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 以下から2つを選ぶ。


魔除けの起源

 この話をさかのぼると、フィラデルフィアに行き着く。ブリッジをプレイするのが好きなリチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldは、ペンシルバニア大学の大学院在籍中に地元のブリッジ・クラブに出かけていた。そこで彼は、後に新しいゲームに取り組むときのプレイテスターとして助けてくれることになる何人ものゲーム仲間と友誼を結んだ。マジックがいよいよ印刷されるとなったあるとき、リチャードはいくつものプレイテスト・グループに対して新しいセットをデザインしてもらえないかと頼んだのだ。そのブリッジ・クラブのグループは、彼らが『見世物/Menagerie』と名付けたセットに取り組んでいった。読者諸君はそのセットのことを別の名前で知っているかもしれない。その名前とは、『ミラージュ』そして『ビジョンズ』である。この2つのセットは、最初は1つの大型セットだった。後に、ブロックというものが導入されることが決まってから、このセットを1つの大型セットと1つの小型セットに分けたのだ。

 『ミラージュ』のデザイン・チームは、『アイスエイジ』のデザイン・チーム(また別の初期プレイテスターのグループである。これはリチャードがペンシルバニア大学時代に知り合ったゲーマーたちで、「東海岸プレイテスター/East Coast Playtesters」と呼ばれることがある)の取り組んだ問題とよく似た問題に取り組んでいた。その問題とは、1マナでも重すぎるような効果をどう扱うかである。マナ・システムを作る上で、リチャードはカードパワーの段階を作り、強力な呪文には比較的多くのマナを必要とするということでバランスをとり、カードごとに異なった強さの効果を持たせられるようにしていた。問題は、コストが1マナのものは存在して、そして1マナの水準に達しない小さな効果はカードにするのが難しい、ということだった。

 選択肢の1つは、マナをコストにしないカードである。この解決策は最初にできたものではないが、最初に印刷に至ったのはこの手法による『アンティキティ』の《羽ばたき飛行機械》である(『アイスエイジ』のデザイン・チームが『アンティキティ』のデザインも手がけている)。この解決策の問題は、カードが実際には2つのコストを必要としているということだった。1つはマナで、もう1つはそのカードそのものである。マナを支払わないだけでは不十分で、カード1枚分にも満たないような効果もあるのだ。興味深いことに、このことから『アイスエイジ』のデザイン・チームの見つけ出した最適解が導かれることになった。

 カードの微小な効果を正当化する方法の1つが、唱えたプレイヤーに新しいカードを与えることでカードの価値を埋め合わせるというものだった。これらの呪文はキャントリップと呼ばれた。で唱えられるアーティファクトで、タップして生け贄に捧げるとカードを1枚引けるという《ウルザのガラクタ》に満足していたので、チームはこの方法でカードを引くのを遅らせることにし、プレイヤーがカードを得るのは次のアップキープの開始時になった。(《ウルザのガラクタ》を使うと、実質的に4枚減らしたデッキでプレイすることができるのだ)。キャントリップは大成功を収め、時折セットに加えられるようになり、最終的には必要に応じて使える常磐木ツールの1つになったのだ。開発部は後に記憶問題を避けるため、つまりプレイヤーがカードを引くのを忘れることがないように、キャントリップに調整を加えて即座にカードを引くようにした。

 一方、『ミラージュ』のデザイン・チームはこの問題を全く違う方法で解決することになった。1つの小さな効果をカード1枚にするのではなく、複数の小さな効果を1枚のカードに入れて、唱えるプレイヤーがどれを使うかを選べるようにしたのだ。こうすることで、1つ1つの効果は1マナ分に満たなくても、3つの小さな効果から選べるということで1マナ分の価値が出るのだ。なぜ3つかというと、2つではコストに見合ったものにはならず、4つではカードに入りきらないからである(後に命令サイクルでこの問題は解決されたが、そのためにはかなり文章の短い能力を入れる必要があった)。

 私が(『ミラージュ』『ビジョンズ』の共同リード・デザイナーだった)ビル・ローズ/Bill Roseに魔除けの起源について尋ねたところ、魔除けは派手になるようにではなく機能的になるように作ったのだ、と強調していた。『ミラージュ』のデザイン・チームはドラフトが大好きで(ちなみに、ブースタードラフトというものを発明したのは彼らである)、小さな効果のカードはプレイする価値もなかった。複数の効果を1枚のカードに詰め込むことで、汎用性のおかげで使える機会があるようにしようとしたのだ。

 「魔除け」という名前は、このデザイン・チームがつけたものだ。『アイスエイジ』のデザイン・チームが彼らの作ったものを、おとぎ話に出てくるかすかな効果を持つ魔法の呪文になぞらえて「キャントリップ」と呼んだのと同じように、『ミラージュ』のデザイン・チームはその生成物をおとぎ話に出てくる小さな魔法が込められた小さな品物になぞらえて「魔除け」と呼んだのだ。興味深いことに、(魔法によって作られたものではなく)物理的な形をもつ魔法の品物のクリエイティブ的表現を、マジックにおいてはアーティファクトでないものに割り当てているのだ。「魔除け」という名前はこの種の効果のことを当たり前に指しているが、魔法の品物という意味はなく、小さな魔法的効果という意味だけを持つものになっている。


双呪の起源

 インタビューでよく聞かれる質問の1つに、「マジックにおいて、一番奇妙なデザイン方法は何でしたか?」というものがある。この質問に対しては、私はいつも双呪のデザインの話をすることになる。双呪のデザインで何がそれほど特殊だったのか。私の20年に及ぶマジックのデザイン人生の中で、私が眠っている間にデザインしたのは唯一双呪だけなのだ。

 どういうことか説明するために、少しばかり話を戻そう。『インベイジョン』ブロックは、メカニズム的なテーマに基づいて作られた最初のデザインだった(そしてこれが「デザイン第2の時代」の始まりである)。『インベイジョン』ブロックは多色のブロックだった。その次が『オデッセイ』で、これは墓地のブロックだった。そして『オンスロート』、最終的に部族のブロックとなった。次に来るものが私にははっきりとわかっていた。アーティファクトはプレイヤーの間で人気が高く、ブロックを作るために必要な量のデザインを扱うことができるテーマであることも明らかである。私は、『ミラディン』をアーティファクト・ブロックにすることと、私がリード・デザイナーを務めること、この2つを強く主張した。両方が叶って、私は恍惚となったものだ。

 当時、マジックのデザインは今と少しばかり違っていた。ビル・ローズが主席デザイナーだった。彼は開発担当副社長でもあったので、今私がやっているようにデザイン会議に出席する時間はとれなかった。そこで、デザインの別の時期に、セットをビルに提出し、ビルはそれに修正指示を出すという方法をとっていた。最大の修正はセットがデザインからデベロップに提出される直前、通常は3週間ほど前に下されることになる(デザインとデベロップが交差する時期であるデヴァインはまだ存在していなかった)。

 このセットには装備品、親和(アーティファクト)、刻印、そしてもう1つのメカニズムがあった。ここでは「メカニズムX」とでも呼んでおこう(名前を公開しないのは、私はこのメカニズムがいつかふさわしい時期に、諸君がプレイできるようにしたいと思っているからである)。私はメカニズムXが大のお気に入りだったが、ビルはデザインに詰め込みすぎだと判断し、削除することにしたのだ。メカニズムXを削除したことで、メカニズムXほどは大きくない、その代わりとなるメカニズムが必要となった。

 ほかの3つのメカニズムはどれもパーマネントに関連している(ああ、親和(アーティファクト)はパーマネントだけでなく呪文にもつけられるがね)ので、ビルはこの追加のメカニズムは呪文に関連したものにしたいと判断した。セット全体で見ると非常にアーティファクトに焦点を当てたものだったので、このメカニズムはアーティファクトの大ファンでないプレイヤーにアピールできるものにすべきだと考えられた。デベロップへの提出時期はあと数週間後に迫っている。時間はなかった。

http://media.wizards.com/2015/images/daily/cardart_SpectralShift.jpg

幽体の変容》 アート:John Avon

 この問題を解決する鍵は、今そこにある道具を洗い直し、何がないかを見つけ出すことだった。親和(アーティファクト)があるのでコスト軽減はいらない。刻印が十分に難しいので、難しいものはいらない。刻印には強力なコピー・カードがあるので、コピーもいらない。ファイル全体を見ていくと、必要なのは長期戦でマナを使う方法となるメカニズムだった。また、このセットには選択する部分が少ないということも明らかになっていた。過去のデザインから、プレイヤーはモードを持つ呪文が大好きだということはわかっていたので、私はそこに手をつけようと考えた。魔除けのような、それでいて少し違う何かを探すことにしたのだ。

 時間が流れる中、私も私のデザイン・チームもこの難問に脳みそを絞っていた。提出期限があと1週間未満となっても、まだ我々は最後のメカニズムを見つけられていなかったのだ。私はすべての時間を費やしてファイルを修正していたので、この問題を解決することに時間を割くことはできなかったのだ。すべて考え尽くしたように思われたある夜、私は眠りについた。

 私は寝ている間そうおとなしくはない。ふらふら寝返りを打つのだ。夜中に何度か目が覚めるのも珍しいことではない。たいていはすぐに眠りにつくが、何かを夢に見て飛び起きることもしばしばだ。この夜、私は夢を見た……そして突然、ひらめいて飛び起きたのだ。鉛筆! 鉛筆はどこだ!

