マジックは変化のゲームだが、その中にも変わらないものが存在する。変わらないものの1つが、(ほぼ)毎セットで使われる、常磐木と呼ばれる類いのキーワード能力やキーワード処理である。しかし、これから見ていくとおり、常磐木でさえも時とともに変わっていくのだ。今日の記事では一番最初の基本セットである『アルファ版』『ベータ版』から、最後の基本セットである『マジック・オリジン』に到るまでの歴史をたどっていく。それぞれのキーワードがいつ生まれ、そしていつ消えていったのか。この記事の最後には、最後の基本セットでの変化も取り上げているのでお楽しみに。

 今回の記事の進め方を説明しよう。まず、基本セットを時系列順に並べ、そこで使われている常磐木キーワード能力やキーワード処理を列記し、その後、追加されたものや抹消されたもののそれぞれについて理由を見ていく。常磐木キーワードにも様々な変化があったということがわかってもらえるだろう。キーワードに変化がなかった基本セットについては、その前のセットと一緒にまとめることにしよう。


『アルファ版』『ベータ版』『アンリミテッド』

アート:Richard Thomas

キーワード能力

バンド

先制攻撃

飛行

土地渡り

プロテクション

トランプル

キーワード処理

アンティする

唱える

打ち消す

破壊する

捨てる

プレイする

再生する

探す

切り直す

タップする/アンタップする

追加されたキーワード能力

 全部だ。まあ、とりあえず説明していこう。

バンド

 リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldは、城の小型クリーチャーが協力して戦うという雰囲気を再現することは重要だと考えてこのメカニズムを作り出した。このメカニズムはクリーチャーが一丸となって攻撃したりブロックしたりするものである。

先制攻撃

 戦っている相手よりも素早かったり射程距離が長かったりといった理由で先に打撃を与えられるクリーチャーがいる。

飛行

 おそらくマジックにおいて一番最初に作られたキーワード能力はこれだろう。

土地渡り

 「土地渡り」は「島渡り」「沼渡り」「山渡り」「森渡り」という形で知られている。この4種はすべて『アルファ版』から存在した。「平地渡り」は『レジェンド』が初登場で、数も非常に少ない。

プロテクション

 この能力は特定の種類の魔法、大抵の場合は特定の色の魔法に対する魔法的な抵抗力を表している。プロテクションの働きについてのルールは、時と共に大きく変わっている。

トランプル

 このメカニズムは、攻撃クリーチャーの巨大さ、強さを表すために作られた。

追加されたキーワード処理

アンティする

 マジックの黎明期には、7枚のカードを引いた後、8枚目のカードを脇に置いた。そして、そのゲームの勝者は対戦相手からアンティ・カードを勝ち取ることができたのだ。プレイヤーの多くに受け入れられなかったアンティは、すぐに選択ルールになり、やがてマジックから消えていったのだ。

唱える

 このキーワード処理がマジックの一番最初に存在していたと聞いたら驚く諸君もいるかもしれない。これから示すとおり、この単語は長年の間マジックから失われていた。

打ち消す

 《対抗呪文》は、一番最初からマジックに存在していた。

破壊する

 パーマネント破壊も、

捨てる

 手札破壊もだ。

プレイする

 この単語は『アルファ版』から存在していたが、使い方は適当だった。

再生する

 再生がクリーチャーのキーワード能力だと考えている人は多いが、厳密に解すればこれはキーワード処理である。再生の扱いは、黎明期と今とで大きく異なる。当時は、再生は「墓地に行く途中」に初めて使うものだったのだ。

探す

 『アルファ版』で「探す」という単語を使っているのはたった1枚、《Demonic Tutor》だけである。

切り直す

 興味深いことに、『アルファ版』にはライブラリーから探すカードは1枚しかないが、切り直すカードは3枚もある。《Demonic Tutor》、《Natural Selection》《Timetwister》である。

タップする/アンタップする

 この単語も『アルファ版』で導入された重要な単語だが、使い方が定まるにはしばらくの時間がかかっている。『アルファ版』にはタップ・シンボルは存在せず、文章でタップすると書かれていたのだ。

失われたキーワード能力

 なし

失われたキーワード処理

 なし


『リバイズド』『第4版』

キーワード能力

バンド

先制攻撃

飛行

土地渡り

プロテクション

トランプル

キーワード処理

アンティする

つける

埋葬する

唱える

打ち消す

破壊する

捨てる

プレイする

再生する

生け贄に捧げる

探す

切り直す

タップする/アンタップする

追加されたキーワード能力

 なし

追加されたキーワード処理

埋葬する

 どういうわけか、破壊したときに再生されないようにしたいと強く思うようになった(おそらく《恐怖》と《分解》が好評だったからではないかと思う)。そのため、いちいち書き出さなくてもいいようにキーワード処理を作ったのだ。

生け贄に捧げる

 《Sacrifice》というカードは『アルファ版』に存在したが、生け贄に捧げるというキーワード処理は『リバイズド』で初登場だ。

失われたキーワード能力

なし

失われたキーワード処理

なし


『第5版』

アート:Drew Tucker

キーワード能力

バンド

先制攻撃

飛行

生息条件

土地渡り

プロテクション

トランプル

キーワード処理

埋葬する

唱える

打ち消す

破壊する

捨てる

プレイする

再生する

生け贄に捧げる

探す

切り直す

タップする/アンタップする

追加されたキーワード能力

生息条件

 この能力は、特定の環境を必要とする存在を再現するものである。多くは「生息条件(島)」という形で、水を必要とすることを表していた。能力そのものは『アルファ版』から存在していたが、キーワード化されたのは『第5版』においてであった。生息条件のほとんどは「生息条件(島)」である。

追加されたキーワード処理

なし

失われたキーワード能力

なし

失われたキーワード処理

アンティする

 振り返ってみて、「アンティする」が『第4版』まで生き残っていたのは驚きだった。しかし『第5版』において、公式にマジックから消滅したのだ。


『第6版』『第7版』

キーワード能力

先制攻撃

飛行

速攻

土地渡り

キーワード処理

起動する

唱える

打ち消す

破壊する

捨てる

交換する

プレイする

再生する

公開する

生け贄に捧げる

探す

切り直す

タップする/アンタップする

追加されたキーワード能力

速攻

 この能力は『アルファ版』の《賦活》や《冥界の影》から存在する(興味深いことに、どちらも赤ではない)が、第6版ルール変更のときに初めてキーワード能力として追加されたものである。

追加されたキーワード処理

起動する

 第6版ルール変更の目玉の1つが、カード・テキストにおける処理の表現の統合である。そのために、多くの単語が追加されたり削除されたりしている。マジックにおいて起動型能力はずっと存在していたが、第6版ルール変更までは「起動する」という特別な表現は存在しなかったのだ。

交換する

 これもまた、存在していた概念を文字に表すという試みの一例である。

公開する

 第6版ルールで、プレイヤーが非公開情報(たとえばプレイヤーの手札にあるもの)を見ることと非公開情報を公開してすべてのプレイヤーに見せることの違いが明確化された。この区別は2人戦ではそう重要ではないが、3人以上のプレイヤーがいる場合には重要になる。また、公開されているものを扱うこともできるようになる。

失われたキーワード能力

バンド

 バンドはうまく使えば、フレイバーに富んで効果的なのだが、混乱を招くものでもある。よく話題にするのが、1995年の世界選手権でジャッジをしていて世界最高峰のプレイヤーから一番多かった質問が、「今、バンドはどうやって処理するのか」というものだった。

 『第6版』では時とともに乱雑になっていた多くのものを整頓した。その一環として、いらないものをマジックから消すということも検討され、実行されたのだ。

生息条件

 この能力は、キーワード化するほどは使われていないということがすぐに明らかになった。再び文章で書くことにし、キーワード能力を削除したのだ。

プロテクション&トランプル

 『第6版』の目標の1つが、初心者向けのより良い商品にするというものだった。そのため、複雑なメカニズム2つを取り除き、エキスパート向け商品用にしたのだ。いろいろな意味で、これらのカードが常磐木と言えるものではないとは思わないが、この変更がこのときになされているということは事実である。

失われたキーワード処理

埋葬する

 ある日、我々は「なぜ再生をそこまで嫌うのか」と自問した。再生させるというのは殺されるものを生き延びさせるということなのに、除去呪文の多くで再生を禁止しているのはなぜなのかと。「それは再生できない」の一文を使いすぎているのを改めることに決めたら、今度は「埋葬する」というキーワードが必要ないことも明らかになった。だが、今でもよく「埋葬する」という表記を戻して欲しいという声は聞こえてくる。戻す気はない。

