思い出の道をプレインズウォーク
『統率者(2018年版)』特集へようこそ。今週は1日1個ずつデッキを紹介していく予定であり、まずは今日の青赤のアーティファクトをテーマとしたデッキから始めることになる。そのデッキからプレビュー・カードは紹介するが、今回の『統率者(2018年版)』の記事では少しばかり違う方向性で行くことにしよう。
明日、ガヴィン・ヴァーヘイ/Gavin Verheyが『統率者(2018年版)』のデザインについての記事を書き、デザイン・チームを紹介するので、そのかわりに私はプレインズウォーカーについて、そしてその変遷について少し語ることにしよう。(知らない諸君のために説明すると、『統率者(2018年版)』のデッキには統率者としてプレイできるプレインズウォーカーが入っている。そう、この記事の中で紹介されるのは青赤デッキの統率者なのだ。)
2007年、『ローウィン』の発売時に、私はプレインズウォーカーのデザインに関する2本の記事を書いた。なぜプレインズウォーカーを作ることにしたかについて、そしてその新カード・タイプのデザイン上の経験について非常に詳細に語ったのだ。(それらの記事を読んでいない諸君には、その1、その2をぜひ読んでもらいたい。※リンク先は英語)
この記事でもそれらの創造について軽く触れるが、この記事での主眼はプレインズウォーカーというカード・タイプが年を経てメカニズム的にどのように進化してきたかである。
プレインズウォークすること
そもそもの始まりは『未来予知』のデザイン中、デザイン・チームの一員だったマット・カヴォッタ/Matt Cavottaがプレインズウォーカーを新しいカード・タイプにするというアイデアを持ち込んできたことだった。『時のらせん』ブロックのストーリーでプレインズウォーカーの強さが見直され、いくらか扱いうるようになった(神の如き力を持つキャラクターは扱うのが難しかったのだ)。そして、『未来予知』はマジックのメカニズム的未来を覗き見ることがテーマだったのだ。プレインズウォーカー・カードを導入するのに、これ以上に完璧な時期はないとマットは考えたのだ。上述の記事で分かる通り、私を含むデザイン・チームは最初、いくらか懐疑的だった。我々はめったに新しいカード・タイプを作ることはない。しかし、マットは強情で、プレインズウォーカーの必要性について我々を説得することに成功したのだった。
我々はプレインズウォーカーを『未来予知』のミライシフト・カードの枠で導入できるようにするため独立したミニチーム(マット・カヴォッタ、マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb、ブランドン・ボッツィ/Brandon Bozzi、私)を作ったが、そこで作り上げたバージョンは少しばかりロボット的すぎるものだった。3つの能力があり、ターンごとに順番に処理していた。興味深いことに、この破棄されたバージョンのプレインズウォーカーを元にして、『ドミナリア』のデザイン時の英雄譚ができている。
満足できるデザインができるまでプレインズウォーカーを棚上げにすることにした。そして最終的にできたのは『ローウィン』のときだったのだ。(『未来予知』の《
この最初に印刷された5人のプレインズウォーカーは、『ローウィン』の5人(アジャニ、ジェイス、リリアナ、チャンドラ、ガラク)として知られている。我々は、各色のど真ん中にあたる5人の単色のプレインズウォーカーから始めることに決めた。最初の5人のプレインズウォーカーを、その色の象徴的な代表にしたいと考えたのだ。
『ローウィン』の5人はいずれも同じテンプレートを用いている。小さな効果を持つ[+1]の能力と、比較的大きな効果を持つマイナスの能力(唱えた時点で使えるだけの忠誠度を持っている)、そして「奥義」と呼ばれる、使うために準備が必要になる大きなマイナスの能力である。もう1つの進化が、初めて[-X]の忠誠度能力を持ったチャンドラであった。この能力を採用するかどうかについて議論があったが、プレイ感が非常に良く、キャラクターにも完璧に合っていたので残すことに決めたのだ。『ローウィン』の5人はプレインズウォーカーなのにレアだが、それはまだ当時神話レアというレアリティが存在していなかったからというだけである。
本来、プレインズウォーカーはいつもあるようなものではなく、もっと特別な存在にするという計画だった。『ローウィン』で最初の5人を導入した後、その後の3つのセット(『モーニングタイド』『シャドウムーア』『イーブンタイド』)にはプレインズウォーカーは1人もいなかったのだ。
次にプレインズウォーカーが登場したのは、『アラーラの断片』のときだった。このときはプレインズウォーカーはサイクルにはなっていなかった(ただし、『アラーラの断片』と『コンフラックス』で、各断片ごとに1人のプレインズウォーカーがいた)。この中の2人、アジャニとサルカンは2色だった。アジャニは2回カードになった初のプレインズウォーカーであり、色が変わった初のプレインズウォーカーだった。エルスペスはプラス能力を2つ持つ初のプレインズウォーカーだった。そして、テゼレットは濃いアーティファクト・デッキでしかプレイできないような狭い能力を持った初のプレインズウォーカーであった。当時、そういったことをするべきかどうかということでかなりの議論があり、テゼレットは試験として作られたのだ。
その次のセットの『コンフラックス』で、いくつかの初めての性質を持つニコル・ボーラスが登場した。初の3色のプレインズウォーカーであり、初の8マナのプレインズウォーカーであり(強力だが重い存在にすることにしたのだ)、かつて伝説のクリーチャーとして存在していた初のプレインズウォーカーであった。(ヤヤ・バラード、カーン、ナーセット、オブ・ニクシリス、テフェリー、ウルザ、ヴェンセール、ゼナゴスが、プレインズウォーカー・カードと伝説のクリーチャー・カードとして別々に存在している。)
『基本セット2010』はプレインズウォーカーを入れた初の基本セットだったが、収録されていたカードは『ローウィン』の5人の単純な再録だった。
『ゼンディカー』から、すべてのセットにプレインズウォーカーが入るようになった。プレインズウォーカーは登場した直後から好評だったのだが、我々が手がけているのは2年後の商品であり、すべてのセットに少なくとも1人のプレインズウォーカーを入れるように再調整できたのは『ゼンディカー』からだったのだ。この3人のプレインズウォーカーは特に革新的というわけではなく、既存のキャラクターの別の姿、狭いテーマ的焦点など、すでにあった変化を推し進めただけである。
『ワールドウェイク』では史上最強のプレインズウォーカーの1人であると同時に初めて忠誠度能力を4つ持ったプレインズウォーカーである《
『エルドラージ覚醒』にはプレインズウォーカーは2人しかいないが、それぞれが新しいメカニズム空間を拓いた。ギデオンはクリーチャーになる初のプレインズウォーカーであった。サルカンはプラスの忠誠度能力を持たない初のプレインズウォーカーであった。(これは当時開発部内で多くの議論を呼んだ。)
ここからは、何か新しいことをしたプレインズウォーカーだけを紹介していこう。基本セットには単色のプレインズウォーカーのサイクルが収録され続け、そのほとんどは『ローウィン』の5人のままだったが、時折調整が加えられていった。ガラクはニッサに入れ替わり、アジャニはギデオンに入れ替わった。
『新たなるファイレクシア』では、初の、不特定マナだけで唱えられる、無色のプレインズウォーカーとなる《
『イニストラード』では、いくつかの初の要素を持つ《
この誘発型能力について一言:プレインズウォーカーは一番人気のあるカード・タイプになった。同時に、デザイン空間が最も狭いカード・タイプでもあるので、主席デザイナーとして、私が挑戦してきたことの1つが、「歯磨き粉を全て絞り出す」ことができるようにプレインズウォーカーの進化を遅くすることである。そのため、《
『闇の隆盛』の《
タミヨウは、既知の次元(神河)から舞台となる次元に訪れたことが明確になっている初のプレインズウォーカーである。後に、既知の世界出身だということが明らかになったキャラクター(例えばリリアナはドミナリア出身)はいるが、登場した時点では明らかになってはいなかったのだ。ティボルトは2マナのプレインズウォーカーという初の試みだったが、そういう軽いプレインズウォーカーを推すことには小心だったので、デベロップ的に大失敗だったと考えられている。
[-X]の忠誠度能力は『ローウィン』からあったが、《
『基本セット2015』で、《
《
『統率者(2014年版)』は、統率者になることができるという能力を持つプレインズウォーカーが軸となっていた。このサイクルの5枚は、常在型能力を持つ初のプレインズウォーカーである。(興味深いことに、これも誘発型能力も、カードの一番下に書かれている。)これらのカードには複数の初めてがある。1つ目に、統率者としてプレイできる初のプレインズウォーカーである。2つ目に、フレイアリーズは死んだキャラクターとしてはじめてのプレインズウォーカー・カードである。(ナヒリとテフェリーの運命は当時はわかっていなかったが、現時点ではどちらも生存がわかっている。)これによって、将来、すでに死んだキャラクターがサプリメント・セットでプレインズウォーカーとして登場する可能性の扉が開いたのだ。(そしてその1人は今週中にお目見えすることになる。)テフェリーはプレインズウォーカーの忠誠度能力を1ターン中に複数回使うことができるようにする初のカードである。
『マジック・オリジン』では、プレインズウォーカーになる初のカードが導入された。これらの単色両面カードは、伝説のクリーチャーで、プレインズウォーカーへと変身できるのだ。キテオンは、(言ってみれば)初の1マナのプレインズウォーカーである。これらのプレインズウォーカーは、オモテ面が伝説のクリーチャーなので、統率者戦で統率者として使うことができる。
『カラデシュ』の発売とともに、新規プレイヤー向けの構築済みデッキの新しい調整としてプレインズウォーカーデッキを導入した。構築済みデッキの新しい流れを作ったことはあったが、ここでは初めて新しいプレインズウォーカー・カードを作ったのだ。それらのカードは高いマナ・コストに設定されており、スタンダードで実用的にはならないようにデザインされている。(このデッキ内のすべてのカードはスタンダードで使用できる。)チャンドラとニッサは、それぞれの別バージョンであるプレインズウォーカー・カードが『カラデシュ』本体に含まれている。プレインズウォーカーデッキにはそれぞれのプレインズウォーカーは1枚ずつしか入っていないが、効果に加えてプレインズウォーカーを教示者する(ライブラリーから探して手札に入れる)カードが入っており、プレインズウォーカー・カードを引く可能性は実質的には2倍になっている。
『破滅の刻』のプレインズウォーカーデッキの1つには、ニッサが登場している。ニッサは、対応するセット本体に存在せずにプレインズウォーカーデッキに入った初のプレインズウォーカーである。
『Unstable』の《
そして話は『統率者(2018年版)』のプレインズウォーカーに到る。2人は、新規キャラクター。1人は、遠い昔に死んだプレインズウォーカー。そして残りの1人は、既知のプレインズウォーカーの新しいカードである。(今日紹介するのはこの1人だ。)今日プレビューするもの以外はどれも3色である。
さて今日のプレインズウォーカーは既知のプレインズウォーカーだと言ったので、もう誰であるか予想はできることだろう。すでに、今日の『統率者(2018年版)』デッキは青赤のアーティファクト・テーマのデッキだと言うことも伝えたとおりだ。そうなると、プレインズウォーカーは、当然……
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サヒーリである。元祖の《
今日はここまで、ではなくて。アーティファクト・テーマのデッキをプレビューするのに、私がアーティファクトを紹介しないことがありえるだろうか?これは、《
《改良式鋳造所》をご紹介しよう。
このアーティファクトは、アーティファクト・クリーチャーをどんどんと強化していくことができるようにする。サヒーリの作る霊気装置もだ。
日没へのプレインズウォーク
プレインズウォーカーの革新の歴史を楽しんでもらえたなら幸いである。素敵なことが数多く起こってきたが、今もクールなことが数多く世に出る機会を待っているのだ。新しいことといえば、今週は毎日新しいデッキと、そのデッキを統率するプレインズウォーカーを紹介していくので注目してくれたまえ。
いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。今日の記事についての感想や、プレインズウォーカーの好きなところを教えてほしい。
それではまた次回、『基本セット2019』の一問一答記事でお会いしよう。
その日まで、新しくクールなプレインズウォーカーの革新の夢があなたとともにありますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)