都市計画:パート2
前回の“マジックの作り方”あらすじ
多色テーマを再び取り扱う責任を負わされたラヴニカのデザインチーム(マーク・ローズウォーター、タイラー・ビールマン(Tyler Bielman)、マイク・エリオット(Mike Elliott)、アーロン・フォーサイス(Aaron Forsythe)、リチャード・ガーフィールド(Richard Garfield))は、大変な苦労をしながら、このセットが“インベイジョン II”にならない道をたどり続けた。その結果、複数の色のマナのどちらでも支払うことのできる新しいタイプの多色カード――混成カード――が生み出されることとなった。
しかし、伝統的な多色カードと混成カードを混在させることは、精神的な負担が大きいことが実証され、混成カードは脚きりの憂き目に遭う。一方で、クリエイティブチームのブレイディ・ドマーマス(Brady Dommermuth)は、10種類の色の組み合わせから、そこにまつわるギルドと言うイメージを提案してきた。デザインチームはそのアイデアが気に入っていたものの、どうやってそれを使えばいいかが分からなかった。デザインチームはこの問題をできるだけ早く解決しなければならない。時の刻みは進んでいく……。
ギルドの縛り
そんなわけで、デザイン作業に残された期日は四ヶ月しかなかった。これは十分長い期間に見えるかもしれないが、デザインだとそうはいかない。マジックならなおさらだ。我々は何とかしてインベイジョン風味を排除するよう心がけていたので、明らかに多色の選択肢のうちいくつかは禁じ手だった(最終的にテーマが固まってからは、我々はインベイジョンを偲ぶようなカードを検討していくこととなる)。我々にとって唯一の光はギルドのテーマだ。前にも言ったが、私はギルドモデルが気に入っていた。それはイメージに満ち溢れている。それは我々が焦点を当てたい2色の多色テーマに対しアドバンテージをもたらしてくれる。それ自体もユニークだ。一番の問題は、その構成をどうやってデザインに用いればいいのだろうかということだった。
我々はまず、できるかぎり多くのブレインストームを持つことにした。そこにはものすごく過激な提案もあった。ブロック内のすべてのカードが、10個あるギルドのどれか1つに属するというのはどういうことか? 手始めに、ブロック内に通常登場するあらゆるカードがどこかギルドに帰することを考えてみた。そうすると、こんなことが起こる。
- キーワードメカニズム――ギルドに対応したキーワードメカニズムを考えるというのは非常にストレートなやり方だろう。書くギルドに1つのキーワードメカニズムを与えるんだ。この単純な解答は、二つの問題を露呈する。第一に、キーワードの詰め込み過ぎだ。各ギルドに独自のメカニズムがあるとすると、大型セットには10個の新しいメカニズムが入ることになる(ここ数年インフレ傾向にあるとは言え、これはさすがに多すぎだ)。第二に、相互関係の問題がある。それぞれのメカニズムが特定のギルドに入るものだとしたら、大多数のメカニズムが使われないまま残るリスクが発生してしまう。
第二の問題はまだ解決が簡単だ。その解法? 単色カードの使い道を設けてやることさ。お分かりとは思うが、単色カードはそれぞれ4つの異なるギルドに入ることができる。これはつまり、各ギルドのメカニズムが2種類の単色カードに入るとしたら、どのギルドデッキでも10個のメカニズムのうち7つが使えることを意味している(8つじゃないのは、1個がかぶるからだ)。しかし、そこから第一の問題に戻ってしまう。もっとも、これはすぐに解決できることになるんだけどね。 サイクル――マジックのデザインにおける主役の一つがサイクルだ。サイクルというのは、伝統的にはつながりあった5枚のカードで、それが5つの色に広がっている状態を意味する。それじゃ、ギルドの世界でのサイクルはどうなるか? 簡単さ。ギルドモデルを包含するような10枚のカードのサイクルになるんだ。この場合の問題は、10枚のカードのサイクルは多くのスペースを使ってしまうことだ。こんなに多くにするわけにはいかない。それ以外の問題はもう少し後で。 - メカニズムの焦点――私はこれまでにしばしば、マジックを揺れる振り子にたとえてきた(博物館なんかで砂の上に線を引いてるやつだね)。長年にわたり、デザイナーはゲームにおいて注目すべき要素を異なるものに向けてきている。時にはそのテーマは大規模で分かりやすいし(オンスロートの部族テーマとか)、時には微妙で小規模だ(ウルザズ・デスティニーの“場からのサイクリング”とか)。ギルドモデルにおいてメカニズムに焦点を当てることの面倒な点は、他のギルドとの接点を作る単純な方法を見つけることにある。一番明らかなやり方は色を使うことだろうけど、他の選択肢も存在するだろう。
- 勝利への道――マジックでゲームに勝つ方法はいくつもある。伝統的な20点のダメージを与えることに限定してもだ。メカニズムの焦点と同様に、ゲームにおけるこの要素も年々揺すぶられてきている。ギルドモデルは、それぞれのギルドが独自の勝利への道筋を持つことを認めている。これはイメージ的には優秀だけど、キーワードメカニズムと同様の問題点も抱えている。10はとにかく多すぎるのさ。
- 発展――ブロックを定義づける道筋の一つが、あるアイデア(大抵はメカニズムになるけど)を取り上げて、ブロックが先に行くにつれてそれを発展させていくことがある。ギルドモデルは、それ自体がこのタイプの発展に乗っていない。10個のギルドは道筋をつけるには多すぎるんだ。それぞれを時間の流れの中で追っていくなんて、ほとんど不可能な作業だね。
様々な異なるメカニズム上の要点を篩い分けていった結果、一つの事実が明らかになってきた。ギルドモデルは興味深い攻勢をしているものの、サイズ上であまりにも大きすぎた。第二に、発展性もまったくよろしくない。このパズルを解く鍵は、この二つの問題が一つの同じ回答を持っていることを認識することにあった。ギルドモデルは空間を必要としている。発展性もそうだ。後者を我慢すれば、前者のための空間を作り出すことができる。
ラヴニカがギルドモデルでいきたいとするなら、ブロックをどうデザインするかを考え直さなくちゃいけない。10個のギルドはまとめてプレイヤーに投げ出すには数が多すぎる。デザインチームがギルドモデルをきちんと扱いたいと言うなら、それぞれのギルドに生存のチャンスを与えてやらなくちゃいけないだろう。それぞれのギルドには、自らを見せ付けるための十分な空間が必要なんだ。そのためには、3つのセット全部が必要だ。それじゃ、ラヴニカでは伝統的な発展を行わず、代わりに大規模なデザインを3つのパートに分けたものにしてみてはどうか。我々が(セットのサイズ、バランス、各ギルド用の空間、等々で)その数を考えるに、ブロックは4−3−3の構造を持つべきであることがはっきりしてきた。つまり、ラヴニカでは4つのギルドを登場させ、続くギルドパクトではさらに3つ、そしてディセンションでは残り3つを登場させてやるんだ。
チーム内でこの解答を検討していくにつれ、我々はどんどんそれが気に入っていった。ギルドを分けることで、それぞれのギルドのメカニズムとか、勝利への道筋とかを肉付けしていくための必要な時間が割けるようになったんだ(そして一番重要だったのが、それぞれのセットにギルドモデルの雰囲気を失わせること無く新たなメカニズムを入れることができるようになったことだ)。クリエイティブチームに対しても、それぞれのギルドがどういうものかを説明するための十分な空間が作れるだろう。更に言えば、いくつかの10枚セットのカードのサイクルを、一つのセットの空間を食いつぶすことなく作る自由が与えられるのも事実だ。一言で言えば、この解答は完璧だったのさ。今や我々がすべきことは、残りの開発部の面々を納得させることだった。
混ぜて合わせて
私は開発部に10年いるけど、その中で数多くの価値ある事実を学んできた。中でも最も重要なのが、「百聞は一見にしかず」ということだった。最初の頃は私は自分のアイデアを言葉で説明するのに、それがどういう動きをするのかを多くの言葉を使って説明していた。このやり方による失敗のキーとなるのは、大抵の場合誰かが知らない事実を説明するのは非常に骨が折れると言うことにある。自分が“売り込もう”としている物が何であるかを自分で完璧に理解していたとしても、それを分かっていない誰かに伝えることは非常に面倒だ。しかし、自分がやりたいと思っていることを実際に行い、それを他人に見せることは、自分が言いたいことを相手に理解させる可能性を確実に高くしてくれる。私の友達の話をすることと、私の友達を君に紹介することを比べてみるといい。後者の方が超がつくぐらい分かりやすいだろう。
