戦乱のゼンディカード その2
先週、カード個別(や、サイクル個別)のデザイン秘話をお伝えし始めた。今回はその続きだ。これは「その2」になるので、「その1」はもう読んでくれているものとする。
《彼方より》
このカードにはちょっとしたいい話がある。初期の『戦乱のゼンディカー』のデザイン会議で、『ゼンディカー』ブロックのメカニズムをすべて書き並べて、その重要性の順に並べた。そうして、どれを再録するかを決めるのだ。エルドラージ・落とし子・トークン(これはデベロップ期間中に末裔に変わることになる)はその一番上付近に書かれていた。そこから思い出されたのが《目覚めの領域》だった。
ただし、《目覚めの領域》には1つのちょっとした欠点があった。緑だったのだ。衆知の通り、『エルドラージ覚醒』では、エルドラージは黒、赤、緑に存在していた。しかし、この『戦乱のゼンディカー』では、エルドラージは無色にしたかったのだ(欠色という方法もあるが)。よし、それならこれの欠色版に移行させるしかない。
その移行はできたが、それでもなお少しばかり違うものにしたいと感じていたので、おまけを捜すことにした。充分な量のエルドラージ・末裔を並べたら、何をしたいだろうか。もちろん、エルドラージを出したい。最終的には、このカードを何度も使えないようにするため、エルドラージを手に入れるにはこのカードを生け贄に捧げることだ必要になった。こうして、《目覚めの領域》は《彼方より》に変わったのだ。
《面晶体の記録庫》
世界を再訪することの楽しみの1つが、前回登場したカードに目を向けることができるということである。かつて、『エルドラージ覚醒』には《夢石の面晶体》というカードが存在した。
私の記憶によると、《夢石の面晶体》の再録の可能性について議論したとき、私は、もう少し小さいものが欲しいと思った。そこで、小型版を作ることにしたのだ。元のカードを基本的にそのまま、全ての数を3分の2にした。
もちろん、これは次にゼンディカーを訪れた時に、タップして1マナを出すか、”{1}, {T}, 生け贄" でカードを引く、という2マナのアーティファクトを作る準備である。
《墓所からの行進》
このカードは、私や他のデザイナーがもっと大々的に使おうと思いながら1枚単位で使い続けているデザイン上の概念を使ったものだ。私が「胴回り/girth」と呼んでいるその能力は、特定の概念の合計を表す数字を使うというものである。今回の場合、その数字は点数で見たマナ・コストである。胴回りがメカニズム的に面白いのは、これを使うときにプレイヤーがその組み合わせ方を考えられるからである。大量の軽い同盟者が欲しいのか、数枚の重い同盟者が欲しいのか、という選択だ。
私が常々考えているのは、胴回りに制限をかけたくないということである。このカードは点数で見たマナ・コストを見るが、他のカードではパワー、また別のカードでは色マナ・シンボルの数を見るのだ。おそらく、いつの日か、信心と同じように、最大のデザイン空間を使うような単一の使い方を見つけだし、そしてそれを使うことになるだろう。何にせよ、将来のメカニズムの可能性を示していると言える。
《多勢》
2陣営の対立をデザインするのは非常に複雑な話になる。両陣営をメカニズム的に独立させすぎると、プレイヤーがドラフトしたり構築したりする上での可能性を摘み取ってしまうことになる。つまり、両陣営に渡ったメカニズム、戦略、シナジーがあるようにすることが重要だということであり、《多勢》はその好例と言える。
このセットには、大量にクリーチャーを出すことを勧めるようなカードが何枚も存在する。ゼンディカー側には「並べる」同盟者の戦略があり、大量の小型クリーチャーを戦場に出して対戦相手を圧倒するなり大量の結集効果を生み出させたりする。一方、エルドラージ側には末裔・トークンがあり、相手の攻撃を止めたり、マナを出して巨大エルドラージを出したりできる。
このことから、《多勢》は面白いカードになっている。どちらの戦略でも使えるだけでなく、別々の要素をつなぎ合わせたアーキタイプを作ることもできるようになっているのだ。
《突き抜けの矢》
マジックを作る方法の鍵の1つが、複数の工程が並行して進められているということである。たとえば、デザインがカード・ファイルに取り組んでいる間に、ストーリー・チームはその世界の世界観を記した文書をまとめている。この文書が重要なのは、この文書がアート・チームに渡って、世界構築の助けになるからである。つまり、我々がカードをデザインしている間にも、ストーリー・チームやアート・チームが構築している世界を参照することができうるのだ。
《突き抜けの矢》はこの手順がカード・デザインにどう影響しうるかをよく表している。ストーリー・チームが、エルドラージと面晶体の関わりをゴブリンが見つけて、面晶体のかけらを鏃として使い始めた、と設定した。デザイン側では、エルドラージ対策になるカード、メカニズム的に言えば無色のカードに効くカードが必要だとわかった。デザインの文書に《突き抜けの矢》を見つけて、我々はこれこそエルドラージ対策カードにふさわしいと気付いたのだ。
デザインは完全にトップダウンで、デザイン的、メカニズム的な要求にふさわしく、同時にストーリー・チームが表現したかった世界の一面を強調してくれていた。様々なチーム間のこういったやりとりが、より魅力的で総合的なセットを作る助けになっていると信じている。
《次元の激高》
ある日のデザイン会議で、私は単純な質問をボードに書いた。「覚醒とうまく組み合わせられる効果は何か?」覚醒は土地をクリーチャー化する。これが特に有効なのはいつだろうか。自分が他にクリーチャーを出していないときはどうか。さらに言えば、他の誰も他のクリーチャーを出していないときはどうだろうか。そう考えて、我々は「全体クリーチャー除去」とボードに書いたのだ。
ここから、次の質問が生まれた。「土地をクリーチャー化するのは通常の効果の前が良いか後が良いか?」どちらにするかによって、できるデザインは異なってくる。エディット・チームとの話し合いの結果、コストが増えて追加の効果が生じるのであれば、通常は追加される効果のほうを後にするものだ、と明らかになった。Aする。もっとコストを払って、AしてからBしてもよい。
幸運にも、これは全体クリーチャー除去とうまく組み合わさった。クリーチャーがすべて除去される前に土地をクリーチャー化したいとは思わないからだ。
《大草原の川》《窪み渓谷》《燻る湿地》《燃えがらの林間地》《梢の眺望》
レアの2色土地サイクルをどうするかということに関して、かなりの議論があった。ゼンディカーは土地に焦点を当てるものなので、インパクトのあるものにする必要があった。そこで気になるのは旧『ゼンディカー』にあった敵対色フェッチ・ランドである。つい最近、『タルキール覇王譚』で友好色フェッチ・ランドを再録したところなので、敵対色フェッチ・ランドもまた再録されるものだという予想があったのだ。
問題は、スタンダードに10枚のフェッチ・ランドは多すぎるということだった。マナにそれほど困ることなく2色や3色のデッキをプレイできても、4色や5色のデッキはそう簡単にはプレイできない、というバランスにしたいのだ。カラー・パイは強力なカード全てを1つのデッキに入れることを防ぐ上で重要な働きをしているが、もし我々がマナ基盤の扱いを慎重にしなければカラー・パイというセーフティ・ネットを駄目にしてしまうことになるのだ。
つまり、我々には、2色や3色のデッキを助けると同時に、4色や5色のデッキを簡単にできるようにはしない、優秀な2色土地を作る、という課題があったのだ。そして、我々は『タルキール覇王譚』の友好色フェッチ・ランドと相性が良いほうがいいと考えていた。どうすればいいだろうか。
最初に試したのが、基本土地のサブタイプだった。基本土地タイプを持った2色土地のサイクルは2つしか存在しない(『アルファ版』にあった最初のデュアル・ランドと、旧『ラヴニカ』のショック・ランドだ)。新2色土地を『タルキール覇王譚』のフェッチ・ランドと絡ませるための開けた道だ。だが、ルール文章を決めるには数回の繰り返しが必要だった。
解決策は、狙った目標を再検討することで見つかった。2色や3色のデッキに、4色や5色のデッキよりも多く入っているものは何か、と考えたのだ。それは、基本土地だった。基本土地を出しているかどうかを参照することで、この2色土地サイクルは狙ったタイプのデッキで生き残ることができることになる。
《エメリアへの撤退》《珊瑚兜への撤退》《ハグラへの撤退》《ヴァラクートへの撤退》《カザンドゥへの撤退》
プレビュー期間中に、上陸を戻すと決めたときに新しいひねりを見つけたかったという話をした。この撤退サイクルはその好例である。
