疑いの瞬間
土地特集へようこそ! 『戦乱のゼンディカー』と濃い土地テーマにちなんで、今週は(ほとんど)あらゆるデッキに入っているあるカード・タイプについて語ろうと思う。そう、土地だ。ただし、私はこれまでに何度も土地テーマの特集で書いてきた。
- 2003年3月、基本でない土地特集として、土地をデザインする上での規則について、「This Land is My Land」(リンク先は英語)という記事を書いた。
- 2009年2月、版図特集で、私は長年にわたりデザインに挑戦して失敗し続けている基本でない土地について、「Whatever Happened to Barry's Land?」(リンク先は英語)を書いた。
- 2009年3月、マナ基盤特集で、土地やマナを出す助けとなる呪文について「Mana with All the Fixin's」(リンク先は英語)という記事を書いた。
- 2011年5月、マナ特集で、なぜマジックのマナというシステムがマジックにとって重要なのかということを「Mana Action」(リンク先は英語)という記事で書いた。
つまり、私は土地やマナについて色々と語り尽くしてきたのだ。そこで、今回の土地特集では、まったく違う角度から進めていくことにしよう。
700回以上に渡って書き連ねてきた「Making Magic」の中で、私は様々な感情を見せてきた。しかしめったに見せていない感情が1つある。それは、創造的過程において重要な意味を持つ「疑い」である。今日の記事では、私が疑いに囚われた時のこと、すなわち『ゼンディカー』が日の目を見なくなりかねなかった時のことについて話していく。土地特集にふさわしく、「土地テーマ」が放棄されそうになったことについて掘り下げていくことにしよう。
土地を見つけよう
この話は、私の前の上司であるランディ・ビューラー/Randy Buehler(今はアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheが務めている役職だった)との会議から始まった。ランディは彼の上司の開発担当副社長、ビル・ローズ/Bill Roseから、マジックの未来がどうなるのか決めるように求められていたのだ。ランディは、5ヶ年計画と呼ばれるものを作ることを思いついた。肉付けできそうなざっくりした構想を私が見つけ、私とランディと話し合って合意してから、ランディがそれをビルに提出することになった。
当時、ブロックに重要なのはテーマだった。そこで、私は、もう1つの多色ブロック、アーティファクト・ブロック、部族ブロックをやろうと考えた。しかし、ただ人気のあるテーマのやり直しに過ぎないのなら、新しくてクールなことをする能力を失うことになるということはわかっていた。マジックは調査のゲームだ。つまり、我々もまた新しいデザイン空間に挑まなければならないのだ。
当時私が持っていた中で最善の発想は。私の脳裏をくすぐり続けていたこの発想だった。土地はマジックの根幹であり、全てのデッキに入っているものだ(ああ、ほとんど全て、だ)。注目してデザインを考えたこともほとんどないテーマでもある。そこには豊かなデザインの鉱脈が眠っていると私は感じていたのだ。
《硬鎧の群れ》 アート:Zoltan Boros & Gabor Szikszai
私は非常に直感力に富んだ人間である。何か行動を取る理由を理性で理解するよりもずっと前に、予感のようなものがあるのだ。この直感は非常に有用で、私は大抵、具体的な理由なしでその直感に従っている。そうすることで、やがて理由も明らかになり、私自身が満足できることになるのだ。実際、人生において、この直感にとても助けられている。だから私は全面的に直感を信じているのだ。私が、直感的にこうだ、と言う場合、私はその直感に従う、という意味なのである。
ランディは私と同じものを見ているわけではなかったが、私を信じてくれた。彼は、今までやったことのないことを推すべきだ、という私の理念に同意してくれて、「実験的ブロック」を認めてくれたのだ。5ヶ年計画は最終的に6ヶ年計画となり、その最後の年が「実験的デザイン・ブロック」として記されることになったのだった。
