『アモンケット』語り その1
プレビューも終わり、ついにカード個別の『アモンケット』のデザインの話をする時期になった。覚悟を決めたまえ、いよいよ始まりだ。
《選定された行進》
マジックのデザインには私の大好きなことがいくつも存在する。その中で2つを挙げるなら、カウンターやトークンを作ることと何かを2倍にすることである。旧『ラヴニカ』において、私はこの2つを組み合わせる機会を得て、あらゆるカウンターやトークンを2倍にするカードを作った。様々な種類のプレイヤー向けのカードを作るためにかなりの時間を費やしてきたが、《倍増の季節》のデザインだけは自分向けのものだった。ただ私がマジックで見たかった効果だったのだ。それがセットのテーマに合っていたので入れたのだ。マジックのリード・デザイナーを務める上での特権の1つが、時折こういうことをできるということなのだ。
このカードがこれほど人気になるとは思っていなかった。明らかに、私以外の人々もカウンターやトークンと倍にすることの両方を大好きだったのだ。構築の大会に参加するプレイヤーの多数を占めることはなかったが、このカードは多くのカジュアル・フォーマットで愛されるようになった。その結果、何年もあとの『ゼンディカー』のデザイン中に、私はこれを再録しようとした。『ゼンディカー』には(私のデザインによくあるように)カウンターやトークンの強いテーマがあり、まさにふさわしかった。しかし、デベロップが取り除いたのだった。私が理由を尋ねると、彼らは、忠誠カウンターを用いるプレインズウォーカーを導入していて、《倍増の季節》と忠誠カウンターの組み合わせはスタンダードでは問題がある、と答えた。
その結果、我々は《倍増の季節》の変種カードをいくつか作ることになった。
《屍体屋の脅威》(『ラヴニカへの回帰』):このカードは+1/+1カウンターを置く効果だけをコピーするものだったが、その埋め合わせとして4マナで4/4のサイズを持つようにした。
《野生の活力》(『統率者(2013年版)』):このカードは《倍増の季節》を元に、カウンターに関する部分を+1/+1カウンターだけに絞ったものである。このカードは統率者戦で使うための2枚めの《倍増の季節》を提供するために作られた。
《似通った生命》(『イニストラード』):このカードは《倍増の季節》のクリーチャー・トークン部分だけを行なうものである。
そして、《選定された行進》は緑以外で初めての《倍増の季節》の変種カードである。基本的には色違いの《似通った生命》だが、1マナ重くなっている。これは、白はクリーチャー・トークンを作る上で数においてもっとも優れた色だからであり、大量の1/1トークンを作ることで、小さなクリーチャーの数で相手を押し潰す軍隊の色というフレイバーに則っている。このカードは特に不朽のある『アモンケット』では有用である。ほとんどのセットでは白は単に1/1クリーチャー・トークンを倍増させるだけだが、このセットではずっと、さまざまなクリーチャー・トークンを倍増させることができるのだ。
《倍増の季節》ファンの諸君、これから先も我々はその変種カードを作っていくことだろう。
《イフニルの魔神》
サイクリングは『テンペスト』のデザイン時にリチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldが作り出したメカニズムである。私はそのデザインにあまりにも多くのものを詰め込んだので、サイクリングはデベロップ中に取り除かれることになった。マイク・エリオット/Mike Elliottがそれを翌年の大型セット『ウルザズ・サーガ』で採用した。その数年後、『オンスロート』でサイクリングをいくらか変更した上で再録し、私はカードをサイクリングしたときに誘発するカードを数枚デザインしたのだ。
サイクリングが次に再録されたのは『時のらせん』ブロックで、その後『アラーラの断片』ブロックでも再録された。有用で、プレイして楽しく、ユーザー間での人気も高く、深いデザイン空間を持つメカニズムだと証明されている。サイクリングを再録するたびに問題になるのは、それを現在のセットとどう絡ませるかということであった。
『アモンケット』では、カードを捨てることを参照するカードが、同時にスタンダードに存在することになる『イニストラードを覆う影』ブロックのマッドネスとこのサイクリングの両方を参照できるということを発見した。これで、《霊体の地滑り》や《稲妻の裂け目》のようなカードを、さらにさまざまな効果を含むようにして作ることができるのだ。
