デザインの間は、簡単に話が進むこともあれば、そうでないこともある。今日の記事はその後者の一例である、『ドミナリア』からセット・デザインのほとんどの期間取り除かれていて、生き残らせるために私がかなりの努力を必要としたメカニズムについてのものだ。ついに私が歴史的メカニズムの歴史的な物語を語るときが来たのだ。そして、諸君に歴史的利益を生み出すプレビュー・カード、私(と、マイケル・ライアン/Michael Ryan)が生み出した伝説の人物をご紹介しよう。

なぜそれが重要なのか

 それを救うために私がした努力の話をする前に、なぜ私がそれほど懸命にそれを救おうとしたかの説明をする必要があるだろう。セットデザインの間に物事は変わり続ける。メカニズムは現れ、そして消えていく。私は、展望デザインよりも下流で起こる変更についてはめったに抵抗しない。なぜ今回はそうしなかったのか。

 説明するために、展望デザインにおける私のお気に入りの比喩を使おう。家を建てることを考えてもらいたい。展望デザインは、建築士だ。我々が建てているものが何なのかという方針を定める。我々は、展望を伝え、セットデザインが物理的に家を建てることができるようにするための設計図を作る。セットデザインは、家を建てるにあたってその家にあらゆる変更を加えることができる。絨毯をフローリングの床に変更したいと考えることもあるだろうし、窓を増やしたいと考えることもあるだろうし、暖炉の石を増やしたいと考えることもあるだろう。建築士として、私はそれに介入しない。家を建てるにあたって調整するのは職人の仕事だからである。

 ではここで、職人がある部屋を広くするために柱を取り除こうとしていたとしよう。この場合、その柱が屋根を支えている大黒柱であれば、建築士として私は介入することになる。その変更によってその家に構造的な問題を引き起こされるのであれば、建築士として介入する責任があるのだ。ここで起こったのは、基本的にそういうことである。

問題は伝説にあり

 先週、我々が歴史という概念をメカニズム的に再現しようとしたという話をした。アーロン/Aaronが、アーティファクトと伝説の存在を参照することを提案し、私はすぐにその発想を受け入れたのだ。私が語っていなかったのは、その理由である。

 アーティファクトと伝説の存在の組み合わせが、単に伝説の存在だけよりも良かったのはなぜか。それを理解するために、ここで、かつて伝説の存在に意味を持たせようとした『神河物語』ブロックに立ち戻らなければならない。そのブロックでどのような多くのデザイン上の失敗がなされたかという話をしたことがあるが、その中の1つが「伝説の存在関連」テーマだった。ここで、この問題の基本について説明させてもらおう。

#1 ― 開封比問題

 「開封比」とは、特定の条件を満たすカードが平均的なブースターからどれだけ出てくるかを表す開発部語である。開封比が1である、とは、その条件を満たすカードが平均して各ブースターから1枚出てくるはずだということを意味する。1.5であれば、その条件を満たすカードが平均して1枚半出るということを意味する。整数でない数字になりうるのは、すべてのブースターの平均を取るからである。1枚入ったブースターが5パックと2枚入ったブースターが5パックあれば、平均は1.5になる。

 開封比が問題なのは、伝説のカードは高いレアリティに多い傾向にあるからである。ほとんどのセットでは、それらはレアと神話レアにだけ存在する。『神河物語』ブロックでは、レアのクリーチャーはすべて(当時は神話レアはまだ存在しなかった)伝説のクリーチャーであったが、それでもほとんどのプレイヤーにとっては意味を感じられるほどにはならなかったのだ。我々はさらにアンコモンの伝説のクリーチャー(めったにやらないことだ)を加えたが、それでも開封比はリミテッドでそのテーマを成立させるにはあまりにも低い値だったのだ。

 開封比を充分高くするために特定の条件を満たすコモンのカードがどうしても必要で、しかしコモンの伝説のクリーチャーを作るのは伝説のクリーチャーのフレイバー(1つしか存在しないもの)を無視する行ないなのだ。『ドミナリア』のリード・セットデザイナーであったデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysは、(イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerのアイデアに基づき)すべてのパックに伝説のクリーチャーが1枚ずつ入るようにすることにした。これは間違いなく助けにはなったが、それでさえも開封比は我々の望むほどの値にはならなかったのだ。

