先週、『イクサランの相克』のカード個別の話を始めた。楽しかったので、今日も続けようと思う。

原初の飢え、ガルタ

 各種のエルダー・恐竜での目的は、魅力的で恐竜らしいものを作ることだった。緑では、最大の恐竜を作るということになった。つまり、トランプルを持つ巨大クリーチャーで、他の恐竜が怯えるような恐竜だ。つまりこれは非常に重いということになるので、デザインは《原初の飢え、ガルタ》を唱えられるようにするという挑戦になった。

 巨大恐竜にフレイバー的にふさわしい何らかのコスト低減はありうるだろうか。恐竜の王者を、恐竜の多いデッキに入れたくなるようにする方法はあるだろうか。コスト低減が、他にコントロールしているクリーチャーの大きさに関連するようにしたらどうだろうか。大量の恐竜をプレイしていて、それらが充分大きければ、これを軽く出すことができるかもしれないのだ。

 デザイン・チームはさまざまな数を試したが、最終的には点数で見たマナ・コストが12点の12/12に落ち着いた。コストに緑マナを2点入れたことで、プレイするのに少なくとも2マナは必要となっている。これは伝説のクリーチャーなので、複数体続けて出すことはできない。こうして、緑は強力な恐竜を手に入れたのだ。


黄金の守護者》/《黄金炉の駐屯所

 先週説明したとおり、我々はストーリーを示すために『イクサランの相克』に両面カードを入れたいと考えた。このカードはその役目を見事に果たしてくれている。《黄金炉の駐屯所》はクールな場所なのだ。2マナ出る土地で、4/4のゴーレムを生み出すことができる。問題は、まさにそのゴーレムが人々を追い払う衛兵の役目をしていることで、その土地を訪れたいと思うならまず戦って踏み込まなければならないのだ。

 このフレイバーをメカニズム的に再現するにはどうすればいいだろうか。我々はこれまでに何度も、どのプレイヤーのコントロール下にもないクリーチャーを試したが、そのたびにルール・マネージャーのエリ・シフリン/Eli Shiffrinが睨みつけてきて話題を変えるしかなくなるのだ。それなら、ゴーレムが、自分がプレイするカードと戦うとしたらどうだろう。フレイバー的な理由から、これは防衛を持つことにできる。これは《黄金炉の駐屯所》で作られるのだから4/4だ。そして、可能なときに、これと味方の他のクリーチャーを格闘させることができるのだ。

 こうすることで、これと戦って入り口を開けることができる。これはフレイバーを再現しており、さらにデッキに入れておいてこれを倒して変身させるために必要なものが準備できるまで使うカードを作ることもできるようになった。

 マジックのデザインを長い間手がけている一人として、私はこの種のデザインを見つけたら嬉しい。こんなに独特の雰囲気をまとっているのだから。


ハダーナの登臨》/《オラーズカの翼神殿

 《黄金の守護者》/《黄金炉の駐屯所》は、フレイバーに合うメカニズムを作るという比較的トップダウン型のデザインだった。《ハダーナの登臨》/《オラーズカの翼神殿》は、それとは対照的に、メカニズムから始まるボトムアップ型の手法を取っている。それ自身にとって便利で、プレイヤーにとっても目標に進む助けとなるような効果はあるだろうか。また、このカードは緑青なので、その色のテーマにもそぐうものでなければならない。

 このセットでは、緑青には+1/+1カウンターというテーマがある。カウンターを与えるエンチャントを作るのはどうだろうか。そうすれば我々は変身する誘発型能力を作るためにいくつのカウンターがあるかを参照することができる。(このエンチャントがカウンターを与えるのが戦闘開始時なのは、それを即座に使えるようにして、変身を早めるためである。)このカードの巧妙なところは、複数の使い方があるところである。まず、単に同一のクリーチャーに3ターン続けて+1/+1カウンターを置き、変身させることができる。《オラーズカの翼神殿》としては、パワーが大きいクリーチャーに使うと有利になる起動型能力を持っている。

 もう1つ、カウンターを広く撒いて、わざと《ハダーナの登臨》で置いておき、可能な限り多くの+1/+1カウンターを置くという選択もできる。この戦略の狙いは、このエンチャントからどれだけのカウンターを出せるかということになる。

