『統率者(2015年版)』特集へようこそ。ソーシャルメディア上では、もう何ヶ月もこの商品に関する話が繰り広げられているが、ようやく1週間かけてその話をすることができるのは喜ばしい限りである。いつもの通り、セットのデザインに注目して行くが、視野を広げ、『統率者』という商品群に広い計画が必要な理由についても少しばかり話していこうと思う。デザインの鍵となる様々な要素について見ていくが、もちろん、クールなプレビュー・カードもお披露目しよう(もちろん統率者だ)。

来たるべきもののデザイン

 デザイン記事の冒頭ではいつもデザイン・チームの紹介をしているが、『統率者(2015年版)』のリード・デベロッパーを務めたベン・ヘズ/Ben Hayesが今日記事を書いており、その中でチームの紹介をしているのだ(ゲスト・コラムニストはレギュラー・コラムニストよりも前に記事を提出することになっている。デザイン・チーム(やデベロップ・チーム)についての詳細を知りたい諸君は、彼の記事を読んでくれたまえ。しかし、1人だけ特別にここで紹介しておきたい男がいる。今日の物語の主役とも言うべきその男は、ダン・エモンズ/Dan Emmons、『統率者(2015年版)』のリード・デザイナーである(デザイン・チームのメンバーには、他にイーサン・フライシャー/Ethan Fleischer、クリス・タラック/Chris Tulach、ジェームズ・ハタ/James Hata、ケリー・ディグス/Kelly Diggesがいる)。

 私が初めてダンのことを知ったのは、彼が私の席にやってきて自己紹介したときだった。「僕の名前はダンと言います。今日からゲーム・サポート(かつての名前は『Unglued』でカード名になる栄光に浴した「カスタマー・サービス」だ)で働くことになりました。いつか、フルタイムでマジックのデザイナーとして働きたいと思っています」

 こういうことをしたのはダンが初めてではない。しかし、実際にフルタイムのマジック・デザイナーになるという目的を果たしたのは(現在のところ)彼が唯一だ。ダンは、グレート・デザイナー・サーチ2の決勝進出者を助けるという実績を積んでいた。そのイベントではコミュニティによる成分も大きく、候補者は一般の人々と協力してカードをデザインする必要があった。イーサン・フライシャーとショーン・メイン/Shawn Main(GDS2の優勝者と準優勝者で、彼らは両方ともフルタイムのマジック・デザイナーになった)は、既にダンのことを知っていたのだ。

 ダンはプレイテストに参加した。マーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebによるデザイン教室にも参加した。デベロップが造った穴埋めのためのカードを提出した。これらの挑戦がうまく行って、彼はデザインのミニ・チームに参加し、それからサプリメントのデザイン・チームに参加し、エキスパンションのデザイン・チームに参加した。この時点で、ダンはフルタイムのマジック・デザイナーに必要なものを備えていると我々も理解したのだ。フルタイムのデザイナーになると、ダンは1つでも多くのデザイン・チームに参加するようになった。やがて、ダンがデザイン・チームを率いる時がやってきて、それが『統率者(2015年版)』だったのだ。

大局観を持つ

 『統率者』デッキは毎年の商品なので、デザインの扱いは他のサプリメント商品とは少しばかり異なる。ある年の『統率者』デッキが昨年のものと似通ったものにならないよう、大局観が必要となる。

 『統率者』に詳しくない諸君のために、『統率者』に含まれるデッキの条件について簡単に触れておこう。5つの100枚シングルトン(基本土地以外は同名のカードが入っていない)・デッキ5つだ。その年の色のテーマにあわせた、新作のメインの統率者が1枚入っている。この統率者はデッキの目玉カードとして、ウィンドウを通してパッケージの外からも見れるようになっている。また、各デッキにはもう1枚、新作の統率者が入っている。3枚目の統率者は、通例として再録カードだ。これらのデッキは、何枚かの新作カード、統率者戦向けの新キーワードや新サイクル、そして再録カードからなっているのだ。各デッキにはメインの統率者と符合するメカニズム的テーマが決められている。

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沈黙のオーラ》 アート:D. Alexander Gregory

#1—デッキの色は?

 この商品にはマジックのカラー・ホイールに従ってデッキが5つ入っている。つまり、デザインできる選択肢はそう多くないということになる。

  • 単色デッキ(白、青、黒、赤、緑)
  • 友好色2色デッキ(白青、青黒、黒赤、赤緑、緑白)
  • 敵対色2色デッキ(白黒、青赤、黒緑、赤白、緑青)
  • 断片3色デッキ(緑白青、白青黒、青黒赤、黒赤緑、赤緑白)
  • 楔3色デッキ(白黒緑、青赤白、黒緑青、赤白黒、緑青赤)
  • 4色デッキ(白青黒赤、青黒赤緑、黒赤緑白、赤緑白青、緑白青黒)
  • 5色デッキ(白青黒赤緑全色)
  • その他(ブレインストーミングにおいては、他の奇妙な組み合わせも議論になった)

#2—統率者にどんな新規性がある?

 各年、統率者戦に何か新規性を加えたいと思っている。この新規性は商品の売りなので、とにかく魅力的であるべきなのだ。デザインは、どんな新規性を加えることができるかを時間をかけて検討しており、ある程度の数のリストを作り上げている。

#3—新キーワードは?

 新キーワードは、統率者戦でもっとプレイされて欲しいものを選んでいる。理想的には、2人戦を主眼としている、古典的なセットにおいて作られたことのないような何かを造るようにすることで、新しいデザイン空間を扱いたいと考えているのだ。

 『統率者(2015年版)』は『統率者』シリーズの第4セットなので、色の組み合わせや統率者への新規性、キーワードのそれぞれについてこれまでのセットと被らないようにしたい。

『統率者』

色の組み合わせ:楔

統率者への新規性:なし(最初なので、『統率者』という商品であることそのものが充分な新規性だ)

新メカニズム/能力語:同調(全員に影響を及ぼす呪文に、唱えたプレイヤー以外がマナを使うことによって協力できる)


『統率者(2013年版)』

色の組み合わせ:断片

統率者への新規性:統率領域の相互作用(統率領域と統率者を再び唱えるルールが有利に働くデザインの統率者)

新メカニズム/能力語:誘引(唱えたプレイヤーが何か有利なことをして、各対戦相手も同じことをできるが、そうすると唱えたプレイヤーはさらに同じことをできる)


『統率者(2014年版)』

色の組み合わせ:単色

統率者への新規性:プレインズウォーカーの統率者

新メカニズム/能力語:副官(自分が自分の統率者をコントロールしているときにボーナスを得るクリーチャー)

 つまり、残された色の選択肢は、次のようなものになる。

  • 友好色2色
  • 敵対色2色
  • 4色
  • 5色
  • その他

 初めてリード・デザイナーを務めるセットだったので、ダンは難しすぎる色の組み合わせは選ばないようにしたかった。4色、5色、それにその他の色の組み合わせは様々な問題があることが予想できたので、ダンは他の色を選ぶことにした。つまり、2色だ。ダン率いるチームには友好色と敵対色という2つの選択肢があった。調査の結果、統率者戦フォーマットに必要なのは敵対色の統率者だということがわかった。初期のマジックは、かなり友好色に偏っていたからである。また、中心に据えるというわけではないが、『統率者(2015年版)』では『タルキール覇王譚』からの再録が可能であり、そこには敵対色2色のカードが存在していた。

レビュー時の新規性

 敵対色2色デッキを扱うことに決めたら、次に決めるのは新規性をどうするかだ。ダンは初期のデザイン・チームの会議で、ブレインストーミングをおこなった。ホワイトボードにあらゆる発想が書き込まれていったが、その中でチームが一番魅力的に感じたのは「レベルアップ」という発想だった。Lvアップは『エルドラージ覚醒』に存在したメカニズムで、クリーチャーが3種類の異なった状態を持ち、プレイヤーがマナを使って時間をかけてレベルアップさせることで大きく、また強力な能力を持つように成長させることができるのだ。

 ダンが強くこだわったのは、それらのデッキが決着に向かっているようにすることだった。統率者戦は、1ゲームに3時間や4時間かかる可能性があることが知られているので、ダンはゲームが早く終わるようにする能力を選びたいと考え、統率者が時間とともに強化されていくことになる、レベルアップという発想を推したのだ。

 ただし、小さな問題が1つあった。統率者は何度も何度も殺されるのだ。デッキの軸がこれらのクリーチャーになるので、それを倒すことが利益になるのだ。その問題を解決するため、統率者戦では統率者を墓地ではなく統率領域に送り、(少し重いコストで)唱え直すことができることになっている。Lvアップを使うとすると、かなりの時間と労力とマナを費やして育てた統率者が殺され、最初からやり直しになってしまうのは苛立ちのもとになる。

 この問題を解決するため、チームは経験カウンターという発想に行き着いた。クリーチャーに置くのではなく、経験カウンターはプレイヤーに置かれるのだ。こうすれば、統率者が死亡して唱え直すことになっても、元のパワーレベルで帰ってくることになる。これでやり直しになることを怖れずに統率者をレベルアップさせることができるのだ。こうすることで、ダンが求めたようにゲームは決着する方向に向かってくれることになる。

 経験カウンターを理解しやすくするため、例をお見せしよう。幸いにも(ああ、もちろん計画通りさ)、今日のプレビュー・カードは経験カウンターを使っている。《蘇りしダクソス》をご覧あれ。

