クールなカード満載の新セットがある。話すのが好きな私がいる。相性はバッチリだ。ということでさっそく、『イクサランの相克』のカード個別の話を始めるとしよう。

《炎鎖のアングラス》

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 プレインズウォーカー・カードを作る上で難しいことの1つが、我々はストーリー上の必要に基づいてプレインズウォーカー・カードを作りがちだということである。どのプレインズウォーカーがストーリーに存在するのか。それをカードにしよう。スタンダードですべての色にプレインズウォーカーが存在するようにするため、色のバランスはいくらか考えるが、といってすべての組み合わせを埋めるようにすることが強制されるわけではない。今回の場合は、2色のプレインズウォーカーである。

 プレインズウォーカーが『ローウィン』で初めて登場したとき、単色のプレインズウォーカーのサイクルだった。その次にプレインズウォーカーが登場した『アラーラの断片』では、2色のプレインズウォーカーである《復讐のアジャニ》(赤白)と《サルカン・ヴォル》(赤緑)が登場した。2色のプレインズウォーカーはよく出てくるようになったが、我々が選ぶのはプレインズウォーカーの2色のバランスではなくストーリーの要請に基づくことのほうがずっと多かったのだ。そのため、特定の色の組み合わせ(具体的に言えば赤緑だ)には多くのプレインズウォーカー(《アーリン・コード》《ドムリ・ラーデ》《試練を超えた者、サムト》《サルカン・ヴォル》《歓楽者ゼナゴス》)がいる一方、他の色にはほとんどいないという状況になっている。

 最も愛されていない色の組み合わせは、黒赤だ。長い間、他のどの色も含まない黒赤のプレインズウォーカーは、既存のキャラクターの一時的な姿に過ぎない《狂乱のサルカン》だけだったのだ。純粋な黒赤で、他のプレインズウォーカーの一時的な姿でないプレインズウォーカーを求める声は絶えなかった。オブ・ニクシリスやティボルトは性格的には黒赤だが、さまざまな理由からカードとしては常に単色で描かれてきた。

 我々の目標の1つが、黒赤のプレインズウォーカーにふさわしい時間と場所をスタンダードで使えるセットに見つけることだったのだ。(『コンスピラシー:王位争奪』では、ダレッティの黒赤版である《巧妙な偶像破壊者、ダレッティ》を作ることに成功している。)他の要素によって何度も駄目になったことがある。ストーリーや色のバランスの都合で黒赤のプレインズウォーカーを作ることを複数回断念しているのだ。『イクサランの相克』ではついにその可能性が見えたので、我々はそれをうまくやりたいと考えた。

 ストーリー上、この枠は他の次元から訪れ、イクサランに閉じ込められたプレインズウォーカーでなければならなかった。もう1つ、我々がよく受けていたリクエストに、多くのプレイヤーが人間でないプレインズウォーカーを求めているというものがある。ミノタウルスのプレインズウォーカーについては何年も話し合ってきていたので、条件が完全に整ったように思えた。最後に必要なのは、ストーリーに基づく黒赤のプレインズウォーカーをデザインすることだった。

 メカニズム的に、黒赤のプレインズウォーカーは攻撃的で侵略的である必要がある。対戦相手のものに干渉する必要があるのだ。重要なのは、そのための方法を見つけ、すべての要素を組み合わせることだった。手札を捨てさせることや、一時的に奪うことはふさわしく思えた。では、この2つを組み合わせた奥義を作ることはできるだろうか。

 捨てさせたカードは対戦相手の墓地に置かれる。奪ったらチャンプブロックに使うことはよくあることだ。対戦相手の墓地にあるカードを鍵にするというのはどうだろうか。これを試してみたところ、この奥義を目にしたプレイヤーがチャンプブロックをしないようになることがわかった。我々は、奪う能力に生け贄に捧げるというおまけを付けることでこれを修正した。これで、相手のクリーチャーを確実に相手の墓地に送ることができるようになったのだ。

 この能力の暴走を防ぎ、巨大クリーチャーをプレイする気をなくさせることがないよう、奪った後で生け贄に捧げるクリーチャーの大きさを制限することにした(何と言っても、ここは恐竜の世界なのだ)。

 こうして、我々は(ついに)新たなる黒赤のプレインズウォーカーを作り上げたのだ。


《法をもたらす者、アゾール》

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 このカードへの反応は、どれぐらいストーリーに入れ込んでいるかによって大きく異なる。入れ込んでいない諸君にとっては、これはクールなスフィンクスだ。入れ込んでいる諸君にとっては、これはアゾールだ!

 さて、アゾールとは一体何者か? まずもって、彼はアゾリウス・ギルドを設立した。このギルド名は彼の名前を元にしている。彼はまた、最初のギルドパクトの起草者であり、(『ドラゴンの迷路』で描かれた)暗黙の迷路の作成者である。諸君が彼について知っているのは、彼がラヴニカ出身ではなく、現在ラヴニカを離れており、しばらくの間は不在になっているということだけである。彼が一体どの種族なのかすら知られていなかった。

 実は、彼はイクサランに閉じ込められていたのだ。彼は『イクサランの相克』のストーリーに関わっており、私はそれのネタバレをしたくないので、彼にはあることが起こったのだと言うに留めておこう。何にせよ、ついに彼をカード化する時が来たのだ。

 まず1つ目に、我々は印象的なものにしようと考えた。多くのヴォーソスがアゾールのカード化を何年も待ち望んでいて、我々は失望させたくなかったのだ。6/6はサイズとして妥当だと思われた。2つ目に、彼はスフィンクスだ。これは少し前から決まっていた(公開はされていなかったが)。つまり、彼は飛行を持っている。3つ目に、彼は白青である。アゾール以上にアゾリウスな存在などいない。4つ目に、彼には何かコントロール的な能力が必要である。アゾリウスといえば当然そうなる。

 一見すると、これらの条件はお互いに矛盾しているように見えるかもしれない。印象的ということは大きいということで、大きい飛行クリーチャーは動かずにコントロールするよりも攻撃したいものだ。これの秘密は、コントロール・デッキが求めるような報奨、つまりライフとカードに繋がる攻撃誘発を持たせたことである。これはまた、色とも上手く噛み合う。カードを引くことは非常に強力なので、この誘発型能力はマナを要求することにした。その後、もう少しフレイバーを加えるために、アゾールに非常にコントロール的な戦場に出たときの能力を持たせた。

 さあ、これがアゾールだ。これが諸君の期待に応えるものであることを望んでいる。


《アゾールの門口》/《太陽の聖域》

 ベン・ヘイズ/Ben Hayes率いるチームが『イクサランの相克』のデザインを始めた時点で、土地に変身する両面カードを作ることになるということはわかっていた。小型セットの役割の1つが、大型セットで人気のあったテーマを引き継ぐことであり、両面カードは間違いなくその分類に当てはまるのだ。

 『イクサラン』で作ったものの延長であると感じられ、同時に独自性のあるものにするようなひねりを加える方法はあるだろうか。『イクサランの相克』は4つの陣営がオラーズカの黄金都市を巡って戦うことが中心になる。この要素を反映させる助けとなる両面カードはできるだろうか。両面カードを、探索と乗り越えるべき課題を象徴するものにしたらどうだろうか。

 《アゾールの門口》を例に取ってみよう。すべての陣営は、不滅の太陽として知られるアーティファクトを求めている。不滅の太陽は《太陽の聖域》にあるので、このカードはストーリー上の最後の課題を表すものになる。つまり、このカードには困難な探索に守られた魅力的な成果が必要になるのだ。おそらく、この成果が最初に決められたのだろうと思う。土地に可能な強力なことと言ったら何があるか。大量のマナ、そう、ライフ総量に等しいという大量のマナを出すというのはどうだろうか。

 次は、さらに難しい部分になる。プレイヤーが越えようと思うのに充分小さく、タップして大量のマナを出す土地を得ることとバランスが取れている課題を見つけなければならないのだ。もうひとつ重要なのは、プレイヤーが「解決」しようとしている間もそのカードには何らかの機能が必要だということである。

 アゾールはとても賢明なので、《アゾールの門口》は何か情報をもたらしてくれるかもしれない。それを探索にする方法はないだろうか。解決策は、これをカードを引くアーティファクトではなく、ルーター能力(カードを引いて捨てる)を持つものにするというものだった。捨てたカードの何らかの性質を扱うとしたらどうか。(後に、カードを追跡しやすくするため、追放するように変更した。)条件として、多様なものが必要になるようにしたいと考えた。そうすれば融通の利かないデッキを作る必要がなくなるからである。

