『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』:野村哲也氏インタビュー
「FINAL FANTASY」シリーズのクリエイティブディレクター・野村哲也氏を迎え、『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』の制作舞台裏について語っていただきました。 本インタビューでは、カードゲームという新たな表現媒体に向き合った野村氏の視点、 数百点におよぶアート監修で重視した点、そしてファンへの想いを深く掘り下げます。
『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』の開発の舞台裏を、ぜひお楽しみください。
本セットに収録されているすべてのカードは、『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』カードイメージギャラリーでご覧いただけます。また、これらのカードの入手方法については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
オリジナルのインタビュー日:2025年5月
インタビュー参加者
- 野村哲也(クリエイティブ・ディレクター/ スクウェア・エニックス)
- 市川翔一(プロデューサー / スクウェア・エニックス)
- ザキール・ゴードン(エグゼクティブ・プロデューサー/ ウィザーズ・オブ・ザ・コースト)
- ディロン・ドゥヴネイ(プリンシパル・ナラティブ・デザイナー/ ウィザーズ・オブ・ザ・コースト)
- ジョセフ・リース(プログラム・マネージャー/ ウィザーズ・オブ・ザ・コースト)
ザキール:このプロジェクトに深く関わっている立場として、カードゲームを制作することと、これまでの膨大なビデオゲーム開発のご経験を比べてみて、どのように感じましたか?また、特に印象に残った違いはありましたか?
野村:ビデオゲームのアートは、動きやアニメーションを前提に設計・制作されますが、カードゲームでは1枚のアートだけですべてを表現できる。その点が、私が特に大きな違いだと感じたところです。今回このプロジェクトに関わる中で、YouTubeの動画も多く見てきましたが、プレイヤーの皆さんが1枚の絵から多くの情報を受け取り、想像を広げていることにとても感心しました。ビデオゲームにおいてコンセプトアートは、完成形がどうあるべきかを示す設計図の一部にすぎません。そのため、アートが担う役割の違いを強く実感しました。
ディロン:1枚の作品、1枚のイラストを描く際に、「FINAL FANTASY」シリーズに存在する非常に幅広く、深いストーリーや世界観、物語性を表現しようとするとき、どのようなことを考えていますか?
今回描いていただいたセフィロスのイラストを拝見すると、さまざまな思いや感情が一気に込み上げてきますが、野村先生はどのようなことを考え、どのような気持ちでこのアートを描いたのでしょうか?
野村:ゲーム開発では、アート1枚からチーム全員がゲームの動きやキャラクターのバックストーリーを想像できるように描いています。
一方カードの場合は、見る人がすでにある程度そのキャラクターを知っており、ゲームを通じて個人的な思い入れを持っています。だからこそ、そうした期待とズレが生じないように描く必要があります。
そのため今回の作品では、ファンの皆さんがすでに持っている理解やイメージを土台にしながら、その上に要素を一つひとつ重ねていくことで、想像力をさらに広げてもらえるよう意識して描きました。
ザキール:この3~4年の間に、数百点ものアートをご監修いただきましたが、「FINAL FANTASY」シリーズの37年にわたる歴史をカードに落とし込むにあたって、どのような点を重視されていましたか?
また、FFVI、FFVII、FFX、FFXIIIといった作品を担当する立場として、それらをマジックに落とし込む際に、特に意識されていたことは何でしょうか。
野村:先ほどの回答とも重なりますが、ファンの皆さんの中にはすでにキャラクターの明確なイメージがありますし、アーティスト側はそれぞれの個性を作品に持ち込みます。
その両方をどう両立させるか――アーティストの独自性を活かしつつ、ファンが抱いているイメージから逸れないこと。そのバランスに最も注意を払いました。
ディロン:このプロジェクトのために制作されたすべてのアートを振り返っているのですが、数百点に及ぶアートをご監修いただいた中で、特に印象に残ったアーティストや作品はありましたか?
野村:こちらは特に印象深く覚えている作品たちです。いずれも、見た瞬間にOKを出したもので、フィードバックや修正は一切ありませんでした。
――そう言いながら、野村氏は以下の作品に目を向けます。
野村:私は普段、背景にそれほど強く意識を向けるタイプではありませんが、海外のアーティストは背景や風景を通して、世界観を非常に深く表現する傾向があります。
キャラクターを愛するファンは、こうした没入感のある描写も同様に好みますし、今回はマジックとのコラボレーションということもあって、これほどまでに作り込まれた、完成度の高い背景表現を見ることができたのは、とてもワクワクしました。
野村:例えばこちらのカードは、クラシックなドット絵のゲームをもとにしたものですが、それを立体的なファンタジーアートとして再解釈したのは、おそらく史上初めてのことだと思います。
そのため、「ああ、これはあのゲームのあのダンジョンだな……」と、記憶を呼び起こしながら想像を巡らせることができる。とても素晴らしいですね。
ディロン:ロックのカードをここで取り上げていただき、特にうれしく思っています。ピクセルのゲームをどのように「翻訳」し、アートとして表現するかについては本当に多くの時間を費やしました。とりわけ「FINAL FANTASY VI」は、あのクラシックな作品群をどのように適応すべきかを理解するための、大きな指針となりました。
この作品は、私にとっても特にお気に入りの1枚ですし、ここで紹介できてうれしいです。
野村:かつては、日本人の視点から見ると、海外のアートが少し「濃すぎる」と感じられる時期もありました。
しかし今回ウィザーズ・オブ・ザ・コーストと一緒に仕事をしてみて、「これはすごい。日本のファンにもきっと受け入れられる」と感じました。
ザキール:今回のプロジェクトで、ご自身が描くキャラクターとしてセフィロスを選ばれましたが、それはなぜでしょうか。
また、約30年前に生み出したキャラクターを、あらためて描き直すことについて、どのようなお気持ちでしたか?
野村:いやしんど……(笑)……現在、「FINAL FANTASY VII REMAKE」シリーズの開発の真っ最中で、最新の「FINAL FANTASY VII」が現在進行系なわけで。もしそれがなかったら「すごく久しぶりのセフィロスだ」となったんでしょうね。
最近になって「FINAL FANTASY VII」を初めて体験した新しいファンもいますが、この作品は昔からのファンにも、初めて触れたファンにも、どちらにも愛されるタイトルだと思っています。私はさまざまなプロジェクトやゲームに関わっていますが、「セフィロスみたいなキャラクターを作ってほしい」と頼まれることが本当に多いんです。それだけ、みんながセフィロスを好きなんだろうなと思います。
そういう意味でも、セフィロスは昔のファンにも今のファンにも親しまれるキャラクターで、これだけ多くの人が「セフィロス!セフィロス!」と言ってくるということは、それだけ愛されている証拠なんだと思います。
ディロン:PAX Eastでは、新しいアートを約20点公開しました。新しいカードが映し出されるたびに会場から歓声や叫び声が上がりましたが、このカードへの反応ほど大きなものはなかったと思います。
その瞬間、私たちは皆、「このプロジェクトに関わって本当によかった」と感じました。野村先生もライブ配信をご覧になっていたと伺いましたが、PAXでのファンの反応や、その後のオンライン上のプレイヤーやファンの反応をどのように感じましたか?
野村:やっぱり海外のイベントは良いなと感じました。ファンの皆さんは感情をストレートに表現してくれます。これほどまでに熱狂的な反応が生まれた理由のひとつには、「FINAL FANTASY」シリーズを遊んできた世代と、マジックを遊んできた世代が大きく重なっていることもあるのかもしれません。おそらく、もっと小規模なコラボレーションだと思われていたのが、PAXで全貌を見て、「いや、これガチなやつだ!」と感じてもらえたのではないでしょうか。早くセットが発売されて、みんながパックを開封している様子を見るのが待ちきれません。
ザキール:多くのマジックプレイヤーが発売を楽しみにしていますが、野村先生ご自身でデッキを組んで遊んでみるご予定はありますか?市川さんなら簡単に倒せますよ――そんなに強くないですから(笑)。
野村:あれ?市川って結構強いんじゃないの?(笑) 確か「俺はスクエニで一番つええ」って言ってたような(笑)。
市川:いや、ザキールの言うことは聞かないでください。昨日の対戦では、俺が完勝しましたから!(笑)
ディロン:最後にもうひとつ質問させてください。今年の初めに私達は日本を訪れ、クラウドやライトニングの野村先生ご自身のアート、そしてネオンインクで彩色されたカラフルなチョコボなどを含む、初期の印刷サンプルをお見せしましたが、それら――ご自身の過去のアートやチョコボたちがカードになった姿をご覧になったとき、どのようなお気持ちでしたか?
野村:うーん、自分の絵はちょっと恥ずかしかったですね(笑)。20年や30年前の絵だから、30くらいの人が自分が一桁の年齢の絵をみるようなもんでしたから、ほかのアーティストの皆さんが描いた、あれほど美しくて現代的な作品と並んでいるのは少し恥ずかしい気持ちがありましたね(笑)。
当時のコンセプトアートは、あくまで開発チームのための設計図であって、完成作品ではありませんでした。それが今回の製品のために新たに描き下ろされたアートと並ぶことになり、少し申し訳ない気持ちや照れくささがあって……だから心の中ではずっと、「せめてカードは強くしてほしい」と思っていました(笑)。
ディロン:本当に、いかにもアーティストである先生らしいお言葉だと思います。ご自身では、時間が経っているからこそいろいろな思いがあるのかもしれませんが、先ほどザキールが言っていたように、野村先生の作品やコンセプトアートを目にして衝撃を受けた人が本当にたくさんいます。
それらの作品を再び目にすることで、アートにもう一度向き合おう、何かを創りたいと思おう、あるいはマジックや「FINAL FANTASY」シリーズの世界に戻ってこよう、という気持ちになる人が大勢いるんです。
たとえご自身が昔のアートを新しい作品と比べて見ていたとしても、それらは世界中のファンに喜びを届ける、とてもとても大きな役割を果たしています。ですから、今回それを実現させてくださったことに、心から感謝しています。
野村:ええ、その気持ちはとてもよく分かります。もしこれが個人的なものだったら、正直「載せないでください!」と言っていたと思います(笑)。でも、それがファンの皆さんにとってどれほど大切な思い出なのかも分かっているので、顔を真っ赤にしながら出しました(笑)。
これまでにも、アートをお貸しする形でのライセンスやコラボレーションは数多くありましたが、ここまで深く踏み込んだ形で関わったプロジェクトは初めてです。本当に楽しかったですし、これが世に出るのが待ちきれないほど楽しみです。「FINAL FANTASY」シリーズの歴史をここまで大きなスケールで表現するという点でも、皆さんと一緒に特別なものを作り上げている実感があり、そのことにとてもワクワクしています。
ディロン:私たちも同じ気持ちで、とても嬉しく、光栄に思っています。ありがとうございます。
野村:本当にたくさんのアートがありましたね。毎週のように市川が大量のアートを抱えて監修にやって来て、毎回「先週あれだけ見たのに、まだあるの!?」となっていました(笑)。
ザキール:そうなんですよ!
ディロン:ええ、それは私のせいです。私のチームの責任ですね。どうぞ私たちを責めてください(笑)市川:残りの枚数の山を見ながら、「どうして減るどころか、どんどん増えていくんだ?」と思っていました(笑)。ある日、いまの分はすべて終わったので、しばらく野村先生にお会いすることはないと思います、とお伝えしたんです。ところが数日後には、また100枚くらいの束を抱えて戻ってくることになっていて……!(笑)
ザキール:改めまして、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストを代表して、そして世界中のマジックおよび「FINAL FANTASY」シリーズのファンを代表して、このプロジェクトの開発期間であるここ数年にわたるお時間とご協力に、心より感謝いたします。野村先生がいなければ、このセットに命を吹き込むことはできませんでした。このプロジェクトは、ディロンや私自身、そして世界中の多くのファンが長年夢見てきたものです。改めて、実現にご尽力いただいたことに感謝いたします。
インタビューの最後には、野村先生へのもうひとつのサプライズが用意されていました。ウィザーズ・オブ・ザ・コーストは、スクウェア・エニックスで初めてとなる『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』のプレイ・ブースターおよびコレクター・ブースターを開封する機会を、野村哲也氏に贈りました。
ザキール:サプライズがあります!市川さんには内緒にしていましたが、スクウェア・エニックスの中で、このセットのパックを最初に開封するのは野村先生です。こちらに『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』のプレイ・ブースターとコレクター・ブースターがありますので、ぜひ開けてみてください。
野村:えっ、マジで!?
野村:これなに?売られるのはこの2種類のパックが売られるの?
市川:こちらが通常のパックで、プレイ・ブースターと呼ばれています。こちらは特別なパックで、コレクター・ブースターです。」
――野村氏はプレイ・ブースターを開封し、アートカードを取り出す。
野村:真っ白なカードですね?(笑)
市川:それはアートカードで、裏返していただくとアートがプリントされています。
野村:なるほどね! で、これは……《山》だね。
野村氏はそのままプレイ・ブースターの中身を確認し続け、《威名のソルジャー、セフィロス》を引き当てます。そのカードが披露されると、場は大きな歓声に包まれました。
野村:あ、ほんとだ!じゃあこれもう勝ちじゃん!マジで!? 俺ちなみに最初これ(《アイスプリン》のフォイル仕様カード)が出て騒いでるのかと思ったよ(笑)
ザキール:まさか、本当に信じられません!
野村:そんなにレアなの?どのくらい珍しいの?
市川:このプレイ・ブースターから神話レアが出るのは非常に珍しいんです。セフィロスは神話レアで、最高レアリティのカードです! 本当にすごいですよ。
ザキール:そしてこちらのパックがコレクター・ブースターです。こちらにはフォイル仕様のカードがたくさん入っています。」
――野村氏はコレクター・ブースターを開封し、複数のフォイルカードを引き当てます。
そしてコレクター・ブースターの終盤で、《迷える黒魔道士、ビビ》を引き当てました。
市川:いや、こんないい引きできることがないです。これ、僕だったら今日1日ずっとニコニコですよ。びっくりするくらいの引きです。すごいなんてもんじゃないです。
ウィザーズ: いやあ、これはこれまで見てきた中でも、間違いなく最もクレイジーなパック開封のひとつでした。このインタビューの締めくくりとして、セフィロスのカードを手に持った状態で、一緒に写真を撮らせていただいてもよろしいでしょうか?
野村:もちろん!
世界中の何百万人もの『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』ファンの皆さんへ。
このリリースを、私たちが制作するのと同じくらい、楽しんでプレイしていただけていたら嬉しいです。
FIN
© SQUARE ENIX


