秘儀的才能
私が受ける最も一般的な質問に、「アイデアが品切れになってしまうのが怖くないですか?」というものがある。一言で言えば、ノーだ。だけど、私のコラムが一言で終わったことがあったかい? 長めの回答をすることは、君たちみんなをちょっとした秘密へと招待することになる (我々だけの秘密だよ)。デザイナーは、一年に実際商品となるよりも多くのアイデアを生み出している。我々はアイデアの品切れどころか、実際にアイデアを溜め込んでいるのさ。
どうしてそんなことができるのかって? では、例としてフィフス・ドーンを取り上げよう。私がフィフス・ドーンのデザインをあれこれやっていたとき、私はメカニズムXを思いついた。私はカードを何枚か作って、それでちょっと遊んでみた。メカニズムXは非常に面白かった。そこで私は、それを組み込む場所を探し始めた。しかし、それは我々が現在埋めようとしているどの穴にもはまらなかったんだ。何か他のものを除いてこいつをはめることもできたけど、そっちはデザイン上極めて欠くことのできないものだった。そこで、私は今回のメカニズムを未来のデザインのために取っておいたのさ。こんなことはしょっちゅうだ。事実、神河物語のキーワードの一つが、このメカニズムX(少なくともその修正版)だ。しかし、それはまた別なコラムでの話ということにしよう。
今回は、違った種類のデザインの余剰分の話をしよう。私が“肉付きのいい血管”と呼んでるやつだ。ご存知の通り、ここ数年間、開発部は様々なデザインの領域を開拓してきた。その時々に渡って、デザインチームは色々な道を調べては、それがうまく動くかどうかを調べてきたんだ。たまには成功を収めるやつも歩けど、この手の進軍のほとんどは行き止まりで終わる。だからといって、デザイナーがそれで挑戦をやめるわけじゃない。今回のコラムは、そんな旅のうち、最終的に成功を収めたものの話だ。そのちょっとしたものは“秘儀”と呼ばれている。
秘儀の腕輪
まずは、そもそも秘儀とは何かを説明するところから始めたほうがいいだろうね。新しいキーワードつきメカニズム? いや。新しいクリーチャー・タイプ? いや。使命を帯びた登場人物で、全世界に渡る戦争を勃発だか停戦だかさせる人のこと? いや。秘儀は新しいサブタイプだ。インスタントとソーサリー用のね。それ自身の目新しさもそうだけど、最も興味深いのは秘儀が何をするか、というか何をしないかだ。
だが、話を現在に持ってくる前に、まずは過去を尋ねるところから始めようかと思う。最初のサブタイプはアルファ版においてリチャード・ガーフィールドによって生み出された。君たちもその名を十分知っているだろう――クリーチャー・タイプだ。以来数年にわたり、開発部はあらゆる種類のカードにサブタイプをつけてきた。アーティファクトには“装備品”ができた。土地には“神座”とか“ウルザの”とかがついた。エンチャントにも、エンチャント(クリーチャー)なんてサブタイプがある(事実、時としてこれがサブタイプとなることもある――ところで神河物語では新しいエンチャントのサブタイプが登場するけど、それもこのコラムで語る話じゃないね)。
開発部は、いつかはインスタントやソーサリーにもサブタイプがつくことを知っていたね。そして、その日がやってきたんだ。でも、インスタントやソーサリーについたサブタイプということが、秘儀の興味深い点じゃない。秘儀に関して整えられたデザイン空間の本当に興味深いところは、それが何もしないことにある。それは、何のルール上の面倒も持たないサブタイプなのさ。はぁ? 装備品とか、基本地形とか、エンチャント(クリーチャー)はすべて共通の重要な事項がある。それらはルール上の何かを抱えてることだ。装備品であることは、ルール上で何らかの意味を持っていた。それじゃ秘儀は? 秘儀のついた呪文は特別なことを行わない。まあ、秘儀がなくったって何も変わりはしないってことだ。
それじゃ、私は開発部がメカニズムに賭けているサブタイプを作った事実をインチキ臭く言いふらしているってことなんだろうか? まあね。それじゃ、何が興味深いんだろうか? その理由は、我々がサブタイプをマーカーとして使っていることにある。マーカーとは何か? マーカーとは、カードについた特別の情報で、そこに存在する以外に何の目的も持たない何かを意味する用語だ。面倒くさいかい? それじゃ、他のタイプのマーカーに使用例を取り上げてみよう。例えば、色。おわかりかと思うが、色はそれ単独では特に何も意味しない。マナ・コストにどの色マナが存在しているかを示していることを除けば、色は単なる特性に過ぎない。しかし、リチャード・ガーフィールドが《十字軍/Crusade》や《青霊破/Blue Elemental Blast》なんてカードを作った瞬間、色はメカニズムと関わることになったのさ。
存在秘儀
