各セットごとに、私は1回か2回、新セットに関する諸君からの質問に答える一問一答記事を書いている。この記事を書いている現時点で、『イクサランの相克』のカードイメージギャラリーが完全に公開されており、つまり諸君からの質問に答えるべき時期がやってきたことになる。

 私がツイートしたのはこんな内容だった。

現在、『イクサランの相克』の一問一答記事を書いている。この新セットに関する質問があれば、1ツイートで送ってくれたまえ。#WotCStaff

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えようと思うが、以下のような理由によって答えられないこともある。

  • 文章量の都合で、答えられる質問の数には限界がある。
  • すでに同じ質問に答えている場合がある。最初に来た質問に答えるのが通例である。
  • 私が答えを知らない質問もあるし、正しく答える資格がないと思われる質問もある。
  • 将来のセットのネタバレになるなど、さまざまな理由で答えることができない話題もある。

 伝えるべきことは伝えたので、さっそく質問に入るとしよう。


『イクサラン』と同じカードを入れた理由は何ですか?(とてもわかりやすい《軍団の征服者》は別として。)それらのアートを変えるという議論はありましたか?

 大小大小セットというモデルから大大大基本セットというモデルに変更した理由になったのと同じデータから、小小大のドラフトが大大大のドラフトに比べて楽しくない理由の1つが、同じカードを入れないことによって小型セットでは弱いバージョンを使わなければならなくなっていたことだということがわかった。本質的に、第1セットでは特定の効果の最高のバージョンを作るものであり、その次のセットでは次善のバージョンを作ることになるのだ。質的な差はわずかであることもあるが、かなりの差が出ることもしばしばある。

 『イクサランの相克』では、我々は、うまい実装ができていて別バージョンはかなり劣化するという危惧があったら、その元のカードを再録するということを試すことにした。これはそう多い枚数でもなく、またコモンでしかしないということを付け加えておこう。もし小型セットを作リ続けていたなら、これは今後の一般的な手法になっていたことだろう。

 アートの変更についてだが、高レベルのイベントやその中継において、複数のアートがあるのは混乱を招くということに気がついたので、スタンダードのセットで複数のアートを使うことはなくなるだろう。


雷群れの渡り》を《龍詞の咆哮》のような書式にすることはできなかったんですか? 恐竜をコントロールしているだけで1マナ減らすこようにしなかったのはなぜですか?

 このサイクルは『ローウィン』のサイクルを元にしており、《銀エラの達人》は再録されている。サイクル全体が同じように働くようにしたいと考え、また《銀エラの達人》は再録なので変更できないことから、手札から公開するコストだけにしたのだ。さらに、《雷群れの渡り》が恐竜を戦場に出していることを参照するようにしてもコストは変わらないかもしれないが、他のカードの多くはその能力をつけることによってコストを重くする必要があったことだろう。


敵対色のマナ基盤を入れなかったのは意図的なものですか? マーフォークや吸血鬼といった素晴らしい部族デッキが、マナ問題で上手く回らないんじゃないかという声が多いです。

 それは懸案の問題だ。プレイヤーがさまざまな色の組み合わせをプレイできるよう、スタンダードには充分なマナ基盤が必要だ。しかし、マナ基盤があまりにも多ければ色の意味がなくなり、誰もが同じような強力なカードをプレイするだけになってしまう。そのため、開発部はスタンダード環境にある、多色を出せる土地の枚数を制限しなければならないのだ。つまり、土地は注意深く時間をかけて小出しにしなければならないということである。

 この結果として、各セットごとには差はあるけれども、いつどこでさまざまな土地を作るかはスタンダード全体の観点に基づいているのだ。友好色と敵対色の全体としてのバランスを保とうとしているので、どのサイクルがどのブロックに入るかはそのセット単体ではなく、より広い観点から決定されることがあるのである。例えば、『イニストラード』は友好色の部族をテーマとしていたが、そのセットには敵対色の2色土地のサイクルがあったのだ。


『イクサランの相克』にはさまざまな略奪品がありましたが、なぜ新しい青黒赤の海賊の統率者はいなかったんですか? 他の部族の連中には新しいボスがいるのに。#MTGRIX

 マジックのセットをデザインする場合、さまざまなところからのさまざまな観点を扱わなければならない。デザインの観点以外にも、アートの観点、ストーリーの観点、イベントの観点、デジタルの観点、マーケティングの観点、ブランドの観点、その他多くの社内的観点があるのだ。さらに、外部の観点も存在する。特定のフォーマットに必要なもの、特定の色に必要なもの、特定の部族に必要なもの、特定のアーキタイプに必要なものがある。このリストはまだまだ続くのだ。20個、30個、40個のボールを同時に投げ上げることになり、場合によってはいくつかのボールを取り落とすことになる。

 そのボールを一番重要なものだと考えているプレイヤーもいる。このボールはなぜ落とされたのか。代わりに、他のボールを落とすことはできなかったのか。しかし、舞台裏では、その1個を取り落としたのは、それを防ぐために他の変更をすれば他のボールを大量に取り落とすことにつながるため、それが最善の妥協点だったのかもしれないのだ。意識しているものが取り落とされた場合に苛立つのはわかるが、舞台裏で働いている一員として言うと、単にすべての要求を満たすことはできないのだ。

 我々がボールを取り落とす時に意識することにしているものが2つある。

 1つ目が、同じ種類のプレイヤーを何度も失望させないよう、同じボールを落とし続けないこと。2つ目が、取り落としたボールを拾い上げられるような将来の場所(サプリメント・セットなど)に目を光らせることである。

 一言で言うと、これは取り落とされたボールの1つであり、我々はそれを認識している。そして、今後それを軽減できるような場所を探しているのだ。


部族のアーキタイプに焦点を当てている中で、開発部はドラフト・フォーマットの革新の余地をどうやって保っていますか?

 どのブロックにもいくらかの部族要素があり、『イクサラン』のような部族ブロックが頻繁に存在するので、私は部族をそれほど持ち上げているとは思っていない。とはいえ、革新を見つけるための鍵の1つは、これまで当たり前にやっていたことを問い直すことである。これは部族要素が多いセットであっても、どのセットでもありうることだ。

 『イクサラン』ブロックを例に取ってみよう。これまで、陣営というものを扱う場合には、それらを均等な大きさ、均等な色の組み合わせで作ってきた。『イクサラン』ブロックでは、陣営のうち2つを大きく色が多くするということを試した。これによって、ドラフト環境では一部の部族で比較的多くの組み合わせができることになった。これは部族ブロックにおける革新であり、すなわち部族と革新は相容れないものではないということなのだ。


アゾールの門口》をクリーチャーにして、「人間」のクリーチャー・タイプを持たせて、《月霧》を使って変身させることはできますか?

 ひどい手間が掛かっているが、もしその通りにやったとしたら《月霧》を使って《アゾールの門口》(などの『イクサラン』ブロックの両面土地)を変身させることは可能である。


青や黒の伝説の恐竜を作った理由を教えてください。

 セットを手がける場合、マジック開発部以外のウィザーズ社員に内部調査を行ない、カジュアルな人々がこのセットで何に興奮するのかを調べることにしている。『イクサラン』では、調査結果は非常にはっきりしていた。恐竜だ! そこで、ベン率いるデザイン・チームは、『イクサランの相克』ではそれをもう少し広げることに決めたのだ。

 ドラゴンのセットでドラゴンのサイクルを作っるのと同じように(通常、ドラゴンは赤の象徴的クリーチャーである)、彼らは恐竜のサイクルを作ったのである。このサイクルの恐竜をエルダー・恐竜にするというアイデアは、このサイクルがデザインされた後でできたものだと思う。

 こうすることで、青や黒をプレイするカジュアルなファンも少なくとも1枚は恐竜を使うことができるようになるのだ。本質的には、我々はカジュアルなファンに恐竜をプレゼントしたということになる。


胆力の道》/《制覇の塔、メッツァーリ》は、「部族」というキーワードや攻撃クリーチャーを無作為に破壊するといった、ボロスの新しく興味深いテーマをいくつか含んでいます。今後の赤白のカードにこういった(あるいはそれ以外の)系統の、戦闘に関係しないデザインが増えることを期待していいですか?

 私のところには、多くのメッセージが届いている。その中でもよく送られてくるものの1つが、赤白にただアグロに殴るだけでない戦略を増やしてほしいというものだ。その意見は届いていて、我々は時間をかけて作ってきた。もちろん、アグロに殴ることを楽しんでいる赤白プレイヤーは多いので、それらのカードも作り続けていく。しかし、我々は状況をいくらか変えようとしているのだ。


血染めの太陽》、《沈黙の墓石》、伝説のカードを見て、セットをデザインするときにスタンダード以外のフォーマットのためのカードをどれぐらいデザインしようとするのか気になりました。

 スタンダードよりも広い競技フォーマット向けのカードを、スタンダードを破壊しないようにして作るのは難しいが、我々は時々作っている。大抵の場合、その方法は次のどちらかである。

 1つ目が、スタンダード向きのカードを作った後で、わずかな調整を加える必要があることはあるが、他のフォーマットでも上手く働くと気づく場合。2つ目が、スタンダードで問題にならない方法で他の環境向きにできる領域が存在し、我々がその範囲でデザインする場合だ。

 質問への答えは、「可能なとき」。つまりほとんどのセットでは2~3枚になるが、セットのテーマが広いフォーマットとシナジーを持つ場合にはもっと多くなることもある。


なぜ両面土地の《セラの聖域》は作らなかったんですか?

 もちろん、《ガイアの揺籃の地》や《トレイリアのアカデミー》になる両面カードを作っていたときに、《セラの聖域》についても検討した。(《ガイアの揺籃の地》、《トレイリアのアカデミー》、《セラの聖域》は『ウルザズ・サーガ』の土地5枚のサイクルの一部だが、この3枚は同じように働き、ほかの2枚はそうではなかったので、3枚サイクルだと見られることがある。)

 『イクサラン』ブロック(そしてスタンダード)でエンチャント・テーマを濃くすることはできず、《セラの聖域》が必要とするのは濃いエンチャント・テーマなので、それを作るのは止めたのだ。『イクサラン』は部族セットなのでクリーチャーを参照する《ガイアの揺籃の地》は問題なく、海賊は装備品や機体、宝物・トークンといったアーティファクト関連のテーマを持つので、《トレイリアのアカデミー》も上手くはまるのである。そのため、《セラの聖域》的な両面カードは存在しない。


色が不均等な陣営は成功したと思いますか? 次に試すときに向けて得られた教訓は何ですか?

 それについて、部分的成功だと言おう。それがこのセットに大きな印象をもたらしたことは本当に好きだし、これによって通常の陣営セットでできなかったデザイン空間を掘り下げることもできた。より多くの恐竜や海賊をプレイヤーの手に渡らせることができ、ドラフトが歪まないようにすることもできた(例えば、初期のプレイテストで、あまりにも多くのプレイヤーが恐竜を求めたのだ)。

 しかし、部分的成功にとどまった理由は、現在セット・デザインと呼んでいる部門においてかなりの戦術的問題を引き起こしたからである。我々のシステムは均等であることを前提としているので、システムが均等でないと問題が起こり始めるのだ。全ての問題に素晴らしい解決策が見つかったわけではないので、我々がこれをもう一度やるなら(おそらくやるだろう)、問題解決をしていくことになるだろう。

 他の考え方はこうだ。

  • 展望デザイン ― すごく興奮している。これはブロックの構築において多くの新デザイン空間の可能性を広げている。
  • セット・デザイン ― 躊躇している。必要な仕事がひどく増えることになる。
  • プレイ・デザイン ― わからない。『イクサラン』の時点ではプレイ・デザイン・チームは存在しておらず、派生する影響についてすべて把握できているわけではない。

なぜ「竜骨曳き/keelhaul」という除去呪文がないんですか?

 『イクサラン』のデザイン中に作った。他にもっと上手く働く除去呪文があったので(ちなみに《板歩きの刑》だ)、ボツになったのだ。『テーロス』にヘラクレス風のキャラクターがいないのも同じような理由である。クリエイティブ・チームが、除去呪文の中のどれかを竜骨曳きにしようとしたかどうかは、私は知らない。


すべての部族が攻撃することに注目するようにしたのはなぜですか?

 すべての部族がその部族を勝利させようとするようにしたのはなぜか。

 我々は各部族の速度や戦略を変えようとしたが、部族戦略はデッキにその部族を大量に入れるようにするものなので、攻撃することをデッキの要素から外すことは難しいのだ。


部族サイクルを作る場合、サイクルが5枚でないこと以外に不満の声はありましたか?

 それは我々に勝ち目のない状況だったのだ。4枚サイクルにすると、これまで伝統的にやってきた5色サイクルから外れることを嫌う人々が不満を言うことになる。しかし、5枚サイクルにすると、このセットの4陣営というテーマに合わないと感じるプレイヤーが不満を言うことになる。本質的には、どちらにも美学的理由が存在し、そのそれぞれを求めるユーザーが存在するということなのだ。

 普通と違うことをできる機会があってそれを楽しむプレイヤーが充分にいることから、多くのセットを作ってそれぞれの雰囲気を変えたい我々はそちらに舵を切った、つまり4枚サイクルにすることを選んだ。

今日の質問はここまで

 文字数が限界なので、今日の質問はここまでだ。いつもの通り、今日の記事やそれぞれの回答、あるいは『イクサランの相克』そのものについての感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、グレート・デザイナー・サーチ3の記述問題について解説する日にお会いしよう。

 その日まで、『イクサランの相克』があなたに質問と回答を提供してくれますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)