ここ2週かけて、『基本セット2019』に関する諸君からの質問に答えてきた。良い質問が大量にあったので、今回、締めとして3本目の記事を書くことにした。


Q: 一体どうして、今回これほど多くの対策カードを入れた/作ったんですか?

 長期の読者諸君はご存知の通り、私はマジックにおいてカラー・ホイールは最も重要な側面だと考えている。メカニズム的にもフレイバー的にも、中心に位置しているのだ。したがって、初心者にもカラー・ホイールを紹介することは重要である。そのための方法の1つが、色と色との関わりを伝えることである。対策カードは、色が他の色の敵であるということを強調するための良い方法なのだ。

 開発部は長年に渡り、強力な対策カードが存在すべきかどうか、またその量はどうであるべきかという試行錯誤を重ねてきたが、適切なパワー・レベルでいくらか存在すべきだという点では全員が一致している。全く勝てない友人に対抗するためにサイドボードに入れるということを知る人がいるには充分だが、色をメタゲームから叩き出せるほどには強くない程度の強さだ。


Q: 《風景の変容》のような、エターナル・フォーマット向けの再録カードをどのように選びましたか?

 プレイ・デザイン・チームは、ドラフトとスタンダードだけではなく人気のあるフォーマットすべてに目を向けておく責任がある。

 新カードを古いフォーマットに入れる場合、彼らはどのデッキが人気があるか、そして競技レベルにわずかに届かないデッキに足りない要素が何か、フォーマットにおいて対策する必要があるデッキに対する対策カードが何なのかを理論的に判断する。再録カードに関して言うと、彼らは人々がどのカードを望んでいるのかを調べ回り、そしてそれらの中でスタンダードを大混乱させずに存在させられるものがどれかを判断しているのだ。

 チームは再録に関して最初は非常に積極的だが、その後、プレイテストを通して、スタンダードを歪めないカードへと引き戻していくことになる。


Q: 《疎外》はなぜ白なんですか?このカードはフレイバー的にもメカニズム的にも、白の範疇外だと思います。白は弱者を守るものですし、あらゆるパーマネント・タイプへの永続的な回答を持つべきではありません。なぜ(《暗記》の)青じゃないんでしょうか?なぜ(《砂漠の竜巻》の)緑じゃないんでしょうか?

 では、この能力を持つ単色のカードと、1という点数で見たマナ・コストに関する思い込みの話から始めよう。(このカードは古いフォーマットで有用になるように特にデザインされたものである。)このカードで除去できるものは何か。点数で見たマナ・コストが1のパーマネント、すなわちアーティファクトとクリーチャーとエンチャントである。土地は点数で見たマナ・コストを持たず、現時点で点数で見たマナ・コストが1のプレインズウォーカーは存在しない。(ただし、プレインズウォーカーに変身できる1マナのクリーチャーは存在する。)アーティファクトを除去できるのは、白、赤、緑。クリーチャーを除去できるのは、白、黒、赤。エンチャントを除去できるのは、白、緑。この3つすべてを除去できるのは白だけなので、白が選ばれたのだ。

 (《暗記+記憶》の)《暗記》は(超)バウンス効果であり除去ではないので、いい例とは言えない。青の弱点の1つが、パーマネントを除去できないことである。(これの唯一の例外が、パーマネントを他のパーマネントに変えてしまうことである。)《砂漠の竜巻》は緑のカラー・パイから外れたカードの典型例であり、これもいい例ではない。(私がこれを『第5版』から外すために猛烈に戦った話をこちらで読むことができる:リンク先は英語)これは白にとって奇妙な効果なのだろうか。これは確かに曲げではあるが、折れではない。(その色の弱点を埋めてしまうものではない。)通常、私は、明らかに単一色とは言えない効果であれば多色カードに押し出すことにしているが、1マナ呪文ではそれは不可能である。(確かに混成マナを使えば理論上は多色にできるが、それは単色でできる色が2つ必要になるだけであり、問題を複雑化させるだけである。)

 確かに少し奇妙だが、このカードに最もふさわしい色は白なのだ。


Q: 昔のエルダー・ドラゴンのものすごくクールな新版ができたのに、なんで《アクセルロッド・グナーソン》や《Hunding Gjornersen》などの他のレジェンドはいないんだ? 《Torsten Von Ursus》は? 《シヴィトリ・スカーザム》は? もちろん《Pavel Maliki》は一度は検討されたんだろ?

 私はファンとソーシャルメディアで交流するのが好きだ、それは認めるが、時折「《Pavel Maliki》を新しくカードにしてくれ」という大量のメッセージを受け取るのに疲れることがある。発言者が本当に熱心なのか、それとも何らかの義務を課せられているのかはわからない。誰もが知りたいことだろう。そして、我々もそれを伝えたいのだ。

 しかし、問題は、『基本セット2019』に入る過去のキャラクターはすべてがニコル・ボーラスと関係があったということである。《Pavel Maliki》もボーラスも『レジェンド』のカードだったが、我々がいくら調査してもその2人の間に関係は見いだせなかったのだ。もしかしたらどこかの時点でルームメイトだったかもしれないし、ボーラスがパーベルに金を貸していたかも知れない。パーベルが何らかの義務を課せられていた可能性もある。調査を進めれば進めるほど、何の繋がりも見つからなかった。新しく多色の5/3で、2色マナで火吹き能力を持つ新しいカードを作り、それにマーベル・パリーキというよう名前をつけることも提案したが、それが藁を掴んでいるような無駄なものだということは明らかだった。かつて、私は《Pavel Maliki》を再録する方法を見つけることを約束した。残念ながら、その舞台は『基本セット2019』ではなかったのだ。


Q: リスとかそういうニッチな部族のクリーチャーがいないのはなぜ? リスはいつ戻ってくるの?

 我々は通常のエキスパンションでニッチな部族カードを扱うことにかなり積極的になっているので、それを『基本セット2019』で行う強い必要は感じなかった。リスについて言えば、そろそろ黒枠マジックにリスを戻すことを内部的に推進すべきタイミングだと感じている。『Unstable』で大成功したので、できることはわかっている。ただしここで言っておきたいのは、過去15年間、私のしてきたリスを戻そうという活動は成功しているとは言えないということである。


Q: (《排斥する魔道士》、《謎かけ達人スフィンクス》など)『基本セット2019』のバウンス能力を持つクリーチャーが手札に戻せるのは(どのクリーチャーでもではなく)対戦相手のクリーチャーだけです。これはバウンス能力の新しい標準ですか?また、《排斥する魔道士》の能力が「戻してもよい」でないのはなぜですか?

 マジックを卓上とデジタルの両方で作るにあたっての我々の責任の1つが、それぞれにおいて必要なことを認識することである。バウンス(クリーチャーをオーナーの手札に戻すこと)の制限は、デジタルのマジックで必要なことへの対応なのだ。

 対戦相手のクリーチャーをバウンスしようとして、誤って自分のクリーチャーをクリックしてしまうのは非常にいらだたしいことなので、我々は、効果を作るたびに必ず、それが通常と違う目的を果たす割合がどれぐらいかを考えている。その割合が充分高いと考えられれば対象の条件を緩めて自由度を高くするが、『基本セット2019』でそうであったようにカードの使いみちが主に1種類に限られるのであれば、デジタルで扱いやすいようなテンプレートを使うのだ。これはつまり、あるカードがどのクリーチャーでもバウンスできるか対戦相手のものだけに限るかというのは、そのカードが入っているセットによって異なってくるということである。

 「してもよい」テンプレートも、デジタル関連の話である。「してもよい」という場合、デジタルではクリックが1回増えることになる。それがメカニズム的に重要だと考えられるなら、我々は「してもよい」を使い、追加のクリックを受け入れる。しかしそのカードの主な使われ方が、ほぼいつでも使いたいと思うようなものなのであれば、「してもよい」を取り除くことを選んでいるのだ。


Q: なぜコモンのタップイン2色土地は基本土地タイプを持っていないんですか?

 単純に言えば、その10枚は再録カードで、もともと基本土地タイプを持っていなかったからであるが、おそらく本当に聞きたいのはそれらのカードが最初から基本土地タイプを持っていなかった理由だろうと推測する。その答えは、トレーディングカードゲームを作るという中には少し出し惜しみが必要だということである。毎年何百枚もの新カードを作っているので、価値あるリソースを認識し、それらを注意深く提供していくことが重要なのだ。ここで、基本土地のサブタイプを例に取ることにしよう。

 基本土地タイプを持つことは、ほとんどの場合有利な属性になる。(たまに基本土地対策カードも存在するが、土地タイプと有利な相互作用のあるカードのほうが圧倒的に多い。)したがって、プレイヤーが土地につけてほしいと思うものである。パワーレベルに問題がない範囲ですべての土地につけることはでき、そうするとしばらくの間は楽しめるものになることだろう。しかし、問題は、何かを充分にしてしまうと、プレイヤーは待ち望むのをやめ、当たり前のものだと思うようになってしまうことになる。見た時に楽しむのではなく、なかったときに腹を立てるようになるのだ。プレイヤーを喜ばせるリソースだったものが、プレイヤーを怒らせるものになってしまうのである。

 さらに、我々はプレイヤーを楽しませるために使えていたリソースを失ってしまうことになる。我々は多くのカードを作らなければならない。リソースは慎重に扱わなければならないのだ。すべての基本土地がフルアートでない理由はこれである。可能な限り多くのクリーチャー・タイプを各カードに持たせない理由はこれである。私がプレインズウォーカーの進化をゆっくりにしている理由がこれである。我々の仕事は諸君全員を楽しませることであり、しばしばそれには諸君が好きだとわかっているものを出し惜しみすることも含まれるのだ。


Q: シルバーバレット/サイドボードのカードがこのセットにはかなり多いように思います。今後、基本セットでは構築向けの対策カードが印刷されるようになるんですか?

 今回の『基本セット2019』の一問一答記事の中で、何度も繰り返している話題だ。我々は、この基本セットで実験をしている。基本セットを復活させたのは、過去のモデルでは不可能だったことの中で基本セットを用いてできることがいろいろと存在すると思われたからである。シルバーバレット/サイドボードのカードも、その問題の一面なのだ。

 基本セットで特にうまくいくように思えた理由は、そのニッチさから、対策カードはスタンダードを歪めることなく他のフォーマットで有用になるからである。我々は『基本セット2019』のあらゆるデータを検証し、そしてそれを将来の基本セットに適用していくことになる。ところで、現時点での仮データは上々である。


Q: 《錆色翼の隼》の飛行には注釈文がないのに、《カルガの竜騎兵》の飛行に注釈文があるのはなぜですか?

 ちょっとした秘訣を教えよう。コレクター番号を見るのだ。セットの枚数よりも大きい数であれば、それはプレインズウォーカーデッキだけに存在するカードであることがわかる。ここでこの話をするのは、《カルガの竜騎兵》がプレインズウォーカーデッキだけのカードであり、《錆色翼の隼》はそうではない、つまり、アジャニのデッキにも入っているが、『基本セット2019』の本体にも入っているということがわかるからである。

 我々は、プレインズウォーカーデッキでは飛行に解説を付け、本体では付けないことに決めた。《錆色翼の隼》は両方に存在しているが、同じカードに複数のバージョンを存在させたくはなかったので(コレクターが、同一セット内のほぼ同じだがわずかに違うカードを集めなければならないようにはしたくなかったのだ)、《錆色翼の隼》の飛行には解説をつけなかったのだ。これは確かに少し奇妙ではあるが、新規プレイヤーが注釈文を目にする機会があるほうが、まったくその機会がないよりはいいと判断したのである。


Q: 単色であることによって有利になる他のカードはこのセットに入っていないのに、なぜ《ブランチウッドの鎧》は再録されたんですか?

 カードが最初サイクルの一部としてデザインされたからと言って、サイクル全体で再録されなければならないということはない。緑が他の色よりも森を参照するカードが多い理由については、それは我々がいつもバランスを取るようなものではないということに尽きる。色ごとに、他の色よりも得意な分野があることには問題ないのだ。特に《ブランチウッドの鎧》が再録されたのは、経験上、これが初心者に大人気のカードであり、基本セットの重要な要素としてプレイしてすぐに「うぉー」と言うような瞬間を作り出せるようなカードを大量に入れるということがある。


Q: 『ドミナリア』の第2セットから『基本セット2019』に持ち越されたものはありますか?

 ない。その理由としては、セットとして『Salad』はデザインされたことがないからである。『Soup』(『ドミナリア』)では、『Salad』用のデザイン空間を温存し、メカニズムを作り、いくらかのカードを『Salad』に回したが、基本セットの復活という決定は『Salad』のセットデザインが始まるより前だったのだ。(展望デザインは当時セット単位ではなくブロック全体のものとして行われていた。)『Salad』のために温存していたものの中には、後にセットデザイン中に『ドミナリア』に加えられたものもあり、その中でも最大のものは「パックに1枚の伝説のクリーチャー」というアイデアであった。


Q: スリヴァーはどこ?

 我々は意図的に、新しい基本セットでは古いメカニズムを毎回再録することはしないことに決めた。スリヴァーは、厳密に言えばキーワードではないが、かなりの部分がキーワードのように働くものである。実際、『基本セット2014』では再録メカニズムとしてスリヴァーを復活させていた。スリヴァーを再訪することはあるだろうが、おそらくそれは基本セットではないだろう。


Q: このセットには白のドワーフがいます。今後も居続けるんでしょうか?

 このカードのデザインは非常にカラデシュ的であり、カラデシュでは、白にドワーフがいるので、このカードはドワーフであるとされた。これについてはそれ以上のことはわからない。白のドワーフの将来がどうなるのか、正直なところわからない。これへの反応は道半ばといったところなので、未来がどうなるかは確信できないのだ。


Q: なぜ伝説のクリーチャーが単色なんですか? イゼット(や、ジェスカイ)色の《練達飛行機械職人、サイ》とか、グルール/セレズニア色の《カル・シスマの恐怖、殺し爪》はずっとクールでしょうし、もっと重要なことに、統率者として優秀だったと思います。

 理由は2つある。

  1. 伝説のクリーチャーのユーザーは、統率者戦(やブロール)のプレイヤー以外にもずっと多くいる。多くの伝説のクリーチャーは統率者戦を意識してデザインされているが、そうでないものもいるのだ。
  2. 統率者戦(やブロール)においても、多くのプレイヤーが単色の統率者を楽しんでプレイしている。よく言う通り、制限は想像の母であり、使いこなすには創造力を働かせる必要があるような統率者を使うのは楽しいものなのだ。

またツイートする日まで

 さて、今回も本日はここまでの時間になった。いつもの通り、今日の記事や回答の1つ1つ、あるいは『基本セット2019』そのものについて意見があれば、メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、本年のデザイン演説でお会いしよう。

 その日まで、「今度の『基本セット2019』のドラフトはいつ?」というような質問があなたとともにありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)