 色を使うと、カードを使えるデッキの種類を強く制限することになる。カード・タイプはひとつの可能性だ。最近、昂揚で明らかにこの空間を使っている。クリーチャー・タイプも検討したが、それもまた難しいものだった。

 他を探したところ、点数で見たマナ・コストがあった。ほとんどのデッキでは点数で見たマナ・コストには幅があるものなので、これは興味深い選択肢だった。色の制限と違い、これはほとんどのデッキで全体をそう変更することなく満たすことができる。点数で見たマナ・コストは試してみるべき最善の手に思えた。最後の問題は、何種類の点数で見たマナ・コストが必要だとするかであった。プレイテストの結果、5がちょうどいいとわかった。困難ではあるが可能な数字だったのだ。


《血染めの太陽》

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 マジックのカードを作る中でクールな部分の1つが、問題を解決した時の副産物としてスタイリッシュなものにできることである。『アモンケット』ブロックでは、能力を持った土地が何枚もスタンダードに参入することになった(ほとんどのブロックに存在するものであり、『アモンケット』では平均よりも多かったということである)。それが制御不能になったときのための回答を作っておく必要があった。そういった、いわば「便利土地」を止めるにはどうしたらいいか。破壊することは可能だが、ここでの目的はマナ基盤を阻害することではなく、効果を止めることなのだ。

 それなら、単にマナ部分ではなく便利部分を無効にするというのはどうだろうか。うまくいきそうだ。それはどの色の効果だろうか。白はクリーチャーの能力を止める色だが、土地を扱うのが苦手な色だ。(確かに白は大量のマナを使って土地すべてを破壊することができるが、その効果を採用するときには我々は慎重にしている。)緑は土地を扱うことが最も多いが、大抵の場合肯定的なものだ。赤は伝統的に、基本でない土地対策の色である。つまり、おそらく赤がふさわしいだろう。

 我々はこれを持続的な解決策にしたかったので、このカードをエンチャントにするというアイデアが採用された。すべてを組み合わせてみると、我々はある人気のあるカードと非常に似たものを作っていたことに気がついだのだ。

 さて、《血染めの月》系のカードを作るということになると、それに寄せて面白いことにしたほうがいいだろう。こうして、《血染めの太陽》が生まれたのだ。


《薄暮薔薇、エレンダ》

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 多色カードをデザインするためのコツのひとつが、各色の能力から、テーマ的に関連があってメカニズム的にシナジーがあるものを見つけることである。《薄暮薔薇、エレンダ》はその好例だ。黒の能力で、吸血鬼にふさわしいものは何だろうか。『Arabian Nights』の《Khabal Ghoul》に由来する、そのターンに死んだ他のクリーチャーの数に等しい+1/+1カウンターを得るという「カバル能力/Khabal ability」はどうか。これは非常に吸血鬼らしい。

 白はもう少し難しい。白(と、ときおり緑)は、大抵が小さい、トークン・クリーチャーに手を付けることがある。そうして生成されるトークンが吸血鬼であれば、それはテーマ的に関連性を持つことになる。『イクサラン』の吸血鬼・トークンは、1/1の白のクリーチャーで絆魂を持つ。絆魂は白と黒の能力なので、これは白黒のカードでうまく働く。

 クールなのは、両方の能力が吸血鬼の能力らしく感じられ、しかもシナジーを持っていることだ。《薄暮薔薇、エレンダ》が死亡すると、それまでのクリーチャーの死亡数に応じた吸血鬼を生成するのだ。その時までは、大きな脅威である巨大絆魂クリーチャーとして存在し、対戦相手が殺したとしてもやはり恐ろしいことになるのだ。ヴォーソスもメルも楽しんでくれるだろう。


《原初の嵐、エターリ》

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 エルダー・恐竜のサイクルを作ることが決まると、次の工程はそれぞれを可能な限り魅力的にすることだった。赤のクリーチャーで最初にやることは、常に直接火力だ。魅力的で実用的だが、今までに大量に汲み出した井戸である。まだ何か違うことができるだろうか? 興味深いことに、色の協議会は最近赤について話し合ったところだった。

 赤は最も深いメカニズムを持つが、メカニズムの種類は最も狭い。つまり伝統的な赤のカードを作る方法は多いが、他の色に比べて代わり映えのしないものになってしまうのだ。そのため、我々は常に赤に持たせられる新しい能力について話し合っている。可能性がある場所の1つが、赤の持つ混沌の部分を掘り下げる方法を探すことだ。我々は、結果が完全にはわからない呪文を赤に増やすべきかもしれないというアイデアが気に入った。その結果、赤に例えば《変身》型の能力を増やすということになる。

 カードを引くことも未知だが、赤で使うには安定しすぎている。それが、いわゆる「衝動的ドロー」、つまりカードを追放してそのターンの間唱えられるという能力を赤に持たせた理由である。《原初の嵐、エターリ》でこの方向を進めることはできるだろうか。カードをプレイするだけでなく、コストを支払わなくてよくするというのはどうだろうか。これは衝動的ドローを超えるものだと感じられ、魅力的な赤の効果という条件にもふさわしいものだ。


先駆けサイクル

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 新しいデザインが、過去のデザインを単に今までなかった組み合わせで組み合わせただけのものであることもある。先駆けサイクルはその好例だ。まず、我々は『ローウィン』の先触れサイクルに目をつけた。

  • ボガートの先触れ
  • エルフの先触れ
  • 妖精の先触れ
  • 炎族の先触れ

  • 巨人の先触れ
  • キスキンの先触れ
  • メロウの先触れ
  • ツリーフォークの先触れ

 めったに見られない8枚サイクルで、『ローウィン』でサポートされていた8種類のクリーチャー・タイプそれぞれについてそのクリーチャー・タイプのカードをもう1枚自分のデッキから探してくることができるというものだ。そのカードを自分のライブラリーの一番上に送ることで、そのクリーチャーがカード・アドバンテージになることがないようになっていた。

 ベン率いるチームは、これと、我々が誘発型ロードと呼んでいるものを組み合わせた。誘発型ロードとは、特定のクリーチャー・タイプが戦場に出るたびに誘発する能力を持つクリーチャーのことである。クリーチャーのロードと呪文効果を組み合わせる方法の1つだ。このカードをすぐ次のターンに誘発させる準備をするだろうから、この2つの効果はシナジー的である。先駆けもまた、そのクリーチャー・タイプに偏ることを推奨するという面で優れている。『イクサランの相克』は特にリミテッドにおいて部族にさらに寄せようとしているので、先駆けはその目的を達成する助けとなるのだ。

 このサイクルについてもう1つ触れておきたいことは、4枚サイクルだということだ。存在する陣営が4つだということで、我々はいくらか異なる方法でデザインする必要があった。ベン率いるチームは、4枚サイクルで抜ける色が同じにならないようにしている。


《恐竜変化》

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 マジックではこれまでに1万7千枚以上のカードを作ってきているが、その中でも比較的忘れられないカードがいくらか存在する。最も忘れられないカードの1枚が、『スカージ』の《ドラゴン変化》である。

 ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanがデザインしたもので、自分自身をドラゴンに変身させるというフレイバーを再現するためのカードだ。これは奇妙で突飛なカードで、これまでになくカラー・パイを曲げた1枚だが、同時に、愛されたカードでもある。『Unhinged』で作られたパロディである《〈リス変化〉》を除いて、こういった〈○○变化〉のカードは作ってこなかった。『イクサランの相克』では、そうではない。

 このカードはかなり初期にファイルに入ったもので、目的は単純に「あなたは恐竜である」というものだった。アイデアとしては、プレイヤーが実質的に15/15になり、毎ターン他のクリーチャーと格闘するというものである。デザイン中に、これは赤なのか緑なのかという大議論が起こった。恐竜になるというのは緑っぽいが、戦場にクリーチャー・カードがない状態で複数のクリーチャーを除去できるというのはカラー・パイをあまりにも逸脱しているということで、このカードは赤に入れることになったのだ。

 工程のかなり初期に行われたこのこと以降、ほとんど変更は加えられていない。いったん6マナから7マナになり、また後に6マナに戻っている。今や、諸君すべてが恐竜になる喜びを感じることができるのだ。ギャオー!

ストーリーの時間の終わり

 本日はここまで。いつもの通り、この記事や話題にしたカード、あるいは『イクサランの相克』全体について、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、話の続きでお会いしよう。

 その日まで、マジックのゲームで何か素晴らしいことがあなたとともにありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)