都市計画:パート1
Translated by Yoshiya Shindo
ラヴニカプレビュー、第一週へようこそ! じらすのも今日で終わりだ。いよいよ実際にラヴニカについて語れるところに来たのさ。今回お見せするカードもなかなかのもんだよ(いつものことだけど、コラムを上から読んでいってからカードを見ることをお勧めするね)。でも、今回はタイトルから見当がつくかもしれないけど、ラヴニカのデザインに関わる物語は話が大きすぎてコラム一つじゃ入りきらないんだ。コラム二個でもまだ無理だ。ということで、プレビューの三回分のコラムは全部ラヴニカのデザインに関わる話に裂こうと思う。もちろん、それぞれでプレビューカードはお見せするよ。面白そうじゃないかい? (そもそもそうじゃないんなら、なんでマジックのデザイン話なんか読むんだろうね?)
マルチだ、多色だ、マルチカラーだ!
物語はインベイジョンからスタートする。ご存知の通り、インベイジョンブロックは人気があった。多色テーマは実に受けが良かったんだ。そんなわけで、このブロックが終了してからも、ビル・ローズ(Bill Rose、当時のマジックのデザイン統括――現在は開発部の副部長)はいずれ再びこの多色テーマを訪れることを宣言していた。我々はかなりの時間をかけて、インベイジョンから次の多色ブロックまで、どれだけの時間を空ければ“十分”なのかを検討した。数えるのが苦手って人のために言っておくなら、結論は5年だった。5年経ったら、またそこを訪れようってことだ。その時には、同じマジックをまったく異なる方法で捉えようって話になったのさ。
話を三年先に進めよう。2003年の12月、私がちょうどマジックのデザイン統括に昇格したときの話だ(ところで、時々もらうメールに、私が自分の肩書きにコラムでほとんど触れていないって内容のものがある――だけどご心配なく。今年の調査によれば、コラムの中に登場する“デザイン統括”って単語は、“ロザンヌ”や“制限が創造性を生み出す”や“エレガンス”や“これをデザインしたのは私だ”よりも多かったらしいからね。もっとも、“私”とか、第三者的に自分をさす単語の方が多かったらしいけど)。で、神河謀反や神河救済のデザインチームをどうするか考えていた段階では、ビルがすでにチームのメンバーを決めてしまっていた。コントロール(ラヴニカブロックのセットのコード名は“コントロール”、“オルト”、“デリート”だ)は私がチーム構成を決定した初のデザインチームになる。
コントロールは大変な仕事になるのは分かっていた。これはブロックのテーマを復活させる初めての試みだ(確かに、古い個別のセットのテーマを復活させたことはこれまでにもあったけどね)。それもただのテーマじゃない。これは市場調査部が歴代でもっとも人気のあったブロックだとお墨付きをくれたやつだ。そして何よりも絶対に必要なのが、復活のブロックテーマがインベイジョンのたどってきた道とまったく違う方向に行かなければいけないと考えていたことにある。そこで我々は、インベイジョンが行ってきたことの中で繰り返すべきでないもののリストを洗い出すことにした。この手のチャレンジにはトップレベルのチームが必要となる。そこで、こんなチームを組むことにした。
マーク・ローズウォーター(リーダー):上にマークが自分を第三者的に語るってことを書いたときに、君は「マークはそんなことをしたっけ?」なんて言ったかもしれない。でも、どうやら機会があればマークはそうするみたいだね。とにかく、マークはマークを選んだ……ああもう、面倒くさいな。とにかく……話を……最初にもっていかなくちゃいけない。何より……更なる私が必要だからね。で、どうして私が自分をチームに入れることを選んだのか? それは、最初の仕事としてリーダーの誰かの肩越しに仕事を眺めるよりは、自分の肩越しに仕事を眺めるほうが楽だからだ(待てよ、そんなこと物理的に可能なのか?)。それと、このデザインにおける制限は、これまでのどのセットよりも厳しいはずだ。私は難しいブロックのデザインに引き寄せられる蛾みたいなもんさ。
次にしなくちゃいけないことはチームの編成だ。このセットは、新人の力を試すのに使うのは間違いだということが分かっている。なので、私がこれまでのデザインチームで一緒にやってきたベテランを呼ぶ必要があった。
マイク・エリオット(Mike Elliott):マイクと私はテンペストで初めて一緒に仕事をした。インベイジョンより前は三分の二のチームに参加していた。そして、マイクはミラディンの仕事でも私の傍らにいてくれた。彼の得意分野はわかっている――彼はとんでもない数のカードを作るんだ。マイクにアイデアを投げれば、彼はそれを分析してあらゆるアイデアを詰め込んでくる。どんなセットにも精力的なデザイナーは必要だし、マイクはコントロールにうってつけだ。
アーロン・フォーサイス(Aaron Forsythe):アーロンはフィフス・ドーンが初デザインチームだった(リーダーは私だ)。そこで私は、彼の仕事の量ばかりでなく、彼のデザインの繊細さに非常に感銘を受けた。アーロンの最初のセットで、彼はマジックのデザインのメジャーリーガーっぷりを見せたってわけさ。コントロールのためのチームを組むとなれば、リストのトップはアーロンだろう。
タイラー・ビールマン(Tyler Bielman):タイラーはミラディンチームのメンバーだったんだけど、私は彼のイメージたっぷりなデザインにいつも感心していた。コントロールにはフレイバーが重要なのはわかっていたし、カードを得意な観点からアプローチできるデザイナーを入れるのはいいアイデアだと思ったのさ。
リチャード・ガーフィールド(Richard Garfield):二年に一度ぐらい、リチャードは私に会いにきては、私と一緒にマジックのデザインをやりたいって言ってきていた。そして私は、当然のこととして、次に私が入るチームに彼を加えてきたんだ(リチャードと私がこれまでに一緒にやったのは、テンペスト、オデッセイ、ジャッジメントだ)。
このチームの基本的な技術は、上に挙げた通りのものだ。このチームに解決できない問題があったとしたら、それは回答がないってことになるね。
似て非なる
我々は最初にデザインチームとして果たすべき目標を決めることにした。我々が作らなくちゃいけないのは、多色のあらゆる強さを楽しめる多色ブロックでありつつ、インベイジョンの繰り返しにならないことだ。だけど、ちょっと待った。私が先週書いてきたとおり、取り組まなくちゃいけない問題がいくつかあると私は考えていた。ブロック内のデザイン、ブロック間のデザイン、ブロックとクリエイティブの相互関係などだ。それはすべて相当難しい問題なんだ。
我々はまず、インベイジョンとはそもそも何だったかをはっきりさせることから始めることにした。このセットはいったい何を目的としていたのか? インベイジョンが何だったか理解できなければ、コントロールをインベイジョンでなくすることなんかできないじゃないか。それじゃ、インベイジョンとは何だったか? 以下が我々の考えだ。
- インベイジョンはプレイヤーに、できるかぎり多くの色を使うよう勧めた。インベイジョンのマナや色の調整カードを使いまくれば、プレイヤーは4色や5色デッキを使うことが可能だった。
- インベイジョンは色に注目していた。これは単に色に注目するカードが多いということだけでなく、色を使ったカードの比率が高かったということだ(プロテクションが目立っていたのもその理由による)。
- インベイジョンブロックではすべての2色の組み合わせが用いられたが、友好色と敵対色の間には序列があった。アポカリプスでは全面的に敵対色が採用されていたが、それでも友好色のカードの組み合わせは敵対色に比べて3倍多かった。
次に進むべき点は明らかだ。インベイジョンを定義するものを取り上げて、そいつを逆立ちさせてやればいいのさ。インベイジョンが5色デッキを目指したんなら、コントロールはプレイヤーにより少ない色の組み合わせを使うことを目指させる。インベイジョンが色に注目していたんなら、コントロールはそうしない(まあ、ほとんどそうしないってことだけどね)。そして一番重要なのは、インベイジョンが色の組み合わせを不公平にしているのなら、コントロールでは十通りすべての組み合わせを公平にするんだ。
