懐かしの君へ
マジック関連の仕事をしたいと思う諸君は、英語版記事末尾にある告知を確認のこと。
通常、セットの発売後にはカードごとの話をするコラムを設け、セットを縦覧して様々なカードのデザインについての話をしている。これまでは、基本セットではこれをしてこなかった。それは、私が基本セットのデザイン・チームに加わってこなかった(基本セット2010を除いて、もう何年も関わっていない)からである。だが、基本セットの新カードについてでなければいくらでも話すネタがあるということに気がついた。そう、基本セットには再録カードがたくさん含まれており、その中には私がデザイン・チームの一員として働いたものもたくさんある。そこで今回は新カードではなく懐かしのカードたちに関するカード別記事をお送りすることにしよう。
始める前に、一言。ここで取り上げる話の中には、これまでに話したことのあるものもある。10年以上も繰り返しなしで書くのは難しいのだ。また、新しいプレイヤー諸君にも、これまでの500回以上にのぼるコラムを検索することなく面白い話を楽しんでもらいたい。すでに読んだことのある諸君のために、すでに話したことのある話には新しい要素を付け加えるつもりだ。

このカードはオデッセイが初出だ。ほとんどの諸君は気付いていないことだが、このカードはブロック全体を通したサイクルの一員である。そのサイクルとは、例外的勝利条件を含むエンチャントのサイクルだ。そのメンバーを紹介しよう。
オデッセイより
トーメントより
ジャッジメントより
なぜこれをブロック全体を通して配置したのか? その答えは、1つのセットに5種類の勝利条件カードを入れるのは多すぎると感じたからだ。なぜこういう分け方をしたか? セットについて考えれば、その答えは自ずと分かってくる。トーメントは黒のセット(知らない諸君のために言っておくと、このセットには他の色よりも黒のカードがかなり多かったのだ)なので、黒のカードが配置された。ジャッジメントは白と緑のセット(トーメントとのバランスを取るために、黒の敵対色である白や緑のカードが多かった)なので、白と緑のカードが配置された。青と赤は残りのセット、つまり第1セットに投入されることになったのだ。もう1つイカしたことを挙げるなら(オデッセイのカード名を決める責任者が私だったことにも注目して欲しい)、これらのカード名にはそれぞれ「duel」の言い換えが入っているのだ。
で、なぜ《
デッキの中核となった楽しいカードとなり、プレイヤーが群がったので、サイクルから抜け出して単一のカードとして存在するようになったのである。

どのセットも、あらゆる種類のマジック・プレイヤーにアピールするものであろうとしているが、やはりセットごとにもっとも気に入るタイプのプレイヤーというのは存在するものである。私はセットを組み合わせ、同じ方向に向くことがないように留意している。しかし、フィフス・ドーンはミラディン・ブロックの最後のセットだったので、大量のアーティファクトが入るのは必然だった。
ミラディン、ダークスティールは少しばかりティミーやスパイク寄りになっていたので、フィフス・ドーンにはいかにもこれを使ってデッキを組みたくなるような雰囲気を纏ったアーティファクトを大量に入れて、ややジョニー寄りにしたほうが楽しいと考えた。そういう観点から、《
《

ほとんどのプレイヤーが知らない裏話をしよう。6年ほど、《
ウルザズ・サーガの時に、私はこのカードを再び世に戻そうとしたが、当時のルール・チームは無理だとしてギリギリのタイミングでカードを変更するように伝えてきた。イラストはすでに出来ていたので、そのイラストにふさわしいメカニズムのカードをデザインしなければならなかった。そして、その結果生まれたのがこれだ。
このイラストは、アルファ版の《
やがて、ルール・マネージャーがこのカードをルール上で処理する方法を見つけ出し、オンスロートで復活を遂げることになった。

プレイヤーは、カードについて知っていることはその完成形だけなので、それだけを見る。デザイナーは、完成形だけでなくその開発中の情報を見ることがある。私にとって、《
5色テーマに決たので、5色全てを使って起動するアーティファクトを入れるというのは当然に思えた。結局、我々は各色2マナずつを起動コストとし、ゲームに勝利するという効果を持つ起動型能力を思いついたのだった。少しばかり魅力的にしたかったアーロンと私がデザインしたカードは、こんなものだった。
〈殺戮機械〉
{4}
アーティファクト
[このカード]はタップ状態で戦場に出る。
{W}{W}{U}{U}{B}{B}{R}{R}{G}{G},{T},[このカード]を生け贄に捧げる:クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とし、それを破壊する。
アーロンも私もこのカードが気に入った。完璧だった。たった1つ、ルール上で「プレイヤー1人を対象とし、それを破壊する」という表記が認められていないという問題を除けば。「いや、できるだろ。プレイヤーは読んだら理解するさ」と私は言ったんだ。
「ダメです」ルール・マネージャー(マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb)は答えた。「他のプレイヤーを敗北させる効果なら、『プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはこのゲームに敗北する』と書かなければなりません。それがテンプレートです」と。
私は地団駄を踏み、どっちでも似たようなものに見えるが雰囲気がまったく違うじゃないかと主張した。アーロンと私の作ったものは風変わりで楽しい。マジック史上にない何かをやっているというわけでもないのに、世界を覆しているかのように見えたのだ。
私はしばしば、何度も何度も何度も戦って戦い抜いて私の思うようにした、という話をする。これは、そうならなかったという話だ。できる限りの抵抗はしたが、「プレイヤー1人を対象とし、それを破壊する」という表記は実らなかったのだ。
今日に至るまで、私は、このカードを見るとこの戦いのことを思い出し、今でもこのカードは私の中では失敗作だと残念に思う。しかし、実際のところ、このカードには人気が出(て、そして再録にまで至っ)たのだから、私が間違っていたのかもしれない(私の理性はそう言っているが、感情の部分ではそれを受け入れられないのだ)。