唱える

 これは第6版ルールの奇妙な変更点の1つである。カードを「唱える」ことはなく、カードは「プレイする」ものだ。「プレイ」は当時「戦場」を意味する表記の一部でもあり、「プレイ」という単語がいくつもの意味を持っていたことによる混乱があった。『第6版』では、他にも「立ち消え」「召喚酔い」などのいくつかの単語が削除されたが、その概念は重要であって言い換えがなかったので、それから何年も俗語として使われ続けることになった。


『第8版』

アート:Dany Orizio

キーワード能力

畏怖

先制攻撃

瞬速

飛行

速攻

土地渡り

キーワード処理

起動する

打ち消す

破壊する

捨てる

交換する

プレイする

再生する

公開する

生け贄に捧げる

探す

切り直す

タップする/アンタップする

追加されたキーワード能力

畏怖

 この能力は、この能力を与えるエンチャントである《畏怖》が『アルファ版』にすでに存在している。この能力は『オンスロート』でかなりの数存在したので、我々は「畏怖」というキーワード能力を導入し、『第8版』では基本セットにも導入したのだ。

追加されたキーワード処理

なし

失われたキーワード能力

なし

失われたキーワード処理

なし


『第9版』

キーワード能力

防衛

エンチャント

装備

畏怖

先制攻撃

飛行

速攻

土地渡り

プロテクション

トランプル

警戒

キーワード処理

起動する

つける

打ち消す

破壊する

捨てる

交換する

プレイする

再生する

公開する

生け贄に捧げる

探す

切り直す

タップする/アンタップする

追加されたキーワード能力

防衛

 マジックの黎明期、「壁」というクリーチャー・タイプには追加のルールが存在した。壁では攻撃できない。『レジェンド』が発売されて、もう1つ「レジェンド」というクリーチャー・タイプも追加のルールを持つようになった。時が流れて、『神河物語』の時に「伝説の」をテーマとして扱うことになり、「レジェンド」というクリーチャー・タイプは「伝説の」という特殊タイプに変わった。その結果、「壁」だけが追加のルールを持つクリーチャー・タイプとして残ったので、「攻撃できない」という能力をキーワードにするとともに、ゲーム上は同じ結果になるようにすべての壁に防衛能力を持たせるという決定がなされた。『第9版』はその変更の後の最初の基本セットである。これがキーワード化されたことで、壁でないクリーチャーにもこの能力を持たせることができるようになった。

エンチャント

 『第9版』までは、オーラのタイプ行には「エンチャント(○○)」(○○はエンチャントできるものの種類)と書かれていたが、我々はタイプ行にはエンチャントであると示す方が、オーラがエンチャントであるということが分かりやすくなると判断した。その後、エンチャントのサブタイプである「オーラ」ができ、何をエンチャントできるのかを定義する能力が作られることになった。

装備

 『ミラディン』ブロックで、アーティファクトのサブタイプである装備品が新しく導入された。これが非常にフレイバーに富んでいて人気も出たので、即座に常磐木入りすることになった。『第9版』は『ミラディン』後最初の基本セットである。装備は、装備品をクリーチャーにつけるというキーワード能力である。

プロテクション&トランプル

 復活だ。基本セットに復活だ。混乱を招くものは高いレアリティにするにせよ、常磐木キーワードはすべて基本セットに存在するほうがいいと判断したのだ。

警戒

 これも『アルファ版』から存在していた(《セラの天使》)が、キーワード化されていなかった能力である。『神河物語』でついにキーワード化され、その後の基本セットである『第9版』に登場したのだ。

追加されたキーワード処理

つける

 この能力は、装備品をクリーチャーに「載せる」ときに使われたのが最初である。オーラを整理するにあたって、エンチャントにも何か適切な単語が必要となり、装備品とオーラで同じ単語を使うことにしたのだ。

失われたキーワード能力

なし

失われたキーワード処理

なし


『第10版』

アート:Adam Rex

キーワード能力

防衛

エンチャント

装備

畏怖

先制攻撃

瞬速

飛行

速攻

呪禁

土地渡り

絆魂

プロテクション

到達

被覆

トランプル

警戒

キーワード処理

起動する

つける

打ち消す

破壊する

捨てる

交換する

プレイする

再生する

公開する

生け贄に捧げる

探す

切り直す

タップする/アンタップする

追加されたキーワード能力

瞬速

 『時のらせん』のデザイン中に、私はインスタントをカード・タイプではなく特殊タイプにしたいと取り組んでいた。そうすれば、「あなたがインスタントをプレイできるときならいつでもプレイできる」カードには特殊タイプの「インスタント」を持たせるだけでいい。これは少しばかり過激な計画であり、開発部を説得することはできなかった。その代わりに、「あなたがインスタントをプレイできるときならいつでもこれをプレイできる」をキーワードにして、どんなパーマネントにも持たせられるようにしたのだ。

絆魂

 『未来予知』では、マジックにあり得る未来の様々なものをミライシフト・カードという形で見せた。私はこの機会を利用して、長年やりたいと思っていたことを試してみた。キーワードの問題が生じていたので、私はよく使われている能力をいくつもキーワードにして、複数の色で使うことでデザインにクリーチャー(特にフレンチ・バニラ・クリーチャー)を作るための新しい道具を与えようとしたのだ。冗談半分に、私はそれらの新しいキーワードをミライシフト・カードに与え、これらの能力がマジックに登場するかも、と見せた。そしてその未来は次のセットである『第10版』だったのだ。この能力の起源を遡れば、マジックの最初のエキスパンションである『アラビアンナイト』の《エル・ハジャジ》にまで行き着くことができる。

到達

 この能力は『アルファ版』の《大蜘蛛》まで遡ることができる(《大蜘蛛》は「基本セット生き残りゲーム」の勝者だ。つまり、一番長い間続けて基本セットに登場し続けていたカードなのである)。これは元々『未来予知』でキーワード化するつもりの能力ではなかったが、キーワード化することで飛行の文章もより簡単になるのでここに追加されたのだ。

被覆

 元々これを『未来予知』のリストに入れていたのは、「対象不能」と呼べば単語が増えすぎることはないと考えたからであるが、この計画の賛同者を集めることができず、別の名前が選ばれることになった。

追加されたキーワード処理

なし

失われたキーワード能力

なし

失われたキーワード処理

なし


『基本セット2010』『基本セット2011』

キーワード能力

接死

防衛

エンチャント

装備

先制攻撃

瞬速

飛行

速攻

土地渡り

絆魂

プロテクション

到達

被覆

トランプル

警戒

キーワード処理

起動する

つける

唱える

打ち消す

破壊する

捨てる

交換する

追放する

プレイする

再生する

公開する

生け贄に捧げる

探す

切り直す

タップする/アンタップする

追加されたキーワード能力

接死

 この能力は、絆魂、到達、被覆とともに作られたものだが、『第10版』に入ることはなかった。しかし、なんとかしてその次の基本セットである『基本セット2010』には入ることになった。厳密に言えば、エキスパート・エキスパンションに限れば、他のキーワードと同時に常磐木キーワードになっていたのだ。

追加されたキーワード処理

唱える

 「唱える」が再び用語として復活だ。「戦場」という語が導入されたことで「プレイする」も混乱なく使えるようになった。「死亡する」も導入されたが、これは厳密にはキーワード処理とは言えない(起こったことを示す表現であり、何かをするというものではないからである)。

追放する

 もう1つの用語の変更は、「ゲームから取り除く」を「追放する」に言い換えたことである。多くのカードにおいてゲームから取り除かれたものがゲームに影響を及ぼし続けるというのは、実際にゲームから取り除かれているのであればおかしなことだった。

失われたキーワード能力

畏怖

 畏怖には2つの問題があった。まず単語の問題として、畏怖を与える、のであれば、その与えられた側がおびえるはずであるが、このメカニズムはその逆の働きをするものである。2つめにデザイン上の問題として、メカニズムを第2色に広げるのは重要なのだが、畏怖を黒以外のクリーチャーに持たせると意味がわからないことになる。我々はこれに代わるメカニズムを作ることにしたが、それは『基本セット2010』には登場しなかった。


『基本セット2012』『基本セット2013』

アート:Richard Wright

キーワード能力

接死

防衛

エンチャント

装備

先制攻撃

瞬速

飛行

速攻

呪禁

土地渡り

絆魂

プロテクション

到達

トランプル

警戒

キーワード処理

起動する

つける

唱える

打ち消す

破壊する

捨てる

交換する

追放する

プレイする

再生する

公開する

生け贄に捧げる

探す

切り直す

タップする/アンタップする

追加されたキーワード能力

呪禁

 我々がこのメカニズムを作ったのは、プレイヤーが被覆を扱えていなかったからである。対戦相手が被覆持ちのクリーチャーを対象にできないのはわかっていても、自分もできないのは理解できていなかった。直感的には、能力というものは自分の助けになるものであって、自分を邪魔するものではないはずだからである。テストの様々な局面でこの誤りを犯しているプレイヤーを見かけたので、我々は被覆を作り直し、プレイヤーが信じるとおりに働くキーワードを作ったのだ。

失われたキーワード能力

被覆

 当然、呪禁を作ったのだから被覆はいらない。キーワードとしては働くままにする(被覆を持ったカードは存在し、それは今まで通り働く)が、新しいカードで被覆を使うことはあり得ない。

失われたキーワード処理

なし


『基本セット2014』『基本セット2015』

キーワード能力

接死

防衛

二段攻撃

エンチャント

装備

先制攻撃

瞬速

飛行

速攻

呪禁

破壊不能

威嚇

土地渡り

絆魂

プロテクション

到達

トランプル

警戒

キーワード処理

起動する

つける

唱える

打ち消す

破壊する

捨てる

交換する

追放する

格闘する

プレイする

再生する

公開する

生け贄に捧げる

探す

切り直す

タップする/アンタップする

追加されたキーワード能力

二段攻撃

 このメカニズムは、最初の「You Make the Card」にプレイヤーから寄せられたカード・メカニズムとしてデザインされたものだ(カードは《忘れられた古霊》)。緑は先制攻撃を持たないので、この能力はこのカードにふさわしいとは言えなかったが、我々はこのスマートなデザインが気に入った。そして、『レギオン』で《尾根の頂の猛禽》と《岩片の精霊》の2枚のカードにこの能力を与えたのだ。この能力はその後すぐに常磐木入りしたが、基本セットに登場するまでにはしばらくの時間がかかった。

破壊不能

 破壊不能能力が最初に作られたのは『ダークスティール』の時だったが、このときはキーワードではなく普通の文章で書かれていた。「破壊されない」がキーワードだと考えたプレイヤーも多かったので、我々は『基本セット2014』でこれをキーワードにすることにした。また、同様の問題があった「ブロックされない」もキーワードにしようとしたが、この能力はあまりに多くの文脈で使われていたので、そうすることはできなかった。英語では「unblockable」を「cannot be blocked」にすることでキーワードだという誤読を防ぐことにした。

威嚇

 威嚇は、畏怖の置き換えとして2つの問題を解決するためにデザインされた。まず、これなら威嚇を与えてもおかしくない。次に、扱う色はその持っているクリーチャーの色に依るため、どの色のクリーチャーに持たせても問題なくなった。この能力は、興味深いことに、最初に作られたのは『基本セット2010』のときであるが、それ以来どのカードにも登場せず、脚光を浴びたのは『ゼンディカー』のときだった。脚光を浴びた後の最初の基本セットが、『基本セット2014』である。

追加されたキーワード処理

格闘する

 我々は、緑で緑らしくクリーチャーに対処する手段を探し続けていた。我々はこれ以上専門用語を増やしたくはなかったが、テストしてみると、「格闘する」という単語は非常に直感的でプレイヤーがその単語だけを聞いたときに正しい処理を想像できるものになっていた。これが初めて導入されたのは『イニストラード』のときであり、その後の基本セットは『基本セット2014』である。

失われたキーワード能力

なし

失われたキーワード処理

なし


『マジック・オリジン』

キーワード能力

接死

防衛

二段攻撃

エンチャント

装備

先制攻撃

瞬速

飛行

速攻

呪禁

破壊不能

絆魂

威迫

果敢

到達

トランプル

警戒

キーワード処理

起動する

つける

唱える

打ち消す

破壊する

捨てる

交換する

追放する

格闘する

プレイする

再生する

公開する

生け贄に捧げる

占術を行う

探す

切り直す

タップする/アンタップする

追加されたキーワード能力

威迫

http://media.wizards.com/2015/origins_askdf9aj2399v/jp_2USs5xllTD.png

 威嚇を使うのを辞めたかったので、我々はいい置き換えを探していた。そして、それほど探さないうちに、『フォールンエンパイア』から時々使われていた能力が存在していることに気がついた。この能力のことを開発部では最初にこの能力を持ったカードにちなんで「《ゴブリン・ウォー・ドラム》能力」と呼んでいた。デッキによって大きく異なるクリーチャーの特性に注目するのではなく、ブロックするクリーチャーの数に注目するのだ。これならほとんどのデッキに適用できる。

 威迫を使うのは、威嚇を取り去ることによる穴を埋めるためである。つまり、これは黒が第1色、赤が第2色となる。キーワード化こそしていないが、『タルキール龍紀伝』でいくらか使っていることに気付くだろう。

果敢

http://media.wizards.com/2015/origins_askdf9aj2399v/jp_Kmykw4Amhj.png

 私のブログ「Blogatog」では、回避能力でない青の戦闘関連のキーワードが必要だという話題が何年も繰り返されている。これに加えて、青赤は数ある色の組み合わせの中で(青黒がもう1つ挙げられるが)共有しているキーワード能力が存在しない組み合わせなのだ。果敢は『タルキール覇王譚』のジェスカイのキーワードとして作られたが、使ってみるとそのゲームプレイが気に入ったし、そのデザイン上の可能性にも気がついたのだ。

 果敢といえば、ショーン・メイン/Shawn Mainからの面白い話がある。彼の仕事の一環として、市場調査チームと協力するというものがあるので、最初にデータを目にするのは彼である。セットごとの調査は2回に分けて行われる。1回目が第一印象を調べるもので、2回目は実際にプレイしてみてのプレイヤーの感想を集めるものだ。『タルキール覇王譚』の1回目の調査では、果敢は氏族のメカニズムの中で最下位だった。2回目の調査では、果敢が最上位を占めていたのだ。

 エリック・ラウアー/Erik Lauerは最初、果敢を常磐木キーワードにしようとした。私は、その能力の第1色が青で第2色が赤(で、多分第3色が白)なら同意すると答えた。エリックは同意し、はいおしまい。我々は長年探し求めていた青のキーワード能力を手に入れたのだ。

追加されたキーワード処理

占術を行う

http://media.wizards.com/2015/origins_askdf9aj2399v/jp_9zWHiaYn8E.png

 占術は、まだ開発部のメンバーでなかったアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheが初めてデザイン・チームに所属した『フィフス・ドーン』でデザインしたものだ。占術は、ウィザーズ内外を問わずずっと大人気のメカニズムである。カードの流れをよくする上でも素晴らしい働きをし、セットの目的を果たす助けになっている。様々なセットに投入した結果を踏まえて、デベロップ・チームは占術を「時々使うもの」から「いつでも使うもの」にしてもいいのではないかと検討した。どのセットにもカードの流れを作るメカニズムは必要である。毎回車輪の再発明をするより、いつでも使えるようにした方がいい。ということで、占術を行う、は常磐木キーワード処理になったのだ。

失われたキーワード能力

威嚇

 威嚇は問題を解決するために作られたが、それ自身にも問題があることが明らかになった。色に基づく回避能力は、結局のところ非常に振れ幅の大きいメカニズムになる。相手のデッキによっては非常に強いが、他のデッキに対しては全く役に立たないこともある。そして、相手のデッキがどんな色なのかというのは、テーブルに着いてしまえばプレイヤーにはどうにもできない話である。さらに、威嚇は多色環境や無色の多い環境では有効とはいえないので、近年我々は威嚇を使わないようになっていた。さらに、このメカニズムは我々が考えていたより混乱を招くものだったのだ。『タルキール覇王譚』で試してみたが、多くのプレイヤーは裏向きのクリーチャーが威嚇持ちのクリーチャーをブロックできないということが理解できなかったのだ。このメカニズムは長年にわたって欠点を抱えていたが、我々がついに威迫をキーワードに格上げすることを決めたので、威嚇はもう必要なくなったのだ。

土地渡り

 土地渡りは威嚇と同じような問題を抱えていたが、さらに深刻なものだった。その該当する土地を使っていたら、どうやってその土地渡りクリーチャーに対抗すればいいのか? その基本土地をプレイしない? マジックはやりとりがあってこそ面白いので、土地渡りはその条件を満たしていないのだ。

プロテクション

 この最後のメカニズムにはちょっと注釈が必要である。威嚇や土地渡りと違い、プロテクションは削除されるのではなく格下げになるのだ。実際、『マジック・オリジン』にもプロテクションを持ったクリーチャーは存在する。プロテクションは、言ってみれば常磐木から落葉樹に変わるのだ。道具箱には存在していて使うことはできるが、毎セットで使うのが当たり前のものではなくなる。必要に応じてセットに登場する、混成マナのようなものだと思えばいい。そうはいっても、毎回当たり前にあるというわけではなくなる。

失われたキーワード処理

なし


永遠と常磐木と

 少々、常磐木の小道を辿ってみた。見てもわかるとおり、長年にわたってマジックには多くの変化があった。そして『マジック・オリジン』もその例外ではない。私はいつも諸君からの反響を楽しみにしているが、マジックに加えている変化について語っているときにはなおのことである。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、ホワイトボードの前でお会いしよう。

 その日まで、あなたが威迫、果敢、占術を楽しみますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)