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 見ての通り、《蘇りしダクソス》はそのコントローラーがエンチャントを唱えるたびに経験カウンターを置く。これらのカウンターは《蘇りしダクソス》に置かれるのではなく、プレイヤーに置かれるのだ。そして、《蘇りしダクソス》の2つめの能力を使ってクリーチャー・エンチャント・トークンを生み出すと、そのパワーやタフネスは経験カウンターの数によって定まることになる。あなたがエンチャントを唱えるたび、クリーチャー・エンチャント・トークンは大きくなっていく。そして、《蘇りしダクソス》が死亡したあと、もう一度唱え直して戦場に出てきた場合(まさに「蘇りし」だ)、それまでに得た経験カウンターはそのまま適用される。なぜなら、そのカウンターを持っているのはプレイヤーだからである。また、《蘇りしダクソス》が戦場になくても、クリーチャー・エンチャント・トークンは残り続けることになる。

デッキ・チェック

 どんな新規性を導入するか決めたら、次にデザイン・チームが取り組むのは各デッキのテーマをどうするかだ。5人のデザイナーがいてデッキが5つなので、各デザイナーがそれぞれ1つのデッキを担当することになる。敵対色2色のデッキを作るということが決まった時点で、ダンはチームにそれぞれ1つ選ばせた(ダンは赤白、イーサンは緑青、クリスが白黒、ジェイムズが黒緑、ケリーが青赤だ)。そして、それぞれに各デッキで使えるようなメカニズム的テーマを2つずつ探させたのだ。1つをメインのテーマとして選び、もう1つは2つめのテーマとなる。メインの統率者はメインのテーマにあうものとなるし、2枚目の新規の統率者は2つめのテーマにあうものになる。こうすることでゲームプレイ上も、また必要に応じて調整する場合にも、デッキにいくらかの柔軟性がでるようになる。

 テーマが決まったら、ダンは各デッキに必要なもう1つの要素を見出した。ダンは過去の『統率者』(『統率者(2014年版)』)のデザイン・チームに所属していて、当時使われたクリエイティブ由来のテーマが大好きだったのだ。ダンが考えたのは、各デッキで以前のキャラクターや以前の世界を再訪して、その雰囲気を感じられるようにするというものだった。マジックでは無数の世界を旅してきているが、その中の一部しか再訪できるようなものはないということがダンにはわかっていた。このセットのデザインとデベロップの両方でクリエイティブ代理を務めたケリー・ディグスは、どのキャラクター、どの世界を使うのが最適か決めることになった。

 鍵は、各デッキに定められているメカニズム的テーマにふさわしい過去の要素を探すことだった。今日のプレビュー・カードである《蘇りしダクソス》を例に取ってみよう。まず、チームはエンチャント・テーマをメインのテーマにしたいと考えた。そうなると、再訪すべき世界はテーロスになる。そして、白青だったダクソスは蘇ることによって白黒になり、このデッキにふさわしいとなったのだ。詳しくない諸君のために触れておくと、ダクソスは『テーロス』の物語に登場したキャラクターで、エルスペスにすぐ近くまで迫ったが、不幸にして死亡し、死の国に送られたのだ。《蘇りしダクソス》は、ダクソスとテーロス世界の両方を思い出させるいい機会となる。

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蘇りしダクソス》 アート:Adam Paquette

 今週はまだまだプレビューが待っているので、これ以上ここでネタバレをする気はない、ないのだが、各デッキが敵対色2色であること、そしてメインの統率者はマジックの過去の登場人物の再登場であること、そしてそのキャラクターや世界とマッチしたテーマが使われていることで充分だろう。

よいメカニズムを探す

 もう1つ、デザイン・チームがしなければならない大きなことは、新しいキーワード能力や能力語の策定だ。ダンはとにかくゲームを決着させるものを探していた。ダンは、このデッキを使った同士による対戦は1時間半以内に終わるようにしたいという個人的な目標を立ててプレイテストを観察していた。つまり、彼はゲームを決着させるようなメカニズムを推していたのだ。

 最終的なメカニズムは、クリス・タラックが自分のデザインで使うために作った赤単色のクリーチャーのために作った「無尽」だった。クリーチャーが攻撃するたび、そのコピーであるトークンが作られ、全対戦相手に一度に攻撃できることになるのだ。チームはこのカードを本当に気に入り、この能力を全体のメカニズムに広げることができると気がついたのだ(デザイン中は「鏡襲/mirror blitz」と呼ばれていた)。

 無尽は3つの重要な要素を含んでいる。1つめに、全対戦相手にダメージを与えることができるので、ゲームを決着させる助けになる。2つめに、統率者戦において、プレイヤー1人を攻撃することで政治的に不利益を受けることになるというクリーチャーが内包する問題を緩和できる。3つめが、非常に魅力的だ。クリーチャーを、攻撃するためのコピーの群れにするというのは新しくて楽しい。さらに、これは通常の2人戦のマジックではしないことである。

多人数戦は楽し

 今週はここまで。『統率者(2015年版)』に関する新情報を楽しんでもらえたなら幸いである。いつものとおり、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回――は『Magic Online』が公式サイトを占領してしまうのでお休みだ。ということで、それではまた次々回、一問一答でお会いしよう。

 その日まで、あなたの経験があなたの統率者戦デッキを勝利へと導きますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)