先週、『霊気紛争』のデザインの舞台裏で起こっていたことの話を始めた。今週はその続きである。先週の記事を読んでいることを前提にして話すので、まだ読んでいない諸君は読んできてくれたまえ(時間と機材があれば、その2の記事ごとに「前回のあらすじ」ビデオを作るのだが)。さて、それでは続きに入るとしよう。

霊気の鉱石

 先週話した通り、『霊気紛争』の難関は『カラデシュ』を定義づけていたものを可能な限り保ったままで紛争らしさを描くというところであった。『カラデシュ』のデザイン・チームは紛争がこのエキスパンションで生じるということを知っていたので、実際にその助けになるようなことをしていたのだ。大型セットをデザインするとき、私は小型セットを見て、小型セットで使うためのものを温存できるように大型セットと小型セットの差がどこにあるのかを把握することにしている(近いうちに、大型セットが小型セットに向けて何を意識しているのかという記事を書くつもりである。ひと言で言うと、小型セットがどうなるかを見積もるためにすることが増え続けているのだ)。

 『カラデシュ』と『霊気紛争』を見ると、その違いは『カラデシュ』が創造的で『霊気紛争』が破壊的だというところにある。両方とも発明することが中心にあるが、前者は他のものを組み上げるものを作るためのもので、後者は他のものを壊すものを組み上げるためのものなのだ。では、この違いをどのようにメカニズム的に作ることができるのか。

 まず、トップダウンで作るものについて注意を払った。奇跡的で目立つような発明を『カラデシュ』で使い、武器は『霊気紛争』のために取っておいた。『カラデシュ』のアーティファクトは戦場にある時に自軍を強化するようなもので、『霊気紛争』のアーティファクトはそれと対照的に、対戦相手に被害を与えるためのものである。また、他のものを生け贄に捧げる、中でもアーティファクトを生け贄に捧げるものには特に注意を払った。『カラデシュ』では戦場に出たときの誘発が多く、死亡誘発が少ないようにした。この全体的な理念は『カラデシュ』のデザイン展望を記した文書に明記されており、『カラデシュ』のデベロップ・チームはそれを保つために尽力したのだ。

そうでないメカニズム

 『霊気紛争』のデザイン・チームの最初の目的は、紛争らしさを示すメカニズムを見つけ出すことだった。デザイン・チーム内でそれについて話し合っていくうちに、何らかの形で破壊を参照するという発想が固まっていった。上記の通り、『カラデシュ』のデザイン・チームはコストとしてアーティファクトを生け贄に捧げることを『霊気紛争』のために温存していた。これと相互作用させる方法はあるだろうか。

 墓地に行ったときに対戦相手にダメージを与えるアーティファクトはどうか。この能力を多くのカードに持たせることはできたが、メカニズムらしいものではなかった。新しいメカニズムを探すときは、ただ充分な枚数に持たせることができてセットの雰囲気に合っていればいいというものではなく、名前を持ったメカニズムに相応しい重厚感が必要なのだ。

 マーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebは全体的なその方向性は気に入っていたが、もっと新鮮な方法で攻めることを望んでいた。そして、対戦相手にダメージを与える死亡誘発という発想を元に、それをカウンターに適用したのだ。能力を内包したカウンターを作ったらどうだろうか。そのカウンターが乗っているパーマネントが墓地に行ったときに対戦相手にダメージを与えるようになるカウンターはどうだろうか。我々はそのカウンターを「即発カウンター/volatile counter」と名付けた。

 その機能は以下の通り。さまざまなカードが即発カウンターを生成する。そのパーマネント自身に置くものもあれば、他のパーマネントに置くものもある。そして、即発カウンターが置かれているパーマネントが戦場から墓地に行ったとき、対戦相手1人を対象として即発カウンターがそのプレイヤーに2点のダメージを与えるのだ。ダメージの発生源はカウンターであり、そのカウンターを生成したプレイヤーがコントロールする。従って、対戦相手のパーマネントに即発カウンターを置くことができて、そのパーマネントが墓地に行ったときにはそのカウンターはそのプレイヤーにダメージを与えることになるのだ。

 即発カウンターは非常に興味深いものだった。自分のパーマネントに置くことで対戦相手が破壊するのを躊躇するようにしたり、自分で生け贄に捧げて追加のダメージを与えたりすることもできるし、対戦相手のパーマネントに置くことで使うのを躊躇させたり破壊して追加のダメージを与えたりすることもできるのだ。デザイン中のこの時期には、カードに増殖を持たせることを試していた。そして即発カウンターは系全体の中でうまく作用していたのだ(また、製造を取り除くことも試していた。そのため、デザイン中の一時期には2つのメカニズムが存在していたことになる)。

 しかし、即発カウンターには最終的に3つの大きな問題があった。そのうち2つは複雑さの問題である。まず、通常、我々はカード・タイプごとに用いるカウンターを1種類に制限している。2/2のクリーチャーにカウンターが1つ乗っていたのを見たら、どのリミテッド環境でもすぐにサイズがわかるようであるべきなのだ。しかし、即発カウンターはクリーチャーにこそ載せる必要があった。最高のゲームプレイの多くは、プレイヤーが攻撃やブロックに関してクリーチャーに載っている即発カウンターの数を元に判断するときに存在していた。『霊気紛争』から製造を取り除いたとしても、『カラデシュ』に存在している以上リミテッドでは2/2に載せられているカウンターが+1/+1カウンターなのか即発カウンターなのかわからなくなることがあるのだ(この問題を解決するため、即発カウンターが載っていることが一目で分かるようにするための即発カウンター・カードを作ることも検討していた)。

 2つ目に、即発カウンターは広く撒いたときに一番うまく作用することが多いということがある。さまざまなカウンターと、それが表すダメージを把握し続けることは理想よりも少し負担が大きかったのだ。しかも、それはライフ総量の変化を表すので、無視できないものであることが多いのだ。

 さらに、3つ目の問題があった。マジックは対立を扱うゲームではあるが、ファンタジー世界の中に留め、「現実世界の暴力」に近づきすぎないようにしている。どれほどフレイバーを調整しても、即発はファンタジーらしいものにはならなかったのだ。

 結局のところ、これらの複雑さの問題とフレイバー上の問題があったので、デザイン中に新しいメカニズムの必要性がわかったのだった。

紛争中

 この問題への解決策をもたらしたのは、『霊気紛争』のリード・デベロッパーのベン・ヘイズ/Ben Hayesだった。ベンは破壊を参照するのは掘り下げるのに相応しい方向性だというデザイン・チームの考えに同意した。この問題を解決するためにベンが見つけ出したメカニズムが陰鬱だった。

 陰鬱は旧『イニストラード』の、クリーチャーがそのターンに死亡していたらカードが強化されるというメカニズムである。『イニストラード』のデザイン中に、死亡を重要にする方法を探していたときに私が作ったのだ。恐怖感をゲームプレイに取り入れようと考えて、クリーチャーが死ぬたびに何か不安に感じるようなことがあるのだ、という発想が気に入ったのだ。また、陰鬱が存在することで、プレイヤーは最適ではない攻撃をしたりブラフを仕掛けたりすることができるようになる(『イニストラード』ではさまざまなことを可能にするため、クリーチャーは通常よりも少し弱くデザインされていたので、これは重要な要素になった)。

 ベンは望んでいたことの多くは陰鬱で解決できると感じたが、問題なしとはいかなかった。それではアーティファクト陰鬱、つまりクリーチャーではなくアーティファクトが墓地に行ったことを参照する陰鬱のようなメカニズムではどうか。これはあまりにも限定的だった。『カラデシュ』ブロックにはアーティファクト要素が多く存在するが、『カラデシュ』を『ミラディン』と差別化するために我々は尽力し、アーティファクトだけでなく普通のカードにおいても工学を表すものが存在するようにしていたのだ。

 また、ベンはこれを墓地に行ったときにだけ誘発するように制限するとブロック内の相互作用の多くと噛み合わなくなることに気がついた。「戦場を離れたとき」にすることで、このメカニズムは『カラデシュ』に存在する自己バウンスのようなものとも噛み合うようになる。最後に、ベンはこのメカニズムを執念や復讐を感じさせるものにしたかったので、対戦相手のものでも誘発するというのはふさわしくないと考えた。このことにより、このメカニズムはさらに陰鬱とは違うものになることになったのだ。

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 デザイン的には、紛争は陰鬱と同じ種類のカードで働く。呪文にもパーマネントにも持たせられる。呪文では、その呪文の効果を強化するものになる。ほとんどのパーマネントでは、紛争は戦場に出たときの効果を与え、呪文のような能力を生成したり+1/+1カウンターを載せたりする。高レアリティの一部の呪文では、毎ターン発生する効果を生成する、ターン終了ステップの開始時の誘発型能力をもたらす。

 紛争は緑と白に多く、黒にも少数存在する。先週紹介した即席は主に青に存在し、黒と赤にもいくらか存在する。

新要素紹介

 即席と紛争の2つのメカニズムの他にも、『霊気紛争』の新要素はいくつも存在する。その中のいくつかを紹介しよう。

伝説のクリーチャーのサイクル

 まず、各色に新しいレアの伝説のクリーチャーが登場した。統率者戦が人気を博していることと、マジックのストーリーに注目が集まっていることから、伝説のクリーチャーはこれまでになく大人気である。『霊気紛争』のデベロップ・チームは、5体をサイクルとして追加することに決めた(伝説のクリーチャーが確定するのは工程の後半であることがしばしばである。そのため、デザインするのはデザイン・チームでなくデベロップ・チームになることがあるのだ)。

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 それらの伝説のクリーチャーの中で知名度が高いのは、チャンドラを(灯が目覚めなければ殺されていたほどの)苦境に追い込んだ官吏のバラルと、『カラデシュ』『霊気紛争』の物語2本で語り部を務めたヤヘンニである。これらのカードはそれぞれ2つの条件を満たすようにデザインされている。その条件とは、その人物のフレイバーをトップダウン的に表現することと、そのカードが楽しくデッキを組む軸になるようなカードであることである。

 伝説のカードはクリーチャーだけではない。このセットには他にも、(この後で紹介する)エンチャント1枚とアーティファクト5枚(うち1枚は機体)、計6枚の伝説のカードが存在する。

巧技サイクル

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 この5体の伝説のクリーチャーを元に、「[伝説のクリーチャー]の巧技」というカード名のカード5枚からなるもう1組のレアのサイクルが作られた。このサイクルのカードは全てソーサリーであり、それぞれが有意義な効果を持ち、そしてその巧技呪文よりも点数で見たマナ・コストが小さいカードをマナを支払わずに手札から唱えることができるのだ。便利なことに、巧技呪文に名前が含まれている伝説のクリーチャーは対応する巧技呪文よりも軽いので、手札にあればその伝説のクリーチャーを唱えることができるのだ。

アジャニとテゼレット

 『霊気紛争』に存在する2枚のプレインズウォーカーは、物語上重要な役割を果たす2人である。一方はアジャニで、『カラデシュ』で登場してゲートウォッチと友誼を結んでいる。アジャニは今回緑白のプレインズウォーカーとして再登場した。ゲートウォッチを初めて紹介したときに、私は、他にも参加する者がいる、と言った。『異界月』ではリリアナが参加したが、それで全てではなかったのだ。アジャニは多色のプレインズウォーカーとしては初めてのゲートウォッチ入りとなる。このため、『霊気紛争』には新しい「誓い」カードとして《アジャニの誓い》が入っている。これももちろん誓いを結んだ人物と同じ色である。

 2人目のプレインズウォーカーはテゼレットであり、こちらは前回と同じ色の青黒で再登場している。『カラデシュ』で登場すると思っていた諸君が多かったが、『霊気紛争』まで温存することに決めていたのだ。前回の登場時と同様に、テゼレットの忠誠度能力は濃いアーティファクト・テーマを帯びている。

さらなるエネルギー

 エネルギーは『カラデシュ』では大きな役割を果たしていた。そして、『霊気紛争』でもそうであるべきだと我々が考えているのは誰でもわかるだろう(そうしなければ現実で霊気紛争が起こってしまう)。先週言ったとおり、エネルギーのデザイン空間は広く、掘り下げるべき場所は充分に残っている(例えば、エネルギーを得るための新しい誘発や、エネルギーを使った新しい効果が存在する)。『霊気紛争』のデザイン・チームとデベロップ・チームは、既存のデッキに入る新しいエネルギー・カードを作っただけでなく、エネルギーの新しい空間を掘り下げようと考えた。特に、白や黒のエネルギー・カードにもう少し注目を集めるために大きく進歩させたのだ。

さらなる機体

 同様に、デザイン・チームとデベロップ・チームは機体の新しいデザイン空間を探した。『カラデシュ』では、『霊気紛争』で使うために意図的に温存しておいた部分があった。このセットでは、エネルギーと相互作用する機体や新しい形で搭乗させるもの、クリーチャーなしでも自動的に搭乗状態になる機体が存在する。また、機体と新しい形で相互作用する新カードも存在する。

さらなるジョニー向けカード

 『カラデシュ』ブロックでもう1つ非常に重要な部分が、発明家気分だ。『カラデシュ』には奇妙なデザインのカードが大量にあり、興味深いデッキ作成やシナジー性の高いゲームプレイにつながっていた。『霊気紛争』のデザイン・チームとデベロップ・チームはこれをこの新セットでも維持しようとしている。『カラデシュ』と同じような雰囲気のカードが大量にあり、さらに『霊気紛争』の反乱的、破壊的な側面を掘り下げたカードも存在しているのだ。

 全体として、『霊気紛争』は『カラデシュ』と同じブロックだと感じさせ、リミテッドでうまく働くのに充分近く、その一方でストーリーに沿った独自性を持つのに充分違ったものにするという意味で素晴らしいものになっていると思う。

爆発的楽しみ

 本日はここまで。『霊気紛争』のデザインについて何か伝えることができていれば幸いである。可能なら今週末のプレリリースに行くことをお勧めする。このセットは実際にプレイしてみなければ正しく受け取ることができないものなのだ。

 いつもの通り、今日の記事について、また『霊気紛争』について、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、カード個別のデザインの話をする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたに我々のちょっとした紛争に加わる時間がありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)