 私の無意識は、このデザイン上の課題をあきらめてはいなかった。そこで私はこの問題の夢を見て、夢の中で解決策を見つけたのだ。選択肢のある独特なカードを作る鍵は、モードを持つカードで「か」だけでなく「と」も選べるようにすることだった。私は「と! と! と!」と叫んで妻を起こしてしまい、彼女に「と、何よ?」と聞かれたのだ。

 幸いにも、ベッドに鉛筆を置いていて(こういう状況になったときのための備えだ)、発想が霧散する前に書き留めることができた。私は何枚かのサンプルとなるカード、シナジーを有する2つの効果を持つので双呪したくなるようなカードを作り、それをビルに提出した。ビルは「これこそ私が探していたものだ」と答えたのだった。

 チームは手早くほかのカードをデザインし、このメカニズムは提出直前に完成した。


命令の起源

 アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheはモードを持つカードが好きだ。実のところ、多くのプレイヤーはモードを持つカードが好きだ。モードを持つカードはいつでも大人気である。プレイヤーは選択が好きなのだ。ただし、アーロンは平均的なプレイヤーに比べてもモードを持つカードが好きなのだ。この20年間に開発部でともに働いた全デザイナーの中でも、おそらくモードを持つ呪文の一番のファンはアーロンだろう。

 実際、アーロンが『フィフス・ドーン』で最初にデザイン・チームに参加したとき、最初に提出した一連のカードは彼が「モード・メン」と呼んでいた、緑のクリーチャーの垂直サイクルだった。モード・メンは言ってみれば魔除けのついたクリーチャーだった。そのクリーチャーが戦場に出るとき、そのコントローラーは3つの小さな効果から1つ選ぶことができるのだ。モード・メンは『フィフス・ドーン』のデザイン中は存在したが、セットのテーマによりふさわしいカードの場所を作るために取り除かれてしまった。

 『フィフス・ドーン』のデザインにおけるアーロンの仕事は見事だったので、我々は彼を開発部で雇うことにした(彼は最初、まさにこのウェブサイトの編集長としてウィザーズ・オブ・ザ・コーストの一員になったのだ)。つまり、アーロンはそれ以降多くのデザイン・チームに参加することになったということである。そして、彼はチームに参加するたび、何らかの形のモード・メンを提出していた(なお、戦場に出たときに選択するクリーチャーのサイクルはいくつか存在するが、モード・メンはまだ印刷されていない。いつか機会があれば、とは思っているのだが)。そして、彼はそれだけではとどまらなかった。アーロンはモードを持つサイクルをしばしば提出しているのだ。

 そして時は流れて数年後。私はアーロンを後継者として育てていた(この計画は後に少しばかり変わることになる)。そして、いよいよ彼は初めての大型セットとして『ローウィン』に挑むことになった。このセットの主な焦点となるのは、部族テーマである。数年前の『オンスロート』は第一の部族ブロックだった。そして、そろそろ新たな部族ブロックをやるべき時期だと感じていたのだ。しかし、今回は、このテーマをさらに濃く取り上げることにしていた。ただの部族セットではなく、これぞまさに部族セットというものにしたかったのだ。部族要素を激しく目立たせる。それを踏まえて、アーロンが恐れていたのはそれほど部族に思い入れのないプレイヤーのことだった(アーロンはこの件について、長年にわたりビル・ローズから話を聞いていたのだ)。

 この問題への解決策は、部族テーマに関連しない何かクールなことをする、派手なレアのサイクルを作るということだった。部族テーマでクリーチャー枠はほとんど使っていたので、このサイクルはインスタントやソーサリーが望ましい。そして、クリーチャーであったりクリーチャー・タイプを持ったりすれば、関係ないとは思われなくなる。そこでアーロンは自分の土俵に舞い戻った。モードを持つ呪文にすることはできないだろうか?

 アーロンは『ディセンション』のデザイン中に作った黒赤のアンコモン、〈ラクドスの二択魔除け〉のことを思い出した(『ディセンション』はアーロンが初めてリード・デザイナーを務めたセットである)。印刷に到らなかったのは、これが大きなサイクルの一部であるように思えたからだろう。そして、『ラヴニカ』ブロックの3分の2はもう終わっていたのだ。アーロンはこのカードをレアらしくする方法を探り、そして1つではなく2つのモードを選ぶというのは強烈だった。しかしそれだけでは十分ではない。アーロンはもう1つ魔除けとの差別化を図った。選択肢は3つでなく4つあればどうだろうか。こうすれば、また少し違うものに見えるだろう。そして、レアのサイクルであることを正当化できるはずだ。

http://media.wizards.com/2015/images/daily/cardart_CrypticCommand.jpg

謎めいた命令》 アート:Wayne England

 ところで、このデザインについて語るとき、私が『ローウィン』のデザイン・チームではなくアーロンだけのことを話すことに気づいただろうか。なぜなら、このサイクルはデザインのプレイテストを経ていないからである。アーロンはこのセットに何かが足りないと判断し、そしてデザインをデベロップに提出する直前になってこれを加えたのだ。彼曰くの「警戒デザイン」である。

 『ローウィン』のデザインと『ローウィン』のデベロップの間に、興味深いことが起こっている。主席デベロッパーだったランディ・ビューラー/Randy Buehlerがマジック開発部のディレクター(アーロンの現職である)に昇進し、アーロンが主席デベロッパーに昇進したのだ。つまり、彼が主席デベロッパーとして監督する初めてのセットは『ローウィン』であった(なお、『ローウィン』のリード・デベロッパーはデヴィン・ロウ/Devin Lowだった)。つまり、アーロンは自分のお気に入りのサイクルのコストを積極的なものにすることができたということである(とはいえ、このサイクルは開発部全員に大人気だったのだが)。

 『ローウィン』の命令サイクルの最初の姿を知らない諸君のために、ここでアーロンがデザイン・ファイルに入れた当時のものをお見せしよう。アーロンのつけたあだ名は「2つ選び」だった。

〈白の2つ選び〉

ソーサリー
以下から2つを選ぶ。「すべてのクリーチャーを破壊する。」「すべての土地を破壊する。」「すべてのアーティファクトとすべてのエンチャントを破壊する。」「各プレイヤーはそれぞれ自分の手札を捨てる。」

〈青の2つ選び〉

インスタント
以下から2つを選ぶ。「呪文1つを対象とし、それを打ち消す。」「パーマネント1つを対象とし、それをオーナーの手札に戻す。」「あなたがコントロールしていないすべてのクリーチャーをタップする。」「カードを1枚引く。」

〈黒の2つ選び〉
{X}
ソーサリー
以下から2つを選ぶ。「プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはX点のライフを失う。」「クリーチャー1体を対象とする。それは-X/-Xの修整を受ける。」「墓地から点数で見たマナ・コストがX以下のクリーチャー1体を対象とする。それをあなたのコントロール下で戦場に戻す。」「あなたはX点のライフを得る。」

〈赤の2つ選び〉

インスタント
以下から2つを選ぶ。「[カード名]は各クリーチャーと各プレイヤーにそれぞれ2点のダメージを与える。」「クリーチャー1体またはプレイヤー1人を対象とする。[カード名]はそれに4点のダメージを与える。」「土地1つを対象とし、それを破壊する。」「インスタント・呪文かソーサリー・呪文を1つ対象とし、それの新しい対象を選ぶ。」

〈緑の2つ選び〉

インスタント
以下から2つを選ぶ。「4/4の緑のエレメンタル・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。」「1/1の緑のエルフ・戦士・クリーチャー・トークンを4体戦場に出す。」「8点のライフを得る。」「[カード名]は飛行を持つ各クリーチャーにそれぞれ4点のダメージを与える。」

 そして、印刷されたものがこれである。

 これらの最終版のデザインがどのようにして仕上げられたかに興味がある諸君には、これらのデベロップに関するアーロンの記事(リンク先は英語)を読むことをおすすめしておこう。

 命令サイクルはプレイヤーにも大人気になり、そして言うまでもなく明らかに、いつかまた作られることになるだろう。


総督の起源

 2ヶ月に1度ほど、我々は開発担当副社長のビル・ローズとの会合を開く。今手がけているセットの状況がどうか、今取り組んでいる問題はどのようなものかを説明し、ビルはデザイン(やデベロップだが、私はデザインの担当である)について厳しい質問を投げかけてくる。この会合では、私は『ミラディンの傷跡』のデザインについて、さらに言えばそのブロック計画について説明していた。

「第1セットで、ミラディン世界を再訪して、ほとんどは覚えているままの姿です。ですが、新しいもの、邪悪なものも存在します。ファイレクシア人の侵略です。第2セットでは、ミラディンが攻撃されているとミラディン人が気づき、ミラディン人とファイレクシア人の大戦争が起こります。第3セットで、この戦争の勝者がファイレクシア人であるということが示され、ミラディンは『新たなるファイレクシア』になります」

「つまり、第3セットは全部ファイレクシアなのかね」

「ええ、ほとんど。ミラディン人の生き残りもわずかにいますが、ファイレクシアは勝利しただけでなくミラディンを自分たちの新世界に作り替えてしまうのです」

「白のカードはどうなる?」

「白のどのカードです?」

「『新たなるファイレクシア』で。白のカードはどうなるのかね?」

「ファイレクシアのものです」

「なるほど。それでは、ファイレクシアらしく白らしい白のカードは作れるのか?」

「できると思います」

「ふむ、『新たなるファイレクシア』を了承する前に、白のカードを何枚か見せてもらおうか」

 そして、私はファイレクシアらしく白らしい白のカードを作る作業に取りかかった。

 数日かけてデザインをしているうちに、非常に重要なことに気がついた。『ミラディンの傷跡』のデザインでファイレクシア人を作ったとき、その性質を表すために4つの単語を選んだのだ。つまり、

  • 有毒な
  • 進化する
  • ウィルス性の
  • 無慈悲な

 比喩的に、我々はファイレクシア人を疾病のようなものとしていた。

 つまり、対戦相手に害をなすようなカードを作れば、ファイレクシアらしくはなる。自分を助けるようなカードを作れば、ファイレクシアらしくはならない。ファイレクシア人はその有害さで定義づけられているのだ。この定義づけは、他者への影響だけで定義されている。問題は、マジックのセットでは自分自身に利益になるような効果も必要になるということであった。

 たとえば、白はライフを得る色である。どのブロックのどのセットでも、白のカードでライフを得るものは存在する。では、ライフを得る白のカードで、それでいてファイレクシアらしいものはどうすればいいのか。私は『フィフス・ドーン』に答えを見つけた。といっても実際に印刷されたカードではなく、アーロン・フォーサイスが提出し、後にセットから取り除かれた、モード・メンと呼ばれた3枚のカードからならる垂直サイクルである。

 モード・メンは魔除けに影響を受けたもので、戦場に出たときにコントローラーが3つの小さな効果から「1つを選ぶ」という効果を持ったクリーチャーであった。これがどう役に立つのかと言うと、有害な効果と組み合わせることで、利益になるような効果を持つカードを作ることができるのだ。こうすれば、たとえそうは使わないものであっても、すべてのカードが対戦相手を害する可能性を持つようにすることができる。

 もう1つ学んだのは、2つの能力が何らかの形で関係があるように思わせるということだった。「私がライフを得るか、あなたのエンチャントを破壊する」というのでは、2つの選択肢が同じところから来ているようには見えないので奇妙なものになる。この解決策は、効果を対照的にすることだった。こうすることで、利益になる効果は有害な効果の鏡像になるのだ。

 《審問官の総督》は、ファイレクシアらしく白らしいカードを作れるという例をビルに見せるために作った白のカードの1枚となった。もちろん、これは通常のセットで作るようなカードではない(白はダメージを与えることはできても対戦相手のライフを失わせることはできないものだ)。しかし、『新たなるファイレクシア』でならありだ。ビルは私の見せた白のカードを気に入り、『新たなるファイレクシア』にゴーサインを出したのだった。

 『新たなるファイレクシア』のデザインが始まったとき、私はケン/Kenに《審問官の総督》を見せた。彼はそれを非常に気に入り、同じデザインを使ったサイクルを作ることにしたのだった。


「よい選択でした」

 諸君の見た2つの起源の話が、我々がモードを持つ呪文を作る方法を理解する助けになれば幸いである。一方が他方にどのように影響を与えているかがわかったことだろう。いつもの通り、今回の記事についての諸君の感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、友人を操り人々を動かす方法を伝える日にお会いしよう。

 その日まで、選択があなたを助けますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)