「戦える時と戦えぬ時を知る者は勝利するものなり。」

――孫武による『孫子の兵法』より


 マイク・フローレス/Mike Floresはかつて私にこう言った。「正しいと思えるマジックの理論を身に着ける機会を増やしたければ、孫子の兵法を参考にするといい」と。よって、この冒頭の始め方は適切だろう。

 今日は、私がデッキを構築する手法として用いている主要な技術であり、マジックのゲームでするべきことであり、誰が勝つのか見極める方法でもあること――加えて、つらい状態からでもまだゲームに勝てるやり方、というものについて話すつもりだ。しかしこれはマジックだけでなく、どんなゲームでも――さらにはあなたの日々の生活における考え方としても役に立つだろう。

 気になるかな? では始めよう。

闘技場

 目を閉じて想像してみよう……いや、まあ、実際に閉じると続きが読めなくなる。隠喩的なやつだ。

 とにかく、今いる場所から3つの闘技場が見えている状態を想像してくれ。

 そのうちの1つは、魔道士が心の中で知略の戦いを繰り広げる「カード」の闘技場だ。

 別のものは、クリーチャーやその他の脅威がひと所に集まり衝突する「戦場」の闘技場だ。

 最後の1つは「ライフ」の闘技場だ。そこにはスコアボードが掲示されている。各プレイヤーのライフが0からどれほど離れているかが表示され、0に近づくと赤く点滅し始める。

 これらは戦いにおける3つの主要分野であり、あなたの目的はそこで勝つことだ。そしてこれらは、それぞれ異なる種類のアドバンテージ――カード、戦場、そしてライフ・アドバンテージ――に基づいている。あなたも、マジックのゲームで勝つために自然と用いているはずだ。もしこの3つすべてで負けていたなら、おそらくゲームにも負けるだろう。

 しかし、もちろん、事はそう単純ではない。ほとんどのマジックのゲームは、3つの闘技場すべてで決着がつく前、その途中で終わるものだ。

 それぞれについて解説していこう。

カードの闘技場

 ここで言われているカードとは何だろうか? 手札にあるカードだ!

 基本的に、手札にあるカードが相手よりも多いプレイヤーは、長期戦において優位にある。つまり、カードの闘技場で後塵を拝しているならば、どうにかして追いつくか、あるいは手札にため込んだリソース(訳注1)を利用されることがないよう、素早く勝利することに集中する必要がある、ということだ。

(訳注1:リソース/資源。ゲームの中で他の要素のために消費・交換できるもの)

 ある意味では、これはカード・アドバンテージ(訳注2)と同じ分類にあてはまるものと考えられる。

(訳注2:カード・アドバンテージ/主に手札のカード枚数における優位)

戦場の闘技場

 戦場の闘技場は、戦場に存在しているものに注目している。戦場での勝者とは? こちらにクリーチャーが10体いて、対戦相手は0体のとき、戦場の闘技場の勝者はあなただ。

 そして戦場の闘技場は、きわめてテンポ(訳注3)を重視した闘技場であるとも考えられる。対戦相手がクリーチャーをコントロールしておらず、こちらに攻撃できるクリーチャーが2体いれば、テンポという視点においては主導権を握っている。

(訳注3:テンポ/先に行動し対応を迫る行為や、行動できる回数の差を表す用語)

 ある意味では、これはボード・アドバンテージ(訳注4)と同じ分類にあてはまるものと考えられる。

(訳注4:ボード・アドバンテージ/主に戦場のカード枚数における優位)

ライフの闘技場

 ライフの闘技場についてはそれほど説明する必要もないだろう。各プレイヤーのライフが0からどれほど離れているか? ということだ。

 この闘技場が最も意味を持ってくるのは、プレイヤーのライフが少ない時だ。ライフが多い時はその差に意味はなく、主にライフが減少して0に近づいてくると意味を持ち始める。その特徴を理解しておくことが重要だ。結局、勝つために重要となるのは、対戦相手のライフを0にすることだ。それ以外が関係してくることはほとんどない。この闘技場を意識しておくことで、他のすべての闘技場で劣勢であったとしても勝ちに繋がることがある。ある意味では、これはライフ・アドバンテージ(訳注5)と同じ分類にあてはまるものと考えられる。

(訳注5:ライフ・アドバンテージ/ライフの数値における優位)

 それでつまり、私が伝えたいことは何だろうか?

