ドミナリアへの帰還 第6話

更新日 Magic Story on 2018年 4月 18日

By Martha Wells

Martha Wells has written fantasy novels, short stories, media tie-ins, and non-fiction. Her most recent works are The Harbors of the Sun, part of her Books of the Raksura series, and a science fiction novella from Tor.com, The Murderbot Diaries: All Systems Red.

 遺跡の台地を目指してティヴァン砂漠をじりじりと進みながら、テフェリーは言った。「いいかな。今回は質問に答えよう」 時刻は朝、太陽は既に昇って気温は高く、塵が巻き上がっていた。背後の彼方には昨晩に野営をしたオアシスの椰子の木が見えた。そう遠くない前方にはあの遺跡、自然の台地に半ば隠された一つの巨石があった。フェメレフから来て近くの交易路を通る旅人はいつも、それは古代の遺跡だろうと考えた。確かに古い、だがテフェリーよりも若かった。同時にそれは、彼が年月をかけて解明を目指しているものだった。

 問いかけるような表情を作り、娘のニアンビが言った。「また聞くけれど、狂気の定義とは?」

 テフェリーは声に出して笑った。「その疑問に対する答えは、君自身が狂気に至る手段を持たない場合にのみ適用される。私には常に一つ手段があるけどね」

「あら、もしその手段が何かを知っているなら、の話よね」 ニアンビは笑みとともに言い返した。

「思うに、今日こそだよ」 彼は娘へと言った。「今度こそ打ち負かされはしない。何せ君がいるのだからな」 テフェリーは台地の根元へ到着し、そこでは敷石の上を砂が薄く覆っていた。靴でその中央を拭うと、一つの印が現れた。

 ニアンビは慎重に言った。「ただの仮説よ。あまり期待しないでね」

「いつだって期待しているさ」 テフェリーは杖でその印を叩いた。

 敷石に継ぎ目が開き、砂が流水のように中へと滑り落ちた。その継ぎ目は埋もれた広場を横切るように走り、巨石の足元へ到達した。するとその石が軋み音とともに真二つに分かれ、三角形の縦穴が現れた。その中には、幅広の階段が地下へと続いていた。

 ニアンビはそれを油断なく見つめた。訪れたのは初めてではなかったが、彼女は今もその遺跡に注意を配っていた。心構えの問題ではなく、ニアンビが思った通りにその遺跡自体が危険であるためだった。「その人がここにいるわけじゃないのは確か?」

「精神的にはここにいる。しかもすぐ近くにね。本当だよ」 靴底で砂をこすりながら、テフェリーは階段を下りていった。それは遺跡の本堂の入口で終わっており、石造りの重い天井の下に暗い洞窟が伸びていた。脇によけ、彼はしばし待ってニアンビが自力で降りてこられることを確認した。五十歳である娘は今も頑健で身軽だが、落ちて無事で済む年齢ではなかった。気にかけるのは当然だった。彼自身の老化はとても緩やかで、この数十年間ずっと彼は五十歳程のままだった。

 幾つもの光が、入口と同じく機械と魔法から成るそれが、暖炉に起こされた火のようにゆっくりと輝きだした。それらは菱形の水晶に包まれて天井近くに浮遊し、魔法的な文字で覆われた壁を照らしていた。手がかりを求め、テフェリーは年月をかけて既にそれを解読していた。だが意味はなかった。その銘文は侵入者を騙すためのもの、遺跡の秘密を明かそうと試みた者の時間を浪費させる罠の一つでしかないと彼は推測した。

 彼は廊下を進みだした。その後ろにニアンビがつき、足音は静かだった。一人でもニアンビと共にでも、既にテフェリーはこの場所を何度も通っていた。そして軽率な行動は厳禁と二人とも心得ていた。テフェリーは既に遺跡の罠を多数取り除いたが、まだ噛みついてくる可能性はあった。

 二人は最初の分かれ道に到着した。アーチの入口から、異なる三方向へと通路が伸びていた。黒い姿が一つ、不意に右側の通路から二人へと突進してきた。

 テフェリーはこの近辺での遭遇をある程度予測していたが、突然の出現に慌てて咄嗟に唱えた呪文は強すぎた。それは相手を強烈に打ち、ばらばらの部品にしてしまった。彼は自身に呆れて溜息をついた。過剰な反応は好きではなかったが、娘が隣に立っている時に不意打ちをしてきたらどうなるかをこの物体は知るべきだった。

 その自動人形は優に高さ八フィート、銀色と銅色の金属で作られ、四角い頭部を持つ巨体の戦士のような姿をしていた。その部品は分かたれて宙に浮いていた。四肢、それを動かす歯車と車輪、動力を供給する水晶。そして完全に沈黙してはおらず、爆発に吹き飛ばされたその場所で全ての部品がかすかに振動していた。それらは非常に緩やかな時の流れに捕われていた。

 ニアンビは警戒してそれを見つめた。「もう大丈夫?」

「ああ、でも触らない方がいい」 テフェリーは分かれ道まで進み、三方向全てを注視した。

 ニアンビは自動人形に近づくと間近で見つめ、眉をひそめた。「鎧の印を覚えてるわ。父さんが前にこれを壊した時、私も一緒だった」

「その通り。思うに、自分達でお互いを修理しているらしい」

「あら、それは素敵」 彼女は顔をしかめ、後ずさった。

 通路三本のうち二本は常に罠、だがどの二つかは訪れるたびに変化していた。テフェリーは形を変えながら浮遊する魔法文字を読んで正解を判断し、最初の屈曲部で巨大な目が発する死の光の罠を作動させて解除した。それが済むと、彼とニアンビは毒針の部屋へと進むことができた。

 テフェリーは襲いくる針を空中で止めることができるので、それは比較的容易い罠だった。とはいえ時折それらは凝った攻め方でやって来た。ニアンビがローブの裾を引いて宙の針を注意深く避ける様子に、テフェリーは以前の冒険を思い出した。彼は優しい笑みを娘へと向けた。「機械蜘蛛を覚えているかい?」

「ええ、父さん。悪夢を見るたびに思い出すわ」 ニアンビは乾いた声で言った。

 最後の通路で更に二体の自動人形を片付けると、二人は遺跡の中心となる部屋へとやって来た。通路から幅広の張り出しへ踏み出すと、光が壁面をゆっくりと上昇し、その広大な空間の真の規模を露わにした。壁の上部全体の数百フィートに渡って、幾つもの円形の入口が小部屋や通路へと続いており、あるものは光に照らされあるものは暗い影の中にあった。それらは中央の昇降台と、その欺くような単純な格子模様を見下ろしていた。テフェリーはこれまでにその入口を全て調査し、どれもただの攪乱、解明を遅らせるための罠だとわかっていた。細い橋から続く中央の昇降台には正方形の格子模様があり、それが謎解きの真の鍵だった。

 あるいは浮遊する幾つもの石塊が鍵という可能性もあった。テフェリーは長い時間をかけてそれを絞り込み、今やどちらかに違いないと確信していた。ニアンビはその石塊について新たな仮説を提唱しており、そのため二人はここに来ていた。

 光の輝きが増し、その石塊が視界へと動いてきた。それらは均一の寸法をした直方体の石で、下の影の中から上昇し、そして上方から降りてきた。テフェリーがそこに立っている間、それらは広大な空間をでたらめに動いていた。

「準備はいいかい?」 テフェリーが尋ねた。

 決意の表情で、ニアンビは鞄から記述用の薄板と筆記具を取り出した。「はい」

 テフェリーは橋を進み、ニアンビが続いた。中央の昇降台に足を踏み入れると、浮遊する石塊が彼をめがけて動きだした。

 二人を潰そうと石塊が襲いかかった。テフェリーがそれを防ぎ、ニアンビは屈んで薄板へせわしない書き込みを始めた。少しして、ニアンビが呼びかけた。「左から六番目、上から四番目」

 テフェリーは跳ぶように動き、格子模様をその順に杖で叩いた。何もなかった。「変化なし。次を」彼は告げた。

 そして同じように、ニアンビの指示に従ってテフェリーは格子模様を叩いた。更に二体の自動人形がテフェリーに挑むべく這い上ってきた。彼は一体の時を止め、もう一体は素早い杖の一振りで昇降台から落とした。時折鋭い突風が彼とニアンビを打ち、痛むほどに塵をまき上げてニアンビの編み髪を乱した。テフェリーは可能な限り防ぎ、そうでない時は耐え、ニアンビが指示する入力を続けた。

 一時間以上が経過した所で、ニアンビが言った。「父さん、ここまでです。終わらせないと!」

 テフェリーは直ちに格子から離れ、ニアンビに手を貸して立たせ、橋から撤退した。通路まで戻ると部屋のあらゆる動きは遅くなり、そして止まった。

 ニアンビは壁にもたれ、額には汗が浮かんでいた。「違ったわ。数学的な問題じゃない。そうだとしても、鍵は動く石塊じゃない」

 残念だったが、挫折も溜息一つにできる程にはテフェリーは長く生きてきた。「それでも良い理論だった。試さなければわからないからね」

 ニアンビはかぶりを振った。「父さんの時間を無駄にしてしまって」

 テフェリーは娘を片腕で抱きしめた。「そんな事はないよ。全ての父親が娘と同じ趣味を持てるわけじゃないんだ」

 彼女は笑い、だがその声は疲労から半ば息切れとなった。「ええ。それじゃあこの酷い場所から出ましょう」


 遺跡から出るまでは安全とは言えず、オアシスの宿営を目指して重い足取りで砂漠を進むに至って二人はようやく口を開いた。「どうしてあんなに難しく作られているの?」 ニアンビは不満げに言った。「父さんがいつか必要とするって知っていたのなら」

 テフェリーは用意していた回答を伝えた。「あの人はあれをファイレクシアから、悪魔とその魔道士から、そして中に封じられている荒々しい力を欲するかもしれない全員から守っているんだよ」

 ニアンビは憤慨した。「それ、信じていないでしょう」

 娘は父親のことをよく知っているのだ。「ああ、信じていない。だが誰もが求める答えだ」

「わかってるわ、ただ……」 ニアンビは身振りで怒りを示した。「友達だったんでしょう? どうして父さんにこんな事をするの?」

 テフェリーはそれを否定した。「ウルザに友達はいなかった、君や私にいる友達のようなそれはね。あったのは実験対象と、知性と十分な強さを持つと彼自身がみなしたもの、実際に人ではなくともね。けれどあの頃、私達にはあの人しかいなかったんだ」

 砂に大きな影が落ちた。テフェリーの本能はそれがドラゴンだと告げ、呪文を唱える構えとともに顔を上げた。だが頭上にあったものは、船のような形をした、奇妙なほどに見覚えのある……だが心によぎったものだったとしても、あり得る筈がなかった。

ウェザーライト》 アート:Jaime Jones

「飛翔艦?」 ニアンビはテフェリーを見つめた。「父さんを捜しに来たの?」

 テフェリーはゆっくりと笑みを浮かべた。まさしく、それだった。「私の過去が、追いついてきたようだ」


 ギデオンはウェザーライト号の梯子を下り、最後の数段は飛び降りた。夕日の長い影に満たされたオアシスにはまばらな草と椰子の木に囲まれた広い池があり、その一部はむき出しの岩で風から保護されていた。この地域に今よりも人々が行き交っていた頃の名残か、荒れ果てて放棄された小屋が幾つかその池の向こう側に建っていた。現在の住人らは幾つかの松明の側に簡素な野営地を作っており、青いカンバスの天幕とかまどを置き、人が座る絨毯と草の敷物が堅い砂地の上に広げられていた。

 彼が到着してすぐに紹介が始まった。自分達が会いに来た二人はシャナ・シッセイと同じく浅黒い肌のジャムーラ人だった。一人は短い白髪頭、長身でがっしりとした壮年の男性。もう一人は同じ程の年齢の品の良さそうな女性、その長い編み髪には灰色が混じっていた。

 ジョイラが説明した。「ギデオンさんとリリアナさんはプレインズウォーカーね」

「ほう。私も昔はそうだったよ」 まるで何か共通の趣味について語り合っているかのように、テフェリーは気楽な笑みを浮かべた。「この子は私の娘、ニアンビ」

「え、失礼ですが、娘さん?」 ラフが困惑とともに尋ねた。

「父はかつて不老だったんです」 ニアンビは温和に解説した。「加齢がとてもゆっくりなんです。私はここ数年で父に追い付いてしまいました」

 テフェリーは野営場所へ来るよう身振りをし、炎を囲んで全員が腰を下ろすと彼は言った。「ようこそ。私にどんな御用かな?」

 ギデオンが少々驚いたことに、ジョイラは最初から核心部分を明かした。「ベルゼンロックを倒しに向かう計画なのだけれど、要塞への侵入に力を貸してくれる時間の魔道士が必要なの」

 テフェリーは両眉を上げた。「時間の魔道士。私にその心当たりがあると?」

 寛大な笑みとともに、ジョイラは返答した。「テフェリー、からかわないで。あなたの力が必要だってわかっているくせに」

 テフェリーは身をのり出し、表情は真剣なものへと変わった。「ジョイラ、私達がこの砂漠の中で野営しているのは、親子の休暇を楽しむためじゃない。とある非常に重要なものに取り掛かっているんだ」

「重要ってどんな?」 目を狭め、思惑とともに見つめながらリリアナが尋ねた。「あの古い遺跡かしら?」

 テフェリーはそれを訂正した。「それほど古くはないんだ。私より若い」

 これまでのやり取りからギデオンはテフェリーの性格を推し量り、この人物はむしろ力を貸したがっているようだと考えた。つまり、今ここにいるのは真に重要な目的のためなのだと。彼は言った。「取引ではいかがですか? その探究をお手伝いするのであれば、力を貸して頂けますか?」

 テフェリーは思慮深くギデオンを見つめた。「君達は私の力になれると思っている、と」

 溜息一つとともにニアンビが言った。「この人頑固だから、手助けして欲しくないんです。自分でやりたがっているんです」

 テフェリーは娘へと顔を向けた。「いや、そういう事じゃない! 力を貸してくれるというのなら嬉しい。私はただ――」

「ならお願いしたらどうなの、父さん! 大切なのだから! それに終わりさえすれば、自由になれるんでしょう。お友達のジョイラさんについては何度も話してくれたじゃない。本当はここから飛び出して、また一緒に冒険をしたいんでしょうに」

 ジョイラは宥めるように両手を伸ばした。「とりあえず、今は何をしようとしているの? その遺跡と関係があるの?」

 テフェリーはしばしの間彼女を見つめていた。ジョイラは身をのり出し、彼の手を握りしめて優しく言った。「力にならせて」

 テフェリーは息を吐き出した。そしてギデオンと皆を見て言った。「ザルファーの話は知っているかい?」

 シャナが答えた。「私は知っています」

 ラフは頷き、そして続けた。「ファイレクシアの侵略から逃れるために、ドミナリアから離れたんですよね」

 シャナは顔をしかめた。「それは私が聞いた話と少し違うかな」

 リリアナは苛立ったように見え、ギデオンが尋ねた。「その話とは?」

 テフェリーは語った。「ファイレクシアの侵略当時、ザルファーはドミナリアで最も進んだ国家だった。強大な魔術、技術、軍事力。それはすなわちファイレクシアの攻撃の矢面に立つことになるだろうと。ウルザはそうさせようとしていた。そしてザルファーの指導者らは勝てると踏んでいた。だが私はもっとよく知っていた」

 彼は暗闇となった砂漠へ視線を動かした。風が砂丘の頂上を撫で、ガラス質の砂が宵の最後の明かりをとらえた。「破壊をもたらすであろう戦火から人々と故郷を守りたかった。そのため私は時の裂け目を作り出し、ザルファーを部分的にこの次元からフェイズ・アウトさせた。ファイレクシア軍が辿り着けないように、だがザルファーもまたドミナリアに辿り着けない。今もまだ」

 沈黙の中へ、シャナが重々しく言った。「フェメレフやスークアタや様々な地に、ザルファー人は沢山います。二度と帰れない人、家族の一部や全員を失った人、故郷を失った人が」

「そうです」 ニアンビが彼女へと頷いた。「そのため父はしばらくの間、私達の伝承においてはとても嫌われていました」

 シャナは同情するように頷いた。「そのテフェリーさんなんですよね」

 テフェリーは笑みとともに、小さな会釈を返した。「その本人だよ」

 ジョイラが続けた。「テフェリーはシヴの大陸を同じように避難させてくれたの。けれどその裂け目は修復できて、シヴはこの次元に帰って来られた。でも、そのために彼はプレインズウォーカーの灯を失った」

 リリアナは驚きに眉を上げた。「本当?」

「ああ。そのため、ザルファーは戻れなくなってしまった」 テフェリーは周囲の砂漠を身振りで示した。「そのため私はここにいる」

「別にずっとここに座ってるわけじゃありませんから、あまり同情しすぎないで下さいね」 ニアンビが付け加えた。

「父親の人生の痛みを笑わないでくれるかな」

 ジョイラはテフェリーの論点を戻すことについてはよく慣れていた。気負わずに彼女は尋ねた。「でも考えがあるんでしょう? いつもそうだった」

「考えはある、けれど順調とはいえない」 テフェリーは頷いた。「少し前に発見したのだが、古き友ウルザが一連の装置と魔法のアーティファクトを残していった。時の裂け目を修復する幾らかの助けになるかもしれないものだ。私は長いことそれを探してきたが、一つのアーティファクトの所在を突き止めただけだった。それがここの、あの遺跡の中にある。それを手に入れて秘密を解明したなら、次のアーティファクトへ繋がるのだろうと踏んでいる。だが何度もあの遺跡の中へ入り、秘密を解いて罠を繰り返し解除したが、未だに手に入れられずにいる」

 テフェリーの目的が善きものだと知り、ギデオンは安心した。それを完遂する手助けができれば、ドミナリアにとってもいっそう良いものとなるだろう。「ウルザは何からそれを隠したのですか? ファイレクシアですか?」

「いや、私からだよ」 テフェリーは乾いた笑みで言った。

 なるほど、そういうことか。ギデオンは苦々しく言った。「友好的とはとても言えませんね」

「私もそう言っていたんです」 ニアンビが続けた。「この十年程、私はずっと父の力になろうとしてきました。遺跡中心のパズルは数学の方程式だと私は仮定していまして、今日それを試したのですが駄目でした」

「その方程式って?」 ジョイラは興味とともに尋ねた。そして説明された二文をギデオンは全く理解できなかった。

 ジョイラとニアンビが議論する間、彼はテフェリーに向けて言った。「そのアーティファクトを手に入れるお力になれるのでしたら、是非そうさせて下さい。ですが私達はベルゼンロックの打倒を目指しているんです」 彼はリリアナを一瞥した。

 ラフが説明した。「ギデオンさん達がベルゼンロックを倒す手助けをしてくれてるのは、そうすればお二人はニコル・ボーラスを倒しに向かえるからです。誰もが支え合っているんです」 リリアナは疑うように少年を見て、だが彼は続けた。「これは秘密じゃないですよね?」

「口は災いの元よ」 リリアナは陰険に言った。

「君は屍術師だな」 テフェリーは思慮深くリリアナを見つめた。「つまり陰謀団と戦うにあたって、君には個人的な理由があると」

 リリアナはテフェリーへと視線を移した。「そうよ。個人的な理由。だからあなたには関係ない」

 テフェリーは眉を上げ、だが優しく告げた。「ああ。だが聞いてくれるかな。私は過去の過ちを何度も清算してきた。不老不死のプレインズウォーカーとして長い人生を過ごしたなら、その過ちは大規模なものになりがちだ。無かったことにはできない、けれど努力すればその行いを償うことはできる」

 テフェリーの言葉がリリアナの痛い所を突いたのがわかった。リリアナは不機嫌そうに顔をしかめて視線をそらした。

 ギデオンもまた自身の過ちを思った、決して取り返せない生命を。彼は言った。「リリアナはニコル・ボーラスを倒すという私達の計画に欠かせません。ベルゼンロックを倒せたなら、私達二人ともこの次元を出発して友達と合流する予定です」

 リリアナは怒りを隠さなかった。「この人が力を貸してくれるとは言ってないのだから、何もかも明かすのはやめて。それに『友達』が私達に本当に合流して欲しいのかなんてこっちもわからないのよ」

「それは全部誤解だ」 ギデオンは抵抗した。全員がきちんと話をすることさえできれば、上手くいくと彼は確信していた。

 その時、ジョイラとニアンビが話を続けながら立ち上がった。二人の会話を聞いていたシャナも続き、衣服から砂を払った。彼女は言った。「私達はもう一度試しに遺跡へ行ってみます。ニアンビさんの仮説は正しいとジョイラ船長は考えていて、ですが含めていなかった要素が幾つかあるのだとか」

構築物 アート:Victor Adame Minguez

 遺跡へと出発する頃には夜も更け、月は昇っていた。「私は長年試してきたというのに、一回の挑戦で解けると思っているのかい」 砂の中を進みながら、テフェリーはジョイラへと言った。彼女の機械梟が前方を羽ばたき、進路を照らしていた。

 ジョイラは反論に眉を上げた。「いいえ。あなたとニアンビさんが解くと思うけれど、思うにウルザは絶対に正々堂々と挑戦はしないと思うのよ。特に貴方とは」

 テフェリーも、それについては正しいと認めた。

 そして中へ入ると、テフェリーは中央の部屋へ向かうべく先頭に立って遺跡の防衛を突破していった。再びそれらを無力化しながら、この場所に普段と異なる雰囲気を感じ取った。影は濃く、石壁は冷気を放っていた。あるいは単に、夜にここへやって来たのは久しぶりというだけかもしれない。

 やがて彼らは通路の終点、格子の昇降台へと続く張り出しに立った。ギデオンとシャナは不意に襲いくる自動人形を見張るべく両脇へ移動し、ジョイラが仮説を語った。「浮遊する石塊の動きに数学的な意味があることについて、ニアンビさんは正しいと思う。けど私はもう一つ別の要素があるんじゃないかと。何せ私達が相手をしているのはウルザ、それに、このパズルを解くのはテフェリーだろうとあの人は想定していたに違いないから」

 若き魔道士ラフは屈み、通路に刻まれた碑文を調べていた。「つまり船長は、ウルザはこの場所を特別にテフェリーさんに向けて、解かれないように仕立てたと?」

「それ以上よ。ウルザは騙そうとしているのだと思う。リリアナさん、幽霊はいますか?」

 リリアナは張り出しの端まで進み出た。真剣な表情で縦穴を覗きこみ、そして上階を見上げた。「今はいない。けれどあなたが正しければ、演目が始まって幾らか進むまで出てこないはずよ」 彼女は指をくねらせ、自分達を取り囲む縦穴を示した。

 テフェリーは興ざめなことを言いたくはなかったが、今回はその必要があった。「フェイズ・アウトした何かがこの部屋にあるなら、私には見えるはずだ」

「それもあって、私はフェイズ・アウトしたものだとは考えていないの。多分幽霊よ」 ジョイラは身振りで周囲を示した。「呪文でここに捕われた魂。この部屋には呪文が満ちていてうるさいくらい、けれど全てが工匠の術ってわけでもない」

 ラフは頷いて立ち上がった。「僕もいくつか感じました、船長が言ったほど沢山ではないですが」

「ラフ、始めるからそこを離れなさい」 リリアナは元気よく両手をこすり合わせた。「楽しくなるわよ」

「楽しむためにザルファーを修復するのではないよ」 テフェリーは断固として正した。確かに、少しの楽しみはある。だがこのように危険な場所では、終始真剣に取り組むべきだと感じていた。

「もし上手くいけば、ね」 ニアンビが彼を拳で突いた。「やりましょう」

「始めよう」 テフェリーが全員へと警告した。「最悪のものは、私が格子に着き次第始まるだろう」そして彼は狭い橋へ踏み出し、昇降台へ向かっていった。

 いつも通りに、浮遊する石塊が視界へと動いてきた。ニアンビへ向け、ジョイラがそれを大声で数えた。そしてリリアナが言った。「あら、霊が出てきたわよ」

遷延する幻影》 アート:YW Tang

「幾つです? どちらから?」 興奮した声でニアンビが尋ねた。

「三つ、向こうの角から」

 テフェリーは視線を格子に留めたまま、だが尋ねた。「どんな見た目をしている?」

 リリアナは答えた。「ゆっくり動く、すごく微かな霧みたいな感じ。時が経ちすぎて凝集力を失った、古すぎて形を成せない霊よ。あら、もう二体、二階上から降りてくるわ」

 ニアンビの筆記具が熱狂的に動き、そして彼女は叫んだ。「北の方角、上から二つ下!」

 テフェリーはその通りに格子を叩いた。

 そして彼らは続けた。ジョイラは石塊を数え、リリアナは捕われた霊を数え、ニアンビが計算した。自動人形が現れ、だがシャナとギデオンが縦穴の底へ叩き落した。ニアンビの計算が更なる法則を見つけ出すと、テフェリーは更に格子模様を叩き、猛攻撃は二倍にも三倍にもなった。それはまるで、テフェリーが解答に近づいているのをこの場所が感じ取り、彼を止めようとしているかのようだった。

 格子の昇降台へ直接昇ってきた自動人形をテフェリーが止めると、ジョイラとラフは張り出しに防御呪文を唱えた。パズルを解きながら、その場所へ直接攻撃されたことはこれまで一度もなかった。心臓が高鳴りだした。自分達は正しい道筋にいるに違いない。

 そしてテフェリーが一つの正方形を叩くと、昇降台が軋んだ。石が重々しく震え、金属がこすれる音がした。彼は飛びのき、次なる攻撃に身構えた。だが中央の正方形が重々しく動き、開口部が現れた。これだ! これが解答だ! テフェリーは飛びつき、中へと手を伸ばした。

 警告の叫びが一斉に響き、だがここに罠はないとテフェリーはわかっていた。指先が金属をかすめ、彼はそのアーティファクトを取り出した。

 立ち上がり、テフェリーはそれを掲げた。まるで仕掛けのぜんまいが速度を緩めて止まるように、部屋は静かになっていった。ブロックは下降して縦穴へと消えた。自動人形はその場に停止した。テフェリーは銀で織られた籠に収められた、優美な黒い水晶球を手にしていた。その内には星空がとらえられたように輝いていた。

 彼は皆へと振り返った。ジョイラは勝ち誇っていた。ラフは感激し、リリアナは感激などしていないように装っていた。ギデオンとシャイナはそれぞれ壊れた自動人形の部品に取り囲まれ、安心とともにテフェリーを見つめていた。喜ぶニアンビと目が合い。テフェリーはゆっくりと歯をゆっくりとみせて笑った。「やったぞ!」

 ウルザはテフェリーが単独でここを訪れると予想し、全ての防衛をそれに合わせて設置していた。ウルザ、私はあなたとは違う。あなたはあなたの視点でしか物を見ようとしなかった。

 そして不吉な振動が起こり、頭上から塵を降らせた。「自分だけが敗者になるわけにはいかない、ってウルザが考えるのは当然よね」 リリアナが叫んだ。「この場所、崩れるわよ!」

 テフェリーが大股で橋を駆けた。彼はジョイラへとアーティファクトを手渡し、ニアンビの手を掴んだ。「皆、こっちだ!」

 通路を駆ける中、亀裂が壁のそこかしこに走り、足元の地面は揺れた。テフェリーは落石の時を止め、足元が割けるのを呪文で防いだ。この場所が自分のあらゆる歩みを止めるべく、戦いを挑んでいるように感じた、

 テフェリーの力が限界に達した時、彼らは入口から眩しい月光の中へと飛び出した。だが外へ続く三角形の縦穴は、砂で満たされつつあった。ジョイラの梟が動揺とともに頭上を飛び、彼女は叫んだ。「台地が沈んでる!」

 テフェリーが砂をその場に留めようとしたが、あまりに多すぎた。それは海水のように彼らへと注がれていた。かき分けて進もうとしても確実に埋もれてしまうと思われた。

 その時、二本の梯子が上空から投げ入れられた。月光を遮った影、それはウェザーライト号だった。ジョイラが叫んだ。「早く! 登って!」

 目の前に積み上がる砂の上にセラの天使が降り立った。テフェリーは彼女へニアンビを押しやって言った。「娘を頼む!」

》 アート:Titus Lunter

「ちょっと!」 ニアンビは抗議しようとし、だがその天使は彼女の腰に腕を回すと飛び立った。翼の強い羽ばたきが砂を吹き飛ばし、ギデオンは前へ進んで梯子を掴むことができた。彼はそれを支えてリリアナが登るのを待った。もう一つの梯子ではシャナが自分よりも小柄なジョイラを持ち上げ、そしてジョイラは端に寄ってシャナと共に登った。ギデオンはラフの襟首を掴んでリリアナの後ろへ押しやり、そして片腕を一番下の横木にかけた。最後にテフェリーが腰まで砂に埋まりながらも隣の梯子を掴むと、飛翔艦が上昇し、彼らを運んでいった。

 脚が砂から離れるや否や、テフェリーは皆を追った。甲板から手を伸ばして乗船を助けてくれた人物はどうやら吸血鬼、だが他の誰も何ら気にしてはいないようだった。テフェリーが衣服から砂を払うと、ニアンビが抱き着いてきて抗議した。「父さん、私だって自分で登れるのに」

 だがテフェリーには見たいものがあった。彼はただ彼女と共に振り返り、遺跡を見下ろした。

 ラフが空中へと光球を送り出した。その光の中、巨石の建造物は完全に消え去ってしまっていた。テフェリーが見つめている間に台地は完全に沈み、その跡に砂が渦巻いた。

 その隣で、ジョイラがそのアーティファクトを差し出した。中央の水晶はラフの魔術と甲板の明かりにきらめいていた。喜びの笑い声とともに、彼女は言った。「それじゃ、また世界を救うために一緒に来てくれる?」

 テフェリーは息を吐き出し、ゆっくりと微笑んだ。「ああ、そうしよう」


 野営地からテフェリーとニアンビの荷物を回収した後、全員がウェザーライト号で夜を過ごした。ジョイラはニアンビと話せる機会を嬉しく受け止め、フェメレフでのテフェリーの人生について聞いた。追い付くべきことが山ほどあった。

 翌朝、ニアンビを送り届けるためにジョイラは飛翔艦を彼女と家族が住む街へ向けた。

 見たところその街は小規模ながら豊かで、川を見下ろす崖の上に広がっていた。化粧煉瓦の屋根の家々が果樹園と庭園に囲まれていた。ニアンビの家はその郊外にあり、古いながらも広く、中庭ではアカシアの木々が泉を見下ろしていた。

 ウェザーライト号の甲板でテフェリーとニアンビが別れを惜しむ間、ジョイラは立って待っていた。ニアンビは父を抱擁して言った。「友達と楽しんできてね。それと悪魔を沢山倒して」

 彼はからかうように言った。「老いた父親との別れを寂しがるふりもしないとは」

「寂しいわよ。でも父さんのことはよく知ってるから」 そう言うとニアンビはテフェリーから離れた。「それが父さんの人生なんだもの。ザルファーを戻す方法がわかったら、私達を連れて行って案内して頂戴ね。でも、もしザルファーの人々が父さんの命を狙っていたら、私達に先に言っておいて頂戴ね」


 出発すると、ジョイラはティアナに操縦を任せて船長室へ向かった。溜息とともに彼女は椅子へ座り込んだ。テフェリーを仲間に加えられたことは大きな一歩だった。必要なものがもう幾つか揃えば、陰謀団の要塞に侵入してベルゼンロックを倒しに向かうことができる。だがそこは容易な部分だった。

 彼女は首の護符に触れ、それを開いた。中には小さなパワーストーンが、淡い光に輝いていた。スランのマナ・リグにて、自らの手で作ったもの。それはテフェリーのプレインズウォーカーの灯を保持していた。

 困難なのは、これを受け取ってくれるように彼を説得すること……

(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)


プレインズウォーカー略歴:リリアナ・ヴェス

プレインズウォーカー略歴:ギデオン・ジュラ

プレインズウォーカー略歴:テフェリー

次元概略:ドミナリア

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2019年 5月 29日

ラヴニカ:灯争大戦――退路なき任務 by, Greg Weisman

 前回の物語:結束という難問  以下の物語には、グレッグ・ワイズマン/Greg Weisman著の小説「War of the Spark: Ravnica」(英語)のネタバレが含まれています。  この物語は年少者には不適切な表現が含まれている可能性があります。 Ⅰ  自分の役割として私が想定していたのは、悪いドラゴン直属のギルドマスターが支配するアゾリウス評議会へ向かう...

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