#2 ― 点数で見たマナ・コスト問題

 点数で見たマナ・コストとは、呪文にかかる合計のマナの数のことである。{1}{U}{U}が必要な呪文の点数で見たマナ・コストは3で、{5}{R}が必要な呪文の点数で見たマナ・コストは6である。点数で見たマナ・コストは色を参照せず、単にどれだけの量のマナが必要かだけを見る。

 伝説の存在は、レアリティの高い方に集まっているのと同じように、点数で見たマナ・コストでも高い方に集まっているのだ。大抵の場合、伝説のクリーチャーは他のクリーチャーに比べて、大きく、多くの能力を持ち、ゲームに大きな影響を与える。そのため、我々はそれらを重くすることになる。何か「関連」のテーマを扱う場合、それを大量にプレイする必要がある。その何かが重くなる傾向にあると、それを大量に1つのデッキに入れるのは難しくなるのだ。また、マナ・カーブを埋める(何かを毎ターンプレイできるようにするため、コストがお互いに異なるカードを充分に入れる)のも本当に難しい。

#3 ― 色問題

 また、伝説のクリーチャーは、複数の色を持つ傾向にある。フレイバー、デザイン、統率者といった理由から、伝説のクリーチャーのマナ・コストには色を追加する方向の圧力がかかるのだ。つまり、1つのデッキに大量の伝説のクリーチャーを入れる場合、そのデッキの色は多くなる傾向にあるということである。問題をさらに悪化させているのは、色を安定化させるために使うようなカード自身は伝説のカードではないことが多いということである。

#4 ― 実用性問題

 伝説のアーティファクトやエンチャント、土地、プレインズウォーカー(そして『ドミナリア』ではさらにソーサリー)を作って入るが、伝説の存在といえばその大多数はクリーチャーである。また、伝説の存在は比較的大きく派手なものにする傾向がある。そのため、伝説の存在を詰め込んだデッキは、ほとんどのデッキに比べて柔軟性が低くなる。つまり、必要な実用性を得るためにはテーマを破らなければならない傾向があるということである。

 ここで、アーティファクトを追加することが魅力的に見えた理由がわかることだろう。開封比を引き下げる(訳注:正しくは「引き上げる」)助けとなる、コモンやアンコモンのアーティファクトを印刷することができる。マナ・カーブを埋める助けとなる、軽いアーティファクトを作ることができる。アーティファクトは、重い多色カードをプレイする助けとなる、ランプや色の追加に有用である。そしてアーティファクトはあらゆる実用性をもたらすことができるのだ。アーティファクトは単にテーマ的にいい組み合わせだと言うだけではなく、伝説の存在の大きな問題となる隙間を埋める助けとなるのだ。

 私がメカニズムについて話すとき、そこにはさまざまなものがある。派手さを加えるもの。フレイバーを加えるもの。実用性を加えるもの。しかし、メカニズムの中には、私が接着メカニズムと呼んでいるものが存在する。それらは、セットを成立させるものである。それらは、あらゆるものを繋ぎ合わせるものである。デザインの観点から言うと、接着メカニズムは大黒柱なのだ。

アート:Jason Felix

我々の提出物

 もう1つ強調しておきたいことは、最終的な歴史的の形は展望デザインが示したものと同一ではないということである。これから説明していく通り、歴史的には大きな問題がいくつか存在した。人々が同意しなかったのは、修正する必要があったからである。これまで、人々が何かの概念(分割カード、混成マナ、両面カードなど)を嫌ったという話をしてきたことがあるが、今回はそれらとは話が違った。実装に作業が必要だったのだ。

 歴史的は、能力語として引き渡された。その働きは次のようなものだった。

歴史的/Historic - あなたがアーティファクトか伝説のカードを唱えるたび、○○する。

 このバージョンでは、2つの大きな問題があった。

問題1

 これは単なる詠唱誘発なので、メカニズム的に軽い呪文をプレイすることで利益を得られるようになっていた。今述べたとおり、伝説のカードは重くなる傾向にある。つまり、このメカニズムを最適化する方法は、軽いアーティファクトを大量にプレイすることだということになる。これは我々が望んでいたプレイパターンとは全く違っていた。また、伝説の土地が唱えられることはないので、歴史的はそれらと組み合わせても全く役に立たないのだ。

問題2

 人々はフレイバーを掴まなかった。こんな会話が何度も繰り返された。

相手:よくわかりません。なんでアーティファクトと伝説の存在がひとまとめになっているんですか?
:それらは歴史の一部だからだ。
相手:それはどうすればわかるんです?
:このメカニズムには歴史的という名前がついているだろう。
相手:気づきませんでした。

 ほとんどのプレイヤーは能力語を読み飛ばすということがわかった。キーワードはメカニズム的な重みを持つのでその意味を理解する必要があるが、能力語はその働きを厳密に描写した文章があとに続くのだ。したがって、プレイヤーは能力語を軽く扱うようになり、能力語はフレイバーをもたらす上で上手く働かないのだ。

 デイブ・ハンフリーはこのセットで歴史的が果たす役割を構造的観点から理解したが、それがトーナメントでどのように使われるかについて心配していた。彼は私に、歴史的を調整して最初の問題に対応する方法を見つけることができるかどうかと尋ねてきた。このセットの製品設計者であったマーク・グローバス/Mark Globusは、2つ目の問題を気にかけていた。人々はフレイバーを掴んでいないのだ。私はそこに取り組む必要があった。

 主席デザイナーとしての難しいことの1つが、いつでも大量の問題をこなさなければならないということである。『ドミナリア』がセットデザイン中だったということは、『Spaghetti』は展望デザイン中で、『Meatballs』は先行デザイン中だったということなのだ。また、我々は将来の世界を具体化している途中だったので、私はそれらのメカニズム的特徴を決めるための作業もしていたのだ。

 そして、それらのどれもさまざまな他のプロジェクトのことや、私がしなければならない日々の活動のことは考慮してくれない。『ドミナリア』と歴史的にいくらかの力を向けるために、私は時間を絞り出さなければならなかったのだ。

1つ目の問題に取り組む

 この問題を解決するために私が最初にしたことは、「軽いアーティファクトを大量にプレイする」を最適な戦略でなくすためにデザイン上できることを見つけ出すことだった。そして、私たちは、いくつかの可能な答えにたどり着いた。

 ターンに1度だけ起こしたいような効果を作る ― この解決策の背後にある考えは、ターンに複数回でなく1回だけ起動したいような歴史的カードを作るというものだった。そのための方法はいくつか存在した。複数回使っても何も意味がないような効果(「ターン終了時まで、あなたのコントロールしているクリーチャーはすべて飛行を得る。」)を選ぶことができる。また、1回で目的を達成できるような効果(「あなたの対戦相手がコントロールしているクリーチャーの中でパワーが最大のものをタップする。」)を選ぶこともできる。あるいは、1回しか起こらないような効果(「次にあなたがカードを引くなら、その代わりにカードを2枚引く。」)を選ぶこともできる。私がずっと悩まされていた問題は、デザイン空間が非常に狭いということであった。

 伝説のパーマネントが戦場にあることによって利益をもたらす効果を作る ― これは、戦場にあれば歴史的効果がさらに有利になるようにすることで、伝説のカード、特に伝説のクリーチャーを優遇するという発想であった。例えば、「クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それのパワーを2倍にする。」は(通例多色であり、従って点数で見たマナ・コストに比してパワーの比率が高い)伝説のクリーチャーと組み合わせるほうが、(有色カードの立場を侵害しないように比較的重いコストにされがちな)アーティファクト・クリーチャーよりもずっと効率が良くなる。このデザイン空間は「1度だけ使いたい効果」よりもずっと充実していたが、それでもなおデザインは難しかった。

 軽いアーティファクトを減らす ― リミテッド環境に影響を及ぼすことができるのはわかっているので、注意深くすれば、スタンダードを調整しておくことで問題を回避することができるかもしれない。しかし、この問題にいくらか影響を及ぼすことができるとはいえ、すでにスタンダードには変更できない充分なカードがある(ゴホンゴホン、『カラデシュ』)ので、我々の手はある意味で縛られていたのだ。

 最終的に、私は完全とは言えないにせよいくらかの成功を収め、この問題を解決はしなかったが減らすことはできたのだ。

2つ目の問題に取り組む

 この問題は感覚の問題なので、私はいくらかの時間をかけて何が間違っているのかを探ることにした。能力語というのは1つの問題だったが、他にも問題はあった。

 私が気がついた興味深いことの1つが、2つからなるグループと3つからなるグループの脳による扱いの違いだった。2つであれば2個組として考えられるが、3つになると集合として考えられるのだ。言い換えると、ピーナッツとカシューナッツを見たら、「ピーナッツとカシューナッツ」とだけ考えるが、ピーナッツとカシューナッツとアーモンドを見たら、「ナッツ」として考えるようになるのだ。プレイヤーがそれらをグループとして扱いやすいようにするために、もう1個要素を足すことが重要だと仮定してみよう。

 最も明らかな選択肢は、プレインズウォーカーを加えることだ。プレインズウォーカーは人物であり、間違いなく歴史的重要性があると感じられる存在だ。これで、歴史的はアーティファクトと伝説の存在とプレインズウォーカーになった。ちょうどこのころ、我々は(ちなみに『ドミナリア』とは関係なく)プレインズウォーカーをすべて伝説の存在にすることで、伝説のパーマネントのルールとプレインズウォーカーの単一性ルールを統合するという決定した。また2つに戻ってしまったのだ。

 ここで、私は英雄譚を組み入れることを思いついたのだった。当時、英雄譚はすべて伝説のエンチャントだったので、メカニズム的には列記する理由はなかった。しかし、デイブと私はすでに、ゲームプレイ的な理由で英雄譚は伝説の存在でないほうがいいという可能性について話し合っていた。英雄譚をここに加えると、デイブはその変更をすることができ、そうしても英雄譚は歴史的と相互作用するままになる(物語なのだからフレイバー的に完璧だ)。デイブと私はこの件で話し合い、そして彼はその変更をした。これらの小さな変更は累加的な効果を持ったが、それでもプレイヤーが能力語を軽視するという根本的な問題を解決するものではなかった。

アート:Adam Paquette

 これらすべてが顕在化したのは、(開発部担当副社長の)ビル・ローズ/Bill Roseとの会議の席だった。だいたい月に1回、ビルはさまざまなセットの状況を調べる(つまり、各セットはだいたい年に4回調べられることになる)。そして、このときの対象は『ドミナリア』だった。

 彼は問題が残っていることに気づき、歴史的をボツにすべきときだと判断したのだ。私は激しく反駁し、これはこのセットの接着剤であり、もしこれを取り除くとセットがバラバラになってしまうと主張した。ビルは答えた。「わかった、マーク。1か月やろう。1か月後、また『ドミナリア』を確認する。その時にまだ歴史的の問題を解決できていなかったら、そのときはこのセットから取り除く。」と。

危機の訪れ

 私はスケジュールの許す限りすべての時間を空けることにした。歴史的がボツになれば、『ドミナリア』を復旧するすべはなかった。つまり、私には問題を解決してこのメカニズムを助ける以外の選択肢はなかったのだ。しかも、ビルはもう1つ私に課題を提示してきた。彼は、このメカニズムが芳醇でないという懸念を示したのだ。他にも解決すべき課題がある中で、私は歴史的をフレイバーに満ちたものにする方法も示さなければならなかった。

 私はクリエイティブ・チームから、『ドミナリア』のアートとストーリー担当のマーク・ウィンターズ/Mark Wintersとケリー・ディグス/Kelly Diggesの協力を仰いだ。問題の多くは感覚的なものだとわかっていたので、私は、カード名、フレイバーテキスト、アートを揃えて仮に仕上げることができる何枚かのカードを作り、それを社内のマジック・プレイヤーに見せて反響を集めることにした。そして、その反響を元にして変更を加える。それを1か月の間に可能な限り反復するという計画だった。

 私は最初に、このメカニズムで可能な材料をできるだけ多く考えた。冒険する考古学者。懸命な博物館のキュレーター。人々がそれについて読むたびに蘇る怪物。オーパーツ的図表が詰まった古代の墓所。でっち上げるのが好きな歴史マニア。それぞれについて、私は新しいルール・テキストをデザインし、マークやケリーと協力して妥当なアートやクリエイティブ・テキストを与えた。その一方で、この能力に別の名前をつけることも検討した。能力語でなくキーワードで表現することも試した。新しいテンプレートも試した。どんな要素を変更してもいいという姿勢で臨んだのだ。

 そして、私はそれらのカードをできるだけ多くの人々に見せ、彼らの反響を集めた。情報収集のために複数のバージョンを使ったこともあった。第一印象を尋ね、そのカードが何を表していると思うか聞き、どう変更すべきかの提案を求めた。そしてデータを集め、それをマークやケリーと共有し、そして次の反復工程に入ったのだ。

 やがて、必要なのはルール・テキスト中の語彙だということに気がついた。「歴史的なカード」が何を意味するか聞かれたプレイヤーの直感はだいたい正しいものだったので、まずプレイヤーに「歴史的」という単語を読んでもらい、それからそれが何を意味するかを知ってもらうようにしたいと考えた。

 つまり、その単語をルール・テキスト中で使い、その後でその意味を注釈文で説明するのだ。こうすれば、プレイヤーはその単語を読解する必要がある。読み飛ばすことはできない。「あなたが歴史的なカードを1枚引くたび……」どういう意味だろう? 歴史的なカードって何? その後で、注釈文を読む。「ああ、なるほど歴史的なカードってのはそういうことか。」こうすることで、プレイヤーはその概念を新しいものとして考え、そしてそれを強化するような答えを出すことになるのだ。

 問題は、それは伝統的なキーワードでもなければキーワード処理でもないということだった。それは、新しい何かだったのだ。しかし、それが一体何なのかを決めるべきか悩む時間はなかった。ただ先に進めて試すしかなかった。

 そして、それは上手くいった。もうプレイヤーがその単語を軽く扱うことはなく、それについて考えることになり、そしてその後で注釈文で説明すると、最も多い反応は「なるほど。」というものだった。後に、私はこの新しい技術を「包括/batching」と呼んだ。ゲームのさまざまな要素を選び、それらを新しい名前の大きなまとまりとして結びつけるのだ。

 さらにエキサイティングなことに、私は包括がメカニズム問題を解決する助けになるということに気がついた。マジックの語彙としては新しい要素だったので、歴史的は必要に応じて使うことができる要素となった。参照するのが歴史的なカードを唱えることだけである必要はなく、探すことも墓地から戻すこともでき、どんな効果にでも使うことができるようになったのだ。この単語ができたことで、我々はすべての効果を同じにしなくてもよくなったのだ。

 この最新版でもう一度意見を集めた結果、このメカニズムは今までの中で最高の反響を得ることができた。プレイヤーは概念を理解しただけでなく、このメカニズムを大好きになってくれたのだ。そのデータをハンフリーとグローバスに示したところ、2人ともこのメカニズムの進んだ方向性に満足してくれた。リード・セットデザイナーも製品設計者も満足し、良い反響を集めることもできた。いよいよビルに成果を見せるときだ。

 私はビルの前に座り、そして彼にカードの最新版を見せた。集めた反響をすべて示した。そして、それらの変更によってこのメカニズムにあったすべての問題がどのように解決されたかを解説した。マークとケリーとともに見つけた、多様で芳醇な表現空間を説明した。ビルは私のプレゼンに礼を述べ、そして1日かけて検討すると言った。

 2日後、ビルからの返事が届いた。彼は、このメカニズムを差し替えるように言ってきたのだった。

アート:Jesper Esjing

ゼロからの出発

 私は、歴史的を差し替えるという任務を受けた。どこから手を付ければいいのかわからなかった。数か月の間、私がこの問題にかなりの時間を費やして考えていたのは、これを取り除けと言われるかもしれないという心配が常にあったからである。

 私が歴史的にこれほど賭けていた理由は、他の解決策を見つけ出していなかったことにあった。私はテーマとして伝説に注目していたが、そこには上述のような様々な問題があったのだ。たしか、この時点でデイブがブースターパックに必ず1枚伝説のクリーチャーを入れるという方針を出したが、それでもリミテッドには全く足りなかった。アーティファクトは、開封比を高めるためのコモンカードとして使えるというだけでなく、無色であることから開発部語で言う「プレイ比」、つまりリミテッドのデッキで使われる比率も高めてくれるのだ。あらゆるデッキに入れられるので、アーティファクトは他のほとんどのカードよりも多くのデッキで使われることになられう。

 単純な解決策はどれもうまくいかなかったので、私はより創造的な方法に向かった。常識はずれの答えを探したのだ。私は、それまで真理だと信じていたあらゆる仮定に疑問を投げかけた。すべてを成立させるための道はどこにあるのか。探しても探しても見つからない。本当に、本当に努力したが、それでも見つけられなかったのだ。

 このセットの基柱になっていたのは、歴史的なのだ。それをボツにすれば、異常な大きさの穴が空いてしまう。そこで私は深く掘り下げ、可能性のある解決策を探し回った。そしてわかったこと、ありうる選択肢がたったひとつだけあった。ビルを心変わりさせることである。最終的に、方策は2段階になった。

 まず最初に、マジックの開発部は非常にチーム中心的である。ビルは彼の周りにいるメンバーの専門性を強く信頼している。私は開発部の全員に、歴史的が現在の問題に対する最高の解決策だと納得してもらうことにした。

 私は、それぞれの問題について詳細に説明し、歴史的がどのようにそれらを解決するかと、歴史的がこのセットに入らなかった場合に起こる問題について述べた文書をまとめた。それぞれの問題に関するさまざまな解決策と、それらの解決策が他の問題の解決策をどのように妨げるのか、あるいは新しい問題を引き起こすのかについて説明した。それぞれの要素がどのように繋がり合っているかを示し、歴史的がどのような働きをしているのかを見せた。私はその手紙と共通の会話を使って、歴史的が問題解決の最善手だと(ビル以外の)全員を説得したのだった。

 それから、開発部内の全員が歴史的を支持しているということをビルに知らせてから、デイブと私はビルとの対談に挑み、彼の考える問題全てについて解説していった。それぞれの問題について、メカニズムの実装によってどのように解決できるかという答えを示した。いくつかの解決策の中で、我々が歴史的で何をしないかに関する規則もできていった。

 例えば、このセットに含まれるアーティファクトはすべて歴史を感じさせるものであるという規則を決めた。通常のマジックのセットではショベルが存在しうるが、『ドミナリア』では、アーティファクトは過去からの物品を表すものである。

 問題の中には、我々が作ったさまざまな種類の歴史的なカードによって抑えられたものもある。また、我々が構築向けに推した歴史的なカードによって抑えられたものもある。最終的に、ビルの懸念がカード個別の手段によって抑えられるということを示すことによって、ビルの同意を取り付けることができたのだ。

 そして、ついに、ついに、ビルは歴史的を承認してくれたのだった。

最後の思い

 この話の重点は、正解にたどり着くのは共同努力の成果だということである。困難な道ではあったが、歴史的の最高の実装に連なる道だった。私は包括という技術を非常に誇らしく思っていて、個別のカード多くのデザインがこの過程で生まれたものである。歴史的は最終的に、単なるこのセットの接着メカニズムだというだけでなく、それ自身で輝けるようなメカニズムになったのだ。

 これは「彼らが私の話を聞くべきだった」という話ではなく、「私は彼らの話を早く聞くべきだった」という話である。これは、我々の工程がいかにしてユーザー諸君のために最高の完成品を作り出しているのかという話なのだ。マジックを手がける上での浮き沈みを理解する上で歴史的の話は重要なものであり、この話を諸君皆と共有できたことを嬉しく思う。

 終わりにする前に、ここでクールなプレビュー・カードをご紹介しよう。伝説のクリーチャーで、実のところ、非常に歴史的な1枚だ。これは我々が初めてウェザーライト・サーガを作った時に、マイケル・ライアンとともに私が作り上げた人物だ。ジェラード、ミリー、ロフェロスに魔法を教えた先生だ。エレメンタルの守護者でもある。それでは、『ドミナリア』での《マローの魔術師ムルタニ》の姿をご覧あれ。

《ヤヴィマヤの化身、ムルタニ》

 今日の記事を楽しんでもらえたなら幸いである。今回ほど1つのメカニズムを掘り下げることは珍しいので、諸君に楽しんでもらえたことと思う。いつもの通り、今日の記事だけでなく歴史的というメカニズムについて、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『ドミナリア』のカード個別の話をする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたの仕事が歴史的を印刷に到らしめることよりもいくらか簡単でありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)