『イクサランの相克』プレビュー特集へようこそ。今週はデザイン・チームを紹介し、このセットがどのように作られたかの説明を始め、そしてクールなプレビュー・カードをご紹介しよう。楽しみにしてもらえれば幸いである。

『イクサランの相克』チーム

 チームを紹介する前に、なぜこのチームが平均的なデザイン・チームと少しばかり違っているのかを説明させてもらおう。昨年10月、私は開発部が採用した新しいデザインのシステムを紹介する記事(「展望デザイン、セット・デザイン、プレイ・デザイン」)を書いた。新しいシステムは『ドミナリア』から始まった。古いシステムは『イクサラン』で終わりとなった。そのため、『イクサランの相克』は奇妙なことになった。

 小型セットのデザインに必要な時間は短いので、『ドミナリア』の展望デザインは『イクサランの相克』のデザインが始まるよりも前に始まったが、新しいシステムは『ドミナリア』以降には存在しなくなる小型セット向けにはなっていないのだ。廃棄したばかりの古いシステムを使うのは奇妙なことに思われたが、新しいシステムに符合するものではなかったので、我々は急場をしのぐことにした。展望デザイン・チームとセット・デザイン・チームの代わりに、『イクサランの相克』では統合した展望/セット・デザイン・チームを立ち上げ、新しいシステムのもとでの最初のセット――のようなもの――にしたのだ。

 ほとんどのマジックのセットは、2組の目でレビューされる。『イクサランの相克』チームではそういうわけにはいかなかったので、彼らは自分の作業に慎重になるように尽力する必要があった。そのための方法の1つが、チームで少し入れ替えを行ない、工程を通して新鮮な目があるようにすることであった。その結果、デザイン・チームは通常よりも少し大規模なものになった。

ベン・ヘイズ/Ben Hayes(リード)

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 我々がこの伝統に反したチームのリーダーとしてベン・ヘイズを選んだのは、彼にデザインとデベロップの両方の技術があるからである。我々が彼を雇ったとき、彼はゲームデザイン・スタジオで働いていて、プロツアーで好成績を残していた。ベンは多くのデザイン・チーム(『異界月』『カラデシュ』『アモンケット』『イクサラン』)と、多くのデベロップ・チーム(『運命再編』『戦乱のゼンディカー』『カラデシュ』)に参加した。そして、いくつものデベロップ・チームでリーダーを務める機会があった(『統率者(2015年版)』『コンスピラシー:王位争奪』 『統率者(2016年版)』『霊気紛争』『Unstable』)。ベンはこのセットのリーダーにうってつけに見えたのだ。

 ベンとともに働く中で私にとって一番楽しいことのひとつが、彼は素晴らしいデザインとデベロップの感覚を併せ持っているということだ。彼は新しい空間を掘り下げていくと同時に、競技的カードを作ろうとし始めた時にその空間がどこに向かうのかをうまく把握しているのだ。大型セットによって作られた多くの前提をもとにする小型セットでは、特にこの技術の組み合わせが有用になる。これから見ていく通り、『イクサランの相克』を定義づけたものの多くは、『イクサラン』を補完するセットを作るということだったのだ。

メリッサ・デトラ/Melissa DeTora

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 メリッサが初めて我々の目に止まったのは、プロツアーでの成績を通してだった。彼女がマジックをよく把握していることは明らかで、プレイ・デザイン・チームの有力な一員となった。

 実際に彼女とともに働くまでわかりにくいこととして挙げられるのは、彼女が低レベルなプレイヤーについてどれだけよく理解しているか、である。メリッサは新規プレイヤーにプレイを教えることにかなりの時間を費やしてきており、経験の浅いプレイヤーがどこで混乱するのかについて優れた直感を身につけているのだ。

 これは、チームがマジックのセットにおけるふさわしい複雑さについてより良く把握するためにかなりの時間を費やしている『イクサランの相克』において重要だということがわかっていた。我々は過去数年、複雑な方に寄せすぎるという誤りを犯していて、『イクサラン』ブロックでは少し押し戻している。

マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb

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 マークはこれまで開発部でさまざまな仕事をしてきた。編集者。技術ライター。ルール・マネージャー。デベロッパー。そして現在はマネージャーとして、セット・デザイン・チーム全体を監督している。マークに関してあまり語られていないのは、彼が本当に優れたデザイナーであるということである。彼はこれまでに多くのセット(『ミラディン包囲戦』『ギルド門侵犯』『統率者(2013年版)』『タルキール龍紀伝』『イニストラードを覆う影』『霊気紛争』)でリード・デザイナーや共同リード・デザイナーを務めてきた。ベンはこれまでデザイン・チームのリードを務めたとはなかったので、マークはベンを助けるリソースとしてチームに所属することになった。

アレクシス・ヤンソン/Alexis Janson

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 ウィザーズ社外では、アレクシスがもっともよく知られているのは第1回グレート・デザイナー・サーチの優勝者としてである。(ところで我々は第3回グレート・デザイナー・サーチを準備している。参加に興味がある諸君は、こちらをクリック。)(訳注:アメリカの市民権が必要です)

 社内では、彼女は凄腕のプログラマーとして知られている。彼女はさまざまなデジタル・マジック・プロジェクトを手がけており、現在は『Magic: The Gathering Arena』に関わっている。彼女の多くのプロジェクトのために、アレクシスはしばらくの間デザイン・チームに参加できなかったが、ついに彼女が戻ってきてくれたのだ。彼女が10年前に優勝した理由は、たった1回の会議でわかった。アレクシスは『イーヴンタイド』『アラーラの断片』『ミラディンの傷跡』『ラヴニカへの回帰』のデザイン・チームに参加し、『ドラゴンの迷路』ではリード・デザイナーを務めた。

グレン・ジョーンズ/Glenn Jones

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 グレンはマジックのエディターの1人である。また、彼は非常に強いマジックのプレイヤーでもあり、可能なときには開発部がその技量を活用している。グレンは『統率者(2016年版)』『統率者(2017年版)』のデザイン・チームに参加していたが、サプリメントでないセットのデザイン・チームに参加するのは『イクサランの相克』が初めてであった。

 開発部に関して私が好きなところのひとつは、各人がそれぞれ自分だけの技術の組み合わせを持っていることであり、グレンも例外ではない。私は『Unstable』でグレンと密に協力した(彼はエディターであった)。そしていつか彼とともにデザインする日が来ることを楽しみにしていたのだ。

ショーン・メイン/Shawn Main

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 これがショーンにとって最後のマジックのデザインだったはずだ。彼は他の場所でゲームをデザインするために旅立っていった。ショーンがいないことを残念に思うだろう。私が初めてショーンのデザインを目にしたのは第2回グレート・デザイナー・サーチのときで、提示された問題に対して創造的な解決策を見出す彼の能力にはいつも楽しまされたものだ。彼と私は共同で『カラデシュ』のリード・デザイナーを務め、私は我々が作ることができたものに大変満足したのだ。ショーンはまた、『マジック・オリジン』『破滅の刻』でもリードを務め、両『コンスピラシー』セットではデザインを作るとともにリード・デザイナーを務めた。ショーンの今後の旅路に幸あれ。

シンシア・シェパード/Cynthia Sheppard

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 シンシアは『イクサランの相克』チームでクリエイティブとの連絡役を務めた。私はこれまで、まだ公開されていないいくつかのセットでシンシアとともに働くことができたが、彼女と働くのは本当に楽しかった。

 かつてマジックのイラストレーターだったシンシアは、アート・ディレクターとして開発部に入り、それ以来素晴らしい仕事をしてきた。彼女と彼女の率いるアーティストたちが『イクサランの相克』で描いたビジュアルを諸君にお見せするのが待ち遠しいかぎりだ。

エリ・シフリン/Eli Shiffrin

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 エリは現在のルール・マネージャーである。彼は私の銀枠ルール・マネージャーの仕事を助けてくれたので、彼と私は最近かなりやりとりをしたことになる。

 エリはルール・マネージャーに必要なとおり非常に緻密な脳みそをしており、またその技術をデザインに上手く適用する能力を持っている。彼はどのようにしてものが作られるのかを見て、分析して、それを組み合わせる新しいクールな方法を見つけるのが好きなのだ。彼はルールに関する知識を活かし、他のデザイナーが踏み込むことを恐れるような方向に進むことができる。

ヨニ・スコルニク/Yoni Skolnik

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 ベンと同様、ヨニもデザインとデベロップ両方の能力を見せている。彼は『アモンケット』『イクサラン』のデザイン・チームと、『戦乱のゼンディカー』『コンスピラシー:王位争奪』『統率者(2016年版)』 『霊気紛争』『モダンマスターズ 2017年版』『イクサラン』のデベロップ・チームに所属しており、『Explorers of Ixalan』ではリード・デベロッパーを務めた。

 ヨニはカードを見る非常に興味深い方法を知っており、いつも、他の誰も聞かないようなことを聞いてくるのだ。私にはヨニを自分の率いるデザイン・チームに入れることはとても役に立つということがわかっていて、ベンも同じように感じているのだ。

先への昇殿

 まず話を始めるにあたって、プレビュー・カードをご紹介しよう。これは新しい昇殿メカニズムを使ったものだ。

クリックして《若葉のドライアド》をご覧あれ!

 このプレビュー・カードを先に公開したのは、私が初めてこのメカニズムを知ったときの話をしたいからである。このセットの性質上、これは何年もぶりに私が参加していなかったデザイン・チームだったことを思い出してもらいたい。私がこのメカニズムを初めて目にしたのは、ベンとの確認に入るまさに直前だった。彼と私は何週間かに1回セット全体の話をするために会っていて、その会合の前に私はファイルを読んでいたのだ。では、私が初めて昇殿を見たときの反応はどうだったのかというと、

 私は「ヘラクレス!」と叫んだのだ。

 諸君のほとんどはこんな反応をしないことだろう。衆知の通り、『テーロス』のデザイン中に、我々はこんなカードをデザインした。

〈ヘラクレス/Hercules〉
{2}{G}{G}
伝説のクリーチャー ― 人間・神
12/12
あなたが12個のパーマネントをコントロールしていない限り、[カード名]では攻撃もブロックもできない。

 私はこのカードの大ファンだったので、デザイン・ファイルに入れて提出した。このカードが印刷に到ることはなかった。

 そのため、私がこれを『イクサランの相克』のメカニズムとして目にした時、〈ヘラクレス〉の動きが大好きだった私は興奮したのだ。

 興味深いことに、〈ヘラクレス〉と昇殿メカニズムの間には何の関係もない。両デザイン・チームに共通で参加した人物はいないのだ。平行デザインというのは本当によくあることだ。実際、2人が同じ課題を割り当てられて、まったく同じカードをデザインしてくるということはいくらでも例がある話で、同様に何年も間を空けてまったく同じカードがデザインされることもよくある話なのだ。(ケリー・ディグスは、私が長年セットに入れようとしていたカードである《獣性の脅威》のデザインについての記事を書いたことがある。(リンク先は英語))

 『イクサランの相克』チームは都市を巡って複数の勢力が戦うという雰囲気を再現するためのトップダウン・メカニズムをデザインしようとして、最終的に昇殿に行き着いたのだ。彼らは優勢のようなメカニズム(『コンスピラシー:王位争奪』の統治者など、プレイヤーが有利を得るために奪い合うゲームの要素)を試したが、最終的には純粋に数を得ることで戦いに勝つというアイデアを扱う昇殿に到っだ。

 古いメカニズムが別の形で最終的にセットに入るのを見るのはいつでも楽しいものだ。〈ヘラクレス〉が世に出ず、昇殿が世に出ることになった理由はなんだろうか。答えは閾値にある。

 まず、数が違っていた。当時我々はヘラクレスの12の試練にフレイバー的に関連付けるため、12という数にこだわった。しかし、12という数は少しばかり大きすぎたのだ。『イクサランの相克』チームは様々な数を試し、そして10がちょうどよかったということである。

 2つ目に、彼らはメカニズムを作っていたが、我々はカード1枚を作っていた。パーマネントを数えるというのはかなりの手間である。カード1枚で何かをさせるというのは単純に敷居が高いのだ。『イクサランの相克』での新メカニズムは1つだけなので、使える「このことに注目しなければならない」空間はより大きくなる。

 3つ目に、少しわかりにくいものだが、その実装の仕方がある。昇殿は、開発部語で言う閾値メカニズムだ。特定の条件を満たしているかを調べ、もし満たしていたらそのカードは何らかの形で強化されるのだ。伝統的に、閾値メカニズムは有効になったり無効になったりするものだ。ある条件を満たしていれば有効になり、満たしていなければ無効になる。つまり、ゲームが何らかの形で変わって条件を満たさなくなれば、閾値メカニズムは無効になるということである。現在、閾値メカニズムの多く(スレッショルドや昂揚など)を無効にするのは難しい。マジックでは墓地にはそれほど干渉しないものなので、一旦それらの閾値を満たすとそのままになることが多いのだ。

