Translated by Yoshiya Shindo

 ギルドパクトのプレビュー特集へようこそ(今週と来週はギルドパクトのプレビューで、ご存知の通りプレビュー自体はそれでおしまいだけど、その後もギルドパクトの特集が無くなるなんてことは絶対に無いだろうね)。

高性能ネズミ取りの構成法

 ラヴニカのプレビューでは、私はブロック全体におけるギルドモデルがどうやって生まれたかを語ってきた(話をご存じない方は、都市計画:パート1都市計画:パート2 なんかを読んでいただきたい)。そして私の2005年所信演説 (未訳)では、まあコラムなんだけど、私はラヴニカがブロック全体で行うデザインの始まりだと言うことを述べてきた。それじゃ、それはギルドパクトにどうかかわってきているのか? それはすなわち、このセットのデザイナーの皿の上には、過去のセットの平均よりも多くの物が並んだ状態でデザインを開始できるってことを意味するのさ。

 さて、先に行くのはちょっとおいておいて、まずはここで“このセットのデザイナー”ってやつを紹介しなくちゃいけないだろうね。デザインのコラムを書く人間においては、マジックの各デザインチームの面々を紹介するのは義務になってるらしいので。今回もそれに従おう。

 マイク・エリオット(Mike Elliott、リーダー):デザイナーの履歴を延々と書いてきてる者として、なんだか繰り返しをやってるような気になるのはちょっと問題だね。そう、彼は歴代のマジックにおいて、最も多くのカードをデザインしている人物だ。もちろん、こうやって「マジックの作り方」なんてコラムを書いている人物は別だけどね。あるいは、彼は歴代において最も多くのデザインチームに参加している。もちろん、開場でニワトリだのロバだののコスプレをしてるプレリリースの主催は別だよ。わかるだろう?
 《エメシーの秘本/Emmessi Tome》は彼の名にちなんでつけられている(彼のフルネームは、“MSC”ことマイケル・スコット・エリオット(Michael Scott Elliott)だ。念のため)。彼は私が思いつくよりも多くのメカニズムを生み出してきている(私のお気に入りは、スリヴァーやエコーやシャドーだね)。でもこんなことは君も知っているだろう。何せ自分は毎回彼を紹介してるんだから。マイクについて知らないことは何があるんだろう? ええと、彼はかなり優秀なバレーボールのプレイヤーだ。彼以上にパワーナインをコレクションしている人物は記憶に無い。彼は背がかなり高い。それから、ええと、私のところの双子よりも数ヶ月年上の可愛らしい息子さんがいる。まあとにかく、「彼はマジックのデザインのパイオニアであり、彼抜きでは今日のマジックはありえなかっただろう」と言っておいて、今回は締めておこう。

 アーロン・フォーサイス(Aaron Forsythe):各ブロックにおいて、私はデザイナーのうち1人をそのブロックのセット全てに参加させることで、一貫性を持たせるようにしている。ラヴニカブロックにおいては、そのデザイナーがアーロンだ。しかし、アーロンには別なモチベーションもあった。来るべきディセンションは、彼にとって初のデザインチームのリーダーとなるセットであり、彼はデザインのリーダーがそれぞれどういった作業をしているかを知るために、できるだけ多くのデザインチームに参加したかったんだ。アーロンはフィフス・ドーンとラヴニカでは私の下で働き、“スナップ”においてはブライアン・ティンズマンの下で作業をする予定になっている(大型セットのデザインは、前のブロックの二番目の小型セットのすぐ後に始まるんだ)。そして、マイク・エリオットは三人目のリーダーを実地で見るいい経験だ。このセットはアーロンにとって三番目のデザインチームなので、彼もいよいよ見習いから“強打者”へと変わるときが来たって事だ。

 デヴィン・ロウ(Devin Low):このセットはデヴィンにとって二つ目になる(最初は神河救済だ)。デヴィンもまた期待の新鋭デザイナーの一人だ。デヴィンと一緒に仕事をする上で私が気に入っているのは、彼が作業に持ち込んでくる意気込みだ。デヴィンにデザインの仕事与えれば、彼はデザイン空間のまさしく隅々まで当たってくるんだね。デヴィンの提出したものを見るとき、彼がいかに想像もしなかったところを当たってくるか、もういつだって驚きに値する。スーツとネクタイの仕事だとこれはあまり役に立たないのかもしれないけど、カードのデザインのようなクリエイティブな仕事にとっては、これはもう諸手をあげて歓迎するところさ。

