あなたは家を出て、近くを散歩することにした。左と右、どちらに向かおうか?

 どちらに行っても、最後には家に戻ってくる。どちらを選んでも変わりはなさそうだ。しかし、どちらかには向かわなければならない。さて、どうしようか?

 もちろん、向かった先で何が起こるかは分からない。

 左に向かうと、ちょうど隣の家の女性が帰宅したところかもしれない。そして「一緒に散歩しましょうか?」と誘われるかもしれない。

 一緒に行くことになれば、近くのベースボール広場で子供たちがリトルリーグをプレイしているところを見かけて、そこにケニアから養子に来た弟がいることを彼女から聞かされるかもしれない。

 さらに尋ねれば、その時の写真を見ないかと誘ってくれるだろう。

 それから9か月後、ケニアのことがまだ気になっていれば、あなたは旅行の計画を練り始めるだろう。帰還したあなたは、多くの友達に自身の冒険譚を聞かせ、旅行は良いものだと皆に普及するようになる。

 もちろんこれは、左に曲がったときの話だ。逆に、右に曲がることだってできる。

 右折すると、リトルリーグの試合が盛り上がっているところに出くわす。若い選手たちによる緊張感のある試合は9回に差し掛かっていた。

 立ち止まって見ていくことにしたなら、心にスポーツの感動が沸き上がる。その興奮。その友情。その試合の壮大な結末を眺めながら、それがとても楽しいこととして印象に残った。

 散歩が終わるまでこのことが頭を離れないなら、数週間後には地元のリーグを確認して、どうやって参加できるかを調べているだろう。

 地元の草野球リーグに参加したなら、多くの友達ができることになる。そしてそれは人生における新しい趣味として定着するだろう。

 しかし、家を出たばかりのときには、どうなるかわからない。先に知ることはできない。それはすべて、選択肢から何か1つを決定した結果として起こることだ。考えてもしょうがない。あるのは1つの分かれ道、そして1つの単純な決定だ。

 さて、どちらに行こう。左か、右か?

分かれ道》 アート:Jung Park

 人生は決定の連続だ。私の人生でもっとも重要だった選択のいくつかは、選択しているとすら気づかなかったときの事だった。

 そういう選択というものは、終わってから気づくものだ。そういう選択はそれぞれ机上で思い返せば簡単なことのように思えるのだが、今までにしてきた10、20、あるいは45回の決定全体を振り返ってみると、そこには大きな光景が浮かんでくるはずだ。本当に多くの物事が起こっている。

 ドラフトもまた、決定の連続だ。

 別の質問をしてみよう。ブースタードラフトをする場合、全く同じブースターパックと同じ参加者で同じ席順になった時、デッキは全く同じものになるだろうか?

 どれくらい同じになるだろう? 全員同じ色のデッキになるだろうか? あなたがピック(訳注1)したカードは、他の参加者の色にどんな影響を及ぼすだろうか?

(訳注1:ピック/ドラフトでパックから自分のデッキ用にカードを選ぶこと)

 ブースタードラフトは、閉じた世界における「バタフライ効果」の一例だ。数学者とも言える気象学者エドワード・ローレンツは、蝶の羽ばたきが世界のどこかで竜巻を引き起こす可能性がある、と述べている。似たようなことが、ブースタードラフトにも当てはまる。提示されたカードから1枚をピックすることが、全員が使うデッキ、そして全員が行う行動を根本から変えてしまうほどの影響になることもあるんだ。

 ああ、でも、そんなに怖がらなくてもいいよ。

 似ているとはいっても、無作為と混沌がほとんどを占めるバタフライ効果と、ドラフトでカードをピックすることには、大きく異なるところもある。誰もが他者に影響を与えようと意識的に決定を下している。その蝶は、あなたが白に行かないよう狙っているんだ!

黄金光の蛾》 アート:Howard Lyon

 それで、私は何を伝えたいんだろうか?

 ドラフトのデッキはカードを揃えるだけじゃない――カードを選択することそのものにも意味があるんだ。

 すべてはこの言葉を中心としている。そう、「選択」だ。

 あなたは全く影響のない状態から各カードを選択するわけではない。過去の選択に基づいて選択するはずだ。

 それが最も顕著に表れる例の1つが、向かう色だ。例えば、回ってくる束からそれぞれ最も強いカードを選んでいった場合、4色か5色のでたらめなデッキになってしまう。しかし、そうするつもりはないだろう。通常は、1パック目の半分ほどで色をいくつかに絞り、選んだ色に沿ってピックしていくはずだ。

 そこまでに選択していった決定を重視して、そこまでのピックに基づいてデッキのパーツを組み合わせていけば、デッキのカードはより関連性を高めていく。これは、あなたが最高のドラフト・プレイヤーを目指すなら絶対に必要となる技術だ。

 ドラフトをするときは、自分のそこまでのピックを全て覚えておき、向かうべき先につながるピックをしなければならない。全てが過去のピックと関連していなければならないわけではないが――例えば、2パック目を開封した時に別の色の強力なレアがあれば、色の変更を考慮できるが――過去のピックは決定における指針となり、重要度の差を計るための助けとなる。

 ピックを決定していく中で、それらのカードが向かうべき方向を定めようとしている、と感じるときがあるだろう。1枚のカードから受ける方針への圧力はほんのわずかだ。ところがそれが10枚になると、その方向に向かって強烈な後押しが始まる。

 用いる色について、現実的な例を提示してみよう。最初にピックしたカードが緑だとしても、必ずしも緑に向かうわけではない。しかし2枚目のカードも緑をピックできたなら、かなり向かいやすい。緑のカードが10枚手に入ったなら、(他の色がどうなっていても)さらに緑のカードのピックに向かう大きな理由となるだろう。

 色の選択は、こういったドラフト方針への圧力に関するわかりやすい例の1つだ。しかしピックの選択に作用する道しるべは、他にも様々なものが存在する。見逃しやすいものもね。

 今日は、それらの道しるべから4つを取り上げようと思う。全体から見ればわずかな量だが、ドラフトをする上でとても多く見かける4つの道しるべだ。見ていこう!

部族

 『イクサラン』で「部族」(クリーチャー・タイプを意識すること)がテーマになっていることに気付いているかな。

 『イクサラン』ドラフトでは、道しるべとして部族を用いることにとても大きな意味がある。「私はどの部族に向かっているのか?」という問いだけではなく、「このデッキは部族をどれくらい必要とするだろうか?」とか「そもそも部族に向かわなければならないんだろうか?」という問いもかかわってくるんだ。

 結局のところ、カードが部族に向かえと言っていないなら、部族を揃えても意味がない。マーフォークにボーナスを与えるカードが1枚もなければ、マーフォークを20枚集めても何にもならないんだ。

 そしてすべてのボーナスが同様に発生するわけでもない。先ほど提示した《薄暮まといの空渡り》を取り上げてみよう。これを機能させるためには、戦場に別の吸血鬼が必要だ。そうでなければ、その効果を活用できない。

 《恐竜暴走》と比較してみよう。これは自軍全体を強化する方法としてなら、さまざまなデッキで問題なく機能する。その上で恐竜にボーナスを与えてくれるんだ。

 すでにピックしたカードの中に《薄暮まといの空渡り》があるなら、それは吸血鬼に向かうよう後押しするだろう。そしてそれは、《恐竜暴走》があるときに恐竜に向かわされる圧力と比較した時、より大きな圧力となっているはずだ。《薄暮まといの空渡り》は、部族能力を用いられる時だけ効果を発揮する。一方で《恐竜暴走》は、恐竜を強化する良いボーナスがあるものの、活用する上で恐竜を必須とするわけではない。

 《薄暮まといの空渡り》を入れるデッキは、ほぼ吸血鬼が必須となるはずだ。《恐竜暴走》を入れるデッキは、恐竜がいれば最高だ。しかしおそらく《恐竜暴走》を採用するとしても、恐竜も絶対に必要となる、というほどではない。

 もう一度、数の影響について書いておく。持っている枚数によって、重要度は変化するということを忘れないように。《薄暮まといの空渡り》1枚だけならば、吸血鬼の数が少量でも問題ない。しかし吸血鬼の部族カードが4枚あるなら、その時は吸血鬼だけを望むようになるだろう。

特定のアーキタイプ

 現代のセットはリミテッドにおいて、各色の組み合わせごとに何らかのテーマが存在するようデザインされている。時にそれは(白青飛行のような)軽い味付けのこともあるが、(青赤呪文偏重のように)かなり濃い味付けがなされることもある。色の組み合わせを意識し始めたなら、テーマ・デッキに向かうにしろ向かわないにしろ、カードをピックする優先順位は根本的に変わるだろう。

 例を挙げてみよう。2パック目の序盤、《ティシャーナの道探し》と《群棲する猛竜》のどちらをピックしようか?

 ああ、ここまでにピックしてきたカードが大いに影響してくる!

 黒緑の探検デッキに向かって《野茂み歩き》や《隠れ潜むチュパカブラ》をピックしてきたなら、《ティシャーナの道探し》のほうがデッキとの相乗効果をより発揮しそうに思える。一方、赤緑に向かって《苛立ち》のようなカードをピックしていたなら、《群棲する猛竜》のほうが魅力的に思えるだろう。

 ピック済みの他のカードとの相互作用に基づいてピックを選択するのは、全体像が見えていないように思えるかもしれない――なにしろ、40枚のデッキからその2枚を両方とも引かなければ、何の影響も及ぼさないのだからね。とはいうものの、相互作用を意識したデッキを組むつもりならば、どこかで取り掛かり始めなければならないのは確かだ。それまでのピックとうまくかみ合うカードを選択すれば、次の似たような分かれ道において同じ方向を選べるようになり、最終的には全てが調和した極めて強力なデッキにたどり着くことができる。

マナ・シンボル

 色については最初のほうで話したが、マナ・シンボルについてはどうだろうか?

 カードがその色への肩入れを大いに要求してくる場合、マナ基盤を少々偏らせるよう意識するだろう。それがゲームの序盤で必要とされるのであれば特にそうだ。しかし複数の色がそれぞれ適切なタイミングで数を揃えるように要求してくる場合は、問題が起こる。

 例えば私は、基本的には《ハイエナの群れ》と《古代ガニ》を同じデッキには入れないようにする(これらがあんまり強くないから、という理由だけではなくてね)。3ターン目の青マナ2つと4ターン目の赤マナ2つを両方とも必要とするデッキは、実際に使うとがっかりさせられるだろう。それぞれを最速で出すには、2枚の《》と2枚の《》を的確に引き当てなければならない。

 すでに《ハイエナの群れ》を2枚使う準備ができているなら、《古代ガニ》を取らずに別のカードを選びたい、というのが私の考えだ。

 『イクサラン』のドラフトをするなら……特に《ずる賢いゴブリン》を意識するなら、このことを覚えておこう。これはマナの色調整を保証してくれるが、これを使うためにはマナ基盤をゆがめる必要があり、かえって物事を悪化させるかもしれない。いやはや食えないやつだ!

メカニズムへの集中

 部族と同様に、いくつかのメカニズムは関連するものを集めることでボーナスを与えてくれる。例として『霊気紛争』の即席がどう働くかを考えてみよう。

 こういったカードをピックしていった場合、その先のピックはそのメカニズムをサポートするカードを取るようにと強く言い含められる。アーティファクトが多ければ多いほど、即席をうまく使えるからだ。

 そしてメカニズムは、カード単体の強さと、関連するパーツがあることで変わる強さの合計で価値を判断することになる。これも部族と似ているところだ。《砦の発明者》は即席で素早く出すことができれば強いので、そういったカードをデッキに多く抱えているならば、軽いアーティファクトを目いっぱい必要とする。

 一方で《橋上の戦い》は、アーティファクトのあるなしにかかわらずほとんどのドラフト・デッキで喜んで採用するカードだ! さまざまなカードやメカニズムが要求してくる内容は大きく違ってくる。そして、すべてのメカニズムがこのように働くわけでもない。例えば、余波カードをいくつも墓地に置く行為は、そもそも何らかの追加報酬が発生したりはしないものだ。(ライブラリーから墓地へと余波カードを送り込むデッキを構築することができれば別だけどね!)

探し物は何ですか

 この記事から何か1つを教訓とするなら、これだ。ドラフトで何を意識してピックしてきたかという、それまでの流れを把握しよう。

 ドラフトの最初、1枚目としてピックするカードは、何度その場面を繰り返してもほぼ同じだろう。したがって、それはピックされる。そして、それ以降のすべてのピックは、何らかの形で最初のピックの影響を多少なりとも受けるだろう。そこまでで知りえた内容を受けて、1枚1枚最良の決断を下していこうじゃないか。

 時には、そこまでに行ってきたことを否定する決断を下すことさえもあるだろう――そうするべきだと自分でしっかり判断したかどうかが重要だ。

 ドラフトに関するこの話を楽しんでもらえたなら幸いだ! 何か考えや疑問があるなら、ぜひとも聞かせてほしい。いつでもTwitterTumblrでコメントを受け付けているし、あるいはBeyondBasicsMagic@gmail.comに(すまないが英語で)メールしてくれてもかまわないよ。

 あなたがいい感じに『イクサラン』へと乗り込めるよう願うよ! ドラフトを楽しんでくれ!

Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com

(Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing)