前回と前々回の2回で、アヴァシンの帰還のデザインについて語ってきた。今回はカードごとにデザインに関する話をしていこう。話す内容はいくらでもあるので、早速始めようじゃないか。

 我々はイニストラードのデザインの際に、この5種類の土地を作った。

 それらの土地は、メカニズム的に重要視している5つの種族(人間、狼男、スピリット、ゾンビ、吸血鬼)の住処を表すものとして作られた。当時、我々はその5枚で完全だと感じており、それよりも大きなサイクルは意識していなかった。

 その後、闇の隆盛のデベロップ中に、デベロップ・チームはイニストラードに存在しなかった黒絡みの土地2種を投入するのはイカした考えなんじゃないかと思いついた。そのアイデアについて尋ねられたとき、私は、それもいいがそうなるとアヴァシンの帰還には残りの3種を入れなければならないな、と答えたのだ。

 人間の脳みそが対称性を好むという話は今までにも何度もしてきたとおりで、パターンを作るのであればパターンを完結させなければならない。そうしなければ、それを目にした人が不快感を覚えることになるのだ。このサイクルを完結させるべきだという意見はすぐに受け入れられ、我々はそのために3枚のカードを作ることになった。

 《錬金術師の隠れ家》と《僻地の灯台》は、その2色の重なっている部分を見いだすという意味で混成カードに似た働きをする。《処刑者の要塞》は、それよりも伝統的な金色カードに近く、それぞれの色から能力を持ってきてシナジーを作り出すような効果が組み込まれている。

 このカードは、反《ゾンビの黙示録》としてデザインされた。

ゾンビの黙示録
 

 変更点は、《栄光の目覚めの天使》はゾンビを殺すのではなく追放するという点である。これはフレイバー的にも良い(し、こうすることによって《ゾンビの黙示録》と同じ順番で、まずゾンビ、次に人間を処理するということができるようになった)。

 デザイン中に発生したデザイン上の難関についてはしばしば語ってきたが、デベロップ中に発生したデザイン上の難関についてはほとんど語ってこなかった。その例を挙げるなら、このカードである。エリック・ラウアー/Erik Lauer(デベロップ・リーダー)は、スタンダードにある対応しなければならないカード(ファイレクシア・マナ絡みとか《出産の殻》とか)の対策を求めていた。彼は、プレイヤーが追加コストを支払えないようにするということを考えていたが、フレイバー的にこのセットにふさわしくする方法が思いついていなかった。

 最終的には、ライフを支払ったり生け贄に捧げたりするといえば黒だ、ということに気付いたことで解決が見えた。強い黒対策要素を含んだ天使を作ることは、白が善の象徴で黒が悪の象徴であるこのセットにおいては非常に容易だったのだ。白の、黒対策カードらしく見えるような文章を付けることもできた。この助けになったのは、天使は黒以外のクリーチャーだけを強化することで対黒戦線を再構築しようとしているというフレイバーだった。

 アヴァシンの帰還のデベロップ・リーダーは、マジック殿堂顕彰者のデイブ・ハンフリー/Dave Hampherysであった。デイブの目標の1つに、可能な限りフレイバーに富んだ繰り返しを詰め込むということだった。これらの3枚のカードは、天使というフレイバーを抽出するにあたって有用なメカニズムだった。

 アヴァシンの帰還における大きな課題の1つに、天使は白だというクリエイティブ上の制約下で、より多くのデッキに天使らしさを纏わせたいというものがあった。このアーティファクトは(白の天使を作り出すし)フレイバー的にもそれっぽいにも関わらず、白を使っていないデッキにも入れることができるという傑作だ。

 アヴァシンの帰還のデザインの初期には、禁断メカニズムをふんだんに使っていたが、デザイン中に取り除かれることになった。それでも、アヴァシンは「自分の仲間を守る」という性質を持っていたので、私は彼女が全てのダメージを軽減するものだと信じていた。

 その後、アヴァシンは防御的ではなく攻撃的なものになり、他のクリーチャーを破壊するようになった。これは彼女が戦士としての性格を持つということを意味している。私は強く反対した。私は、このセットにおける彼女の役割を救済者だと考えていたのだ。彼女の帰還は流れを変え、土壇場で勝利をもたらすものなのだ。だから、私は、先に言った、防衛者として振る舞うアヴァシンというデザインを主張した。

 やがて、彼女はすべてを破壊できないものにする、というイカした発想が出てきて、我々は方針転換した。その後デベロップ中になされた変更は、強力すぎると判断されたトランプルが彼女から取り除かれたことだけだっただろう。

 この3枚のカードからなるサイクルは、アヴァシンの帰還をより天使中心のセットにするためには何ができるかと考えているうちに出来てきたものだ。ブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuth(主席クリエイティブ)は、全ての天使は白でなければならないと決めていた。デザイン・チームは「白単色でなければならないのか?」と尋ね、ブレイディは「いいや」と答えた。そこで、話が始まったのだ。

 黒は孤立した悪の色なので、白黒の天使を作ることが出来ないのは分かっていた。ということで、金色の天使は3種類作れることになる。デザインは3種類の金色の天使を提出したが、どれもデベロップ中に変更されることになった。デザインがつくったものよりもより派手なものに生まれ変わったのだ。

 この3天使に関しての話でお気に入りのものは、こちらからのものではなく、諸君から聞いたものになる。インターネット上でのこの3天使のあだ名は、「パワーパフガールズ」だというのだ。あのアニメの。そのアニメについて知らない諸君のために言っておくと、パワーパフガールズとは空を飛ぶスーパーヒーローの少女3人組だ。3人の服の色は、赤(ブロッサム)、青(バブルズ)、緑(バターカップ)だ。能力や性格についても話す余地があるだろう。

黄金夜の刃、ギセラ》 アート: Jason Chan

 他によく受ける質問は、「《黄金夜の刃、ギセラ》が、《鷺群れのシガルダ》がなのに、なんで《雪花石を率いる者、ブルーナ》の色マナがなのか」だが、これは、多色マナ・コストの表記ルールによるものだ。マジックの編集リーダーデル・ローゲル/Del Laugelが遠い昔、「Ask Wizards」のコーナーで語った(リンク先は英語)マナ・シンボルの順番についての内容を引用しよう。

 現在の(そして最終の!)マナ・シンボルの順番を決める規則は非常に単純なものです。マジックのカードの裏面を見て下さい。色の五角形が描かれているのがおわかりでしょう。時計回りに、色の順番は白、青、黒、赤、緑、白、青、黒――と並んでいます。マナ・シンボルの組に順番を付ける場合、この順番で色を探します。そして、その並びの間に挟まる色の数が少なくなるように並べます。たとえば、白と赤があった場合、白赤の順番だと間には2色(青、黒)。赤白の順番だと間には1色(緑だけ)。従って、《ゴブリンの軍団兵/Goblin Legionnaire》のマナ・コストはになるのです。

 この地球上に、この私よりも「倍」という単語をマジックのルール文章に入れるのが好きな人はいない。私は自分のライフワークとして(......ライフワークの1つとして)、カード上の可能な限りのものを倍にしようと思っているのだ。では、《火炙り》のような「3倍」と書かれたカードを見たら、私は自問せざるを得ない。「まだ不充分だったのか!? 私は臆病だったのか!?」 《火炙り》のようなカードに出会うと、夜も眠れなくなる。

 X年にわたって作りたいと思い続けてきたカードが現実のものになった、という話はよくするが、このカードを初めて作りたいと思ったのはいつか? 15年前だ! そう、私が最初にインスタントでちらつきを作ろうとしたのはウルザズ・デスティニーの時だった。しかしデベロップはそれをソーサリーにしたのだ。そのカードの名前は《ちらつき/Flicker》という。

 

 このカードは全ての始まりだ。このメカニズムを最初に使おうとしたカードは、本来インスタントの予定だった。まあ、私が提示したものは、自分のパーマネントだけに限るものではなかった。完全に後付けだが、インスタントちらつき――カードがターン終了時ではなく即座に戻ってくる――のカードで対象にしたいのは、自分のパーマネントだけだろう(オーラを片付けるのにも使えるが、オーラぐらい見逃してやってもいいじゃないか)。

 実際のところ、ウルザズ・デスティニーで私が《ちらつき》を作った時、私は同じ色のコモン、アンコモン、レア各1枚からなる垂直サイクルを作ったのであり、《ちらつき》はそのなかのコモンとして作ったのだ。つまり、これは「ついに作られたインスタントの《ちらつき/Flicker》」というだけでなく、「ついに作られたコモンの《ちらつき/Flicker》」でもあるのだ。

 第三者から見るとデザイナーが印刷されたものを見たときに最も興奮するカードというのは驚くべきものだろうと思うが、このカードは私にとって五指に入るものだ。

 「明滅」は白と青の能力だが、これをサブテーマにしているセットにおいてはこのお楽しみを白と青だけに留めておく気はなかった。また、この「明滅」カードは私のジョニー心をくすぐったのだ。

 闇の隆盛が世に出たとき、私は《信仰無き物あさり》について「物あさり能力は(青だけでなく)赤にも与えられる。開発部は赤には赤の独自性を与えるつもりである」と書いたが、闇の隆盛ではまだその独自性は出ていなかった。独自性が表れたのは、このアヴァシンの帰還においてである。さあ、赤の物あさりが世に出る時だ。規則は実際のところ2つある。

その1) 赤はカードを引く前にカードを捨てる。赤は無謀の色で、青は策謀の色だ。両方の色で物あさりを認めるためには、その方法を変えなければならない。手に入れられる物が分からない段階で持ち物を投げ捨てる、というのは非常に赤い。手に入った物を見て検討してから決定するという青とは対照的なものだ。

その2) 赤は物あさりによってカード・アドバンテージを得られない。つまり、物あさりカードを使って手札を増やせるなら、そういったカードは物あさり半分、カードを引くこと半分になる。それは赤くない。ということで、これも規則になった。

 この規則には様々な注意点がある。まず、唱える時点でカードの枚数を数えるので、1枚を捨てて2枚を得るという赤のカードを作ることはできる。これは全体としてカードを増やすことにはならないからだ。次に、手札が空の状態からならカード・アドバンテージを得ることもあり得るカードは認められる(《危険な賭け》はその一例だ)。

 だが、ちょっと待って欲しい。上記のルールはどちらも青でも成立するのではないか? 青は常に上位互換のカードが作れるのでは? その通りだが、2つ。まず、それぞれ別々にコストを計算するので、赤の方が無謀さの見返りとしてコストが安くなる。次に、物あさり効果は赤のプレイスタイルと非常に相性がいい。赤なら最後の一押しとなる直接ダメージを引けば勝てるので、物あさりは全体として赤にとって良い効果なのだ。

 最後に、《悪鬼の血脈、ティボルト》のせいで赤と言えば無作為にカードを捨てることだと思われがちだが、そうではない。必要に応じて赤には無作為の手札捨てがありうるが、通常は――ほとんどの場合は――赤が手札を捨てるときも無作為ではないのだ。

 デザインとデベロップの仕事の仕方に、あらゆることの標準を定めるというものがある。マジックには多くの規則があり、特別な理由がなければその規則通りにやるものなのだ。ここでこれを取り上げたのは、この2枚のカードが、その所属するセットで意味がある場合にどのようにルールを曲げるのかという好例だからである。

 通常、黒は墓地から戦場に制限なくクリーチャーをリアニメイトする色である。白にもリアニメイトはあるが、それはクリーチャーのサイズに制限があるのが普通である。しばしば、白に小型クリーチャーを戻させることはあるという話だ。アヴァシンの帰還では、様々な理由から、この2つを入れ替えることにした。重大事件というわけではないが、カラー・パイ主義者として私はこのような変化がなされたときには自分の目を疑うことになる。

 私は、この変化が悪いことだと考えているわけではない。マジックの魅力のひとつには、セットの特徴を出すために自らルールを曲げることがあるということはわかっている。しばしば、完成品を見たときに少しばかり奇妙なことがあり得るというだけのことだ。

 デザイン上の技の1つに、必要なものを見つけ、それを満たすために複数の方法を探すというものがある。たとえば、アヴァシンの帰還において善なるものは「戦場に出たとき」というテーマを強く持っている。それを助けるために、そういった能力を複数回誘発させる複数の方法を探した。その1つが「明滅」であり、それについてはすでに少しばかり説明した。そしてもう1つの方法というのが、これらの2枚のカードである。

 カラー・パイにおいて、白と青はそれぞれ自分のクリーチャーを手札に戻すことができる色である。たいていの場合は、普通より大きなクリーチャーを出すための代償として行なわれるが、戦場に出たときの能力をフィーチャーしたセットにおいてはこれは代償ではなく長所となり得るのだ。あるセットにおいて重要であるということを主張するための方法として、その種のものを増やすというものがある。通常、セット1つにはあっても1個だ。アヴァシンの帰還では白と青それぞれに1個ずつ、2つも存在するのだ。

 このカードは本来イニストラードのためにデザインされた。当時は、第3セットがどうなるかはまだ決まっていなかったので、天使を作るカードというアイデアはそれほど奇妙だとは思わなかった。後に、アヴァシンについて決め、アヴァシンの帰還のテーマを天使と定めたときにふと振り向き、「これは場所が違うわ」と言ったのだった。

 そこで我々はエリック(当時、イニストラードはデベロップ中だった)と相談し、このカードをアヴァシンの帰還に移動させるべきだと伝えた。彼も同意し、このカードはアヴァシンの帰還に移されることになった。そしてその後のデベロップ中に、このカードは奇跡カードに変わったのだった。

 マジックのセットに対する、世界の見方とデザイン・リーダーの見方の一番の差は、世界は新しいカードを知ったときにマジック世界にどのような影響を与えるかを想像するということである。どのカードが自分のデッキで使えるか、あるいはどんな新デッキがその新カードで作れるかを考えるのだ。デザイン・リーダーは、定めたいろいろな目標を達成することを考えるものだ。交響曲を編み上げようとしているので、全ての楽器があるかどうかを考えることになる。

 このカードに関する項目でこの話をしているのは、このカードは世界から見て非常にわかりやすいカードだからである。このカードは何も注意を引くものではないが、このセットをまとめたデザイナーの1人である私にとってみたら、このカードはこのセットの目的のために完璧に役目を果たしている美の極致とも言えるカードなのだ。諸君に直接理解してもらいたいため、詳しい説明をするつもりはないが、私が取り上げるカードを選ぶガイドを見ると、このカードは私に笑みをもたらすものなのだ。エレガントで、完全に仕事を果たしている。このカードはデザイナーとしての私を満足させてくれるものなのである。

 デザインにおける最大の緊張の1つに、新メカニズムは面白くて新しいおもちゃだ、というものがある。全ての人がそのおもちゃで遊べるように、全ての色に新メカニズムを入れたくなるのだ。しかし、カラー・パイの示すとおり、マジックは全ての色が全てのことをできるわけではないからこそ楽しいのだ。つまり、異なるメカニズムを投入する方法を探すということは、色ごとに違うものを入れるということに他ならない。

 結魂を例に取ってみよう。最初にできることは、このメカニズムを全ての色に入れないことだ。色を分ける単純な方法に、ある色ではできて、他の色ではできないことを作るというものがある。結魂においては、黒以外の誰もが楽しめるようになっている。結魂は善なるものの能力であり、協力して悪を大地から追い払うものだ。アヴァシンの帰還においては、黒は邪悪そのものだ(これは、あくまでイニストラード・ブロックの話である。次のブロックでは白は完全に善ではないし、黒は完全に悪ではないという本来のマジックの世界に戻る)から、結魂を持たないのだ。

 次にできることは、複数の色にそれを得る方法を与えるが、同等にはしないというものだ。その方法には3つある。

 1つめに、ある特定の色により多くのそのメカニズムを入れることができる。特定の色に偏っているということたけでその役割を決める一部になるかもしれない。2つめに、そのメカニズムを持つ強力なカードを特定の色に入れるというものがある。色の長所を強調するための方法として、その色がデッキによく入るようにすれば良いのだ。3つめは、そのメカニズムを持たなくてもそれを強化するようなカードを特定の色に入れるというものだ。

 《花咲くもつれ樹》はこの3つめの一例である。見ての通り、我々は緑を結魂の色にすることにした。白には他にもいろいろな要素が必要であり、緑は白の持つ協力という性質を分け合っている色なので、緑により多く、より強力な結魂カードを入れることにするとともに、《花咲くもつれ樹》のようなカードを数枚入れることにしたのだ。

 このカードが強力な理由は、ドラフトにおいて、結魂を使っていないプレイヤーにとってはまったく無意味だが、結魂を使っているプレイヤーにとっては非常に強力だということが挙げられる。つまり、結魂を選んでいるプレイヤーはこのカードを簡単に手に入れることができるのだ。もし結魂を選んでいるなら、このカードを取ることをお薦めしておこう。状況によっては普通に使える程度に過ぎないが、本性を見せたらそりゃもうすごいカードなのだ。

そして物語へ

 今回の話はこれで終わりである。まだ頭文字「F」までしか進んでいないので、次回はこの続きをすることになる(え、タイトルを見てわかっていた? うん、まあ)。いつもの通り、諸君が私の話を聞いてどう思ったか、また質問があればそれも、聞かせて欲しい。

 それではまた次回、Gから始まる物語でお会いしよう。

 その日まで、アヴァシンの帰還のゲームに多くの物語がありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)