我々がデザインの最初の週で初めてクリエイティブ・ティームと顔を合わせたとき(私は二つのチームの合同会議を勧めている)に、我々は今度の世界が同盟も敵対もはっきりしない世界になることを宣言した。コントロールはプレイヤーに特定の2色を使わせることを焦点とする。インベイジョンが5色なら、コントロールは2色で行くのさ。
気分半分
我々の話を先に進める前に、ちょっと過去に戻さなくちゃいけない。我々がチームになる前、私はどうやってコントロールをインベイジョンと異なるものにするかを考え始めていた。この挑戦には実に興味をそそられたね。考えていく中で、私は一歩下がって多色カードを新鮮な気持ちで眺めてみた。これは一体何なのか? 多色の価値とは何か? 例えば二重地形。これは多色カードを実質多色でないように扱うことができるようにする。そもそも、土地が二つの色を表すというのは実に興味をそそる事実だ。ちょっと説明しておこう。
多色カードの最も基本的な効果は次の二つだ。
組み合わせ――一つの色から少なくとも一つずつ引っ張ってきた二つ以上の異なる効果が組み合わさって、どちらの色でもできない事をできるようにする。インベイジョンの《はね返り/Recoil》が例としては完璧だろう。黒も青も特定のパーマネントを破壊することはできないが、手札捨てとバウンスを組み合わせれば、突然それが可能になるんだ。
重複――どちらの色でもできることを、両方の色のマナを使うことで安く済ませることができる。このカテゴリーの良い例は《勇士の再会/Heroes' Reunion》だろう。
この違いをはっきりさせることが重要である理由は、これが興味深い点を示してくれることだ。多色とは単なる「AかつB」じゃない。「AあるいはB」もありえるんだ。マジックは時々にわたって、その柔軟性の高さを示し続けてきている。こういったことを考えているうちに、あるシンプルなアイデアを思いついた。2色のマナを必要としない多色カードがあったらどうだろうか。マナを2色要求するのではなく、呪文のプレイのためにどちらの色でも使えるというものだ。この考えを掘り下げていくうちに、私はどんどん盛り上がっていったんだ。私は他のどの多色カードとも似ていない多色カードを生み出したのさ。やろうと思えば、デッキに入れるのに両方の色すら必要じゃないんだ。
と、ここまできて、君たちの中には「はぁ?」って人が出てきてるだろう。それじゃ、これが何を意味するか、ぜひ見せてあげることにしよう。
このカードの新しいマナ・シンボルは、それぞれの色マナは緑マナか白マナで支払わなくちゃいけないことを意味している(私は“半分半分カード”って呼んでいた。後には正式に“混成”カードってことになった)。
私にとって、混成メカニズムはいくつかの点で非常に興味をそそられる。第一に、これが多色というものに、これまでに無い方法で取り込んでいること。このアイデア自身はきわめてシンプルで、こんなことを今までやってなかったこと事態が実に奇妙なことだ。第二に、これが2色を使うことを非常に面白いやり方で推し進めていること。このゲームの基本は、色マナの安定ということを最優先に考えると単色を推し進めることになる。しかし、混成カードはこの問題を解決してくれる。緑か白を持つ混成カードは、緑白デッキに入れてもまったく問題が無い。単色デッキに入れば、それは単色カードとして働くだけだ。2色のマナがあれば、両方の能力が使えるに過ぎない。これは微妙なポイントだけど、混成カードの意義という点では重要なことだ。そして第三に、ちょっと考えれば分かるだろうが、これは多色のシールド戦における基本的な問題の助けとなってくれる。
まとめると、混成カードは多色を考える上で、まったく異なった観点となっていることが分かっていただけたと思う。それこそが、コントロールが求めていることなんだ。
カオス理論
我々が最初に、10種類の色の組み合わせすべてを均等に入れたセットを考えている段階で、我々は新旧各種の多色カードのリストを作った。しかし、そこからデッキを組む段階から、我々は間違いに気がついたんだ。多色カードを大量に混在させた結果(多色ブロックに多色カードを大量に混在させないわけにはいかないしね)、2色デッキを組むことが不可能になったのさ。3色デッキですら、組むことは非常にとんでもなく難しかったんだ。
できるだけわかりやすくするために、10種類すべての色の組み合わせが均等に入っているセットというものを想像してもらおう。リミテッドで使うためのカードが75枚(通常のシールド戦だ)あるとする。そこには特定の2色の組み合わせは7.5枚しかない計算だ。3色デッキを組むことにしたとしても、使えるカードは22.5枚しかない。単純にいって40枚デッキが組めるぎりぎりの量だ。しかも、君はカードの強さを無視して全部のカードを使わなくちゃいけない。まあ実際のカードであればデッキの助けとなる単色カードもあるだろうけど、カード選択全体の問題は明らかだった。
そこで私は半分半分カード(すなわち混成カード)のアイデアを思い出した。混成カードは多色カードでありながら、デッキに対し色の選択の幅を広くしている。緑白の混成カードは10種類の色の組み合わせのうち7種類に入るんだ! そこで我々は、10枚の混成カードを加えて再びプレイしてみた。現在の開発部は、基本的に、非常にマジックが得意なプレイヤーで構成されている。例えば、我々の多くがかつてプロツアーに参加していて、その何人かは実際にプロツアーで優勝している(ここで言う“我々”は“彼ら”なんだけどね)。そしてこのテストプレイは、我々がカードプールを色の組み合わせ別に分けている段階で混乱をもたらしていたんだ。ヘンリー・スターン(Henry Stern)によれば「25種類のカードの山だぜ。25山! コンセプト自体が厳しいよ」
クリエイティブの救いの手
そんな事態が起こっている頃、ブライディ・ドマーマス(Brady Dommermuth:クリエイティブチームの一人)が面白いアイデアを抱えて戻ってきた。それぞれの色の組み合わせが、それ自身の個性を持ってるとしたら? 過去の市場調査から、我々はプレイヤーが色の役割を気に入ってくれていることが分かっていた。それじゃ、コントロールでは5つの色の代わりに10の役割があったらどうだろうか? ブレイディはこのアイデアをギルドに例えてくれた。
ブレイディのアイデアを聞いてすぐ、私はこれがセットの取るべき方向だと認識したのさ。色の相互関係は、ブロックのクリエイティブな側面を包含するのに十分興味深かった。ただし、そこに見つけなければいけない鍵として存在したのは、それぞれのギルドをカードに吹き込む方法を見つけることにあった。
そしてそれだけじゃまだまだ不十分だと言わんばかりに、何度も繰り返したテストプレイの結果、25山(2色10山、混成カード10山、単色5山)は単純に多すぎるということが判明してきた。伝統で機なた色カードと混成カードは、お互いに大きすぎる混乱をもたらしていたのさ。どちらかを抜かなくちゃいけない。そして、これが多色セットである以上、結論は非常に簡単だった。さらば、混成カード。最悪なことに、この事態はデザインの半ば頃に起こっていた。我々は混成カードに肉付けするのにかなりの時間を割いていた。デザインの時間も残り半分しかない時点でそれを投げ捨てることは、様々な意味で極めて妥協した状態からの再出発を余儀なくされることを意味していた。
しかし、チームはギルドの考え方を非常に気に入っていた。問題は、我々がそれを使ってどうするかを見つけられないことにあったんだ。そして時間はあっという間に過ぎていく。どうやったらセットを救うことができるんだろうか?
――次回に続く――
ということで、続きは来週だ。状況は最初に説明しておいただろう?
それではまた来週。ラヴニカのデザインの挑戦についての続きの話はその時に(ヒント:結局非常にうまくいったんだよ)。
それまでの間、あなたにも柔軟性の楽しさが理解いただけることを祈念しつつ。
マーク・ローズウォーター