そんなわけで、デザインチームは4−3−3計画がどうなるかを実際に見せる必要があった。最初のステップは、それぞれのギルドがどういう風になるかを性格に描き出すことにあった。当初は楽そうに見えたけど、これが実際は大変だったね。分かってもらえると思うけど、必要な事実を立ち止まって考えてみると、そこには実行のための数多くの制限が見えてくるもんだ。例えば、敵対色ギルドと友好色ギルドをセット内では同列に扱う決定をした関係で、我々はそれぞれのセットに友好色の組み合わせと敵対色の組み合わせを入れたかった。最初のセットは2つずつで、残り2セットはそれぞれ2つと1つ(まあ片方は1つと2つになるんだけど)になるだろう。次に、我々はそれぞれのセットに異なった速さのギルドを入れたかった。あるエキスパンション内のすべてのギルドが速くて攻撃的なやつ(まあどれかは見当がつくだろうね)とはいかないのさ。これは遅いギルドも同様だ。
また、我々はアーロンのコラムを使って、プレイヤーが気に入っている色の組み合わせを調べてみた。その後、苦労して最も人気のあるものをすべてのセットにいきわたるようにした。また、クリエイティブチームはギルドのリストを作ってくれたんだが、このギルドがまた実に最高級の独創性だったね。我々はそんなギルドもできるだけすべてのセットにいきわたるようにした(何がどう最高級だったかはここでは言わないことにするよ)。我々はそれぞれのエキスパンションに5つの色すべてが出るようにしたかった。また、ドラフトがらみに関してもいくつかの事を行ってみたけれど、ラヴニカのドラフトがどう面白いかを見つける楽しみを君から奪うつもりはない(それに、このブロックはドラフトに関しては変化球だ)から、ここは我々を信じてもらって、別な要素として計算に入れたって事だけ把握してほしい。
最終的に、ギルドをどこに置くかを決めるための基準が20近く出たと思う。こいつはあまりにも複雑だったので、ポール・バークレー(少し前までのルール・マネージャー)はコンピューターでプログラムを書いて、我々の選択肢がどうなるかをはっきりさせた。結果は、1通りだけだったね。こいつについては言うまでもないだろう。いずれ君たちも見ることになるからね。で、ラヴニカには黒青(ディミーア)、緑白(セレズニア)、黒緑(ゴルガリ)、赤白(ボロス)が入ることになった。ギルドパクトとディセンションに関しては、もうちょっと待っていただきたい。
さて、話はがらっと変わって
今週は、話をもうちょっと先に進めて、デザインが4つのギルドで進めた最初の段階を終えて、そのアイデアを残りの開発部のメンバーに持っていったときの話をしよう。我々は開発部のコラムをデザインと調整に分けている(金曜日のアーロンの「最新開発事情」をごらんあれ)から、部署の両面については理解してもらっているとは思うけど、それがどう相互に作用しているかはあまり話してきていなかったね。
ここでは短編で紹介しよう。男の友情をうたった映画では、大抵責任感のある男とイカレてる男が描かれる。イカレてるほうの奴の役割は、映画を動かすことだ。彼がイカレた行動を取る理由は、まあなんと言うか、誰かがやらなくちゃいけないからさ。責任感のある方の役割は、イカレたやつを安全な状態にすることだ。まあ言わばボケと突っ込みだな。開発部では、デザイン側がイカレ担当で、調整が責任感のある側となる。デザインは過激な提案を行うことで“映画を動かして”いく。で、調整がそこに踏み込んできて正気度チェックを行うのさ。ラヴニカがこんな男の友情物語だったら、まあこんな感じになるんじゃないだろうか。
デザイン:でさぁ、多色ブロックをいろいろ考えてるんだ。
調整:素晴らしいね。プレイヤーは本当に多色が好きだからね。
デザイン:そん中で、俺たちは有効色とか敵対色の壁を取っ払うことを考えてるのさ。
調整:興味深いアイデアだね。もちろん、慎重に行かなくちゃいけないけどね。
デザイン:でだ、俺たちはこいつをギルドシステムって呼ぶことにした。言ってみりゃ10色の色の分割だ。全部の色の組み合わせに独自のイメージを設けようって寸法さ。
調整:独自のイメージ?
デザイン:なんで、そのために最初のセットには4つしか入れないことにしたのさ。
調整:申し訳ない。それじゃまるで、最初のセットには多色の組み合わせのうち4つしか入れたくないみたいに聞こえるんだが。
デザイン:その通りだな。
調整:でも、そうすると色のバランスが取れないじゃないか。色のうち2つは登場が少なくなるぞ。それに、ドラフトにいたっては……ドラフトがどうなるか、全然見当がつかないな。
デザイン:その問題はどっちもやっつけてる最中だな。
調整:他の6つの組み合わせは?
デザイン:後で出るよ。
調整:最初のセットのギルドはどう展開してくんだい?
デザイン:そいつぁまだだ。やってる最中だよ。もっとも、単色カードにも新しい能力はつくけどな。
調整:デザイン、君の言うことは馬鹿げてるよ。
デザイン:抜け目がないって言ってくれよ。
調整:抜けだらけにしか見えないよ。
デザイン:もっとさぁ、一歩下がって大きい目線で見てくんねぇかなぁ。
調整:大きい目線じゃないだろう。こいつは崖っぷちさ。崖から飛び降りろって言ってるようなもんだよ。
デザイン:真っ赤なトマトになっちゃいな……ってか?
調整:それも尋常じゃない崖だぞ。
デザイン:マジックなんざいつだって崖を飛び越えるみたいなもんだろう。ウルザズ・サーガを覚えてっか?
調整:あれはゲームを二つに分けてしまったじゃないか。歴史上でもっとも多くのカードを禁止せざるを得なくなって、その後数年のカードの強さを落としてしまっている。
デザイン:でもあれは最高だったぜ。まあいいや、例としちゃベストじゃなかったな。ミラディンはどうよ? 調整:ちょっとゲームを曲げてしまって、ウルザほどではないにしろそれに告ぐ枚数のカードを禁止してしまって、間違いなくその次のブロックの強さに影響を与えているだろう。 デザイン:でも面白かったぜ。それじゃ何かい、お前さんはマジックを延々メルカディアン・マスクスみたいにしたいのか? 調整:マスクスだってみんながみんな文句を言ってるわけじゃないだろう。 デザイン:言ってたさ。お前は《Bursting Beebles》のフレイバー・テキスト(訳注:「他の数千のビーブル同様、このビーブルもメルカディアン・マスク以来数年間マジックを止めていた。」)を読んでねえのか? 調整:“アン”系のセットは見ないことにしてるんだ。 デザイン:分割カードは? ピッチカードは? そもそも、多色自体がどうなんだよ? 調整:君のとんでもない考えの中にも使えるものがあっただけの話だ。 デザイン:イカレた物も忘れちゃいけねえよ。 調整:で、その崖の高さはどれぐらいなんだ? デザイン:たいしたことねえよ。 調整:あるように見えるぞ。 デザイン:上から見りゃ高く見えるさ。でも、俺を信じなよ。下の風景は素晴らしいぜ。 調整:君の話のもってき方には信じられないものがあるな。 デザインは小躍りし、調整はしぶしぶ後をついていく。
本当の話をするなら、調整は最初は不承不承だったものの、デザインがその理由を説明するにつれ、ギルドシステムこそが進むべき正しい道であることを受け入れていったんだ。こいつは、別に今までの中で最高に大変だったデザイン側の仕事だってわけじゃなかったね(もう少し大変だった話は、「分割案」を参照していただきたい)。
デザインのおける場合のほとんどがそうだけど、実行すべきなのは“イカレた”方のアイデアさ。そして来週この続きを読んでくれれば、我々がラヴニカの最初の4つのギルドをどうしたかの説明が読めるだろう。4つのキーワードメカニズムがどう生み出されたかも語ることができるだろうね。ああ、そうそう、混成カードが結局ラヴニカでどうなったかも教えられるだろう。でも、それはまた来週の話で、これはまだパート2だ。よって……
――次回に続く――
今回のコラムをまとめる前に、もう一つ責任を果たしておこう。今はプレビューの真っ最中だから、まあここで1枚プレビューカードをお目にかけるのも面白いんじゃないかと思うね。今週のコラムのテーマにのっとり、伝統的な多色のギルドカードを選ぶことにした(テキストの背景に描かれた美しいギルドのシンボルをお見逃しなく)。そして、単にデザインが1枚のカードの限られた枠の中でイカレた行動を取ろうとしてることを見せるだけじゃなく、君がつい頭を掻いてしまうようなカードを選んでみた。ここに覚えておくべき重要な事項がある。対象のルールは神河物語から変更になり、(カードに複数の対象効果がある場合)1枚のカードで複数の対象をとる場合のやり方がこれまでと異なっている。なので、これからお見せするカードは、3つの異なる対象を選ぶこともできるし、2つでもいいし、1つだってかまわない。あくまで君しだいさ。お楽しみあれ。
まずは、ここをクリックしてからのお楽しみ。
それではまた来週。ラヴニカのデザイン物語の最終回でお会いしよう(もっとも、その先にもラヴニカのデザインにまつわるコラムが毎週毎週続くんだけどね)。
それまでの間、君が自分の崖を跳び越すことを祈念しつつ。
マーク・ローズウォーター