サイクリングとマッドネスの両方でカードを捨てることが必要なので、最初は、誘発イベントとしては単に「あなたがカードを1枚捨てたとき」と書かれていた。しかしプレイテストの結果、その文でサイクリングを参照しているのだということを理解するプレイヤーは少なかったため、ルール上「サイクリングする」は「捨てる」で参照できるとはいえそれを明らかにするほうがいいと判断して「サイクリングするか捨てる」というテンプレートに改めたのだった。
《エイヴンの思考検閲者》
2007年5月、『未来予知』というセットが発売された。このセットの仕掛けは、「ミライシフト」カードという追加の枠が存在したことだった。ミライシフト・カードはマジックの将来の可能性からカードを収録したものだということになっていた。実際のミライシフト枠の目的は、メカニズム的、あるいはクリエイティブ的な将来の可能性を探るものだった。この意味では、ミライシフト・カードは大成功だった。メカニズム的にもクリエイティブ的にも、これらのカードがヒントになった未来のマジックは多いのだ。
もう1つ我々が試みた仕掛けは、ミライシフト・カードを再録できる(あるいはそのミライシフト・カードが「本来あった」ところになる)機会があれば再録する、というものだった。これは我々が想像していたよりもずっと難しかった。現時点で、来年何枚ものカードを再録することができているが、それは事前に計画してのことである。事前に計画しないでカードを再録するのは、非常に難しいものなのだ。
いくつか例を挙げよう。我々はいつかファイレクシアに汚染されたミラディンを再訪することになるということがわかっていて《サルコマイトのマイア》を作ったが、色付きのアーティファクトを『アラーラの断片』の断片の1つであるエスパーで使ったため、普通の色付きアーティファクトを『ミラディンの傷跡』ブロックで作ることができなくなった(色付きのアーティファクトを作るため、我々は最終的にファイレクシア・マナを使った)。
我々は探査をセットにねじ込んだ(『タルキール覇王譚』)が、ミライシフト・カードになっていた3枚のカードはどれもさまざまな問題を抱えることになった。《死に際の喘ぎ》は使われなくなっていたテンプレートを使っており、緑対策のフレイバーを帯びているのも問題だった。《論理の結び目》は優秀過ぎ、我々が必要とする探査つき打ち消し呪文はもっと単純なものだった。《墓忍び》はクリエイティブ的な理由で取り除かれ、後にクリエイティブが判断を改めた時にも思い出されなかった。
《幽霊火》は欠色メカニズムの元になったが、クリエイティブ的には欠色カードはエルドラージの影響を表しているのに対し、《幽霊火》はウギンの無色魔法を表していた。我々はこれをねじ込もうとしたが、それを正当化するようなストーリーはあまりにも無理があった。
《輝く透光》は、『テーロス』ではトークンでないバニラのクリーチャー・エンチャントは作らなかった(し、クリエイティブ的にも外れていた)ので使えなかった。《墓を掻き回すもの》は『イニストラードを覆う影』ブロックでのマッドネスの扱いと合わなかった(し、多少強すぎた)。インドのフレイバーに基づく《セトの虎》が『カラデシュ』で使えなかったのは、プロテクションを常盤木から外していたからである。
ときおり、状況が整ってミライシフト・カードをセットに収録することができることがあり、《エイヴンの思考検閲者》はそんなカードの一例である。イーサン・フライシャー/Ethan Fleischer(『アモンケット』の共同リード・デザイナー)は、リード・デザイナーを務めるたびにミライシフト・カードをチェックするのを常にしている。そして、この次元にはエイヴンがいて、このカードはメカニズム的に存在意義があるということに早期に気がついたのだ(瞬速は白で第2色だったのが第3色になってはいるが、それでも存在できないということではない)。
《風案内のエイヴン》
我々は多くのセットで、2色のドラフト戦略を決める助けにするために多色のアンコモンを作っている。この白青のカードでは、この2色が共有するメカニズムである不朽に焦点を当てることにした(不朽は赤と緑にも存在するが、それぞれ1枚だけである)。不朽を助けるにはさまざまな方法が存在する。