今日は、カードが諸君が認識する以上に大きな絵の一部であることがあるということをちょっとしたテーマとしている。実際、《
これら2枚はともに第7版に再録されたが、その後、より人気のあった(そしてたまたまより強力だった)《

プレイヤーは、私がデザインするにあたってデッキからイメージを得ているのはどれぐらいあるかということをよく尋ねてくる。答えは、ほとんどデッキからイメージを得てはいない、となるが、中にはそういうものもないわけではない。《
レジェンズのカード、《
私は《
《

諸君も、ルール・グルというものについて耳にすることがあるだろう。ルール・グルとは、マジックのルールについて最もよく知っている人たちで、新しいルール問題が発生したときに相談する相手だ。彼らのルールに関する飛び抜けた知識は、ルールが実際にどう働くかに一貫性を持たせた新しい裁定を決めるために役に立つ。私は、「カラー・パイ・グル」と呼ばれる存在のうちの1人だ。ルール・グルがメカニズムに対して取るのと同じような立場を、私は色の理念について取るのだ。基本的には、誰かが、ある効果をその色でやってもいいかどうかを知りたいと思ったとき、私に聞きに来ることになる。
何年も昔になるが、私は、カラー・パイ・グルとして、カラー・パイを見直し、理念上の問題を見つけるという仕事をしていた。メカニズムと色の理念がそぐわないところはないかどうか探して、私はある問題を見つけた。
青と緑の対立点は、天然と養殖である。青は、あらゆるものが空っぽの状態で生まれてきて、必要な道具を使って教育して進化させることが出来ると信じている。緑は、あらゆるものがそのあらゆる性質を内包して生まれてくると信じている。青は教育を愛する。緑は宿命を愛する。そこで、青は道具を生命の重要不可欠な一部として見るし、青はそれを自然の摂理に反するものとして扱う。従って、青は技術を愛し、緑はそれを嫌うのだ。
マジックの世界において、技術といえばアーティファクトである。色の性質から言うと、青は最もアーティファクトに近しくあるべきで、緑はもっともその敵であるべきだ。この前者は言うまでもなく真である。青はもっともアーティファクト寄りのメカニズムを有する色である。緑は、もっともアーティファクトを破壊する色、ではなかった。他のグルとも相談して、アーティファクトを最も嫌う色は緑、次いで赤、それからずっと離れて3番目に白であるべきだという結論に至った。白は必要であればアーティファクトを破壊することができるが、それは緑や赤のように根源的なものではない(緑は破壊すべきだと信じ、赤は破壊することを楽しむ。青や黒はアーティファクト寄りで、強力なシナジーを持つ。どちらも破壊することに長けてはいない)。
そこで、緑に優秀なアーティファクト対策を入れることを提案した。赤には《
計算は簡単だ。両方を破壊するのに長けている色は、緑であり、白ではない。そしてアーティファクト除去を赤のコモンに、エンチャント除去を白のコモンに、アーティファクトとエンチャントの両方を除去できる手段を、白と赤の友好色である緑のコモンに入れるというのが一番すっきりする。最終的に、《

このカードはローウィンが初出だ。このカードは、白に独特の除去を入れようとして色々考えた末に生まれたものだ。私はそもそも、だけで「クリーチャーを何でも破壊する」と書いてあるようなもので、しかもその弱点があまりに弱い《
《
私は、いかにも白らしさをもたらしているこれらのカードが大好きだ。白は、何かを殺すことを好む色ではない。殺さずに無力化させる方法を探す方が白らしい(《
そこで、より白らしい手法を探すことにした。私が目を付けたのはこのカードである。
私はフレイバー的にもゲーム的にもすばらしい、《

私がよく受ける質問に、マジックのデザイン空間がどれぐらい残っていて、カードのアイデアが尽きるまでにどれぐらい保つかというものがある。《
《
私が、将来にわたってデザイン空間があると革新している理由は、新しい制約ができればできるほどに、新しい答えが生まれてくるものだからだ。
私がおもしろがって作ったカードが巧く働いたとき、自分でも驚くことがある。巧く働くわけがないと思っていたからではなく、私がカードを作る際には諸君が思っているように「構築環境で強いだろう」と思って作ったのではないからだ。

This card was originally printed in Urza's Legacy. Many players might not realize that it came from a cycle. This cycle:

そして、ウルザズ・レガシーのこのサイクルが、ウルザズ・サーガの別のサイクルの後を追ったものだと言うことはさらに知る人は少ないだろう。

面白いのはここからだ。これらの2つのサイクルは関連している。諸君は、どう関連しているかわかるだろうか?
なかなか難しい問題だろう。各色には2枚ずつ「死んだら戻る」メカニズムつきのオーラが存在する。1枚は自分のクリーチャーにつけて強化するもので、もう1枚は相手のクリーチャーにつけて弱体化させるものだ。全てを強化するものにしたり全てを弱体化させるものにしたりするのではなく、2つのサイクルの間で混ぜ合わせた。そしてそれを隠すために、サイクルの1つをウルザズ・サーガからウルザズ・レガシーに移したのである。
《
この問題にピリオドをうつ日がやってきた。さて、これは真実なのか、それとも都市伝説なのか?
真実だ!
起こったことを説明しよう。デベロップ・チーム(ヘンリー・スターン/Henry Stern、マイク・エリオット/Mike Elliott、ウィリアム・ヨクス/William Jockucsh、ビル・ローズ/Bill Rose、私)はこのコストをにするか
にするか延々悩んでいた。このカードを強力にはしたかったが、ぶっ壊れたものにしたくはなかったのだ。ファイル内で何度も何度も変更されたが、最終的には
にすることに落ち着いた。
それから数ヶ月が過ぎ、印刷テキストを見た。これはカードの最初の印刷で、ここで印刷上の大きな誤りが無いかどうかを確認するのだ。この時点で、《でなく
になっていることに気がついた。しかし、カードはすでに印刷に回っており、この時点で訂正するには多大なコストが発生し、場合によっては発売の遅れまでありうる。そこで、我々は《
にすることに決めたのだ。
大問題を起こさずに大ヒットになったのは、言ってみればまさに怪我の功名だと言えるだろう。

このカードはウルザズ・サーガが初出だ。開発部の用語で言うところの「フリー・メカニズム」を使っている。充分なマナがあれば、実質上マナを支払わずに唱えられるというものだ。フリー・メカニズムは、キャントリップの代わりとして開発された。ビル・ローズはキャントリップを使いすぎだと(当時、キャントリップは常磐木メカニズムではなく1回限りのメカニズムだったのだ)判断したので、私は同じようなものを開発しようとしていた。カードを使わないカードの代わりに、マナを使わないカードを作るのはどうだろう?
フリー・メカニズムは、開発部曰くの「ぶっ壊れた」もので、ウルザズ・サーガ・ブロックを強すぎのブロックに仕立て上げた立役者である。私が今までデザインした中でも、もっとも壊れたメカニズムだと確信しているが、史上もっとも壊れているのはこれではないと思っている(史上もっとも壊れているで賞は、ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanの手によるストームに進呈したい)。
何がそんなにやばかったのか? このカードを見てもらおう。
これは一見するとなんでもないカードに見える。1/1の飛行クリーチャーで、コストがだ。これは当時、多くの構築イベントで使われていた。なぜか? それは、フリー・メカニズムがその名に反していたからだ。《
我々は、このメカニズムが壊れている理由を解明した。《にしたら、より強くなってしまう。さらに多くのマナを生み出すことができる。マナがカード・パワーを制限できないのであれば、メカニズムには大きな問題があることになる。
この話の面白いところは、《
温故知新
諸君が古いカードの話を楽しんでもらえたなら幸いである。こういった古いカードの、カードごとの話をもっと聞きたいかどうかを教えて欲しい。
それではまた次回、マジック2013に関する諸君の質問に答える日にお会いしよう。
その日まで、あなたの思い出が他の誰かに届きますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
So You Want To Work At Wizards?
One of the things I started doing in my column many years ago was post relevant Magic-related jobs when they come up. Today, I have two to talk about:
Job #1—Manager for the Creative Team
This job is a management job overseeing the creative team (the people in charge of the art, names, flavor text, and worldbuilding) in R&D. Here's what the job requires:
- Magic knowledge and a love of creative
- Project management experience
- Team/resource management experience
- Game industry experience desired but not required
This person will have the chance to work day in and out with people like Brady Dommermuth, Doug Beyer, Jenna Helland, and Jeremy Jarvis.
If you're interested in this job, click here.
Job #2—Senior Digital Designer
This job is a designer job on the R&D Digital Magic team. This job would be working on high-profile projects like Duels of the Planeswalkers and Magic Online. Here's what this job requires:
- 5+ years experience making and leading design rough for digital games
- Experience leading teams
- Knowledge and passion for Magic strongly preferred
- Variety of experience with different game genres and platforms preferred (e.g., casual, RPG, social, online subscription)
This person will have the chance to work day in and out with people like Ken Troop, Dave Guskin, Max McCall, and Joe Huber.
If you are interested in this job, click here.
I hope to see two of you very soon.