土地そこにあり
6ヶ年計画が提出されて、誰もがそれに賛成した。ただし、最後の年についてはそうでもなかった。「『実験的デザイン・ブロック』とは何か?」という質問に、私は土地に着目したブロックについての展望を語った。そのたびにランディが横から、マジックというものは拡張と新しいものへの挑戦を続けてここまで来たのだということを説明してくれた。私は先見性を持って、まだ具体的になっていない構想を抱えていたが、未踏のデザイン空間を調査・発見する機会を得ることは非常に重要だった。誰もが、ランディの言葉を気に入り、そして計画を了承してくれたのだった。
時が流れて、私はしばしば実験的デザイン・ブロックについて質問を受けた。しかし、私が土地に注目したブロックについての展望を語り始めると、人々はうさんくさげな目つきをするのだ。礼儀を保とうとはしているが、興味はない、という目つきだった。場合によっては、その不信感は「他に何かないのか?」という言葉になって飛んできたこともあった。
私は自分の展望を信じていて、ランディから実験的デザイン・ブロックを自分のやり方でやっていいという約束を取り付けていた。後に、ランディが辞めてアーロンが代わりにその座に就いた。アーロンは長年にわたって私とともに多くのデザインを手がけてきていて、私が、他の人ならはねつけていたような発想を思いついた姿を見てきたので、彼はランディと同様に私を信じてくれた。とはいえ、アーロンは私の土地ブロックという発想に夢中になっていたわけではなかった。
やがて、そのブロックのデザインを始めるときがやってきて、ビルは私をオフィスに呼び出した。ビルと私は古くからの友人だ。彼と私は同じ月に開発部で働き始めた(1995年10月)。ウィザーズの中でも、ビル以上に私を信じてくれている人はほとんどいない。彼と私はずっと協力してきたのだ。たとえば、『インベイジョン』のときに分割カードをいい発想だとして社内を説得したのは彼と私だった(このことについて詳しくは、こちら(リンク先は英語)に書かれている)。そんなビルの「マーク、俺はこの発想を信じられない」という言葉から始まった会議は、非常に辛いものだった。
「社内の誰もこの発想を信じていない。開発部の誰もこの発想についての展望を共有していない。ブランドの誰もこの発想に信を置いていない。お前だけだ。だが、俺はお前を信じよう。しばしば、お前は誰も信じないような発想を拾い上げ、立派に仕上げてきた。今回もそうして欲しい。2ヶ月やろう。チームを組んで、結果を見せてくれ。2ヶ月で、立派な発想があるのだと俺を説得してくれ。口で言うだけじゃなく、現物を見せるんだ。そのセットがどうなるかの骨格を見たい。俺を納得させてくれたら、俺は他の連中を説得する助けになろう。だが、2ヶ月後に俺を説得できなかったら、このセットは変更することにする」
ビルは非常に公平な取引を持ちかけてきた。2ヶ月で作り上げるか、諦めるか。私は自分の持てる全てのものを集め、それをテーブルに押し出した。すべては直感の赴くままに。
《探検の地図》 アート:Franz Vohwinkel
乱暴な上陸
私はデザイン・チームを組織した(私、ダグ・ベイヤー/Doug Beyer、ケン・ネーグル/Ken Nagle、グレアム・ホプキンス/Greame Hopkins、マット・プレイス/Matt Place)。我々の最初の任務は、非常に明確だった。いい土地メカニズムを探すのだ。しかし、1から始めるというわけではない。いくつかの興味深い取っ掛かりがあったのだ。
私が掘り下げたいと思っていたことの1つに、呪文としても土地としても使えるカードという発想があった。必要に応じて、呪文としても土地としても使えるのだ。何年も前に、ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanは土地サイクリングを持つ呪文・カードを作った。これはマナを支払って手札から捨てることで、特定の基本土地を探すことができるというものだった。『ゼンディカー』ブロックの直前の『アラーラの断片』ブロックで土地サイクリングが用いられ、さらに基本土地サイクリングも導入されていたので、これは選択肢から外れることになった。
それでは、これに逆側から挑んでみることにしよう。土地で、必要に応じて呪文としても使えるようなものはできるだろうか? しばらくのテストを経て、戦場に出たときにマナを必要とする誘発型能力を持つ土地がその答えだとなった。たとえば、タップ状態で戦場に出る《島》だが、{3}{U}を支払えばカードを2枚引ける、というものだ。基本的には、必要に応じて青マナを出すこともできる、カードを引くカード、ということになる。これは非常にクールそうに見えたのだ。
プレイテストをしてみると、プレイヤーはデッキ作成時にはこれを土地として扱い、ゲームプレイ時には呪文として扱う、ということがわかった。土地として数えてデッキに入れるが、実際に引いたときには、特にもうすぐ唱えられるとなると、土地として出すのをためらうのだ。デザイン・チームは、これらのカードを土地としてではなく呪文として扱った上で、充分な量があれば、土地としてうまくやる必要がある。また、土地が必要なときには呪文としての魅力に囚われずに土地としてプレイする必要がある、とわかった。あとは使い方を調整すれば、楽しいものになるだろう。
しかし、私の脳内は、ある問題に気付いていた。プレイヤーに間違ったプレイをさせるようなメカニズムは、悪いデザインの特徴なのだ。社内の、よりカジュアルなプレイヤーにプレイテストをさせたところ、みな一様に間違った。ただそれだけではない。これを使ったゲームはひどいものだった。新規プレイヤーは毎ゲーム、土地事故を起こしたのだ。我々が作ったメカニズムは、プレイヤーをマジックの最悪の部分、すなわち何もできずにただ蹂躙されるだけという局面に誘い込むものだったのだ。
我々は、土地を出す権利をコストとして使うことも試してみた。呪文が通常よりもずっと軽い代わりに、追加コストとしてターン1回の土地を出す権利を消費するとしたらどうだろう? すぐにわかった問題は、軽い呪文を使いたいタイミングと土地を出したいタイミングは同じなので、プレイテスト中に同じような状況が起こることになった。このメカニズムを使いたいプレイヤーはマナを出すのが遅れ、結果としてマナを揃えた対戦相手に敗れてしまうのだ。このメカニズムをデッキに入れない方が正解ということになる。
次に試したのは、キッカーの亜種で、土地を出す権利によって軽くなるのではなく、効果が大きくなるというものだった。ゲームの序盤では効果を強化せずに唱え、終盤に土地を出す必要がなくなると代償なしで効果を強くできる、と考えていた。プレイテストの結果、プレイヤーは貪欲で、土地を増やしたいようなときでさえ呪文を強化するものだということがわかったのだ。
我々は、土地に基づくメカニズムを試した。土地を数えるメカニズムを試した。土地を生け贄に捧げるメカニズムを試した。デザインの最初の6週間に、40種類の異なる土地メカニズムを試した。そして、どれも、何らかの理由でうまくいかなかったのだ。
《巨森の蔦》 アート:Christopher Moeller
地滑り
多くのことを試した。主席デザイナーであるということは難しいものだ。はっきり見えていない道をついてくるように他人を説得するのも、私の仕事である。部内の他のメンバー(そして他の部も)の信頼を得ることは重要なのだ。私は、この発想に自信があったので、全てを賭けた。しかしうまくは行かなかった。可能性があると見込んだメカニズムを試してみても、どこかに迷い込んでしまい、うまく行かないのだ。土地を扱わせるのは、プレイヤーをまずいプレイに誘うことになるので難しいのだ。時は過ぎ、私はまだ土地に注目したブロックがいい発想だとビルに示すためのものを手に入れていなかった。
さて、いよいよ今日の山場だ。客観的な話ではない。デザイン・チームが何かを見つけたという話でもない。だが、これは私にとって、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストで過ごした時間の中でも非常に印象深い瞬間なのだ。ある日、私は肩を落として家に帰った。妻に、「私は何か失敗したのか? 直感が外れたのか? 賭けに挑んだのは失敗だったのか?」と尋ねたのだ。
この話をしているのは、私が難しい局面に接したとき、記事の中では「こうして解決した」部分に飛ばしてしまうことが多すぎるからである。創造的な仕事というのは厳しいものだ。何かを、無から作り出すのだ。そのためには多くの推論を重ね、最善を尽くさなければならない。いつもうまく行くわけではなく、計画を変更させられることもある。
この記事は、私がある人物と創造的過程について話したときに、「あなたはなぜそんなに簡単にできるんです?」と聞かれたことから来ている。私は、簡単ではない、と答えたが、「簡単そうに話してるじゃないですか」と言われたのだ。
新セットの興奮を伝えて面白い話を作るため、私は、しばしば醜い現実を除外している。『ゼンディカー』は私のもっとも輝かしい成功の1つだが、しばらくは私の最大の失敗に見えたのだ。物事がいつでもうまく行くわけではなく、最高のセットにも衝突はあるものだ。私は非常に楽観的な人物で、そして、デザイン・チームが充分努力すれば正解は見つかると信じている。しかし、そんな私にも疑いの瞬間は存在するのだ。
この話をするのは、自分の特定の展望を実現する中で問題に直面しうる、創造的なことをする人にとってはこれらの挑戦は一般的なものだと自覚するために重要だと考えたからである。深く考えていけば、どんなアーティストにも問題はある。誰でも疑いは持つ。自身の展望に行き詰まり、あるいは自身の発想が思い通りに行かないということもよくある話だ。創造というものはやっかいなもので、場合によっては、本当に難しいものなのだ。
私には諸君の苦しみそのものはわからない。自分の体験しか知らないのだ。『ゼンディカー』のデザイン中のその日、私は家に帰った。私はあらゆることに疑いを持っていた。すべてを疑っていた。失敗したのではないかと感じていた。私は大きな過ちを犯し、そして、もしかしたら、もしかしたら土地を中心にしたテーマは諦めるべきなのではないかと思い詰めていたのだ。
《噴出の稲妻》 アート:Vance Kovacs
土地よ
その日、かなりの内省のあとで、私は1つの結論に達した。私はいつも直感に従ってきた。あと2週間ある。2週間後は失敗するかもしれないが、それは私の挑戦が足りなかったからではない。失敗について心配するのは失敗してからにしよう。私たちデザイン・チームはこの発想を信じている。作り上げるのだ!
その週に、我々は上陸にたどり着いた。また、マナをコストとしない、効果を持つ「呪文土地」を作る方法も見つけた。その次の週に、私はうまく行っている全てをファイルに詰め込み、ビルとのプレイテストに挑んだ。プレイテストを終えて、ビルは「一目見て、お前のやりたいことはわかったよ。気に入った」と言ったのだった。
まず開発部、そしてやがて社内全体を乗らせるのは長い道のりだったが、少しずつ進んでいった。ダグはこの次元の雰囲気として冒険世界という発想を得て、そして、ゆっくり、本当にゆっくりと、実際のセットとして結晶していったのだった。
ランドマーク
これが、『ゼンディカー』が作られなくなるかもしれなかった、という話である。
一気に時計の針を進めて、私はビルのオフィスにいた。彼は、もう一度ゼンディカーを舞台にしたいと伝えてきた。私は笑みを浮かべながら、「今回は前回よりは簡単でしょう」と答えたのだった。
今日の記事で、私が普段取り上げないような私の仕事の一面をお目にかけられたなら幸いである。マジックのカードを作ることは私の夢の仕事で、いいこともたくさんある。しかし、悪いことが1つもない、ということではないのだ。私には、『ゼンディカー』の土地テーマと同じぐらい強く確信している発想はある。そして、その発想を完全に投げ出したくなるような疑いの瞬間もまた存在するのだ。
それではまた次回、ゼンディカー人がエルドラージに挑む日にお会いしよう。
その日まで、疑いから離れる路があなたとともにありますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)