『ゲートウォッチの誓い』のプレビューが終わり、いよいよカード個別のデザインの話をする日がやってきた。話すことはいくらでもあって、今回もまた2部作になっている。こんな前振りで時間を潰すのももったいないので、早速始めることにしよう。

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 白は、小型クリーチャーが連合して軍勢となり、脅威に対抗する色である。従って、我々は小型クリーチャー・トークンを作る(2/2以下を小型としている)のを主に白に、大型クリーチャー・トークンを作るものを緑に割り当てている。1/1か2/2しか作れない(記録しやすくするためにトークンのパワー/タフネスは正方、つまりパワーとタフネスを同じ値にすることがほとんどである)なら作れる呪文の種類にも限りがあると考えられがちだが、いくつかの方法でバリエーションを増やすことができるのだ。

  • クリーチャー・タイプ ― マジックには多くの部族要素があるので、適切なクリーチャー・タイプを選ぶことでクリーチャー・トークンを作る呪文にテーマを持たせることができる。《同盟者の援軍》はそのまさに好例である。同盟者にすることで、このトークンは同盟者が戦場に出ることを参照するすべてのカードを誘発させることができ、旧『ゼンディカー』ブロックに存在した同盟者と作用するカードとも組み合わせることができる。
  • インスタントかソーサリーか ― インスタントは奇襲性に富むが、重くなる傾向にある。ソーサリーは不意を突くことはできないが、軽くクリーチャーを並べることができる。我々はその両方を使うわけだ。
  • 作るクリーチャーの数 ― 小型クリーチャー、特に1/1を作る、というのは、1つの呪文で複数のクリーチャーを作ることができるということを意味する。出しているクリーチャーの数が大きく影響するようなフォーマットでは、唱えるカードの数より多くのクリーチャーを得ることができることになる。

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 いつでも面白いことの1つに、もう存在するはずだと思われているものが実はまだ存在していなかった、ということがある。例えば、「白黒の伝説のクレリックは存在するか」と尋ねられたら、私も「もちろんだ」と答えていただろう。白はクレリックがもっとも多い色で、黒がそれに次ぐ2番目だ。クレリックはほとんどのセットに存在する職業で、伝説のクレリックもたくさん作ってきた。そうなれば、その中に1体ぐらいは白黒がいるはずだ。

 実際は、作っていないのだ。『ゲートウォッチの誓い』以前には、マジックには18種類の伝説のクレリックが存在した。その中の7種が白単色で、が黒単色。黒赤が2種、緑白が2種、緑白青が2種、白青が1種。白でも黒でもあるものは2種あるが、そのうち1種は白黒赤で、1種は白青黒である。つまり、純粋な白黒というのは存在しなかったのだ。

 しばしば、そのようなカードが存在していないことに気付きすらしていないことはよくあることなので、これは欲しがられていて存在していないものを認識することが重要な理由を示す好例となる。

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 カード個別のデザインの記事の中で、私は目立つカードを作ったことについてかなりの時間を割いて語ることが多い。しかし、「構造的デザイン」と私が呼んでいるものについて語ることもまた重要だと考えている。構造的デザインとは、出来が良くて単純で、しかも、見てエレガントで、簡単に理解でき、セットのテーマを支えるカードを低いレアリティに作らなければならない、ということである。《ベイロスの仔》はその好例である。このセットのメカニズムの1つが支援であり、支援は+1/+1カウンターを他のクリーチャーに置くことができるというものだ。この能力は単体でも問題ないが、そのテーマをドラフトするプレイヤーがシナジー目的で優先するようなカードを数枚追加するとさらに良くなる。

 これは2種類の働きがある。1つ目に、既にそのテーマを採用していたなら、つまり支援カードを何枚かドラフトしていたなら、《ベイロスの仔》はデッキ内でよく働くようになり、従って他のプレイヤーより少し早い順目でピックすることになる。{1}{G}で3/1というのはリミテッドでは充分だが、優先して取るほどのものではない。2つ目に、《ベイロスの仔》をピックしていたら、支援のようなカードを優先的にピックしようと思うようになる。

 私が常々考えているテーマは、デザインは大量の細部の積み重ねである、というものだ。これは、セット全体としての雰囲気は、大量に組み合わさった小さな要素によるものだからである。

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 これは一見すると簡単に作れる類のカードである。実際のところ、このカードの初稿は「他のプレイヤーがコントロールするすべてのクリーチャーは呪禁と破壊不能を失う」という類のものだったと確信している。このカードは、なぜルール・マネージャーやセットのエディターがデザイン段階で関与するのかの見本のようなものであった。見ての通り、概念的には非常に単純に見えて、実際にそれを現実のものとしようとするとはるかに厄介になるメカニズムというのは大量に存在するのだ。《死すべき定め》はまさにその一例である。

 このカードの初稿を読んだ諸君のほとんどは、対戦相手がコントロールするクリーチャーから呪禁や破壊不能がすべて失われるものだと考えるだろうと思う。実は、そうなるとは限らないのだ。マジックには「種類別」と呼ばれるものがあり、複数のカードが何かに影響を及ぼす場合に起こることを定義する助けとなっている。《死すべき定め》が常在型能力だとしたら、《死すべき定め》が呪禁や破壊不能を失わせた後でそれらを得させる方法が存在してしまうのだ。

 カード・テキストを整形する目的は、カードを理解できるようにしながら、初稿で意図していたことを実現させることである(あるいは、それに限りなく近づけることである)。呪禁や破壊不能を取り除くことを起動型能力にすることによって、ほとんどの場合にプレイヤーの想像する通りに働くカードを作ることができたのだ。

 カード個別記事では、アイデアを形にすることに焦点を置いていることが多いが、特にルールや整形といったようなマジックの理論側の部分においては、アイデアを処理できるようにすることも同様に重要なのだ。

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 開発部は、奈落/the Pitと呼ぶエリアで働いている。各個人のパーティションはあるが、壁は低く、プレイテストのためのかなりのスペースが準備されている。奈落は、開発部員同士のコミュニケーションを促進するようになっているのだ。『ゲートウォッチの誓い』のリード・デベロッパーを務めたイアン・デューク/Ian Dukeは私のはす向かいに座っているので、私と彼はよく議論を交わす。よくある話題の1つがカラー・パイである。今まで我々が扱っていない部分を弄りたいと思ったら、イアンは私に、新しい効果は何色であるべきかという意見を求めてくるのだ。『ゲートウォッチの誓い』のデベロップ中のある日、イアンが話しかけてきた。「マーク、プレインズウォーカーに対する教示者効果は何色だろう?」

 カラー・パイについて質問されたときの多くは、参照できる前例が存在する。「それは以前、この色でやったことがある」ということだ。しかし、完全に新しい効果の場合、私は何がふさわしく感じるかじっくり考えることになる。まず最初に、我々は全ての色に何らかの教示者効果を持たせている。この鍵は、その色が扱うものに対する教示者を持つ、ということだ。しかし、プレインズウォーカーは一筋縄ではいかない。プレインズウォーカーは5色全てに存在し、全ての色がプレインズウォーカーを扱っているのだ。

 メカニズムだけではっきり決まらない場合、私は色の理念について考え始める。プレインズウォーカーに対する教示者効果は、フレイバー的にはどういうことか。それはつまり、助けを呼ぶということだ。そうなると、これは白が比較的ふさわしく感じる。しかし、必要であれば他の色でも可能になる。例えば、プレインズウォーカーを脅迫して従わせている、というフレイバーならこれは黒だ。『ゲートウォッチの誓い』は協力するというフレイバーを持ち、このカードはゲートウォッチへの参加を示すものなので、白が正解だと私は感じた。

 私はイアンに白だと告げた。イアンは、「よし」と言ってきた。彼もまた、白であってほしいと思っていたのだ。そして、《ゲートウォッチ招致》が白にできたのである。

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 これはチャンドラの7枚目のカードである。正直に言って、強力なチャンドラを作ることに関して良い結果は残せていない。また、我々はフレイバー的にチャンドラらしい効果を探し続けながら、チャンドラに他のことをさせている。

 チャンドラの1つ目の能力はチャンドラには例を見ない、トークン・クリーチャーを作るというものだ。彼女らしさを保つため、それらのトークンは小さなエレメンタルで、すぐに消えてしまうようになっている(ただし、ダメージをすぐに与えられるように速攻を持っている)。