 一方、戦場のパーマネントに干渉するのはずっと簡単である。そのため、ゲームプレイの中で単にパーマネントを10個揃えるだけでなく、それを守ることも必要になるのだ。ヨニは、昇殿のために揃えるのは楽しいが、それを守るのは楽しいというより面倒だということに気がつき、一方通行切り替えとでも言うべき新しいことを提案した。プレイヤーが昇殿したら、局面がどう変わろうと、それは二度と失われないのだ。こうすることで、楽しい準備できる一方で、つまらないゲームプレイ(プレイヤーは昇殿状態を失いたくないので受け身になることが多い)を避けることができるようになる。

 閾値メカニズムの例に反するこのアイデアは賛否両論だった。ベンはヨニがこのアイデアを最初に出してきたときには懐疑的だったと認めているが、それでも良いリード・デザイナーがそうするように試すことにした。アイデアのコンセプトと、実際のゲームプレイには大きな隔たりがあるものである。楽しいとは思えないものが実際はとても楽しいということはあるものであり、昇殿もその一例だったのだ。(その逆もある。聞くだけなら楽しそうに思えるメカニズムの多くが、ゲームプレイ上の問題からボツになっている。)

「戻ってきた!」

 各陣営が黄金都市を奪い合うという主なストーリーの要素を再現する以外に、『イクサランの相克』には『イクサラン』を補完するという重要な役割があった。そしてその中でも重要なのが、恐竜、海賊、吸血鬼、マーフォークの4つのクリーチャー・タイプをさらにサポートするというものだった。 最初の2つと後の2つにはいくらかの違いがある。マジックには恐竜や海賊は多くなかったので、『イクサランの相克』ではそれらの部族向けのカードを作る必要が強かったのだ。

 恐竜については、ベンはその幅を広げるためにかなりの需要があるということを知っていた。色的に、それらは同じ並びに残ることになるはずだったが、ベンはそれをいくらか曲げたいと考えていた。彼とシンシアは、メガサウルスという巨大恐竜のアイデアを思いついた。ドラゴンをテーマとしたセットでドラゴンのサイクルを作ったのと同様に、巨大恐竜のサイクルを作ろうと考えたのだ。

 それを受けてクリエイティブ・チームは、それらをエルダー・恐竜にするというアイデアを返してきた。このアイデアにはいくらかの抵抗があった。『イクサラン』では陣営を成立させるために尽力していて、例外を作ることでその違いが薄れてしまうのではないかという懸念があった。しかしベンは断固として『イクサランの相克』では恐竜を大きくすることが求められていると主張したのだ。ベンはかなり説得しなければならなかったが、最終的に彼の主張が通ることになった。

 ベンは他に使えるものがないか過去の部族セットにも目を通した。彼は過去に我々が使った公開効果の、手札にあるカードがメカニズム的に意味を持つという利点を活かすことにした。また、彼は特定のクリーチャー・タイプのカードをライブラリーの中から探してきてライブラリーの上に置くことができるクリーチャーである先触れも試した。『イクサランの相克』はあらゆる部族要素を高めようとしており、特にカジュアル・プレイに向けた方法でそれが顕著だったのだ。

 海賊に関しては、ベンは『イクサラン』で使わなかったあらゆる元ネタを使いたいと考えていた。海賊の最大の強みは、フレイバーに満ちた元ネタの深さである。そこで、ベンはそれをさらに推し進めようとしたのだ。海賊は元の色の中にとどまったが、ベンは多くの海賊デッキが使うためのフレイバーあふれる道具を増やすことを考えていた。

 吸血鬼とマーフォークはもう少し難しかった。マジックでは長年に渡り大量の吸血鬼やマーフォークが作られてきたので、ベンは『イクサラン』で作られたデッキに入れられるものをもっと作ることにした。その中には、『イクサラン』だけに存在する色、つまり白の吸血鬼や緑のマーフォークに寄せるということも、デッキを魅力的にするようなテーマをメカニズム的に扱うということもあった。『イクサランの相克』の大目標の1つが、『イクサラン』で作られたデッキにトーナメントで活躍できるような戦力を与えるというものだった。

 通常、私はこの種のメカニズムをもっと掘り下げて書くのだが、ベンは自分でもデザイン記事を書いているので(明日公開だ!)、私は彼の領域を侵さないことにしよう。私は参加すらしていないセットで、ベンは全体のリードを務めたので、彼のほうが魅力的なデザインの詳細について語るにはふさわしいだろう。

「おーい!」

 本日はここまで。いつもの通り、今日の記事や『イクサランの相克』についての諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、カード個別の話をする日にお会いしよう。

 その日まで、さらなる恐竜、海賊、吸血鬼、マーフォークがあなたを興奮させてくれますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)