再録メカニズムを調整するときに楽しむことの1つが、まだ扱っていない変種を見つけるということである。上陸ではさまざまな効果を発生させてきたが、その効果は常に1種類だったということに気がついたのだ。もし、効果を選ぶことができるような上陸カードを作ったらどうだろうか。私が最初に思いついたのは上陸魔除けで、3つのちょっとした効果から選べるというものだった。しかし、この発想にはいくつかの問題があった。
1-3つの効果は文章欄に入りきらない
デザインには従わなければならない規則が存在する、という話をしばしばしてきた。しかし、物理的な問題についてはあまり話していなかった。常に意識しなければならない制限の1つが、マジックのカードの面積には限りがあるということである。カード名が長すぎることもあり得る。クリーチャーのサブタイプが多すぎることもあり得る。文章欄にルール・テキストが入りきらないこともあるのだ。
2-良いデザインはゆっくりと伸びるものだ
2つの効果を持った上陸カードを作ったことはない。3つに増やす前に、2つから始めるのはどうだろうか。1つを2つにするだけでも、充分にエキサイティングだ。1つから3つに増やして、その後で2つにしたら、あまりエキサイティングとは言えない。デザイン空間を確保するという中には、新しい変化によって得られる興奮を最大化するための順番を守るということも含まれるのだ。
3-2つの効果なら効果を大きくできる
選択肢が3つか2つか、それぞれの場合にできる効果を考えていたとき、2つにすれば作れる効果の幅が広がり、そして通常上陸で生み出されるのに近い効果を作ることができると気がついたのだ。
4-2つのほうが、色の役割を明確化できる
デザインが発想をデベロップに手渡すときにすることの1つが、各2色のアーキタイプがリミテッドですることについてどう感じているかを説明することである。2色のアーキタイプは10個あり、撤退は2つの選択肢を持つ5枚のサイクルである。つまり、各アーキタイプそれぞれに使いやすい上陸効果を1つずつ持たせることができるのだ。
このサイクルはデザインの初期に「道/path」としてファイルに入り、印刷に到るまでファイルに残っていた。基本構造は全く変わっていなかったが、効果は何度も何度も変更されている。
《とどろく雷鳴》
多くの人々が《とどろく雷鳴》のことを革新的なマジックのカードだとは考えていないが、このカードのデザインはある重要な教訓を得たことから始まっている。一番最初のプロツアー・アトランタは、史上初の(そして現時点では唯一の)プレリリースを兼ねたプロツアーだったのだ。プロたちが座り、そしてまだ誰も見たことのなかった『ミラージュ』のブースターパックを配られ、それでプレイしたのだ。このイベントの終了後、開発部は確認して知見を得るために全員のデッキリストを集めた。
その成果の1つが、他の色に比べて赤を使った人が多かったということである。そして、多くのデッキでは赤のカードは1枚だけ、《ケアヴェクの火吹き》であった。
《ケアヴェクの火吹き》はX呪文で、非常に強力だったのでプレイヤーはそれをプレイするために赤をタッチしたのだ。その次の大型セットが『テンペスト』で、そのリード・デザイナーは私だった(私にとって初めてのリード・デザイナーだったし、面白いことに、デザイン・チームに入ったのもこれが初めてだった)。私はこの問題を解決しようと決めて、コモンの赤にあるX呪文のマナ・コストに含まれる赤マナを2つにしてタッチしにくいようにしたのだった。
《とどろく雷鳴》をアンコモンにしたり、複数のクリーチャーを殺すことができないようにしたりすることもできたが、私はデザインを進歩させたかった。そして低いレアリティの強力なカードに色マナを2つ持たせるという発想は有効な戦略だと証明されたのだ。
私は、《とどろく雷鳴》が再録されたのを見て興奮した(再録されたのはデザイン中ではなくデベロップ中だ)。そして、アンコモンになっているのを見て喜んだのだった。
《砂岩の橋》《天空の滝》《亡骸のぬかるみ》《そびえる尖頂》《肥沃な茂み》
フルアートの基本土地とフェッチ・ランドは『ゼンディカー』で大注目を集めたが、他にも土地のサイクルは存在した。このサイクルは呪文土地サイクルと呼んでいたものの再来である。それぞれの土地は1色のマナを1点生み出し、タップ状態で戦場に出る。そして、「戦場に出たとき」の誘発型能力を持っているのだ。『ゼンディカー』だけでなく『ワールドウェイク』にもこのサイクルは存在していた。私はこのサイクルの旧『ゼンディカー』ブロックでの使われ方が好きだったので、新しいサイクルを作ることにした。難しかったのは、以前の2つのサイクルと似通ったものにならないようにすることだった。