 3つの主要な闘技場を紹介した。(あるいは、より抽象的な表現をすれば、3つのアドバンテージを紹介した。)これらをどのように利用できるだろうか?

 これらは、数多く行うマジックのゲーム、その1つ1つの中で、何が重要で何を重視すべきかを考えるための指針となるんだ。

 この基本的な前提に従って行動しよう。対戦相手が3つの闘技場のいずれかで優位を得た場合、同じ場所で対抗するか、他の闘技場で優位を得るかしなければ、負けることになる。

 ごく単純な例を挙げてみよう。

 対戦相手は《栄光の探求者》をプレイした。これにより相手は戦場の闘技場で先んじたことになる。そのまま攻撃が始まれば、ライフの闘技場でも先を行かれる。そのままにしておくと、負けてしまう。

 こちらも《栄光の探求者》をプレイすれば、戦場の闘技場の均衡は保たれる。すでにダメージを受けていれば、ライフの闘技場では不利にある。

 これはデッキの構築やプレイングにどう適用できるんだろうか? 考えてみよう。

戦うべき場所を知る

 これはおそらく、今回の話題の中でも最も重要な箇所だ。記事を読み終わって他のことを忘れてしまうとしても、ここだけは覚えておいてほしい。

 どの闘技場で戦うべきかを――そしてどの闘技場での戦いをあきらめるべきかを――知ることが重要だ。

 現実の世界で戦いを挑まれたとしよう。殴り合いの喧嘩とかそういうのだ。物騒だね! さらに悪いことに、「喧嘩は」相手のほうが強い。どうしたものだろうか?

 殴り合いを挑めば、負けることになるだろう。相手の力を上回ることはできない。しかしそうせずとも、勝つために別の軸を用いることはできる。例えばこちらのほうが動きが速ければ、周りを動き回るのはどうだろう。素早く動き回ってパンチをかわし、疲れ果てさせる作戦が取れるだろう。

 現実世界のもっと現実的な(だと私は思いたい)事例に進もう。

 あなたはX、Y、Zという別種の能力3つを求められる仕事を請け負いたい。しかしながら、あなたはYとZについてはかなり熟練しているものの、Xについては他の候補者に経験で劣るようだ。Xで他の候補者と競おうとすれば、自分のX能力について語るほどに、悪く思われるだろう。そうではなく、YとZでどれだけのことができるかをアピールすれば、他の候補者よりも良く見えるだろう。

 ではマジックの話に戻ろう。

 対戦相手は緑のミッドレンジ・デッキを使用していて、そのライフは6点だ。こちらは軽量の赤バーン・デッキを使っていて、ライフはまだ20点ある。ところが都合の悪いことに、このターン、対戦相手は3/3のクリーチャーを3体出してきた。

 こちらのターンに入り、引いたのは《稲妻の一撃》だ。どうしようか?

 確かに、それを相手の3/3に撃つことはできる――しかしその行為が状況の改善につながるかというと、実際にはあまり効果がない。残りの3/3クリーチャー2体も対処しなければならないからだ。しかし、ライフの軸においては現時点で優っている。もう1枚《稲妻の一撃》を引けば決着がつく。この状況なら、戦場の闘技場で盛り返そうとするよりも、ライフの闘技場でのアドバンテージを利用するほうがずっと有効だ。

 別の例も見てみよう。

 こちらはミッドレンジ・デッキを、対戦相手はコントロール・デッキをプレイしている。ゲームは中盤に差し掛かり、相手は《周到の神ケフネト》を出してきた。これにより対戦相手はカードの闘技場で優位に立つことになる。デッキの中にケフネトに対する有効な回答が無いならば、ここで他の闘技場へと目線を変えて、そちらでの成功を目指さなければならない。そうしなければ、ケフネトによるカードの闘技場の支配力によって、必然的に負けることとなる。

 戦える場所――そして戦えない場所を知り、戦場を選び取る必要があるんだ。

闘技場を取り返す

 1つ前の項目では、その闘技場をいつ放棄するかを知る、という内容を扱ったが、放棄することが常に正しいという意味ではない。重要な考え方の1つとして、最初に説明しておきたかったからそうしただけだ。その闘技場を取り戻そうと試みるべき状況も数多い。

 対戦相手が5/5のクリーチャーをコントロールしている。まあ、こちらにも大型クリーチャーがいるか、あるいは5/5と十分戦えるだけの数の小型クリーチャーがいる状態でないならば、それは問題となるだろう。しかしありがたいことに、こちらもクリーチャーを(1体でも複数でも)出すことで、その問題は軽減される。そうすれば、すぐに戦場の闘技場でまた戦えるようになるだろう。

 時にはもう少し分かりにくいこともある。よくある例として《スフィンクスの啓示》を取り上げてみよう。

 気づいたかもしれないが、この極めて強力なカードは、カードとライフ両方の闘技場でプレイヤーを優位に立たせる。コントロール同士の対戦で、対戦相手がこれをX=5でプレイし、解決したとしよう。

 コントロール同士の対戦では、カードの闘技場が極めて重要になってくる。すぐにその闘技場での優位を取り戻さないと、負けてしまうだろう。この時点で、この闘技場の状勢があなた自身の状勢となる。こちらの《スフィンクスの啓示》、《好機》、あるいは同じようなカードで対抗できるだろうか? できなければ、負ける可能性が高い。

 そしておそらく、コントロール同士の対戦であれば、相手が得たライフについてあまり気にする必要はない。なぜかって? そうだな……

問題となる闘技場

 デッキやフォーマットが異なれば、意識すべき闘技場も異なってくる。リミテッドでは、だいたい3つの闘技場すべてが問題となってくるが、構築フォーマットはそうとは限らない。多くの場合、デッキはとてもよく調整されており、焦点を1つの闘技場に合わせてある。しかし時には、狙っていた闘技場が重要ではなくなったり、重要度を増したりすることがある。これは、同じデッキ同士の対戦で特によく発生することだ。

 先ほどの、コントロール同士の対戦における《スフィンクスの啓示》の例で言えば、おそらくライフ獲得は意味を持たないだろう。なぜだろうか? そもそもコントロール・デッキは、ゲームを決定的な状況にまで持ち込んでから、実際に決着をつけるデッキだ。ライフの闘技場での争いに意味が生まれるような攻撃は、決定的な状況を作る前には行われない。

 逆に、カードの闘技場は「非常に」重要となる。カードの闘技場で大敗しているなら、それは今まさにそのゲームを取りこぼそうとしているところだ。頼れる強力な何かを戦場に出して対抗したほうがいいだろう。

 それぞれの対戦でどの闘技場が重要となるか、それをどう判断すればいいだろうか? まあ、プレイテストしなければわからないものもあるが、典型的なデッキタイプであれば、その性質から考えていけるだろう。コントロール同士であれば、重要なのはカードだ。相手がバーン・デッキなら、ライフを守れるかどうかが重要になる、などだね。

資源の変換

 ある闘技場では有利だが別の闘技場では不利なとき、資源を交換して弱い部分を補強することができる。

 極端な例だが、ライフが1点で、0/1クリーチャー・トークンを15体コントロールしているとしよう。今にも壊れそうなライフの闘技場を守るために、戦場の闘技場にある多数の存在を交換材料にするはずだ。

 もう少しありそうな例を出そう。こちらは青赤のコントロール・デッキをプレイしていて、カードの闘技場においてはこちらの手札が6枚、相手の手札は0枚と圧倒的有利にある。しかしながら、戦場の闘技場においてはかなり不利な状況だ。

 この状況で、手札にクリーチャーを対象に取れる火力呪文が多ければ、相手のクリーチャーを除去するための1対2交換を検討できるだろう。対戦相手の《キランの真意号》を2枚の《ショック》で除去しても問題はないはずだ。使うカードの枚数という観点からはよろしくない交換ではあるものの、手札の枚数においては圧倒的優位にあるので、その差を活用して現在の状況を改善すべきだと考えられる。

 デッキというものは、すべてがこれらの考え方に基づいて構築されているものだ。例えば、軽量クリーチャーを満載し、そこに対戦相手を一時的に妨害する呪文を加えた、テンポ・デッキと言われるものがある。このデッキは、戦場の闘技場で先んじるために、カードの闘技場に存在するリソースを頻繁に消費する。《送還》のようなカードがその典型的な例だ。

 端的に言えば、不利な状態にある闘技場を立て直すために、有利な状態にある闘技場を利用してもかまわない、ということかな。

闘技場とデッキ構築

 これはプレイングにとどまらず、デッキ構築にも適用できる考え方だ。自分のデッキがどの軸、どの闘技場を狙っているのかを知ることが肝要となる。そのデッキは、3つの闘技場すべてに集中しているわけではない。

 例えば、典型的なコントロール・デッキが最も意識しているのはどの闘技場だろうか? この記事で触れた2つの例を見てみよう。

 コントロールはカードの闘技場を主戦場とするデッキだ。カードをたくさん引いて、長期戦においてはより手札が多いほうが有利という当然の優位に立つことを狙いとする。そもそも戦場の闘技場やライフの闘技場で優位となることは考慮されておらず、最終的に勝てる状況を作り上げるまでは、単体除去や全体除去を用いて戦場の闘技場での勝負を仕切り直させるんだ。

 バーン・デッキは全く別だ。カードの闘技場のことは全く考えていないし、戦場の闘技場についても似たようなものだ。ライフの闘技場にのみ集中し、そこで勝利するために他のすべてを消費し尽くす。

 こういったデッキを構築する場合は、どの闘技場を活躍の場とするのかを常に意識しておく必要がある。例えばコントロール・デッキを使うなら、《溶岩の撃ち込み》は良いカードとは言えない。意識している闘技場で機能するカードではないからだ。

無限の闘技場

 最後になるが、特定の対戦についてはどうなるのか、疑問に思うところがあるかもしれない。そうだな、コンボ・デッキはどうだろう? それはコンボを組み立てることにのみ集中し、カード、戦場、そしてライフのすべてを犠牲にしてコンボを完成させることが多い!

 これもまた事実だ。マジックの構築区画には、ライフ、戦場、そしてカードという3つの主要な闘技場が存在するものの、他にもさまざまな闘技場が考えられるだろう。

 例えばコンボ・デッキに対しては、妨害の闘技場というものが考えられるのではないだろうか。そこでは妨害要素とコンボ・パーツが争うことになる。ランプ(訳注6)・デッキ同士の対戦では、マナ・アドバンテージを意識して、どちらが最大の行動を取れるか、という戦いになる。得られるであろうあらゆる種類のアドバンテージそれぞれに、闘技場があるだろう。

(訳注6:ランプ/マナを伸ばす行動)

 ゲームが単一の塊で、勝つか負けるかが一挙に決まるという考えではなく、ゲームの中には分野ごとに存在する闘技場があって、それぞれ別に勝敗を競っているという認識を持つことは、大いに私を助けてくれた。それらは相互に結びついていて、最終的には勝者と敗者を決定づける。ともあれ、構築区画を知ることは、いつ、どのようなプレイをするか考える上でも重要なものだ。

 この考えが私にとって役に立ったように、あなたにとっても役立つと嬉しい! 何か気になることや、疑問はあるだろうか? ぜひ私に相談してくれ! TwitterTumblrで質問するか、あるいはメールが良ければBeyondBasicsMagic@gmail.comへ(すまないが英語で)尋ねてくれれば、いつでも読ませてもらうよ!

 また来週の「Beyond the Basics -上級者への道-」で会おう!

Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com

(Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing)