「敢えて遠くまで行こうとしなければ、どこまで行けるかはわからない。」

――トマス・スターンズ・エリオット(アメリカの詩人)

 あなたはマジックのゲームをしている。相手はアグレッシブな白黒デッキで、もう終盤戦だ。対戦相手のオリヴィエ/Olivierは、こちらのクリーチャーを3/3クリーチャー1体になるまで除去しつくして、さらに余力を残して攻撃してきた。

 脳内であなたは行動の選択肢を探る。2体の攻撃クリーチャーはそれぞれ回避能力を持っているため、ブロックすることができない。

 あなたはちょっと考えて、手札に残された唯一のカードを見直す。4点火力だ。

 これを使って攻撃クリーチャーを1体しとめれば、攻撃の波をせき止めることができる。その後は攻撃クリーチャーをブロックと火力で処理しつづければ、戦場はかなり安全になるはずだ。相手の追撃がなければ、劣勢からは抜け出せるだろう。安定行動だ。

 ふと相手のライフを確認してみる。7だ。

 突然、別の考えが浮かぶ。あなたはうなずき、呼吸を整える。

「《黒焦げ》を君に」

 そしてあなたのターン……

 クレイグ・ジョーンズ/Craig Jonesに大成功をもたらしたこの賭けは、おそらく全てのプロツアーの中でも最も有名となった場面を生み出した。このトップデッキはこういった記事で何度も何度も取り上げられてきたし、これからも話題になっていくことだろう。これは危険を冒すべき状況に関する、素晴らしい実例だ。

 しかし、どのようなときに危険を冒すべきなのだろうか? どのようなときは安定を取るべきなのか?

 状況を正確に把握することがまず不可欠となるが、基本的に正しい方向へと導いてくれるいくつかの有益な経験則がある。

 今日はそれを見ていこう。

危険を冒すときの原則

 先に進む前に、危険を冒す判断の背後にある指針をしっかり把握しておくことが重要だ。

 原則はこうだ。もし優位にあるなら、危険を冒すのは控える。不利な状況なら、危険を冒さなければならない。

 ああ、ゲームの状況というよりは、人生についてというほうが当てはまるかな。

 全く不向きな仕事の面接を受けにいくとしよう。採用基準に合わせて自分が有用であるように見せることもできるし、向いていないように見せることもできる。

 まさに自分のためにある仕事の面接を受けにいくとすれば、変わったことをする必要はない。

 周りの誰よりもバスケットボールに夢中なあなたとチームが、NCAAバスケットボール・トーナメントに参加したら? 豊富な知識があなたを勝利へと導くだろう。

 トーナメントにエントリーはしているが、他の皆のようにバスケットボールについて詳しくはないとしたら? それでも勝利したいなら、普通とは違うことを試みなければならないだろう。

 これが人生の真実なわけだが、マジックにおいてもこの考えは重要だ。かなりの劣勢に立たされていて、それでもなお良い結果を得たいなら、その可能性を追うために通常よりもはるかに大きな危険を冒す必要があるだろう。逆にかなりの優位にあるなら、基本的にゲームはあなたの手の内にあるので、安定を取るべきだ。

 さて、危険を冒すしかない、というのはどんな時だろうか? どんな要因があるだろうか?

 そうだな……

危険を冒すときの対価

 投資に関する危険について考えてみよう。危険の度合いと得られる結果が同等であれば、「妥当な対価」と言える。小さな危険で小さな報酬を得るとか、大きな危険で大きな報酬を発生させるとかだ。

 しかしながら、本当に気をつけなければならないのは、危険と報酬の大きさがちぐはぐな場合だ。

 とても良い例として、最近『エターナルマスターズ』に再録されることになった、《ギャンブル》という(その名にふさわしい!)カードを見てみよう。

 あなたは《詐欺師の総督》をコントロールしていて、コンボを決めるためには《欠片の双子》を探し出す必要がある。しかし、他の手札は1枚だけで、しかもライブラリーに残された《欠片の双子》はあと1枚だけ、というのが問題だ。

 今のうちに《ギャンブル》をプレイすべきだろうか?

 対戦相手は、手札もなければクリーチャーもコントロールしていない、と仮定してみよう。その場合、《ギャンブル》をプレイするのは、かなり大きな危険を冒していると言える。将来的に高まるはずのコンボの可能性を捨て、勝率を50%にしているわけだ。

 得られる報酬は? 今後対戦相手は脅威を展開して攻撃してきたり、《ギャンブル》を捨てさせる手段を手に入れたりするかもしれない。その数ターン分の猶予を対戦相手に与えずに済む。しかしそうなる可能性は、ほとんどなさそうだ。

 この状況で《ギャンブル》を唱えるというのは、小さな利益を得るために大きな危険を冒している状態だ。

 今度は少し状況を変えてみよう。対戦相手は《交錯の混乱》を変成して、《焼却》を公開して手札に加えたが、マナは使い切った。

 こういう状況では、《ギャンブル》を使うべきだ! 《ギャンブル》しないなら、対戦相手がアンタップして《焼却》を使う前に、何とかして《詐欺師の総督》に《欠片の双子》を使える状況を今から生み出さなければならない。ああ、それは不可能ではない――しかし可能性は低い。それよりは今しかない50%の可能性に賭けるべきだろう。

危険についてよく考える

 あるデッキとの対戦は、時に有利だったり不利だったりするものだ。その視点から、対戦への取り組み方は変わってくる――つまり、マリガンの判断が変わってくる。

 モダンでウルザトロンを使っていて、親和と対戦することになったとしよう。

 この対戦はウルザトロンにとって悪夢だ。親和は対面したいデッキではない。向こうは速攻でパーマネントを大量に展開してくるだろう。さらに悪いことに、初手をマリガンすることになった。引きなおした6枚がこれだ。

http://media.wizards.com/2016/images/daily/jp_BB20160616_Tron.png

 これは通常、嬉しくない初手だ。重いカードと、《ウルザの塔》、そして色マナが必要な除去。ほとんどの対戦では、さらにマリガンして5枚にするだろう。

 だけれども、この場合はこの6枚でキープしたい。

 それには理由がある。この対戦は極めて不利で、手札を5枚にしても問題を解決する助けにならない。この6枚には、《忘却石》か《炎渦竜巻》、あるいはフィニッシャーで盤面を一掃するというチャンスを生み出すために必要なパーツが含まれている。

 この6枚で始めた後、2枚引いても土地を引けなかった場合、すぐさま負けてしまう。その可能性は充分に考えられる。しかし引いた2枚が土地ならば――特にウルザ土地を3種揃えられるように引けば――勝ったようなものだろう。こういう不利なデッキとの対戦では、危険を冒す必要がある。

 裏を返せば、とても有利なデッキと対戦する場合のマリガンは、より安全を追う方が良い。ライフゲイン・デッキでバーン・デッキと対戦する場合、土地1枚の初手をキープはしないだろう。その7枚で無理に始めようとせずとも、5枚か、もしかすると4枚でもまともな手札であれば充分勝てるはずだ。

可能性と危険性

 勝つためには、「どうプレイすれば、試合に勝つ最高の機会を生み出せるだろうか?」という問いを、対戦中のあらゆる段階で常に自問し続けなければならない。

 時には、その判断が容易なこともある。対戦相手のライフが2で、ブロッカーもいないなら、2/2のクリーチャーで攻撃すればいい。しかしよくあることだが、対戦相手の普通と違う行動によってこちらの直感が惑わされることもある――上記の問いを自問し続けることで正しく状況を判断すれば、勝つための最高の機会を得られるだろう。

 冒頭で挙げたプロツアーの事例を思い出してみよう。

 《稲妻のらせん》の英雄クレイグは、劣勢にあった。彼は「どうプレイすれば、試合に勝つ最高の機会を生み出せるだろうか?」と自問しなければならない。

 よし、一緒に考えてみよう。

http://media.wizards.com/2016/images/daily/jp_BB20160616_Formula.jpg

 「攻撃クリーチャーをブロックと火力で処理しつづけて」勝つには、相手がこのあとの第2メイン・フェイズにクリーチャーを追加してこないことが前提だ。さらに飛行を持つ1/1のトークンを含めた攻撃クリーチャーに対して、有効なブロッカーなり除去なりをいくつか続けて引く必要もあるだろう。オリヴィエが今後クリーチャーを引いて来ない、という可能性はほぼない。

 今度は逆に、《黒焦げ》を本体に打つ場合を考えてみよう。これは基本的に状況を分かりやすくする。次のターンに3点与えれば勝ちで、与えられなければ負けだ。そしてこの短い時間の動画では分かりにくいが、クレイグのデッキには3点以上の火力が複数枚採用されている。

 さらに考慮すべきなのは次の点だ。クリーチャーに火力を打つつもりなら、この先に続く数ターンのことを考え抜かなければならない。おそらくその状況から劣勢を覆すには、《稲妻のらせん》を引くのが一番だ。つまり、この先の数ターン、オリヴィエが良いカードを1枚も引かず、その上でこちらがクリーチャーや《稲妻のらせん》を引き続けることができれば、まあ勝てるだろうと言うことだ。必要な火力は同じだが、それを引けば確実に勝てる選択肢とは対照的だ。

 ここまでくれば、はっきりしてくるだろう。《黒焦げ》を本体に撃つプレイが正解だ。

 他には、対戦相手が劣勢から復帰してくる可能性があるかどうか――そしてその可能性を潰せるかどうかを判断するのも有効だろう。

 《スフィンクスの啓示》コントロール・デッキ同士の対戦を想像してみよう。お互いに消耗し、二人とも10枚の土地をコントロールしているだけで、戦場にはほかに何もない。対戦相手には手札すら無いが、こちらは《払拭》を持っている。

 そして次のドローで《スフィンクスの啓示》を引いた。さて、どうしようか?

 《スフィンクスの啓示》を使って得た優位を対戦相手に覆される可能性はほとんどない。しかし、相手の《スフィンクスの啓示》を通してしまうとわからなくなる。フルタップで《スフィンクスの啓示》をプレイして、アンタップ状態で出せる土地を引いて青マナを確保すればいい、という誘惑に駆られるかもしれないが、危険を冒す価値はない。引くカードが6枚でも7枚でも大して差はないだろう――それよりも、相手の復帰を一度妨害できるほうが、ゲームを決定的なものにできる。

サイドボードにある危険

 最後に、時には危険を冒すべきかもしれない要素として、サイドボードについて話そう。

 ドラフトをプレイしているとしよう。1ゲーム目を終えたところで、相手のデッキに比べて自分のデッキがかなり弱いことに気づいた。状況は不利だ――それでも勝ちたいなら、危険を冒すしかない。

 そういう場合にまず私が試すのは、サイドボード時に土地を減らして呪文を増やすことだ。(あるいは、デッキがかなり弱いと感じた場合、最初から土地を本来入れるべき枚数より1枚少なくする。)対戦相手のカードのほうが強い場合、対抗するには呪文をより多く引き当てる可能性に賭けるしかないだろう。(もちろん、ミスプレイしないことが前提だ!)

 同じ考えで、圧倒的に優位で土地事故ぐらいしか負ける要素が見当たらないなら、サイドボード時に呪文を抜いて土地を足すこともありえる。

 他に考えられるのは、相手のデッキに対して、本来入れるはずのないカードをサイドボードする作戦だ。不利なデッキを突破するためには、大きな変化を起こす必要があるだろう。

 最後に、サイドボードが極めて大きな役割を持つ、トーナメントとメタゲーム全体について考えてみよう。サイドボードは、言ってみればメタゲームを15枚のカードへと凝縮したものだ――そしてそれらのカードを選別する際に、危険を冒さなければならないときもある。

 赤緑ウルザトロン対親和の例に戻ろう。親和との対戦に勝ち目はない、と判断したとする。《古えの遺恨》をサイドボードに用意すれば、勝率は30%にはなるだろう。

 時には、全てに勝つことは諦め、負けを覚悟する必要がある。親和に当たれば負けるだろう。ほぼ負ける対戦のために、サイドボードの枠を消費するのは無駄だ。親和にしか効果のないカードは抜いて、別のものにしたほうがいいだろう。

危険を冒すべき時

 ジョン・フィンケル/Jon Finkelはかつてこう言った。「正しいプレイは正しいプレイさ。結果がどうであってもね。」

 たとえそれが正しいプレイであっても、全ての賭けが成功するわけではない。悪い結果を生むこともある。しかしそれが正しいプレイであるならば、それでいいはずだ――その時に勝ったとしても負けたとしても、総合的に見て正しいと感じている同じプレイを繰り返すだろう。そういうものだ。

 願わくば、これであなたが自信を持ってプレイを選択できるようになることを。

 状況、そして判断によって、危険を冒すことがまさに正しいプレイである時がある。危険を冒す経験を積み重ねる必要はあるが――うまく行けば正しい道へと導いてくれる。

 この話は考えることや検討すべきことがたくさんある。今回の話(や、本当なんでもいいので他の話)に関連して何か考えていることがあれば、ぜひ教えてほしい。TwitterTumblrはよく確認しているので、気軽に連絡してほしいな。

 それらを利用してないなら、beyondbasicsmagic@gmail.com宛てにメールしてくれてもいいよ。

 マジックを大いに楽しみ――その中で危険を冒すべき時があれば動こう。今週は普段と違うプレイに挑戦して、結果を見てみたらどうかな。

 また来週会おう。

Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com

(Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing)