先週、『異界月』に関する質問に答える新しい「こぼれ話」を始めた。今週も質問に答えていこう。

 また新しいのが来るのかもしれませんが、他の狼男を本当に意識した伝説の狼男のことは検討しましたか?

 この仕事の一番難しいところの1つだが、我々がセットを作るとき、必ず抜けがあるのだ。プレイヤーが望んでいても我々が正しく予想できなかったものは作らないことになる。この場合、○○がないという諸君からの激しい批判を受けることになる。我々はその反響を受けて、それをする次の機会を探すのだ。

 中でも難しいのは、プレイヤーが望んでいること、プレイヤーが言ってくることは1つでもなければ同じでもないということである。この場合で言えば、強いメッセージは「プレイヤーは伝説の狼男を望んでいる」というものだった。その理由は、イニストラードに存在する他の部族それぞれに我々は既に伝説のクリーチャーを作っていたにもかかわらず、狼男には作っていなかったからである。つまり、これは完全性の欠如となっていたのだ。

 我々はそのメッセージをはっきり受け取ったが、イニストラードを再訪するまではできることはあまりなかった。我々が狼男を扱うことはそう多くないし、両面カードを扱うのは滅多にないのだ。伝説の両面狼男(プレイヤーが望んでいると思われたもの)を作りたければ、待つしかなかったのだ。

 そして時季が訪れ、我々は伝説の狼男が必要だとわかっていた。必要なのは、それが一体何なのかを把握することだった。我々が考えていたのは次のような要素だった。

両面カードである

 狼男が特別なのは2つの異なる状態を取りうるからである。したがって、伝説の狼男もそうでなくてはならない。

赤緑である

 イニストラードの狼男は赤と緑に存在するので、伝説の狼男はその両方の色でなくてはならない。

多人数戦でプレイできる

 伝説のクリーチャーを求める声は多いが、その中でも統率者戦のプレイヤーからの声が多い。つまり、このカードが多人数戦で使えるようにすべきである。

 我々が考慮しなかったのは、狼男部族デッキをプレイするのに伝説の狼男を使いたいというプレイヤーのことだった。狼男デッキに入れてもうまくプレイできるように作ったが、より広く使えて柔軟性が高くなるようにしようとしたのだ。加えて、我々は「ロード」(特定の部族のクリーチャーを強化するもの)をデッキに4枚入れ、場合によっては複数枚同時に出せるよう、伝説のクリーチャーでないようにしていたのだ。

 それが、伝説の狼男が狼男を扱っていない理由である。不満の声を上げた諸君は自分がなぜそのカードを求めているのかわかっているので、その望むものが提供されなかったら自分の声が聞かれなかったのだと感じるのだ。マジックには多くの変動する要素があり、我々は様々な要素に注意を向けている。我々は諸君の声に耳を傾け、諸君の望むものを提供しようとしている。しかし、諸君にとって明々白々なものでも、我々にとってもそうだとは限らないのだ。

 なぜ『イニストラードを覆う影』ブロックでは、プレインズウォーカーの標準の数を6にしたんですか?

 タミヨウがいたからだ。彼女は物語上でかなり重要な役割を果たしていたのでプレインズウォーカー・カードにしなければプレイヤーが不満に思うだろうと思われたが、といって他の、さらに重要な役割を持ったプレインズウォーカーをカードにしなくするほどの重要性はなかったのだ。

 実際、我々は、ジェイス、ソリン、ナヒリ、リリアナ、タミヨウの5人で5色を埋められるかどうか把握するためにいくらかの時間を費やした。ソリンを黒緑、タミヨウを緑青、リリアナを黒赤にできうる理由を説明して、周囲を納得させようとしたこともある。しかし、最終的に、色のバランスを保ちながらそれぞれの人物に合ったものにすることはできなかったのだ。

 私が、「ブロック内プレインズウォーカー5人」ルールに触れるとき、必ず「標準」という言い方をする。これは、マジックが自らの規則を破るゲームだからであり、ものごとを時折変化させることが認められているからである。今回起こったのはまさにこれだ。5人では問題があったので、6人にする方法を探したのだ。

 《墓を掻き回すもの》はどこですか? 「マッドネス・コストが支払われていた場合」節が存在する未来に来たのに。

 新セットを作るたびに、誰かが『未来予知』を見なおして、採用できるミライシフト・カードがあるかどうかを確認する。なぜ《墓を掻き回すもの》が採用されなかったのか、私は正確には知らないが、おそらくデベロップ的な判断だろうと思われる。つまり、スタンダードには少し強すぎたに違いない。ただしこれは私の推測であり、正しいかどうかはわからない。

 みんながエムラクールだとすぐに気づいたことをどう思いましたか?

 我々が直面している問題の1つが、プレイヤーのストーリーに対する態度の幅である。1から10の段階に分けるとすると、1がストーリーを知ろうともしないプレイヤーで、10はあらゆる手を尽くしてストーリーの欠片までもすくい取ろうとするプレイヤーだ。

 長年に渡り、我々はこの段階の上の方に向けては提供してきていた。一方で、小説その他の余地を残すため、ストーリー上の出来事をカードで読み取れるようにはしなかった。その結果、ユーザーのごく一部だけがストーリーの全容を把握するようになっていたのだ。最近の大きな変更の1つが、ストーリーにあまり興味を持っていないプレイヤーもストーリーに気づくようにするというものである。これは、ストーリーに気づいたプレイヤーの多くはストーリーを楽しみ、そしてさらに意識するようになってくれるということがわかってきたからである。

 もし我々がこの幅の上端に位置するプレイヤーを驚かせようと謎をデザインしていたら、下端に位置するプレイヤーたちは何が起こっているのかわからないままになる。そこで、我々は少し違うことを試みた。上端層に向けては詳細に集中し、ストーリーの基本は誰にでもわかるようにしたのである。努力して知ろうとすれば、プレイヤーは、なぜ、どのように、だれが、どこで、といった詳細すべてを知ることができる。一方、ストーリーの基本である、なに、という部分についてはすべての人に知ってもらいたいことなのだ。

 『イニストラードを覆う影』は、その世界の住人が狂気に落ちていくという謎の物語だった。何がその理由なのか、というところで、それほど意識して情報を求めないプレイヤーにも、エムラクールが原因だと知ってほしかったのだ。一方で、意識して情報を求めるプレイヤーには、エムラクールを呼び込んだのがナヒリであること、そして彼女がかつてソリンと深い関係にあったことを前提とした彼女の動機すべてを理解してもらいたかったのだ。

 ストーリーには、明白な部分と繊細な部分が同居しなければならない。基本的な筋書きは、すべてのユーザーが把握できる明白な部分にしたい。一方で、各登場人物がなぜそうしたのかという部分、そしてそこに到るまでの経緯を繊細な部分にしたいのだ。

 エムラクールがイニストラードに存在するというのは明白な部分だ。すべての諸君に知ってもらいたい部分だ。したがって、情報を集めるプレイヤーにはすぐに気づかれることになる。しかし、ストーリーを理解するプレイヤーが増えることは、ストーリーから得られるものがさらに大きく、さらにクールになるので、ストーリーにとっても良いことなのである。

 2セット構造で小型セットの自由度は高まりましたか? デザインは全体に興味深くなっていると思います。

 いくつかの意味で、自由度は上がっている。

  • メカニズムを拡張する必要が少なくなった。これによって使えるものが増えている。
  • 失敗しても残る期間が短くなっているので、リスクを取ることが簡単になった。
  • 切り替えが速くなったので、我々は同じテーマを繰り返すのを避けるために新しい空間を探す必要が生じた。

 つまり、私は、2セット構造は自由度を多少高める助けになっていると確信している。諸君は本末を逆に捉えているかもしれないが、我々が自由度を高めた大きな理由は、3セット・ブロックから2セット・ブロックへの移行を考えることができるようになった、考え方の変化なのだ。マジックが成長し、進化していく中で、デザインやデベロップはペースを守ったままで、マジックが新鮮であり続けられるようにするための新しい方法を探し続けなければならない。そして、それこそが諸君に見えているものを導いた力なのだ。

 《ヴェールのリリアナ》の再録は検討しましたか?

 議論はされたが、いくつかの問題があった。最大の問題は、リリアナがストーリー上で屍術師として重要な役割を果たしているということだった。彼女の破壊的な一面を表したカードを再録しても、今回のストーリーを補強することにはならない。2つ目に、そのカードはスタンダードを歪めるし、デベロッパーはその歪みの結果の始末をしなければならなくなることを好まなかったのだろう。3つ目に、リリアナはこのセットの看板で(マーケティングでも登場しているし、パッケージにも描かれている)、その注目を集めているところには古いものでなく新しいものを置きたかったのだ。

 これほど人気のある次元のイニストラードをエルドラージに侵食させ、長期的に再利用できなくしたことについてどう思いますか?

 世界は回復するものだ。森が焼け落ちることはあるが、その焼け跡には新しい森が育つものだ。世界を再訪するときには、その世界で以前に起こったことからの繋がりを描きはするが、世界は必ずその本来の姿に戻っていくのだ。確かに、新たなるファイレクシアのような例外はあるが、我々が世界を作るときにはユーザーがその世界の本来の姿、中核となる要素に惚れ込むようにしている。既に述べたとおり、私はゼンディカーを再訪したときの最大の問題は、ゼンディカーを愛される世界にした中核(冒険の世界であるということ)に充分焦点を当てられなかったことだと考えているのだ。

 飽和してしまうことは怖くありませんか? 「街路レベル」のカード・セットを作ることはありませんか? セットは壮大でなければならないのでしょうか?

 質問しているのは、公式の「Magic Story」で取り上げているような話のことだろう。些細な出来事の起こる瞬間を見ることはもちろんできるが、セットは、例えるなら超大作映画のようなものなのだ。「Avengers 3」のメインテーマが、アベンジャーズによるバーベキュー大会やパントマイム大会になることはないだろう。すべての脅威が次元を脅かすものでなければならないという意味ではないが、しかし壮大な規模でなければならないのだ。我々は登場人物の行動がセット内の多くのカードで描かれるような大規模なストーリーを描くのであり、「ジェイスがコーヒーを飲む世界」のブロックはあり得ないと考えている。

 ナヒリはどう見ても狂っていて自己中心的で、赤単色っぽい人物に見えますが、なぜ白赤なのでしょう? 白の部分は残っていますか?

 ナヒリは私利私欲だけを動機にしているわけではない。彼女は、彼女の世界がソリンによって危機に瀕していると感じている。少なくとも彼女の動機の一部は、多元宇宙全体にとって最善だと彼女が考えていることである。また、彼女が彼女の計画を実現させる手段は、いかにも白である。彼女は注意深く準備し、計画していた。最初に思いついたことをやったのではなく、彼女は達成のために必要なことを慎重にやり抜いたのだ。

 新しい狼男のための十分なデザイン空間は残っていると思いますか?

 具体的に何が聞きたいかによって答えは変わる。変身したり戻ったりする「狼男メカニズム」を持った両面カードのことなら、我々はそのデザイン空間のかなりの部分を使った。特にコモンで使えるような、単純でエレガントなデザイン空間はもうそれほど残っていない。しかし、両面でない狼男で狼男らしいカードという話であれば、まだほとんど手付かずのデザイン空間が充分残っている。

 ストーリーやプレインズウォーカーに注目を集める中で、(多くの候補の中から)どのプレインズウォーカーを登場させるかを決めるのはどれぐらい難しいですか?

 タミヨウを作ることについての話でも、その緊張はわかるだろう。我々はストーリーの中心をプレインズウォーカーに寄せようとしており、プレインズウォーカー・カードの枠よりも多くのプレインズウォーカーがストーリーに関わってくることになる。つまり、ストーリーに登場したからといってカードになるという保証はないのだ。したがって、多くの難しい選択が必要になってくる。また、色のバランスを考慮しなければならないので、最初に選んだ候補ではうまく行かず、もう一度考え直さなければならないこともよくあるのだ。

 合体はずっと2枚だけでしたか、それともデザイン中にはもっと多い、合体ロボ的なデザインがあったんですか?

 合体メカニズムを紹介したプレビュー記事の中で、このメカニズムの大元になったのは『Unglued』の《B.F.M. (Big Furry Monster) 》だと語った。『Unglued 2』を作った時、私は《B.F.M. (Big Furry Monster) 》が『Unglued』の中でも最も人気の高いカードだとわかっていたので、3枚以上のカードを結合させることを試みた。胴体、頭部、腕部、脚部の6枚のカードからなる合体ロボ的なクリーチャーも試したのだ。単独でも存在できるが、胴体が戦場にあれば、頭や腕や脚をつけることができるのだ。

 プレイテストの結果、それは滅多に起こらないということがわかった。確か一度は胴体に頭と脚1本がついたことがあったが、それだけだったので、私はこのアイデアから離れたのだ。我々が合体を弄り始めたときに、ケンも3枚による合体クリーチャーを試していたと思う。うまく行かなかったので、ケンはすぐに諦めたのだ。

 振り返ってみて、合体はイニストラードの変身カードと両方を詰め込まなければならないセットで導入しただけの価値はありましたか?

 両面カードがある世界でしか合体は存在できないので、どの世界を舞台にしたとしても同じ問題に直面していただろう。なぜ両面カードすべてが合体カードのブロックはできないのかというと、合体カードを増やして実験してみた結果、リミテッドではうまく行かず、コモンの合体カードを大量に入れたいとは考えなかったのだ。

2つ終わってあと1つ

 ふう。多くの質問を頂いた。本当に多かったので、まだそのすべてに答えられていないのだ。とはいえ、本日はここまで、とは言っていいだろう。いつもの通り、今回の記事や『異界月』についての諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、「こぼれ話:『異界月』」の最終回、その3でお会いしよう。

 その日まで、あなたが答えを求め続けますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)