《乱脈な気孔》《伐採地の滝》
『戦乱のゼンディカー』のレア土地に関して一番の質問はフェッチ・ランドに関するものだったが、その次に多かったのは敵対色のクリーチャー化する土地に関するものだった。『ワールドウェイク』には友好色のサイクルがあったので、『戦乱のゼンディカー』は敵対色のサイクルを入れるのか、というものだ。答えはイエスなのだが、完全にイエスというわけではない。『戦乱のゼンディカー』ブロックでサイクル全体を入れることになるが、『戦乱のゼンディカー』には2種類だけである。なぜブロック全体を通して入れることにしたのかというと、『戦乱のゼンディカー』には土地が多いので、いくつかを『ゲートウォッチの誓い』に残しておきたかったのだ。
《虚空の接触》
これまでに何度も、欠色メカニズムが『未来予知』のミライシフト・カード《幽霊火》に触発されて生まれた、という話をしてきた。
そう聞くと当然「《幽霊火》は『戦乱のゼンディカー』ブロックに入りますよね」という質問が出てくる。入れたかったのは事実だし、デザイン中には入れていたが、問題があったのだ。このブロックに存在する全ての欠色カードは、エルドラージなのだ。《幽霊火》はエルドラージではなく、ウギンの使う無色の呪文である。重複している部分はある。ウギンがエルドラージを捕らえられたのは、ウギンがエルドラージの魔法をよく理解していたからという部分があるのだ。
ウギンの無色の魔法をストーリーに入れられるかどうか、クリエイティブ・チームと何度も協議を重ねたが、最終的には、入れると混乱を招くだけだということが明らかになった。ユーザーが動きを理解するために、デザインにおける一貫性が重要だということは何度も話してきた通りだ。エルドラージに関係ない欠色呪文を混ぜることは不自然なデザインになってしまうだろう。
それでは、このカードの表面を弄って入れることはできないか、ということになる。エルドラージのフレイバーをまとわせ、『未来予知』で示していた未来は一致はしなかったが近いものだったとするのだ。この方法の問題は、欠色カードを作るための規則(先週説明した)が存在し、《幽霊火》はそれに当てはまらないということだった。
そこで、我々はもう少し変更を加えることにした。死亡したときにクリーチャーを追放するというおまけを加えたのだ。その後、デベロップ中に、赤が強すぎるということで調整が必要となり、《虚空の接触》はインスタントからソーサリーになったのだった。
《幽霊火》はどこにある? ほらここに。『未来予知』で垣間見た未来の可能性は現実に近いものだったが、少しずれていたのだ。そして、《幽霊火》が『ゲートウォッチの誓い』に入っている、ということもない。
《絶え間ない飢餓、ウラモグ》
ウラモグについて受けた質問の中に、なぜ『エルドラージ覚醒』では墓地から戻せないようにしていたのに今回はそうしていないのか、という面白いものがあった。最大の理由は、巨大クリーチャーそれぞれの側ではなく、リアニメイト呪文のほうで巨大クリーチャーを墓地から戦場に出せないようにしているから、である。そのため、リアニメイト呪文は重くなり、レアリティも高くなっているのだ。大型クリーチャーそれぞれに1行ずつ追加するよりも、こうする方がいい方針だと感じている。
《虚空の選別者》
このカードは、エルドラージが奇数が好きだという設定だった初期のデザインからの生き残りである。エルドラージが「奇」妙なものが好きだということからきた言葉遊びは私の琴線に触れたし、他に気にするものがないようなことを意識するエルドラージを気に入ったのだ。デッキを組んで、「ああ、もっと点数で見たマナ・コストが奇数のクリーチャー欲しいな」というのはどれぐらいあるだろう?
当時のお気に入りのカードは、無色のエンチャントで「全ての奇数は偶数である」というだけのものだった。
終わりは近い
もう場所がないようだ。『戦乱のゼンディカー』の様々なカードやサイクルを見てきた前回と今回を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事についての感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、(編集済み)の日にお会いしよう。
その日まで、ゼンディカーを再発見する喜びがあなたとともにありますように。