップダウンのファンタジー要素だった。リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldが初めて『アルファ版』を作ったとき、ファンタジー要素を扱うカードを大量に作ったので、多くのプレイヤーはその雰囲気とドミナリアを結びつけている。

 《ランプのジン、ザヒード》は、ジンとそのランプという雰囲気を再現すべく展望デザイン中に作られたものである。これはマジックの最初のジンである(『アルファ版』からいた)《マハモティ・ジン》と同じパワー/タフネスとマナ・コストを持ち、そしてランプ、すなわちアーティファクトをタップすることを必要とする代替コストを持つ。最終版は非常にかわいいものになっていて、そのまま印刷に到ったのだ。

3つが終わって全部終わり

 ふぅ! わずか3週間で、『ドミナリア』の話をすべて終えた。(ああ、『ドミナリア』の話をたくさんした、ぐらいか。)いつもの通り、今日の記事や『ドミナリア』についての諸君の反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、英雄譚のできてから印刷に至るまでの進化について語る日にお会いしよう。

 その日まで、我々が作ったのと同じようにあなたが『ドミナリア』の楽しいプレイを楽しんでくれますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)