デザイン演説2012
何年も前、私が初めて首席デザイナーになったときに、私はアメリカ合衆国大統領になぞらえて毎年マジックのデザインに関する演説のためにコラムを1本書くことにした。そのコラムの中では、前の年のデザインを振り返り、何がうまく行って何が失敗だったのかについて語り、また、同時にその年のデザイン上の目的がなんであるかを語るものである。今年でデザイン演説コラムは8回目になる。これまでのデザイン演説は以下の通り。2005年、2006年、2007年、2008年、2009年、2010年、2011年(2009年までは英語のみ)。
毎年、同じ質問への答えから始めることにしている。「マジックのデザインにおいて、去年はどんな年だったか」だ。これは単純な話で、良かった、となる。4年続けて、マジックは19年の歴史の中で最良の年を迎えている。プレイヤー数は過去最多で、セットの評判も上々、飛ぶように売れている。
だからといって完璧というわけではないし、これから改善すべき点を挙げたいと思うが、全体としてみれば非常にいい年だったと言えよう。これを踏まえて、より重要な質問に繋ぐ。それは、「なぜか」だ。
続けざまにすばらしい年を重ねていることはもちろんすばらしいことだが、同時に少しばかり驚くべきことでもある。私はマジックを17年間作り続けてきた。ここ4年がそれまでの13年と違うのはなぜだろう? 私はこれについてかなりの時間を費やして考え、一つの結論に達した。
#1) 我々はついにマジックの最大の欠点、参入障壁を解消し始めた
あらゆるビジネスにおいてもっとも重要な質問の1つは、「あなたの商品の最大の欠点はなんですか」だ。商品の最大の長所を見つけ出すのには熱心でも、作っているものの欠点については適当に言い逃れることがある。しかし、進歩の鍵となるのは、長所を伸ばすことではなく欠点を解消することなのだ。
理由は単純だ。成長は重要なので長所を伸ばすのは当然すべきだが、何かが巧く行ったならその巧く行っているところにそれ以上の上積みをするのは困難である。その一方で、欠点に対しては上積みできる幅が充分に存在するのだ。
従って、私はマジックの欠点を理解するのに何年もの年を重ね、そしてそれが参入障壁であるということが明白となった(それに関しての話だけで1本のコラムにまとめている(リンク先は英語))。端的に言うと、マジックについて学ぶのは非常に難しいのだ。多くのルールが存在するからと言うだけではなく、怖じ気づかせるような存在を作り上げているからである。マジックをプレイするプレイヤーは、それをプレイする。彼らはマジックにこだわりを持っており、友人たちにその長所を薦めてくれる。私の友人で、私のマジックに注ぐ情熱に怖じ気づいてマジックをなかなか始めなかった人たちもいる。彼らには、それほど準備が必要に思えることを始める気構えはないのだ。
我々は、プレイヤーがマジックを学べるように様々な手を尽くしてきた。それ専用の商品(アーク・システム、ポータル、スターター・シリーズその他)を試した。ルールの革新も試みた。エントリー・パックの変更もした。プレイヤー諸君に、友人に教えるように薦めもした。マジックを新たな地平に進めようとした。あらゆることを試してみたのだ。そして、我々はデュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズを試した。ようやく巧くいくものを見付けたのだ。
この目的においてなぜデュエルズがそれほど有用だったのかというと、いくつかのことを見事にこなしてくれたからである。
まず、デザインが単純で簡明で楽しいものだった。開発部はステンレス・ゲームズ/Stainless Games(デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズの製作会社)と密接に協力し、マジックを期待される以上のビデオゲームに仕立て上げた。
2つめに、金銭的にも安いものになった。どのバージョンも無料で試すことができ、完全版もちょっとしたレストランでの夕食より安く手に入れることができる。これによって、新規プレイヤーが気軽に試せる環境ができた。
3つめが、1人でプレイできるということだ。マジックは社会的ゲームなので、自分よりも良くマジックを知っている人たちばかりの中に入るのには怖じ気づくものである。1人でプレイできることで、ばつの悪い思いをすることなく何度でも安心して失敗することができる。
4つめに、このゲームが助けになるということがある。周りに人がいなくても、このゲームそのものがプレイヤーを導いてくれる。デュエルズは新規プレイヤーに必要な情報を可能な限り簡明な方法で伝えるという面でも秀でており、プレイヤーが情報を必要としたときに前もってその情報を提示することもこなしてくれている。
5つめが、新規プレイヤーにマジックの世界を見せるという点においてこのゲームは良い働きを見せている(そして、バージョンごとにさらに良くなっている)ということだ。マジックの長所の一つに世界観があり、デュエルズはそれに光を当てているのだ。
6つめ、デュエルズはプレイヤーにマジックをプレイさせるという面で素晴らしい仕事をしている。参入障壁がマジックの最大の欠点であったとしたら、すばらしいゲームであることは最大の長所である。他のあらゆるものを取り除いてマジックをプレイできるようにすれば、それはそれは楽しいことだ!
#2) 我々は芳醇さを取り入れてきた
アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe我々が何年も前に気付いたことだと諸君が思っていることを諸君に与える、という話だと思うだろうが、これは基本セットの再定義にともなってマジックを作るアプローチを大きく変更したアーロン・フォーサイスの手柄である。我々は、諸君が目にしたこともないものを作ることはない。今は我々は諸君が知っているものを別のレンズを通して提示する形で作っている。ホラー・ジャンルは既存のものだが、マジックにとっては新規のものだ。
去年の成功を振り返ってみると、諸君がすでに知っていることを前提にしたことから来ていることが多い。そう、抱き合わせたのだ(意味がわからない諸君は先週のコラムを参照のこと)。プレイヤーがその人生のいくばくかを費やしてきた何かをマジック流に捻る。ホラー・ジャンルの新しいものを作るのではなく、ホラー・ジャンルに乗ったのだ。
#3) 新世界秩序の発見
(マジックにおける)新世界秩序について理解していない諸君は、先にこちらのコラム(リンク先は英語)を読んでくれたまえ。過去5年のマジック・デザインに最大の衝撃をもたらしたものを決めろと言われたら、私は、上級者にとって魅力的なままで新人に取っつきやすくする手段の探究であるこれを挙げることになるだろう。
イニストラードはその探究の成果であり、これについてはすぐに触れる。ここで重要なのは、マジックの各要素(この場合デザインとデベロップ)はそれぞれの立場から参入障壁を減らすために何ができるかを考え始めた、ということである。
#4) カジュアル・プレイの推進
カジュアル・プレイという話になると、ウィザーズは常にいいゲームについて話してきた。ずっと推奨はしてきたが、ここ数年、我々はそこに予算を付け始めた。ただサポートしているというだけでなく、楽しみのための、カジュアル、多人数戦といったマジックをすることができるような商品を作ることでサポートし始めたのだ。プレインチェイス、アーチエネミー、統率者、我々はこういった商品を作り続けることで、イベントで勝利することだけがマジックではないという明確なメッセージを発信してきた。
これらのことを経て、参入障壁は低くなったと言える。私は、マジックの数字が拡大し続けているのは、ウィザーズ(内外)のあらゆる部署が長年にわたりマジックをわかりやすいものにするために積み重ねてきた尽力の成果だと信じている。
成功の理由の分析が終わったところで、去年のことを振り返ることにしよう。
2011/2012年のハイライト
去年のデザインにおいて卓越していたと私が考えていることは3つある。
イニストラード
私はマジックの過去の成功の多くに関与しているが、このセットほどのホームランは見たことがない。イニストラードは、セットが気に入るあらゆる理由に基づいて愛された。リミテッドは大成功を収め、トッププロの何人かは史上最高のリミテッド環境だと呼んでいる。複数の構築フォーマットにも影響を及ぼした。統率者戦にも多くのカードが見られた。ティミーもジョニーもスパイクも気に入ったのだ。このセットにはトレード向きのカードも詰まっていた。コミュニティからの反響も肯定的なものがほとんどだ。隅から隅まで大成功だと言える。
このセットのデザインには非常に満足している(私が担当した中でも一番かも知れない)が、このセットの成功理由の大部分を占めるのはそれではない。エリック・ラウアー/Erik Lauerがリーダーを務めたデベロップこそがその実体としてデザインの作品を磨き、セットを様々なフォーマットで実用的なものにした。また、クリエイティブ・チームはジェンナ・ヘランド/Jenna Hellandのコンセプトに基づき魅力的な物語や素晴らしいイラストからなる魅力的な世界を作り上げた。
このセットが私の初めてのトップダウン・デザイン(後述)だったが、ホラー・ジャンルに命を吹き込むことができたことに非常に満足している。特に、このセットのフレイバーにあったメカニズムを使うことができたことに誇りを感じている。
これについては通常このデザイン演説のコラムでは触れないのだが、イニストラードとなると話は別だ。イニストラードは今後の私のデザインにおける基準となるだろう。
両面カード
イニストラードのプレビュー後、もっとも多かった批判は「なんで両面カードを入れなければならなかったのか」である。
アヴァシンの帰還のプレビュー後、もっとも多かった批判は「なんで両面カードを入れなかったのか」である。
マジックをデザインする上での何点の一つは、いつどこでタブーを犯すかである。頻繁にやりたいとは思わないし、やるなら賢くやりたいと思っている。両面カードはデザイン時点でここだと感じた。トム・ラピル/Tom LaPilleが狼男の問題(あるときは人間、あるときは狼男であるクリーチャーを再現しなければならないということ)を解決するために提示したのだ。デュエルマスターズでも好評だったが、マジックではそれをさらに進化させている。
私は、両面カードの出来に非常に満足している。デュエルマスターズからヒントを得たのは確かだが、メカニズムは大きく異なっている。闇の変身を表すためのその働き、そしてこのセットにおいて再現したい物語を見事に捉えてくれたのだ。
私は、ギミックはそのギミックだけのために存在するとは思っておらず、重要な目的があればそれまでの常識を踏み外すことも恐れはしない。全体で見ると、イニストラードのデザインはほとんど議論の余地はなかった。開発部の中に両面カードを取り除くべきだと強く主張した人がいるぐらいである。
1年経ってから見ると、私が固執したのは正解だった。両面カードは必要なことをすべてこなしてくれたと信じている。目にした諸君は驚き、ざわめいたが、実際のプレイで試してみると評価は上々だった。私は両面カードがセットに焦点を与え、闇の変身というテーマを際立たせたことを気に入っている。
ほとんどの批評家(すべてとは言わない)も、最終的にはドラフトの時の不格好さが最初にイメージしたほどのものではないこと、そしてイニストラードのドラフトに特別さをもたらしたことを認めたと信じている(私は、この不格好さがこのメカニズムの最大の問題点であることは認めるが、それは初期の批判屋が言っていたほどではないと言いたいのだ)。
あらゆることを踏まえて、両面カードには多くのデザイン空間がある。つまり、今回の成功によってマジックの未来に資産を残すことが出来たのだ(いますぐ使えるものではないが)。全体として、私は両面カードがこの年の大成功の1つだと感じている。
アヴァシンの帰還
この3つめはを聞いて眉をしかめる諸君がいるだろうと思う。アヴァシンの帰還は教訓コーナーに行くはずで、ハイライトに入るはずではないと感じている諸君もいるだろう。私は、諸君の知らないことをいくつか知っている。その中で最大のものは――アヴァシンの帰還が大成功だったということだ。どういう意味かというと、パックが売れたということだ。それも少しばかりではなく、大量のアヴァシンの帰還が売れた。あまりに売れたので、開発部はこのセットでやった正しいことが何なのかというミーティングを持ったほどだ(問題点についてのミーティングもやった。その結果についてはこのあと触れる)。
なぜアヴァシンの帰還にそれほどの人気が出たのか、いくつもの想定が出来る。天使テーマには人気があった。結魂は、誤解もあったが、好意的に取られた。奇跡は、オンライン上に不平はあったものの、大成功だった。久しぶりの勧善懲悪は多くのプレイヤーに受け入れられた。
首席デザイナーとして、何が巧く行って何が巧く行かなかったのかを分析するのは私の仕事である。諸君の言葉だけでなく、その行動からも分析している。アヴァシンの帰還には欠点があった(そのいくつかについてはこの後触れる)が、長所もあったのだ。その長所の最大のものは、プレイヤーを――多くのプレイヤーを、ほほえませたことである。
2011/2012年の教訓
長所について語ってきたので、次は欠点である。昨年得た教訓はどのようなものがあるだろうか?
イニストラードのリミテッドに基準を置かなければならない
アヴァシンの帰還に人気があると言っても、全てが正しかったわけではない。最大の問題点は、リミテッドのゲームにあると言える。コモンのカード・パワーに差がありすぎた。除去が足りなかった。必要なだけ充分に色の均衡が取れていなかった。一言で言うと、アヴァシンの帰還は、マジックのリミテッド・ゲームを高めるために尽力したイニストラードの水準に達していなかったのである。開発部はこの失態について議論を重ねてきた。アヴァシンの帰還はリミテッドのよりよい環境を作り上げるための反面教師にしたいと思う。
私が話してきたことは、デベロップの問題である。この問題にデザインはどう関与できるのか? その1つめは「ピラニアを金魚の中に入れない」という問題である。善なるものが一団となるイメージを作りたかったので、それを示すメカニズムである結魂を選んだ。結魂に注目を集めるため、結魂の邪魔になるものを弱体化させた。その最大のものがクリーチャー除去である。結魂を働かせることには注力したが、一回不利になったプレイヤーの逆転の芽を摘んでしまったのだ。言い換えると、我々はゲームの重要な部分を失敗し、リミテッドにおける収支バランスを減少させてしまったのだ。
2つめの問題は、善なるものの対照に悪なるものを置いたことである。善なるものは団結し、悪なるものは個体で戦う。個体で戦うというテーマを強調しすぎて、黒をプレイすることが難しくなった。これによって上で述べた色の均衡を一部崩してしまったのだ。
3つめの問題は、シナジーを強調しすぎたことである。私はシナジーが大好きだが、カードの組み合わせを強くしすぎるとゲームの流れが不安定になることに注意が必要である。ゲームが固着しないようにすることは良いことだが、マジックにおいてテンポをもたらし、プレイヤーがゲームを把握できるようにすることは重要である。
私にとっての重要な教訓は、デザインはその目的において非常に慎重でなければならないということである。デベロップはセットの強さを適正にすることでこちらの考え通りのことをさせられるが、デザインはマジックの本質からマジックを揺り動かすようなことをしろと言われているわけではないということに注意したい。
ブロックの連続性は重要である
前のブロック、ゼンディカー/ワールドウェイク/エルドラージ覚醒は大/小/大であった。その年のデザイン宣言での教訓の一つに、こんなものがあった。
プレイヤーにブロック内の連続性を感じさせよ(全てが変わったとしても)
この教訓に基づいて、アヴァシンの帰還はエルドラージ覚醒よりも連続性を持ったものにした。しかし、それでもまだ充分ではなかったのだ。イニストラードと闇の隆盛でできたデッキに入れられるようなアヴァシンの帰還のカードを作ったし、連続したメカニズム(不死)も入れた。しかし、あらゆる反響を踏まえて、不充分だった。
では、どうすればよかったのか?
両面カードの使用
この革新はイニストラードや闇の隆盛を定義づけていたので、ブロックの最後のセットがそれを使わないと聞いたプレイヤーは驚いたようだった。それまで闇の変身を表していた両面カードの不存在は、闇の支配から脱したという現れだった。どうするのが最善だったかはわからないが、そのブロックを定義づけていたメカニズムを使い続けるようにすべきだった。片面狼男の作成
イニストラードの狼男がどうセットに影響したと感じているかについてはすでに語った。狼男はもっとも多く存在する種族の1つとなった(これより多いのはゾンビだけだ)。アヴァシンの帰還にはウルフィーがいたが、これらのクリーチャー・タイプは狼男ではなく、2枚しか存在しなかった。振り返ってみると、片面狼男(狼男状態のまま戻れなくなったものとか)を作り、最後のセットからも狼男デッキを強化できるようにすべきだった。狼男はそうそう中心になるものではないのに、最後のセットでそれを押し切れなかったのは恥ずべきことだ。2つめのメカニズムをブロックの早期に使う
アヴァシンの帰還で不死を使ったことは喜ばしいことだが、2つめのメカニズムにも早期にアクセスさせるべきだったかもしれない。フラッシュバックを使ったが、セットの残りのカードからのサポートもなくあまりに突然だった感は否めない。これは失敗だったかも知れない。陰鬱や窮地はフレイバー的に有効だったとは思わない(怪物にしてみれば窮地かも知れないが)。我々はフラッシュバックに別の彩りを与える方法を探さなければならなかったのだろう。
ここでの教訓は、いいアイデアがあってもそれで終わりではないということだ。プレイヤーは(全てが変わったとしても)ブロックに一貫性を求めている。またいずれこれに挑戦しなければならない。
求められたものの供給
このコラムで何度も挑んでいるテーマの一つに、準備と想像に応えることの大切さがある。イニストラード・ブロックでは多くのことをうまくやっているが、プレイヤーの想像に応えていない部分がいくつかあると感じた。その例を挙げると、次のようなものがある。
伝説の狼男
イニストラードのデザイン・チームは5つの部族(人間、スピリット、吸血鬼、狼男、ゾンビ)それぞれに強力な神話レアを作った。デベロップはファイルを修整し、伝説のクリーチャーは4つの部族にだけ存在するようになった。伝説の狼男を解決するには製作上の問題があったわけだが、我々はそのパズルを解くべきだった。統率者戦がこれだけ人気がある状況で、狼男の統率者が出てこなかったことは多くのプレイヤーを失望させた。人間の「隊長」
闇の隆盛には2色の部族ロードの4枚サイクル(《ドラグスコルの隊長》《戦墓の隊長》《流城の隊長》《常なる狼》)が存在する。各クリーチャーはそれぞれのクリーチャー・タイプを強化し、その部族にとって非常に有用な2つめの能力を持つ。人間の窮状を表すため、人間の隊長は(これやその他いくつかのサイクルから)取り除かれた。アヴァシンの帰還で人間に流れが来た時には人間の隊長が出るだろうと想像されていた。闇の隆盛に入れなかったのは間違いでないと思うが、サイクルの残りの部分をアヴァシンの帰還に入れるのは素敵でフレーバーにそぐうものだったと認めよう。我々はそれに思い至っていなかった。緑の呪い
これは、緑の呪いをデザインしなかった私の失敗である。いや、一旦はデザインしたのだが、イニストラードの世界観的に呪いが白以外の前職に存在するということを(イニストラードのリード・デベロッパー)エリック・ラウアー/Erik Lauerに納得させられなかったのである。今回の場合、白の呪いを闇の隆盛で出して(《疲労の呪い》)サイクルを完成させたのだが、イニストラードで実際に起こったことがなんだったのかを確認しなかったのが私の咎である。デザイン上でやったことすべてをデベロップに正しく伝えることは重要だという教訓を得た。
これらの過ちはデザイナーとしてよりよく知っている私にとってもっとも重大なものである。最も不平不満が多かったことでもあり、その反響をもたらしてくれたこのコラムに感謝する。
全体の目標
長所と欠点を見てきたところで、昨年の目標についてどうだったか見ていこう。
毎年言っている通り、これらの目標の狙いは「この目標を目指したか」ではない。当然のことながら、私がこの目標を宣言したときには翌年の商品についてわかっているのだ。つまり、これらの目標はプレイヤーからの反響に基づいて評価される。プレイヤーは我々がやったことを気に入ったか? プレイヤーの反響は、我々のこの目標と実際についてどう評価しているのか?
2012年度目標#1: 傷跡ブロックを踏まえて、デザインの第5の時代を確立させる
第5の時代というときの鍵となるのは、テーマをブロックのキャンバスに使うのではなくブロックの絵の具として使うということである。イニストラードを例に取ろう。かつて、我々は墓地テーマのブロック(オデッセイ)を作った。部族テーマのブロック(オンスロート、ローウィン)を作った。イニストラードは墓地と部族を要素として持っているが、それらはこのブロックを定義づけるものではない。イニストラードはホラー・ジャンルの再現を旨としており、そのためにこれらのテーマがセット中にちりばめられているのだ。
イニストラードはまさにこの第5の時代そのものだと私は信じている。テーマを利用し、組み合わせて、他にないイニストラードを作り上げた。これが重要な理由は、大テーマになり得るものの数が限られているからである。「マジック史上8回目の部族テーマ」は魅力的ではない。デザインがマジックを新鮮なものに保つためには、これまでやったことの焼き直しでないメカニズムによる環境を作る能力が必要なのだ。
別の言い方をすれば、ブロックのデザインはレシピの作成のようなものだ。それまでに蓄積された人気の要素を掘り返し、組み合わせてまだ誰も食べたことのない料理を作り上げる。イニストラードは、我々の判断だけでなく諸君の反響を見てもこれを巧くやったと言っていいだろう。ここは合格だ。
2012年度目標#2: トップダウン・デザインがセットの中核になれることを示す
最近、「芳醇」という単語が開発部のメンバーによってよく使われるようになったが、ここでイニストラードは私のデザインした最初のトップダウン・セットだということを思い返して欲しい(イニストラードは私がリード・デザイナーを務めた14個目のセットだった)。私の目標は非常に単純なものだった。構築する上での注意点はただ1つ、マジックやそのプレイを可能な限りホラーっぽくすること、だ。私のデザイン上の判断全ては、ネタ元の雰囲気を再現するためのものだった。
多くのセットに芳醇さのかけらはあるが(たとえばゼンディカーには冒険世界を再現する罠、探索、同盟者といった要素がある)、過去にトップダウン・デザインで作られたブロックは1つしかない。神河物語である。デザイン上の観点からいうと神河ブロックは失望するようなものなので、イニストラードは未踏の地に踏み入ったことになる。
私はデザインのこの変化に非常に満足している。望み通りのことをやってくれたと感じている。イニストラードは諸君らみんなにトップダウン・デザインが可能であることを示した。マジックの未来にはさらなるトップダウン・デザインがあることだろう。これも合格、二重丸だ。
2012年度目標#3: 両面カードが働くことを示す
これは昨年、両面カードが公開される前の週だったために伏せられていた目標だ。昨年の成功の1つに両面カードを挙げている(し、このコラムはいい加減長くなっている)ので、繰り返すのはやめて合格とだけ言っておこう。
つまり3問中3問合格。すばらしい年だ。それでは来年の目標を見ていこう。
2013年度目標#1: ラヴニカのやってきたことを進化させられると示す
以前の次元に帰るということは何度かやってきたが、ラヴニカへの回帰は重要な点で少し異なると考えている。これまでは、戻る世界に大変動が起こりがちだった。ドミナリアは何度も最終戦争級の戦争をくぐり抜けてきた。ミラディンはただ侵略されただけでなく完全に作り替えられてしまった。ラヴニカへの回帰はそれほどの大変動は起こっていない。
我々は一旦旅立った、そして諸君が愛した世界に戻る。いろいろなことが変わっているが、他の帰還のように神話的な規模ではない。ラヴニカへの回帰は、本当にラヴニカに回帰しているのだ。魔法とマジックをもう一度見直し、同時に新しくて異なる何かを提示できるかどうかがこのブロックの大きな課題である。さて、このセットは懐かしくて斬新なものになるだろうか?
2013年度目標#2: 大/大/小セットが有用であると証明する
この年最大の賭けは、完全に新しいドラフト構造を伴った完全に新しいブロック構造だろう。これまで、一旦使わなくなったセットをもう一度使うようにしたことはない。冬セットが大型になったこともない。ギルドの導入についても大きく変化した。以前は4/3/3で成功していたものを、5/5/10に改めたのだ。2連続の大型セットは大丈夫なのか? 今回のブロックは違うが、それがうまくいくのか? 課題は山積みである。
2013年度目標#3: 「Sinker」を巧くやる
ラヴニカへの回帰とギルド門侵犯には、ラヴニカのギルド5つを再度導入するという明白な目標が存在する。「Sinker」(ブロックの最終セット)はより大変な課題を抱えている。それまでの大型セットどちらにも存在しなかった10個すべてのギルドを含む新たなドラフト環境を構築し、10個のギルドすべてを再訪しなければならない。さらに、全てのギルド、10個のキーワードを詰め込まなければならないのだ。「Sinker」はうまく行くだろうか?
これがこれから1年間の最大の課題3つである。来年、結果がどうだったか振り返ってみよう。
今後のデザイン
今日のコラムはここまでである。昨年のデザインについての私の見解について、諸君の意見を聞きたいと思う。メール、フォーラム、各種ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+)で今日のコメントについてどう感じたか教えて欲しい。
それではまた次回、ラヴニカへの回帰の話でお会いしよう。
その日まで、あなたの一年間を振り返る機会があなたとともにありますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)