苦痛の意義
先週は、ライフの明るい側面、ライフ獲得について取り扱った。
ライフ獲得カードを使うべき時や、どこが強いのか、どんな相手に効果的か――あるいは無力か――などを解説してきた。
しかしライフ全体について考えるならば、ライフ喪失という濁った水にもつま先を浸さなければ、完璧とは言えないだろう。自分のライフを何らかの効果のために支払えと要求してくるカードが織りなす、邪悪な世界への突入だ。それはどんな場合に効果的なんだろうか?
さあ、ゴーグルを装着して、大きく吸い込んでくれ。ライフ喪失という濁水世界に潜行開始だ!
マジックでは、手札のカードとライブラリーをリソース(訳注1)として与えられた状態でゲームを開始する。これらは勝つために用いることができる手段だ。
(訳注1:リソース/資源。ゲームの中で他の要素のために消費・交換できるもの)
しかし他にも、自由に使える重要なリソースがゲーム開始時に与えられる。それがライフだ。
現在のライフを確認する行為は、どちらが勝ったり負けたりしているのかを知る簡単な比較であり、単純な基準だ。しかしライフが持つ意味は、それよりもはるかに多い。あなたのライフはリソースなのだ。
遅いコントロール・デッキやコンボデッキを使っている場合、ライフの存在は相手が使うビートダウン・デッキに対して利用可能なクッションといえる。消費できるライフが十分にある間は、相手のクリーチャーからの攻撃を何度か受け止めて時間を稼げる。それはつまりライフこそリソース、ということなのだ。
呪文を唱えたり勝利の可能性を高めるためにライフを用いるのも、それと同じようなものだろう。
それを体現しているスタンダードのカードを調べてみよう。
《苦渋の破棄》はわずか3マナでほとんどのものを追放可能だ! プレインズウォーカー、クリーチャー、それにエンチャントなど土地以外なら何でも追放できることを考えれば、3マナは破格のコストと言える。
もちろん、代償の中には、マナのほかに3点のライフが含まれる。3点のライフを何度も何度も無意味に支払うことは避けたい――ライフはリソースなのだから。ここで疑問が生まれる。このカードは他の除去呪文と比べたとき、本当に使う価値があるのだろうか?
ところが、《苦渋の破棄》は本当に強いカードだ。なぜそう言えるのだろうか?
詳しく調べてみよう。
生きるためのライフ
だれが最初に言い出したのかは分からない。しかし、その言葉が風化する前にマジックという歴史の石版にしっかりと刻み込まれた。そしてそれは、マジックを幅広く理解していくためには必須の、重要な言葉だ。
この記事から何かを得ようとするのであれば、その言葉を持ち帰ろう。マジックにおいて重要になるライフは、最後の1点だけだ。
まさにその通り。では、その前の19点分のライフは? 先ほど述べた通り、ただのリソースだ。それらは単なる盾であり、最後の1点を奪い心臓を貫こうとする矛に対する防御だ。失ってもかまわない。
条件反射のように「ライフを失いたくはない」と思うことは簡単だ。しかしたいていの場合、短期的にライフを支払うことで、長期的なライフ温存に繋がるだろう!
《苦渋の破棄》に話を戻す。
対戦相手の5/5クリーチャーに対して《苦渋の破棄》を用いた場合、全体で考えれば確かにライフを温存している。
まあ、他のクリーチャー除去呪文を使えば3点のライフを支払う必要がないことは事実だ――しかし、実際に3点のライフを支払う理由は、その柔軟性にある。対戦相手のカードが5/5のクリーチャーではなく、《反逆の先導者、チャンドラ》だったらどうなるだろうか? 《苦渋の破棄》は3点のライフを必要とするが、クリーチャー除去呪文ではそもそも対処できない。
思い出してほしい。ライフはリソースであり、重要なのは最後の1点だけだ。《苦渋の破棄》を使える状況にあるうちは、3点のライフが問題になることはない。(3点を失ったせいで負けるのであれば、失っていなくても負けているんじゃないかな。)よって、莫大な費用の支払いとは言えないだろう。
……あるいは、少なくとも、問題になることは、時々だ。
死に至る数字
どの程度のライフの支払いが問題になるのかは、支払う量やゲームのどの段階で必要になるか、といったものに大きく依存する。
例えば、スタンダード以外でよく見かける《溢れかえる岸辺》や《新緑の地下墓地》のようなフェッチランドを見てみると、どれも使うために1点のライフが必要となる。にもかかわらず、デッキはそれらを大量に採用するだろう。どうしてだろうか?
