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 今から千年以上の昔、タルキールはドラゴンと人間の両方にとって危険をはらむ、困難な地だった。

アート:Slawomir Maniak

 タルキールの空はドラゴンに満ちている。彼らは強力なエレメンタルの嵐から生まれ出て、その破壊的な吐息とともに空に満ち、五つの戦士氏族を脅かしている。龍の種は五つ存在し、それぞれが最も巨大かつ最古の龍の名を冠している。それぞれが異なった外見、気質、武器としての吐息を持っているが、そのどれもがタルキールの人型生物種族にとって危険な敵である。

タルキールの氏族

 ここ、過去の世界にも、タルキールの五氏族は存在している。彼らは生き延びるために龍と戦い、その争いの中で何とかして優位に立つことを望んでいる。彼らは龍殺しとして鍛えられ、自身と家族を空の捕食者から守ることに人生を捧げている。

 各氏族は『タルキール覇王譚』にて登場したものと同じだが、重要な違いがある。この時代の氏族とそのカン達は、何よりも龍との戦いにその力を向けている。

アブザン家

 絶えることのない龍の脅威下にあるために、タルキールの過去はその現在よりも遥かに危険である。アブザンは龍と過酷な環境の両方を生き延びるために、力を合わせる必要性を理解している。

アート:James Ryman

 アブザン社会の中心は家族の繋がりであり、氏族はその繋がりを脅かすであろう者は誰であろうと戦う。アブザンは祖先の霊に敬意を払い、何よりも彼らの系統に重きをおく。だが彼らはまた他の氏族の戦争孤児を引き取り、「クルーマ」の階級として彼らを取り入れる。アブザン社会の一員が最も恐れるのは、縁を切られて砂漠へと追放されることである。

 アブザンはその象徴として龍鱗を取り入れている。比喩的に、氏族員それぞれは一枚の鱗であり、氏族の中で他者と組み合わさった時に、難攻不落の防御を形成する。龍との戦いの中、その鱗はまた文字通りの防御でもある。兵士達は倒れた龍から鱗を奪い、防護のためにそれらを鎧に組み入れる。

 アブザンのカン、不屈のダガタールは慎重な戦略を用いて目的を達成する。彼は絶えず周囲に目を配り、このため時に彼はよそよそしく見える。ダガタールは黒色のアイベクスに騎乗し、龍鱗から作られた精巧な鎧をまとう。彼の印象的な鎚矛の槌頭は琥珀から削り上げられたもので、その内には悪意のある霊が縛られている。

アート:Zack Stella

ジェスカイ道

 ジェスカイは精神的な悟りを追い求める武術家と神秘家達である。彼らの肉体と精神の厳格な鍛錬は幼少の頃から始められ、一生を通して続く。だが龍による絶えない脅威の下、この鍛錬は疑いなく守備的な形となっている。

アート:Craig J Spearing

 孤立した要塞の内にて、ジェスカイは様々な神秘的な流派と思考の学派を維持している。人間とイフリートの僧達が若者を導き、エイヴンの斥候は龍や他の上空からの攻撃を知らせる。冷静なジンは地面と空中の両方に堡塁を築く。

 ジェスカイはその象徴として龍眼を取り入れており、それは悟りと警戒の両方を表している。彼らは戦闘において狡猾さと戦略を重視し、しなやかな武器を用いて敵をからめ取り、動きを封じる。好まれる戦略として、鎖と重い綱で龍を罠にかけ、投げ槍でとどめを刺すというものがある。最も大胆な戦士達はその綱に登り、龍と接敵して交戦する。

アート:Lake Hurwitz

 沈黙の大嵐、シュー・ユンがジェスカイを率いている。その比較的若い外見とは裏腹に、彼はタルキールでも最も年老いた者の一人である。シュー・ユンは極めて熟達した闘士であり、ジェスカイに知られたあらゆる戦闘の型を会得している。そして彼は幽霊火の龍印を持つ戦士である。彼は氏族の構成員全員の戦闘技術を上達させることに身を捧げている。

〈沈黙の大嵐、シュー・ユン〉 アート:David Gaillet

 オジュタイの地下墓地の内に、シュー・ユンとその弟子達が秘密の知識を収集している。彼らはタルキールの未来のためにこの知識を保とうとしている、その未来がどのような運命を抱いていようとも。

スゥルタイ群

 退廃的なスゥルタイは冷酷かつ不実に、そして増大し続ける不死者の下僕達の軍勢とともに支配している。氏族の支配者はラクシャーサとして知られるデーモンと契約を交わし、精鋭としての地位を守っている。ナーガは恐るべき屍術師として尊敬を集めているが、彼らは氏族を支配してはいない。

アート:Volkan Baga

 スゥルタイは不死者の労働者階級を用いて他愛のない仕事を行わせ、また軍隊の安価な駒としている。彼らはまた樹上や宮殿の塔にまばたきひとつしないゾンビの見張りを置き、空から近づきすぎた龍を罠にかける網で武装している。スゥルタイの寺院を取り巻く森は魔法的に変化させられており、毒を塗った針が棘の障壁から攻撃者へと放たれる。そして毒の弩弓を持つ兵士が常に身構えている。

 スゥルタイは高い攻撃性を持ち、また嬉々としてその悪意ある計画を広める。そのため彼らはそれを体現する龍の牙を象徴としている。氏族は冷酷さに重きをおき、軍隊の安全は一切考慮しない。それらはゾンビ自身で容易く取り替えがきくために――もしくは新たなゾンビとなるために。

 黄金牙のタシグルは勝手気ままな若者であり、スゥルタイの富の後継者である。痩せて背は高く、残酷な歓楽にふける快楽主義者であり、領土を統べることに一切の関心を持っていない。彼は通常、ゾンビに担がれた華麗な輿に乗って宮殿内を移動している。タシグルは精巧な黄金の装飾をまとい、長く先の尖った鞭を持ち歩いている。彼はそれを立腹した時や単純に退屈した時に他者へと振るう。彼は自分達へと敵対した者の血族を不死者と化し、送り込むことで敵を苦しめることを特に好んでいる。

アート:Chris Rahn

マルドゥ族

 マルドゥは戦いに生きる恐るべき戦士達である。彼らは人間、オーク、オーガ、ゴブリンの轟く波となって他の氏族から常に略奪するが、奪った領土を滅多に保持しない。彼らは無慈悲な戦いの規定に従い、他の氏族から必要な資源は何であろうと奪う。マルドゥは移動性の生活様式を営むが、略奪の合間には大型の宿営地に集まる。

アート:Viktor Titov

 成人となる年齢に達すると、マルドゥの戦士は「戦名」を受けるために残忍な名誉の行いにて自身を証明することを望まれる。これは通常、戦いにて敵を殺すことを意味する。最も大胆な者は龍殺しの名声を求める。そのような狩人達は高い崖から龍の背へと飛び降り、地面へと迅速に落とすためにその首や翼を切り刻む。成功には高い勇気と技術と幸運を必要とし、この技を試したほとんどの者は死ぬ。

 マルドゥはその迅速な攻撃を示す、龍翼を象徴としている。彼らの略奪隊は戦場における獰猛な戦略、完璧な弓の技、物騒な戦闘魔術を用いて迅速な勝利を確実なものとする。

 弱冠十九歳ながら、死に微笑むものアリーシャはマルドゥのカンである。彼女は熟達の乗り手であり、優れた射手であり、剣の達人である。彼女は重量のある刃を振るいながら白兵戦闘へと大胆不敵に乗り込む。彼女は龍族を軽蔑しており、彼らを害獣以上のものではないと信じ、戦闘で自分と相対するように敵に挑みかかる。

ティムール境

 ティムールは力、獰猛性、社会の中における独立性に重きをおく。彼らは荒れ果てたカル・シスマ山境に氏族の住処を切り開き、宿営地から頻繁に探索へと赴き、一年のほとんどを狩猟に費やす。

アート:Nils Hamm

 ティムールはタルキールの自然の秩序に寄り添う調和の中に生きている。彼らは土地から与えられるものを第一に生き、他氏族から略奪をすることは滅多にない。彼らの土地は過酷な極寒の中にあることから、ティムールは荒野の気象に対してよく備えている。「囁く者」として知られる彼らの預言者達は自然の精霊やエレメンタルと語り、互いに伝達し合って脅威を警告し、最良の行動方針を決定する。結果として、「囁く者」達は氏族内で高い地位を得ている。

 氏族の大人は皆――そして子供達の多くも――手強い闘士であり、荒野で生き抜く術に長けている。ティムールは野生の獣の憤怒を崇め、しばしば剣牙虎や他の大型捕食者に騎乗し、もしくは共に戦う。氏族はその性質を表す、龍爪を象徴としている。

 ヤソヴァは龍爪の称号に相応しいと証明する儀式的挑戦を果たした。彼女は今やティムールのカンとなっている。彼女はまた強力な巫師であり、山々のエレメンタルの軍勢を呼び起こし、対抗する敵勢力へと仕向ける。ヤソヴァは常に巨大な剣牙虎の相棒と共にある。

アート:Winona Nelson

タルキールの龍種

 千年以上に渡り、精霊龍ウギンの魔術は彼の故郷の次元タルキールの強大な嵐へと融合してきた。この魔法的な嵐は「龍の嵐」として知られるようになり、龍を生み出す強大な魔術の荒々しい巣となった。その嵐が特定の地形の上へと移動すると、それぞれの環境のエネルギーを得て五つの異なる龍種が生み出される。長い間、一体の支配的な龍がそれぞれの種の中に君臨してきた。これらの龍の力は氏族に崇められ、彼らはその氏族の理想の体現となった。

ドロモカ

 アブザンにとって、ドロモカは称賛に値する唯一の龍である。ドロモカと彼女の種は焼けつく光のような吐息を備えるが、彼女らの最大の強さはその装甲のような皮にある。最も重い武器すらも彼女らの貫通不能の鱗の前には役に立たず砕け散る。

アート:Zack Stella

 ドロモカと彼女の血統はアブザンが居住する、暑く晴れ渡った地域に引き寄せられる。そのためアブザンはマルドゥとスゥルタイが領土を侵す中、領土の支配のために龍たちとも戦わねばならない。居住に適さない地形だけでは、アブザンの要塞都市アラシンへの空からの攻撃を防御できない。そのため固く結びつくこの氏族は印象的な防御を発達させてきた。

オジュタイ

 ジェスカイにとって、オジュタイは狡猾という彼らの理想を最も体現する龍である。羽毛の翼で音もなく滑空し、オジュタイと彼の種は氷の吐息で獲物を凍らせ、弱者をついばむ。氏族と戦う際、その龍たちは忍耐強い戦略で狼狽させ、氏族が致命的な過ちを犯すまで待つ。

アート:Chase Stone

 オジュタイと彼の種は冷気を好み、高山の峰に縄張りを主張する。そのためジェスカイは要塞を山腹に造り上げ、攻撃に備えている。特別に訓練された僧達が魔法の龍鐘に常駐しており、敵が近づいてきた時には警告の音を鳴らす。

シルムガル

 スゥルタイにとって、龍とは冷酷さを体現するものであり、シルムガルはその頂点に立つ存在である。シルムガルと彼の種は氏族から宝物を略奪しては悦に入る。彼らにあえて挑もうと言う者は皆、その有毒で腐食性の吐息に等しく直面する。

アート:Steven Belledin

 シルムガルと彼の種は蒸し暑い密林と冷たく湿った沼地に生息する不快な生物であり、そのためスゥルタイとは紛争になっている。それに応じて、氏族は魔術と自然の両方で効能のある毒を発達させてきた。ゾンビ達は毒の影響を受けないため、彼らは槍と毒矢の弩弓で武装している。人間とナーガの龍殺し達は吐息の範囲内へと近づくために、そして後退して彼らの武器からの毒が効き始めるまで身を潜めるために隠蔽の技を用いる。

