理念と実装の狭間
欠色/無色 特集へようこそ。今週は無色性について、そして欠色メカニズムについて語っていく。今日は触れるべき話題が大量にあるのだが、 ソーシャルメディア上で何度も話題になっている問題を取り上げることにしよう。なぜ『戦乱のゼンディカー』では欠色を使う必要があったのか? 欠色は何もしない。わざわざキーワードを使わずに済む、もっと良い方法があったのではないか?
この問題に取り組むために、それよりもずっと大きな問題について語り、それから欠色について具体的に見ていこう。その問題とは、デザイン上の理念と最終的な実装の違いである。この記事で私は、デザイン・チームがどのようにして発想したか、閃きは何か、デザインの中にどのようにシナジーを編み込むか、といったあたりに注目することが多い。逆に、発想してからそれを実際に形にすることができるようにするまでの莫大な作業についてはあまり触れていない。今日の記事では、この問題に注目しよう。それがデザイン(やデベロップ)にとっての大きな大きな問題なのだ。
「作るのなら」
街に出て、通行人100人にインタビューしてみよう。質問は「もっともクールな家を描いてください」だ。既存の家ではなく、今までにないほどにクールな家を想像してもらうのだ。そしてその描いてもらったものを、建築家のところに持っていって意見を求めてみよう。おそらく、見た目はクールだけれども実際には建てられない、という意見が一番多いことだろう。なぜなら、実際に形にするために、建築物には構造的整合性が必要だからである。想像するだけなら、砂時計のような形をした建物はクールかもしれないが、実際に作ることはできるだろうか? 潰れてしまわないように建てる方法はあるだろうか?
ここで重要なのは、実現できないようなことを思いつくことはよくある、ということである。同じことがマジックのデザインにも言えるのだ。私(たちデザイナー)が何かを思いついたとしても、その発想がマジックの許容範囲の中にとどまるという保証はない。これからいくつかの問題を取り上げて検証してみよう。
ルールの枠内で働かない発想
ある日、私は「パワー4以上のあなたがコントロールするクリーチャーは飛行を持つ。」というカードを作った。そのセットには、大きなクリーチャーを出すことを奨励するという小テーマがあったので、私は大型クリーチャーに回避能力を与えるカードを作ったのだ。このカードを我らがルール・マネージャー、マット・タバック/Matt Tabakに見せたところ、このカードは作れないと言われたのだ。その理由は、「種類別」と呼ばれるものの存在である。マジックにおいてあるパーマネントの性質を計るとき、(他の要素によって変動するので)性質を定める順番が決まっている。2つの性質の間で関わりが発生するような効果がある場合、その効果によって影響を受ける側の性質は、与える側の性質よりも後に適用されるものでなければならない。飛行を持つかどうかを決めるのは、パワーがいくつかを決めるよりも前なので、このカードは処理できないのだ。飛行を持つかどうかを決める時点では、まだそのクリーチャーのパワーが4以上かどうかが確定していないのである。
長年の間に、ルール問題で没になったカードは数知れない(その中には、ルールが多少緩い銀枠に投入したものもある。銀枠ルール・マネージャーは緩い私なのだ)。こういった問題は、ルールの中の気付きにくい小項目に由来するものであることが多く、今までルールで扱う必要がなかった新しい空間を扱うときに発生するものだ。ルール・マネージャーは新しいルールを追加するために尽力してくれるが、不可能ではないにせよ現在の構造のせいで追加するのが非常に難しくなっていることもあるのだ。
《議会の採決》 アート:Kev Walker
必要なルール変更に見合うだけの価値のない発想
マジックのルールは非常に堅牢にできているが、限界はある。たとえば、『未来予知』当時、我々は「最終攻撃/last strike」を持つミライシフト・カードを作ろうとした。発想は非常に単純な者で、先制攻撃が通常の戦闘ダメージよりも先に起こるのと同じように、最終攻撃は通常のダメージの後で起こるのだ。プレイしてみても何も問題はなかったし、論理的には一貫していたし、ゲームプレイに投入したときに何が起こるかも把握していた。しかし、当時のルール・マネージャーであったマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebは、最終攻撃をマジックに加えるとなると戦闘のあり方を根本から見直す必要があると言った。戦闘のシステムは通常の戦闘ダメージと先制攻撃を軸にして作られている。ここに新しい層を加えるためには、既存のシステムを取りやめ、広範囲な改修が必要になるというのだ。ゴットリーブが、その変更を加えるために必要な作業とその変更がマジック全体に与える影響は、最終攻撃という新メカニズムのためには割に合わないと感じたので、このメカニズムは廃棄されたのだった。
テンプレートに当てはめられないカード
デザインにおいては、カードに書いている内容は見た人が理解できればいい。しかし実際に印刷するためには、カードはテンプレートに当てはめる必要がある(マジックのカードにおいて使われている表記法、いわば「マジック語」と一貫性を保つ必要がある)。我々は今、今後のセットに向けてあるメカニズムのやり直しをしている。というのは、エディターから、それらのカードの現在の機能をテンプレートに収めることができない、という連絡があったからである。そのメカニズムには奇妙な部分があり、それがテンプレートの狭間に引っかかってしまったのだ。このメカニズムを活かすためには、テンプレートに対応するようにメカニズムを調整する必要があるのだ。
カードに入りきらない文章
『テーロス』で神の道具のサイクルを作ったとき、なぜ装備品にしないのかという質問が多く寄せられた。その答えは、神の道具は既に「伝説のアーティファクト・エンチャント」だからである。タイプ行にさらに「装備品」と書く余地はなかったのだ。デベロップ中に、ルール文章が入りきらないという理由でカードが編集されることもある。デザインには何でもできる青天井の能力があると考える人は多いが、実際には従わなければならない制約は存在するし、ルール文章を文章欄に物理的に収めなければならないという制約はその中の1つである。
フレイバーに反するカード
『エクソダス』のデザイン中、《猫族の戦士ミリー》は最初プロテクション(黒)を持っていた。ここに小さな問題があった。『エクソダス』の物語の中で、ミリーは呪いによって吸血鬼になってしまった登場人物、《呪われたクロウヴァクス》に殺されることになっている。《呪われたクロウヴァクス》は黒単色だ。カードはフレイバーを多少拡大解釈することはできるし、メカニズムにも解釈の幅はあるが、これは限界を超えていた。これは物語に矛盾するので、最終的にプロテクション(黒)を取り除き、タフネスを1増加させたのだった。
デベロップ上の問題があるカード
カードやメカニックがデザイン中に没になる非常に良くある理由が、デベロップ・チームによる、重大なデベロップ上の危険を冒さなければプレイできるように仕上げられない、という危惧である。メカニズムに適正なコストをつけるとそのメカニズムにまったく魅力が感じられなくなる、ということもあれば、以前に扱ったことがあってデベロップが対策しなければならない使用禁止領域を扱ったものだからということもある。正しくデベロップできないからという理由で没になるデザインは大量に存在するのだ。
デジタルで処理できないカード
『未来予知』で、私は『Unglued』の「二重/Double」カードを元にしたサイクルを検討していた。それらのカードは、プレイしたときと、その次のゲームの開始時にそれぞれ効果を持つというものだった。それらのカードについて聞きつけた『Magic Online』チームが私のところにやってきて、あるゲームでの効果を他のゲームに影響させることはシステム上できない、と言ってきたのだ。その変更をするにはシステム全体を作り直さなければならず、そうしてもうまく行くという保証はない、というのだ。私はそのサイクルを取り除くことにした(なお、このサイクルには異論も多かったので、そこを何とかしても後に没になっていたことだろう)。
デジタルで重大な問題を引き起こすカード
デジタルで処理できないわけではないが、現在の実装では問題があるというものもある。ちょっとした変更でプログラム化するのが非常に難しいものや実行がユーザーの手に負えないものが必要となることがあり、そうなると没になる。
組織化プレイ上問題を引き起こすカード
デジタル的に処理できなければならないのと同様に、イベント上でも処理できなければならない。しばしば、我々はイベントの規定で認められていないことをしたり、伝統的に認められていないようなことをプレイヤーにさせたりするカードを作ってきた。現在、イベント規定は変更しうるものではあるが、カードを変更する方がイベントの規定を大きく作り直すよりも簡単なことがほとんどである。
ブランド上の問題があるカード
『Unglued』『Unhinged』は非常におかしな空間を扱っていて、中にはブランド・チームが何とか変えることはできないだろうか、あるいは取り除くことはできないだろうかと問い合わせてきたカードもある。
法的な問題があるカード
これについて例示はできないが、あった、ということだけ言っておこう。
重要なのは、デザインを作り、それを実際に作り上げていく上では様々な落とし穴があるということである。我々はこういった問題すべてに対処するため、デザイン中に始めることを増やしている。そうすれば、問題があって完成しないものを早期に没にすることができるのだ。
そりゃ欠色だ
さて、それでは本題、欠色の話に入ろう。何があって、どうして最終的にキーワードになったのか。
プレビュー記事でも言った通り、エルドラージをひとまとめにして扱う方法が必要だった。『エルドラージ覚醒』では、部族というカード・タイプを使って全てのエルドラージ・カードにエルドラージというサブタイプを持たせていたが、部族というカード・タイプはもう使わないことにしているので、その選択肢はなかった。エルドラージは無色性と密接に関わっていたので、無色であることをメカニズム的な共通点とすることができないかと思いついたのだ。問題は、ゼンディカー世界を脅かす支配的な脅威として確立するためには、充分なエルドラージが必要であるにも関わらず、不特定マナだけをコストとするカードを大量に作ることは(『ミラディン』ブロックでしでかしたように、あらゆるデッキに強力なカードを入れることができてしまうので)とんでもない問題を大量に引き起こすことになる。
結局、この問題を解決したのは、『未来予知』のミライシフト・カード、《幽霊火》だった。このカードは赤マナを必要とするが、無色なのだ。この技術を使うことで、全てのエルドラージを無色にしながら、マナ・コストによってカードを隔離してカラー・パイの問題を引き起こさないようにすることができる。
最初に作ったカードでは、ルール文章の一番上付近に単に「このカードは無色である」と書いていた。しかし、すぐにあらゆるカードにこの一文を書くのはよろしくないと判断することになった。無色のカードが大量に必要なのに、これは不必要に文章を増やしていると思えたのだ。
試してみたのは、カードを物理的に無色にするということだった。無色であるとプレイヤーが把握するには、枠を見れば一目瞭然だった。そこで私はファイル内の全てのカードを書き換えて「このカードは無色である」の一文を取り除いた。その結果、プレイテスト中にちょっとした問題が起こった。無色であることはメカニズム的には重要なので、プレイヤーはそのステッカーを貼られたカードが無色かどうか伝えられなければならない。台紙に使うカードを無色にすればいいと考えていたが、単に張り間違えたのではないかと思われる危惧はあった。やがて、私は、特殊タイプのようにタイプ行に「無色」と書くという解決策にたどり着いた。たとえば欠色のソーサリーなら「無色ソーサリー」と書かれるのだ。
これが可能なのかどうか確認するため、私は現在のルール・マネージャーであるマット・タバックのところに赴き、単に書く以外の方法で無色性を表すことはできるかどうか尋ねた。マットはできるだろうと答えた。問題はないかに思えたのだ。
問題の最初の兆しが見えたのは、デベロップに入ってからだった。デベロップの初期に、新しいカード枠が必要かどうか決定する必要があった。必要なら、早いうちに手がけなければならないからである。私は、『エルドラージ覚醒』にあったような無色のカード枠で、今のカード枠にあわせたものがあることを前提にしていると言った。その時点では、私は欠色カードは真の無色カードと同じカード枠を使うものだと仮定していたのだ(デザイン中、マナ・コストに不特定マナだけを含む無色カードについて言うために「真の無色」という表現が使われていた)。
欠色カードが多くの人の目に触れるようになって、状況は一変した。欠色は奇妙で、開発部のメンバーをいらつかせたのだ。本当に必要なのかと問われて、私はその必要性を答えた。メカニズム的にエルドラージ・呪文すべてをまとめる方法が必要だということ、そして「無色テーマ」はこのセットの重要なテーマの1つであり、特にリミテッドでエルドラージに強力なメカニズム的一貫性を持たせるものであるということ。我々は懸念している人たちと話して、この問題を理解していった。最大の問題は、手札にあるときは唱えるのに色マナが必要だということがわかるべきで、一方戦場にあるときは無色のパーマネントだということが明らかになるべきだ、ということだった。手札にあるときは有色で、戦場にあるときは無色にするためにはどうすればいいだろうか。
カード枠などの大規模なグラフィック・デザイン問題を専門にするアート・チームのメンバー、リズ・レオ/Liz Leoがこれに取り組むことになり、賢明な解決法を見出した。カード名部分は有色カードのカード名部分のようにして、カードの枠全体は無色のカードのようにするというのだ。
例として《棘撃ちドローン》を取り上げてみよう。手札にあるときは、赤のカードのように見える。
戦場にあるときの見かけは、それよりも無色っぽくなる。
これでカード枠は完成だ。しかし、これで問題は解決、とは行かなかった。
風の無色
問題は、ルール上、色を定義する方法は3つしかないということだった。1つ目が、マナ・コストに含まれる(あるいは含まれない)色マナによる定義。欠色カードではマナ・コストに有色のマナが含まれるが、同じ色ではないので使えない。2つ目が、ルール文章による定義。欠色カードに不必要な文章を増やして雑然としたものにはしたくなかったので、これは避けたかった。3つ目が、色指標と呼ばれるものによる定義。これは、両面カードにはマナ・コストがない面が存在するが、そこに文章で説明を書きたくはなかったので、タイプ行の「クリーチャー」という記述のすぐ左側に色の付いた丸で色を示すことにしたのだった。
1つ目の方法が採れず、2つ目の方法は避けたいとなれば、3つ目の方法を選ぶことになる。そのためには、無色を表す色指標を作る必要があった。リズはいくつかの試作品を作ってみたが、それらを欠色カードをまだ目にしていないウィザーズ・オブ・ザ・コースト社内のマジック・プレイヤーに見せたところ、色の付いた丸で無色を示すのは事実上不可能だとわかった。灰色を使えば灰色だと思われ、茶色を使えば茶色だと思われる。透明にすれば背景のイラストの色だと思われる。色々と試してみた結果、理解してもらえないということが明らかになった。
3つ目の方法が使えないとなれば、処理するためには2つ目の方法を使うしかない。文字で書くしかないのだ。最初にやったのは、一周回って最初に戻り、「このカードは無色である」という文章を使ったのだった。
その後、さらにテストを重ねたところ、新しい問題が見つかった。新規プレイヤーにこのカードを見せて、このカードは無色か、と尋ねると、無色だと言う。しかしその後、このカード(マナ・コストに赤を含む欠色カード)は赤かと尋ねると、赤だというのだ。プレイヤーは、無色であり、かつ色を持つカードが存在しうると考えたのだ。
使いたいルール文章は「このカードは色を持たない。」だったが、単独のルール文章としては意味を持たない。これは分かりやすいように書いてはあるが、マジックのテンプレートというプログラム言語には従っていないのだ。解決策を見つけたのは、『戦乱のゼンディカー』のエディターだったティム・アーテン/Tim Atenだった。キーワード化すれば、この文を注釈文として書くことができる。注釈文は、正式なルール文章に比べたら構造上の制約が緩いのだ。さらに加えて、キーワード化することでもう1つの問題も解決できる。プレイヤーが欠色カードの話をするとき、通称を使わなくても良くなるのだ。このセットには真の無色のカードも大量にあるので、「無色のカード」というだけでは正確ではない。この能力をキーワード化することで、プレイヤーはこれらの話をできるようになるのである。
こうして、理念はまったく違う形で実装されたのであった。なぜ欠色が今の形になったのか、という問いへの答えは、他のあらゆる手段がうまく行かなかったから、なのである。
うまく行く解決策
今日の記事は、単に欠色だけの話ではない。ゲーム・デザイン(あるいはあらゆるデザイン)は、ある現実に向き合わなければならないという話である。クールな発想を持つのは素晴らしいことだが、それが実装できないのであれば役に立たないのだ。重要なのは、その良い発想を取り上げ、他の誰かが実際にそれを使えるようにするために何をする必要があるのかを見極めることだ。その判断はいつでも心地よいものとは言えないし、場合によっては最初と全く異なる形になることもあるが、それも産みの苦しみなのだ。理念というものは素晴らしいものだが、実装を伴わない理念はただの夢に過ぎない。具体的な結果と最終的な製品を作り出すためには、自分の理念を現実にするためには妥協が必要だという現実に向き合わなければならないのだ。欠色はその事実を示している、マジックにおける最新の例である。
本日はここまで。欠色の物語から何かを得てもらえたなら幸いである。いつものとおり、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、私が私に寄り添う日にお会いしよう。
その日まで、実装できる理念があなたとともにありますように。