サブタイプを単純なマーカーとして使うというアイデアは、ここ数年にわたってみんなの頭の中にあった。しかし、それを思いつくたびに、当時のデザインチームはそれを入れる場所を見つけそこねてきたのさ。ただ、それも神河物語までの話だ。勇敢なデザイナーの一団は、神河ブロックの舞台背景に、このセットのメカニズムの元となるアイデアを発見したんだ。世界は“腐敗した神道”の世界となり、人々は自分たちの“神”が自分に宣戦布告してきたのを見つけた (なぜかって? それは是非とも神河物語の小説をチェックしてみて欲しい)。それはつまり、そこには二つの陣営(精霊と人類)の定義が必要だということだ――特に精霊側は、アーティストが非常に面白いビジュアル的なアイデアを盛り込んでくれたので、なおさらだ。
そしてある時、ブライアン・ティンズマン(かビル・ローズかマイク・エリオットかブレイディ・ドマーマス――私はチームのメンバーじゃないから、例としてチームリーダーを使っておこう)が、精霊には自分たち独自の魔法が必要だということを思いついたんだ。彼らには自身専用のサブタイプが必要だった。おそらく、今こそがサブタイプの領域に新たな一歩を踏み込むタイミングなんだろう。
秘儀鉄食らわせて
さて、神河物語のデザインチームは精霊たちに、当初は“神秘”と呼んでいた独自のブランドの魔法を持たせることにした。次の大きな一歩は、それをどう適切なものにしていくかということだ。そのやり方はいくつも見つかった (話をわかりやすくするために、色だとどうなるかの対応を例として示していこう)。第一は、特定のサブタイプにのみ影響する呪文(《非業の死/Perish》)。第二は、プレイするなり場に残るなりするために、特定のサブタイプの存在が必要な呪文(《Jihad》)。第さんは、特定のサブタイプのカードにボーナスを与える呪文(《十字軍》)。そして第四が、特定のサブタイプの呪文がプレイされたときに誘発するカードだ(《鉄の星/Iron Star》)。
テストプレイの結果、第四のカテゴリーが融通が利く点においてもデザイン空間の広さからも一番だったし、何よりも面白かった。内部的には、我々はその呪文を“たたり呪文”と呼んでいたよ(正直言って、私は“たたり”が何を意味するのかまったく知らないんだけどね)。一方で、我々はスピリットに対して同様のカードを作っていた。しかし、あるカードが秘儀呪文のプレイに誘発する一方で、もう片方がスピリットのプレイに誘発するというのは混乱の元だったので、デザインチームはこの二つのカテゴリーを一つにまとめることにした。いまや、“たたり呪文”は秘儀呪文かスピリットのプレイ時に誘発することになったんだ。我々は“たたり”をキーワード化することも考えたけど、最終的にその必要はないことに決定した。
最後に、神河物語はいくつかの異なった秘儀マーカーの使い方をしている。最も多くのカードは第四カテゴリーに属しているけど、秘儀がらみではデザイナーが他にも様々なやり方を作り出している(そして、あるメカニズムは全体で秘儀呪文にしか働かない――これもまた、別なコラムの話だ)。
何たるカード
そして、この流れで、今回のプレビューカードへ行こうと思う。それをお見せする前に、まずは別なカードについて手っ取り早く説明しておこう。神河物語では、転生というキーワード能力が登場する。転生はクリーチャーの誘発型能力で、クリーチャーが場から墓地に置かれたときに誘発する。これが起こったら、そのクリーチャーのコントローラーはその墓地のスピリット・カードのうち、点数で見たマナ・コストが転生の数値以下のものを1枚選んで手札に戻すことができる(転生の値は常にそのクリーチャーの点数で見たマナ・コストよりも1低い)。しかし、私の言葉で語るより、以下の公式総合ルールから引用したほうが早いだろう。
502.39.転生
502.39a 転生は誘発型能力である。「転生 X/Soulshift X」は、「このパーマネントが場から墓地に置かれたとき、あなたの墓地にある点数で見たマナ・コストがX以下のスピリット・カードを1枚対象とする。あなたはそれをあなたの手札に戻してもよい。」を意味する。
502.39b 1つのパーマネントに複数の転生能力がある場合、それぞれは別々に誘発する。
* 転生の数値は、対象に取れるスピリット・カードの点数で見たマナ・コストの最大値を意味する。
* 対象に取ったクリーチャー・カードを戻すかどうかは、能力の解決時に決める。
まあ、余談はこのぐらいにして、今日のプレビューカードといこう。
気に入ってくれるのが希望だね。前回の私のプレビューカードほどは驚きの表情にならないかもしれないけど、君もすでにいくつかの使い道を見つけているだろう。
来週は、なぜ我々がチャンピオン勇士なのかを説明していこうと思う。
それでは、またお会いするときまで。それまでの間、君の未来が過去に隠れていたのを発見することを祈念しつつ。
マーク・ローズウォーター