ようこそ! 現在この記事では、『イクサラン』のデザインとデベロップの話をしている(その1その2。今日の記事は、この2本の記事を読んだことを前提にしている)。しかし、まだその全てを語り終えてはいない。前回の最後で、ケン・ネーグル/Ken Nagle(彼と私は『イクサラン』の共同リード・デザイナーである)がデザイン・ファイルをデベロップに引き渡したので、今日はその続きの話をすることにしよう。

『イクサラン』のデベロップ

 ファイルが引き渡された時点で、各メカニズムは次のような状況だった。

探検

 ケンは、自分のライブラリーの一番上を見て、それが土地なら残すことができるという呪文のおまけ「土地旅」を弄っていた。デザイン・チームのメンバーであるマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebは調整してキーワード化するようケンを説得した。その調整とは、その能力をクリーチャーにだけ持たせるようにして、見たカードが土地でなかった場合に+1/+1カウンターを置くというもう1つの利益を持たせるようにする、またその土地でないカードをライブラリーの一番上か一番下かどちらかに置けるようにするというものだった。デベロップはこのメカニズムを使っていたカードのほとんどを再デザインしただろうが、このメカニズムの機能はその工程を通してそれほど変化しなかった(このメカニズムは我々の内部投票の1つにおいて最高評価を得た)。探検は5つの色全て、4つの部族全てに存在している。探検を持つクリーチャーは全部で13体、クリーチャーが探検することを参照するカードは3枚存在する。

搭乗

 『カラデシュ』を作った時、我々は機体に非常に満足していたので、それを常磐木メカニズムにして『アモンケット』にも入れることにした。例えば、蓋世の英雄となった死者を試練から《来世への門》を通って運ぶ荷船は、最初機体だった。しかし、『アモンケット』にメカニズム的に多くのものを入れすぎていることに気づき、機体を常磐木ではなく落葉樹メカニズムにすることにしたのだ。セットに機体が本当に必要なら入れることができるが、機体を使うことには代償があるので全てのセットに必ず入れるものであるべきではないということに気づいたのだ。ここで海賊を使うということになれば、海賊船が必要なのは明らかなので、デザインのかなり初期の間に機体が追加され、取り除かれることはなかった。デベロップ中に(『カラデシュ』ブロックでの多くの反響によって)加えられた唯一の変更は、開発部全体の決定として、機体はコモンに入れるには複雑過ぎるので、コモンには入れないことにする(『イクサラン』では、アンコモンの機体が2つ、レアの機体が3つ存在する)というものだった。

変身

 同じくデザインの初期に、オモテは探検に向かうフレイバーに富んだもの、裏は発見された場所を表す土地、という両面カードを使う発想にたどり着いていた。個別のカードのデザインは何度も何度も変更することになったが、基本コンセプトはデザインとデベロップの間を通して変更されなかった。

海賊のメカニズム

 デザインは海賊専用のメカニズムが必要だということはわかっていて、いくつもの選択肢を見つけていたが、引き渡しの時点でデザインの気に入るものは出来上がっていなかった。

恐竜のメカニズム

 同様に、恐竜だけの専用のメカニズムが必要だったが、それまでに試したどれも正しい実装だと感じられるものではなかった。

吸血鬼のメカニズム的テーマとマーフォークのメカニズム的テーマ

 キーワード・メカニズムの数を抑えるため、我々はキーワード・メカニズムは3色の部族2つにだけ与えることにした。2色の部族もメカニズム的テーマを持つにせよ、キーワードが必要ないものである。これらの部族については、この後でその部族の話をするときに話すことにしよう。

部族

 デザインはかなり初期の段階で、『イクサラン』が部族セットになるということがわかっていた。しかしそれぞれの部族がどのようなものになるか、それぞれがどの色になるかは、何度も変更されることになった。ただし、引き渡しの段階では、クリーチャー・タイプも色も確定していた。

  • 海賊(青黒赤)
  • 恐竜(赤緑白)
  • 吸血鬼(白黒)
  • マーフォーク(緑青)

 しかし、それらがどのようにプレイされ、それらのメカニズム的テーマがどうなるのかはまだ未定だった。

 サム・ストッダード/Sam Stoddardは『イクサラン』のリード・デベロッパーである。彼率いるデベロップ・チームが決めることは大量にあった。『イクサラン』は4つの部族を軸にしているので、ここではそれぞれの部族ごとの進化に注目してデベロップを見ていこう。