 3つ目の戦略は、《ハダーナの登臨》と他の緑青の+1/+1カウンターを置く効果を組み合わせ、変身を3ターン以前、最速では唱えたターンに済ませてしまうというものだ。

 このデザインの柔軟性から、これとの独特の相互作用が生まれ、また他の探索両面カードと違う働きをする楽しい探索カードができたのだった。


光輝の勇者、ファートリ

 先週、私は、スタンダード内のプレインズウォーカーの色のバランスがある程度取れるようにするために使っている、プレインズウォーカーの格子について語った。さまざまな因子から、この格子は緑白のプレインズウォーカーの必要性を示していた。通常、緑白のプレインズウォーカーと言えばアジャニだが、ストーリー上の理由からアジャニはイクサランにはいない。そこで、我々は新しいキャラクターを作る必要に迫られた。

 本当にそうだろうか。最初にファートリを作ったとき、彼女は恐竜に関連するプレインズウォーカーなので、赤緑白にすることを検討した。『イクサラン』では彼女は2色にする必要があったので、最終的に彼女を赤白にしたのだ。しかし、性質的には彼女は明らかに緑の要素を持っている。ストーリー上彼女の性質をいくらか変化させて、このセットの緑白のプレインズウォーカーにするのはどうだろうか。

 ファートリを使うと決めたら、次の問題は、彼女のカードをどうデザインするかだった。我々は、彼女を「クリーチャーに優しい」プレインズウォーカーにするというアイデアを採用することにした。『イクサラン』版の赤白のカードもそうだったので、キャラクターの連続性を生み出すことになる。

 緑と白は最もクリーチャー寄りの2色なので、使えるメカニズム空間が充分にあるということはわかっていた。赤白のときにしたようにクリーチャーのサイズを参照するのではなく、今回はコントロールしているクリーチャーの数を参照するようにしたらどうだろうか。おそらく、最初にできたのは2つ目の能力だろう。彼女は自軍のクリーチャーの数に基づいてクリーチャーを強化するのだ。次は奥義だ。クリーチャーが自分のコントロール下で戦場に出るたびに利益を得るような紋章を作るというのはどうか。

 [+1]能力にはいろいろな選択肢があった。小型クリーチャー・トークンを生成するのはメカニズム的にはふさわしかったが、キャラクターにふさわしいとは言えなかった。ファートリは大型の動物に惹きつけられるのだ。また、赤白版で恐竜を生成していたので、何かトークン以外のことをしたいと考えた。そこで、1つ目の能力を、クリーチャーと忠誠度を関係づけるものにするというアイデアが生まれた。クリーチャーが多ければ多いほど、得られる忠誠度が多くなるのだ。これはメカニズム的にもフレイバー的にもふさわしいものだ(そして両ファートリをお互いに相性良く使えるようにした)。


不滅の太陽

 ときどき、ストーリー上で重要な役割を果たす物品が存在する。そしてデザイナーはそのフレイバーをゲームプレイ上で再現するカードを作ることになる。メカニズム的つながりが明白で、カードが自分でデザインしたようなものになることもある。しかし、ストーリー上でしたことが明白でなく、そのふさわしいメカニズムをデザイナーが探さなければならない場合もあるのだ。《不滅の太陽》はまさにその後者だった。

 わかっていたことは、不滅の太陽は全ての陣営が追い求める凄まじい力を持つ物品であること、しかし各陣営が求める理由は全く異なるということだった。そして、プレインズウォーカーがイクサランからプレインズウォークできない原因はこれだということもわかっていた。さて、ゲーム上、プレインズウォークが起こらないというのはどういうことだろうか。プレインズウォークするのはセットとセットの間なので、通常はメカニズム的に表現するようなものではない。また、どうすれば誰もが相異なる理由で求めるアーティファクトを作ることができるだろうか。メカニズム的にどう表現されるのか。

 2つ目の問題のほうが先に解決されることになった。どんなデッキでも使える、一般的に有用なアーティファクトを作ればどうだろうか。そのために、ほとんどのデッキが求めるような能力をいくつか持たせることにした。カードを引く? そう、ほとんどのデッキは欲しがるだろう。呪文のコスト低減? ほとんどのデッキで有用だろう。クリーチャー頌歌(自軍クリーチャー全てに+1/+1)? ほとんどのデッキで有用だ。これで、一般的に有用で強力なものができた。難しいのは、1つ目の部分を見つけることだった。

 《不滅の太陽》はプレインズウォーカーのやることを阻害する。ゲームプレイにそのアイデアを翻訳する方法は他にないだろうか。このアーティファクトがプレインズウォーカー・カードに干渉するとしたらどうだろうか。それはどういうことか。忠誠度能力を起動するのを止めることは可能だ。これならプレインズウォーカーに干渉している。デザイン・チームはこのアイデアを試し、それが雰囲気も適切でプレイ感もいいと見つけたのだった。


誘導記憶喪失

 このカードは「注目のストーリー」の1枚だ。ストーリー上のある時点で、ジェイスはヴラスカの精神を消し去る。それをカードでどう再現するのか。記憶喪失を、手札破壊の黒のカードと関連付けることがあるが、この呪文はジェイスが唱えるものなので青でなければならない。通常、精神を表すために手札やライブラリーを用いるのだから、青でその2つのどちらかに干渉する方法は何か。記憶喪失なのだから、記憶を失ったと示すものである必要がある。ライブラリー破壊(ライブラリーから直接カードを墓地に置くこと)はどうだろうか。記憶を失うことは表せているが、華々しさが足りない。手札を攻撃する方法はないだろうか。

 この問題を解決する上で重要なのは、一歩引いて単純な質問をすることである。青でプレイヤーに手札を捨てさせることはできるのか。ルーター能力はカードを引いて捨てさせるが、カードを捨てるほうが後だ。青で、カードを引く前に捨てさせたことはあるだろうか。手札を全交換させるときにはそうする。プレイヤーに手札をすべて捨てさせ、そして同数のカードを引かせるというカードはどうだろうか。これはいい出発点だ。ただし、フレイバーに合わせるなら、プレイヤーには記憶を取り戻す方法が与えられる必要がある。

 我々はこれを解決するため、この呪文をエンチャントにして、戦場にある限り手札を(新しい手札と交換してから)追放するようにした。このデザインによって、これは対戦相手に対して攻撃的に使うことも、《誘導記憶喪失》を破壊するなり生け贄に捧げるなりする手段を準備しておいて自分に使うこともできるようになった。


永遠への旅》/《永遠の洞窟、アザル

 『イクサラン』ブロックの両面カードを作る上での課題の1つが、それぞれ異なる変身の条件を作ることだった。『イクサランの相克』のアンコモンの敵対色のサイクルは、5枚ともエンチャントである。ただし、《永遠への旅》は唯一のオーラである。これの探索は、これがエンチャントしているクリーチャーを殺すことが条件になっている。戦闘であれ、除去呪文であれ、生け贄であれ構わない。興味深いことに、最初のクリーチャーを殺すことができれば、得られるのは他のクリーチャーを戦場から戻すことができる能力なのだ。


暴走の騎士

 恐竜という部族に関して見つけた技の1つが、他のほとんどの部族と比べて、クリーチャーを唱えやすくすることが助けになるということである。『イクサラン』で、我々は《キンジャーリの呼び手》と《オテペクの猟匠》の2枚でそれを実践した。

 それぞれは恐竜の色のうち1色で、恐竜のコストを1点低減するものだった。『イクサランの相克』では、恐竜陣営の最後の色である緑でその続きを作った。緑は恐竜の中心色であり、もとよりマナ加速に最も長けた色なので、《暴走の騎士》は恐竜のコストを2点減らすという形で一歩進んだ。また、このカードはゲームの終盤で大きな恐竜を出す助けとなるよう、いくらか重く、いくらか大きくなっている。小型セットは大型セットの進化だと感じられるものが最高なので、第1セットでやったことを前提として、いくらか大きく強力な方法で積み上げることができるのはいいことなのだ。


オラーズカの暴君、クメーナ

 部族のロードを作る方法はいくつも存在する。《オラーズカの暴君、クメーナ》はいわば「部族のリソース化」と呼ぶべき方法を取った。部族を強化するのではなく、その部族が多くいればこのカードが強化されるのだ。

 そのための方法はいくつも存在する。(戦場なり墓地なりの)その部族を数える、その部族を生け贄に捧げる、その部族を公開する、その部族を捨てる、墓地からその部族を追放する、そして《オラーズカの暴君、クメーナ》が使ったのは、その部族をタップすることだ。

 この最後の分類が初めて大々的に試みられたのは、『オンスロート』のときだった。初めての部族ブロックを作っていたので、メカニズム的にいろいろな参照方法を試し始めたのだ。この能力は、戦場に特定の部族のクリーチャーを大量に並べることが最も多い白のカードで使われた。実験は成功し、部族のデザインをする場合にはずっと使う道具になったのだ。

 《オラーズカの暴君、クメーナ》では、それぞれ必要とするマーフォークの数が異なる能力を3つ持っているのが新しいところだ。これによって、さまざまなリミテッドのデッキに入れることができ、ゲームの進行に応じて加速する効果を生むことができる。マーフォークを多く使えば、《オラーズカの暴君、クメーナ》のできることも増えるのだ。最初の2つの能力は青が1種色で、最後の能力は緑が1種色だ。


クメーナの覚醒

 非常によくあるデザインとして、いわば向上可能な呪文と呼ぶべきものが存在する。Aという効果を持つ呪文だが、もし何らかの条件を満たしていればAだけでなくBもするのだ。BはただのAの強化版であることもあるが、別の、シナジーのある効果であることも多い。この種の呪文はよく作ってきたので、定番の向上が大量に準備できている。我々が常々使う例の1つが、クリーチャーやパーマネントをオーナーの手札に戻す青の呪文で、向上状態にあればそのクリーチャーやパーマネントをオーナーのライブラリーの一番上に置くというものだ。

 《クメーナの覚醒》では、向上が能力を強化するのではなく、起こることを止めることで自身の有利になるようにするという、時々使われるひねりが加えられている。これは2種類に分けられる。自分に及ぶ不利益を止めるものと、対戦相手に及ぶ利益を止めるものだ。《クメーナの覚醒》はその後者である。このカードは最初、『アルファ版』にまで遡れる《吠えたける鉱山》の青のエンチャント版として作られ、その効果を自分だけに有効にする方法が定められたのだ。

 いちデザイナーとして、私はこういった種類のカードを作る単純でエレガントな方法を探すのが好きである。


原初の潮流、ネザール

 青のエルダー・恐竜は緑のそれのように単純なフレイバーは持っていなかった。大きな水棲恐竜で、時々水底に潜むのだ。それをどう示せば良いのだろうか。

 コストを支払って《原初の潮流、ネザール》を「明滅」させることができるとしたらどうか。恐竜を追放して、そのターンの終了時に戦場に戻させるというのは、水底に潜み、危害を避けてから再び現れることを示すための素晴らしい方法だ。特別なものに感じられるようにするため、この能力はただのマナではなく青にとって重要なリソースである手札をコストとして要求することにした。

 次に、このカードにはそのコストの助けとなる何かが必要である。手札を捨てることがコストなら、カードを引く方法が必要だろう。これはまさに青のカラー・パイの効果だ。青は果敢の1種色であり、クリーチャーでない呪文が好きだ。《原初の潮流、ネザール》が、対戦相手の唱えるクリーチャーでない呪文が好きだとしたらどうだろうか。《原初の潮流、ネザール》をさらに魅力的にするため、手札の枚数のせいで捨てなければならないことがないようにするおまけが追加された。さらに、もう少し派手にするために、4つ目として打ち消されない能力が追加されたのだ。

 このカードは使ってみるまでそのエレガントさがわからない類のカードではあるが、すべてのカードが12/12トランプル・クリーチャーのようなわけにはいかないのだ。

もうすぐ終わり

 今日はここまで。まだNまでしか進めていないので、もう1回使って『イクサランの相克』のカード個別の話をするということは予想できていることだろう。いつもの通り、諸君からの今日の記事やカード、セットに関する意見を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、OからZの話をする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたのエルダー・恐竜があなたに勝利をもたらしますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)