 ブライアン・シュナイダー(Brian Schneider):ブライアンは、調整チームにおける私のようなものだ。ブライアンも私も、たまには“反対側”につま先を突っ込んでみるのも悪くないと思っている(私はディセンションでは調整チームにいたよ)。私はブライアンならいつでもデザインチームに歓迎する。というのも、彼はデザインにおいてなかなか興味深い視点を持っているし、君が信じようと信じまいと、調整の主任はデザイナーとしてはイケていないなんてことは全然無いんだ(ついでに言えば、彼はダークスティールや神河救済でもデザインチームにいたし、第9版ではデザインと調整の二役をやっていたよ)。

 そんなわけで、彼らがラヴニカ第二段、いわゆるギルドパクトの責任者である四人衆ってわけだ。

ギルドをやりすぎると

 さて、話を元に戻すとしよう。ブロックの一部分であるセットのデザインはどんな風に行うべきか? その答えは……非常に注意深くってことになる。お分かりと思うけど、ブロックデザインの一部を行うということは、ある意味仕事が非常に楽になる一方で、ある意味いささか大変なことにもなる。わかりやすく言おうか。ブロックデザインの一部を行うということは、セットの進行に関してよりわかりやすい状況になっている点で話は簡単になってくる。しかし、一方でそれは制限でもあるんだ。

 世の中に広まっている誤解の中には、クリエイティブな作業を行う際に、アーティストに対しては可能なかぎりの自由を与えたほうがいいと思われている点がある。親愛なる「マジックの作り方」の読者ならご存知だろうけど、私はこれは真実とは逆だと信じている。限定が無いということは、クリエイティブな行動を何倍も難しくしているだろう。制限はアーティストに対して、そこから何かを掴み取る為のきっかけを与える。例えば、私と妻は贈り物をするパーティーが好きだ……なので、我々の友人に子供が授かったときなんかは、彼らに子供用品を贈ったりするのさ。相手に対して確認すべきはテーマだけだ。何らかのテーマがあれば、それに対して素晴らしいことを考えられるんだからね。これがないと、君はとにかく何だかわからないパーティーを開く羽目になり、最終的にいわゆる「そこらにありがちなパーティー」になってしまうのさ。

 私はこの限定条件は、ギルドパクトのデザインチームには大きなプラスになっていると感じている。というのも、彼らは初日からデザインの方向性が見えているからだ。問題点は、ラヴニカのデザインや調整のチームが行った選択がもたらした構成が、ブロックの後のデザインや調整チームに対し、守らなければならない規定となってしまうことだ。これはラヴニカのチーム事態は気にせずにすんだものの、一方で二つの小型セットが直面する羽目になってしまった問題だったんだ。

 中でも最大は、私が“倍増問題”と呼んでいたものだ。ご存知の通り、ラヴニカでは三つの異なる色が二つずつのギルドに登場している。計算すればわかるけど、それはすなわち、ラヴニカで一回しか登場しなかった色は、小型セットでは二つの異なるギルドに登場するということだ。それの何処が問題なのか? それは開発部が“枚数問題”と呼んでいるものだ。ラヴニカは大型セットだった。ギルドパクトとディセンションは小型セットだ。ギルドパクトとディセンションはギルドの加重が75%になる(四つではなく三つなんだから)。しかし、カード枚数は75%じゃないんだよ。

 その結果として、倍増した色は二つのギルドが求める空間を満たす為に場所を食いつぶしてしまった。ギルドと関係の無いカードの入る空間がゼロになってしまったのさ(実際はレアの枠に若干の残りはあるものの、コモンとアンコモンはすっかり埋め尽くされた)。これは、ラヴニカに赤や青の単色カードが多い分で、若干バランスをとることにした(大型セットに島流しになったんだね)。ギルドパクトが出たら、赤のカードを調べてみると、何が起こっているのか理解してもらえると思うよ。

ぶっちぎる怒涛のギルド

 ギルドパクトのデザイナーの次の大きな挑戦は、セット内の三つのギルド、オルゾフ(白黒)とイゼット(赤青)とグルール(赤緑)の定義だ。それぞれのギルドは、ギルド内の二つの色が重なったイメージを持たせつつ、ラヴニカで行われたことには手を触れちゃいけないんだ(ディセンションでも同じことをしなくちゃいけないけど、セットは最後の一つだからね――ご心配なく。その任にかかってるのはアーロンだけど、まあとにかくそれはまた別のプレビューの話だ)。

 幸いなことに、これは第一印象ほど面倒なことじゃなかった。色の分割が仕事の大部分をやってくれたからだ。それぞれのギルドには独自の雰囲気がなくちゃいけない。何せ二色の組み合わせはそれぞれ独自のものなんだから(我々をギルドモデルに導いた最初の事実だ)。しかし間違わないで欲しいんだが、“第一印象ほど面倒なことじゃなかった”ってのは、簡単だったって事じゃない。今回説明するのは、ギルドの考え方そのものじゃなくて、デッキのアーキタイプを中心としたものだ。ギルドパクトのギルドの考え方については、また改めて特集を組むことにしよう。

オルゾフ組

 さて、白と黒(まさしく宿敵同士だね)の入ったデッキはどんな感じになるだろう? そんなに速いものじゃない。白と黒の重なった部分は、両方のコントロール的な意味合いになるだろう。白単にも黒単にも、あらゆるものを停止させるコントロールデッキが存在する。まず何かに対応して行動を行い、さらに先回りして行動を行う。これら二つの戦略を組み合わせると? 対応と先行を同時に行えるコントロールデッキはあるだろうか? もちろん、存在する。その手のデッキは“失血(ブリーダー)”デッキと呼ばれている。

 失血デッキの考え方は、ゲームを膠着させておいて、ゆっくり相手から剥ぎ取っていくというもの。デッキの名前の元は、このデッキが素早く勝つものではなく、相手が少しずつ死に至る様から来ている。このアーキタイプは、イメージ的にもメカニズム的にもうまくいっている。

 これをうまくいかせるには、失血デッキを助ける白や黒の個別の方向性を強調することだ。そんなわけで、白には相手を止まらせる呪文が数多く入る一方で、黒には相手から少しずつかじり取っていくようなカードがより多くなるだろう。

イゼット団

 赤と青の重複している領域で興味深いのは、共にパーマネントにならない呪文に優れている点だ――インスタントとかソーサリーだね。そして、このイゼットの呪文に対する実験の嗜好からいっても、ギルドは呪文に目を向けるべきだ。この手のデッキには、失血デッキのような既存のデッキは無い。いや、確かに呪文に目を向けたデッキ(神河ブロックの連繋デッキとか)はあるけど、インスタントやソーサリーそれ自身に特化したものはなかっただろう。

 後にイゼット特集でまた触れるが、赤青はギルドの中でも飛びぬけてイカレている。知性と情熱がぶつかり合うとき、あらゆる類の奇妙なことが起こるのさ。ギルドパクトのデザインチームはこれを反映したいと考えて、赤青のアーキタイプに多くの奇妙さが起こりえるようにした。オルゾフやグルールのデッキとは異なり、イゼットのデッキはゲーム毎に安定した動きをするわけじゃない。イゼットデッキは混沌に触れるようなものなのさ。あるゲームでデッキがどう回ったかは、次のゲームの指針としては何の役にも立たないだろう。もちろん、そうなるかもしれない。一つだけ確かなことがある――君がイゼットがお好みなら、しっかり足場を固めるといい。君の先に待っているのは荒々しい急流だよ。

グルール一族

 他のギルドはぱっと見てもぴんと来ないかもしれないが、赤緑の行き先は最初からはっきりしている。こいつは毎ターンどんどん大きなクリーチャーをだしては攻撃に行くやつだ。じっくり考えるやつじゃなくて、とにかく殴りに行くやつさ。君たちの中には、ボロスとかぶっているのを心配している人がいるかもしれないね。だが、ご心配なく。ボロスはとにかくウィニーによる速攻だった。グルールはできるだけデカいやつを出したがるんだ。グルールは小物の軍団で勝つんじゃなく、相手が対処できないようなデカブツ一体で勝つのさ。

 その結果、グルールはギルドパクトで最速のギルドになった。そんなに攻撃ばかりで考えることが無ければ、グルールにはちょっとした技を使う余地のあるカードは無いんじゃないかって心配しているんじゃないだろうか。私は思いやりのあるコラムニストだから、今回のプレビューカードは、グルール好きの君たちの前に登場するご馳走のうちの一枚にすることにしよう(イゼット好きの諸君は、来週までお待ちあれ)。お分かりとは思うが、ひたすら相手の頭を殴りつけている最中でも、ちょっとした技を使う余地はいつだって存在するものさ。こちらをご覧あれ。ここをクリックしてくれたまえ

 なかなか面白いだろう? これがたったの4マナだ。

期待と緊迫と

 ところで、それぞれのギルドのキーワードはどうなったんだろうか? ギルド魔道士の役割は? そもそもギルド魔道士はいるのか? ギルド土地は? 印鑑は? 強化呪文は? デュアルランドは? (ああ、これは間違いなくあるよ。) 疑問はたくさん出てくるだろう。プレビューに二週間かけるのもそういった理由からだ。全部を初日でぶちまけてしまうつもりは無いよ。コラムニスト仲間にも言いたいことはあるだろうしね。

 それではまた来週、ギルドパクトのデザインの別な側面について語ることにしよう。

 それまでの間、憎悪の種を手に入れる夢が見られることを祈念しつつ。

 マーク・ローズウォーター