さらなる街語り
先週、『ラヴニカの献身』のカード個別の話を始めた。終わらなかったので、今日もその続きとなる。
《ゴブリンの集会》
私が『アルファ版』でマジックを始めたとき、私が興味を持ったカードの1枚が《疫病ネズミ》だった。
私がついに自分でセットをデザインする機会を得た『テンペスト』のとき、私は《疫病ネズミ》のように働く《稲妻》をデザインしたいと考えた。実際にどうすればいいのか考えるには多少の時間を要したが、やがて解決することができた。《疫病ネズミ》のように戦場を参照するのではなく、その《稲妻》系のカードは墓地にある同名のカードを参照するのだ。そうして、唱えるごとに強くなるのである。このカードは最終的に、《焚きつけ》と呼ばれるものになった。
《焚きつけ》は人気が出て、それなりにプレイされていたが、構築環境で大量に使われるのはその次にこのメカニズムを使ったカードだった。『ネメシス』の《蓄積した知識》である。
《焚きつけ》とカードを引く効果を合わせると、非常に可能性があるということが示されたのだ。そしてその後、墓地をテーマとして取り上げたセットの『オデッセイ』では、噴出と呼ばれる《焚きつけ》系カードのサイクルを作った。(訳注:日本語版ではカード名が統一されていません。)
この能力を5色全てに広げたのに加え、『オデッセイ』ではそれ自身以外のカードも数えるということを扱っていた。
《焚きつけ》能力が次に登場したのは、墓地をサブテーマとしていた『コールドスナップ』の2枚のカードであった。
その次は、『マジック・オリジン』の1枚と、『異界月』の2枚だった。
この最新のカード群では、すべての墓地を見るのではなく、そのプレイヤー自身の墓地だけを見るように変更がなされている。これは、我々の、部族ロードなどに適用されている、カードを使うと相手のカードを強くしてしまうのではないかと考えてプレイに二の足を踏むことがないようにするという広い理念に基づくものである。
こうして出来たのが、初の《焚きつけ》トークン作成呪文となる《ゴブリンの集会》である。これは、初めての「疫病ネズミ・稲妻」を作った色である赤にこそふさわしいと思われた。あと残されていたのは、自分の墓地にある枚数に応じた数の1/1クリーチャーを作ることだけで、それで完成するのだ。
《守護者計画》
普通はしないけれども楽しいゲームにつながる行動をプレイヤーに推奨するカードを作ること。これもまた、デザイナーの面白い仕事の1つである。《守護者計画》は、このデザイン状の目的の完璧な一例である。通常、プレイヤーはデッキにとって最高のカードを4枚ずつ入れるものである。カードを引くときに、それらのカードが来る可能性を最高にしない理由があるだろうか。
ここで問題となるのは、4枚積みのカードばかりであれば多様性は損なわれるということである。そして、常々私が言っている通り、多様性は楽しさの源なのだ。(例えば、統率者戦が1枚制限なのは、その理由の1つである。)プレイヤーに、4枚積みをやめさせる方法はないだろうか。さまざまなクリーチャーを揃えることで利益を得られるようにするカードを作るというのはどうだろうか。どのような利益を与えることができるだろうか。ほとんどのデッキで使えるものでなければならない。カードを引くというのはどうだろうか。それはとても有用である。
どの色に持たせるべきだろうか。最初に考えられるのは、カードを引くことに最も長けた色である青かもしれないが、青はクリーチャーが最も少ない色である。このデッキにはクリーチャーを大量に詰め込みたいのだ。緑はカードを引くことができるが、それはクリーチャーに関連している場合に限られる。いや、待て――この効果はクリーチャーに関連していて、緑は最もクリーチャー中心の色の1つなのだから、まさにふさわしいと言える。こうして、《守護者計画》ができたのだった。
イーサン・フライシャー/Ethan Fliescherには、「プレイヤーに算数をさせるな」というデザイン上のモットーがある。大抵の場合はそれに従うが、大きな例外が1つある。X呪文である。数学の教授だったリチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldは『アルファ版』に、コストにXを含む呪文を13枚採用した。(なお、これには後にオラクルの更新によってXをコストに含むようになった《生命吸収》は含んでいない。)X呪文は、消費したマナに基づいた可変の効果を生み出すというクールな面があるが、時を経て、それがプレイヤーを混乱させるということがわかった。実際、ゲーム・サポート・チームは受けた質問を記録しているが、X呪文をコモンで常に使っていた当時、最も多かった質問は「この呪文はどうやって使うんですか?」というものだった。(それが、現在ではX呪文をコモンに大量に入れなくなった理由の1つである。)
問題をさらに複雑にしていたのは、Xを複数の効果で使うX呪文を作っていたことだった。その一例として、《ハイドロイド混成体》はXを1度ならず2度ならず3度も使っている。何点のライフを得るか、何枚のカードを引くか、そして何個の+1/+1カウンターを得るかが決定されるのだ。しかしまだそれで複雑さのすべてではない。今回の3つの効果のうち2つは、Xを参照するのではなく、Xの切り捨てでの半分を参照しているのだ。
《ハイドロイド混成体》はとても楽しいカードで、神話レアである。つまり、初心者がこのセットで初めて体験するカードになることは少ないだろうと考えられるので、この複雑さは少しだけ正当化される。私は、こんなに複雑なX呪文ができるのだということを面白く感じただけである。
ケイヤはこのセットの3人目のプレインズウォーカーであり、ドムリやドビン同様、これまで1度しかプレインズウォーカー・カードにはなっていない。ケイヤの特徴は2つあり、1つ目は、暗殺者であるということ。2つ目は、(実体がないものであるかのように物を通り抜けられる)透過能力を持つということだ。この能力のおかげで、彼女は幽霊に触り「殺す」ことができるのだ。彼女が初登場したのは『コンスピラシー:王位争奪』で、彼女は幽霊であるブレイゴ王を殺すためマルチェッサに雇われていた。
ケイヤの最初のカードでは、彼女自身やクリーチャーを明滅(追放して次のアップキープに戦場に戻すこと。彼女にはプラスの忠誠度能力がなかったので、忠誠度を回復させる賢い方法だった。)させることと、プレイヤーのライフを吸収すること、そしてカードをコントローラーに引かせて対戦相手に捨てさせることができた。興味深いことに、この暗殺者のプレインズウォーカー・カードは何ひとつとして殺さなかったのだ。
新しいケイヤについて、目標は(これもまたボーラスによる陰謀で)オルゾフの指導者としての役割を強調することだった。彼女の[+1]能力は、すでに死んでいるクリーチャーを取り除くことで「幽霊を殺す」能力を強調しようとしている。この追放能力は墓地の相互作用に対処する助けとなり、それに関連してライフを得ることはオルゾフの「ライフ関連」のサブテーマに関わってくるのだ。
[-1]能力は、彼女の持つ暗殺者というフレイバーに関わるものである。プレイデザイン上の理由から、小さいものに限られている。この能力のおかげで、彼女はトークン・クリーチャーを殺すことに特に長けることになった。
彼女の奥義(彼女の最初のカードには奥義がなかったので、彼女初の奥義となる)は2つのことを行なうものである。1つ目は、彼女の最初のカードとテーマ的に関連していてオルゾフの「ライフ関連」のサブテーマとも関わっている、ライフ吸収効果である。2つ目は、[+1]能力も[-1]能力も追放するので、彼女の能力全てに繋がりを持たせる助けとなる。ケイヤは「殺し」、そして彼女が始末したものの数に応じて強くなるのだ。
《集団強制》
2枚前、X呪文がどれほどプレイヤーを混乱させるかという話をした。それ以上に混乱させるものの存在を知っているだろうか。XX呪文である。マジックの歴史上、『ラヴニカの献身』以前に、マナ・コストに{X}{X}を含むカードは22枚作られており、{X}{X}{X}を含むカード(《霊体のヤギ角》)も1枚ある。XXを使う理由(そしてほぼレアと神話レアに限られている理由)は、それだけが大きな拡大効果につけられるコストだからである。XXを含むカードは非常に心躍るものであることが多く、その多くは古典的なマジックのカードなので、XXは使用頻度に注意を払う必要がある必要悪なのだ。
《鏡の行進》
赤は、他にもいろいろあるが、混沌の色である。理念上、混沌というのはクールだ。しかしメカニズム的には、混沌をカードに落とし込むのは少しばかり難しいものなのだ。プレイヤーは自分のカードが何をするのか知りたいものなので、我々が役に立たないかもしれないカードを作ったら、プレイヤーは不満を感じることが多い。『Unglued』のサイコロを振るカードの一部が嫌われている理由について掘り下げたとき、特に嫌われていたのは何が起こるかをコントロールできないものであり、何が起こるかはわかっていてもその効果の大きさがわからないものはそれほどではなかったという話をしたことがある。
我々が見出した解決策は、時々幸運が得られるような頻度で無作為なことが起こるようなカードを作ることだった。《鏡の行進》はクリーチャーが自分のコントロール下で戦場に出るたびに起こるので、コインを投げる機会は多くなり、そして確率的には半分ぐらい勝つことになる。このカードは半分の確率で勝つと仮定して評価されており、それよりも勝率が高ければ気分は最高だ。不幸だと感じるのは半分を割ったときだけで、続けざまに失敗したときには本当に不幸だと感じるが、それほど頻繁に起こることではないだろう。
《しつこい請願者》
《ゴブリンの集会》について語ったとき、私は『アルファ版』の《疫病ネズミ》が『テンペスト』の《焚きつけ》に及ぼした影響の話をした。しかし、マジックのメカニズムで《疫病ネズミ》に触発されたのはそれだけではないのだ。『アルファ版』が発売されたとき、デッキには制約は何もなかった。(40枚以上必要というだけだった。60枚になったのは後の話である。)その意図は、プレイヤーは望むだけの《疫病ネズミ》を入れることができるというものだった。(初期には、そうしていたプレイヤーがたくさんいたのだ。)4枚制限のルールが導入されて《疫病ネズミ》デッキは死滅したので、『フィフス・ドーン』ではその代替になるカードを作った。
《執拗なネズミ》は{2}{B}でなく{1}{B}{B}だったが、基本のサイズが1/1でなく2/2だった。(《疫病ネズミ》はいくらか弱かったのだ。)このカードがカジュアル・グループには充分好評だったので、時を経て、数枚さらに作った。なぜ全部が黒だったのかはわからない(まあ、2枚はネズミだった)が、プレイヤーの多くはデッキに何枚でも入れていいというのは黒いのだと思っている。実際はそうではない。どの色でもできるのだ。これは、特定の色だけに制限する必要があるようなものではない。
私はそれについて私のブログで数回公言しているが、それへの反響はいつも「じゃあ、他の色で作ってください」というものだった。ついに作った。私は、《しつこい請願者》がいかにも青なやりかたでやっていることを満喫している。黒以外でネズミっぽいカードを求めていた諸君も満喫してくれれば幸いである。
《死に到る霊》
《死に到る霊》については、ちょっとしたトリビアを交えて語ろうと思う、常盤木キーワードの中で、黒枠マジックの範囲で(有意義に)インスタントやソーサリーに持たせることができるのはどれか。
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正解は、接死、瞬速、絆魂である。(訳注:下記注釈の通り、実際には瞬速を持たせたことはありません。)インスタントやソーサリーに飛行を持たせることも理論上は可能だが、それは実際には何の機能も持たない。他に、インスタントやソーサリーに持たせることができると考えるプレイヤーがいる常盤木キーワードにはトランプルがあるが、黒枠ルールでは扱われていない。それが〈飛び切りの殺人光線/Super-Duper Death Ray〉が『Unstable』で作られた理由である。
絆魂は、これまでに2回(《魂火の大導師》と《ファイアソングとサンスピーカー》)インスタントやソーサリーに与えるカードが作られている。
瞬速は、インスタントに与えるのは意味がないが、ソーサリーに与える呪文が2枚(《超音速のドラゴン》と《急かし》)存在する。(訳注:《超音速のドラゴン》は最初から、《急かし》も2006年に瞬速がキーワード化された時点から、「それが瞬速を持っているかのように唱えてもよい。」というテンプレートです。)
《死に到る霊》は、接死がインスタントやソーサリーに与えられる初めての例となる。
マジックのデザインには数多くの革新があるが、過去から採用されるものもある。心躍る新しいカードを作るための最高の方法が、過去にプレイヤーが楽しんだものをコピーすることであることもあるのだ。《首席議長ヴァニファール》はまさにその好例である。
《出産の殻》は、『新たなるファイレクシア』のデザイン中に、チームのメンバーであるジョー・ヒューバー/Joe Huberによって作られたものである。我々はファイレクシア・マナのカードをデザインしており、さまざまなカードを作ろうと考えていた。ジョーは、緑らしいけれども緑でないデッキではプレイヤーがライフを支払いたいと思うような緑のアーティファクト(そのセットにあったファイレクシア・マナはすべて有色だったので、ファイレクシア・マナ・カードはすべて有色だった)を考えついたのだ。このカードの元になったのが何かは知らないが、おそらく、アーティファクトに対して同じようなことをする『アンティキティー』のソーサリー《Transmute Artifact》だったと思われる。(私は《Transmute Artifact》に触発されて、『ウルザズ・サーガ』の《修繕》を作っている。)《出産の殻》は構築の中心カードとなり、プレイできるあらゆるフォーマットで使われていた。
そこで、デザイン・チームがシミックの最新の指導者をどうするか考えたとき、動く《出産の殻》にするという発想が浮かんだのだ。非常にシミックらしい、そして多くのプレイヤーが大好きな効果だということはわかっていた。そして、2色のカードにすることで、起動コストを2マナとタップからタップだけに引き下げることができたのだった。
《名演撃、ラクドス》
ラクドスは、ラクドス教団を創立し、運営しているデーモンである。ラヴニカを舞台にするたびに彼は登場しているので、ラクドスの新しいカードを作る上で鍵になるのはラクドスという人物の本質を再現した上で『ラヴニカの献身』のラクドス教団と相性のいいカードを作ることである。
最初のラクドスは7/6で飛行とトランプル、それに自軍のカードも一緒に戦場の諸々を破壊するような破壊的な力を持つ、クリーチャーだった。我々がラヴニカに回帰したときのラクドスは6/6だったが、やはり飛行とトランプルは持っていた。このラクドスはいくらか破壊的ではなく、大量のダメージを対戦相手に与えることを奨励するものになっていた。このカードが『ラヴニカへの回帰』版のラクドス教団と相性が良くなるようにこうされていたのだ。
3回目となるラクドスは、彼が6/6クリーチャーで飛行とトランプルを持っていたという発想から始まっている。(パワー/タフネスや常盤木能力といった一貫したものは、同一人物だと感じられるようにするために非常に役立つのだ。)彼を、『ラヴニカへの回帰』のダメージ大好きなものよりも、最初の破壊的なものに近いものにすることにした。最初の版と同じく、このカードにも戦場にあるデーモンでないものをなんでも破壊する能力を持つ。何を破壊するかをプレイヤーが選ぶのではなく、最新版では破壊がさらに無作為に思えるよう、そしてさらにラクドスらしくなるよう、コイン投げを使っている。
《シミックの隆盛》
《シミックの隆盛》は、開発部語で言う「勝利条件カード/alternative-win card(alt-win)」である。通常、セットには最大でも1枚しか入れず、1年を通しても1~2枚が上限である。良い勝利条件カードの鍵は、プレイヤーにそれを基柱としたデッキを組みたいと思わせることである。ジョニー/ジェニーは創造的なデッキ構築を必要とするので、勝利条件カードは、彼ら向けにデザインされていることが多い。
《シミックの隆盛》は非常に直截的な勝利条件カードであり、これは+1/+1カウンターを与えることを参照していると明記されている。マジック(やシミック)にはそうするカードが大量に存在するので、デッキの組み方には多くの選択肢があるのだ。すべての勝利条件カードがその目標を達成する助けになるわけではないが、最高のものの多くはそういう傾向にある。《シミックの隆盛》のもう1つ優れているところは、勝利条件で勝利できなかったとしてもゲームを勝利に導く助けになるということである。例えば、ドラフトでは、このカードの+1/+1カウンターを与える能力のためにこれをピックし、もし状況が整ったら勝利条件を達成するということもできるのだ。
《テイサ・カルロフ》
テイサもラクドス同様、ラヴニカを舞台とするたびに登場している。
最初の登場時の彼女は、組み合わせるとシナジーを生む、2色のそれぞれに基づく行動をすることで利益を得られるサイクルの一部だった。オルゾフには濃い幽霊テーマがあるので、テイサは自軍の黒のクリーチャーをスピリットに「変換」して、そしてそれらのスピリットを使って対戦相手のクリーチャーを追放することができたのだ。再訪のときにもテイサはスピリット生成能力を持っていたが、それは彼女を傷つけたクリーチャーを殺す、《無慈悲》系の効果に関係していた。(訳注:実際には彼女ではなくそのコントローラーにダメージを与えたクリーチャーを殺す能力です。)これは、スピリットの生ける者を助けるという需要をうまく表している。このテイサには、警戒とプロテクション(クリーチャー)という2つの新しい能力が与えられており、攻撃クリーチャーやブロック・クリーチャーとして有用であった。
最新のテイサはこれとはちょっと違う方向に向かっているが、過去のテイサと非常に相性が良いようにデザインされている。これまでのテイサは死亡誘発を持っていたが、新テイサは死亡誘発をコピーする能力を持っている。通常、コピーする色は青や緑だが、死亡との繋がりによってオルゾフにふさわしくなっている。彼女の2つ目の能力はクリーチャー・トークンを強化するものであり、これまでのテイサのカードはトークンを生成している。彼女の能力は2つとも、オルゾフのキーワードである死後と非常に相性がいい。死後はトークンを生成する死亡誘発なので、死んで一定数の1/1飛行クリーチャーになる代わりに、その倍の数の1/1飛行・警戒・絆魂クリーチャーになるのだ。
都を離れて
本日はここまで。『ラヴニカの献身』のカード個別の話を楽しんでもらえたなら幸いである。今日の記事や話題にしたカード、あるいは『ラヴニカの献身』そのものについて感想があれば、メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、Google+)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『ラヴニカの献身』に関する質問にお答えする日にお会いしよう。
その日まで、あなたがボーラスの奴隷になることなくラヴニカで楽しめますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)