先週、『基本セット2019』に関する一問一答を始めた。良い質問が多かったので、今回もその続きとなる。


Q: 特定の感情を引き起こすような特定のセットやメカニズムのデザインという話をよくしていますね。しかし、基本セットはもっと全般的なものでなければなりません。M19を独特の感情を引き起こさせるものにすることはできましたか?

 ほとんどのエキスパンションの役目は、その前後のセットと違うものにするための独自性を持つようにすることである。来るべき年にはマジックの100個目のエキスパンションが登場することになるはずであり、我々はセット同士が違うものになるように尽力している。そのためにさまざまなことをしている。独特のメカニズム的特徴を持つようにしている。多くの場合、各エキスパンションの舞台として肉付けした単一の世界を使っている。そして、エキスパンションのプレイ感が他のマジックのエキスパンションと違うようにするため、独特の雰囲気になるようにしているのだ。

 基本セットには、これとは少し異なる目標がある。基本セットはマジックの世界を新規プレイヤーに伝えるものであるとともに、既存プレイヤーには口直しになるようなものである。したがって、メカニズム的特徴は抑えられる傾向になる。このセットは、文字通りマジックのプレイにおける基本なのだ。他のエキスパンションと違う雰囲気を求めるものではなく、他の基本セットと同じような雰囲気を求めるものなのである。クリエイティブ的には、盛り合わせのようなものである。基本セットは、単一の世界に焦点を当てるものではなく、ゲームが提供すべきさまざまな世界(やクリーチャーや呪文)を示すものなのだ。

 感情的には、我々はマジックのプレイ経験の中核、すなわち発見の喜びを活用しようとしている。したがって、この基本セットは、他のマジックのセットの魅力を再現するために独自性を求めるものではないのだ。しばしば私は、開発部がマジックのことを(砂の上で揺れる)振り子のようなものだと考えていて、我々はそれを常に新しい方向に押し続けているのだ、という話をしている。基本セットは中心に近い状態の振り子であろうとしているものであり、最も一般的なマジック体験を表しているのだ。

 これだけ語ってきたことは、『基本セット2019』は新しい感情的な雰囲気を生み出そうとしているのもではなく、我々が初めてマジックに触れた時に感じた一般的な感覚を再現しようとしているのだ、ということを迂遠に述べたものである。


Q: 『基本セット2019』にレアの土地サイクルを入れなかったのはなぜですか?

 マジックを作る上での最大の課題の1つが、プレイヤーの意識していること同士がお互いに矛盾することがあるということでえある。その中の2つがこれだ。

 セットには、そのセットの売りとなるようなレアの2色土地のサイクルがあるものである。これは誰もが使うものであり、多くのデッキで使用することができる。また、長い間に、プレイヤーは2色土地の重要性を理解しているので、新しい2色土地はすぐに注意を惹き、ほとんどの場合にはすぐにプレイヤー人気を集めることになる。ソーシャルメディアでの発信力を持つ経験豊富なプレイヤーについては特にその傾向がある。

 スタンダードの2色土地が多くなりすぎると好きなだけの色を使うのが簡単になりすぎるので、その数には制限がある。カラー・ホイールがあるのには理由があり、プレイヤーがデッキ作成においてそれを意識するようにすることはマジックの健全性のために重要である。

 ここで、現在スタンダードには最大数である8つのセットが存在し、特別に濃い多色環境としてデザインされたのでない限り、スタンダードに8つの2色土地サイクルがあるのは多すぎることから、この2つのことは矛盾している。それへの回答となるのは、時々2色土地サイクルが存在しないようなセットを見つけることである。常にこの基本セットがそうだというわけではないが、提出された時点で列の最後にあったのはこの基本セットであり、今回はそのサイクルが入らないことになったのだ。


Q: 現在、基本セットでは、《風景の変容》や《世界のるつぼ》といったエターナル・フォーマット向けの再録カードを再録するようになり、マスターズ・セットのペースが落ちているようです。こういった「安全な」再録がスタンダードに増えることを期待してもいいのでしょうか?

 基本セットを復活させた理由の1つが、通常のエキスパンションで再録が難しいようなカードを再録できるということである。特に、『基本セット2019』では、古いフォーマット向けの再録にかなり積極的に挑戦している。さて、将来の基本セットで、これよりもさらに多くする計画についての質問だが。それは『基本セット2019』で再録したカードの成否にかかっている。『基本セット2019』が、今後のあり方の青写真になることが我々の望みである。


Q: 《高山の月》や《疎外》のように、特にモダン向けにデザインしようと考えたカード、あるいはカード群はそれら以外にもありましたか?

 『基本セット2019』で古いフォーマット向けの新しいカードをデザインするという実験をすることを決めてから、我々は多くのカードをデザインした。枠には限りがあるので、最高の機会だと考えられたものを選び、そして印刷したのだ。この実験が成功したら、次に実験するために順番待ちをしているデザインは大量に存在している。


Q: 基本セットが復活しましたが、もう一度なくなる可能性はありますか? こんな結果が出たらなくすことになる、というような話はありますか?

 通常、我々が何かを決定し、その後でその決定を覆すときには、覆すのが正しいことかどうか極めて慎重に考えるものえある。ことに、今回の場合は、それは一度覆したことを再び覆すことになるからである。ユーザーは、我々が何かを試し、それがうまく行かなかったということを理解してくれるだろうが、あまりにも何度もやったりやめたりを繰り返すことはユーザーの信頼を失うことに繋がることになる。

 我々の知る限り、あらゆる基準において『基本セット2019』はその目的を達成しているようであるということは言える。『基本セット2020』はデザインに入っており、我々は基本セットを定例のものにしていくつもりである。再び基本セットをやめる可能性があるか、という問いについて。確かに、我々が重大な誤りを犯したという十分な証拠があれば方針を変更するので、やめる可能性はある。しかし、一般論として、私は基本セットが今後も残ると確信している。


Q: 『レジェンド』のエルダー・ドラゴンのデザインは、今回のエルダー・ドラゴンのデザインにどのような影響を与えましたか?

 エルダー・ドラゴンのデザインは過去のカード・デザインよりもフレイバーのほうが影響しているように思うが、もちろんメカニズム的な影響がないわけではない。

 アルカデスは防御的なデッキに役立つ色をしているので、どちらのカードもタフネスに寄った傾向にある。『レジェンド』のカードはタフネスを強化するものであり、『基本セット2019』のカードはタフネスが高いクリーチャーの有利を活かすものになっている。

 《変遷の龍、クロミウム》は、7/7というサイズを維持していること以外は『レジェンド』版のカードとメカニズム的な共通点は存在しない。『基本セット2019』版は、クロミウムの変身できるというフレイバーに深く踏み込んだものになっている。

 『基本セット2019』版のボーラスの第1面は、『レジェンド』版の手札を捨てさせる能力を示唆しており、『レジェンド』版の人気の元になった全体としての残忍性をもちろん再現している。

 『レジェンド』版の《パラディア=モルス》はただの巨大クリーチャーで、『基本セット2019』版は飛行とトランプルを両方含むことでその要素を継承している。『基本セット2019』版では、さらに警戒と制限付き呪禁の2つの能力を追加することで強化している。

 クロミウム同様、《暴虐の龍、アスマディ》も『レジェンド』版から離れて色的にキャラクターに関連させようとしたものになった。両カードとも、単なる大型飛行クリーチャーというだけでなくプレイするのが面白いものにするということを目的としたものである。


Q: 『基本セット2019』のデザイン上の目標は何でしたか? 基本セットの全体としての理念は何ですか? これまで、基本セットは新規プレイヤー向けの入り口としてデザインされていると思っていましたが、この目標は今も残っていますか?

 基本セットに戻ることになって、我々は新規プレイヤー向けの入り口という側面にさらに力をかけることにした。基本セットが関連商品を最大化することができるようにするため、入門レベルの誘導路全体に合わせてデザインした。(そして店舗からの反響はそれが成功したことを示している。)我々は、既存プレイヤーを喜ばせていた代わりに新規プレイヤーにとっては余計な複雑さを生んでいたいくつかの過去の選択(常磐木でないキーワードを追加するなど)から離れることを選択したのだ。(ちなみに、既存ユーザーを喜ばせる要素として、高いレアリティに既存プレイヤーがよくプレイするフォーマット向けのカードをデザインした。)これについてもっと詳しく知りたい諸君は、6月に私が書いた記事を参照してくれたまえ。


Q: セットに1枚だけ両面カード(ニコル・ボーラス)を入れるのは難しいことでしたか、それとも将来のセットではよく見かけられるようになることなんですか?

 我々はいつでも、1枚だけ両面カードを印刷することはできる。そのためには追加で、そのカードだけのための両面のシートを印刷する必要がある。(ほとんどのカードは通常のマジックの裏面をしており、それはセットが印刷される前に大量に印刷してある。)そうすることには手間の問題、それに何より金銭的な影響があり、つまるところそうすることを正当化するだけの重要性が必要だということになる。『基本セット2019』をニコル・ボーラスとその過去を軸としたものにするというのは、このセットにおいて正当化するのに充分だった。

 ここでもう1つ、『基本セット2019』には他に特別な印刷を必要とする要素がなかったということも言っておく必要がある。各セットで、通常と違うことをするための予算が準備されているが、セットごとにできることはそう多くはない。他のセットで、1枚だけの両面カードを作るための重大な理由があったとしても、そのセットを作るために必要な別の因子があった場合、両面カードはその因子に追い出されることもありうるのだ。ここで言う別の因子には、カードそのものや封入の組み合わせ、その他さまざまな手間の問題といった、印刷に関わるあらゆるものが含まれる。

 ひとことで言うと、することはありうるが、そこに到るには多くの要素が関わってくる、ということになる。


Q: このセットでお気に入りのカード・デザインは何でしたか? その理由は?

 私のお気に入りのカードは、《冒涜された墓所》だろう。

 今年マジックは25周年を迎え、これまでに16000種以上のカードを印刷してきたので、これまでに触れたことのない空間を扱うクールな基柱カードを見るたびに嬉しくなるのだ。それにクールなトップダウンのフレイバーを加えることで、全体として非常にさっぱりしたカードに仕上がっている。


Q: 基本セットを復活させた理由の1つが、他のフォーマット向けの対策カードでスタンダードにそれほど影響を与えないものを印刷することでした。モダンについては見かけましたが、今後、EDH、さらにはレガシーを修正する助けとなるカードを作る計画はありますか?

 このセットには、統率者戦を意識したデザインも何枚か存在している。また、モダン向けカードの何枚かはレガシーで使われるだけの可能性があると考えている。具体的に言って、レガシーで有用なカードは、最初にスタンダードを経なければならないという制約のもとでは難しい。最も成功すると思われるのは、強いけれども非常に狭く、スタンダードでは競技レベルのデッキを成立させられるカードが足りないようなカードである。カジュアルだけであっても新しいフォーマットで使いみちがあると感じられるようにすることが鍵なのだ。

 ここで、『基本セット2019』で基本セットが復活したばかりだということを書いておくべきだろう。今回多くの実験をしていて、それらの実験の結果を元に、さらなる実験へと繋げていくのだ。基本セットの復活の理由の1つが、単体でデザインして通常のエキスパンションでは難しいカードを環境に投入することができることだった、という話をしたことがある。将来の基本セットでも、おそらくこの空間を扱い続けることだろう。


Q: なぜアルカデス・サボスでなくアルカデスなんですか?

 舞台裏に関する面白いことの1つが、我々が意識しなければならないさまざまな小さなことが大きく意識されることである。

 アルカデスがアルカデス・サボスでない理由は、カードの名前行に収まらないというだけのことであるというのがその一例である。アルファベットのbとhはかなり横幅を取る文字なのだ。可能な方法の1つに、カード名が長いカードではマナ・シンボルを減らすというものがあるが、今回はマナ・シンボルを3つ以下にすることはできなかった。アルカデスは以前のカード(と、3色サイクルの一部であるという事実)に基づき3色でなければならず、巨大なドラゴンなので3マナにするわけにもいかない。では、なぜフォント・サイズを下げないのか。その理由は、カードを読みやすくしたいのが1点、また他の言語で印刷される時に調整できる余地を残す必要があるのが1点である。カードを印刷している11言語の中には、今回の例で言う「the Strategist」がさらに長い単語になるものがあるかもしれないのだ。


Q: 基本セットは、その年に発売されるセットで出てくるものの雰囲気を定めるものになりますか?

 現在、さまざまなことを実験している。『基本セット2019』は、現在進行中のストーリーに関連させるため、過去のストーリーを使った。だからといって、今後すべての基本セットで同じことをするというわけではない。最初の数個を実験場として、基本セットをストーリーと関連付ける様々な方法を試すことになるが、その後、何がうまくいって何がうまくいかないのかを理解していくことで継続的なルールを採用していくことになるだろう。


Q: 常盤木基本セットについてどう考えていますか?

 昔、15年ほど前のこと、我々は「UBS」(究極基本セット)という概念を持っていた。常に変わり続ける基本セットではなく、常にマジックの導入として使うことのできる、単一の固定された基本セットが必要なのだという考えである。実際、UBSがどのようなものであるべきか、どんなカードを入れるべきかということについて、かなりの時間を費やして話し合ったのだ。

 しかしやがて、その方向性の間違いに気がつくことになった。

  1. マジックは変化のゲームである。入門用商品がマジックの中核的特徴の1つから離れるのはおかしい。
  2. マジックが変動し続けているので、固定されたセットに関する全ての決定もいずれ変更する必要がある。例えば、あるキーワードが常盤木だと仮定してそれを持つカードを入れても、それから数年後に常盤木でするうべきではないと判断され、そして取り除かなければならなくなることはありうるのだ。マジックは、単にメカニズム的なものだけではなくクリエイティブ的なものも含む、さまざまな形で変化するものである。
  3. この一問一答記事で何度も語ってきたとおり、基本セットを復活させた理由の1つには、エキスパンションに入れるのが難しいカードをスタンダードに入れられるという柔軟性があった。固定してしまうと、その能力が失われてしまうことになる。
  4. この基本セットは主に初心者向けに焦点を置いているが、既存プレイヤーにも楽しんでもらいたいと考えている。セットが変化しないということになれば、この役目を果たすことはほぼ不可能となる。
  5. 基本セットを売り込む必要がある。新要素や新カードの存在のおかげでそれは可能になっている。

 つまり、一見するとクールな発想に思えるが、掘り下げてみると常盤木基本セットによって解決される問題よりも生み出される問題のほうが多いということがわかるのだ。


Q: 「マジック2019」でなく「基本」という表記に戻ったのはなぜですか?

 そこにはいくつかの理由がある。その中でも重要なのは以下の3つだ。

  1. 表記の簡単さ ― 「マジックのセット」をプレイするというとき、何をプレイするのかが明確にはならない。商品自身を指す名前を与えることで、プレイヤーは、何を指しているのかが明らかになる言い方で指し示すことができるようになる。
  2. 重複を避ける ― 厳密に言うと、この商品は『マジック:ザ・ギャザリング 基本セット2019』である。もし『マジック2019』という名前であれば、『マジック:ザ・ギャザリング マジック2019』になってしまう。別に用語としては問題になるわけではないが、長い正式タイトルを書き出した時に見た目が奇妙なのは間違いない。
  3. 商品の定義 ― 「基本」という単語は、「マジック」という単語と違って、これが基本の商品であるということを示している。初心者を正しい方向に向かわせる助けとなる小さな手がかりがあるようにすることは重要であり、それこそが商品名における大きな要素なのだ。

ついついツイート

 本日はここまで、だがまだ質問に答えるための記事がまる1つ残っている。来週もまた、さらなる回答とともに戻ってくることになるだろう。いつもの通り、今日の記事や回答の1つ1つ、あるいは『基本セット2019』そのものについて意見があれば、メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、その3でお会いしよう。

 その日まで、我々が『基本セット2019』を作ることを楽しんだのと同じように、あなたが『基本セット2019』をプレイすることを楽しめますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)