 2つ目の能力は「かき回し/rummage」(カードを捨ててから引く)だが、ただしカード1枚ではなく手札全部をそうするものだ。この能力ではカードを1枚増やすことができるが、これは通常赤がカードを引くときの上限となっている。この効果は非常に衝動的な感じで、チャンドラの性格にあったものになっていると言えるだろう。

 最後の能力、伝統的にプレインズウォーカーの「奥義/ultimate」と呼んでいるものは、X能力であるという点で独特である。つまり、チャンドラは準備する必要なく、出てきた直後に使うこともできるのだ。Xなので、効果を大きくしたいなら準備のために時間を費やすこともできる。

 メカニズム的には、これらの能力は少しばかり関連が薄い。しかしフレイバー的には繋がっており、チャンドラのオーナーにかなりの柔軟性を与えている。《炎呼び、チャンドラ》によってついにチャンドラ・ファンがチャンドラに見合った強さのカードを手に入れることができるようになったと言えるだろう。

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 怒濤は、複数の使い方があるという意味で興味深いメカニズムである。1つ目が、既に呪文を唱えていれば怒濤呪文を軽くできる。2つ目が、既に呪文を唱えている場合には他の効果を得ることができる。《押し潰す触手》はその両方を兼ねている。マナ・コストの減少はたいしたことはない(といっても5マナと6マナの間には何ターンも空くのが普通だ)が、効果は絶大だ。8/8のタコがおまけについてくるのだ。これは私のお気に入りの怒濤カードである。ただ1つ残念なのは、文章が多すぎて本来入れる予定だったキオーラに関するフレイバー・テキストを入れられなかったことだ。

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 『戦乱のゼンディカー』に関して受けた質問の中で大きなものの1つが、「白のエルドラージはどこ?」というものだった。答えは、デザインは白のエルドラージを入れようと思っていて何体もデザインしたが、デザインとデベロップがファイルを整えていくうちに、白はゼンディカー軍寄りになってエルドラージから離れていったのだ。そうして、実際に印刷されるころには、白のエルドラージは1枚も残っていなかったというわけだ。

 『ゲートウォッチの誓い』に到って、デザイン・チームはそれに気付いていた。我々は、白のエルドラージ・カードを大量に作ることではなく、1枚でも印刷に到るようなものを少数精鋭で作るということを目的に置いた。《変位エルドラージ》はそれを成し遂げたカードだ。このブロックに白のエルドラージが何枚も入っているわけではないが、少なくとも1枚は存在しているのだ。

 これは本来サイクルだったはずだ。『戦乱のゼンディカー』には上陸があったので、『ゲートウォッチの誓い』にも上陸を入れようと思い、何種類かの調整を試したのだ。我々が気に入ったものの1つが、上陸によって土地を1ターンの間クリーチャー化させるというものだった。その後、それぞれに、土地・クリーチャーに影響する常在型能力を与え、サイクルの関連性を強めたのだ。いくつもの具象化カードをプレイしたくなるよう、土地をプレイすると土地・クリーチャーが強化されるようにした。このサイクルは、一種のスリヴァーのような感じになっていたのだ。

 このセットでやるべきことが今のように多くなければ、このサイクルはそのまま残っていたことだろう。コジレックらしさを示す要素があり、協力することやゲートウォッチを結成することを意識させる要素があり、同盟者にもメカニズム的な関連性が欲しかった。「無色関連」テーマにもカードが割かれた。全てを詰め込むには、メカニズム的要素が多すぎたのだ。

 その結果、具象化カードのすることを必要とする色、つまり赤と緑にだけ具象化カードを残すべきだという決定がなされた。『戦乱のゼンディカー』のリミテッドでは、赤緑は上陸に焦点を置いた構成になっていたので、その焦点は『ゲートウォッチの誓い』にも残すことにして、このサイクルを2枚だけに削ったのだ。

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 我々が『戦乱のゼンディカー』を作り始めたとき、ゼンディカーに戻るとなったらプレイヤーが望むだろうものをホワイトボード上に書き出していった。その中には、戻ってくることをプレイヤーが望んでいると思ったものもあったが、『ゼンディカー』当時に作らなかったことによってプレイヤーが不満に思ったものもあった。その1つが、5色の同盟者の統率者である。

 同盟者はカジュアルなプレイヤーに大人気のデッキだったが、統率者戦でプレイしようと思うと、同盟者に関係ない5色の統率者を選ぶことを余儀なくされた。『ゲートウォッチの誓い』のリード・デザイナーだったイーサン・フライシャー/Ethan Fleischerは『戦乱のゼンディカー』のデザイン中に数枚のカードを作ったはずだが、同盟者の負け方に焦点が集まっていて、5色の統率者をふさわしいものにはできず、イーサンは、『ゲートウォッチの誓い』で提供することに決めたのだった。

 イーサンがデザイン中に思いついたのは、マナ・コスト的には単色だが、起動コストを5色にすることで、5色の固有色を持ち、5色の統率者として働くようにする、というアイデアだった。このデザインによって、このカードを使うのに必要なのは1色なので、リミテッドでは非常に困難な5色を揃えることをしなくてもよくなった。イーサンが白を選んだのは、同盟者の長としてふさわしいのは白だと感じられたからである。教示者能力が与えられたのは、リミテッドでも統率者戦でもうまく働くからである(100枚のシングルトン・デッキと教示者能力は最高の相性だ)。

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 トップダウン・デザインはいつでも楽しい。それは、それまで作ったことのないデザインを0から作り上げるからだ。私の知る限り、このカードは、「面晶体の連結」というカード名でデザインしようというところから始まったものだ。面晶体はゲートウォッチがエルドラージと戦う上で大きな意味を持っているので、それに関連したカードを作るのは妥当だ。表したかったフレイバーは、面晶体を正しく連結すれば、対戦相手との戦いを制する助けとなる強大な効果を得ることができるというものだった。

 さて、戦いを制するというのが文字通り勝利だとしたら、どういうことになるのか。『戦乱のゼンディカー』には《フェリダーの君主》が再録されているが、このブロックには新しい勝利条件カードは入っていない。それでは、面晶体を正しい配置に置いたら勝利できるというのはどういうことか。マジックには5つの領域がある(手札、戦場、ライブラリー、墓地、追放領域)。そして、その中の3つは公開領域だ(追放領域では非公開のこともある)。それなら、デッキに4枚入れられるのだから、これが4つの領域にそれぞれ存在するというのはどうだろうか。ライブラリーは一番扱いが難しく、最初から入っている領域なので簡単すぎるので除外する。

 こうして、新しい勝利条件ができた。ジョニー諸君、創造力を発揮してデッキを作ってくれたまえ。

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 このカードのデザインは、いくつもの理由で気に入っている。私の中のヴォーソスが囁いているものもあれば、メル側からの評価もある。エルドラージへの見解は、ゼンディカーの吸血鬼の中で分かれている。巨人やその血脈と手を組んでいるものもいるが、同盟者に与するものもいる。ドラーナはエルドラージを止めようとする吸血鬼の1人であり、カリタスはそうでない1人なのだ。

 私はこのカードが吸血鬼とゾンビの両方に関わっているのが好きだが、それはフレイバーからだと思われる。《ゲトの裏切り者、カリタス》はゾンビを使って戦わせているので、殺した相手全てが彼の軍勢を強化していくことになるのだ。また、このカードでは、カリタスが犠牲にするのはゾンビだけではなく、自身を強化するためには仲間の吸血鬼も犠牲にするということが描かれている。

 メル側から見ると、このカードでは多くの部分が組み合わさって働いている。《ゲトの裏切り者、カリタス》は吸血鬼なので、絆魂はまさにふさわしい。さらに、対戦相手のクリーチャーが死亡することを新しいゾンビに変えてしまう。そのゾンビやデッキに入れてある吸血鬼を生け贄に捧げて自身を強化することができ、そうなると絆魂もさらに有効になり、対戦相手はブロックせざるを得なくなり、死亡するクリーチャーが増え、ゾンビが増えていくことになるのだ。なんと素敵なデザインだろう。

ゲートウォッチに注目せよ

 今週はここまで。いつもの通り、今回のコラムや『ゲートウォッチの誓い』についての意見を募集している。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、その2でお会いしよう。

 その日まで、チームを組む楽しみがあなたとともにありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)