時々、私はこの「マジック開発秘話」の中で一問一答記事を開催していて、最新セットのデザインに関する質問を主に募集することがある。そうすることで、私は諸君の興味が集まっている質問に答えることができるし、それ以前の記事で触れることができていない細かな問題について語ることができるのだ。

 私はTumblrでBlogatogというブログをやっており、そこでは常時質問に答えている。そしてその結果、重要なセット全てについてやるべきだと明らかになった。年に4回、記事を1本か2本使って、読者の興味が集中するところを扱わない理由があるだろうか。そういうことで、タイトルを見るだけで中身がわかるようにするためにこの記事に共通のタイトルをつけることにした。その名前は「こぼれ話/Odds and Ends」。特定のセットのデザインに関する、他の記事で拾えなかった細かな内容を大量に語ることができるようにするためだ。

 それを踏まえて、早速始めよう。私がツイートしたのは次のような内容だ。

 また一問一答記事を開催するので、『ゲートウォッチの誓い』に関する単一ツイートの質問を送ってくれたまえ。

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えたいのだが、答えられない理由がいくつか存在する。

  • 文字数の制限があるので、答えられる数には限りがある。ブログではもっと短く答えているが、記事では詳細に触れた長い回答が必要になるのだ。
  • 誰か他に同じ質問をしている人がいる場合。その場合、最初の質問に答えることが多い。
  • 私も答えを知らない質問や、私では答えるのにふさわしくない質問が存在する。
  • 様々な理由で、答えてはならない質問が存在する。例えば、将来のセットのネタバレなどだ。

 それでは質問に答えていこう!

 エムラクールはどこ?

 物語的な答えは私の専門外なので答えられないが、デザイン的には答えられる。セットは、テーマに焦点を当てることで良いものになる。『ゲートウォッチの誓い』で、半分がコジレック、半分がエムラクール、となると非常にごたついたセットになってしまう。それぞれに独自のメカニズム的テーマが必要だが、それぞれの巨人の持つテーマが混じってしまうとメカニズム的に見た全体としてのメッセージが曖昧になってしまうのだ。そう、3体のエルドラージの巨人をブロック内の2つのセットに入れるということは難しいということになるが、デザインはいつも正攻法というわけではない。一方、多元宇宙の問題を解決するためのプレインズウォーカーのチームが結成されたところなので、未解決の問題を残しておくのは物語的にはおいしい話かもしれない。

 ジェイスのプレインズウォーカーはなぜいないの?

 そこには問題がある。デベロップ上の理由で、プレインズウォーカー・カードをあまり大量に作りたくはないのだ。プレインズウォーカーはどれもクールで実用的なものにしたいのだが、大量に作るとそれが不可能になる。ブロックごとに、通常はプレインズウォーカーは5体入ることにしている。つまり、年に10体だ(3セット・ブロックで5体、基本セットで5体が過去の通例だった)。『戦乱のゼンディカー』ブロックには、物語上、以下のプレインズウォーカーが関わっている。

  • ギデオン
  • ニッサ
  • オブ・ニクシリス
  • キオーラ
  • ジェイス
  • ウギン
  • チャンドラ

 7人いるが、カードは5枚。ここで選択肢は2つある。物語に登場するプレインズウォーカーの数を減らすか、物語に登場したからと言ってカードになるとは限らないという前例を作るかだ。前者の選択肢には多くの問題がある。物語に登場できるプレインズウォーカーの数を制限することによってストーリー・チームの手を縛れば、今まさにチームを組んだところであるプレインズウォーカーを主な登場人物として扱うのが難しくなってしまう。最大の問題は、他のプレインズウォーカーを関わらせることができなくなることだ。どのプレインズウォーカーでも使えるようにして、全ての人のお気に入りを時折登場させたいのだ。物語上の登場人物とカードが1対1対応しなければならないとなると、一言で言って非常に難しいことになる。

 つまり、物語に登場したプレインズウォーカーが必ずカードになるとは限らない、という後者の選択肢を選ぶしかない。これは慣習を破るものではあるが、そうすることでより豊かで楽しい物語が紡がれるようになると信じている。それに、これはジェイスが二度とカードにならないということではない。彼はゲートウォッチの一員なのだ。また彼が登場することもあるだろうし、そのうちの何度かではまた彼がプレインズウォーカー・カードになることもあるだろう(幸いにも、スタンダードは挑戦できる場所だ)。

 何で《コジレックの審問》は再録されなかったの? フレイバー的に見てもふさわしい(と思う)のに。

 元々の計画では、《コジレックの審問》はこのセットで再録する予定だった。実際、デザイン・ファイルには入っていたのだ。しかし、すぐにある問題に直面することになった。エルドラージ関連の呪文は全て無色(真の無色もあれば欠色もある)なのだ。これは、フレイバー上エルドラージでない無色呪文《幽霊火》に関する問題と同じだった。そこで、我々はクリエイティブ・チームと会合を開き、解決策を探した。このカードが、エルドラージでないエルドラージ側の者を表すとしたらどうか。フレイバー・テキストは2行使えるが、何とかできるだろうか。

 我々がこうして検討しているうちに、そういう問題ではないということがわかった。デベロップはスタンダードに《コジレックの審問》を入れられるかどうか既に検討しており、問題が生じるとわかっていたのだ。クリエイティブ的な問題を解決できたとしても、デベロップ的な問題は解決できない。そういうわけで、このカードは『ゲートウォッチの誓い』には再録されなかったのだ。

 『ゲートウォッチの誓い』で、自分とチームメイトに影響する《栄光の頌歌》のような効果は検討しましたか?

 このセットが「チームワーク」をテーマにすると決めてから、もちろん我々は他のプレイヤーを助けるプレイヤーに使いやすいセットにするために可能なあらゆることを考えた。通常、デザインは可能な限り無理をするところから始める。これは、デザイン空間を計るために重要なことなのだ。我々が可能なことは一体何なのか?

 従って、初期のデザインではより多くのカードに「チームメイト」という単語を入れていた。自分とそのチームメイトを助けるような全体エンチャントも作った。その中には、デベロップへと渡ったものもあったはずだ。しかし、プレイテストする人数が増えるにつれて、「添加的散漫」とでも言うべき問題が明らかになったのだ。

 説明のために、こんなバニラ・クリーチャーを見てみよう(デザインなので、クリエイティブはまだ見ていない)

〈ステロイドの熊〉
{1}{G}
クリーチャー ― 熊
3/4

 これを周りに見せたら、多分かなりの高評価を得るだろう。このコストでこのパワー/タフネスを持つカードは過去に1枚しか存在せず(『ポータル』の《植物の精霊》だ)、しかも森を生け贄に捧げる必要があった。さて、このカードをこう調整してみよう。

〈ステロイドの変熊〉
{1}{G}
クリーチャー ― 熊
あなたがアーティファクトを10個以上コントロールしているなら、[カード名]はトランプルを得る。
3/4

 これを周りに見せたら、おそらく高評価はぐっと少なくなるに違いない。アーティファクト10個という条件に目を取られて、最終的にこれを入れられるようなデッキは存在しないという結論に到るだろう。

 しかし、ここで考えてほしいのは、その追加の行がないカードには興奮したということだ。〈ステロイドの変熊〉は、カードパワーの面から見て〈ステロイドの熊〉の「完全上位互換」なのだ。条件付きでさらに強化される。最低でももとのカードと同じ強さで、非常に稀な場合に、さらに強化されるだけなのだ。

 ここで重要なのは、プレイヤーはカードを見たときに感じたことでカードを評価するということだ。カードに「チームメイト」という単語を入れると、プレイヤーがそのカードを評価するときに自分がチームメイトのいるフォーマットをプレイするかどうかで判断してしまうことになるのだ。

 最終的に、我々はチームメイト関連の要素をいくらか残し(例えば怒濤メカニズム(訳注:原文ではcohortとなっていますが、誤りだと思われます)など)、全体エンチャントのような他のものは取り除くことにした。

 デザイン・チームがしたことの中で非常に繊細なものの1つが、「チームメイト」という単語を使わずにチームメイトに有用なカードを作ることであった。そのためのもっとも一般的な方法は、通常よりも多くの効果を対象をとるようにして、チームメイトに有利な効果を与えられるようにすることだった。

 なぜ《ゲートウォッチ招致》はグリクシス色じゃないんです? グリクシス色ならよかったのに。

 『ゲートウォッチの誓い』のリード・デベロッパーを務めたイアン・デューク/Ian Dukeがデベロップ中に私のところにやってきて、プレインズウォーカーを探す効果を作りたいと言った。今まで存在していなかったものなので、その能力にもっともふさわしい色は何か知りたいというのだ。そこで、私はそれぞれの色について検討していった。

 白は現在、アーティファクト(大抵は装備品)、エンチャント、小型クリーチャー、《平地》を探す効果がある。もちろん、白は団結の色なので、そういう意味でも可能性は高い。

 青は現在、アーティファクト、インスタント、ソーサリーを探す効果がある。青は計画を立てる色だが、団結はあまりしない。ふさわしいとは言いにくい。

 黒はあらゆるカードを探す効果がある色だ。従って、特定のタイプのカードを探す効果というのは黒には多くない(《》だけは例外だ)。また、フレイバー上は強制性が必要になり得るので、『ゲートウォッチの誓い』のカードにはふさわしくない。

 赤はもっとも計画しない色であり、赤が探せるのは非常に赤い(ドラゴン、ゴブリンなどで、それも頻繁ではない)ものだけだ。赤は友情の絆の色なので、フレイバー的にはいけそうだが、色の理念的におかしい。

 緑は現在、土地とクリーチャーを探す効果がある。緑は生きるものの繋がりの色なので、この能力を入れるべきだという主張はあった。そしてニッサは物語上、チームをつなぎ合わせる感情上の結びつきでもある。それでも、緑が完璧にふさわしいとは思えない。

 こうして白を推薦したところ、イアンが既に考えていたことも一致していたのだった。

 《面晶体のカニ》はどこ?

 《面晶体のカニ》は、『戦乱のゼンディカー』のデザイン時には存在した。上陸持ちの人気のクリーチャーだったので、再録するのにもってこいだったのだ。『戦乱のゼンディカー』のプレイテストで使ったいい思い出がある。残念ながら、デベロップ中に構築フォーマットでの問題が見つかり、削除されることになった。

 《森の代言者》のプレイテスト名って、土地ロードだったんでしょ。

 正解だ。土地・クリーチャーに+1/+1を与える史上初のカードは、『オンスロート』のデザイン時の《クローサの拳カマール》だったのだが、そのデザイン名は〈土地ロード、カマール〉だった。それ以来、土地のパワー/タフネスを強化するクリーチャーを作るたびに、そのカード名に「土地ロード」と入れることにしている。

 {C}呪文のカラー・パイはどうやって決めているんですか? 例えば、《次元の歪曲》はほとんど色違いの《名も無き転置》ですよね。

 今回、デザイン・チームが最初に手がけたとき、無色マナが必要な効果はアーティファクトとほぼ同じように扱っていた。つまり、同じコストの有色マナでやることを侵害しないようにしていたのだ。ファイルがデベロップに渡って、デベロップ・チームはかなりの時間をかけて無色マナでできるべきこと、できるべきでないことを検討していった。

 ある日、イアンが私のところにやってきた。無色マナに関して、デザイン・チームとは違う発想が浮かんだというのだ。イアンは、不特定コスト(色マナでも無色マナでも支払えるコスト)と無色コストを別に考える必要があると言うのだ。不特定マナは今まで通りで、どんな土地から出したマナでも支払うことができる。

 無色コストはそうではなく、無色マナを生み出す土地に寄せる必要がある。基本土地からは生み出せず(《荒地》は別として)、基本でない土地から出す必要があるのだ。つまり、無色マナはもっと使うためのハードルが高いものとして考えるべきで、そうすれば単色の能力と同等に一部の能力を使えるようにできるというのだ。

 コストに無色マナを含むようにするためには、セット内に大量のサポート手段が必要になる。つまり、再利用できないわけではないがかなりの手間がかかり、おいそれとはできないということになる。滅多に使わないということになれば、このセットとエルドラージにあわせてカラー・パイを調整することもできる。割り当てる能力は侵略的な、何らかの形で対戦相手を乱すものになった。

 嚥下はどうなりました?

 嚥下はウラモグに関連したメカニズムだ。『戦乱のゼンディカー』はウラモグのセットなので、このメカニズムが登場した。『ゲートウォッチの誓い』はコジレックのセットであり、コジレックの主なメカニズムはコストの無色マナである。ということで、そのメカニズムが『ゲートウォッチの誓い』に登場した。エルドラージはいずれにせよ非常に追放に寄っているので、『ゲートウォッチの誓い』には昇華者はいないが追放するカードは何枚も存在する。これによって、この2セットでドラフトをする場合などにも昇華者が使えるのだ。

 もしゼンディカーへの帰還をやり直せるとしたら、巨人の出てくる順番を変えますか?

 ブロックが完成した今の時点で、完全な後知恵で振り返るなら、そうするだろう。メカニズム的には、この2体の巨人の順番が逆だったら可能になっていた面白いことがあるのだ。とはいえ、マジックのデザインはずっと続いていく工程であり、『ゲートウォッチの誓い』のメカニズムをプレイテストしている時には『戦乱のゼンディカー』の要素の多くは確定していて、その確定していたもののなかに「ゼンディカーにいる唯一の巨人はウラモグである」というものがあったのだ(コジレックが地下に潜んでいるというのは後でわかったことなのだ)。

 マジックのセットに関する現実を無視して指を鳴らすだけでいいのなら、最初に無色マナと欠色を投入することでエルドラージの無色テーマを一貫して納得できるものにできていた。また、そのセットで追放をエルドラージの機能として示した上で、第2セットでさらに嚥下と昇華者を投入することができたのだ。

 マナ・コストや起動コストに今後{C}が使われることはどれぐらいありますか? 混成マナぐらいですか、それとも氷雪やファイレクシア・マナのようにフレイバーが合うときだけですか?

 先述の通り、コストに無色マナを含ませて実用的にするためには、そのセットにかなりのサポートが必要になる。一方、混成マナにはそんな必要はない。マジックでは、基本セットのおかげでどのセットでも有色マナは充分に出すことができている。つまり、{C}は混成マナよりも氷雪マナやファイレクシア・マナのほうが近いということになる。

 ここで強調しておきたいのは、ほとんどのセットに数枚は無色マナを出すカードがあるので、無色マナを表す新しいシンボルである{C}は今後も使われていくということである。

 再録メカニズムがこんなに少ないのは何故ですか?(欠色と末裔)

 これは今日の最後の質問にふさわしい。まず最初に、実際にはそれ以外にもいくつかのメカニズムがごく少数ながら再録されているということを指摘しておこう。上陸が、赤のアンコモン《怒りの具象化》と緑のアンコモン《洞察の具象化》の2枚ある。これらのカードは最初サイクルになる予定だったが、もっとも上陸に焦点を当てていた2色だけに残すことになった。このデザインは本当に気に入っていたので、これらをこのセットに入れるようにしたのだ。

 同様に、白の《復興の壁》と青の《竜巻の種父》の2枚のアンコモンのクリーチャーは、実質的に覚醒メカニズムを持っている。このメカニズムはルール上インスタントやソーサリーでしか働かないので、ルール文で書き下す必要があった。

 とはいえ、指摘そのものは非常に的を射ている。この2つのセットの間にはかなりの変化があったのだ。その理由は3つある。

これはゼンディカーを舞台にした5つめのセットである

 これほどのセットで舞台になっている次元は、他にはドミナリアとミラディンとラヴニカしか存在しない。ドミナリアは同じ次元の中でも地域によって別の次元のようなものなので、問題はなかった。フレイバー的に北欧のような大陸、アフリカのような大陸、いくつかの部族が非常に多い大陸、などだ。ミラディンは外敵に襲われ、違う次元に変化した。ラヴニカにはギルドがあり、2色の多色環境があって、どちらも非常に奥深いものだ。ゼンディカーはそれらに比べ、扱えるデザイン空間が狭いのだ。従って、我々は世界が繰り返しにならないよう、通常以上に変化させる必要があった。その帰結として、上陸や戦場に出たときの誘発型能力を持つ土地などの『ゼンディカー』のメカニズムは薄められ、プレイヤーが楽しんでいたメカニズムの劣化版を作るよりも新しい空間を扱うことに決めたのだ。

史上初の、ドラフトでブースター2つが使われる第2セットである

 長い間、第2セットのブースター2つを使ったドラフトの可能性についてプレイヤーから質問を受けていた。2ブロック構造という変化は、その変更をするにふさわしいタイミングに思えたのだ。他への影響もあったし、それについては来週語ることになるが、この質問において重要なところは、ドラフトにおいて2セットが充分違うものだと感じられるようにしたかったというところなのだ。そのための方法の1つが、積極的に新メカニズムを投入するというものだった。

各セットのテーマをエルドラージの各巨人にしようとしていた

 各セットに個性を持たせるための方法の1つが、各セットに異なる巨人を配するというものだった。そのため、我々はメカニズムをそれぞれの巨人に関連づけ、その巨人のセットでしか使わないようにしたのだ。

 こうして、『ゲートウォッチの誓い』はそれまでの第2セットのほとんどよりも大きな変化を示すことになったのだ。

謎の連絡袋

 今日はここまで。幸いにも、いい質問はまだまだ残っているので来週も『ゲートウォッチの誓い』に関する質問に答えていこうと思う。質問を送ってくれた諸君に感謝する。さて、いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。今日の記事を楽しんでくれただろうか。次のセットに関するこぼれ話をするとき、何かしてもらいたい新しいことはあるだろうか。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、その2でお会いしよう。

 その日まで、私の答えが次に『ゲートウォッチの誓い』をプレイするあなたの助けになりますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)