ゾンビ部族に焦点を当ててもいいが、それは普通にゾンビが存在する2色である白黒の仕事だ(他の色にもゾンビになりうる不朽クリーチャーは存在する)。不朽を行われたクリーチャーは全て白になるということに焦点を当ててもいいし、墓地で作用する能力を持つことに焦点を当ててもいい。最終的に、我々は不朽によってクリーチャー・トークンが生成されるということに焦点を当てることにした。
クリエイティブ・チームは最初この決定に反対だった。クリエイティブ的にはゾンビであるカードとゾンビであるクリーチャー・トークンには何の差もないからである。しかし、メカニズム的には違いがあるので、ときどき道具として使うのだ。
《ルクサの恵み》
プレビュー期間中に、ショーン・メイン/Shawn Mainにエジプトについて調査させてトップダウン・デザインで作ろうとしているものについてのさらなる理解を得ようとしたという話をした。彼の調査からわかった概念の1つが、肥沃な三日月地帯というものであった。ウィキペディアには、「肥沃な三日月地帯とは、乾燥した西アジア、ナイル川、ナイル川デルタにあって比較的湿潤で肥沃な地域を含む三日月型の地域である」とある。
肥沃な三日月地帯にはナイルの河口域につながる重要な部分が含まれており、その御蔭で過酷な砂漠に囲まれながらも文明が生き延びてきたので、古代エジプトにおいて非常に重要である。『アモンケット』を作る中で、我々は同じような雰囲気を出したいと考えた。《ルクサの恵み》はナイル川らしさを持ったカードをトップダウンでデザインしたものである。我々は、川の流れらしさと、川がもたらす恵みの両方を表すようにしたいと考えたのだ。
最後に、このカードからある技術を持ってきた。
《Homarid》は、メカニズム的に潮の満ち引きを初めて再現したカードである。《ルクサの恵み》では変遷する状態を4種類から2種類に減らしている。肥沃な大地は知識(カードを引くことで表される)かマナをもたらしてくれるのだ。カードを引く効果のほうが強力なので、その効果を先に得られるようにした。最終的に緑青にしたのは、自然の見事さと変遷する流れを示したかったからである。もちろん、この2つの能力は1つが青、1つが緑の能力である。
《媒介者の修練者》
-1/-1カウンターを使うブロックを扱うと、いつも「これは+1/+1カウンターとどう違う動きをするのか」という質問を受ける。大きな違いは5つある。1つ目に、+1/+1カウンターのほうが使い方が広い。+1/+1カウンターは成長を表し、基本的には無限に広がることができる。一方、-1/-1カウンターは縮小を表し、制限はずっと厳しいものになる。例えば、3/3クリーチャーがあるとして、ここに+1/+1カウンターなら必要なだけ置くことができる(パワーが対戦相手のライフ総量以上になったらそれ以上のパワーの価値は大きく損なわれるが)。一方、-1/-1カウンターは3つまでは意味があるが4つ以上は意味がなくなってしまうのだ。
2つ目に、使う先が異なる。+1/+1カウンターはクリーチャーを強化するので、自分のクリーチャーに使うことが多い。-1/-1カウンターはクリーチャーを弱体化させるので、相手のクリーチャーに使うことが多い。
3つ目に、+1/+1カウンターは攻撃寄りに、-1/-1カウンターは防御寄りになる。クリーチャーのパワーやタフネスが強化されると、それで攻撃したくなるものである。パワーやタフネスが弱体化すると、それでは攻撃したくなくなるものである。
4つ目に、+1/+1カウンターのほうが戦場に残りやすい。クリーチャーを大きくすると生き残る可能性も高くなるが、小さくすれば生き残る可能性は低くなる。
5つ目に、+1/+1カウンターのほうがデザイン空間がずっと広い。これはここまで示してきた全ての理由によるものである。組み上げる方法は崩す方法よりも多いのだ。
ここでこの話をしたのは、《媒介者の修練者》が今までにない-1/-1のデザイン空間を扱っているからである。これは-1/-1カウンターをコストとリソースの両方として使っている。2マナで3/4にしたければ、方法は2つある。1つ目が、-1/-1カウンターを他のクリーチャーに置き、小さなクリーチャーを1体犠牲にするか、クリーチャーを数体弱体化させるか、大型クリーチャーを1体かなり小さくするかするというもの。2つ目が、色マナを3回生み出せてそのたびに強くなる0/1クリーチャーを出すというものである(厳密に言えば、その中間という選択肢もある)。
-1/-1カウンターをコストとして用いるということは、本質的にはパワーやタフネスをクリーチャー間で交換できるようにするということである。-1/-1カウンターをリソースとして用いることには、上限を内蔵して+1/+1カウンターのように扱うことができるようにするという副次効果がある。全体としては、通常は不可能なデザインとなっているのだ。
《焼き尽くす熱情》
ウィザーズ・オブ・ザ・コーストに入ってマジックを作るようになる前、私はマジックのプレイヤーだった。私はジョニーで、突飛な勝利条件を持つありとあらゆる奇妙なデッキを作って楽しんでいた。しかし、あるとき、私は自分のスパイク成分に従い、強い競技用デッキを作った。当時誰もクリーチャーを使っていなかったので、私は相手が対応できるようになるよりも早く倒す緑青のウィニー・デッキを作ったのだ(第1ターンキルの手順を見つけられるだろうか)。
このデッキで重要なのは、小型の飛行クリーチャー(緑の《スクリブ・スプライト》と青の《空飛ぶ男》)をプレイし、それを強化して対戦相手に大量のダメージを与えることである。そのために、自分のクリーチャーに+3/+3の修整を与える1マナのカードが2枚入っている。《巨大化》には誰でも気づいただろうが、青にもこのカードがあるのだ。
《不安定性突然変異》は『アラビアンナイト』のフレイバーに富んだかわいいカードで、長期的には少しずつ弱体化してやがて死に至るという代償を持ってクリーチャーを強化するというものだ。青っぽくはない。初期のマジックでは、後に青ではないとして移動することになるさまざまなものが青に詰め込まれていたのだ。私は《不安定性突然変異》の大ファンだったので、これを正しい色に移動することができると気づいたときには興奮したものである。
まず、我々はこれをあるべき色に動かした。すなわち、短期的に考える色である赤である。フレイバーをいくらか手直ししただけで、カードそのものはまったく同じである(ああ、ルール的に厳密に言いたい諸君のために言うなら、この能力はクリーチャーに与えられるようになっている)ので、《不安定性突然変異》を唱える楽しみを知らなかった諸君にはその機会を得て楽しんでもらいたい。
《残酷な現実》《侵入者への呪い》
私のプレビュー記事の中で、呪いがトップダウンのエジプト風のものを列記した中でどう書かれたかという話をした。マジックにはすでに呪いのメカニズム的な再現が存在していたので、どう表現するかではなく何枚作るかという話になった。最終的には、少ないほうがいいという判断になり、『アモンケット』には黒に2枚だけ入れるということにした。黒が一番エジプトの呪いにふさわしかったからである。
1枚目の呪いである《残酷な現実》はギデオンが野望の試練の厳しい変化を目撃するという注目のストーリー・カードで、2枚目の呪いである《侵入者への呪い》は我々がほとんど手を付けなかった部分の、死の罠のかけられた墓所というエジプト風要素を扱ったものである。
《潰滅甲虫》
このカードは何度も調整を重ねたものだが、-1/-1カウンターをコストとして用いることを推奨するという目的のある黒緑のカードであるということは最初のデザインから変わらなかった。初期のデザインでは-1/-1カウンターを自分のクリーチャーに置くというメカニズムが存在していて(テーマとしては残ったがキーワードではなくなっている)、そのメカニズムを使うことを推奨するカードが必要だったのだ。
究極的に、このカードやこの種のカードで萎縮が消えることになった。対戦相手のクリーチャーに-1/-1を置くことと、リソースとして-1/-1カウンターを使うことは両立しないということがわかったのだ。例えば、-1/-1カウンターを何か有用なものに変換できるような相手に対して萎縮クリーチャーで攻撃するようなプレイヤーはいないだろう。
『アモンケット』は続く
今日はここまで。「D」までしか進んでいないので、もちろんこれで終わりではない。とはいえ、この記事や今日話題にしたカード(あるいは『アモンケット』全般)についての感想は楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、その2でお会いしよう。
その日まで、あなたがあなたの対戦相手に『アモンケット』の過酷な面を味わわせられますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)