1点のライフの支払いは、ほぼ無料のようなものだ。1点のライフの差が勝ち負けを変えることもあるだろうが、その可能性は低い。たいていの場合、勝ち負けを決めるのはその1点以外の要素だろう。
そのうえ、この例について言えば、フェッチランドはゲーム序盤のマナ安定に大きく影響する――それはつまり、序盤から強力な呪文を安定して使えるようになる、ということだ。デッキの機能を最大限発揮させるための助けとなるので、この1点のライフの支払いが高いということは絶対にない。実際に多くのデッキが、マナを安定させるためだけに5点以上のライフを気前よく支払う。その価値があると考えているんだ。
しかしここで気を付けることがある。それは、ライフが必要なカードを入れすぎていないかどうか、その重みを推し量ることだ。
自分の土地でライフを失っている状況だとしよう。それでいて、《苦渋の破棄》のようなカードが手札にある。さらにその上、《苦い真理》などもデッキに詰め込んである。その重みに気づかないでいると、1ゲームで8点以上のライフを自ら支払うことが多くなる――それは間違いなく大きな問題となるだろう!
ライフの支払いを必要とするカードを1つのデッキに大量に詰め込む場合、大いに警戒が必要だ。ライフを獲得しない限りは、ある時点で、それらのカードを唱えられなくなってしまう可能性が極めて高い――そうなると、ライフを支払うことでそれ以外のコストを下げている、という利点はかなり薄まってしまう。手札の複数のカードが腐っていては、軽さや対応力が生かせない。
そのため、《苦渋の破棄》はさまざまなデッキで利用されてはいるものの、4枚ではなく1枚や2枚、また時には3枚といった採用枚数であることが多い。1枚目の《苦渋の破棄》は基本的に嬉しいカードだ――しかしあまりにも引きすぎると、それが原因で負けるか、結局唱えられないという状況に陥る。
特定のデッキに対する問題
ライフをどれだけ支払っても問題ないかは、どんなデッキと対戦しているかも相当に影響する。
コントロール同士の対戦では、影響をあまり考えずにライフを支払っても、たいていは問題ない。まだできることがあると見せかけるためだけに、《神聖なる泉》をアンタップ状態で置いてライフを支払ったこともある。コントロール同士であれば、《苦い真理》で3枚引いて3点のライフを失っても、ライフが決着に影響することはあまりないだろう。
逆に、赤のバーン・デッキと対戦している場合、ライフが必要になるカードは相当につらい。《苦い真理》は突然、対戦相手に無料の《溶岩の撃ち込み》をプレゼントするカードになる!
もちろん、例外もある――《闇の腹心》や《精神病棟の訪問者》のようなカードは攻撃的なデッキに対しても十分に役立つだろう。優位に立つためにはカードの引き増しもしたいし、クリーチャーなので攻撃やブロックにも利用できるからだ。《苦花》は毎ターン1点のライフを失うが、毎ターンクリーチャーをブロックできると考えれば、むしろライフ獲得として機能している!
「ライフを失う」というテキストを読むだけでなく、ライフを失う価値がそこにあるかどうか、その影響も読むようにしよう。
長寿と繁栄を
ライフ喪失談義を楽しんでもらえたなら幸いだ! ライフを失うことは、思っているほど恐ろしいことじゃない。
先週のライフ獲得についての談義と合わせれば、獲得と喪失の意味両方を合わせてライフの全体像を把握できる――両方を使ったデッキを構築する方法もあるぞ!
まだ何か聞きたいことがあるだろうか? もしそうなら、いつでも聞かせてほしい! 疑問や思いつきがあればなんでも、どうか気軽に伝えてもらいたい。TwitterやTumblr、あるいはBeyondBasicsMagic@gmail.comに(英語で)メールしてもらえれば、いつでも拝見させてもらうよ。
また来週会おう。それまでは、ライフの支払いを楽しんでくれ!
Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com
(Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing)