諸君からの『イニストラードを覆う影』に関する質問に答える、「こぼれ話」の時間だ。私がツイッターに(@maro254)投稿した質問は次の通り。

 現在、『イニストラードを覆う影』に関する「こぼれ話」記事を準備している。この新セットに関して、なにか質問があるだろうか。単一ツイートで質問を送ってくれたまえ。

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えたいとは思うが、質問に答えられない場合もある。次のような場合だ。

  • 文字数の制限から、答えられる質問の数には限界がある。
  • すでに同じ質問がされていた場合。基本的には、最初に読んだ質問に答えることにしている。
  • 私が答えを知らない、あるいは答えるのに私はふさわしくないと思った場合。
  • 様々な理由から、答えることができない話題が存在する。例えば将来のセットのネタバレになるなど。

 できるだけ多くの質問に答えるために、今回の「こぼれ話」は2部作にした。

 それでは、さっそく質問に行こう。

 『イニストラードを覆う影』のデザインに際して、エターナル・フォーマットにはどの程度注意を払いましたか?

 マジックのセットを作る上での課題の1つが、カードを作る際に様々なフォーマットが存在するということである。プレイヤーはそれぞれ違うものを求めるものなので、我々は全てのセットにほとんどのプレイヤーに訴求する何かを入れるように尽力している。我々が主に時間をかけているのは、シールド、ブースタードラフト、スタンダードである。シールドに注目しているのは、それがプレリリースで用いられるフォーマットなので、セットの第一印象を良くするためだ。ブースタードラフトに注目しているのは、それがリミテッドでもっともプレイされているフォーマットであり、多くのプレイヤーが(特に「Magic Online」で)プレイしているからである。スタンダードに注目しているのは、それがもっとも人気のある構築フォーマットだからである。

 他のフォーマットも知っているし、セットのデザインやデベロップの間、それらについてもカード個別単位ではもちろん考慮している。例えば、伝説のカードをデザインする場合、我々はそれが統率者戦に及ぼす影響について考えることが多い(ただし、伝説のクリーチャーのファンでも統率者戦をプレイしない人もいるので、伝説のクリーチャーだからといって必ずそのフォーマット用に調整されているわけではない)。我々は、どのセットにも古いフォーマットでプレイされる機会のあるカードを入れるようにしようとしている。カード・プールが広く(そして古く)なればなるほど、これは難しいことになる。

 一方で、我々がしていないのは、上述の3つのフォーマット以外でのプレイテストである。プレイテスターの数にもプレイテスト時間にも限界があるので、我々は労力を集中させる必要があるのだ。古いフォーマットには禁止リスト(ヴィンテージには制限リストも)が存在し、それらのフォーマットに何か問題があったときには調整する道具として使うことができる。つまり、『イニストラードを覆う影』のデザイン中にエターナル・フォーマットにどれだけ注意を払ったか、という問いへの答えは、少しは払ったが、そんなに多くはない、ということになる。

 他の有名な怪物をイニストラードに導入する計画はありましたか? サスカッチやミイラ男などです。

 試してみたが印刷には到らなかった怪物はもちろん存在する。確か、『イニストラード』『闇の隆盛』『イニストラードを覆う影』の全てで、「大アマゾンの半魚人/Creature from the Black Lagoon」を元ネタにしたカードがデザインされていたのがその一例である。ただし、これには2つの問題があった。1つはメカニズム的な、もう1つはクリエイティブ的な問題である。

 メカニズム的には、『イニストラード』ブロック、『イニストラードを覆う影』ブロックの両方とも部族をテーマとしており、我々は人間、スピリット、吸血鬼、狼男、ゾンビを軸にしたデッキを組めるように仕向けようとしているのだ。そのため、限られたクリーチャー・タイプのクリーチャーを十分な数入れなければならない。そうなると、他の怪物を入れる余裕はなくなっていく。もちろん、数体なら入れることはできるし、実際に楽しい部族外の怪物を作ったと思うが、場所には限りがある。

 もう1つの問題は、クリエイティブ・チームが統一感のある世界を作ることに尽力していて、1枚きりの怪物が大量に存在するのはその邪魔になるというものだ。「大アマゾンの半魚人」のカードを作るのは非常に簡単だが、その種のクリーチャーが存在することが作り上げられた世界で筋が通るかという大きな問題への答えにはならないのだ。

 なぜクマ男はいないんですか? イニストラードの住人は熊になることはできないんですか?

 我々はイニストラードの獣人は人狼だけにすることに決めている。このセットはゴシック・ホラーを再現することをテーマにしており、その元ネタで出てくるのは主に狼男なのだ。何年も前、我々は、『オデッセイ』ブロックの舞台となったドミナリアで、多くの種類の獣人化を掘り進めることにした(スレッショルド・メカニズムに対応させたフレイバーの1つだったのだ)。そして、そのためにあのブロックには様々な獣人クリーチャーが存在したのである。

 『オデッセイ』ブロック、中でも『トーメント』からの教訓は、『イニストラードを覆う影』にどれぐらい活かされていますか?

 『オデッセイ』ブロックは、私が初めて墓地をデザイン上のリソースとして用いたところである(このテーマを強く扱ったのは『ウェザーライト』が最初であるが、私はそのデザイン・チームに参加していなかった)。私が『オデッセイ』のデザインについて語るのを聞いたことがあれば知っている通り、私は多くの失敗をして、そしてデザイナーとして多くを学んだと思っている。学んだ中には、墓地の正しい使い方への理解というものも含まれている。

 私は墓地の大ファンである(私の最初のセット『テンペスト』は《焚きつけ》メカニズムを導入している)。そして、墓地は私が何度も使ってきたテーマである(たとえば、トーナメント・レベルの発掘デッキの中には私がデザインしたカードだけで組まれているものもある)。私は、毎回墓地の扱い方がうまくなっていると思っている。つまり、『オデッセイ』のおかげで墓地のデザインが上達できたと思っているのだ。他にも、『ラヴニカ』のゴルガリやグリクシス、旧『イニストラード』などでも多くのことを学んできた。

 特に『オデッセイ』が有意義なのは、マッドネスと、(昂揚の代わりにスレッショルドという)墓地メカニズムを使っていたからである。つまり、『オデッセイ』が問題にどう対処したかを見ることで、『イニストラードを覆う影』でどうするべきかを学んだことが何度もあったのだ。

 『イニストラードを覆う影』は『オデッセイ』の訂正版として作られたのですか?

 違う。面白いことに、我々は似せないようにすることで『オデッセイ』にぶつかったのだ。確かに、両方とも墓地のセットだが、それぞれの起点は全く違っていた。『オデッセイ』と似た理由は、おそらく、旧『イニストラード』との差別化に尽力したからであろう。『イニストラード』を作っていた当時、『オデッセイ』との差別化に尽力していた。つまり、『イニストラード』との差別化の方向性は、『イニストラード」が意識して避けた、『オデッセイ』と似る方向ということになるのだ。

 我らが伝説の狼男はどこですか?

 一番多かった質問がこれである。最初はこのセットに伝説の狼男がいたのだが、最終的には《アーリン・コード》と同じ枠を争うことになった。そして、プレインズウォーカーの色のバランスから言って《アーリン・コード》は必要だったので(これについては後の質問で触れる)、伝説の狼男はセットから消えることになったのだ。

 潜伏は常盤木キーワードですか? 果敢のように今後も登場しますか?

 多くの諸君が、我々が常盤木キーワードを定めることに興味を持っている。答えは、無条件にそうするつもりはない(実際は、しばらくの間試し、多少の成功を得た)。自然にそうなるに任せるのだ。例として果敢を取り上げてみよう。果敢が作られたのは、ジェスカイ氏族にまさにふさわしかったからである。そして、扱っているうちに、果敢の持つデザイン空間の広さとプレイ感の良さに気づいたのだ。そして、戦闘関連の青のキーワードがもう1つ必要になったので、最終的にふさわしいということになった。果敢は常盤木にするために作られたものではなく、時とともに常盤木になったのだ。

 これは我々の現在の理念である。クールなメカニズムを作るのみなのだ。時とともに、いいものは浮かび上がってくるのだ。潜伏が常盤木になる運命かどうか、時間だけが教えてくれる。潜伏の可能性は示されたし、潜伏は必要な隙間を埋めている。しかし、だからといって常盤木メカニズムに必要とされる様々な要素を満たしているかどうかはわからないのだ(デザイン空間の広さ、プレイしやすさ、フレイバー性、他の常盤木メカニズムとの相性、など)。

 『イニストラード』から持ち越したくてもふさわしくなかったものはありますか?

 もちろん。無限の空間があって複雑さの問題がなければ、私はフラッシュバックや陰鬱、不死を再利用したかった。呪いやスカーブ、その他『イニストラード』の様々な面白いものを入れる場所が欲しかった。再録する上での問題は、再訪しているのだと感じさせるに充分なものを入れる一方で、ブロックそのものがただのコピーに感じることが内容にするというバランスを取ることである。私は旧『イニストラード』を本当に誇りに思っている。今日までの私のデザインの中で最も優れたデザインだと思っている(諸君が既に目にした中で)。つまり、答えは、前回扱ったものの中で再録したいものは色々とある、ということになる。

 《月霧》が再録されず、それに似た効果も存在しないのはなぜですか?

 我々が強く意識していたことの1つが、プレイヤーは両ブロックを組み合わせるだろうということであった。つまり、我々は部族をデザインするとき、特に構築の観点から、その各部族にどんなものがあるのかを意識していたのだ。我々は、既にできることをするための2つ目の手段を与えることはあまり求めておらず、デッキを新しい方向に向かわせる新しい道具を幾つか与えることのほうに関心があるのだ。

 この理念は、先の質問で語ったことと非常に密接に関連している。何かを再訪すること、そして過去を楽しむことは素晴らしいことだが、過去を振り返るのにあまりに多くの時間をかけ、先を見る時間が少なければ、マンネリになってしまう。マジックを素晴らしいゲームにしているのは、何度も同じことを繰り返すことではなく、新しいメカニズム空間を探求し続けることである。つまり、世界を再訪する場合、私は常にその世界の本質をつかむ方法を探し、そして新しい方向に押していくのだ。私は、『イニストラードを覆う影』がゴシック・ホラーを再訪し、その一方で(謎と調査という)前回は注目されていなかった新しい一面を探求していることが気に入っている。

 同じことがカードについても言える。私は、『イニストラードを覆う影』の狼男デッキが前回のものの完全な繰り返しではないということが気に入っている。確かに類似点はある。狼男は(両面カードの栄誉も踏まえて)狼男であるが、前回できなかったことをできるようにするための新しい手段が増えているのだ。

 旧『イニストラード』から再録した両面カードがないのはなぜですか?

 再録については議論した。再録しないことにした理由は、両面カードそのものの枚数が少ないということである。再録するということは、つまりマジック全体において両面カードが1種類減るということである。使えるクールなデザインが1つ減ってしまうのだ。将来、両面カードが飽和し、これが真でなくなるときは来ると思うが、まだその時ではないと考えている。

 《黄金夜の懲罰者》の元になったデザイン上の意図は何ですか?

 そのカードをデザインしたのは私なので、当時の私の考えをそのまま説明できる。狂った赤の天使が欲しかったので、それがどういう意味なのかを考えることから始めた。私の目標は、白でも作れるような天使を作って赤にすることではなく、赤の天使として理解できるような天使を作ることだった。私の興味を惹いた考え方は、狂気に堕ちたクリーチャーは自分が守るべき存在を傷つけ始める、というものだった。これをメカニズム的に表すにはどうすればいいか。

 私は、それを欠点として扱うというアイデアにこだわった。軽くて強力だが、戦場にある間に問題を起こすクリーチャーを作ったらどうだろうか。私は赤の全体エンチャントで全員に影響を与えるものををいろいろと見て、そして私が初めてデザインしたセット『テンペスト』で私が作った1枚に目を留めたのだった。

 そのカードとは《ラースの灼熱洞》で、クリーチャーやプレイヤーへの全てのダメージを2倍にするというものだった。私はこれを欠点にしたかったので、このボーナスを対戦相手にだけ与えることにした。この副作用として、このクリーチャーのタフネスを大きく上げることができた。実際は、ダメージが倍になるので半分のタフネスしかないようなものだが。

 つまり、意図は、と言われると、赤の天使を作ることだった、となる。この出来には非常に満足している。

 『イニストラードを覆う影』と『イニストラード』の同じところと違うところは何ですか?

 『イニストラードを覆う影』と『イニストラード』を隔てているものは、どちらもホラーではあるがその種類が違うということである。『イニストラードを覆う影』は、観客も何が起こっているのかはっきりとはわからないミステリーである。目に見えない部分にこそ恐怖が潜んでいるのだ。

 一方、旧『イニストラード』は古典的なホラー映画で、被害者たちが怪物の襲来を生き延びるために戦うというものだ。比較的ペースは速く、恐怖は見た目通りである。『イニストラード』は、「怪物たちが私を殺しに来る。逃げよう」というもので、『イニストラードを覆う影』は「何かが私を殺しに来る。それが何かはわからない。動けない」というものなのだ。

 ジェイスが登場しないセットはいつになりますか?

 ジェイスの登場以来8年間、彼は2つの物語の主役になっている。『ラヴニカへの回帰』と『イニストラードを覆う影』だ。彼は旧『ゼンディカー』ブロックや『戦乱のゼンディカー』でも登場はしているが、両方とも物語上の役割は小さい。彼が関係している物語は他に『マジック・オリジン』があるが、それで全部だ。ジェイスが物語上で登場したのはこれだけである。

 ジェイスが常に存在しているのは、むしろカードの上である。彼はプレインズウォーカー登場以来全ての基本セットに存在しており、他のどのプレインズウォーカーよりも多くカード化されている。加えて、その中の何枚かは非常に強力で、ゲームプレイに大きな影響を与えているのだ。

 気にしている諸君のために言っておこう。次のブロックでは、ジェイスは主役ではない。

 マッドネスをキーワードにした時、スレッショルドは議題に上がりましたか?

 ある意味では。狂気に堕ちつつあることを表す方法として自分の墓地を使うメカニズムが必要だということはわかっていた。このメカニズムはカードを墓地に送ることを誘い、自分のライブラリーを削り切ってしまう(つまり完全に狂気に堕ちる)危険へと導く、というものだ。デザインの初期に、我々はこのメカニズムとして実際にスレッショルドを使ってみた。プレイテストの結果、スレッショルドは正解ではないということがわかり、我々は他の同種のメカニズムを掘り下げることになり、昂揚に行き着いたのだった。

 我々がこのセットでマッドネスを気に入っている理由の1つは、フレイバーのホームラン以外で、カードを捨てることを推奨するメカニズムだということである。これはシナジー的に昂揚を達成させる助けとなる。重要なのは、捨てるかあるいは他の方法で墓地にカードを送るカードにふさわしい場所を探すことである。

 なぜ「Xを覆う影の傷跡への回帰」を2つ続けたんですか?

 2連続で再訪セットを扱った理由だが、まずは簡単な算数をしてみよう。我々は現在、半分のブロックを(ブロック単位で)訪れたことのない次元に割り当て、半分を訪れたことのある次元に割り当てることにしている。統計的に、50%の割合で新しい世界と再訪が交互になり、25%の確率で連続で新しい世界、25%の確率で連続で再訪ということになる。

 それでは、最近10ブロックを見てみよう。

  • 『時のらせん』→『ローウィン』『シャドウムーア』 :再訪→新規
  • 『ローウィン』『シャドウムーア』→『アラーラの断片』 :新規→新規
  • 『アラーラの断片』→『ゼンディカー』 :新規→新規
  • 『ゼンディカー』→『ミラディンの傷跡』 :新規→再訪
  • 『ミラディンの傷跡』→『イニストラード』 :再訪→新規
  • 『イニストラード』→『ラヴニカへの回帰』 :新規→再訪
  • 『ラヴニカへの回帰』→『テーロス』 :再訪→新規
  • 『テーロス』→『タルキール覇王譚』 :新規→新規
  • 『タルキール覇王譚』→『戦乱のゼンディカー』 :新規→再訪
  • 『戦乱のゼンディカー』→『イニストラードを覆う影』 :再訪→再訪

 見ての通り、新規→再訪と再訪→新規が合計60%、新規→新規が30%、再訪→再訪が10%である。

 平均して、新規→新規はやや多く、再訪→再訪はやや少ない。言い換えると、これは起こりうる偏りであり、統計的に言うと、これほどの長い間存在していなかったことのほうが驚きなのだ。

 天使が狂気に堕ち、吸血鬼がそうでもないのはなぜですか?

 吸血鬼が狂気に堕ちていないなどと、誰が言ったのか。例えば、このセットのメカニズムの1つでありこの次元の狂気を表しているるマッドネスは、黒と赤、つまり吸血鬼の2色に割り当てられている。単に黒と赤に存在するだけでなく、吸血鬼に強く割り当てられているのだ。実際、ドラフトでの吸血鬼のアーキタイプはマッドネス・メカニズムを濃く使っている。恐れるなかれ、狂気に堕ちているのは天使だけではない。吸血鬼も堕ちているのだ(もちろん、イニストラード全体も)。

 セット全体が金曜日に公開されるまで公開されなかったレアがあるのはなぜですか?

 セットの多くをプレビューしたいとは思っているが、全てをプレビューするとセット全体が公開された時に驚きがなくなり、楽しくなくなってしまう。プレビューする上で重要なことの1つが、一度にプレビューし過ぎないようにして、プレビューした内容にプレイヤーが注目するようにすることなのだ。

(今回の)こぼれ話の終わり

 今日はここまで。諸君一人ひとりが何を知りたいのかを知ることができる一問一答は私にとって重要である。諸君からの質問への私の回答を見て、諸君がどう考えたかもまた私には重要である。今日の記事を気に入ってくれたかどうか、改善すべき点はあるか、あるいは逆に変えてほしくない部分はあるか、教えてほしい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、その2でさらなる質問に答える日にお会いしよう。

 その日まで、『イニストラードを覆う影』の楽しみと、それに関するさらなる質問があなたとともにありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)