海賊(青黒赤)

 この部族での目標は非常に直接的だ。海賊を海賊らしく感じられるようにすることである。昔々、『メルカディアン・マスクス』の青に、わずかな海賊テーマが存在していて、ほとんど後付けだが、海賊というクリーチャー・タイプを持つクリーチャーも少数いた。しかし、『イニストラード』での狼男と同じように、海賊はマジックでカードとして正しく扱われたことのない、共鳴する元ネタだったのだ。そのため、この部族での目標は、色濃く、共鳴するフレイバーを持たせることなのである。

 これが一体何を意味するのかということについて、デザイン中にかなりの時間を費やして話し合った。この部族は卑怯でずるいものである必要があり、攻撃も重要でなければならず、特別に大きいものではないことはわかっていた。我々はクールなカードを大量に作ったが、しかしふさわしいメカニズムに行き着いてはいなかった。先週語ったとおり、我々は、クリーチャーのおまけに持たせて、そのターンに戦闘ダメージを与えていたらルーターできる略取というメカニズムにいくらか時間をかけていた。これは『ギルドパクト』のグルールのメカニズムである狂喜をもとにひねりを加えたものである。

 デベロップはその後も完璧な海賊のメカニズムを探していった。デザインの探していた方向性についてはデベロップも正しいと考えたので、デザインのキーワード探しの続きをすることから始めた。結局、この問題の解決策は、いわば「ダリル・ハナーの瞬間/Daryl Hannah moment」だったのだ。

 説明させてもらおう。80年代終わりに、ダリル・ハナーという女優が彼女の代理人に、ウディ・アレン/Woody Allenの映画に出たいとずっと思っているという話をした。そして数年後、「ウディ・アレンの重罪と軽罪/Crimes and Misdemeanors」のキャスティングをするにあたってウディ・アレンは「ダリル・ハナーのような」役者を探していたのだ。さて、ダリル・ハナーのような役者といって、ダリル・ハナー以上の存在がいるだろうか。もちろん彼女はその役を射止めることになった。

 我々が新しいメカニズムを探す時によくあるのが、ふさわしいと思える既存のメカニズムを挙げて、探しているものがどんなものなのか誰にでもわかるようにすることである。海賊のメカニズムを探している間、我々は「強襲のようなメカニズム」が必要だと言い続けていたのだ。それなら、その強襲のようなメカニズムというのは強襲が一番ではなかろうか。デベロップの会議で誰かがそれを声高に言い、デベロップ・チームは強襲を使ってみることにしたのだ。もちろん、それは採用されることになった。

 デベロップ・チームがこのメカニズムにたどり着いたら、次に決めることは海賊に必要な能力はどのようなものかである。これは、3組の色のペアがそれぞれメカニズム的にどう動くかも決めることになる。個別の効果について触れていく前に、まず海賊に関してもう1つメカニズム的な流れがあるのでそれを紹介しておこう。宝物である。

 海賊は3色の部族なので、3色でプレイできるようにするための助けが必要だ。金・トークン(『テーロス』ブロックの2枚のカードで初登場した、生け贄に捧げて好きな色1色のマナを出せるアーティファクト・トークン)はフレイバーに富んだ答えに見えた。海賊はいつでも宝を探しているので、これはまさにふさわしいものに見えたのだ。残念ながら、プレイテストの結果、金・トークンは『霊気紛争』のメカニズムである即席と相性が良すぎることがわかった。本質的に、1個ごとに好きな色のマナを2点生み出せるのだ。デベロップ・チームはこの相互作用を防ぐため起動コストにタップを加え、同時にトークンの名前を宝物に改めた。

 さて、それでは海賊のそれぞれの2色のペアについて見ていこう。

青黒

 彼らは海賊船や武器や宝物が好きなので、海賊とアーティファクトにはかなりのシナジーが存在する。デベロップは青黒でこの側面を重視することにした。また、青や黒の、打ち消し呪文や手札破壊、カードを引くといった側面から、このペアはいくらかコントロール寄りになっている。このペアは、海賊の狡猾さを重視している。

黒赤

 これはもっとも攻撃的な2色のペアである。これは火吹きや一時的クリーチャー奪取、クリーチャー/パーマネント除去、強襲メカニズムなどを使い、相手を素早く強烈に殴りつけるのだ。このペアは、海賊の冷酷さを重視している。

青赤

 これはテンポ版の海賊である。回避能力やカードの選別、クリーチャーのタップ、打ち消し呪文、途切れないクリーチャーを使って対戦相手を崩し続けるのだ。このペアは、海賊の抜け目なさを重視している。

 また、デザインとデベロップは、クリエイティブ・チームと協力して海賊のためのクリーチャー・タイプを検討した。人間は3色全てに存在する。オークは黒と赤。ゴブリンは赤だけ。セイレーンは青だけ(これは青の海賊の飛行クリーチャーを表すために選ばれた)。

恐竜(赤緑白)

 デベロップが海賊のメカニズムを作ったのは、工程の中では比較的早期のことだった。一方、恐竜のメカニズムはそれよりもずっと多くの時間がかかった。これは主に、達成すべき目標が難しかったことによるものである。海賊は卑怯で攻撃的な、主に小型から中型の存在になるべきものであった。そう、通常のマジックに多く存在するものだ。対照的に、恐竜は大型の恐ろしい怪物で、ゲームに大きな影響を与えるものであるべきである。一般的なセットでは、それほど多く存在するものではない。つまり、恐竜のメカニズムは大きな乱暴者を助ける一方で、それがなくても成立するものでなければならなかったのだ。

 これとよく似た問題が、『タルキール龍紀伝』で大量のドラゴンが必要だったときにもあったが、幸いにも、ドラゴンに比べると恐竜には2つの利点があった。1つ目が、比較的形や大きさが多彩であることだ。たしかに巨大な恐竜もいるが、小さな恐竜もいるのだ。2つ目に、飛行を持つ恐竜もいないわけではないが(ああ、厳密に言えば地球の飛行生物は恐竜には分類されない)、ほとんどは地上のクリーチャーである。この2つのことが非常に助けになったのだ。

 デベロップ・チームは(『テーロス』の)怪物化と似た、クリーチャーを1回さらに大型のクリーチャーへと強化できるという類のメカニズムを試していた。小さなクリーチャーではブロックできず、軽い呪文の影響を受けない、というメカニズムを実験した。(『ジャッジメント』の)幻影メカニズムのような、クリーチャーが+1/+1カウンターを持って戦場に出て、死亡する場合にそのカウンターを取り除いて生き残るというメカニズムを作ってみた。しかし、どれも恐竜に求められるものにはそぐわなかった。賢すぎたり、デザイン空間が狭すぎたり、チームが求めた恐竜らしさを表していなかったりしたのだ。

 この問題が解決されたのは、ジョン・ストーン/John Stoneという人物の穴埋めによるものだった。恐竜の強さが、ダメージを受けたくないことだとしたらどうだろうか。この、激昂というメカニズムは、戦闘中であれ呪文や能力によるものであれ、恐竜がダメージを受けるたびに誘発するのだ。これによって、恐竜を戦闘で対処するのは難しくなり、ダメージで殺すことが厄介なことになる。また、恐竜のコントローラーが自軍の恐竜に殺さないような小さなダメージを与えることでもこの効果を生み出すことができるのだ。

群棲する猛竜》 アート:Simon Dominic

 興味深いことに、これと全く同じメカニズムがこの1か月前に将来のセットのデザイン中に作られていたが、ジョンも『イクサラン』のデベロップ・チームもそのことは知らなかった。激昂が恐竜にまさにふさわしいということが証明されたので、その将来のセットはこのメカニズムを諦めることになった。(開発部内の規則で、先のセットは後のセットよりもメカニズムが優先されるのだ。もちろん、そのセットにおけるそのメカニズムの重要性のほうが重視されることはある。)

 海賊と同じように、デベロップ・チームは2色のペアごとにメカニズム的戦略を決める必要があった。

赤緑

 これは激昂のペアだ。緑は激昂がもっとも多い色(赤が2番目)で、赤は自軍の激昂能力を誘発させられる直接火力を持つ色である。このペアは、恐竜の獰猛さを重視している。

緑白

 これはタフネスを最も意識しているペアだ。この色の恐竜はタフネスが大きい傾向があり、デッキは防御的になることができる。また、クリーチャーにタフネス分のダメージを与えさせるような、タフネスを攻撃的に使う助けとなる効果も存在する。このペアは、恐竜の大きさを重視している。

赤白

 これはアグロのペアである。軽いマナで大型クリーチャーを出せるようにするために不利益をつけた、最も軽い恐竜がある色である。また、戦闘の助けになるような、もっとも攻撃的な能力を持つ色のペアでもある。このペアは恐竜の攻撃性を重視している。

 もう1つ思い出してほしいのが、この部族にいるのは恐竜だけではなく、多くの人間もいて太陽帝国を形成しているということである。人間と恐竜のシナジーを再現するために、恐竜ではないが恐竜をコントロールしていると有利になるようなカードが大量に存在する。これは、このデッキで低マナ域のクリーチャーを揃えられるようにするための主な方法の1つなのだ。

吸血鬼(白黒)

 吸血鬼は、デザインの間を通してまったく変化がなかった唯一の部族である。一貫して部族として存在しており(実際、先々週言ったとおり、この世界を作ることになる最初のきっかけだったのだ)、そして白黒として始まって白黒として終わった。吸血鬼のフレイバーを再現し、白と黒の共通部分を探していく中でも、吸血鬼のメカニズム的テーマは一度も迷うことはなかったのだ。

 吸血鬼はリソースがすべてであり、そのリソースとは生命すなわちライフである。ライフを吸収したり、ライフを得たり、ライフを失わせたり、ライフをリソースとして使って支払ったりすることができる。吸血鬼デッキは、ライフ操作を攻撃的に使い、相手のライフを削るようなミッドレンジ・デッキである。

 吸血鬼が使うもう1つのリソースが、吸血鬼・トークンの生成である。吸血鬼・トークンは、白で1/1の絆魂持ちだ。白がそれを作り、黒はそれを他の方法で使うのだ。吸血鬼は早期に攻撃し、そして中長期戦では身構えてライフを削っていくことが多い。

マーフォーク(緑青)

 マーフォークは吸血鬼と正反対であった。最初は部族として存在しておらず、緑青の陣営はデザインとデベロップの間に最も変更が多かった陣営であった。例えば、暫くの間はこの陣営は恐竜の陣営だった。しかし、デベロップに引き渡した時点で、この陣営は精霊魔法を唱えるマーフォークのシャーマンだと決まっていたのだ。

 デザインはこの部族で呪文を唱えること関連のテーマを試していたので、デベロップの初期に、サムは極端なことを試すことにした。マーフォークに果敢を持たせたのだ。果敢の1種色は青、2種色は赤、3種色は白だということを思い出してもらいたい。緑には存在しないのだが、サムは、呪文関連環境において緑がもっとも意識するであろうことは自軍のクリーチャーを大きくすることであり、それはまさに果敢がすることなのだと強く主張した。そして、マーフォークにだけ果敢を試すことになったのだ。結局、それは我々が望んでいたよりもいくらか複雑だった。果敢は、コモンでは少数だけに存在すべきメカニズムだということがわかったのだ。また、緑の果敢は単に奇妙なだけだった。

 デベロップ・チームが気づいたもう1つのことは、クリーチャーでないカードに部族テーマの中心を置くと問題が生じるということであった。シナジーを活かすためには、その部族のクリーチャー・カードを大量に入れたい。しかしその部族がクリーチャーでないカードを大量に必要とするのであれば、厄介な緊張が生じることになる。最終的には、もっとクリーチャー中心にするため、デベロップはマーフォークに+1/+1カウンター・テーマを持たせることにした。緑はマーフォークを強化し、青は回避能力を与えたりブロック・クリーチャーを除去したりするのだ。

 他にも多くの細かなデザインはあったが、それについては今後数週間で『イクサラン』の微視的試験をする中で話していくことにしよう。

探検の時

 さて、わずか3週間の短い期間で、『イクサラン』のデザインとデベロップの話をしてきた。平均的なセットよりもずっと多くの変更があったが、最終的には非常にいいところに収まったと言える。この3本の記事を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)このプレビュー記事について、『イクサラン』について、特に、今回の4つの陣営についてどう考えているか聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『イクサラン』のカード個別のデザインの話を始める日にお会いしよう。

 その日まで、イクサランの世界を探検する楽しみがあなたとともにありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)