コラガン

 マルドゥは何よりも敏捷を讃えることから、コラガンは彼らが崇敬する龍となっている。コラガンと彼女の種は燃えさかる稲妻の奔流で地上を掃討し、最も素早い獲物すらも狩ることができる。マルドゥのように、彼女らは灰以外の何も後に残さない。

アート:Jaime Jones

 コラガンと彼女の種はタルキールの岩がちの丘陵地帯と草原を支配すべく奮闘している。龍と競い合うために、マルドゥはいよいよもって無謀な戦略を展開している。多くの戦士達が、上方を向いた刃や槍を肩に取りつけ、飛びかかってくる龍にとって自分は危険な対象だと示している。時折、軍族の残り全てを守るために騎乗戦士の小集団が鮮やかな長旗の一揃いとともに、龍達の気を散らすために素早く馬を走らせる。これは極めて危険な任務だが、マルドゥはこの類の役割という名誉にあずかることを競う。

アタルカ

 ティムールはただ一体の龍、アタルカを崇める。アタルカと彼女の種は空に吼え声を轟かせ、巨大な龍炎の柱で破壊をもたらす。彼女らは飢えを満たすべくタルキールを巡り、その凶暴な猛攻撃に抗える者はほとんど存在しない。

アート:Karl Kopinski

 アタルカと彼女の種はティムールが宿営地を築いてきた、雪に覆われた山岳地帯での狩りを好む。獲物が乏しいことから、氏族は龍の捕食から食糧の備蓄を守ることを強いられている。ティムールは氷が張り出した深い洞窟に前哨地を設置し、巫師達は空からの攻撃を思いとどまらせるためにエレメンタルの魔術を織り上げ、おびただしい棘でそういった隠れ家を補強する。ティムールの龍戦士達は龍と一対一で対峙することを好み、その桁はずれの力と不屈さをもって奮闘し、敵を鎮圧する。

プレインズウォーカーの横顔:精霊龍ウギン

 精霊龍ウギンはプレインズウォーカーであり、計り知れないほどに古い存在である。その長命によって彼は多元宇宙についての独特な視点を得るに至った。彼はそれを途切れた部分のない一体のものであるとみなし、その最も深淵の神秘を理解しようと追い求めている。彼は多くの次元の一つ一つについて、その活動様式を――創造、破壊、再生を――研究してきた。そしてそれらが持つ万有の法則を応用し、自身の魔術の様式を創造することに応用してきた。ウギンの魔術は物質のエネルギーへの変換を扱うもので、それは誰もが振るうことが可能となる力である。

アート:Raymond Swanland

 ウギンが理解に生涯を捧げている、もう一つの謎がエルドラージである。彼はこの巨大生物達の目的と性質を把握しようと試み、追跡し、記録してきた。そして彼らを破壊しようとする全ての者に難色を示してきた。

 我らは皆、巨大な綴れ織りの一部だ。一本の糸を切ったなら、多元宇宙のその部分が綻びる。手遅れと知るまで、その傷がどれほど小さなものか、大きなものかを知ることは決してできない。そのため、小さき精神が大いなる力を振るうなどということは決して許されるべきではない。

――ウギン

巨龍たちの戦い

 永遠にも及ぶ長い敵対の後、ニコル・ボーラスとウギンは――かつて知られた最も強大なプレインズウォーカーの二体は――ついにタルキールの空にて激突した。サルカンがその場面に到着した時、彼は畏敬とともにこれら古の偉大な龍達が魔術の奔流を繰り出し合う様子を見守った。

アート:Michael Komarck

 サルカンの心の不可解な謎が明らかになった。彼の頭の中の囁きは不安定な精神が発するうわごとではなかった。それらはウギンからの嘆願であり、サルカンはそれに導かれて時を越え、この瞬間この場所へと辿り着いた。そしてサルカンは知った、ここで行う選択は時間の流れを二つに裂き、一つの次元全体の運命を再編するのだろうと。

(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)